JP4298227B2 - 孔版印刷装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、孔版印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開昭49−48406号公報(以下「従来例1」と記す)には、インキ供給ローラにインキ調整ローラを圧接させて、互いに対向して隣接する各ローラの外周面を反対方向に移動させることでインキ供給ローラの表面上のインキ層厚を均一化し、インキ調整ローラの表面のインキ層厚をインキ除去部材で調整してインキ調整ローラのインキ層厚を均一化するとともに、インキ供給ローラとインキ調整ローラの回転を制御して各ローラの層厚を制御するオフセット印刷装置が記載されている。この装置には、インキ調整ローラの表面からインキ供給ローラへ向けてインキを供給する部材が記載されている。
【0003】
特開昭60−4062号公報(以下「従来例2」と記す)には、版胴の内部で回転するインキ供給ローラと、インキ供給ローラの外周面とゼロでない所定の隙間を持って対向配置され、インキが供給されることでインキ溜まり部を形成するドクタローラと、インキ溜まり部に、回転可能あるいはインキ溜まり部のインキの回転流動で回転されるか、強制的に回転駆動される棒状部材を設け、インキ溜まり部でのインキの廻動を促進し、インキ供給ローラの母線方向でのインキ分布の均一化を図る孔版印刷装置が記載されている。
【0004】
実公昭62−43815号公報(以下「従来例3」と記す)には、従来例2における棒状部材の径を端部で大きくし、インキが端部に寄ることで端部側の側板からの抵抗で動きが悪くなって滞留してしまうことを防止する発明が記載されている。
【0005】
特公昭47−17328号公報(以下「従来例4」と記す)には、柔軟な材料からなるインキ供給ローラとしての塗布シリンダーと、これに圧接するドクタローラとしてのインキシリンダー及びインキシリンダーに当接してインキシリンダーからインキを掻き取る部材を有する印刷装置が記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来例1で開示されているオフセット印刷用の技術を孔版印刷装置にそのまま適用すると次のような問題がある。一般に孔版印刷装置では、印刷用のインキとして顔料分散相である油相と水とを混合したエマルションインキを用いることが多い。エマルションインキを用いる場合には、エマルションインキの特性、すなわち、顔料含有量と水相量から、層厚が薄すぎて十分な濃度の画像が得られない。さらに、従来構成は、インキ供給ローラにインキ調整ローラを圧接しているので、インキに対するストレスが強すぎて、水相粒子径が数ミクロンであるエマルション状態の破壊を招き、供給したインキがすぐに変質してしまうおそれがある。
【0007】
従来例2においては、インキ量規制部材であるドクタローラが固定であるため、この規制部材の外面に付着したインキによる流動抵抗のために廻動しないで止まってしまうインキが生ずる。このようなインキはエマルションの水相が蒸発し、油相比率が高まることで漸く動けるようになるため、常に、インキ組成の不均一化要因を抱えたままでインキ層を形成することになり、印刷面に濃度むらを引き起こす原因となる。
【0008】
ドクタローラが固定であると、インキの回転流動はインキ供給ローラの回転に依存することになり、この力による廻動を行うと、印刷速度に匹敵するオーダーの線速で棒状部材が回転してしまうか、回転駆動力がうまく伝わらず、実際にはインキの回転流動をかえって阻害してしまう。棒状部材の外周面の線速が印刷速度並になってしまうと、棒状部材の半径が小さいために、その遠心力が非常に大きくなり、周囲のインキを空間にまき散らしてしまうことになる。
【0009】
さらに、インキがこのようにまき散らされてしまうと、インキによる駆動力の伝達が無くなり、本来の狙いの効果が発揮できなくなる。この状態が繰り返されると、インキ供給ローラ上に形成されるインキ層厚が非常に不安定になり、画像濃度むらを引き起こす可能性が高くなる。棒状部材を強制的に回転駆動した場合、ドクタローラが固定であると、回転駆動部材による剪断力でインキの流動が断たれて、ドクタローラの壁面(表面)には大量のインキが滞留して、継続して油相成分の多いインキを五月雨的にインキ供給ローラ上に供給する源になってしまう。このため、突発的に非常に低粘度のインキが印刷に使用される事態が発生し、画面の所々に滲みの多い部分を生じさせる可能性がある。
【0010】
従来例3では、ドクタローラ(インキ規制部材)の端部の径を中央部よりも大きくしているので、中央部でのインキの回転流動が低下し、端部と中央部とでのエマルションインキにかかる剪断力が異なってくる。これは所謂、インキの練り状態に端部と中央部とで差が生ずることを示唆しており、画像品質の安定性を重視する立場からは好ましいこととは言い難い。
【0011】
従来例4の構成を孔版印刷装置に適用しようとすると、従来例1と同様、インキ層厚が薄すぎて十分な濃度の画像が得られない、インキに対するストレスが強いエマルション状態の破壊を招き、供給したインキがすぐに変質してしまうおそれがある。
【0012】
本発明は、エマルションインキを用いる孔版印刷装置において、版胴にインキを供給するインキ供給ローラ上に均一なインキ層を安定的に形成することが可能な孔版印刷装置を提供することを目的とする。
本発明は、インキ除去部材によって掻き取られたインキの移動が重力の作用で停滞するのを防止するとともに、インキ廻動促進部材の表面がインキ流動時の抵抗となる影響を小さくすることが可能な孔版印刷装置を提供することを目的とする。
本発明は、インキ除去部材によって掻き取られたインキの移動を促進することが可能な孔版印刷装置を提供することを目的とする。
本発明は、インキの廻動に際して流動を阻止する方向の剪断力を生じさせる表面との親和性を低下させて、スムーズなインキ廻動を実現することが可能な孔版印刷装置を提供することを目的とする。
本発明は、インキ供給ローラ上に形成されるインキ層厚が100μm程度と比較的厚い状態や10μm程度と比較的薄い状態でも、確実にインキ層厚を調整・制御することが可能な孔版印刷装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、版胴の内部で回転し、その外周面にエマルションインキが供給されるインキ供給ローラと、インキ供給ローラの外周面とゼロでない所定の隙間を持って対向配置された回転自在なドクタローラと、このドクタローラに付着したインキを取り除くインキ除去部材と、インキ供給ローラとドクタローラを、互いの隣接する外周面がそれぞれ反対方向へ移動するように回転させるローラ駆動手段とを構成要素として備えている。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、インキ除去部材によってドクタローラから除去されたインキの滞留部に、回転自在なインキ廻動促進部材を配設したことを特徴としている。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、インキ除去部材によってドクタローラから除去されたインキの滞留部に、促進部材駆動手段によって回転されるインキ廻動促進部材を配設したことを特徴としている。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1、2または3記載の孔版印刷装置において、ドクタローラ、インキ除去部材またはインキ廻動促進部材の内の少なくとも1つが、インキ色材分散相をはじく性質を有することを特徴としている。
【0017】
請求項記載の発明はインキ供給ローラとドクタローラとの隙間を調整する手段を有することを特徴としている。
【0018】
請求項記載の発明はインキ供給ローラまたはドクタローラの少なくとも一方の回転速度を隙間の寸法に応じて制御する制御手段を有することを特徴としている。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1に示す孔版印刷装置は、エマルションインキ(以下「インキ」と記す)を用いた孔版印刷装置に従来例を応用した場合に発生する各種の不具合を解決し、高品位の孔版印刷画像を安定的に提供しようとしてなされたものである。
【0020】
図1は孔版印刷装置の主要部である版胴近傍の構成を示す。図1において、孔版印刷装置は、その内部に、筒状の版胴5、版胴5の内部で回転し、版胴1の内周面にインキを供給するインキ供給ローラ11、インキ供給ローラ11の外周面11aとゼロでない所定の隙間Sを持って対向配置された回転自在なドクタローラ12、ドクタローラ12の外周面12aに付着したインキを取り除くインキ除去部材としてのブレード14、版胴1の外周面に接離自在に設けられた押圧部材としてのプレスローラ6、インキ供給ローラ11とドクタローラ12とを互いの対向する外周面11a、12aがそれぞれ反対方向へ移動するように駆動するローラ駆動手段を備えている。押圧部材としては、周知の圧胴を用いた構成であっても良い。
【0021】
版胴1、インキ供給ローラ11、ドクタローラ12、ブレード14及びプレスローラ6は、図2に示すように、矢印Yで示す版胴1の母線方向へとその長さを有している。中でも、インキ供給ローラ11、ドクタローラ12、ブレード14及びプレスローラ6は、版胴1が有する開口部1bにおける母線方向Yへの領域よりも長く形成されている。図2において、矢印Xは図1のレジストローラ対25によって送り出される用紙Pの搬送方向、矢印Zはプレスローラ6の接離方向をそれぞれ示す。
【0022】
版胴1は、図1に示すように、非開口部1aと開口部1bとを有し、開口部1aの全域を覆うように、その外側から周知のメッシュスクリーン1cが巻装されている。非開口部1aには、メッシュスクリーン1cの外側から版胴1の外周面に装着されるマスタ29の先端を挟持するクランパ8とステージ7とが配設されている。
【0023】
版胴1は、図示しない支持機構によって回転自在に支持されている。版胴1の回転中心には、インキ供給口10aを母線方向Y(図2参照)に複数形成されたインキ供給軸10が配設されている。このインキ供給軸10の端部には、図示しないインキパック内に収容されたインキを搬送するための図示しないインキデストリビュータが接続されている。
【0024】
インキ供給ローラ11とドクタローラ12は、版胴1の図示しない側板に、軸11b、12bによってそれぞれ回転自在に支持され、かつ両ローラの対向部2における互いの外周面11a、12aの間に隙間Sを形成するように配設されている。インキ供給ローラ11とドクタローラ12は、剛性の高い材料等で形成され、インキの圧力等で隙間Sの寸法が変形するのを防止されている。また、表面荒さがインキ付着状態に影響するため、外周面11a、12aの粗さはそれぞれ5μm以下に調整されている。
【0025】
軸11bと版胴1とは、複数のギア列で構成された駆動伝達手段5によって連結されている。駆動伝達手段5には、駆動モータ31が接続されている。本形態では、駆動モータ31が駆動すると、版胴1とインキ供給ローラ11とが同一方向に回転するように構成されている。
【0026】
ドクタローラ12の軸12bは、図示しない駆動伝達機構を介して駆動モータ32と連結されている。本形態において、ドクタローラ12は、駆動モータ32が駆動するとインキ供給ローラ11と同一方向に回転駆動される。すなわち、ドクタローラ12の外周面12aは、インキ供給ローラ11の外周面11aと近接する対向部2において、外周面11aと反対方向に移動するように回転駆動される。
【0027】
駆動モータ31、32は、図3に示すように、制御手段40に接続されている。制御手段40は、孔版印刷装置の全体動作を制御する機能と、駆動モータ31、32の駆動を制御する機能を備えている。制御手段40には、印刷開始スイッチ33が接続されている。制御手段40は、スイッチ33が操作されて動作信号が入力されると、印刷動作を開始するとともに、駆動モータ31、32を駆動し、図示しない印刷停止スイッチが操作されるか、所定枚数の印刷が終了すると、駆動モータ31、32の駆動を停止するように制御する。本形態では、駆動モータ31と駆動伝達手段5とでインキ供給ローラ11に対するローラ駆動手段60が構成され、駆動モータ32と図示しない駆動伝達機構とでドクタローラ12に対するローラ駆動手段70が構成されている。
【0028】
インキ供給ローラ11の外周面11aには、インキデストリビュータでインキ供給軸10に搬送されたインキがインキ供給口10aから滴下供給される。本形態において、インキは、対向部2よりもインキ供給ローラ11の回転方向上流側に供給される。本形態では、インキ供給軸10、インキ供給ローラ11、ドクタローラ12及びインキ溜まり部13によってインキ供給手段9が構成されている。
【0029】
ブレード14は、弾性を有し、その先端12aがインキ供給ローラ11とドクタローラ12の対向部2よりもドクタローラ12の回転方向下流側でドクタローラ12の外周面12aに接触するように、版胴1の内部に配設されている。
【0030】
プレスローラ6は、図2において版胴1の下方に配置されている。プレスローラ6は、軸15を中心に揺動自在なアーム16の端部に、その回転中心軸6bが回転自在に支持されている。軸15は、孔版印刷装置の図示しないフレーム等の基部にその両端が固定されている。アーム16には、図示しない接離動作機構が接続されている。プレスローラ6の外周面6aは、印刷時において接離動作機構により、マスタ29を巻着された版胴1の外周面に用紙Pを介して圧接される。版胴1の内周面に供給されたインキは、プレスローラ6から押圧力(印圧)を受けると、版胴1の外周面に滲み出してマスタ29を潤す。このインキの染みたマスタ29とプレスローラ6との間で用紙Pを挟持することで、マスタの製版画像が用紙Pに印刷される。
【0031】
次にインキ供給ローラ11とドクタローラ12周辺でのインキの流れについて説明する。
インキ供給ローラ11の外周面11aに滴下供給されたインキは、駆動モータ31の駆動によりインキ供給ローラ11が回転すると、インキ供給ローラ11の回転による剪断力によってドクタローラ12との対向部2へと搬送されて行く。対向部2では、供給されるインキ量と隙間Sを通過するインキ量との関係からインキ溜まり部13が形成される。図4に示すように、両ローラの外周面11a、12aは、対向部2においては反対方向に回転移動するため、インキ溜まり部13から対向部2へ侵入したインキは、ドクタローラ12の外周面12aからの剪断力によって対向部2から一部逆流を始める。すなわち、インキ供給ローラ11側とドクタローラ12側でのインキの流れが逆になるため、この部分でインキは、一部回転運動を起こし層流状態では無くなる。このため、インキを構成する分子または粒子問の結合が断ち切られ、非常に流動性の高い状態となる。インキはこの剪断力によって断ち切られ、隙間Sを通過する際に層厚規制を受けることで均一化され、インキ供給ローラ11上のインキ層厚を確実に設定することができる。剪断速度はドクタローラ12側で大きいので、剪断は隙間Sがもっとも狭い付近の、ほとんどドクタローラ12の外周面12aで行われ、切れたインキ表面は高くなった流動性のために速やかに平均化される。この結果、インキ供給ローラ11のインキ出口側、すなわち、対向部2の下流側でインキ供給ローラ11上に形成されるインキ層には、筋状むらが発生せず、鏡面状態となり、その層厚も10μm程度まで薄くでき、精度も非常に高くなる。これは、ドクタローラ12の外周面12aに付着して対向部2を通過したインキが、下流側で外周面12aに接触したブレード14によって掻き取られるため、ドクタローラ12の表面12aが平滑となって不安定なインキ面が存在しないためである。
【0032】
インキ供給ローラ11とドクタローラ12は剛体であるため、隙間Sを一定に保持することができ、インキの粘性が変化しても隙間Sに変化は無く、インキ層厚を安定して維持することができる。また、インキ供給ローラ11とドクタローラ12の外周面11a、12aは滑らかであるため、層厚規制を受けたインキ層はどの部分をとってもほとんど同じとなり、厚みのうねり(バラツキ)を無くすことができる。
【0033】
ドクタローラ12から掻き取られて除去されたインキは、ブレード14付近でその粘性によって滞留部13Aを形成し、その後、重量によってインキ溜まり部13やインキ供給ローラ11の外周面11aへと戻される。
【0034】
11は従来の孔版印刷装置で用いられている固定型のドクタローラ、図12は連れ回り方向に回転するドクタローラをインキ供給ローラ11と対向させた例を示す。各例の場合、ドクタローラ12が、回転しない固定や連れ回り回転である構成であるので、インキ溜まり部13に溜まっているインキに対する剪断速度勾配が小さく、インキの切断はインキ層中で行われる。この場合、インキの流れは層流に近く、流動性は静的状態とあまり違わない。また、インキ層内部でのインキ切断であるため、切断点のインキ供給ローラ11の外周面11aからの距離は極めて不安定である。この結果、規制を受けて隙間Sから出てくるインキ層厚は不均一な状態となる。このため、対向部2を通過して出てくるインキ層には筋が多く、版胴1の内周面へのインキ供給量を精度良く設定することはできない。
【0035】
図5は、ブレード14によってドクタローラ12の外周面12aから除去されたインキの滞留部13Aに、インキ廻動促進部材として、ローラ状の回転部材17を配設した形態を示す。この回転部材17は、インキ供給ローラ11やドクタローラ12同様、図2に示す母線方向Yに延びていて、図示しない版胴1の側板に回転自在に支持されている。回転部材17は、回転時に低摩擦となるように、その先端を針状に細くして支持してもよいし、あるいはベアリング等の軸受け部材を介して支持することが望ましい。
【0036】
本形態の場合、回転部材17は、対向部2に到達する前のインキ供給ローラ11の外周面11aでのインキ流動により回転される。ブレード14によってドクタローラ12の外周面12aから掻き取られて滞留部13Aにインキが溜まり始めると、この溜まったインキは、回転部材17の回転によってインキ供給ローラ11の外周面11aに戻される。このようにしてインキの流れが整えられるのと同時に、回転部材17の外周面17aからインキを剥ぎ取る抵抗力をほとんど無視できる状態にすることができ、滞留部13Aに溜まったインキの廻動を容易に行える。
【0037】
滞留部13Aのインキ量が少ない場合には、回転部材17が固定部材であってもインキの廻動を阻害することはないが、インキの滞留量が増えてくるとインキが多くの部材の表面に接触する結果、インキとこの部材が一体となって全体の動きを妨害するようになる。この部材を廻動可能な部材とすることで、このような状態となる可能性を極めて低くすることができる。
【0038】
図6に示す形態は、滞留部13Aにインキ廻動促進部材として配設した回転部材17を、促進部材駆動手段である駆動モータ35によって強制的に回転駆動するようにし、回転部材17の外周面17aでのインキ粘着力を積極的にインキの廻動に利用したものである。駆動モータ35は、図7に示すように制御手段40に接続されていて、この制御手段40によってその駆動、停止の制御が行われる。本形態では、インキ供給ローラ11の外周面11aの移動速度である線速が、回転部材17の外周面17aの線速よりも僅かに速くなるように駆動モータ35の駆動が制御手段40によって制御されるように構成されている。
【0039】
ブレード14によってドクタローラ12の外周面12aから掻き取られて滞留部13Aにインキが溜まり始め、回転部材17の外周面17aにインキが触るようになると、このインキは、回転する回転部材17の周りに付着して廻り始めるので、駆動部材17が回転しない場合よりも早く、滞留部13Aのインキをインキ供給ローラ11へと還流させることができる。また、ブレード14による掻き取りが進むと、インキがインキ供給ローラ11の外周面11aに転移し始める。インキ供給ローラ11の外周面11aの移動速度である線速は、回転部材17のそれよりも僅かに速いため、インキがかき取られてインキ供給ローラ11と回転部材17との間のインキの橋渡しがとぎれる。ここから先はこの動作の繰り返しとなって、掻き取られたインキは順調にインキ供給ローラ11側へ還流するようになる。このため、インキの廻動の妨げが極めて低くなるとともに、同時にインキ供給ローラ11へのインキの還流を素早く行うことができる。
【0040】
インキの流動性について見てみると、インキと触れる部材の表面エネルギーが大きく、インキがまとわり付き易い材質だと、インキ供給ローラ11ヘインキが還流しづらくなって、インキ層にむらが出やすくなる。
【0041】
そこで、インキと接触する、ドクタローラ12の外周面12a、ブレード14の表面あるいは、回転部材17の外周面17aの少なくとも1つを、フッ素系材料またはシリコン系材料でコーティングし、撥水・撥油性にすると、インキ色材分散相をはじく性質を有することになり、各表面でのインキの粘着力が小さくなる。すなわち、インキに接触する部材の表面エネルギー(流動抵抗)を小さくしておくことで、部材表面にインキが拘束されにくくなる。このため、ドクタローラ12の外周面12aの粘着力で押し出されて来るインキを効果的に廻動することができるようになって、インキを滑らかに廻動させることができる。これにより、少ないインキ量であってもインキの廻動を確実なものとし、画像濃度ムラを少なくすることができる。
【0042】
図9は、隙間Sとインキ層厚とインキ供給ローラ11の外周面11aの線速Vとの関係を示す。インキ供給ローラ11とドクタローラ12との隙間Sがある一定以上の値tである場合(20μm以上)には、孔版印刷で使用されている程度の粘性のインキでは、ローラの回転速度(線速)によらず、ほぼ一定の安定したインキ層厚のインキ層をインキ供給ローラ11上に形成することができる。この範囲ではインキ層厚の制御を両ローラ問の隙間Sで行うのが好ましい。
【0043】
これに対し、インキ供給ローラ11とドクタローラ12の界面同士、すなわち外周面11a、12aが接近して来ると、粘着力の効果が干渉し合うようになり、インキ層中の回転流動の領域が隙間Sの大部分を占めるようになる。この状態で、例えばローラの線速がV1、V2、V3のように変化すると、線速の効果がインキの流動に大きく影響するため、隙間Sの広さと両ローラの線速という2種類のパラメータでインキ層厚調整が可能となる。ただし、この状態になるのは、概略15μm前後の隙間Sになってからで、ちょうど水相粒子の粒径のオーダーとなって、ローラ外周面との干渉が顕著となって来る状態である。このような状態であるので、隙間Sを微調整して層厚を制御するのは非常に精度の高い制御をしなければならなくなる。これに対し、狭いながらも隙間Sを特定の値に固定するのは、例えばスペーサー、突き当て等の手段を用いることで比較的容易であり、隙間Sを維持しながら速度を可変として、層厚調整を行うことができる。
【0044】
次に、図8を用いてインキ供給ローラ11とドクタローラ12との隙間Sを調整する手段50について説明する。この調整手段50は、ドクタローラ12とブレード14を支持するブラケット52、ブラケット52を変位することでドクタローラ12に対するインキ供給ローラ11の位置を可変として隙間Sの寸法を調整する駆動機構500、ブラケット52の動きを制限するストッパー54を備えている。
【0045】
ブラケット52は、母線方向Y(図2参照)にそれぞれ配置されていて、それぞれの一端52aに軸51が固定されている。この軸は版胴1の図示しない側板に回動自在に支持されていて、ブラケット52をドクタローラ12とインキ供給ローラ11との接離方向に回動自在としている。ストッパー54は、図示しない側板に固定されている。このストッパー54は、ブラケット2の他端52b側に当接することで、隙間Sの寸法をゼロよりも大きい最低寸法に保持するように配設されている。ストッパー54の位置は、隙間Sを最低寸法にする機能だけでなく、外周面11a、12aの接触を防止する機能も備える。本形態においてブレード14は、取付部材53を介してブラケット52に取り付けられていて、ドクタローラ12の回動に対してカウンター方向から接触するように配置されている。
【0046】
駆動機構500は、駆動モータ55、駆動モータ55の出力軸に装着されたウォームギア56、ウォームギア56に噛合するウォームホイール57、ウォームホイール57に埋め込まれたナット部材58、ナット部材58を貫通し、先端がブラケット52に当接するネジ部材59及び図10に示す制御手段200を備えている。ウォームホイール57は、図示しない支持部材によって回転自在に支持されている。ネジ部材59には、ウォームホイール57から抜け落ちないように、リングやピンなどの図示しない抜け止め手段が設けられている。
【0047】
制御手段200には、駆動モータ31,32,35と印刷開始スイッチ33が接続されている。制御手段200は、印刷開始スイッチ33が操作されて動作信号が入力されると、印刷動作を制御するとともに、駆動モータ31,32の回転制御を行いつつ、駆動モータ55の回転を制御する。
【0048】
駆動機構500は、駆動モータ55の駆動によりウォームギア56が回転すると、ウォームホイール57が回転し、その回転方向によってネジ部材59がブラケット52をストッパー54から離れる離間方向と、ストッパー52へ近付ける近接方向へと移動する。すなわち、このネジ部材59が移動すると、ブラケット52が移動して隙間Sを調整することができる。
【0049】
駆動モータ55には、ステッピングモータが用いられていて、制御手段200によって、そのステップ数からブラケット52の位置が判断される。制御手段200は、ブラケット52がストッパー54と接触したことをステップ数から判断し、接触すると駆動モータ55を停止するように制御する。別な制御形態としてはストッパー54にブラケット52に当接する直前で停止するようにしても良い。
【0050】
制御手段200は、隙間Sの寸法が図9に示すt以下となると、駆動モータ32の駆動を制御して、印刷速度に応じた線速で、ドクタローラ12が回転するように制御する。すなわち、隙間Sが狭まった状態ではローラ線速によってインキ層厚の調整が行われる。
【0051】
このように、ドクタローラ12を移動して隙間Sを調整する調整手段50を備えると、隙間Sが広い場合や、隙間Sがインキのエマルション粒子の粒径オーダー程度に狭い場合でも、その状況に応じてドクタローラ12の線速を調整することで、インキ供給ローラ11へのインキ供給量調整を確実に行うことができ、これによって画像濃度調整可能な範囲を広げることができる。
【0052】
上記の各形態で説明した構成による効果がより効果的に発揮されるのは、一枚毎の印刷動作終了の度に版胴1の内周面に付着したインキを掻き取ってインキ供給ローラ11側へ還流させる機構を有する印刷装置に、この機構を応用した場合である。このような版胴1の内周面に付着したインキを掻き取ってインキ供給ローラ11側へ還流させる機構を有する孔版印刷装置の例として、特開2000−177226号が挙げられる。
【0053】
例えば、毎回の印刷ステップ終了毎(500枚印刷するなら500回)にインキを掻き取ることで、インキ供給ローラ11と接触する版胴1の内周面は常にインキがほとんど付着していない状態となる。ここに、層厚が管理されたインキ層をインキ供給ローラ11から供給すると、前回の印刷履歴、すなわち、印刷に使用したインキが無く、かつ必要最低限のインキ層のみを供給することが可能になる。これにより十分な画像濃度を持ち、かつ従来の孔版印刷装置にありがちであった、印刷直後の印刷面に次ぎの印刷終了用紙が重なると、印刷面の過剰なインキが上に乗った印刷終了用紙の裏面を汚す現象である裏移りを激減することができる。
【0054】
裏移りを低減させるための手法としては、一般的に、インキ供給量や印圧を少なくとして全体の画像濃度を下げることや、印刷速度を変えるなどの対応をとっており、孔版印刷装置のユーザーに対して不利益を強要する面もあった。しかし、上記各形態を、版胴1の内周面からインキを掻き取る機構付きの装置へ応用することで、このような不利益をもたらすことが極めて少なくなる。また、上記形態で説明したドクタローラ12や回転部材17には、その回転によりインキが母線方向Y(図2参照)に流動するため、母線方向Yでのインキ分布均一化能力があり、従来だとインキ層厚を薄くしてゆくと、図1に示したインキ供給口10aの配置に対応したインキ量ムラが、画像濃度ムラとして非常に目立つものとなっていた。しかし、上記各形態の構成を備える孔版印刷装置であると、これが解消され、インキ層厚を薄くし、薄い画像濃度のハーフトーンを印刷しても、ドクタローラ12の上流側に配置されたインキ供給口10aの位置関係に起因する画像濃度ムラは全く感知できないレベルにまで軽減することができる。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、インキ供給ローラ上のインキ層厚を確実に設定できるとともに、インキ供給ローラとドクタローラの外周面が、互いの対向部において反対方向に移動し、ドクタローラの外周面のインキがインキ除去部材で掻き取られることで、ドクタローラの外周面が平滑となって不安定なインキ面が存在しなくなるので、対向部を過ぎたインキ供給ローラのインキ出口側でのインキ層に筋状むらができず、鏡面状態のインキ層が形成される。このため、エマルションインキを用いる孔版印刷装置であっても、版胴にインキを供給するインキ供給ローラ上に均一なインキ層を安定的に形成することができる。
【0056】
本発明によれば、インキ除去部材によりドクタローラから除去されたインキの滞留部に、回転自在なインキ廻動促進部材を配設したことで、インキ滞留部のインキがインキ供給ローラ側へ戻されるので、インキ除去部材によって掻き取られたインキの移動が重力の作用で停滞するのを防止するとともに、インキ廻動促進部材の表面がインキ流動時の抵抗となる影響を小さくすることができる。
【0057】
本発明によれば、インキ除去部材によりドクタローラから除去されたインキの滞留部に、促進部材駆動手段によって回転されるインキ廻動促進部材を配設したことで、インキ除去部材によって掻き取られたインキの移動やインキ供給ローラへの戻りを促進することができ、インキ供給ムラに起因する画像濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0058】
本発明によれば、インキと接触するドクタローラ、インキ除去部材またはインキ廻動促進部材の内の少なくとも1つに、インキ色材分散相をはじく性質を持たせることで、インキ廻動部分でインキに接触する部材の表面エネルギーが小さくなり、インキの廻動に際して流動を阻止する方向の剪断力を生じさせる部材表面との親和性を低下して、スムーズなインキ廻動を実現することができる。
【0059】
本発明によれば、インキ供給ローラとドクタローラとの隙間を調整する手段を有することで、インキ供給ローラ上に形成されるインキ層厚を確実に調整・制御することができる。
【0060】
本発明によれば、インキ供給ローラまたはドクタローラの少なくとも一方の回転速度を隙間の寸法に応じて制御する制御手段を有するので、ローラの回転速度の影響を受ける隙間領域において、有効にインキ層厚の調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された孔版印刷装置の版胴近傍の拡大図である。
【図2】版胴近傍の概略構成を示す斜視図である。
【図3】制御手段とそれに接続された構成の一形態を示すブロック図である。
【図4】インキ供給ローラ近傍でのインキの流れを示す拡大図である。
【図5】インキ廻動促進部材を備えたインキ供給ローラ近傍の構成を示す拡大図である。
【図6】回転駆動されるインキ廻動促進部材を備えたインキ供給ローラ近傍の構成を示す拡大図である。
【図7】制御手段とそれに接続された構成の別な形態を示すブロック図である。
【図8】隙間を調整する手段の構成と動作を示す拡大図である。
【図9】インキ層圧と隙間、ローラ線速の関係を示す特性図である。
【図10】制御手段とそれに接続された構成の別な形態を示すブロック図である。
【図11】ドクタローラが固定式な従来例を示す拡大図である。
【図12】ドクタローラが回転可能な従来例を示す拡大図である。
【符号の説明】
1 版胴
11 インキ供給ローラ
11a 外周面
12 ドクタローラ
12a 外周面
13a インキの滞留部
14 インキ除去部材
17 インキ廻動促進部材
35 促進部材駆動手段
50 隙間調整手段
60,70 ローラ駆動手段
200 制御手段
S 隙間

Claims (4)

  1. 版胴の内部で回転し、その外周面にエマルションインキが供給されるインキ供給ローラと、
    前記インキ供給ローラの外周面とゼロでない所定の隙間を持って対向配置された回転自在なドクタローラと、
    前記ドクタローラに付着したインキを取り除くインキ除去部材と、
    前記インキ供給ローラと前記ドクタローラとを、互いの対向する外周面がそれぞれ反対方向へ移動するように回転させるローラ駆動手段と
    前記インキ供給ローラと前記ドクタローラとの隙間を調整する手段と、
    前記インキ供給ローラまたは前記ドクタローラの少なくとも一方の回転速度を上記隙間の寸法に応じて制御する制御手段を有し、
    上記隙間が所定の値以上の場合は前記調整手段によりインキ層厚を調整し、前記隙間が所定の値よりも狭い場合は前記インキ供給ローラまたは前記ドクタローラの少なくとも一方の回転速度を制御してンキ層厚を調整することを特徴とする孔版印刷装置。
  2. 請求項1記載の孔版印刷装置において、
    前記インキ除去部材により前記ドクタローラから除去されたインキの滞留部に、回転自在なインキ廻動促進部材を配設したことを特徴とする孔版印刷装置。
  3. 請求項1記載の孔版印刷装置において、
    前記インキ除去部材により前記ドクタローラから除去されたインキの滞留部に、促進部材駆動手段によって回転されるインキ廻動促進部材を配設したことを特徴とする孔版印刷装置。
  4. 請求項1、2または3記載の孔版印刷装置において、
    前記ドクタローラ、前記インキ除去部材または前記インキ廻動促進部材の内の少なくとも1つが、インキ色材分散相をはじく性質を有することを特徴とする孔版印刷装置。
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