JP4296704B2 - トロイダル型無段変速機のディスクの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車等の変速機構に用いるトロイダル型無段変速機のディスクの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両等に用いる変速装置として、いわゆるCVTと称される無段変速機が実用化されている。無段変速機の一例としてトロイダル型無段変速機が開発されている。トロイダル型無段変速機は、入力軸と一体に回転する入力ディスクと、この入力ディスクに対向する出力ディスクと、これら双方のディスク間に設けるパワーローラと、入力ディスクを出力ディスクに向かって押圧するための押圧機構などを備えている。
【0003】
図6は従来のトロイダル型無段変速機の一部を示し、入力軸100にディスク101が設けられている。また、ディスク101のトラクション面102に、トルク伝達用のパワーローラ103(2点鎖線で示す)が転接している。ディスク101の中央部には、入力軸100が挿通される孔105が形成されている。孔105の内周面には入力軸100との回り止めをなすためにボールスプライン溝106あるいはセレーションが形成されている。このためディスク101の小径部107は過度の応力集中を生じやすく、破壊の起点になるおそれがある。
【0004】
この応力集中を回避するために、小径部107の肉厚を大きくすることも考えられるが、ディスク101の外径寸法の制約などもあって肉厚を増やすにはおのずと限界がある。そこで小径部107側に、変速に必要な有効トラクション範囲よりも長めの延長部108を、トラクション面102に連続して設けることにより、小径部107の応力を下げることが行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、ディスク101のトラクション面102は、例えば特開平11−148542号公報に記載されているように熱処理後に研磨および超仕上げ加工が行われていた。このため前記ディスク101のように、小径部107に延長部108が設けられていると、トラクション面102と延長部108とを一体に旋削したり、研磨および超仕上げを行うことになるため、加工に要する時間とコストが増加するという問題が生じる。
【0006】
そこで、熱処理後の旋削加工(例えばハードターニング等の超硬工具を用いた機械加工)と研磨および超仕上げを行う範囲を有効トラクション面のみに限定することによって、加工時間の短縮化を図ることも考えられる。しかしそのようにすると、旋削後のトラクション面の端に旋削の取りしろが残るため、旋削後の研磨および超仕上げ加工の障害になるばかりか、熱処理時に生じた熱処理異常層がトラクション面の端に残るため好ましくない。
【0007】
また、図7に示すようにトラクション面102の端に、通常の面取り部よりも長めの面取り部110を形成することにより、トラクション面102の加工範囲をなるべく少なくすることも考えられた。しかし熱処理によって変形しているトラクション面102は、旋削による取りしろが熱処理変形の程度に応じて変化するため、図7に線分L1,L2で示すように旋削深さが異なると有効トラクション範囲がばらつくという問題が生じる。
【0008】
従って本発明の目的は、トラクション面の加工時間を短縮できかつ有効トラクション範囲のばらつきを抑制できるようなトロイダル型無段変速機のディスクとその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
トロイダル型無段変速機のディスクは、ディスクの小径部側の前記トラクション面の端に、該トラクション面と同一曲率半径の延長面の内側に引っ込む逃げ部が形成されかつ前記逃げ部と前記トラクション面との境に前記ディスクの軸線に対して直角な方向に肉厚が減じる段差が形成されている。この逃げ部をトラクション面の端に形成したことにより、主として有効トラクション範囲のみにハードターニング等の旋削加工および研磨,超仕上げを行えばよく、しかも研削深さが変化しても、逃げ部の段差によって有効トラクション範囲を一定に規制することが可能となる。
【0010】
前記ディスクを製造するための本発明の第1の製造方法は、旋盤加工によってディスクの小径部側のトラクション面の端に該ディスクの軸線に対し直角な方向に肉厚を削ることにより段差を形成しかつこの段差を境として該トラクション面と同一曲率半径の延長面の内側に引っ込むように肉厚を減じてなる逃げ部を形成する工程と、ディスクの熱処理を行う工程と、熱処理後にハードターニング加工によってトラクション面を所定の曲率に仕上げるハードターニング工程と、ハードターニング加工後にトラクション面の超仕上げを行う工程とを具備している。この第1の製造方法によれば、熱処理前の低硬度の状態のディスクの小径部に旋盤加工によって逃げ部を形成するため、逃げ部の加工が比較的容易である。
【0011】
本発明のディスクを製造するための第2の製造方法は、旋盤加工によってディスクの小径部側のトラクション面の端に該ディスクの軸線に対し直角な方向に肉厚を削ることにより段差を形成しかつこの段差を境として該トラクション面と同一曲率半径の延長面の内側に引っ込むように肉厚を減じてなる逃げ部を形成する工程と、ディスクの熱処理を行う工程と、熱処理後にハードターニング加工によってトラクション面を所定の曲率に仕上げかつ前記逃げ部表面の熱処理異常層を除去するハードターニング工程と、ハードターニング加工後に前記トラクション面の超仕上げを行う工程とを具備している。熱処理による有効硬化層深さは1〜3mm程度、ハードターニング加工による取りしろは0.1〜0.5mm程度であるため、ハードターニング加工によって熱処理異常層(黒皮等)が除去されかつ有効硬化層が残される。このため大容量のトルク伝達用のディスクに適する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の第1の実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
図1は、ダブルキャビティ式ハーフトロイダル型無段変速機10の主要部を構成するバリエータ部(Variator)を示している。この変速機10は、第1のキャビティ11を構成する入力ディスク12aおよび出力ディスク13aと、第2のキャビティ14を構成する入力ディスク12bおよび出力ディスク13bを備えている。
【0013】
第1の入出力ディスク12a,13aの間に一対のパワーローラ15が設けられている。パワーローラ15の外周面は、入出力ディスク12a,13aの各トラクション面Tに接している。第2の入出力ディスク12b,13bの間にも一対のパワーローラ15が設けられている。このパワーローラ15の外周面は、入出力ディスク12b,13bの各トラクション面Tに接している。これらのパワーローラ15は、パワーローラ軸受16によって、トラニオン17に回転自在に取付けられている。トラニオン17は、それぞれトラニオン軸18を中心として揺動自在である。
【0014】
第1の入力ディスク12aは、入力軸(CVT軸)20に第1のボールスプライン21によって回り止めがなされた状態で、軸線P方向に相対移動可能に取付けられている。第2の入力ディスク12bは、入力軸20に第2のボールスプライン22によって回り止めがなされた状態で、軸線P方向に相対移動可能に取付けられている。したがって入力ディスク12a,12bは、入力軸20と一体に回転する。この入力軸20は、エンジン等の駆動源によって回転する駆動軸25に、ベアリング26を介して相対回転可能に連結されている。
【0015】
出力ディスク13a,13bは、入力ディスク12a,12bの間に設けられている。第1の出力ディスク13aは第1の入力ディスク12aに対向し、第2の出力ディスク13bは第2の入力ディスク12bに対向している。これら出力ディスク13a,13bは、入力軸20に、ベアリング30,31を介して相対回転自在に支持されている。出力ディスク13a,13bは、連結部材32によって連結され、互いに同期して回転する。連結部材32には出力ギヤ33が設けられている。出力ギヤ33は出力軸(図示せず)と連動して回転する。
【0016】
第1の入力ディスク12aの背面側に、押圧機構として機能するローディングカム機構40が設けられている。ローディングカム機構40は、カムディスク41とローラ42とを含んでいる。カムディスク41は、入力軸20に対して、ボールベアリング43を介して回動自在に支持されている。カムディスク41と入力ディスク12aとの相互対向部にそれぞれカム面44,45が形成され、カム面44,45間にローラ42が挟み込まれている。
【0017】
これらのローラ42がカム面44,45間に挟まれた状態で駆動軸25が回転すると、カムディスク41が回転することにより、第1の入力ディスク12aが第1の出力ディスク13aに向って押圧されるとともに、第1の入力ディスク12aがカムディスク41と一緒に回転する。また、カムディスク41が受ける反力がボールベアリング43を介して入力軸20に加わるため、第2の入力ディスク12bが第2の出力ディスク13bに向って押圧される。こうして駆動軸25からカムディスク41に伝達されたエンジンの回転力は入力ディスク12a,12bを回転させ、入力ディスク12a,12bの回転がパワーローラ15を介して出力ディスク13a,13bに伝わることにより、出力ギヤ33が回転することになる。
【0018】
入力軸20は、その軸線P方向に延びる円筒状の軸本体20aを有している。軸本体20aの一端側の外周部に、フランジ状に広がるつば部50が設けられている。つば部50の近傍に第1のスプライン溝51が形成されている。第1の入力ディスク12aには、スプライン溝51と対応する位置にスプライン溝52が形成されている。これらスプライン溝51,52に、入力ディスク12aと入力軸20とを互いに回転方向に固定するための部材として機能するボール53が収容される。従ってこの入力ディスク12aは、入力軸20に対して回転方向に固定され、しかも軸線P方向に移動することができる。
【0019】
入力軸20の他端側にねじ部60が形成されている。このねじ部60にローディングナット61が螺合される。ねじ部60の近傍に第2のスプライン溝62が形成されている。第2の入力ディスク12bには、第2のスプライン溝62と対応する位置にスプライン溝63が形成されている。これらスプライン溝62,63にボール64が収容されることにより、入力ディスク12bと入力軸20とが回転方向に固定され、かつ、入力ディスク12bが入力軸20の軸線P方向に移動することができる。入力ディスク12bは、皿ばね等の弾性部材65によってカムディスク41の方向に付勢されている。弾性部材65はローディングナット61によって固定される。
【0020】
各ディスク12a,12b,13a,13bには、互いに共通の曲率を有する円弧状のトラクション面Tが形成されている。これらディスク12a,12b,13a,13bの基本的な構成はほぼ共通であるから、図2に示す一方の入力ディスク12aを代表して以下に説明する。
【0021】
ディスク12aは、トラクション面Tの内周側に位置する小径部70と、トラクション面Tの外周側に位置する大径部71とを有している。ディスク12aの中央部には入力軸20が通る孔73が形成されている。孔73の内周面に前記スプライン溝52が形成されている。
【0022】
そして小径部70側のトラクション面Tの端に、ディスク12aの軸線P′に対してほぼ直角な方向に肉厚を削った段差75を境として、肉厚が減じる逃げ部76が形成されている。この逃げ部76は、トラクション面Tと同一曲率半径の延長面Qの内側に引っ込むように旋削加工されている。そして逃げ部76と小径部70の端面70aとの間の角部に、面取り加工部80が形成されている。
【0023】
このようにトラクション面Tの端に段差75を介して逃げ部76を形成したことにより、変速に必要な最小限の範囲のトラクション面Tに旋削や研磨,超仕上げ加工を行えばよい。しかも段差75によってトラクション面Tの端の位置が規制されるため、熱処理後に行われるハードターニング等の旋削加工において、トラクション面Tに対する取りしろ(旋削深さ)が熱処理変形量に応じて変化しても、有効トラクション範囲を一定に保つことが可能となる。
【0024】
以下に、上記ディスク12aの製造方法について説明する。
[製造方法1]
ディスク12aの熱処理を行う前に、旋盤加工によって小径部70の外周面に逃げ部76を形成する。この場合、熱処理前の低硬度の状態のディスク12aに旋盤加工によって逃げ部76を最終外径まで加工するため、逃げ部76の加工が容易である。そののち、熱処理(例えば焼入れと焼戻し等)を行ってディスク12aの硬度を高める。熱処理による有効硬化層深さは1〜3mm程度である。
【0025】
上記熱処理後にハードターニング工程を実施する。ハードターニング工程においては、超硬バイトによってトラクション面Tが旋削加工される。ハードターニング加工による取りしろは、通常0.1〜0.5mm程度であるが、最大1mm程度までの切り込み量が可能であるため、熱処理変形に応じた比較的大きな取りしろにてトラクション面Tを所定の曲率に仕上げるとともに、熱処理異常層(黒皮等)が除去される。そののち研磨と超仕上げ工程が実施される。超仕上げ工程においては、超微粒子の研磨剤等を用いて、トラクション面Tの表面粗さが例えば0.01〜0.05Raとなるように超仕上げが行われる。
【0026】
[製造方法2]
旋盤加工によって小径部70に逃げ部76を形成する。ここで小径部70は下記ハードターニング加工による取りしろ(0.1〜0.5mm程度)を残した外径に加工される。そののちディスク12aの熱処理が行われる。熱処理による有効硬化層深さは1〜3mm程度である。そして熱処理後にトラクション面Tと逃げ部76にハードターニング工程(取りしろ0.1〜0.5mm程度)を実施することにより、トラクション面Tを所定の曲率に仕上げるとともに逃げ部76の表面を旋削する。そののち研磨と超仕上げ工程を実施することにより、トラクション面の表面粗さが例えば0.01〜0.05Raとなるように、トラクション面の超仕上げ加工を行う。
【0027】
この製造方法の場合には、ディスク12aの熱処理後に、ハードターニング加工によってトラクション面Tと逃げ部76を仕上げるため、トラクション面Tだけでなく逃げ部76の熱処理異常層も除去される。このため小径部70の耐久性が向上し、大容量のトルク伝達用ディスクに適したものとなる。また、段差75の表面をハードターニング加工することによって、有効トラクション面のばらつきをさらに効果的に防止できる。
【0028】
なお、図3に示す第2の実施形態のように、トラクション面Tと段差75との間の角部に円弧状に滑らかに連続する曲面状の面取り部81を形成し、かつ、段差75と逃げ部76との間の隅部に比較的大きな曲率半径R1で滑らかに肉厚が変化する曲面部82を形成することにより、隅部への応力集中を緩和させてもよい。図4に示す第3の実施形態では、トラクション面Tと段差75との間の角部にシャープエッジが生じないように、通常の面取り部よりも広めに加工された面取り部81′を形成している。それ以外の構成と製造方法は前記各実施形態で説明したディスク12aと同様である。
【0029】
また図5に示す第4の実施形態では、トラクション面Tの延長面Qに沿って、半径R2の曲面状の逃げ部76を形成している。この逃げ部76の半径R2の曲率中心は、トラクション面Tの半径R3の曲率中心とほぼ一致している。それ以外の構成と製造方法は前記各実施形態のディスク12aと同様である。
【0030】
なお、本発明を実施するに当たって、ディスクの形態や、トラクション面、段差、逃げ部の形状や寸法など、この発明を構成する各要素を適宜に変形して実施できることは言うまでもない。また前記実施形態はダブルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機について説明したが、この発明は、シングルキャビティ式のハーフトロイダル無段変速機などにおいても同様に適用することができる。
【0031】
【発明の効果】
請求項1に記載した製造方法によれば、トラクション面の加工時間を短縮できるとともに、逃げ部の加工時間も短縮することができる。請求項2に記載した製造方法によれば、トラクション面の加工時間を短縮できるとともに、逃げ部を含む小径部の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態を示すトロイダル型無段変速機の一部の断面図。
【図2】 図1に示されたトロイダル型無段変速機に使われるディスクの軸線方向に沿う断面図。
【図3】 本発明の第2の実施形態を示すトロイダル型無段変速機のディスクの一部の断面図。
【図4】 本発明の第3の実施形態を示すトロイダル型無段変速機のディスクの一部の断面図。
【図5】 本発明の第4の実施形態を示すトロイダル型無段変速機のディスクの一部の断面図。
【図6】 従来のトロイダル型無段変速機の一部の断面図。
【図7】 従来のディスクの小径部に面取り部を形成した例を示す断面図。
【符号の説明】
12a,12b…入力ディスク
13a,13b…出力ディスク
T…トラクション面
15…パワーローラ
70…小径部
75…段差
76…逃げ部
Claims (2)
- パワーローラと接するトラクション面を有するトロイダル型無段変速機のディスク、の製造方法であって、
旋盤加工によってディスクの小径部側の前記トラクション面の端に該ディスクの軸線に対し直角な方向に肉厚を削ることにより段差を形成しかつこの段差を境として該トラクション面と同一曲率半径の延長面の内側に引っ込むように肉厚を減じてなる逃げ部を形成する工程と、
前記ディスクの熱処理を行う工程と、
前記熱処理後にハードターニング加工によって前記トラクション面を所定の曲率に仕上げるハードターニング工程と、
前記ハードターニング加工後に前記トラクション面の超仕上げを行う工程と、
を具備したことを特徴とするトロイダル型無段変速機のディスクの製造方法。 - パワーローラと接するトラクション面を有するトロイダル型無段変速機のディスク、の製造方法であって、
旋盤加工によってディスクの小径部側の前記トラクション面の端に該ディスクの軸線に対し直角な方向に肉厚を削ることにより段差を形成しかつこの段差を境として該トラクション面と同一曲率半径の延長面の内側に引っ込むように肉厚を減じてなる逃げ部を形成する工程と、
前記ディスクの熱処理を行う工程と、
前記熱処理後にハードターニング加工によって前記トラクション面を所定の曲率に仕上げかつ前記逃げ部表面の熱処理異常層を除去するハードターニング工程と、
前記ハードターニング加工後に前記トラクション面の超仕上げを行う工程と、
を具備したことを特徴とするトロイダル型無段変速機のディスクの製造方法。
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