JP4017319B2 - トロイダル型無段変速機及びそれに用いる入力ディスクの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車の無段変速機に用いられるトロイダル型無段変速機及びそれに用いられる入力ディスクの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図4は従来のトロイダル型無段変速機のバリエータ10部分を示す概略図である。このバリエータ10は、車両の動力源12により回転駆動される入力軸13を備えており、この入力軸13はその両端近傍にそれぞれ熱処理硬化された入力ディスク15を支持している。これら入力ディスク15は、スプラインSによって入力軸13の軸方向への僅かな移動が許容された状態で入力軸13に一体回転可能に組み付けられている。このように入力ディスク15の移動が許容されているのは、油圧動力源16に接続した油圧シリンダ17により例えば図において右側の入力ディスク15を左側の入力ディスク15側へ付勢することにより、バリエータ10に所要の端末負荷を加えるためである。また、前記入力ディスク15の一側面には凹湾曲状の軌道面15bが形成されている。
【0003】
前記入力軸13の軸方向中央部には、バリエータ10の出力部18が相対回転自在に支持されている。この出力部18は出力部材19と、この出力部材19にそれぞれ一体回転可能に支持された一対の出力ディスク20とを備えており、この出力ディスク20の前記入力ディスク15の軌道面15bに対向する一側面には、凹湾曲状の軌道面20bが形成されている。また、前記出力部材19の外周には動力伝達用のチェーン23と噛み合うスプロケットギヤ19aが形成されている。さらに、互いに対向する入力ディスク15の軌道面15bと出力ディスク20の軌道面20bとの間には、それぞれ各軌道面15b,20bと転がり接触する3個の円盤状のローラ21が円周等配に配置されている。各ローラ21はキャリッジ22によって回転自在に支持されているとともに、当該キャリッジ22によって各軌道面との相対位置を調整できるようになっている。
【0004】
このように前記バリエータ10は、入力ディスク15、出力ディスク20、及びローラ21を1組としてこれを一対設けた、いわゆるダブルキャビティ型に構成されており、入力ディスク15から出力ディスク20に対して、前記6個のローラ21を介してトルクが伝達される。また、前記6個のローラ21の位置をキャリッジ22によって調整することにより(図4の二点鎖線参照)、出力ディスク20の回転数(変速比)を増減させることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記トロイダル型無段変速機において、入力ディスク15と出力ディスク20との間のトルク伝達を確実に行わせるためには、各ローラ21を各ディスク15,20の軌道面15b,20bに対して高い接触圧で均等に接触させる必要がある。
ところが、従来においては、入力軸13に対する入力ディスク15の組み付け精度は、入力ディスク15のスプライン穴15aと入力軸13のスプライン軸15aとの嵌合精度に依存しているので、例えばスプライン穴15aの加工精度や熱処理歪に起因して、入力軸13の軸線に対して軌道面15b全体が傾いて、入力ディスク15の軌道面15bの曲率中心と出力ディスク20の軌道面20bの曲率中心との間で芯ずれを生じ、特定のローラ21の接触圧が極めて高くなって、当該ローラ21及び軌道面15bの耐久性が低下したり、特定のローラ21の接触圧が低下してトルク伝達が不安定になったりするという問題が生じていた。
【0006】
このような問題点を解消するために、入力ディスク15を熱処理硬化させた後、スプライン穴15aの歯面を放電加工にて精密に仕上げることが考えられるが、この場合には生産性が大きく低下するとともに製造コストが高く付くという新たな問題が生じる。
この発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、コスト安価にて入力軸に対する入力ディスクの組み付け精度を良好に確保することができ、ローラ及び軌道面の耐久性が低下したり、トルク伝達が不安定になったりするのを防止することができるとともに、生産性も良好なトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。またこの発明は、前記トロイダル型無段変速機に用いられる入力ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するためのこの発明のトロイダル型無段変速機は、一側面に凹湾曲状の軌道面を有する熱処理された一対の入力ディスクと、各入力ディスクの軌道面にそれぞれ対向する凹湾曲状の軌道面を有する一対の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う円周等配された3個の円盤状のローラとを備え、前記入力軸が、各入力ディスク及び出力ディスクの中心部を挿通し、各入力ディスクがスプラインを介して一体回転可能に連結されたトロイダル型無段変速機において、前記入力ディスクの内周のスプライン穴に隣接する位置に、入力軸に合致して入力軸に対する入力ディスクの組み付け精度を確保する円周状のガイド面を設け、前記熱処理に伴うスプライン穴の歪みを抑制すべく前記スプライン穴を、軌道面を形成した前記一側面の背面側に設けているとともに、前記ガイド面を前記一側面側に設け、前記入力ディスクの軌道面、端面及び外周面を、ガイド面を加工基準として旋削又は研削にて高精度に仕上げ加工していることを特徴としている(請求項1)。
このトロイダル型無段変速機によれば、前記ガイド面を入力軸に合致させることにより、入力軸に対して入力ディスクを高精度に組み付けることができる。
【0008】
また、前記スプライン穴を、軌道面を形成した前記一側面の背面側に設け、前記ガイド面を前記一側面側に設けているので、スプライン穴の熱処理歪みを少なくすることができる。すなわち、ディスクの熱処理時においては、その湾曲形状に起因して軌道面の外周側が斜め中心方向に向かって歪み、これに伴ってディスク中心部の前記一側面側がその背面側よりも多く収縮変形するので、前記スプライン穴を前記背面側に設けていれば、当該スプライン穴に対する前記収縮変形の影響を少なくすることができる。
また、この発明の入力ディスクの製造方法は、一側面に凹湾曲状の軌道面を有する熱処理された一対の入力ディスクと、各入力ディスクの軌道面にそれぞれ対向する凹湾曲状の軌道面を有する一対の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う円周等配された3個の円盤状のローラとを備え、前記入力軸が、各入力ディスク及び出力ディスクの中心部を挿通し、各入力ディスクがスプラインを介して一体回転可能に連結され、前記入力ディスクの内周のスプライン穴に隣接する位置に、入力軸に合致して入力軸に対する入力ディスクの組み付け精度を確保する円周状のガイド面を設け、前記熱処理に伴うスプライン穴の歪みを抑制すべく前記スプライン穴を、軌道面を形成した前記一側面の背面側に設けているとともに、前記ガイド面を前記一側面側に設けているトロイダル型無段変速機の前記入力ディスクの製造方法であって、前記入力ディスクの軌道面、端面及び外周面を、前記ガイド面を加工基準として旋削又は研削にて高精度に仕上げ加工することを特徴としている(請求項2)。
【0009】
【発明の実施の形態】
次いで、この発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明のトロイダル型無段変速機のバリエータ1部分を示す概略図である。このトロイダル型無段変速機において、前記バリエータ1には、車両の動力源2により回転駆動される入力軸3が設けられており、その両端近傍にはそれぞれ入力ディスク5が支持されている。
【0010】
各入力ディスク5の一側面には、凹湾曲状の軌道面5bが形成されており、その内周には複数条の溝を切ったスプライン穴5aが形成されている。また、各入力ディスク5の内周のスプライン穴5aに隣接する位置であって、軌道面5bが形成されている前記一側面に臨む側には、入力軸3に嵌合して合致させる円周状のガイド面5cが形成されている(図2参照)。
前記ガイド面5cは入力ディスク5の内周に圧入したリングRの内周によって構成されており、その内径は図の場合スプライン穴5aの内径と等しいかそれよりも大きくなるように設定されている。前記ガイド面5cは入力ディスク5と同心に形成さており、このガイド面5cを加工基準として、入力ディスク5の軌道面5b、端面及び外周面が旋削又は研削にて高精度に仕上げ加工されている。
【0011】
前記入力ディスク5は、そのスプライン穴5aを入力軸3のスプライン軸3aに、ガイド面5cを精度良く研磨仕上げされた入力軸3の外周面にそれぞれ嵌合させることによって、入力軸3に一体回転可能に組み付けられており、この組み付け状態において、前記ガイド面5cを入力軸3に合致させることにより、入力軸3の軸線に対して入力ディスク5の軌道面5b全体が傾く等、入力軸3に対して入力ディスク5の組み付け精度が低下するのを防止している。なお、各入力ディスク5は、入力軸3に固定された係止リング51によって互いに離反する方向への移動が規制されている。
【0012】
前記入力軸3の軸方向中央部には、出力部材6aとこの出力部材6aにそれぞれ一体回転可能に支持された出力ディスク6bとを備える出力部6が、当該入力軸3に対して相対回転自在に設けられている。この出力ディスク6bの前記入力ディスク5の軌道面5bに対向する一側面には、凹湾曲状の軌道面6cが形成されている。また、前記出力部材6aの外周にはチェーン6dと噛み合うスプロケットギヤ6eが形成されており、前記チェーン6dを介して図示しない出力軸に動力が伝達されるようになっている。
【0013】
前記出力ディスク6bは、出力部材6aに対して軸方向への微動が許容された状態で組み込まれており、その背面には隙間6gを設けてバックアップ板6hが配置されている。前記隙間6gはケーシング6f及び図示しないシールによって密封されており、この隙間6gに油圧動力源9aから圧油を供給することにより、出力ディスク6bを対向する入力ディスク5方向へ付勢して、所定の端末負荷が加えられている。
【0014】
互いに対向する入力ディスク5の軌道面5bと出力ディスク6bの軌道面6cとの間は、トロイド状隙間として構成されており、このトロイド状隙間には、それぞれ各軌道面5b,6cと転がり接触する3個の円盤状のローラ7が円周等配に配置されている。各ローラ7はキャリッジ8によって回転自在に支持されているとともに、当該キャリッジ8によって各軌道面5b,6cとの相対位置を調整できるようになっている。
【0015】
前記バリエータ1においては、入力ディスク5から出力ディスク6bに対して、前記6個のローラ7を介してトルクが伝達される。また、前記6個のローラ7の位置をキャリッジ8によって調整することにより(図1の二点鎖線参照)、出力ディスク6bの回転数(変速比)を増減させることができる。この際、入力ディスク5は、そのガイド面5cによって入力軸3に対して精度良く組み付けられており、軌道面5b全体が入力軸6の軸線に対して傾いたり、この軌道面5bの曲率中心と出力ディスク6bの軌道面6cの曲率中心との間で芯ずれが生じたりするのが防止されているので、各軌道面5b,6cと各ローラ7との接触圧を均等にすることができ、これら軌道面5b,6c及びローラ7の耐久性を確保することができるとともに、トルク伝達を安定的に行わせることができる。
また、前記ガイド面5cは、旋削又は研削によって効率よく加工することができるので、放電加工にてスプライン穴5aを高精度に仕上げる場合よりも、入力ディスク5の生産性を高めることができるとともに、製造コストが安くて済む。
【0016】
さらに、前記実施形態においては、入力ディスク5のスプライン穴5aが、軌道面5bを形成した一側面の背面側に設けられているので、その熱処理歪みを少なくすることができる。これは、、入力ディスク5の熱処理時においては、その湾曲形状に起因して軌道面5bの外周側が、図2の矢印Aで示すように、斜め中心方向に向かって歪み易く、これに伴って入力ディスク5の中心部の前記一側面側がその背面側よりも多く収縮変形するので、前記スプライン穴5aを前記一側面側に設ける場合よりも、その背面側に設ける方が、前記中心部の収縮変形の影響を受け難くなるからである。この結果、スプライン穴5aをスプライン軸3aに対して容易且つ精度良く嵌合することができる。
【0017】
なお、この発明のトロイダル型無段変速機は、前記の実施の形態に限定されるものでなく、例えば、前記実施の形態においては、入力ディスク5のガイド面5cを、当該入力ディスク5と別体のリングRの内周によって構成しているが、これを入力ディスク5の内周面自体で構成する等(図3参照)、種々の設計変更を施すことができる。
【0018】
【発明の効果】
以上のように、この発明のトロイダル型無段変速機によれば、入力ディスクに設けたガイド面を入力軸に合致させることによって、入力軸に対して入力ディスクを精度良く組み付けることができるので、軌道面に対して各ローラを均等に接触させることができ、軌道面及びローラの耐久性を確保することができるとともに、トルク伝達を安定的に行わせることができる。しかも、前記ガイド面は旋削又は研削によって効率よく加工することができるので、生産性を良好に確保することができるとともに、製造コストも安くて済むことになる。
【0019】
さらに、前記トロイダル型無段変速機によれば、入力ディスクのスプライン穴の熱処理歪みを少なくすることができるので、当該スプライン穴をスプライン軸に対して容易且つ精度良く嵌合することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のトロイダル型無段変速機の一実施形態を示す要部概略図である。
【図2】入力ディスクの要部拡大断面図である。
【図3】他の実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図4】従来のトロイダル型無段変速機の要部概略図である。
【符号の説明】
1 バリエータ
3 入力軸
3a スプライン軸
5 入力ディスク
5a スプライン穴
5b 軌道面
5c ガイド面
6b 出力ディスク
6c 軌道面
7 ローラ

Claims (2)

  1. 一側面に凹湾曲状の軌道面を有する熱処理された一対の入力ディスクと、各入力ディスクの軌道面にそれぞれ対向する凹湾曲状の軌道面を有する一対の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う円周等配された3個の円盤状のローラとを備え、前記入力軸が、各入力ディスク及び出力ディスクの中心部を挿通し、各入力ディスクがスプラインを介して一体回転可能に連結されたトロイダル型無段変速機において、
    前記入力ディスクの内周のスプライン穴に隣接する位置に、入力軸に合致して入力軸に対する入力ディスクの組み付け精度を確保する円周状のガイド面を設け、
    前記熱処理に伴うスプライン穴の歪みを抑制すべく前記スプライン穴を、軌道面を形成した前記一側面の背面側に設けているとともに、前記ガイド面を前記一側面側に設け、
    前記入力ディスクの軌道面、端面及び外周面を、ガイド面を加工基準として旋削又は研削にて高精度に仕上げ加工していることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
  2. 一側面に凹湾曲状の軌道面を有する熱処理された一対の入力ディスクと、各入力ディスクの軌道面にそれぞれ対向する凹湾曲状の軌道面を有する一対の出力ディスクと、入力ディスクと出力ディスクのそれぞれの軌道面間で構成されるトロイド状隙間に配置され、両軌道面を転走しながら両ディスク間のトルク伝達を行う円周等配された3個の円盤状のローラとを備え、前記入力軸が、各入力ディスク及び出力ディスクの中心部を挿通し、各入力ディスクがスプラインを介して一体回転可能に連結され、前記入力ディスクの内周のスプライン穴に隣接する位置に、入力軸に合致して入力軸に対する入力ディスクの組み付け精度を確保する円周状のガイド面を設け、前記熱処理に伴うスプライン穴の歪みを抑制すべく前記スプライン穴を、軌道面を形成した前記一側面の背面側に設けているとともに、前記ガイド面を前記一側面側に設けているトロイダル型無段変速機の前記入力ディスクの製造方法であって、
    前記入力ディスクの軌道面、端面及び外周面を、前記ガイド面を加工基準として旋削又は研削にて高精度に仕上げ加工することを特徴とする入力ディスクの製造方法。
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