JP4178220B2 - フルトロイダル型無段変速機のバリエータ用ディスクの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フルトロイダル型無段変速機のバリエータ用ディスクの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図4は車両等に搭載されるトロイダル型無段変速機の一種であるフルトロイダル型無段変速機のバリエータを示す概略図である。このバリエータ80は、車両の動力源82により回転駆動される入力軸83を備えており、この入力軸83はその両端近傍にそれぞれ入力ディスク85を支持している。これら入力ディスク85の中心部には、複数条のスプライン溝を切ったスプライン穴85aが形成さており、入力ディスク85は上記スプライン穴85aを入力軸83のスプライン軸83aに噛合させることにより、入力軸83の軸方向への僅かな移動が許容された状態で、入力軸83と一体回転可能になっている。
【0003】
このように入力ディスク85の移動が許容されているのは、油圧動力源86に接続した油圧シリンダ87により例えば図において右側の入力ディスク85を左側の入力ディスク85側へ付勢することにより、バリエータ80に所要の端末負荷を加えるためである。また、上記入力ディスク85の一側面には凹湾曲状の軌道面85bが形成されている。
上記入力軸83の軸方向中央部には、バリエータ80の出力部88が入力軸83と相対回転自在に支持されている。この出力部88は出力部材89と、この出力部材89にそれぞれ一体回転可能に支持された一対の出力ディスク90とを備えており、この出力ディスク90の上記入力ディスク85の軌道面85bに対向する一側面には、凹湾曲状の軌道面90bが形成されている。
【0004】
また、上記出力部材89の外周には動力伝達用のチェーン93と噛み合うスプロケットギヤ89aが形成されている。さらに、互いに対向する入力ディスク85の軌道面85bと出力ディスク90の軌道面90bとの間には、それぞれ各軌道面85b,90bと転がり接触する3個の円盤状のローラ91が円周等配に配置されている。各ローラ91はキャリッジ92によって回転自在に支持されているとともに、当該キャリッジ92によって各軌道面85b,90bとの相対位置を調整できるようになっている。
【0005】
このように上記バリエータ80は、入力ディスク85、出力ディスク90、及びローラ91を1組としてこれを一対設けた、いわゆるダブルキャビティ型に構成されており、入力ディスク85から出力ディスク90に対して、上記6個のローラ91を介してトルクが伝達される。また、上記6個のローラ91の位置をキャリッジ92によって調整することにより(図3の二点鎖線参照)、出力ディスク90の回転数(変速比)を増減させることができる。
【0006】
上記の入力ディスク85は、例えば軸受用鋼からなるものであり、その製造に際しては、切削加工にて上記スプライン穴85aや軌道面85bになる部分が形成されたブランクを熱処理硬化させた後、上記スプライン穴85aの内周面(最小内径面)である歯面を加工基準として、上記軌道面85bになる部分を切削或いは研削にて軌道面85bに仕上げることが行われている(例えば特許文献1)。
【0007】
また、入力ディスク85のスプライン穴85aを入力軸83のスプライン軸83aに噛合し、該入力軸83によって入力ディスク85を保持した状態で、当該入力軸83を加工基準として上記軌道面85bを仕上げたり、また、当該入力軸83を加工基準として入力ディスク85の外周面を仕上げた後、この外周面を加工基準として軌道面85bを仕上げたりすることが提案されている(例えば特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−28818号公報
【特許文献2】
特開2000−21963号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記バリエータ80において、入力ディスク85と出力ディスク90との間のトルク伝達を確実に行わせるためには、各ローラ91を各ディスク85,90の軌道面85b,90bに対して高い接触圧で均等に接触させる必要がある。
ところが、スプライン穴85aと軌道面85bとの同心度が悪いと、入力軸83に対する入力ディスク85の組み付け精度が悪くなる。
【0010】
このため、入力ディスク85の軌道面85bの曲率中心と出力ディスク90の軌道面90bの曲率中心との間で芯ずれを生じ、特定のローラ91の接触圧が極めて高くなって、当該ローラ91及び軌道面85bの耐久性が低下したり、特定のローラ91の接触圧が低下してトルク伝達が不安定になったりするという問題が生じている他、スプライン穴85aとスプライン軸85aとの間で片当たりが発生し、その耐久性が低下するという問題が生じている。
【0011】
特許文献1や特許文献2では、基本的に、ディスクの内径側で小径であるスプライン穴を加工基準としており、スプライン穴に対して軌道面を位置精度良く加工できるが、加工装置によるチャッキング部分が小さいため、より精度を向上させるためには、チャッキング調整に手間がかかる。特に、フルトロイダル型無段変速機のディスクは厚みが小さくスプラインの軸方向長さも短いため、安定したチャッキングをするには、位置決め等の手間がかかる。
【0012】
また、スプライン穴を仕上げるときと軌道面を仕上げるときとの加工基準が異なり、その間で、チャッキングを付け替えるので、両者間の位置精度を良くするためには、チャッキング調整に手間がかかる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、手間をかけずにスプライン穴及び軌道面を互いに極めて高精度に仕上げることができるフルトロイダル型無段変速機のバリエータ用ディスの製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、入出力ディスクの側面に設けられた凹湾曲状の軌道面と、入出力ディスクの軌道面間に形成されたトロイダル状のキャビティと、各軌道面と転がり接触して入出力ディスク間にトルクを伝達するために上記キャビティ内に円周等配に配置された3個の円盤状のローラとを有するフルトロイダル型無段変速機のバリエータにおいて上記入出力ディスクに用いられるバリエータ用ディスクであって、当該ディスクの側面の中心部に動力伝達軸と噛合するスプライン穴を有するバリエータ用ディスクの製造方法であって、中心部に取り代を残して形成されたスプライン穴相当部を有し、側面に取り代を残して形成された軌道面相当部を有する環状の素材を熱硬化処理して中間体を得る工程と、上記中間体の軌道面相当部の背面を仕上げる工程と、上記仕上げられた背面を加工基準として外周面を仕上げる工程と、上記仕上げられた外周面を加工基準とするべくチャッキングし、当該外周面に対するチャッキングを付け替えることなく、上記スプライン穴相当部からスプライン穴の歯面内径部を仕上げると共に上記軌道面相当部から軌道面を仕上げる工程と、上記仕上げられたスプライン穴の歯面内径部を基準としてスプライン溝を加工する工程とを順次に含むことを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、外周面に対するチャッキングを付け替えることなく、外周面を加工基準として、スプライン穴の歯面および軌道面を仕上げるので、チャッキング位置調整に手間をかけることなく、スプライン穴の軸線に対してディスクの軌道面が傾くのを抑制することができる。したがって、スプライン穴と動力伝達軸との間に生ずるがたつきを防止できるので、がたつきに伴う騒音を防止でき、また、スプライン穴の耐久性を向上することができる。さらに、軌道面に対して各ローラを均等に接触させることができ、軌道面及びローラの耐久性を確保することができるとともに、トルク伝達を安定的に行わせることができる。特に、外周面は面積が広く、したがって、位置精度良く且つ安定してチャッキングによる保持が行える点でも好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
次いで、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は本実施の形態でトロイダル型無段変速機の一種であるフルトロイダル型無段変速機のバリエータ用ディスクの製造方法の工程図であり、図2は本実施の形態の入力ディスクが適用されたトロイダル型無段変速機のバリエータAの要部の概略断面図である。図2を参照して、入力ディスク1は、側面にローラ2が転走する凹湾曲状の軌道面3を有し、中心部に動力伝達軸としての入力軸4のスプライン部5と噛合するスプライン穴6を有している。入力軸4には、バリエータAの出力部7が相対回転自在に支持されている。この出力部7は、出力部材8と、この出力部材8に一体回転可能に支持された出力ディスク9とを備える。
【0018】
入力ディスク1の軌道面3と出力ディスク9の軌道面10との間にトロイダル状のキャビティ11が形成され、各軌道面3,10と転がり接触して入、出力ディスク1,9間にトルクを伝達するための3個の円盤状のローラ2が、キャビティ11内に円周等配に配置されている。各ローラ2はキャリッジ12によって回転自在に支持されている。
図1を参照して、本実施の形態では、入力ディスク1を製造する例に則して説明するが、本発明を出力ディスク9の製造に適用することもできる。
【0019】
本製造方法は、まず鍛造等によって得られた軸受用鋼等からなる環状の素材としてのワークWを一次加工する。具体的には、バイト21を用いて切削加工を施して、ワークWの一側面に取り代を残して形成された凹湾曲面からなる軌道面相当部3Aを形成する。同じく取り代を残してワークWの他側面に(軌道面の)背面相当部13Aを形成すると共に、取り代を残して外周面相当部14Aを形成する〔図1(a)参照〕。
【0020】
次いで、ブローチXを用いてワークWの中心部に複数条のスプライン溝を含むスプライン穴相当部6Aを形成する〔図1(b)参照〕。
これらの切削加工は、熱処理歪みを考慮して所定の取り代を残した状態で行われるが、特にスプライン穴相当部6Aについては、図3に示すように、その歯面相当部61Aの少なくとも歯面内径部相当部62Aおよび側面相当部63Aに完成品の歯面内径部62および側面63からそれぞれ所定の取り代を残して精度良く加工する。
【0021】
次に、上記切削加工が施されたワークWを熱処理して例えばHRC60〜64の硬さに硬化させる〔図1(c)参照〕。
次に、図1(c)の熱処理工程にて得られた図1(d)に示す中間体Rの背面相当部13Aを旋削加工又は研削加工して、図1(e)に示す背面13を仕上げる。
次に、図1(e)の工程では、仕上げられた背面13を加工基準として、外周面相当部14Aを加工し、図1(f)に示す外周面14を仕上げる。
【0022】
次に、図1(f)に示すように、仕上げられた外周面14をNC旋盤或いは研削盤等のワーク保持部15にチャッキングし、このチャッキングを付け替えることなく、スプライン穴相当部6Aから研削ローラ21等によりスプライン穴6の歯面内径部62(図3参照)を仕上げると共に、軌道面相当部30から研磨ローラ22等により図1(g)に示すような軌道面3を仕上げる。
次に、上記スプライン穴6の仕上げられた歯面内径部62(図3参照)を加工基準として、仕上げ用ブローチYを通して、スプライン溝を加工する〔図1(g)〕。
【0023】
次に、軌道面3の超仕上げを実施し高精度に仕上げる〔図1(h)〕。以上により、バリエータ用の入力ディスク1の完成品を得ることができる。
このようにして得られた入力ディスク1は、仕上げ済の外周面14に対するチャッキングを付け替えることなく、この外周面14を加工基準として、スプライン穴6の歯面内径部62および軌道面3を仕上げるので、チャッキング位置調整に手間をかけることなく、スプライン穴6の軸線に対して入力ディスク1の軌道面3が傾くのを抑制することができる。特に、外周面14は面積が広く、したがって、位置精度良く且つ安定してチャッキングによる保持が行える点でも好ましい。
【0024】
このため、入力軸4の軸線に対して入力ディスク1の軌道面3全体が傾くのを抑制することができ、ひいては、軌道面3の曲率中心と出力ディスク9の軌道面10の曲率中心との間で芯ずれが生じるのを防止することができる。
したがって、各軌道面3,10と各ローラ2との接触圧を均等にすることができ、これら軌道面3,10及びローラ2の耐久性を確保することができるとともに、トルク伝達を安定的に行わせることができる。また、スプライン穴6と入力軸4のスプライン部5との当たりが改善され、これらの耐久性を向上させることができると共に、スプライン穴6と入力軸4のスプライン部5との間のがたつきに起因する騒音の発生を防止することができる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、背面13を加工基準として、チャッキングを付け替えることなく歯面内径部62および軌道面3を仕上げるようにしても良い。
また、上記出力ディスク9と出力部材8との連結構造として、スプラインを採用する場合には、この出力ディスク9についても上記の製造方法を適用する等、本発明の特許請求の範囲で種々の変更を施すことができる。
【0026】
また、フルトロイダル型のディスクにつき説明したが、ハーフトロイダル型等他のトロイダル型無段変速機のディスクにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態のバリエータ用ディスクの製造方法を模式的に示す工程図である。
【図2】図1の製造方法により完成したディスクを入力ディスクとしてバリエータに組み込んだ状態を示す要部の模式的断面図である。
【図3】スプライン穴相当部の要部の概略断面図である。
【図4】従来のバリエータの概略図である。
【符号の説明】
1 入力ディスク
2 ローラ
3 軌道面
3A 軌道面相当部
4 入力軸
5 スプライン部
6 スプライン穴
6A スプライン穴相当部
7 出力部
8 出力部材
9 出力ディスク
10 軌道面
11 キャビティ
12 キャリッジ
13 背面
14 外周面
15 ワーク保持部
61 歯面
61A 歯面相当部
62 歯面内径部
62A 歯面内径部相当部
63 側面
63A 側面相当部
Claims (1)
- 入出力ディスクの側面に設けられた凹湾曲状の軌道面と、入出力ディスクの軌道面間に形成されたトロイダル状のキャビティと、各軌道面と転がり接触して入出力ディスク間にトルクを伝達するために上記キャビティ内に円周等配に配置された3個の円盤状のローラとを有するフルトロイダル型無段変速機のバリエータにおいて上記入出力ディスクに用いられるバリエータ用ディスクであって、当該ディスクの側面の中心部に動力伝達軸と噛合するスプライン穴を有するバリエータ用ディスクの製造方法であって、
中心部に取り代を残して形成されたスプライン穴相当部を有し、側面に取り代を残して形成された軌道面相当部を有する環状の素材を熱硬化処理して中間体を得る工程と、
上記中間体の軌道面相当部の背面を仕上げる工程と、
上記仕上げられた背面を加工基準として外周面を仕上げる工程と、
上記仕上げられた外周面を加工基準とするべくチャッキングし、当該外周面に対するチャッキングを付け替えることなく、上記スプライン穴相当部からスプライン穴の歯面内径部を仕上げると共に上記軌道面相当部から軌道面を仕上げる工程と、
上記仕上げられたスプライン穴の歯面内径部を基準としてスプライン溝を加工する工程とを順次に含むことを特徴とするフルトロイダル型無段変速機のバリエータ用ディスクの製造方法。
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