JP4292666B2 - シール形鉛蓄電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は通信機器、UPS等の非常時バックアップ電源等に利用されるシール形鉛蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シール形鉛蓄電池の極板に用いる格子体として従来から鋳造格子体が広く用いられていた。さらに近年、鉛合金からなる圧延シートに複数のスリットを入れ、このスリット部を展開伸長した、いわゆるエキスパンド格子体が生産性の面から使用されるようになってきている。
【0003】
そして、特に高率放電におけるトリクル寿命を向上させるために、前記したようなエキスパンド格子体を有する正負極板を用いると共に極板表面積を大きく確保し、かつ正負極板間の距離をより短くする構成が検討されてきている。
【0004】
前記したような鉛合金の圧延体を用いたエキスパンド格子体はその結晶組織が微細なラメラ状の圧延結晶を有しているため、従来の鋳造格子体が有しているような粗大な鋳造組織よりも酸化腐食の形態は異なっている。すなわち、圧延体の腐食は厚みが減少する方向に均一に進行する。高温雰囲気下での寿命を考慮して格子体合金中のSn濃度を1.0重量%程度以上に添加したPb−Ca−Sn系合金を用いた場合には格子網目部の変形が抑制されるので格子網目部と活物質との密着性は長期間にわたって維持される。一方、格子体自体はその厚みを減じる方向に腐食され続ける。このような状態の電池を高温下で高率電流で放電した場合に格子耳部が切断し、電池の容量が急激に低下して、突然電池が寿命に至ることがあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記したような従来例のエキスパンド格子体を用いたシール形鉛蓄電池を高率放電を含むトリクル使用した時に、格子耳部が切断することを抑制した信頼性に優れたシール形鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記した課題を解決するために、請求項1記載に係る発明は鉛合金からなる圧延シートに複数のスリットを入れ、このスリット部を展開伸長して形成した格子網目部と、これに連接された格子耳部とを備えたエキスパンド格子体を有する正極板および負極板を備えたシール形鉛蓄電池において、極板群を構成する前記正極板と前記負極板との間の距離を1.2mm以下とし、かつ、同極性の前記格子耳部の断面積総和を電池の20時間率容量当たり1.9mm2 /Ah以上とするシール形鉛蓄電池とした。
【0007】
また、請求項2記載に係る発明は請求項1記載に係る発明のシール形鉛蓄電池において、正極板の見かけ表面積の総和を電池の20時間率容量当たり、26.6mm2 /Ah以上とした。
【0008】
また、請求項3記載に係る発明は請求項1または請求項2記載に係る発明のシール形鉛蓄電池において、正極板に用いるエキスパンド格子体は少なくともSnを1.0重量%以上含有するPb−Ca−Sn系合金を用いることとした。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
まず、Pb−Ca−Sn系合金の鋳造スラブを作製した後、多段階に圧延して圧延鉛シートを作製した。次に、この圧延鉛シートにスリットを形成した後、スリット形成部を展開伸長して図1に示すエキスパンド格子体1を作製した。この圧延鉛シートの合金組成としてはCa含有量は0.05〜0.08重量%、Sn含有量は0.2〜1.8重量%のものが一般に使用されている。このエキスパンド格子体1はスリット形成部を展開伸長して得られた格子網目部2、この格子網目部2に連接された上枠骨3、そしてこの上枠骨3に連接された耳部4から構成されている。ここで耳部4の断面積は、その耳部4の厚み(t)とその耳部4の幅(w)との積として算出される。格子網目部2には活物質ペースト(図示せず)が充填される。この活物質ペーストは、一般に鉛と鉛酸化物との混合粉体に耐硫酸性の合成樹脂繊維や各種添加剤を添加し、水と希硫酸とで練合して作製される。特に正極活物質用のペーストにおいては、化成効率や蓄電池の初期容量特性を考慮して鉛酸化物に鉛丹を添加した物が一般的に使用される。さらに、この鉛丹としては一酸化鉛を焼成して鉛丹の含有量が90重量%、他は一酸化鉛等の低級酸化物を含有した物が一般的に使用される。
【0011】
活物質ペーストが充填されたエキスパンド格子体1は、表面をパルプ繊維を主体とするペースト紙が張り付けられ、所定の寸法に切断された後に40〜85℃程度の温度で乾燥され、未化成の正極板5と負極板6が作製される。これらの極板はガラスマットのセパレータ7と共に組み合わされ、同一極性の極板が複数枚ある場合には図2に示したように同一極性の耳部4を集合溶接して棚部8を形成し、棚部8に端子取り出し部9を構成する。本発明のシール形鉛蓄電池は極性の異なる正極板5と負極板6と間の距離Gを1.2mm以下とし、かつ同一極性極板の耳部4の断面積(t×w)の総和をシール形鉛蓄電池の20時間率容量当たり1.9mm2 /Ah以上とする。このような構成であれば高率放電を含む高温トリクル使用における耳部の断線を抑制することができる。
【0012】
なお、断面積の総和は極板1枚当たりの耳部の断面積に同一極性極板の枚数を乗じたものになる。図2の例では正極板5が4枚、負極板6が5枚で極板群が構成されているので、正極については正極の耳部4の断面積に4を乗じた値となる。同じく負極については負極の耳部4の断面積に5を乗じた値となる。また、上記の構成は特にセル内の正極板の見かけ表面積の和{極板面の高さ×幅×2(表裏2面)}が電池の20時間率容量当たり26.6mm2 /Ahを超えた場合に適用することが好ましい。電池容量当たりの極板面積が上記の値を超えて大きくなると電池の内部抵抗はさらに低下し、高率放電での持続時間が長くなり、耳部が断線する確率が高くなるためである。
【0013】
また正極格子体に用いる圧延鉛シートのSnの含有量が1.0重量%を超える場合、酸化腐食による格子体の変形・伸びは抑制され、長期にわたって格子体と活物質間の密着性を良好に維持できる。電池寿命の観点からはこのような作用は好ましいものであるが、反面、電池を長期間使用した後に腐食によって耳部の断面積が減少した状態でも電池は高率の放電電流で長時間放電することが可能であることから、耳部が断線する可能性が高い。このような場合には前記したような本発明の構成を適用することが特に好ましい。
【0014】
【実施例】
本発明の構成および比較例のシール形鉛蓄電池についてトリクル寿命特性の評価を行い、本発明の効果を明らかにした。以下にその内容を記載する。
【0015】
(実施例1)
まず、本発明例および比較例によるシール形鉛蓄電池は公称電圧12V、20時間率定格容量7Ahである。本発明例および比較例によるシール形鉛蓄電池は正極板が4枚、負極板が5枚で構成されている。それぞれの極板寸法は正極板が高さ69mm,幅45mm,厚み2.90mm、負極板が高さ70mm,幅45mm,厚み1.90mmである。これらの極板に用いる格子体はすべてPb−Ca−Sn系合金の圧延鉛シートをエキスパンド加工して得られたエキスパンド格子体を用いた。実施例1で用いた圧延鉛シートの厚みは正極で1.1mm、負極で0.7mmとした。これらの厚みはそれぞれ正極の耳部4の厚みと負極の耳部4の厚みに対応する。なお、これらの正極板および負極板の活物質充填量は極板群当たり正極で100g、負極で110gである。上記の場合は正極板の見かけ表面積は一枚当たり表裏両面で62.1cm2 、極板群では248.4cm2 であり、20時間率容量当たりでは35.5cm2 /Ahに相当する。ここで負極板の耳部4の幅寸法を5mm(負極板の耳部断面積の総和を17.5mm2 )とし、20時間率容量当たりの負極板耳部断面積の総和は2.5mm2 /Ahの一定とし、正極板の耳部断面積と正極板と負極板との間の距離を変化させて表1に示す電池を作製した。また正極格子合金としてはPb−0.06重量%Ca−1.0重量%Sn合金、負極格子合金としてPb−0.06重量%Ca−0.25重量%Sn合金を用いた。
【0016】
【表1】
【0017】
次に表1に示した電池A〜電池Iについて20時間率容量当りの正極板見かけ表面積の総和を変更した電池を作製した。具体的には電池A〜電池Iの極板構成枚数である正極板4枚、負極板5枚の構成から正極板3枚、負極板4枚もしくは正極板2枚、負極板3枚の構成とした。ただし、極板群内に含まれる活物質量は表1に示した電池と同じ正極100g、負極110gとした。これらの電池の構成を表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
表1および表2に示した電池A〜電池Uについて、以下に示す評価方法でトリクル寿命特性の評価を行った。
【0020】
試験条件は以下の通りである。
<トリクル寿命試験>
(1).充電状態にある試験電池について、25℃において35A放電で終止電圧9.6Vまで放電し、初期容量を算出する。
(2).60±2℃雰囲気下において13.8V定電圧充電を3週間行う。
(3).(1)の条件にて容量確認を行う。
(4).(2)と(3)の充放電サイクルを行い、放電容量が初期容量の1/2以下になるまで繰り返し行う。この時の充電期間をトリクル寿命とする。また、試験終了後の電池を分解調査し、正極耳部の状態の確認を行った。これらの結果を表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
表3の結果から明らかなように、本発明の構成によれば高率放電を含むトリクル使用において正極耳の厚みが著しく減少したり、もしくは正極耳が切断するといった現象を抑制し、長期間にわたって正極耳の状態を正常に維持できることが確認できる。また正極板と負極板間の距離が1.2mmの電池NとOについては20時間率容量当たりの正極板耳部断面積の総和が1.9mm2 /Ahの電池Nに比較して電池Oは1.6mm2 /Ahに低下したことにより、正極耳の腐食の程度は急激に悪化していた。その悪化に応じて寿命低下も著しいものであった。一方、電池容量当たりの耳部断面積の総和は2.2mm2 /Ahから1.9mm2 /Ahへの低下では殆ど寿命低下に影響を及ぼすことはなかった。そして断面積と腐食との関係を考察するに、断面積が低下することによって、高率放電時に流れる電流密度は増加する。さらに断面積低下によって耳部の体積は減少していることから、放電電流に基づいて発生するジュール熱による温度上昇は激しくなり耳部の温度が上昇して腐食反応が加速されていることが推測される。特に本発明のシール形鉛蓄電池のように耳部が電解液から露出して電解液によって耳部の熱が放熱されにくい構造の場合に、このような現象が顕著になると推測される。
【0023】
(実施例2)
次に実施例1で行った確認実験において正極格子体合金中のSn含有量について検討を行った。表1に示した電池D,E,Fについてそれぞれ正極格子体合金をPb−0.06重量%Ca−0.6重量%Snとした表4に示す電池V,W,Xを作製した。
【0024】
【表4】
【0025】
表4に示した電池V,W,Xについて実施例1で行ったトリクル寿命試験を行った。またこの寿命試験が終了した電池についても実施例1で行ったと同じ分解調査をし、正極耳部の状態の確認を行った。これらの結果を表5に示す。
【0026】
【表5】
【0027】
表5に示した電池V,W,Xおよび表3に示した電池D,E,Fの試験結果から正極格子体合金中のSnの濃度が0.6重量%まで低下した場合には電池のトリクル寿命が著しく低下していることがわかる。また、正極耳部の状態は電池D,E,Fに比較して良好であった。また電池V,W,Xの正極格子体は上下方向への伸びが著しく、正極活物質は正極格子体から浮き上がった状態に至っていた。これらの結果から正極格子体合金中のSnの濃度を低下させた場合、正極耳部に異常が発生する以前に電池が寿命に至ると考えられる。よって本発明の課題である正極耳部での異常を抑制することはできるものの、電池寿命自体が低下するので最も好ましいとは云えない。これに対して請求項3による本発明の構成によれば長い電池寿命と正極耳部での異常抑制とを両立して得ることができる。
【0028】
また本実施例においては通常のPb−Ca−Sn合金の圧延シートを用いた例について記載したが、過放電回復性を考慮して圧延シート表面上に圧延シートよりも高濃度のSnを含有するPb−Sn合金層を圧着等により形成した場合においても同様の結果が得られる。
【0029】
【発明の効果】
以上の説明から判るように、本発明の構成によれば、エキスパンド格子体を備えたシール形鉛蓄電池において、高率放電のトリクル寿命特性を確保すると共に正極耳部の異常発生を抑制して信頼性に優れたシール形鉛蓄電池が得られ、その効果は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】エキスパンド格子体を示す一部平面図
【図2】(a)極板群の側面図
(b)同平面図
【符号の説明】
1 エキスパンド格子体
2 格子網目部
3 上枠骨
4 耳部
5 正極板
6 負極板
7 セパレータ
8 棚部
9 端子取り出し部
G 距離
w 幅
Claims (3)
- 鉛合金からなる圧延シートに複数のスリットを入れ、このスリット部を展開伸長して形成した格子網目部と、これに連接された格子耳部とを備えたエキスパンド格子体を有する正極板および負極板を備えたシール形鉛蓄電池において、極板群を構成する前記正極板と前記負極板との間の距離を1.2mm以下とし、かつ同極性の前記格子耳部の断面積総和を電池の20時間率容量当たり1.9mm2 /Ah以上としたことを特徴とするシール形鉛蓄電池。
- 正極板の見かけ表面積を電池の20時間率容量当たり、26.6mm2 /Ah以上としたことを特徴とする請求項1に記載のシール形鉛蓄電池。
- 正極板に用いるエキスパンド格子体は少なくともSnを1.0重量%以上含有するPb−Ca−Sn系合金としたことを特徴とする請求項1または2に記載のシール形鉛蓄電池。
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