JP4291924B2 - 車両の協調制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右輪間あるいは前後輪間で駆動力あるいは制動力を配分する駆動力・制動力配分装置と、操舵系に操舵補助トルクを付加する電動パワーステアリング装置とを併せ備えた車両の協調制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの駆動力を左右の駆動輪に配分する比率を可変とし、旋回外輪に配分する駆動力を増加するとともに旋回内輪に配分する駆動力を減少させることにより、旋回方向のヨーモーメントを発生させて旋回性能を高める技術は公知である。かかる駆動力配分装置を備えた車両において、左右の駆動輪に配分する駆動力を変化させると、操舵輪を兼ねる左右の駆動輪に望ましくない操舵力が発生してしまう問題がある(トルクステア現象)。そこで、車両に備えられた電動パワーステアリング装置を利用し、その電動パワーステアリング装置に前記望ましくない操舵力を打ち消すような操舵補助トルクを発生させてトルクステア現象を軽減するものが、本出願人により既に提案されている(特願平9−302155号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、駆動力配分装置の作動に伴って発生するトルクステア現象を的確に軽減するには、駆動力配分装置の制御手段から電動パワーステアリング装置の制御手段にモータ制御信号を補正する補正信号を遅滞なく出力する必要があるが、前記両制御手段間の通信周期を短縮することには限界があるため、補正信号による操舵補助トルクを発生に遅れが生じてトルクステア現象を抑えきれず、ドライバーに違和感を与える可能性がある。これを防止するために、トルクステア現象を打ち消すのに必要な値に対して、補正信号を大きめに設定することが考えられる。しかしながら、駆動力配分装置の駆動力配分量が小さいためにトルクステア現象が小さいときに、その駆動力配分量の推定誤差によって大きな補正信号が出力されたような場合に、ドライバーの意図せぬ操舵補助トルクが発生して違和感を与える可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、駆動力・制動力配分装置および電動パワーステアリング装置を協調制御してトルクステア現象を軽減する車両の協調制御装置において、駆動力・制動力配分量が小さい領域で大きな操舵補助トルクが発生してドライバーが違和感を受けるのを防止することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、左右輪間あるいは前後輪間で駆動力あるいは制動力を配分する駆動力・制動力配分装置と、駆動力・制動力配分装置の作動を制御する第1制御手段と、操舵系に操舵補助トルクを付加するモータを有する電動パワーステアリング装置と、少なくとも操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクに基づいてモータを駆動するモータ制御信号を算出する第2制御手段とを備え、第1制御手段は、駆動力・制動力配分装置が発生する駆動力・制動力配分量に基づいて前記モータ制御信号を補正する補正信号を算出可能であり、第2制御手段は、モータ制御信号を補正信号で補正した補正モータ制御信号に基づいてモータを駆動する車両の協調制御装置であって、第1制御手段は、駆動力・制動力配分量が所定値以下の不感帯領域において補正信号の大きさを0に設定するとともに、駆動力・制動力配分装置の作動により発生するトルクステア現象を打ち消すのに必要な値よりも大きい値の補正信号を出力可能であり、かつ駆動力・制動力配分量の増加に応じて増加する補正信号の大きさを、最大値に達した後に該最大値に保持することを特徴とする車両の協調制御装置が提案される。
【0006】
上記構成によれば、第1制御手段は駆動力・制動力配分量が所定値以下の不感帯領域において補正信号の大きさを0に設定するので、駆動力・制動力配分量が小さい領域で不適切な操舵補助トルクが発生してドライバーが違和感を受けるのを防止することができる。また前記不感帯を設けたことにより操舵補助トルクの発生が遅れても、トルクステア現象を打ち消すのに必要な値よりも大きい値の補正信号を出力することにより、前記遅れを補償してトルクステア現象を充分に打ち消すことができ、しかも補正信号の大きさは駆動力・制動力配分量の増加に応じて増加して最大値に達した後に該最大値に保持されるので、操舵補助トルクが過剰になってドライバーが違和感を受けるのを防止することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。 図1〜図8は本発明の一実施例を示すもので、図1は駆動力配分装置の構造を示す図、図2は第1電子制御ユニットの回路構成を示すブロック図、図3は中低車速域での右旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図、図4は中低車速域での左旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図、図5は電動パワーステアリング装置の構造を示す図、図6は第2電子制御ユニットの回路構成を示すブロック図、図7はトルク配分量から電流補正量あるいはオフセット電流を検索するマップを示す図、図8は電動パワーステアリング装置の作動禁止領域を検索するマップを示す図である。
【0008】
図1に示すように、フロントエンジン・フロントドライブの車両の車体前部に横置きに搭載したエンジンEの右端にトランスミッションMが接続されており、これらエンジンEおよびトランスミッションMの後部に駆動力配分装置Tが配置される。駆動力配分装置Tの左端および右端から左右に延びる左ドライブシャフトAL および右ドライブシャフトAR には、それぞれ左前輪WFLおよび右前輪WFRが接続される。
【0009】
駆動力配分装置Tは、トランスミッションMから延びる入力軸1に設けた入力ギヤ2に噛み合う外歯ギヤ3から駆動力が伝達される差動装置Dを備える。差動装置Dはダブルピニオン式の遊星歯車機構よりなり、前記外歯ギヤ3と一体に形成されたリングギヤ4と、このリングギヤ4の内部に同軸に配設されたサンギヤ5と、前記リングギヤ4に噛み合うアウタプラネタリギヤ6および前記サンギヤ5に噛み合うインナプラネタリギヤ7を、それらが相互に噛み合う状態で支持するプラネタリキャリヤ8とから構成される。差動装置Dは、そのリングギヤ4が入力要素として機能するとともに、一方の出力要素として機能するサンギヤ5が左出力軸9L を介して左前輪WFLに接続され、また他方の出力要素として機能するプラネタリキャリヤ8が右出力軸9R を介して右前輪WFRに接続される。
【0010】
左出力軸9L の外周に回転自在に支持されたキャリヤ部材11は、円周方向に90°間隔で配置された4本のピニオン軸12を備えており、第1ピニオン13、第2ピニオン14および第3ピニオン15を一体に形成した3連ピニオン部材16が、各ピニオン軸12にそれぞれ回転自在に支持される。
【0011】
左出力軸9L の外周に回転自在に支持されて前記第1ピニオン13に噛み合う第1サンギヤ17は、差動装置Dのプラネタリキャリヤ8に連結される。また左出力軸9L の外周に固定された第2サンギヤ18は前記第2ピニオン14に噛み合う。更に、左出力軸9L の外周に回転自在に支持された第3サンギヤ19は前記第3ピニオン15に噛み合う。
【0012】
実施例における第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数は以下のとおりである。
【0013】
第1ピニオン13の歯数 Z2 =17
第2ピニオン14の歯数 Z4 =17
第3ピニオン15の歯数 Z6 =34
第1サンギヤ17の歯数 Z1 =32
第2サンギヤ18の歯数 Z3 =28
第3サンギヤ19の歯数 Z5 =32
第3サンギヤ19は左油圧クラッチCL を介してケーシング20に結合可能であり、左油圧クラッチCL の係合によってキャリヤ部材11の回転数が増速される。またキャリヤ部材11は右油圧クラッチCR を介してケーシング20に結合可能であり、右油圧クラッチCR の係合によってキャリヤ部材11の回転数が減速される。そして前記右油圧クラッチCR および左油圧クラッチCL は、マイクロコンピュータを含む第1電子制御ユニットU1 により制御される。
【0014】
図2に示すように、第1電子制御ユニットU1 には、エンジントルクTE を検出するエンジントルク検出手段S1 と、エンジンEの回転数Neを検出するエンジン回転数検出手段S2 と、車速Vを検出する車速検出手段S3 と、操舵角θを検出する操舵角検出手段S4 とからの信号が入力される。第1電子制御ユニットU1 は前記各検出手段S1 〜S4 からの信号を所定のプログラムに基づいて演算処理し、前記左油圧クラッチCL および右油圧クラッチCR を制御する。
【0015】
第1電子制御ユニットU1 は、ドライブシャフトトルク算出手段M1と、ギヤレシオ算出手段M2と、左右配分補正係数算出手段M3と、目標ヨーレート算出手段M4と、横加速度算出手段M5と、左右配分補正係数算出手段M6と、左右前輪トルク算出手段M7と、電流補正量算出手段M8とを備える。
【0016】
ドライブシャフトトルク算出手段M1は、ギヤレシオ算出手段M2においてエンジン回転数Neと車速Vとから求めたギヤレシオNiをエンジントルクTE に乗算することにより、ドライブシャフトトルクTD (すなわち、左右の前輪WFL,WFRに伝達されるトクルの総和)を算出する。尚、エンジントルクTE は吸気圧(又はアクセル開度)とエンジン回転数Neとから求めることが可能であり、ドライブシャフトトルクTD は前述した以外に動力伝達系に設けたトルク検出手段や車両の前後加速度から求めることができる。また、車速Vは車輪速度から求める以外に空間フィルターを用いて光学的に求めても良く、ドップラーレーダーを用いて求めても良い。
【0017】
左右配分補正係数算出手段M3は、ドライブシャフトトルクTD に基づいて第1左右配分補正係数KT をマップ検索するとともに、車速Vに基づいて第2左右配分補正係数KV をマップ検索する。目標ヨーレート算出手段M4は、操舵角θに基づいて目標ヨーレートYの操舵角成分Y1 をマップ検索するともに、車速Vに基づいて目標ヨーレートYの車速成分Y2 をマップ検索し、それら操舵角成分Y1 および車速成分Y2 を乗算して目標ヨーレートYを算出する。横加速度算出手段M5は、前記目標ヨーレートYに車速Vを乗算することにより横加速度YG を算出し、左右配分補正係数算出手段M6は、前記横加速度YG に基づいて左右配分補正係数Gをマップ検索する。
【0018】
而して、左右前輪トルク算出手段M7において、左前輪WFLに配分すべきトルク配分量TL と右前輪WFRに配分すべきトルク配分量TR とが、次式に基づいて算出される。
【0019】
TL =(TD /2)×(1+KW ×KT ×KV ×G) …(1)
TR =(TD /2)×(1−KW ×KT ×KV ×G) …(2)
ここで、KT ,KV は左右配分補正係数算出手段M3で求めた左右配分補正係数、Gは左右配分補正係数算出手段M6で求めた左右配分補正係数、KW は定数である。
【0020】
また、(1)式および(2)式の右辺の(1±KW ×KT ×KV ×G)は左右の前輪WFL,WFR間でのトルク配分比を決定する項であって、一方の前輪WFL,WFRのトルク配分が所定量だけ増加すると、他方の前輪WFL,WFRのトルク配分が前記所定量だけ減少する。
【0021】
上述のようにして左右の前輪WFL,WFRに配分すべきトルク配分量TL ,TR が求められると、左右の前輪WFL,WFRに前記トルク配分量TL ,TR が伝達されるように左油圧クラッチCL および右油圧クラッチCR が制御される。
【0022】
電流補正量算出手段M8には、左右前輪トルク算出手段M7で算出した左右の前輪WFL,WFRに配分されるトルク配分量TL ,TR が入力される。電流補正量算出手段M8はトルク配分量TL ,TR を図7のマップに適用し、後述する電動パワーステアリング装置Sのモータ27の電流補正量ΔIを検索する。この電流補正量ΔIは、駆動力配分装置Tが発生するトルク配分量TL ,TR に起因するトルクステア現象を打ち消し得る操舵トルクを電動パワーステアリング装置Sが発生する電流に相当する。
【0023】
図7における破線はトルクステア量を示すもので、このトルクステア量はトルク配分量TL ,TR に比例している。一方、実線で示す電流補正量ΔIはトルク配分量TL ,TR に比例しておらず、トルク配分量TL ,TR が0からT1 までの領域は不感帯とされ、トルク配分量TL ,TR が増加しても電流補正量ΔIは0に保持される。トルク配分量TL ,TR がT1 からT3 までの領域は電流補正量ΔIが増加する領域であって、その傾きはトルクステア量の傾きよりも大きく設定されており、従ってトルク配分量TL ,TR がT2 よりも大きい領域で電流補正量ΔIはトルクステア量を上回っている。そしてトルク配分量TL ,TR がT4 の位置におけるトルクステア量が電流補正量ΔIの最大値ΔIMAX (例えば、22A)とされ、トルク配分量TL ,TR がT3 からT4 までの領域で電流補正量ΔIは前記最大値ΔIMAX に保持される。
【0024】
尚、電流補正量ΔIの最大値ΔIMAX は、理論計算やテストデータにより設定されるが、その値を路面摩擦係数に応じて変化させても良い。
【0025】
而して、第1電子制御ユニットU1 からの指令により、車両の直進走行時には右油圧クラッチCR および左油圧クラッチCL が共に非係合状態とされる。これにより、キャリヤ部材11および第3サンギヤ19の拘束が解除され、左ドライブシャフト9L 、右ドライブシャフト9R 、差動装置Dのプラネタリキャリヤ8およびキャリヤ部材11は全て一体となって回転する。このとき、図1に斜線を施した矢印で示したように、エンジンEのトルクは差動装置Dから左右の前輪WFL,WFRに均等に伝達される。
【0026】
さて、車両の中低車速域での右旋回時には、図3に示すように第1電子制御ユニットU1 からの指令により右油圧クラッチCR が係合し、キャリヤ部材11をケーシング20に結合して停止させる。このとき、左前輪WFLと一体の左出力軸9L と、右前輪WFRと一体の右出力軸9R (即ち、差動装置Dのプラネタリキャリヤ8)とは、第2サンギヤ18、第2ピニオン14、第1ピニオン13および第1サンギヤ17を介して連結されているため、左前輪WFLの回転数NL は右前輪WFRの回転数NR に対して次式の関係で増速される。
【0027】
NL /NR =(Z4 /Z3 )×(Z1 /Z2 )
=1.143 …(3)
上述のようにして、左前輪WFLの回転数NL が右前輪WFRの回転数NR に対して増速されると、図3に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である右前輪WFRのトルクの一部を旋回外輪である左前輪WFLに伝達することができる。
【0028】
尚、キャリヤ部材11を右油圧クラッチCR により停止させる代わりに、右油圧クラッチCR の係合力を適宜調整してキャリヤ部材11の回転数を減速すれば、その減速に応じて左前輪WFLの回転数NL を右前輪WFRの回転数NR に対して増速し、旋回内輪である右前輪WFRから旋回外輪である左前輪WFLに任意のトルクを伝達することができる。
【0029】
一方、車両の中低車速域での左旋回時には、図4に示すように第1電子制御ユニットU1 からの指令により左油圧クラッチCL が係合し、第3ピニオン15が第3サンギヤ19を介してケーシング20に結合される。その結果、左出力軸9L の回転数に対してキャリヤ部材11の回転数が増速され、右前輪WFRの回転数NR は左前輪WFLの回転数NL に対して次式の関係で増速される。
【0030】
NR /NL ={1−(Z5 /Z6 )×(Z2 /Z1 )}
÷{1−(Z5 /Z6 )×(Z4 /Z3 )}
=1.167 …(4)
上述のようにして、右前輪WFRの回転数NR が左前輪WFLの回転数NL に対して増速されると、図4に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である左前輪WFLのトルクの一部を旋回外輪である右前輪WFRに伝達することができる。この場合にも、左油圧クラッチCL の係合力を適宜調整してキャリヤ部材11の回転数を増速すれば、その増速に応じて右前輪WFRの回転数NR を左前輪WFLの回転数NL に対して増速し、旋回内輪である左前輪WFLから旋回外輪である右前輪WFRに任意のトルクを伝達することができる。而して、車両の中低速走行時には旋回外輪に旋回内輪よりも大きなトルクを伝達して旋回性能を向上させることが可能である。尚、高速走行時には前記中低速走行時に比べて旋回外輪に伝達されるトルクを少なめにしたり、逆に旋回外輪から旋回内輪にトルクを伝達して走行安定性能を向上させることが可能である。そして、それらは第1電子制御ユニットU1 の左右配分補正係数算出手段M3において、車速Vに対する第2左右配分補正係数KV のマップの設定により達成される。
【0031】
(3)式および(4)式を比較すると明らかなように、第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数を前述の如く設定したことにより、右前輪WFRから左前輪WFLへの増速率(約1.143)と、左前輪WFLから右前輪WFRへの増速率(約1.167)とを略等しくすることができる。
【0032】
ところで、エンジンEから駆動力配分装置Tを介して左右の前輪WFL,WFRに配分される駆動力が変化すると、操舵輪である左右の前輪WFL,WFRにいわゆるトルクステア現象によって望ましくない操舵力が発生してしまう。電動パワーステアリング装置Sを備えた車両では、駆動力配分装置Tの作動によりトルクステア現象が発生したときに、トルクステア現象による操舵力を打ち消すように電動パワーステアリング装置Sを作動させて逆方向の操舵補助トルクを発生させることにより、前記トルクステア現象を軽減することができる。
【0033】
次に、図5に基づいて車両の操舵系を説明する。
【0034】
ドライバーによってステアリングホイール21に入力された操舵トルクは、ステアリングシャフト22、連結軸23およびピニオン24を介してラック25に伝達され、更にラック25の往復動は左右のタイロッド26,26を介して左右の前輪WFL,WFRに伝達されて該前輪WFL,WFRを転舵する。操舵系に設けられた電動パワーステアリング装置Sは、モータ27の出力軸に設けた駆動ギヤ28と、この駆動ギヤ28に噛み合う従動ギヤ29と、この従動ギヤ29と一体のスクリューシャフト30と、このスクリューシャフト30に噛み合うとともに前記ラック25に連結されたナット31とを備える。
【0035】
第2電子制御ユニットU2 は、単独で電動パワーステアリング装置Sの作動を制御するものではなく、駆動力配分装置Tの作動と関連して電動パワーステアリング装置Sの作動を協調制御する。
【0036】
図6に示すように、第2電子制御ユニットU2 は、目標電流設定手段M9と、駆動制御手段M10と、駆動禁止手段M11と、駆動禁止判定手段M12と、上限チェック手段M13と、減算手段33とを備える。
【0037】
上限チェック手段M13は、第1電子制御ユニットU1 から入力される電流補正量ΔIが間違いなく22A以下であることをチェックする。
【0038】
目標電流設定手段M9は、車速検出手段S3 から入力される車速Vと、操舵トルク検出手段S5 から入力される操舵トルクTQ とに基づいて、電動パワーステアリング装置Sのモータ27を駆動する目標電流IMSをマップ検索する。目標電流IMSは操舵トルクTQ が増加するに伴って増加し、かつ車速Vが減少するに伴って増加するように設定されており、この特性により車両の運転状態に応じた操舵補助トルクを発生させることができる。
【0039】
目標電流設定手段M9が出力する目標電流IMSと上限チェック手段M13が出力する電流補正量ΔIとが減算手段33に入力され、そこで目標電流IMSから電流補正量ΔIが減算されて補正目標電流IMS′(=IMS−ΔI)が算出される。尚、駆動力配分装置Tの作動によりドライバーのステアリング操作と同方向の操舵力が作用する場合には、目標電流IMSから電流補正量ΔIを減算して補正目標電流IMS′を算出するが、ドライバーのステアリング操作と逆方向の操舵力が作用する場合には、目標電流IMSに電流補正量ΔIを加算して補正目標電流IMS′を算出する場合もある。
【0040】
駆動制御手段M10は補正目標電流IMS′をモータ駆動信号VD に変換し、そのモータ駆動信号VD を駆動禁止手段M11に出力する。駆動禁止手段M11は、駆動禁止判定手段M12から駆動禁止信号が入力されないときには、前記モータ駆動信号VD をモータドライバ32に出力してモータ電圧VM でモータ27を駆動することにより、電動パワーステアリング装置Sに操舵補助トルクを発生させる。而して、目標電流IMSおよび電流補正量ΔIから算出した補正目標電流IMS′に基づいて電動パワーステアリング装置Sを制御することにより、電動パワーステアリング装置Sの本来の機能であるドライバーのステアリング操作のアシストと、トルクステア現象の軽減とを同時に行わせることができる。
【0041】
制御系の故障等の異常事態が発生した場合には、駆動禁止判定手段M12から駆動禁止手段M11に駆動禁止信号が入力され、駆動禁止手段M11は前記モータ駆動信号VD の出力を禁止して電動パワーステアリング装置Sの作動を禁止し、電動パワーステアリング装置Sがドライバーの予期せぬ操舵補助トルクを発生するのを防止するようになっている。
【0042】
駆動禁止判定手段M12には、電流検出手段S6 で検出したモータ27に供給されるモータ実電流IM と、操舵トルク検出手段S5 で検出した操舵トルクTQ と、上限チェック手段M13が出力するオフセット電流ΔIOSとが入力される。本実施例では、オフセット電流ΔIOSは電流補正量ΔIと同じもの(ΔI=ΔIOS)である。駆動禁止判定手段M12は、オフセット電流ΔIOSに基づいて補正されたマップにモータ実電流IM および操舵トルクTQ を適用することにより、電動パワーステアリング装置Sの駆動を禁止するか否かを判定する。
【0043】
図8(A)は上記判定を行うための従来のマップであって、本来このマップは駆動力配分装置Tを備えていない車両、つまり電動パワーステアリング装置Sおよび駆動力配分装置Tの協調制御を行わない車両に対して設定されたものである。ここで、横軸は操舵トルク検出手段S5 で検出した操舵トルクTQ を、縦軸は電流検出手段S6 で検出したモータ実電流IM を表している。横軸の原点よりも右側の操舵トルクTQ が(+)の領域はステアリングホイール21に右旋回方向の操舵トルクが入力された場合に対応し、横軸の原点よりも左側の操舵トルクTQ が(−)の領域はステアリングホイール21に左旋回方向の操舵トルクが入力された場合に対応する。また縦軸の原点よりも上側のモータ実電流IM が(+)の領域はモータ27が右旋回方向のトルクを出力する場合に対応し、縦軸の原点よりも下側のモータ実電流IM が(−)の領域はモータ27が左旋回方向のトルクを出力する場合に対応する。そして操舵トルクTQ およびモータ実電流IM が斜線を施したアシスト禁止領域にあるとき、駆動禁止判定手段M12は駆動禁止手段M11にモータ27の駆動を禁止する指令を出力する。
【0044】
例えば、ドライバーがステアリング操作を行っていないにも拘わらず、第2電子制御ユニットU2 の故障によってモータ27が大きな電流で右旋回方向に駆動されたとすると、そのときのモータ実電流IM は(+)領域のaになる。モータ27が右旋回方向に勝手に駆動されたことにより、ドライバーはステアリングホイール21に左旋回方向の強い操舵トルクTQ を加えて車両を直進させようとするため、操舵トルク検出手段S5 が検出する操舵トルクTQ は(−)領域のbになる。その結果、モータ実電流IM および操舵トルクTQ は図8にP点で示す関係になって斜線を施したアシスト禁止領域に入り、駆動禁止判定手段M12がモータ27の駆動を禁止する指令を出力することにより、電動パワーステアリング装置Sが望ましくない操舵補助トルクを発生するのを防止することができる。
【0045】
以上の説明は、電動パワーステアリング装置Sおよび駆動力配分装置Tの協調制御を行わない車両に対して当てはまるものであるが、協調制御を行う車両では以下のような不具合が発生する。即ち、協調制御を行う車両では、モータ実電流IM にドライバーのステアリング操作をアシストするための電流成分と、トルクステア現象を軽減するための電流成分とが含まれるため、トルクステア現象を軽減するための電流成分を考慮していない図8(A)のマップをそのまま使用すると、誤判定が発生して電動パワーステアリング装置Sの作動が必要なときに作動が禁止されたり、電動パワーステアリング装置Sの作動が不要なときに作動が許可されたりする可能性がある。
【0046】
例えば、協調制御を行う車両では、操舵トルクTQ の方向とモータ実電流IM の方向とが逆になる領域(図8(A)の第2象限および第4象限)においても操舵アシストを許可する場合がある。なぜならば、駆動力配分装置Tの作動によって操舵方向と同方向のトルクステア現象が発生しており、このトルクステア現象を打ち消すための逆方向の電流補正量ΔIが電動パワーステアリング装置Sの目標電流IMSよりも大きい場合を考える。この場合に図8(A)のマップをそのまま使用すると、操舵アシストが禁止されるためにトルクステア現象を打ち消すことができなくなる。
【0047】
これを回避すべく本実施例では、図8(B)に示すように、アシスト禁止領域を縦軸方向に電流補正量ΔI(即ち、オフセット電流ΔIOS)の分だけ平行移動させている。これにより、電動パワーステアリング装置Sに電流補正量ΔIの分だけ操舵方向と逆方向の操舵トルクを発生させ、駆動力配分装置Tの作動に伴うトルクステア現象を打ち消すことができる。
【0048】
さて、図7で説明したように、トルク配分量TL ,TR が0からT1 までの領域は不感帯であって電流補正量ΔIは0に保持されるため、この領域で電動パワーステアリング装置Sはトルクステア現象を打ち消すための操舵補助トルクを発生することがない。従って、トルク配分量TL ,TR が小さい領域で該トルク配分量TL ,TR の推定に誤差が発生した場合でも、その誤差によって電動パワーステアリング装置Sが不適切な操舵補助トルクを発生してドライバーに違和感を与えることが防止される。
【0049】
上述のようにトルク配分量TL ,TR が小さい領域に不感帯を設定すると電流補正量ΔIの立ち上がりが遅れるが、それに続くトルク配分量TL ,TR がT1 からT3 までの領域で電流補正量ΔIの傾きを大きく設定し、トルク配分量TL ,TR がT2 からT4 までの領域でトルクステア量を上回る電流補正量ΔIを出力することにより、前記電流補正量ΔIの立ち上がりの遅れを補償して充分な操舵補助トルクを発生させ、トルクステア現象を確実に軽減することができる。しかもトルク配分量TL ,TR がT3 の位置で電流補正量ΔIが最大値ΔIMAX に達した後は、その最大値ΔIMAX が維持されるため、電動パワーステアリング装置Sが過剰な操舵補助トルクを発生するのを防止することができる。
【0050】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0051】
例えば、本発明における駆動力配分装置は左右輪間で駆動力を配分するものに限定されず、前後輪間で駆動力を配分するものであっても良い。更に本発明は、制動力を左右輪間あるいは前後輪間で配分するものに対しても適用することができる。
【0052】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、第1制御手段は駆動力・制動力配分量が所定値以下の不感帯領域において補正信号の大きさを0に設定するので、駆動力・制動力配分量が小さい領域で不適切な操舵補助トルクが発生してドライバーが違和感を受けるのを防止することができる。また前記不感帯を設けたことにより操舵補助トルクの発生が遅れても、トルクステア現象を打ち消すのに必要な値よりも大きい値の補正信号を出力することにより、前記遅れを補償してトルクステア現象を充分に打ち消すことができ、しかも補正信号の大きさは駆動力・制動力配分量の増加に応じて増加して最大値に達した後に該最大値に保持されるので、操舵補助トルクが過剰になってドライバーが違和感を受けるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 駆動力配分装置の構造を示す図
【図2】 第1電子制御ユニットの回路構成を示すブロック図
【図3】 中低車速域での右旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図
【図4】 中低車速域での左旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図
【図5】 電動パワーステアリング装置の構造を示す図
【図6】 第2電子制御ユニットの回路構成を示すブロック図
【図7】 トルク配分量から電流補正量あるいはオフセット電流を検索するマップを示す図
【図8】 電動パワーステアリング装置の作動禁止領域を検索するマップを示す図
【符号の説明】
IMS 目標電流(モータ制御信号)
IMS′ 補正目標電流(補正モータ制御信号)
ΔI 電流補正量(補正信号)
ΔIMAX 電流補正量の最大値(補正信号の最大値)
S 電動パワーステアリング装置
S5 操舵トルク検出手段
T 駆動力配分装置(駆動力・制動力配分装置)
Claims (1)
- 左右輪間あるいは前後輪間で駆動力あるいは制動力を配分する駆動力・制動力配分装置(T)と、
駆動力・制動力配分装置(T)の作動を制御する第1制御手段(U1 )と、
操舵系に操舵補助トルクを付加するモータ(27)を有する電動パワーステアリング装置(S)と、
少なくとも操舵トルク検出手段(S5 )で検出した操舵トルク(TQ )に基づいてモータ(27)を駆動するモータ制御信号(IMS)を算出する第2制御手段(U2 )と、
を備え、
第1制御手段(U1 )は、駆動力・制動力配分装置(T)が発生する駆動力・制動力配分量(TL ,TR )に基づいて前記モータ制御信号(IMS)を補正する補正信号(ΔI)を算出可能であり、
第2制御手段(U2 )は、モータ制御信号(IMS)を補正信号(ΔI)で補正した補正モータ制御信号(IMS′)に基づいてモータ(27)を駆動する車両の協調制御装置であって、
第1制御手段(U1 )は、駆動力・制動力配分量(TL ,TR )が所定値以下の不感帯領域において補正信号(ΔI)の大きさを0に設定するとともに、駆動力・制動力配分装置(T)の作動により発生するトルクステア現象を打ち消すのに必要な値よりも大きい値の補正信号(ΔI)を出力可能であり、かつ駆動力・制動力配分量(T L ,T R )の増加に応じて増加する補正信号(ΔI)の大きさを、最大値(ΔI MAX )に達した後に該最大値(ΔI MAX )に保持することを特徴とする車両の協調制御装置。
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