JP4280658B2 - 塗膜密着性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板 - Google Patents

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本発明は、外装材,内装材,表装材等に使用され、疵がつきにくい硬質表面をもち塗膜密着性にも優れたクリア塗装ステンレス鋼板に関する。
熱可塑性樹脂塗膜は、塗装原板に対して優れた密着性を呈し、塗装鋼板に曲げ,深絞り等の加工を施しても鋼板表面から剥離することが少ない。しかし、軟質塗膜であるため、ハンドリング中や使用中に塗装鋼板が異物と接触すると、塗膜表面が疵付きやすい。塗膜表面の疵付きは、ステンレス鋼の表面光沢を活かしたクリア塗装ステンレス鋼板では商品価値に大きな悪影響を与える。
塗装ステンレス鋼板の耐疵付き性は鋼板表面にアクリルシリコーン,アクリル樹脂等の熱硬化性硬質塗膜を形成することにより改善されるが、1コートの熱硬化性樹脂塗膜を設けた塗装ステンレス鋼板では塗膜密着性に劣る。低い塗膜密着性は、塗装ステンレス鋼板に曲げ,深絞り等の加工を施したときに鋼板表面から塗膜が剥離する原因となる。塗膜剥離が生じると、クリア塗装ステンレス鋼板の外観が著しく損なわれる。
鋼板に対する密着性が改善されると、熱硬化性樹脂塗膜の優れた耐疵付き性を活用できる。塗膜密着性を改善する方法として、密着性の良好なプライマ塗膜を介して熱硬化性樹脂塗膜を設けることが挙げられる。
たとえば、シランカップリング剤を含むエポキシ樹脂系プライマ,更にシリコーン変性アクリル樹脂系仕上げ塗料を順次積層させたステンレス鋼板(特許文献1)がある。エポキシ樹脂系プライマ塗膜を設けることにより金属素地,トップ塗膜共に平坦部での密着性が改善されるが、加工部では硬いエポキシ樹脂系塗膜が割れ、トップ塗膜との層間剥離が生じやすい。しかも、塗料に配合されているシランカップリング剤は、塗料の貯蔵安定性に悪影響を及ぼす。
特開平4-247939号公報
アミノアルキッド系樹脂を主成分とするプライマ塗膜を介し、アクリル変性シリコーン樹脂を主成分とするセラミック系塗料で外層を形成するとき、加工性が改善された塗装鋼板が得られる(特許文献2)。しかし、プライマ塗膜を厚膜化すると加工時に塗膜内部の変形応力が増大し、トップ塗膜との間で層間剥離が生じる虞があるため、プライマ塗膜の厚膜化が困難である。
特開平10-76600号公報
トップ塗膜の熱硬化性樹脂に対する濡れ性,界面付着性を考慮して塗膜焼成時に平滑なプライマ塗膜を形成し、トップ塗膜焼成時に再融解しない熱硬化性樹脂がプライマ塗料として通常使用される。プライマ塗膜の介在により塗膜密着性が改善されるが、熱可塑性樹脂塗膜と比較すると熱硬化性樹脂で成膜されたプライマ塗膜の塗膜密着性は依然として劣っている。そのため、厳しい条件下で加工された部位に塗膜剥離が散見される。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、通常使用されている溶剤にポリフッ化ビニリデンが溶解せずアプリケータロールに対しても非粘着性を呈することに着目し、熱可塑性のポリフッ化ビニリデンをベースとする樹脂塗料から成膜されたプライマ塗膜を介して熱硬化性の硬質トップクリア塗膜を設けることにより、熱硬化性樹脂塗膜の優れた耐疵付き性を活かしながら塗膜密着性を改善したクリア塗装ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
本発明のクリア塗装ステンレス鋼板は、その目的を達成するため、熱可塑性アクリル樹脂を配合した熱可塑性ポリフッ化ビニリデンを樹脂ベースとするプライマ塗膜を介し、熱硬化性樹脂をベースとするトップクリア塗膜が積層されていることを特徴とする。
熱可塑性ポリフッ化ビニリデンとしては、トップクリア塗膜の焼成温度より低い流動開始温度を呈し、熱可塑性ポリフッ化ビニリデン:アクリル樹脂:10/90〜90/10(質量比)の範囲でアクリル樹脂と配合される。
トップクリア塗料は、熱可塑性ポリフッ化ビニリデンの流動開始温度以上で焼成されるアクリルシリコーン,アクリル樹脂から選ばれた一種又は二種以上をトルエン,キシレン,酢酸エチル,酢酸ブチル,シクロヘキサン,ブチルセロソルブ,プロピレングリコールモノメチルエーテル,イソホロンから選ばれた一種又は二種以上の溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
プライマ塗膜及び/又はトップクリア塗膜には、塗膜の透明度を損なわない程度の割合で着色顔料,染料,パール顔料,メタリック顔料,艶消し材,骨材の一種又は二種以上を配合することもできる。
2コート塗装鋼板では、通常、熱硬化性プライマ塗膜の上に熱硬化性トップ塗膜を、熱可塑性プライマ塗膜の上に熱可塑性トップ塗膜を積層している。熱硬化性樹脂は、塗膜焼成時に重合反応するため再加熱されてもプライマ塗膜,トップ塗膜の溶融流動がなく、塗膜表面の平滑性が保たれ良好な外観を維持する。熱硬化性プライマ塗膜の上に熱硬化性トップ塗膜を積層する場合は、樹脂構造材にカルボニル基、アミド基等の極性基をもち、濡れ性,界面付着性が優れているポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,アクリル樹脂,フッ素樹脂,シリコーン樹脂,これらの変性樹脂,混合添加物の中から自由な組合せで選択できる。
これに対し、塗膜焼成時に溶融して流動的になる熱可塑性樹脂は良好なレベリング性を示し、冷却された塗膜表面は平滑性が保たれ良好な外観を呈する。また、熱可塑性樹脂は、基本的に重合反応することなく塗膜化される。そのため、熱可塑性のプライマ塗膜にトップ塗料を上塗りすると、プライマ塗膜の表層がトップ塗料と溶剤に僅かに溶解し平滑性が損なわれるが、トップ塗料も熱可塑性であるのでトップ塗膜焼成時に塗膜表面が修正され良好な外観が付与される。また、再溶解したプライマ塗料の樹脂がトップ塗料と相溶してトップ塗膜が焼成されるため、プライマ塗膜とトップ塗膜との密着性も確保される。
他方、熱可塑性樹脂塗膜に熱硬化性樹脂塗膜を積層するとき、トップコート用の熱硬化性樹脂塗料を塗布・焼成する過程で熱硬化性樹脂塗料の溶剤に熱可塑性樹脂が溶解し、プライマ塗膜が流動化して平滑性が損なわれる。そのため、極めて表面性状に劣るトップ塗膜がプライマ塗膜に積層される。流動化したプライマ塗膜がアプリケータロールにピックアップされることも、塗膜性状を劣化させる一因である。このようなことから、熱可塑性樹脂塗膜/熱硬化性樹脂塗膜の積層は、不適と受け取られている。
本発明者等は、塗装分野で採用されている2コート塗膜の通常構成に反し、熱可塑性のポリフッ化ビニリデンをベースとする樹脂塗料で成膜したプライマ塗膜にトップクリア塗膜として熱硬化性樹脂塗膜を積層すると、熱可塑性樹脂塗膜の塗膜密着性,熱硬化性樹脂塗膜の耐疵付き性が共に活かされ、層間剥離も抑制された2コート塗装鋼板が得られることを見出した。
プライマ塗料のベースとして、熱硬化性樹脂塗料からトップクリア塗膜を成膜するときの焼成温度Tbより低い流動開始温度Tfに調整された熱可塑性ポリフッ化ビニリデンを使用する。ポリフッ化ビニリデンは、如何なる溶剤にもほとんど侵されず塗料化しがたい樹脂であるので、ポリフッ化ビニリデンの微粒子を均一に分散させるバインダとして熱可塑性アクリル樹脂を配合する。熱可塑性ポリフッ化ビニリデン/アクリル樹脂のプライマ塗膜が熱硬化性クリア塗膜の形成に有効なことは次のように推察される。
ポリフッ化ビニリデンは、溶解することなく分散状態で溶剤中に存在しており、焼成後にはプライマ塗膜の表層に向けて高くなる濃度勾配をもつ。ポリフッ化ビニリデンが塗膜表面にブリードしたプライマ塗膜は、トップコート用熱硬化性樹脂塗料の溶剤に溶解せず、熱硬化性樹脂塗料の塗布時にアプリケータロールにピックアップされることもない。熱硬化性樹脂塗料を焼成してトップクリア塗膜を形成するとき、プライマ塗膜の内部が流動化するものの塗膜表層ではポリフッ化ビニリデンリッチな薄膜が維持される。そのため、プライマ塗膜の表面平滑性が保たれたままでトップクリア塗膜が形成され、トップクリア塗膜の焼成時に発生する熱応力はプライマ塗膜内部の流動で吸収される。
塗料用フッ素樹脂は、-(CF2-CF2)n-,-(CF2-CFX)n-等のフッ素樹脂構造をもち、塗料中の他の樹脂や添加剤に比較してフッ素含有基の表面張力が非常に小さいため塗膜表面に配向する。フッ素樹脂構造をもつ変性樹脂も同様にフッ素樹脂構造が塗膜表面に配向する。他方、ポリフッ化ビニリデンは、-(CF2-CH2)-を樹脂骨格にしているので他のフッ素樹脂構造に比較して一単位当りのフッ素含有量が少なく表面張力が大きい。そのため、一般の熱可塑性フッ素樹脂/熱可塑性アクリル樹脂系と異なり、フッ素樹脂の塗膜表面への配向性が鈍く,塗膜表面に若干の熱可塑性アクリル樹脂が存在することを許容する。
トップ塗膜との密着性を想定すると、フッ素含有基は無極性で濡れ性,界面付着性に劣るが、アクリル樹脂のカルボニル基は高極性で濡れ性,界面付着性に優れている。すなわち、フッ素含有基の欠点がカルボニル基で相殺されるため、ポリフッ化ビニリデン/熱可塑性アクリル樹脂をプライマ塗料樹脂として採用できる。しかも、ポリフッ化ビニリデンの融点は150〜185℃と低温であるが、他のフッ素樹脂は融点が220〜330℃と高く、トップ塗膜焼成温度である200〜300℃の温度域で十分に溶融しないのでプライマ塗料用途に適さない。
塗装原板には、鋼種,表面仕上げ等に制約を受けることなく種々のステンレス鋼板を使用できる。塗装原板は、密着性の良好な塗膜を形成するため塗装前処理が施される。具体的には、アルカリ脱脂,酸洗により鋼板表面を清浄化した後、好ましくはリン酸塩処理によって鋼板表面の濡れ性を高め、更にクロメート処理,クロムフリー処理等の化成処理が施される。
リン酸塩処理では、たとえば塗装前処理に使用されているリン酸亜鉛系の化成処理液が使用される。クロメート処理は、クロメート皮膜の全クロム量を40mg/m2にしても着色の少ない燐酸-クロム酸系処理液,或いは更にシリカを配合した処理液が好ましい。ロールコータ,カーテンフローコータ,浸漬法等で化成処理液を塗装原板に塗布し、ロール等でしぼった後、水洗することなく50〜200℃で乾燥することによって塗装下地として好適な化成皮膜が形成される。
プライマ塗料は、ポリフッ化ビニリデンAとアクリル樹脂Bとを好ましくはA/B=10/90〜90/10の質量比で混合することにより調製される。ポリフッ化ビニリデンが少なすぎると、プライマ塗膜の表面に配向するポリフッ化ビニリデンが量的に不足し、トップ塗料の塗布・焼成時にプライマ塗膜が流動化して平滑性が損なわれ外観不良になりやすい。逆にポリフッ化ビニリデンを過剰配合したプライマ塗料では、プライマ塗膜の表面に配向する熱可塑性アクリル樹脂が不足し、ポリフッ化ビニリデンをプライマ塗料に均一分散させがたくなると共に、トップ塗膜の密着性が低下する嫌いがある。
プライマ塗料には、着色顔料,体質顔料,染料,パール顔料,メタリック顔料,艶消し材,骨材,消泡剤,顔料分散材,たれ防止剤等、各種添加剤を配合することができる。添加剤の配合量は、塗膜の透明性が損なわれず、ステンレス鋼本来の金属素地感,塗膜の加工性等に影響を及ぼさない範囲で適宜選定される。
所定組成に調合したプライマ塗料は、たとえばプレコート鋼板の製造に通常採用されているロールコート法で塗装原板に塗布され、到達板温230〜280℃×30〜120秒で焼き付けることによってプライマ塗膜となる。プライマ塗料の塗布量は、プライマ塗膜の乾燥膜厚が3〜30μmとなるように設定される。乾燥膜厚3μm以上で塗膜密着性,耐食性等の改善効果がみられ、逆に30μmを超える厚膜では焼成時にワキが発生しやすく、塗膜表面が柚子肌状になる外観劣化が懸念される。
トップクリア塗料の焼成温度は、プライマ塗料の焼成温度よりも低く設定できる。プライマ塗料の焼成時には溶剤を十分蒸発させ、更にプライマ塗膜表面にポリフッ化ビニリデンの平滑なブリード層を形成する必要があるが、トップクリア塗料の焼成は、プライマ塗膜中のポリフッ化ビニリデンが融点:150〜180℃以上で柔軟になる条件に設定される。焼付け時の到達板温は、ポリフッ化ビニリデンや熱可塑性アクリル樹脂の融点より高い200〜300℃の範囲に設定することが好ましい。
トップクリア塗膜は、基材・ステンレス鋼板の表面光沢を活用することから透明度が高いほど好ましい。トップクリア塗膜の透明度は、SUS430ステンレス鋼板に形成した膜厚10μmの塗膜の可視光透過率から次のようにして求めた値で評価できる。ダブルビーム,ダイノードフィードバックによるダイレクトレシオ方式の分光光度計を用い、塗装ステンレス鋼板に波長500nmの可視光を照射したときに塗膜を透過しステンレス鋼板表面で反射する光の強度を測定する。測定値を式T(%)=I/I0(T:光反射率,I0:入射光強度,I:反射光強度)に代入して光反射率を求め、光反射率が75%以上の塗膜をクリア塗膜と評価する。光反射率が75%に達しない塗膜では、塗膜自体が濁って半透明の外観を呈しステンレス鋼板表面の光沢が損なわれる。
トップクリア塗膜に着色顔料,体質顔料,染料,パール顔料,メタリック顔料,艶消し材,骨材,消泡剤,顔料分散剤,たれ防止剤等の各種添加剤をトップクリア塗膜に分散させる場合、塗膜の光反射率が75%以上となるように添加剤の種類,配合量を選定する。
前掲の塗料組成,製造条件で製造される2コートクリアステンレス鋼板では、プライマ塗膜/トップ塗膜の層間密着性,加工性,透明度を確保する上でプライマ塗膜の膜厚Eを3〜15μm,トップクリア塗膜の膜厚Fを2〜15μmの範囲で選定することが好ましい。
E≦3μm,F≦2μm以下の塗膜構成では、加工時に生じるトップ塗膜の応力歪みを軟質のプライマ塗膜が吸収できず、プライマ塗膜/トップ塗膜の層間剥離が生じやすくなる。トップクリア塗膜の平滑性,トップクリア塗料の高透明性を十分に活かす上でも膜厚E,Fの下限が定められる。膜厚E,Fの増加に従い加工時に生じるトップクリア塗膜の応力歪みを軟質なプライマ塗膜が吸収する作用が強くなり、プライマ塗膜/トップ塗膜の層間密着性が向上するが、E≧15μm,F≧15μmを超える厚膜では2コート塗膜としての高透明性が劣化し、塗膜自体に濁りが生じて半透明の外観を呈する傾向が強くなる。
板厚:0.4mmのSUS430ステンレス鋼板を塗装原板に用い、アルカリ脱脂,水洗,Ni置換析出型表面調整,水洗,乾燥の工程を経て塗布型クロメート処理を施し、100℃で乾燥した。塗布型クロメート処理では、全クロム付着量として20mg/m2のクロメート皮膜を形成した。
ポリフッ化ビニリデン/アクリル樹脂の混合樹脂をベースとする熱可塑性樹脂塗料をクロメート処理されたステンレス鋼板の表面に塗布し、250℃×1分で焼付け乾燥し、直ちに水冷することにより非晶質透明フッ素樹脂塗膜(プライマ塗膜)を形成した。次いで、アクリルシリコーン:アクリル樹脂=30:70(質量比)のトップクリア塗料を塗布し、230℃×1分で焼付け乾燥し、直ちに水冷することにより熱硬化性樹脂塗膜(トップクリア塗膜)を形成した。
比較のため、ポリフッ化ビニリデン/アクリル樹脂の適正混合比以外の混合樹脂をベースとする熱可塑性樹脂塗料をクロメート処理されたステンレス鋼板の表面に塗布し、250℃×1分で焼付け乾燥し、各種熱硬化樹脂を230℃×1分で焼付け乾燥し、直ちに水冷することによりプライマ塗膜を形成した。プライマ塗膜の上に、本発明例と同様なトップクリア塗膜を積層した。
プライマ塗膜の熱可塑性樹脂混合比,乾燥膜厚及びトップクリア塗料の熱硬化性樹脂混合比,乾燥膜厚を表1に示す。
Figure 0004280658
得られた各クリア塗装ステンレス鋼板から試験片を切り出し、各種試験に供した。
〔塗膜硬度試験〕
「JIS K5400 6.14鉛筆引掻き試験」に準拠し、塗膜硬度を評価した。
〔加工部塗膜密着性試験〕
「JIS K5400 8.1耐屈曲性」試験に準拠し、試験片を180度密着曲げした後、塗膜に粘着テープを貼り付けて瞬時に引き剥がした。テープ剥離後に塗膜の付着状態を観察し、塗膜剥離が生じていない試験片を○,塗膜剥離が検出された試験片を×として塗膜密着性を評価した。
〔塗膜の透明度試験〕
ダブルビーム方式の自記分光光度計(UV-2200:株式会社島津製作所製)を用い、塗装ステンレス鋼板に波長500nmの可視光を照射する条件下で塗膜を透過し、ステンレス鋼板表面で反射する光の強度を測定し、測定値から光反射率を算出した。併せて、クリア塗膜の外観を目視観察した。
表2の調査結果にみられるように、本発明に従ったクリア塗装ステンレス鋼板(試験番号1〜4)は、何れもH以上の塗膜硬度をもち耐疵付き性に優れ、奥行き感のある高透明度の外観を呈した。塗膜本来の要求特性である加工部密着性も良好であった。
これに対し、比較例5では、熱可塑性プライマ塗料にポリフッ化ビニリデンが正常に分散されていないため健全なプライマ塗膜が形成され難く、塗膜硬度,加工部塗膜密着性,高透明性等の意匠性の全てに劣っていた。プライマ塗膜の表層がトップ塗料の溶剤に溶解する熱可塑性アクリル樹脂を用いた比較例6では、トップ塗料塗布時にプライマ塗膜の表面が流動化して平滑性が損なわれ、クリア塗膜に膜厚変動が生じ、加工部塗膜密着性が劣り、柚子肌状になって意匠性も劣っていた。熱硬化樹脂をプライマ塗料に用いた比較例7〜10では、何れもプライマ塗膜の硬度が高すぎ、加工部塗膜密着性試験時に塗膜内部の変形応力が増大しプライマ塗膜/トップ塗膜の界面に層間剥離が生じた。
この対比から明らかなように、特定された樹脂及び配合量の熱可塑性プライマ塗膜と熱硬化性トップクリア塗膜とを適正な塗膜厚で積層することにより、塗膜硬度が高く奥行き感がある良好な透明度をもつ外観を呈し、加工部密着性も満足できるクリア塗装ステンレス鋼板が得られることが判る。
Figure 0004280658
以上に説明したように、ポリフッ化ビニリデンをベースとする熱可塑性プライマ塗膜に熱硬化性クリア塗膜を積層したクリア塗装ステンレス鋼板は、熱可塑性塗膜の優れた塗膜密着性,熱硬化性塗膜の優れた耐疵付き性を兼ね備え、プライマ塗膜/トップ塗膜の層間剥離性も改善されている。その結果、製品形状に加工した状態でも塗膜剥離が生じがたく、塗装鋼板のハンドリングや成形製品の使用中に塗膜表面に疵がつくことも抑えられる。したがって、種々の形状に加工することが予定されている外装材,内装材,表装材等として広範な分野で使用される。

Claims (5)

  1. 熱可塑性アクリル樹脂を配合した熱可塑性ポリフッ化ビニリデンを樹脂ベースとするプライマ塗膜を介し、熱硬化性樹脂をベースとするトップクリア塗膜が積層されていることを特徴とする塗膜密着性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板。
  2. 熱可塑性ポリフッ化ビニリデンの流動開始温度がトップクリア塗膜の焼成温度より低い請求項1記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
  3. 熱可塑性ポリフッ化ビニリデン:アクリル樹脂の質量比が10/90〜90/10の範囲に調整されたプライマ塗膜が設けられている請求項1記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
  4. 熱可塑性ポリフッ化ビニリデンの流動開始温度以上で焼成されるアクリルシリコーン,アクリル樹脂から選ばれた一種又は二種以上をトルエン,キシレン,酢酸エチル,酢酸ブチル,シクロヘキサン,ブチルセロソルブ,プロピレングリコールモノメチルエーテル,イソホロンから選ばれた一種又は二種以上の溶剤に溶解又は分散させて調製したトップクリア塗料からトップクリア塗膜が成膜されている請求項1記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
  5. プライマ塗膜,トップクリア塗膜の少なくとも一方に着色顔料,染料,パール顔料,メタリック顔料,艶消し材,骨材の一種又は二種以上が配合されている請求項1記載のクリア塗装ステンレス鋼板。
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