JP4277939B2 - 細胞成長因子産生細胞組込み型医療材料 - Google Patents
細胞成長因子産生細胞組込み型医療材料 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は基質に細胞成長因子を産生することのできる細胞、又は、細胞成長因子及び生体組織細胞を付着、捕捉又は混在させた人工血管、心臓血管壁修復材、人工腱、創傷治癒促進材に関し、特に生体内に植え込まれた後、自然に治癒が促進されて希望の軟組織が生体内で形成される細胞組込み型医療材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
【0003】
人工血管、心臓血管壁修復材、人工腱、創傷治癒促進材などの医療材料には柔軟性、強度、耐久性などの力学的適合性、毒性、発癌性などに対する生物学的安全性、生体組織との非関与性又は親和性などが求められている。
これらに用いられる素材としては生体非吸収性物質と生体吸収性物質とがある。生体非吸収性物質としてはポリエステル、ポリウレタン、ポリビニールアルコール、ポリビニール系共重合体、ポリエーテルエステル、ナイロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、綿、絹などが、また、生体吸収性物質としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、生分解性(3−ヒドロキシブチレート−4−ヒドロキシブチレート)ポリエステル共重合体、ポリジオキサン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、キチン、キトサンが挙げられる。
【0004】
これらのうちポリテトラフルオロエチレンは生体組織との接着、粘着性が低いことから、癒着防止膜や血栓を付着させないための人工血管に使用されている。しかし、それと生体組織との縫合部においては細胞との接着性が要求されるにもかかわらず細胞が接着できないため、パンヌスと呼ばれる不要な膜が形成され、それが人工血管表面より剥離されやすい等の不都合性が生じている。
【0005】
前述の素材のうち、ポリテトラフルオロエチレン以外の素材は細胞との親和性、すなわち易接着性を前提として人工臓器の設計が行われており、人工血管、人工心臓壁、人工心膜、人工腹壁、人工胸壁、人工腱などに多用されている。そして細胞との親和性を向上させるため基質の構造を繊維状物で編んだり織ったり、発泡させたり延伸させて無数の亀裂を生じさせるなどの操作で多孔質にし、細胞の侵入を容易にさせている。しかし、細胞の侵入には長時間を要する。
【0006】
例えば人工血管、血管修復材や人工心臓壁の場合、宿主組織との吻合部付近には細胞の侵入はみられるものの、それより1〜2cm離れると、手術後数年経過しても細胞の侵入はみられない。そのため、天然の抗血栓性を有する内皮細胞の被覆はみられず、植え込み後何年経過しても血栓が付着しやすいという不都合な状態となっている。
【0007】
また、人工腱における研究としては、ポリエステルやポリテトラフルオロエチレンなどの繊維で作られた布の中に化学処理を行った動物の腱を入れたものなどが考案されているが、人工血管例と同じく細胞親和性が悪いため、繊維と生体組織との一体化が得られていない。ここに細胞組み込みという概念が要求されている。
【0008】
この問題を解決するため、1979年にポリエステル製人工血管に内皮細胞を付着させた後に植え込む方法が開発され、1980年代に細胞培養技術を駆使して多くの基礎的研究が行われた。しかし細胞培養で増殖させた内皮細胞は実際に生体に人工血管の一部として植え込んでみると剥離しやすく、その生着率は2〜3%であった。また細胞培養に2−4週間という準備期間が必要であるため実際には利用しにくい技術であった。
【0009】
創傷治癒促進材などの考え方は従来存在しなかった考え方であるが、実際に臨床面においては、それを用いることで、この部に多量の毛細血管を誘導することができたり、それにより栄養豊富な結合組織層を得ることで多量の線維芽細胞が活発に活動できる場を作り、癒着を促進させたり、あるいは治癒が遅延していた傷を栄養豊富な結合組織細胞層を形成させることで治癒を促進させるものであり、具体的には人工血管床、人工基質、癒着促進材、人工真皮等が挙げられる。
【0010】
このうち人工真皮の応用の一部とも言える人工皮膚の研究は既に行われている。これによると、人工的にコラーゲンのテンプレートを作成し、ここに線維芽細胞を培養し散布したり、さらにまたその上に表皮細胞を播く方法などが考えられており、臨床面でもすでに使用されている。しかしながら、このような培養型人工皮膚は作成するのに特殊な技術、設備が必要であり、一般的ではないことに加えてこれを一人一人の患者に応じてオーダーメイドで作るのに2〜3週間の準備期間が必要であるため、手術室で活力ある細胞を付着させた、即座に作れるような人工皮膚、もしくはその基礎となる人工真皮の開発、そしてさらに、細胞を活性化するためのシステムを持つような基材の開発が望まれていた。
【0011】
先に本発明者は、細胞の生着率の向上、および準備期間をなくするという画期的な発明を完成し出願した(特開平3−198846号公報参照)。この発明は、人工基材壁内部に血管組織、結合組織、脂肪組織、筋肉組織等の生体組織の細片及び/又は血管内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞等の血管を構成する細胞を付着、捕捉させたことを特徴とする人工血管に関するものである。そして、この発明によれば、自己の組織を細切し、布製人工血管や血管修復材の繊維の間隙に捕捉させておくと、手術中に約30分間の操作で作成可能であった。この技術は多くの利点があり、臨床上も有用である。
【0012】
しかし採取する組織が血管や筋肉、結合組織であるため、これらを細切したり、あるいは酵素によって分離させることにより、細胞の活性度の低下は刻々と経過する時間との兼ね合いで避けられないものであった。また、これらの組織は年齢や病状、栄養状態などで異なるため、それらより得られる細胞が必ずしも活性に富むものとは限らなかった。
【0013】
人工腱における研究としては、ポリエステルやポリテトラフルオロエチレンなどの繊維で作られた布の中に化学処理を行った動物の腱を入れたものなどが考案されていが、人工血管例と同じく細胞親和性が悪いため、繊維と生体組織との一体化が得られていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記の欠点を種々検討した結果、捕捉させる細胞として組織治癒を促進させる細胞成長因子を産生することのできる細胞、又は、細胞成長因子及び生体組織細胞との組み合わせを用いることにより、積極的に細胞を活性化させ、さらに細胞の特性を利用して治癒を促進させ、人工的に希望する軟組織を生体内で形成させることによって上記の欠点を解決しうることを見いだし、本発明を完成したもので、本発明は希望する軟組織を生体内で形成させて治癒を促進させる細胞組み込み型医療材料を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、基質に細胞成長因子産生細胞である骨髄細胞を付着、捕捉又は混在させることを特徴とする人工血管、心臓血管壁修復材、或いは創傷治癒促進材のいずれかの軟組織医療材料である。
即ち、本発明は、基材に該組織から採取される細胞から産生される細胞成長因子及び生体組織細胞を付着、捕捉又は混在させる。本発明の細胞成長因子とは、増殖を促進させる糖蛋白であるが、単に細胞増殖を誘導するのみならず、細胞の分化、機能発現などを規定する極めて多彩な役割をはたし、生体の発生、形態形成等にも関与する生理活性物質である。そしてさまざまな細胞から産生され、細胞間において情報を交換するのに寄与している。例えば、細胞が他の細胞に増殖を指示したり、細胞の誘導を促したりする。従って、本発明ではこのような因子と生体組織細胞との組み合わせによって、さらに増植が促進され、新しい器官を急速に形成させるものであることから、先の発明において、単に人工血管壁に播種された細胞が単純に増殖して人工血管壁を形成するものとは基本的に異なるものである。
【0016】
本発明について以下に詳細に説明する。
本発明における医療材料としては、例えば、人工血管、心臓血管壁修復材、人工腱、創傷治癒促進材などであり、また、これに使用する基質としては。従来よりこの種の医療材料に使用されているものならば何れでもよく、その具体例をあげるとポリエステル、ポリウレタン、ポリビニールアルコール、ポリビニール系共重合体、ポリエーテルエステル、ナイロン、レーヨン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、綿、絹などの生体非吸収性物質や、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、生分解性(3−ヒドロキシブチレート−4−ヒドロキシブチレート)ポリエステル共重合体、ポリジオキサン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、キチン、キトサンの如き生体吸収性物質である。
【0017】
基材の形態は、多孔質もしくは分散状のもので、多孔質の形状は管状、平板状等何れでもよく、多孔質のチューブ、多孔質のシート、多孔質のスポンジであり、分散状のものとしては多孔質のスポンジを粉砕した分散状の基材、微細線維を分散状にした、もしくはそれを浮遊させた液状の基材等である。そして、これらの基材は適用する医療材料の種類によって適宣選択することが望ましい。
例えば、人工血管、人工腱、などの力学的な強度が要求されるされる場合にはポリエーテルエステルやポリテトラフルオロエチレンなどの生体非吸収性物質よりなる繊維を編んだり、織ったりして作成した布を使用することが好ましく、永久的な力学的強度が要求されない場合にはポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体等の生体吸収性物質を用いることが好ましい。
【0018】
本発明における軟組織医療材料において基材内に接着、捕捉、又は混在させた細胞の濃度分布としては少なすぎると生着率が低下するため、1cm2あたり10個以上もしくは1cm3あたり100個以上の細胞が接着、捕捉、又は混在させられていることが好ましい。
本発明において基材内に細胞を接着、捕捉、又は混在させる手段は特に限定されるものではないが、たとえば、人工血管の場合には、先に述べた特開平3−198846号に記載の方法が適用される。即ち、円筒状の人工血管の基材を組織細切片及び/又は細胞分散液が収容されている塩ビバッグのような透明のバッグの中にいれ、その一端を閉鎖し、他端より微孔を無数に有する人工血管を挿入し、注射器などをつないで管の全体にわたり、均一に壁の内外に圧力差をかけて、これによって基材中に細胞や組織細切片を捕捉、又は混在させることができる。
【0019】
本発明における医療材料においては、基質に骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓、大網、胎盤、子宮内膜、甲状腺、胸腺、副腎、卵巣、睾丸、血液、皮下組織の何れかより採取される細胞から産生される細胞成長因子及び生体組織細胞を付着、捕捉又は混在させた基材をそのまま医療材料として使用すること、又はそのような細胞を付着、捕捉又は混在させて得られた基材を組織培養用医療材料として使用する。さらにまた、このようにして作成したのち、一時的に凍結保存しておき、解凍して使用することもできる。
【0020】
細胞成長因子を産生する細胞を多く含む組織としては生体の中では骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓、大網、胎盤、子宮内膜、甲状腺、胸腺、副腎、卵巣、睾丸、血液、皮下組織等が挙げられる。例えば骨髄は高齢者においても多くの分裂、分化能の高い細胞を含んでおり、またさらにこれらの細胞は多量の細胞成長因子を産生するので好適である。したがって、骨髄を使用することが最も好ましい。このような細胞を組み込んだ医療材料はそれらの細胞の産生する細胞成長因子により、又は組み込まれた細胞成長因子と細胞との働きによって、組織治癒が促進されたり、またそれらの細胞が置かれた環境によって新しい細胞が分化によって形成され、さらに分裂増殖を繰り返して、新しい組織を創生させることによって、生体親和性及び治癒性の高い人工血管、心臓血管壁修復材、人工腱、創傷治癒促進材などを植え込み後、体内において作らせることができる。
【0021】
これらのうち、骨髄細胞を用いて細胞組み込み型医療材料として使用する試みは骨組織形成の研究において行われた例がある。すなわち、ハイドロオキシアパタイトと骨髄細胞とを混在させて生体内に植え込むと骨成分がハイドロオキシアパタイトの表面に付着、蓄積して骨の新生がみられるというものである。しかし、骨髄の細胞から産生される細胞成長因子を積極的に利用することで目的とする人工臓器を体内で作成させようという考え方は未だ考案されていなかった。
【0022】
本発明においては、組織治癒を促進させる細胞成長因子と生体組織細胞とを基質に付着、又は混在させておき、生体内に埋め込むことにより、その細胞自身がその場で生着して細胞成長因子を産生し続けて細胞増殖を促進したり、細胞成長因子と細胞との共同作業の結果、新たな細胞や毛細血管を基質内に誘導して治癒を促進させたり、又はその基質を足場として、それの置かれた最も条件の良い環境に応じて活発な分化能をもつ細胞が新しい細胞に分化してゆくことなどで、目的とした器官や人工臓器を体内で形成させるものである。生体組織細胞とは一般の生体組織を形成する平滑筋細胞、内皮細胞、漿膜細胞、脂肪細胞、細網細胞、肥満細胞等を意味する。これらの細胞が細胞成長因子とともに基質に付着、又は混在されると、細胞成長因子とそれらの細胞との共同作業の結果、新たな細胞や毛細血管を基質内に誘導して治癒を促進させることが可能となる。
【0023】
従って、同一の細胞から置かれた立場によって性質のまったく異なる細胞が分化しうる。たとえば、本発明における医療材料を創傷治癒促進材一つである治癒促進型人工腹壁として使用した場合、その膜の表面に出た細胞は漿膜細胞に分化し増殖して、その細胞のもつ天然の抗癒着作用を表面にもたらし、その場で永久に癒着を生じなくする。又一方、本発明における医療材料を創傷治癒促進材一つである癒着促進材として使用した場合、その膜の表面に出た細胞は平滑筋細胞や線維芽細胞に分化し増殖して細胞周囲に膠原線維や弾性線維を産生し、周囲組織との癒着を促進するのに貢献する。そしてこのような細胞の分化、分裂のための適切な指図が細胞成長因子を産生する細胞によって細胞成長因子を用いた刺激によって行なわれる。
【0024】
例えば、人工血管、心臓血管壁修復材においては内面に出た細胞は細胞成長因子による刺激によって内皮細胞へと分化し、この部位において分裂増殖し、内面を覆って、内皮細胞のもつ天然の抗血栓性を全内表面にもたらし、その場に血栓を形成させなくする。その下層に置かれた細胞は平滑筋組織や線維芽細胞に分化し、そこで増殖して、細胞周囲に膠原線維や弾性線維を産生し、壁全体の強度と弾性および周囲組織との親和性を獲得維持する。そしてさらに細胞成長因子を産生することのできる細胞はその場で生着し、増植して、成長因子などの細胞成長因子を産生し続ける事により細胞の侵入を誘導し、細胞の増植を促進させて治癒促進、器官形成促進などに貢献する。
【0025】
人工腱においては、永久的に力学的強度が要求される場に置かれるため、生体内でのマクロファージなどの細胞や電解質、酵素などの攻撃に耐えて、決して劣化することのないようにポリエステル繊維の如き生体内非吸収性物質により多孔性の紐状構造を作ることが好ましい。この場合にこの基質に分化能の高い細胞を接着、捕捉、又は混在させておくことにより、紐状構造の外面において、人工腱が関節腔内に直接露出される部位においては、表面近くに播かれた分化能の高い細胞は漿膜細胞へと分化し、そこで増殖して人工腱の表面を覆いつくす。その結果、人工腱は漿膜細胞のもつ天然の抗癒着性を獲得し、関節内で自由に動くことができる。また一方、紐状構造の内部や人工腱が骨に付着固定させられる部位における紐状構造の表面および内部においては、そこに播かれた細胞が細胞成長因子による刺激によって平滑筋細胞や線維芽細胞に分化し、そこで増殖して細胞周囲に膠原線維や弾性線維を産生し、互いに癒着して人工腱全体の強度と弾性を向上させるとともに、周囲組織との親和性の向上に貢献する。
【0026】
創傷治癒促進材という考え方は従来存在しなかった考え方であるが、それを用いることで、その部に多量の毛細血管を誘導することができたり、それにより栄養豊富な結合組織層を得ることで多量の線維芽細胞が活発に活動できる場を提供させたり、癒着を促進させたり、あるいは治癒が遅延していた傷を栄養豊富な結合組織細胞層を形成させることで治癒促進を図るものである。その具体的な例としては人工血管床、人工基質、癒着促進材、人工真皮層等が挙げられる。またさらにその解釈を広げると、治癒性を促進させた人工心膜、人工漿膜、人工横隔膜、人工腹壁、人工胸壁、癒着防止膜、人工骨、人工内分泌、等も含まれる。人工血管床においては、無数の毛細血管の新生を望む場合に使用される。この場合も、人工血管床が永久的な力学的強度を要求される場合においては、ポリエステル繊維による多孔性基質が望ましいが、力学的強度を要求されない場合は生体内吸収性素材による多孔性の基材もしくは分散させた基材、例えば、IV型コラーゲンのスポンジや液体に分散されたコラーゲン線維などを用いるのが好ましく、これに細胞成長因子を産生する細胞、又は、細胞成長因子と細胞とを接着、捕捉、又は混在させておくことにより、これらの細胞が内皮細胞へと分化し、分裂増殖し、あるいは細胞成長因子の働きによって毛細血管新生を促し、さらに周囲からも毛細血管の侵入を誘導し、それらが互いに集合して毛細血管網を形成する。そしてこれらが太い宿主血管と連絡を持つことによって人工的に血管の豊富な床を形成させることができる。そしてさらに細胞成長因子を産生することのできる細胞はその場で生着し、増植して、成長因子などの細胞成長因子を産生し続ける事により細胞を誘導し、細胞の増植を促進させて治癒促進、器官形成促進などに貢献する。癒着促進材、創傷治癒促進材などにおいては、永久的に力学的強度は要求されないため、生体内吸収性素材による多孔性の基材もしくは分散させた基材を用い、これに細胞成長因子を産生することのできる細胞、又は細胞成長因子と細胞とを接着、捕捉、又は混在させておくことができる。この場合の基材としてはI型コラーゲンやIV型コラーゲン、キチン、キトサンなど、もしくは、これらの混合物を用いることが好ましい。これにより細胞成長因子を産生する細胞などの一部が細胞成長因子の働き及び環境という場の与える影響によって線維芽細胞を増殖させ、それらが膠原線維や弾性線維を作ることにより、周囲組織との親和性を高めるとともに、一部の細胞は内皮細胞へと分化し、これが増殖し、互いに集合して毛細血管網を形成し、周囲の宿主血管との連絡がつくことにより栄養豊富な結合組織が形成される。その結果、この部位に癒着を促進させたり、あるいは創傷治癒を促進させることができる。
以下、実施例をもって、更に具体的に本発明について説明する。
【0027】
【実施例及び比較例】
実施例を示すに当たり、細胞成長因子を産生することの出来る細胞を持つ組織の代表として骨髄組織を、生体細胞の代表として皮下組織より採取した線維芽細胞を、用いて以下に実例を記す。
実施例1
ポリエステル布製人工血管(内径8mm,長さ6cm、有孔性:1800cc/cm2、120mmHg)の一端に三方括栓をつなぎ、これを介して骨髄細胞浮遊液をシリンジにて人工血管内に圧注入した。人工血管の他端は鉗子で止め、外側を塩ビのバックで覆い、人工血管壁を通過した骨髄細胞浮遊液を受け、これをコネクティブチューブを介してシリンジ内にもどし、再度、人工血管内に圧注入を繰り返すことで骨髄細胞を人工血管壁に接着、捕捉させた。
この操作は約20分間で終了した。次にこのようにして作成した人工血管断面を光学顕微鏡で検査したところ、この手段によってポリエステルの繊維間隙に高密度に骨髄細胞が集まっていることが確認できた。また免疫組織学的検査により、この骨髄細胞が集まっている部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。
【0028】
実施例2
フィブリル長90ミクロンの延伸ポリテトラフルオロエチレン製人工血管、内径6mm、長さ6cmを用い、実施例1と同様の操作によって骨髄細胞を人工血管壁に接着、捕捉させた。次にこのようにして作成した人工血管を光学顕微鏡で断面を検査したところ、この手段によって延伸されたポリテトラフルオロエチレンの繊維間隙に高密度に骨髄細胞が集まっていることが確認できた。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。
実施例3
ポリエステル布製人工血管(内径8mm,長さ6cm、有孔性:1800cc/cm2、120mmHg)の内面に、牛アキレス腱より得たファイバーコラーゲン分散液をしみ込ませた後凍結乾燥し、ヘキサメチレンジイソシアネイトにより架橋処理して不溶化し、多孔性の膜を得た。
次に実施例1と同様の手法を用いて、この管状物の壁内部に骨髄細胞を捕捉させた。このようにして作成した膜を実施例1と同様の手法で検査したところ実施例1と同様の結果が得られた。
【0029】
実施例4
実施例1で使用したポリエステル布製人工血管(内径8mm,長さ6cm、有孔性:1800cc/cm2、120mmHg)の内腔面に生分解性ポリエステル共重合体(3−ヒドロキシブチレートと4−ヒドロキシブチレートの共重合体)をクロロフォルムで溶解して塗布し、凍結乾燥することにより多孔性の生分解膜をポリエステル布製人工血管繊維間隙に形成させた。次にこの人工血管を用いて実施例1と同様の方法で細胞を人工血管壁に捕捉させた。光学顕微鏡による検査では、この手段によって高密度に骨髄細胞が集まっていることが確認できた。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。
【0030】
実施例6
実施例1と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。つぎにこれを組織培養装置によって2週間これを培養したところ、ポリエステル繊維間隙にさらに高密度に骨髄細胞、線維芽細胞、内皮細胞等が増殖し、繊維間隙を完全に占めつくしており、このままで人工血管としての植え込みができる状態となっていた。
実施例7
実施例2と同様の方法により、骨髄細胞をフィブリル長90ミクロンの延伸ポリテトラフルオロエチレン製人工血管の繊維間隙に集めた人工血管を得た。つぎにこれを組織培養装置によって2週間培養したところ、ポリテトラフルオロエチレンの繊維間隙にさらに高密度に骨髄細胞、線維芽細胞、内皮細胞等が増殖し、繊維間隙を完全に占めつくしており、このままで人工血管としての植え込みができる状態となっていた。
【0031】
実施例8
実施例1と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。つぎにこれを犬の背部皮下組織内に挿入し、1週間生体内組織培養をしたところ、ポリエステルの繊維間隙にさらに高密度に骨髄細胞、線維芽細胞、内皮細胞等が増殖し、繊維間隙を完全に占めつくしており、さらに周囲組織より無数の毛細血管がポリエステルの繊維間隙に侵入しており、このままでハイブリッド型人工血管としての植え込みができる状態となっていた。
実施例9
実施例2と同様の方法により、骨髄細胞をポリテトラフルオロエチレンの繊維間隙に集めた人工血管を得た。つぎにこれを犬の背部皮下組織内に挿入し、1週間生体内組織培養をしたところ、実施例8と同様の結果が得られた。
実施例10
実施例1と同様の方法により、組織培養技術を用いて細胞組込み型人工血管を得た。次にこれを生体組織冷凍保存システムを用いて3カ月間冷凍保存し、その後解凍して細胞活性を検討したところ、人工血管内の細胞は生き続けており、細胞増殖の確認によって、この型の細胞組込み型人工血管が冷凍により保存しておくことが可能であることが示された。
【0032】
実施例11
実施例1と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、植え込み直後、内面は新鮮なフィブリン層で覆われていたが、骨髄細胞は流れ去ることなくその場にとどまっており、植え込み後3週間で人工血管内面はすべて一層の連続した内皮細胞に覆われていた。内皮細胞下には平滑筋細胞および線維芽細胞の多重層がみられ、毛細血管も多数認められた。このようにして形成された新しい器官の内部の所々に骨髄細胞が生着し、異所性の造血現象がおきていることが判明した。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。このことより、骨髄組織特有の細胞成長因子が産生され続けて、この部分での治癒を促進させていたと考えられた。外膜側には無数のマクロファージ、線維芽細胞、膠原線維が認められ、周囲組織との親和性は良好であった。このような新しい血管壁の完成は人工血管と生体血管との吻合部付近も人工血管中央部も等しく認められた。
実施例12
実施例2と同様の方法により、骨髄細胞をポリテトラフルオロエチレンの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
【0033】
実施例13
実施例3と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
実施例14
実施例4と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
【0034】
実施例16
実施例6と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
実施例17
実施例7と同様の方法により、骨髄細胞をポリテトラフルオロエチレンの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
実施例18
実施例1と同様の方法により、骨髄細胞をポリエステルの繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこの人工血管を長軸方向に切り開き、骨髄細胞の播種された膜状物を得た。このようにして作成した膜を成犬の右心室肺動脈の右室流出路部分に心臓壁および肺動脈の一部への人工心臓壁、血管修復材用パッチとして植え込んだ。植え込み直後、内面は新鮮なフィブリン層に覆われたが、骨髄細胞は流れ去ることなくその場にとどまっており、植え込み3週間ではパッチ材内面は完全に内皮細胞によって覆われていた。パッチ材壁内部には無数の線維芽細胞、マクロファージ、および赤芽球、毛細血管などが認められた。外膜側には多数の線維芽細胞、毛細血管が集まってきており、周囲組織との親和性は極めて良好であった。このようにして形成された新しい器官の内部の所々に骨髄細胞が生着し、異所性の造血現象がおきていることが判明した。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。このことより、骨髄組織特有の細胞成長因子が産生され続けて、この部分での治癒を促進させていたと考えられた。
【0035】
実施例19
実施例7と同様の方法により、骨髄細胞をフィブリル長90ミクロンの延伸ポリテトラフルオロエチレン製人工血管の繊維間隙に集めた人工血管を得た。次にこの人工血管を長軸方向に切り開き、骨髄細胞の播種された膜状物を得た。このようにして作成した膜を成犬の右心室肺動脈の右室流出路部分に心臓壁および肺動脈の一部への人工心臓壁、血管修復材用パッチとして植え込んだところ、実施例18と同様の結果が得られた。
実施例20
実施例10と同様の方法により、冷凍保存した人工血管をえた。次にこれを解凍後、人工血管として成犬の胸部下行大動脈に植え込んだところ、実施例11と同様の結果が得られた。
【0036】
実施例21
ポリエステル布製人工血管内径6mm,長さ10cm,有孔性800cc/cm2,H2O120mmHgの一端を三方活栓につなぎ、これを介して骨髄浮遊液をシリンジにて人工血管内に圧注入した。そして実施例1と同様の方法で、骨髄細胞の捕捉された人工血管を得た。次にこのようにして作成した人工血管を筒状のまま紐状にして人工腱として使用した。動物実験として、成犬膝関節部の前十字靭帯を切除し、これに代わって作成した人工腱を植え込んだところ、植え込み直後人工腱の関節腔内に露出した部分の表面は薄いフィブリン層に覆われたが、骨髄細胞は人工腱のポリエステル繊維間隙にとどまっていた。植え込み3週間でこの部分の表面は漿膜細胞によって覆われていた。そして内部においては無数の線維芽細胞、マクロファージおよび赤芽球、毛細血管などが認められ、人工腱の器質化が進行していた。一方、人工腱の関節腔内に露出していない部分においてはその内部外部とともに無数の線維芽細胞、マクロファージ、毛細血管などが入り込み器質化は完成していた。そして周囲組織との親和性は極めて良好であった。このようにして形成された新しい器官の内部の所々に骨髄細胞が生着し、異所性の造血現象がおきていることが判明した。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。このことより、骨髄組織特有の細胞成長因子が産生され続けて、この部分での治癒を促進させていたと考えられた。
【0037】
実施例22
牛アキレス腱より得たファイバーコラーゲン分散液を凍結乾燥したあと、ヘキサメチレンジイソシアネイトにより架橋処理して不溶化し、多孔性の膜を得た。次にこれを丸めて管状物を作った。次に実施例1と同様の手法を用いて、この管状物の壁内部に骨髄細胞を捕捉させた。次にこの管状物を元どおりに開くことによって骨髄細胞の播種された癒着促進膜を得た。このようにして作成した膜を成犬の膜壁縫合不全部位に、に組織治癒促進型癒着促進膜として植え込んだ。植え込み直後、内面は薄いフィブリン層に覆われたが、骨髄細胞はその場にとどまっており、植え込み3週間では癒着促進膜内面は完全に漿膜細胞に覆われていて、腹壁の筋肉や筋膜との間に丈夫な結合組織層を形成していた。癒着促進膜内部には無数の線維芽細胞、マクロファージ、および赤芽球、毛細血管などが認められた。このようにして形成された新しい器官の内部の所々に骨髄細胞が生着し、異所性の造血現象がおきていることが判明した。このことより、骨髄組織特有の細胞成長因子が産生され続けて、この部分での治癒を促進させていたと考えられた。また、コラーゲン膜は既に吸収されていた。外膜側には多量の線維芽細胞、毛細血管が集まってきており、周囲組織との親和性は極めて良好であった。
【0038】
実施例23
牛真皮より得たアテロコラーゲン分散液を凍結乾燥し、これをポリエポキシ化合物(EX−810,ナガセ化成工業K.K.大阪)で架橋処理して不溶化し、多孔性のスポンジ状基材を得た。次に注射器内に骨髄細胞浮遊液を入れて、作成した基材の中に圧注入し、骨髄細胞を捕捉させる事により、細胞組み込み型人工基質を得た。次に動物実験として、成犬の右肺上葉を切除し、この欠損した部分に作成した人工基質を創傷治癒促進材として植え込んだところ、植え込み3週間で、この部分に線維芽細胞が無数に遊走し増殖し、毛細血管が多量に侵入して新しい結合組織を形成していた。そして周囲組織とは軽度に癒着しており、異物反応や炎症反応等もみられず、自然な基質として肺の欠けた部分を埋めていた。このようにして形成された新しい結合組織の内部の所々に骨髄細胞が生着し、異所性の造血現象がおきていることが判明した。また免疫組織学的検査により、この部位に多量のFGF等の成長因子が検出された。このことより、骨髄組織特有の細胞成長因子を産生し続けて、この部分での治癒を促進させていたと考えられた。
【0039】
実施例24
実施例23と同様の方法により細胞組み込み型人工基質を得た。次にこれを生体組織冷凍保存システムを用いて3カ月間冷凍保存し、その後解凍して細胞活性を検討したところ、人工基質内の細胞は生き続けており、細胞増殖の確認によって、この型の細胞組込み型人工基質が冷凍により保存しておくことが可能であることが示された。
実施例25
実施例24と同様の方法により、冷凍保存した人工基質を得た。次にこれを解凍後、人工真皮層として成犬の背部皮膚欠損部に植え込んだところ、毛細血管の豊富な結合組織層を得た。そしてこの層は皮膚移植用の基礎層として有用であった。
【0040】
【発明の効果】
本発明の医療材料は従来品に比し、きわめて組織治癒性、宿主細胞親和性、栄養血管誘導性に富み、優れた人工血管、心臓血管壁修復材、人工腱、創傷治癒促進材等を提供することができる。
Claims (1)
- 基質に細胞成長因子産生細胞である骨髄細胞を付着、捕捉又は混在させることを特徴とする人工血管、心臓血管壁修復材、或いは創傷治癒促進材のいずれかの軟組織医療材料。
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