JP4275936B2 - 機械パルプの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は難漂白性の木材チップを原料とする、白色度が高い機械パルプの製造方法に関するもので、更に詳しくは、難漂白性の木材チップから難漂白性の原因物質を抽出する前処理に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
機械パルプに関しては、その原料となる木材繊維の性質がパルプ品質の主要な性質を決定する。しかしながら、近年では木材利用とパルプ品質に対する要求の変化、また環境保護気運の高まりに伴う森林資源の供給の変化により、以前は機械パルプ化には不適とされていた樹種も原料として利用されつつある。原料として使用されるこれらの樹種は、従来の製造条件でパルプ化を行っても、要求される品質を満たさないことが多い。その一方で、近年、機械パルプが配合される紙のグレードとしては、軽量塗工紙(LWC)、高光沢紙(SC)など付加価値の高いものが注目されており、従来と同等もしくは、より高品質なパルプを、機械パルプには適さない原料から製造する技術が必要となってきている。
【0003】
M. Jacksonは機械パルプには適さない原料として、ダグラスモミ(Douglas fir)、バンクスマツ(Jack pine)、カラマツ(Larch)の針葉樹を挙げている(非特許文献1参照。)。これらの原料は、特に白色度が低いことが問題であり、漂白薬品を消費するポリフェノール系の抽出物を多く含んでいるため、所定の白色度を得るためには、漂白工程において過酸化水素等の漂白薬品が多量に必要となる。
【0004】
特に、これらの材種で問題となるのは、木材の心材部に抽出物が多量に含有され、そのため着色していることである。辺材部のみから機械パルプを製造した場合、その品質は従来利用されてきた樹種とほぼ同等とされているが、辺材部と比較して抽出物を多量に含む心材部が原料に混入した場合は白色度が低下し、所定の白色度に到達させるためには漂白薬品を多量に添加する必要があった。
【0005】
機械パルプの白色度を高めるための従来の技術としては、以下に示す数件の先願がある。絶乾チップに対して0.5〜3.0重量%のアルカリと、アルカリの量に対して0.2〜0.7倍量である過酸化水素とで木材チップを前処理した後、過酸化水素でリファイナー漂白を行う技術が開示されている(特許文献1参照。)。木材チップから晒機械パルプを製造する方法において、解繊を有機キレート剤と亜硫酸塩の存在下で行い、次いで該未晒パルプを過酸化物漂白する技術が登録されている(特許文献2参照。)。アルカリ性過酸化水素漂白液の存在下に木材チップをリファイニングし、晒機械パルプを製造するリファイナー漂白において、一次リファイニング後のpHが9.0〜11.0となる量のアルカリを含有するアルカリ性過酸化水素漂白液にて一次リファイニングし、次いで、一次リファイニング後、一次リファイニング直後から二次リファイニング直前までの間に絶乾パルプに対して0.05〜3.0重量%の鉱酸を添加し、引き続き二次リファイニングを行う技術が登録されている(特許文献3参照。)。アルカリ性過酸化水素漂白液の存在下に木材チップをリファイニングし、晒機械パルプを製造するリファイナー漂白において、一次リファイニング後のpHが7.0〜9.0未満となる量のアルカリを含有するアルカリ性過酸化水素漂白液にて一次リファイニングし、次いで、二次リファイニングに先立ち、一次リファイニング時のアルカリ量の5〜50%に相当する量のアルカリ性物質を添加し、引き続き二次リファイニングを行う技術が登録されている(特許文献4参照。)。機械リファイナー木材パルプの製造方法であって、一次リファイナー処理前と処理後とに亜硫酸ナトリウムを用いて二段階処理する技術が開示されている(特許文献5参照。)。
【0006】
【非特許文献1】
M. Jackson著 1998 Tappi Pulping Conf.Proc.p.455-465
【特許文献1】
特開昭56-85488号公報
【特許文献2】
特許第1240510号明細書
【特許文献3】
特許第1515223号明細書
【特許文献4】
特許第1515224号明細書
【特許文献5】
特開昭59-15589号公報
【0007】
しかし、これらの従来の技術は、針葉樹材に含有されているポリフェノールなどの抽出物が、白色度低下原因物質であることに着目して、これらの物質を積極的に除去し、得られる晒機械パルプの白色度を向上させるものではない。抽出物を多量に含有する難漂白性材から高白色度の晒機械パルプを製造できる新規な技術の開発が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、晒機械パルプを製造する方法において、第一には、抽出物を多量に含有する難漂白性材からの高白色度の晒パルプを製造できる新規な技術の提供にあり、第二には、漂白薬品の使用量を低減できる技術の提供にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、難漂白性の木材チップに、水溶液のpHが7〜12の範囲にある薬液を含浸させ、該含浸チップから薬液を搾り出すという前処理を施すことにより、チップに含有されている漂白薬品を消費する抽出物を除去でき、この結果、後続の漂白工程における漂白薬品の効果を向上させること可能となり、白色度が高い晒機械パルプを製造できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の処理対象である難漂白性の樹種としては、フラボノイド類を多量に含むカラマツ属(Larix)、トガサワラ属(Pseudotsuga)、スギ属(Cryptomeria)、ツガ属(Tsuga)、ネズコ属(Thuja)、バンクスマツ(Jack pine)が挙げられ、これらの単材チップまたは混合チップを本発明に適用できる。
【0011】
本発明では、晒機械パルプ製造の解繊リファイニングの前処理として、前記の難漂白性の木材チップに特定の薬液を含浸させた後、この含浸液を搾り出し、抽出物を系外へ排出することにより、難漂白性のチップからフラボノイド類、リグニンおよび/または金属(金属イオンを含む)を抽出、除去する。この薬液の含浸処理は、難漂白性の木材チップを圧縮し、圧縮した状態、或いは圧縮した後に薬液に浸漬させ、圧を解放しチップを膨張させながら薬液を含浸させることで達成できる。この薬液含浸段階では、薬液を難漂白性の木材チップ中に十分含浸させることが重要である。この圧縮及び含浸は、アンドリッツ社(Andritz社)のインプレッサファイナー(Impressafiner)を用いて行うのが好ましい。また、バルメット社(Valmet社)のプレックススクリュー(Prex screw)を用いて行うこともできる。圧縮比は4:1〜16:1にすることが重要であり、圧縮比が4:1より低い場合にはチップの復元力が弱く、チップ中への薬液浸透が不充分となるので好ましくない。16:1を超える圧縮比は装置的に非現実的である。なお、圧縮比とは圧縮前容積:圧縮後容積と定義する。また、圧縮前に木材チップを水蒸気で前処理することにより、チップが柔軟化され圧縮されやすくなり、薬液含浸が容易となる。また、薬液を木材チップ中に含浸させる場合、圧縮された木材チップを薬液中に浸漬し、木材チップの圧縮比を連続的に変化させれば効率良く薬液の浸透を実施することができ、薬液含浸のための設備設置コストを低減できる。
【0012】
本発明の含浸薬液による抽出時の初期pHは7〜12で実施することが好ましい。従って、使用する含浸薬液のpHは、7〜12の範囲のものが好ましい。この具体的な含浸薬剤としては、例えば、アルカリ性無機化合物では、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水溶液を挙げることができるが、水酸化ナトリウム水溶液が好適である。また、該アルカリ性無機化合物を主成分として含有する無機物質の水溶液も使用することができる。また、水溶液のpHが7〜12のキレート剤を使用すると良好な効果が得られる。キレート剤としては、例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン)酢酸、或いはそれらのアルカリ金属塩等を挙げることができる。該キレート剤の水溶液が酸性の場合には、前記のアルカリ性無機化合物との混合溶液とする必要がある。
【0013】
本発明の処理対象である難漂白性の木材チップ中には、抽出物としてフラボノイド類などが多量に含まれており、このフラボノイド類は後続の漂白工程で添加される漂白薬品を消費する。初期pH=7〜12での抽出処理により、これらの物質をチップから抽出でき、その分、漂白薬品の消費を抑えることができる。
【0014】
また、フラボノイド類などは金属イオンと錯体を形成し着色する性質を持っている。水溶液のpHが7〜12のキレート剤による処理では、フラボノイド類などの抽出と同時に、キレート剤が抽出液中の金属イオンを除去することにより、フラボノイド類などと金属イオンとの錯体形成を阻害し、その結果、着色を防止する効果もある。また、一次リファイニング処理後にアルカリ性過酸化物による漂白を行う場合、金属イオンが系内に存在すると過酸化物が分解することが知られている。細谷が著した過酸化水素漂白に関する総説(S.Hosoya,Japan Tappi J.,52(5),595(1998))によると、木材中には、Fe2+、Cu2+、Co2+、Mn2+などの金属イオンは含まれていることが知られている。漂白はアルカリ性過酸化物が木材中のリグニンを酸化分解することにより達成されるが、金属イオンが共存する場合には、その触媒作用によりアルカリ過酸化物が分解され漂白効率が低下する。従って、キレート剤による処理により、漂白工程におけるアルカリ性過酸化物漂白薬品の効率を向上させる効果もある。
【0015】
本発明の効果は、薬液の短時間含浸と液絞り出しにより達成できるが、抽出率の向上やキレート剤と金属イオンとの錯体形成反応の効率向上、更にはチップ柔軟化を目的として、薬液含浸チップを保持することもできる。この条件は、木材チップの種類や大きさなどに左右されるが、通常は、温度10〜95℃、より好ましくは60℃〜80℃、時間は5〜60分、好ましくは5〜30分間である。
【0016】
次いで薬液含浸チップを再び圧縮し、チップ中に含まれる抽出物を除去する。この工程では薬液含浸チップを圧縮することにより、金属イオンや抽出物を搾り出して系外に除去し、後の漂白工程においてアルカリ過酸化物の漂白効率を向上させる。この圧縮装置としては、前記の薬液含浸のための圧縮装置と同様の装置が用いられる。圧縮比は少なくとも4:1〜16:1にすることが重要であり、圧縮比が4:1より低い場合にはチップ中に残留する物質の影響を受けるため、製造されたパルプの白色度は低下する。16:1を超える圧縮比は装置的に非現実的である。
【0017】
薬液含浸、抽出を終了したチップは、まず、加圧もしくは大気圧リファイニング装置にて公知の条件でパルプ繊維に解繊される。リファイニングは一般の解繊装置で充分であり、好ましくはシングルディスクリファイナー、コニカルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、ツインディスクリファイナー等で解繊される。また、リファイニング工程中の漂白チップの濃度は約20〜60%で実施するのが好ましい。
【0018】
解繊パルプは、更に1つ以上の公知のリファイニング工程で公知の条件で精砕し、所望のパルプ濾水度まで低下させる。この工程は加圧、或いは常圧下で行い、リファイニング装置は一般の常圧型解繊装置を用いるのが好ましく、濃度は約4〜60%で実施することができる。
【0019】
漂白処理は、チップからパルプ繊維を取り出す解繊工程後、または所望の濾水度に低下させる叩解工程後、またはこれら両方で公知の漂白方法によりパルプを漂白することができる。この漂白薬剤としては、過酸化水素、オゾン、過酢酸等の酸化剤或いはハイドロサルファイト(亜二チオン酸ナトリウム)、硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアミジンスルフィン酸(FAS)等の還元剤を用いることができる。中でも、過酸化物漂白を行う場合に、漂白効率改善と白色度向上の効果が大きい。
【0020】
【実施例】
次に実施例に基づき、本願発明を更に詳細に説明するが、本願発明はこれらに限定されるものではない。各薬剤の添加率は、チップまたはパルプの絶乾重量に対する固形分重量で示した。
1.供試チップ
通常の漂白性の材として、ヘムロック/パイン=80/20(絶乾重量配合比)の混合チップを使用した。難漂白性の材として、ダクラスモミ単独のチップを使用した。
2.薬液含浸
水酸化ナトリウムまたはキレート剤をチップに添加し、インプレッサファイナーを用いて、圧縮比4:1で薬液を含浸させた。
3.パルプの調製方法
(1)一次リファイニング:予熱後のチップを濃度40固形分重量%に調整し、加圧リファイナー(熊谷理器工業製BPR45-300SS)で処理し、解繊した。リファイニング温度は133℃。
(2)過酸化水素漂白条件:一次リファイニング後の解繊パルプに、水酸化ナトリウムを1.2%、珪酸ナトリウムを1.3%、次いで過酸化水素を1.8%添加した。パルプ固形分濃度は15%、温度80℃、滞留時間35分で漂白処理を行った。
(3)二次リファイニング:パルプ濃度を20固形分重量%に調整し、常圧リファイナー(熊谷理器工業製BR-300CB)を用いて、濾水度90mlまでリファイニングを行った。
3.白色度の測定:調製したパルプから手抄き紙を作成し、パルプのハンター白色度を測定した。
【0021】
【実施例1】
ダグラスモミのチップに水酸化ナトリウムを1.50%添加し、含浸処理を行った。この際、含浸処理時の初期pHと終了pHを測定した。次いで、(一次リファイニング)−(二次リファイニング)と、(一次リファイニング)−(過酸化水素漂白)−(二次リファイニング)との2通りの処理を行い、得られたパルプの白色度を測定した。結果を表1、図1、図2に示す。
【0022】
【実施例2】
水酸化ナトリウムの添加率を0.50%とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0023】
【実施例3】
水酸化ナトリウムの添加率を0.10%とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0024】
【実施例4】
水酸化ナトリウムの添加率を0.05%とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0025】
【実施例5】
水酸化ナトリウムの添加率を0.01%とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0026】
【実施例6】
水酸化ナトリウムを0.01%添加し、希硫酸で初期pH=10.0とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0027】
【実施例7】
水酸化ナトリウムを0.01%添加し、希硫酸で初期pH=9.4とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0028】
【実施例8】
水酸化ナトリウムを0.01%添加し、希硫酸で初期pH=8.2とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0029】
【実施例9】
チップへの含浸を、水酸化ナトリウム1.50%からキレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)0.50%へ変えた以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0030】
【実施例10】
チップへの含浸を、水酸化ナトリウム1.50%からキレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)0.20%へ変えた以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0031】
【実施例11】
チップへの含浸を、水酸化ナトリウム1.50%からキレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)0.10%へ変えた以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0032】
【実施例12】
チップへの含浸を、水酸化ナトリウム1.50%からキレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)0.10%へ変え、希硫酸を添加して初期pH=8.8とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0033】
【実施例13】
チップへの含浸を、水酸化ナトリウム1.50%からキレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)0.10%へ変え、希硫酸を添加して初期pH=7.1とした以外は、実施例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0034】
【比較例1】
チップをヘムロック/パイン=80/20とし、含浸処理を行わず、(一次リファイニング)−(二次リファイニング)と、(一次リファイニング)−(過酸化水素漂白)−(二次リファイニング)との2通りの処理を行い、得られたパルプの白色度を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【比較例2】
チップをヘムロック/パイン=80/20から難漂白性のダグラスモミ100%とした以外は、比較例1と同様な処理と測定を行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0036】
【比較例3】
ダグラスモミ100%のチップに希硫酸液を含浸させ、(一次リファイニング)−(二次リファイニング)と、(一次リファイニング)−(過酸化水素漂白)−(二次リファイニング)との2通りの処理を行い、得られたパルプの白色度を測定した。結果を表1、図1、図2に示す。
【0037】
【比較例4】
チップへの含浸液を希硫酸から水に変えた以外は、比較例3と同様に行った。結果を表1、図1、図2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【図1】
【0040】
【図2】
【0041】
比較例1の樹種は、ヘムロック/パイン=80/20であり、漂白性は通常レベルである。比較例2の樹種は、ダグラスモミ100%であり、難漂白性であることが知られている。このことは、漂白後白色度が比較例1で43.2%、比較例2で41.2%であり、2.0%低くなっている。同一条件で処理した場合に、ダグラスモミが漂白されにくいことがわかる。
【0042】
図1に示した薬液含浸による抽出時の初期pHと一次リファイニング後の解繊パルプの未晒白色度との関係を見ると、含浸薬液に水酸化ナトリウムを使用した場合(実施例1〜実施例8)の未晒白色度は、比較例2に比べて、むしろ低い結果となっている。特に初期pHが約11.5以上になると白色度が著しく低下する。しかし、図2に示した初期pHと漂白後白色度との関係を見ると、初期pHが約12.0以下の初期pH領域では、比較例2よりも高い白色度となっている。このことから、水酸化ナトリウム含浸により、抽出物が除去された結果、過酸化水素漂白反応が効率よく進行したものと考えられる。
【0043】
また、含浸薬液にDTPAを使用した場合(実施例9〜実施例13)も、水酸化ナトリウム含浸と同様な傾向となっている。実施例9〜実施例13の未晒白色度は、比較例2に比べて、むしろ低い結果となっている。しかし、図2に示した初期pHと漂白後白色度との関係を見ると、比較例2よりも高い白色度となっている。このことから、DTPA含浸により、過酸化水素漂白に有害な金属イオンや抽出物が除去された結果、過酸化水素漂白反応が効率よく進行したものと考えられる。
【0044】
本発明の水酸化ナトリウム含浸やキレート剤含浸による、漂白後白色度の向上のメカニズムは明確ではないが、ダグラスファーのような難漂白性の樹種ではフラボノイド類などの抽出物が漂白に悪影響するとされており、また、その代表的な化合物としてデヒドロケルセチンやケルセチンが知られている。このことから、
水酸化ナトリウム含浸では、これらの物質が抽出される結果、過酸化水素による漂白性が向上したと考えられる。フラボノイド類は金属イオンと錯体を形成し着色することが知られている。従って、キレート剤にDTPAを使用して、これをチップへ含浸した場合、DTPAのアルカリ性によるフラボノイド類の抽出と、チップに含有されていた金属イオンとDTPAの錯体形成、フラボノイド類と金属イオンの錯体形成阻害などの効果により、過酸化水素の分解が抑制されると同時に、漂白効率が改善されたと考えられる。
【0045】
【発明の効果】
本発明により、従来機械パルプには不適とされていた材種を原料としても高白色度を有する機械パルプを製造する事が可能となった。本製造法により、従来機械パルプ化が困難であった材種の利用方法を拡大することが可能であることから、木材の有効活用といった観点から環境問題にも大きく寄与する。
Claims (3)
- 木材チップから晒機械パルプを製造する方法であって、木材チップのリファイナー解繊処理に先立ち、難漂白性の針葉樹材の木材チップを圧縮比4:1〜16:1で圧縮し、圧解放時にpH=7〜12の範囲にある薬液としてアルカリ性無機化合物および/またはキレート剤の水溶液を含浸させ、次いで、薬液含浸チップを圧縮比4:1〜16:1で圧縮し、含浸液を絞り出すことにより該含浸液をチップから除去した後、解繊、漂白、叩解または解繊、叩解、漂白を順次行い、
前記難漂白性の針葉樹材の木材チップが、カラマツ属(Larix)、トガサワラ属(Pseudotsuga)、スギ属(Cryptomeria)、ツガ属(Tsuga)、ネズコ属(Thuja)、バンクスマツ(Jack pine)の単材チップまたは2種類以上の混合チップである、上記機械パルプの製造方法。 - 前記漂白が過酸化物漂白である、請求項1に記載の機械パルプの製造方法。
- 前記難漂白性の針葉樹材の木材チップがトガサワラ属(Pseudotsuga)の単材チップまたは混合チップであり、前記アルカリ性無機化合物が水酸化ナトリウムであり、前記キレート剤がジエチレントリアミンペンタ酢酸である、請求項1または2に記載の機械パルプの製造方法。
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