JP4267843B2 - 金属鉄の製法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鉱石等の酸化鉄をコークス等の炭素質還元剤により加熱還元して金属鉄を得る技術に関し、詳細には高純度の金属鉄を高収率で製造し得る方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鉱石や酸化鉄等の酸化鉄含有物質を炭材や還元性ガスにより直接還元して還元鉄を得る直接製鉄法としては、従来よりミドレックス法に代表されるシャフト炉法が知られている。この種の直接製鉄法は、天然ガス等から製造される還元性ガスをシャフト炉下部の羽口から吹込み、その還元力を利用し酸化鉄を還元して金属鉄を得る方法である。また最近では、天然ガスに代わる還元剤として石炭等の炭材を使用する還元鉄の製造プロセスが注目されており、具体的には所謂SL/RN法が既に実用化されている。
【0003】
また他の方法として米国特許3,443,931号公報には、炭材と粉状酸化鉄を混合して塊状もしくはペレット状に成形し、ロータリーハース上で加熱還元して還元鉄を製造するプロセスが開示されている。
【0004】
更に特開2000−144224号公報には、炭素質含有酸化鉄物質を炉床回転炉の炉床上に供給し、加熱還元して還元鉄を製造する方法が開示されている。この方法では炉内を物質供給ゾーン(12),バーナゾーン(14,16),反応ゾーン(17),排出ゾーン(18)で構成されている回転炉床炉を採用することによって、高温の炉床表面で酸化鉄の還元を行なうと共に、精製鉄からスラグ成分を分離して、炭素濃度1〜5質量%の高純度鉄が製造できる旨が記載されている。しかしながらこの方法では、還元の進行時には原料中に含まれる炭素質物質と酸化鉄との反応によって発生する還元性ガス(主として一酸化炭素)によって当該原料近傍は高い還元性ガス雰囲気が維持されるが、反応ゾーン(17)の様な還元末期は発生する還元性ガス量が減少し、加熱のためのバーナ燃焼により排ガスとして生成する炭酸ガスや水分などの酸化性ガス濃度が相対的に高まり、生成した還元鉄が再酸化を受ける恐れが生じる。特に還元末期においては酸化鉄の還元進行度にバラツキが生じているため十分還元されているもの程、再酸化され易く、このため浸炭溶融が不十分になり、未溶融のまま排出される場合があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術に存する問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料物質を加熱還元して金属鉄を製造する際に、固体還元の末期に問題となる金属鉄の再酸化を可及的に抑制し、金属化率が高くて鉄分純度の高い金属鉄を高歩留まりで効率よく製造できる技術を確立することにある。
【0006】
また本発明の他の目的は、固体還元末期における溶融スラグ中のFeO濃度を可及的に低減し、該溶融FeOによる炉床耐火物の溶損を抑えて炉床耐火物の寿命延長を図り、設備のメンテナンス性を高めると共に長期連続操業にも適した技術を確立することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明にかかる製法は、炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料物質を、移動炉床式還元溶融炉内で加熱し、該原料物質中の酸化鉄を還元・溶融して金属鉄を製造する方法において、該還元溶融炉は炉床の移動方向に少なくとも3つに仕切られており、仕切られた該区画のうち、炉床移動方向上流側を固体還元区画、炉床移動方向下流側を浸炭溶融区画とすると共に、該固体還元区画と該浸炭溶融区画の間に還元熟成区画を設けることに要旨を有する金属鉄の製法である。本発明の方法を実施するにあたっては、上記還元熟成区画の雰囲気温度および/または雰囲気ガス組成を調整することが望ましい。また上記還元熟成区画に、雰囲気調整剤を供給すること、および/または上記浸炭溶融区画に、雰囲気調整剤を供給することも推奨される。また雰囲気調整剤を各区画を仕切る仕切り壁を利用して供給することが好ましい。本発明を実施するにあたっては、各区画の仕切り壁に隣接する区画に通じる開口部を設けることが望ましい。さらに還元熟成区画の雰囲気温度を1200〜1500℃とすることが推奨される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者らは還元鉄の再酸化防止、及び溶融FeOの発生防止等、還元末期における上記諸問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、還元溶融炉内で還元されて生成する各還元鉄の還元度を高めるための調整区画(還元熟成区画)を炉内に設けることによって、上記目的が達成できることを見出した。特に該区画の雰囲気ガス組成及び雰囲気温度を適切に制御することによってより優れた効果得られることを知見し、本発明に至った。
【0009】
即ち本発明の製法は、鉄鉱石や酸化鉄またはその部分還元物などの酸化鉄源を含む物質(以下、酸化鉄含有物質ということがある)と、コークスや石炭などの炭素質還元剤を含む原料物質を移動炉床式還元溶融炉内で加熱し、該原料物質中の酸化鉄を還元・溶融して金属鉄を製造する際に、該還元溶融炉内を炉床移動方向に少なくとも3つに仕切り、仕切られた該区画のうち、炉床移動方向上流側を固体還元区画、炉床移動方向下流側を浸炭溶融区画とすると共に、該固体還元区画と該浸炭溶融区画の間に還元熟成区画を設けるところに特徴を有しており、以下その具体的な構成を実施例図面を示す図面を参照しながら説明して行く。
【0010】
尚、原料物質として酸化鉄含有物質と炭素質還元材とを含む原料成形体(以下、原料成形体という)を用いた例を説明するが、本発明では成形体に限らず、粉体であってもよい。また成形体としてはペレット状,ブリケット状など種々の形態が例示される。
【0011】
図1〜3は本発明が適用される本発明者ら自身が開発した回転炉床型還元溶融炉の一例を示す該略説明図で、ドーナツ状の回転移動床を有するドーム型構造のものを示しており、図1は概略見取図、図2は図1におけるA−A線断面相当図、図3は、理解の便のため図1における回転炉床の回転移動方向に展開して示す概略断面説明図であり、図中1は回転炉床、2は該回転炉床をカバーする炉体であり、回転炉床1は、図示しない駆動装置により適当な速度で回転駆動できる様に構成されている。
【0012】
炉体2の壁面適所には複数の燃焼バーナ3が設けられており、該燃焼バーナ3の燃焼熱およびその輻射熱を回転炉床1上の原料成形体に伝えることにより、該成形体の加熱還元が行われる。
【0013】
図3は好ましい例を示したもので、炉体2内部は3枚の仕切壁K1,K2,K3で仕切られている(炉床移動方向上流側より夫々固体還元区画(Z1)、還元熟成区画(Z2)、浸炭溶融区画(Z3)、冷却区画(Z4)という。)。この際、夫々の区画の雰囲気温度および/または雰囲気ガス組成を個別に制御できる様に仕切ることが望ましい。該炉体2の回転方向最上流側には回転炉床1を臨んで原料物質および/または雰囲気調整剤等の副原料の装入手段4が配置されると共に、回転方向最下流側(回転構造であるため、実際には装入手段4の直上流側にもなる)には排出装置6が設けられている。尚、本発明ではこうした分割構造に限定される訳ではなく、炉のサイズや目標生産能力、操業形態などに応じて適当に変更することも勿論可能である。
【0014】
この還元溶融炉を稼動するに当たっては、回転炉床1を所定の速度で回転させておき、原料成形体を装入手段4から該回転炉床1上に適当な厚さとなる様に供給していく。炉床1上に装入された原料成形体は、固体還元区画を移動する過程で燃焼バーナ3による燃焼熱及び輻射熱を受け、該成形体内の炭素質還元剤およびその燃焼により生成する一酸化炭素により該成形体中の酸化鉄は固形状態を維持した状態で加熱還元される。その後、後記する還元熟成区画を経てほぼ完全に還元されて生成した還元鉄は、浸炭溶融区画で更に還元性雰囲気下で加熱されることにより浸炭して溶融し、副生するスラグと分離しながら凝集して粒状の金属鉄となった後、冷却区画で任意の冷却手段Cにより冷却されて固化し、その下流側に設けられた排出手段6によって順次掻き出される。この時、副生したスラグも排出されるが、これらはホッパーHを経た後、任意の分離手段(篩目や磁選装置など)により金属鉄とスラグの分離が行われ、最終的に鉄分純度が95%程度以上、より好ましくは98%程度以上でスラグ成分含量の極めて少ない金属鉄として得ることができる。
【0015】
またこの図では、冷却区画を大気開放型としているが、実際はできるだけ放熱を防止すると共に、炉内雰囲気調整を適切に行なうためカバーで覆い、ほぼ密閉構造とすることが望ましい。
【0016】
上記還元熟成区画は従来の還元プロセス後半〜末期における酸化鉄の還元進行度のバラツキに起因する還元鉄の再酸化,溶融FeOの発生等の諸問題を解決すべく、本発明において特に設けられた区画である。即ち、還元熟成区画を設けることによって、固体還元区画で十分還元されている還元鉄の再酸化を可及的に抑止しつつ、還元が十分に進行していない酸化鉄の還元を進めて、各原料成形体間の還元度のバラツキをなくし、この段階で高い還元率(80%以上)を有する還元鉄とすることができる。この様に高い還元率を有する還元鉄を浸炭溶融することによって、金属化率が高くて鉄分純度の高い金属鉄を高歩留まりで効率よく製造できる。また上記効果は還元熟成区画の雰囲気温度及び雰囲気ガス組成を調整することによって該効果がより達成し易くなるので、適宜調節することが望ましい。以下、本発明の方法を更に詳述する。
【0017】
上記した如く、炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料成形体を移動炉床式還元溶融炉内で加熱し、該原料物質中の酸化鉄を還元する固体還元区画において、雰囲気温度が高くなりすぎる場合、具体的には還元過程のある時期に、雰囲気温度が原料中の脈石成分や未還元酸化鉄等からなるスラグ組成の融点を超えて高温になると、これら低融点のスラグが溶融して移動炉床を構成する耐火物と反応して溶損させ、平滑な炉床を維持できなくなる。
【0018】
この固体還元区画における溶融FeOの発生現象は、原料成形体を構成する炭素質還元剤、酸化鉄含有物質やバインダー等に含まれるスラグ形成性成分の組成などによって変わってくるが、還元プロセスの雰囲気温度が約1400℃を超えると、上記の様な低融点スラグの滲み出しが起こって炉床耐火物が溶損されることがあり、1500℃を超えると原料鉄鉱石等の銘柄に関わりなく、好ましくない上記溶融還元反応が進行して炉床耐火物の溶損が顕著になる。したがって低融点スラグの滲み出しを生じることなく高レベルの還元率を確保できる適正な還元プロセス時の炉内温度、即ち固体還元区画の温度は1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲であり、1200℃未満の温度では固体還元反応の進行が遅く炉内滞留時間を長くしなければならないので生産性が悪く、一方炉内温度が1400℃超、特に1500℃を超えると、前述した如く原料鉄鉱石等の銘柄に関係なく還元工程で低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物の溶損が著しくなって連続操業が困難になることがある。なお原料鉄鉱石の組成や配合量によっては、1400超〜1500℃の温度領域で滲み出し現象を起こさないこともあるが、その頻度と可能性は比較的少なく、従って固体還元区画の好適温度としては1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲を採用することが望ましい。
【0019】
また固体還元区画では、炉内に装入された原料成形体中の酸化鉄源と炭材との反応により大量のCOガスと少量のCO2ガスが発生するので、原料成形体近傍は自から放出する上記COガスのシールド効果によって十分な還元性雰囲気に保たれる。したがって雰囲気ガス条件については、固体還元区画は原料成形体中の炭材の燃焼によって多量発生するCOガスによって高度の還元性雰囲気が維持されるので雰囲気ガスの調整を特に行なわなくてもよい。しかしながら固体還元区画における還元処理が長時間に及ぶと前述の如く還元鉄の再酸化等の問題が生じるため、原料成形体中の酸化鉄がある程度の還元率(好ましくは80%以上)に達した時点で還元熟成区画に移行させることが望ましい。
【0020】
ところで、原料成形体中の酸化鉄の固体還元率が80%未満である該原料成形体を浸炭溶融区画にて加熱溶融すると、前述した如く原料成形体から低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物を溶損させることがある。ところが、80%以上、より好ましくは95%以上の還元率を確保した上で浸炭溶融区画にて加熱溶融すると、原料成形体中の鉄鉱石等の銘柄や配合組成などに関わりなく、原料成形体中に一部残存しているFeOも成形体内部で還元が進行するため、スラグの滲み出しが最小限に抑えられ、炉床耐火物の溶損を生じることなく安定して連続操業を行なうことができる。
【0021】
しかしながら上記の如く本発明者らは実験によって、固体還元区画にて還元された原料成形体の還元率は各成形体間でバラツキが生じており、特に還元が十分進んでいる還元鉄程、再酸化されて還元率が低くなってしまい、浸炭溶融プロセスでの浸炭が十分に進行しないため溶融されにくく、未溶融のまま排出されてしまい、十分な品質が確保できないことを知見している。
【0022】
そのため未溶融状態での排出を防ぐには還元プロセス後半〜末期における温度を高くしなければならないが、高温状態を維持するために燃料を増加しなければならず、また溶融FeOによる炉床耐火物の損傷が激しくなるため補修などメンテナンス費が高くなる。従って、溶融FeOによる耐火物の溶損を抑えて炉床耐火物の寿命延長を図り、しかもこの様な再酸化を可及的に抑えつつ、固体還元を効率よく進めて還元度のバラツキをなくすには、原料成形体の還元率を調整する区画(還元熟成区画)を設けることが必要である。
【0023】
また本発明においては、還元熟成区画の雰囲気温度および/または雰囲気ガス組成を適切に制御することが望ましい。該還元熟成区画の雰囲気温度および/または雰囲気ガス組成を適性に制御すれば、未還元FeOの溶融を防止しつつ還元を促進し、しかも還元鉄の再酸化を防止するうえで望ましく、特に炉内に装入された原料成形体を、固体状態を保ちつつ、該原料成形体中に含まれるスラグ成分の部分的な溶融を引き起こすことなく、還元率(酸素除去率)で80%以上、好ましくは95%以上にまで効率よく還元を進めるうえで推奨される。
【0024】
還元熟成区画の雰囲気温度については特に限定されないが、前述した固体還元区画の雰囲気温度と同様、1200℃未満の温度では固体還元反応の進行が遅く炉内滞留時間を長くしなければならないので生産性が悪く、一方雰囲気温度が1400℃超、特に1500℃を超えると、前述した如く原料鉄鉱石等の銘柄に関係なく還元工程で低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物の溶損が著しくなって連続操業が困難になることがある。従って還元熟成区画の好適温度としては1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲を採用することが望ましく、溶融が起こらない範囲で高温に設定することが推奨される。
【0025】
尚、実操業においては、固体還元区画では炉内温度を1200℃以下に設定し、還元熟成区画では1200〜1500℃に温度を高めて固体還元を進めることも勿論可能であり、夫々の区画の温度を個別に適宜調節して目的に応じた温度設定としてもよい。
【0026】
ところで固体熟成区画に移送されてくる原料成形体はCOガスの発生量が激減しているので、上記した如く還元が十分に進行したもの程、COガスの発生量が急速に減少するため自己シールド作用が低下し、バーナ加熱によって生じる燃焼排ガス(CO2やH2O等の酸化性ガス)の影響を受け易くなり、折角還元された金属鉄が再酸化を受け易くなる。したがって該還元熟成区画における雰囲気ガス組成を調整して、還元性雰囲気とすれば、既に生成した還元鉄の再酸化をより効果的に抑止できると共に、還元が十分に進行していない酸化鉄の還元を進めて、各原料成形体間の還元度のバラツキをなくし、高い還元率(80%以上)を有する還元鉄を効率よく得ることができる。
【0027】
還元熟成区画の雰囲気ガス組成の調整方法としては限定されないが、例えば雰囲気調整剤を供給して該区画の雰囲気ガス組成を調整して還元性雰囲気とすることが望ましい。好ましくは成形体近傍の雰囲気ガスの還元度CO/(CO+CO2)を0.5以上とすることが望ましい。
【0028】
雰囲気調整剤としては、炭材および/または還元性ガスを用いることが望ましい。炭材としては例えば石炭類,コークス類などが挙げられる。雰囲気調整剤として石炭粉を使用する場合は、粒径を3mm以下、より好ましくは2mm以下に微細化して使用することが望ましい。この様に細粒径化されたものであれば加熱によって酸素と結びつきCOを発生し易いので還元鉄の再酸化を一層確実に防止できるので好ましい。また実操業時の炉内への歩留まりや操業性などを考慮すると、該石炭粉の粒径は0.3〜1.5mmの範囲が最も好ましい。
【0029】
雰囲気調整剤の供給方法は限定されないが、例えば雰囲気調整剤供給手段(図示せず)を還元熟成区画の任意の位置に任意数設けて雰囲気調整剤を炉床に向けて供給してもよい。このとき、原料成形体近傍の雰囲気ガス組成を還元性に保つためには、できるだけ原料成形体近傍に雰囲気調整剤を供給すことが望ましい。また他の雰囲気調整剤の供給方法としては雰囲気調整剤を還元熟成区画を仕切る仕切り壁を利用して供給してもよい。仕切り壁を利用して供給するとは、例えば該仕切り壁K1(尚、固体還元区画側であるか、還元熟成区画側であるかを問わない。また壁内に内設してもよい。)に雰囲気調整剤供給管などの供給手段を付設したり、或いは該壁内に供給管を組み込むなどすればよい。この様に仕切り壁を利用する雰囲気調整剤供給方法は、雰囲気調整剤供給管の支持や水冷が容易であり、また還元熟成区画内の任意の位置に雰囲気調整剤供給管を設ける場合と比べて、配給管によるガス流変化がなく、したがって炉床上の原料成形物への不均一な輻射伝熱を防止できる。また該供給管の雰囲気調整剤供給口を仕切り壁下方に設けることによって原料成形体近傍へ雰囲気調整剤を供給でき、しかも雰囲気調整剤が炉内ガス流によって巻上げられることを防止できる。
【0030】
また雰囲気調整剤を原料成形体装入に先立って予め炉床上に敷き詰めておいてもよく、該雰囲気調整剤を敷き詰める厚さは限定されない。例えば雰囲気調整剤として石炭粉を敷き詰める場合、敷き詰め厚さは特に制限されないが、薄すぎる場合は雰囲気調整剤としての絶対量が不足気味になるので、好ましくは2mm程度以上、より好ましくは3mm以上を確保することが望ましい。厚さの上限は特に存在しないが、過度に厚く敷いても雰囲気調整作用は自ずと飽和し、経済的に無駄になるので、好ましくは7mm程度以下、より好ましくは6mm程度以下に抑えるのが実際的である。尚、雰囲気調整剤としては、石炭以外にもコークスや木炭など、要はCO発生源となるものであれば何でもよく、勿論これらの混合物を使用することも可能である。
【0031】
雰囲気調整剤を原料成形体を炉床上に装入する前に炉床上に予め敷き詰めておくと、還元・溶融過程で操業条件のバラツキによって生じることのある溶融スラグの滲み出しに対し炉床耐火物を保護する作用も発揮する。
【0032】
また雰囲気調整剤として還元性ガスを使用する場合は、CO,H2,CH4等の炭化水素系ガスが好ましく、例えば天然ガス(特にメタンが主成分であるガス),コークス炉ガス,転炉ガスなどが挙げられる。還元性ガスの供給方法は限定されないが、例えば図3に示す様にガス供給用ノズル7を還元熟成区画に任意数設け、任意の位置から還元性ガスを炉床に向けて吹き込んでもよい。また還元性ガスの供給に上記の如く仕切り壁K1(尚、固体還元区画側であるか、還元熟成区画側であるかを問わない。また壁内に内設してもよい。)に還元性ガス供給管などの供給手段を付設したり、或いは該壁内に供給管を組み込むなどすれば、供給管の支持や水冷が容易であり、また配給管によるガス流変化がなく、したがって炉床上の原料成形物への不均一な輻射伝熱を防止できる。更に該供給管の供給口を仕切り壁下方に設けることによって原料成形体近傍へ還元性ガスを供給できるので望ましい。
【0033】
上記の如く還元熟成区画を設けることによって還元熟成区画終了後の還元鉄の還元進行度のバラツキを抑制して還元率を高めることができるため、続く浸炭溶融区画の加熱による原料成形体からのスラグの滲み出しが最小限に抑えられ、炉床耐火物の溶損を生じることなく安定して連続操業を行なうことができる。特に還元熟成区画の雰囲気及び温度を適切に制御することによって、未還元FeOの溶融を防止しつつ還元を促進すると共に、還元鉄の再酸化防止をより効率的におこなうことができる。
【0034】
上記の如く還元熟成区画で目標とする還元率を達成した原料成形体は、所定の温度に加熱されている浸炭溶融区画へ移送することが望ましい。浸炭溶融区画の温度については特に限定されないが、原料成形体を更に加熱して浸炭・溶融するには、還元熟成区画の雰囲気温度よりも高温であることが望ましく、好ましくは1300〜1500℃、より好ましくは1350〜1500℃である。例えば雰囲気温度を1425℃に設定すると、浸炭溶融区画へ移送された原料成形体の内部温度は上昇して行くが、還元鉄の溶融に伴う溶解潜熱で抜熱されるため一旦温度降下した後、再び昇温して設定温度の1425℃に達する。この温度降下点は溶融開始点と見ることができる。該還元鉄粒子が該残存炭素やCOガスにより浸炭を受けて融点が降下することより急速に溶融する。従ってこの溶融を速やかに行なわせるには、固体還元を終えた還元鉄粒子内に上記浸炭に十分な量の炭素が残存していることが望ましい。この残留炭素量は、原料成形体を製造する際の酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の配合割合によって決まるが、還元熟成区画における最終還元率がほぼ100%に達した状態、即ち金属化率が100%に達した状態で、該還元鉄中の残留炭素量(即ち余剰炭素量)が1.5%以上となる様に当初の炭材配合量を確保しておけば、還元鉄を速やかに浸炭させて低融点化させることができ、1300〜1500℃の温度域で速やかに溶融させ得ることができる。ちなみに上記還元鉄中の残留炭素量が1.5%未満では、浸炭のための炭素量不足により還元鉄の融点が十分に降下せず、加熱溶融のための温度を1500℃以上に高めなければならないことがある。
【0035】
なお浸炭量がゼロの場合、即ち純鉄の溶融温度は1537℃であり、この温度よりも高温に加熱してやれば還元鉄を溶融させることができるが、実用炉においては炉床耐火物にかかる熱負荷を軽減するため操業温度はできるだけ低温に抑えることが望ましく、また副生するスラグの融点を考慮すると、操業温度は1500℃程度以下に抑えることが望ましい。より具体的には、溶融期の溶融開始点から約50〜200℃の昇温量を確保できる様に操業条件を制御することが望ましい。即ち、こうした固体還元と浸炭溶融をより円滑且つ効率よく進行させるには、上記浸炭溶融区画の雰囲気温度を還元熟成区画の雰囲気温度よりも50〜200℃、より好ましくは50〜150℃程度高温に設定することが望ましい。
【0036】
浸炭溶融区画では、成形体中の残留炭素による還元鉄の浸炭による融点降下によって微小還元鉄の溶融と凝集が進行するが、この段階でも前記自己シールド作用は乏しいので、バーナー燃焼によって生成する酸化性ガスにより再酸化を起こし易いので、この時期以降は前記雰囲気調整剤の使用も含めて、炉内雰囲気ガス組成を適切に制御して還元性雰囲気とすることが推奨される。好ましくは成形体近傍の雰囲気ガスの還元度を0.5以上とするのが望ましい。
【0037】
雰囲気調整剤の供給方法については還元熟成区画(尚、仕切り壁を利用して供給する場合は、仕切り壁K2を利用し、また浸炭溶融区画側であるか、還元熟成区画側であるかを問わない)の場合と同様である。
【0038】
本発明では、FeOの還元状態を表わす指標として金属化率と還元率の2種を使用しているが、それらの定義は次の通りである。両者の関係は酸化鉄源として用いられる鉄鉱石等の銘柄によって異なるが、以下の関係を有している。
金属化率=[生成した金属鉄/成形体中の全鉄分]×100(%)
還元率=[還元過程で除去された酸素量/原料成形体中に含まれる酸化鉄中の酸素量]×100(%)
【0039】
ところで固体還元から浸炭・溶融に亘る一連の工程をより効率よく進めるには、各段階毎に雰囲気温度や雰囲気ガスを上記の如く制御することが望ましい。即ち固体還元区画及び還元熟成区画の温度は、前述した通り溶融還元反応による溶融FeOの生成が起こらない様、好ましくは1200〜1400℃に保ち、また浸炭溶融区画の温度は1300〜1500℃の範囲に保つことが望ましく、より好ましくは、前記還元熟成区画の温度を浸炭溶融区画の温度よりも50〜200℃低温に制御することが望ましい。雰囲気温度および/または雰囲気ガス組成を各区画毎に夫々制御するには、各区画の独立性を高めることが望ましく、具体的には炉床と仕切り壁下端との間隔が小さい方が望ましい。しかしながら各区画の独立性を高めると該間隔を通じて各区画間を流通するガス速度が速くなるため、原料成形体近傍のガス流が乱れ、例えば雰囲気調整剤を原料成形体近傍に装入することが困難になったり、原料成形体近傍の還元性雰囲気維持が困難になることがある。したがって各区画の仕切り壁に隣接する区画に通じる開口部を設けてガス流を分散させて、炉床と仕切り壁下端との間を流通するガス量を減少させることが望ましい。具体的な開口部の形状,数,サイズ,開口位置については限定されない。
【0040】
ところで、本発明の還元溶融炉では、原料成形体の加熱にバーナー加熱が採用されるが、蓄熱式バーナーを使用すると、燃焼後に発生するガス量、及び燃料使用量も低減でき、しかも原料近傍のガス流乱れを低減できるので望ましい。
【0041】
また燃料の燃焼用空気を予め予熱したり、燃料の燃焼用空気として酸素濃度の高い空気を使用する等、燃料と燃焼用空気の比率を調整すれば、燃焼効率を高めることができるので望ましい。例えば理論空燃比以下で燃焼させると、燃焼後に発生するガス中に還元性ガスが混在し、ガスの還元度が高まる。一方理論空燃比以上かつ理論空燃比に近い状態で燃焼させると、燃焼後に発生するガス量が低減し、原料近傍のガス乱れも低減する。これらの両面を考慮し、適切な比率を選択することが推奨される。
【0042】
また更にバーナー燃焼によって発生したガスによる原料近傍のガス流乱れが生じるのを抑止する観点からバーナーを炉上部設置し、或いは/更にバーナーを炉の上側部に上向きで設置することが好ましい。
【0043】
尚、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が完了した後は、雰囲気ガスの還元度は急速に低下してくるが、実操業工程ではこの時点で溶融凝集した金属鉄と副生スラグはほぼ完全に分離しているので、雰囲気ガスの影響はほとんど受けることがなく、これを冷却凝固させることによって鉄品位の高い粒状の金属鉄を効率よく得ることができる。
【0044】
本発明のプロセスに要する時間は、原料成形体を構成する鉄鉱石や炭材の組成等によって若干の違いはあるが、通常は10分から13分程度で酸化鉄の固体還元と溶融および凝集を完了させることができる。
【0045】
本発明の上記方法によって得られる金属鉄はスラグ成分を殆ど含んでおらずFe純度の非常に高いものが得られる。したがって該金属鉄は電気炉や転炉の如き既存の製鋼設備で使用される鉄源として適している。
【0046】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
実施例1
下記組成の鉄鉱石(Fe:69.2%,SiO2:1.8%,Al23:0.5%)と石炭(固定炭素:74.3% 揮発分:15.9% 灰分:9.8%)及び少量の造粒用バインダー(ベントナイト)を均一に混合して直径約18mmのペレット状に造粒し、これを原料成形体として金属鉄を製造した。即ちこのペレットを、前記図1〜3に示した様な回転炉床型の還元溶融炉へ装入し、固体還元区画の雰囲気温度を1310℃に制御して固体還元を進めた後、続く還元成熟区画の雰囲気温度を1310℃に制御した。その後、引き続いて雰囲気温度を1420℃に制御した浸炭溶融区画へ送って浸炭・溶融と凝集及び副生スラグの分離を行ない、溶融・凝集しスラグとほぼ完全に分離した金属鉄を冷却区画に送って約1000℃まで冷却し凝固させてから排出機によって炉外へ排出した。上記原料成形体の装入から金属鉄として取り出すまでの時間は約16分であり、得られた金属鉄のC含有量は2.6%、S含有量は0.1%であり、この金属鉄は副生するスラグと簡単に分離することができた。最終的に得られた金属鉄の外観を図4(写真)に示す。
【0048】
尚、固体還元熟成区画,浸炭溶融区画のそれぞれに還元性ガス(主成分がH2約57%,CH4約25%の混合ガス)を夫々の区画に設けた供給機構を介して添加し、雰囲気ガス組成の還元度CO/(CO+CO2)が0.5以上となる様に調整した。
【0049】
比較例1
粒状金属鉄を製造する際に、固体還元熟成区画及び浸炭溶融区画に還元性ガスを添加しなかった以外は上記実施例1と同様にして実験を行なった。その結果、得られた金属鉄は、図5に示す如く金属鉄に未溶融のものがかなり見られ、商品価値の劣悪なものであった。
【0050】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、特に固体還元区画で還元されて生成する還元鉄の還元度を調整するための還元熟成区画を固体還元区画と浸炭溶融区画との間に設けることによって、固体還元区画で十分還元されている還元鉄の再酸化を可及的に抑止し、更に未還元FeOの溶融を防止しつつ、還元が十分に進行していない酸化鉄の還元を進めることによって、各原料成形体間の還元度のバラツキをなくすことができる。
【0051】
また該還元熟成区画における雰囲気ガス組成および/または雰囲気温度を適正にコントロールすることによって、還元鉄の再酸化を可及的に抑えてFe純度を高めると共に、溶融スラグの滲み出しや溶融FeOの生成による炉床耐火物の溶損を可及的に抑えることができ、鉄純度の高い粒状の金属鉄を連続操業により効率よく製造し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いられる還元溶融設備を例示する説明図である。
【図2】図1におけるA−A線断面相当図である。
【図3】図1を長手方向に展開して示す断面説明図である。
【図4】実施例で得た金属鉄の一例を示す写真である。
【図5】比較例で得た金属鉄の一例を示す写真である。
【符号の説明】
1 回転型炉床
2 炉体
3 燃焼バーナ
4 装入手段
6 排出手段
7 ガス供給用ノズル
1,K2,K3 仕切壁
C 冷却手段
H ホッパー
1 固体還元区画
2 還元熟成区画
3 浸炭溶融区画
4 冷却区画

Claims (9)

  1. 炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料物質を、移動炉床式還元溶融炉内で加熱し、該原料物質中の酸化鉄を還元・溶融して金属鉄を製造する方法において、
    該還元溶融炉は炉床の移動方向に少なくとも3つに仕切られており、仕切られた該区画のうち、炉床移動方向上流側を固体還元区画、炉床移動方向下流側を浸炭溶融区画とすると共に、該固体還元区画と該浸炭溶融区画の間に還元熟成区画を設け
    上記還元熟成区画の雰囲気温度を調整するか、および/または還元熟成区画に雰囲気調整剤を供給して該還元熟成区画の雰囲気ガス組成を調整することを特徴とする金属鉄の製法。
  2. 上記還元熟成区画の雰囲気ガスの還元度[CO/(CO+CO 2 )]を0.5以上に調整する請求項1に記載の製法。
  3. 上記雰囲気調整剤として、炭材および/または還元性ガスを用いる請求項1または2に記載の製法。
  4. 上記雰囲気調整剤を原料成形体装入に先立って予め炉床上に供給する請求項1〜3のいずれかに記載の製法。
  5. 上記浸炭溶融区画の雰囲気温度を上記還元熟成区画の雰囲気温度よりも高くする請求項1〜4のいずれかに記載の製法。
  6. 上記浸炭溶融区画に、雰囲気調整剤を供給する請求項1〜5のいずれかに記載の製法。
  7. 上記雰囲気調整剤を各区画を仕切る仕切り壁を利用して供給する請求項1〜6のいずれかに記載の製法。
  8. 各区画の仕切り壁に隣接する区画に通じる開口部を設ける請求項1〜7のいずれかに記載の製法。
  9. 前記還元熟成区画の雰囲気温度を1200〜1500℃とする請求項1〜8のいずれかに記載の製法。
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