鉄鉱石や酸化鉄等の酸化鉄源を炭材や還元性ガスにより直接還元して還元鉄を得る直接製鉄法としては、従来よりミドレックス法に代表されるシャフト炉法が知られている。この種の直接製鉄法は、天然ガス等から製造される還元性ガスをシャフト炉下部の羽口から吹込み、その還元力を利用し酸化鉄を還元して金属鉄を得る方法である。また最近では、天然ガスに代わる還元剤として石炭等の炭材を使用する還元鉄の製造プロセスが注目されており、具体的には所謂SL/RN法が既に実用化されている。
また他の方法として特許文献1(米国特許3,443,931号公報)には、炭材と粉状酸化鉄を混合して塊状もしくはペレット状に成形し、ロータリーハース上で加熱還元して還元鉄を製造するプロセスが開示されている。
これらの方法で製造された還元鉄は、そのまま或はブリケット状などに成形してから電気炉などへ装入し、鉄源として用いられる。近年、鉄スクラップのリサイクルが活発化するにつれて、上記方法によって得られる還元鉄はスクラップ中に混入してくる不純物元素の希釈材としても注目されている。
ところが従来の方法によって得られる還元鉄には、原料として用いた鉄鉱石中の脈石成分や炭材中の灰分などとして含まれるSiO2,Al2O3,CaO等のスラグ成分が大量に混入してくるため、製品の鉄品位(金属鉄としての純度)が低くなる。
実用化に当たっては、次工程の精錬でこれらのスラグ成分は分離除去されるが、スラグ量の増加は精錬溶湯の歩留りを低下させるばかりでなく、電気炉の操業コストを高める原因になるので、鉄品位が高くスラグ成分含量の少ない還元鉄が求められるが、前述の如き従来の還元鉄の製法でこうした要求に応えるには、製造原料として鉄品位の高い鉄鉱石を使用しなければならず、実用可能な原料の選択幅を大幅に狭めることになる。
他方、酸化鉄を直接還元して還元鉄を得る方法としてDIOS法などの溶融還元法も知られている。この方法は、酸化鉄を予め還元率で30%程度にまで予備還元しておき、その後、鉄浴中で炭素と直接還元反応させることによって金属鉄にまで還元を行なう方法であるが、この方法は、予備還元と鉄浴中での最終還元の2工程が必要になるので作業が煩雑であり、生産性や設備コストの点で汎用性を欠く。
他の直接還元製鉄法として特許文献2(特開平8−27507号公報)には、移動炉床上に脱硫剤を含む炭素質還元剤粉と酸化鉄粉を夫々層状に重ねて敷き、これを加熱することによって海綿鉄を得る方法を開示している。この方法によれば、炭素質還元剤によって酸化鉄の還元が行なわれると共に、石炭等の炭素質還元剤中に含まれる硫黄分は脱硫剤に捕捉されるので、硫黄分含量の少ない海綿鉄を得ることができ、その後の脱硫負荷も軽減される旨強調されている。
しかしながらこの方法では、酸化鉄源と炭素質還元剤が直接接触しないため還元効率が低く、加熱還元に長時間を要し、生産性の点で工業的規模の実用化にそぐわない。しかもこの方法は、還元鉄を海綿鉄状で得る方法であるから海綿鉄中の脈石成分が十分に分離されず、還元鉄としての鉄品位が低くなる。かかる鉄品位の低い還元鉄を電気炉等へ鉄源として供給すると、生成スラグ量の増大によって電気炉操業性に悪影響を及ぼすばかりでなく、スラグへの鉄分混入による鉄分歩留りの低下、エネルギー原単位の上昇、生産性の低下など、多くの問題を生じてくる。しかも、使用する酸化鉄源の鉄分含有量が低くなると上記の問題は一層顕著に現われてくるので、低品位の酸化鉄源を実操業の原料として使用することは殆んど不可能であり、高品位の酸化鉄源しか使用できない。
上記の様に、スラグ成分含量の少ない金属鉄を製造する方法の実現は、製品金属鉄としての付加価値を高めるばかりでなく、電気炉を用いた製鉄コストの低減、更には金属鉄製造における使用原料の選択の柔軟性向上といった観点から極めて重要になってくる。
本発明者らはこうした状況に着目し、鉄分含有量の高い酸化鉄はもとより鉄分含有量の比較的低い鉄鉱石等からでも、鉄純度の高い金属鉄を簡単な処理で効率よく得ることのできる技術の開発を期してかねてより研究を進めており、その研究成果として下記の方法を開発し、先に特許文献3(特開平9−256017号)として提案した。
この方法は、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造するに際し、加熱により酸化鉄を固体還元することにより金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部に酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで固体還元を進め、更に加熱を続けて内部に生成するスラグを金属鉄外皮の外側へ流出させてから金属鉄とスラグを分離するところに特徴を有している。
上記方法を実施するに当たっては、金属鉄外皮の一部を溶融させることによって、内部の溶融スラグを金属鉄外皮外へ流出させればよく、この際、金属鉄外皮の一部もしくは全部を溶融させるには、金属鉄外皮内に存在する炭素質還元剤由来の炭素を金属鉄に溶解(固溶)させること(この現象を”浸炭”ということがある)によって当該金属鉄外皮の融点を降下させればよい。
この方法によって得られる高純度の金属鉄と生成スラグを冷却固化し、スラグを破砕すると共に粒状に固まった金属鉄を磁選あるいは篩によって分別採取し、あるいは加熱溶融して比重差により金属鉄とスラグを分離すると、金属鉄として95%程度以上、更には98%以上の高純度物を得ることができる。しかもこの公開発明によれば、固体還元によって酸化鉄の還元を進める方法であるから、生成スラグ中の溶融FeO量を可及的に少なくすることができ、溶融FeOに起因する処理炉耐火物の溶損も起こり難く、設備保全の観点からしても極めて実用性の高い技術としてその実用化が期待される。
上記方法の中でも、生成した金属鉄と生成スラグを冷却固化させ、生成スラグを破砕してから磁選あるいは篩分けにより粒状の金属鉄を得る方法は、これらを溶融してから比重差により分離する方法に比べて工業的規模での実施に適していると思われる。即ち溶融分離法では、溶融させるため高温に加熱保持しなければならないので、多大な熱エネルギーを要する他、両者を分離する際に界面で溶融鉄の一部が溶融スラグ内へ巻き込まれ、金属鉄の歩留低下を起こす恐れがあるが、破砕して磁選や篩分けにより粒状の金属鉄として得る方法では熱エネルギーが不要である他、製鉄設備の規模に応じた分離装置の設計や連続化が容易であり、更には上記の様な鉄分ロスも最小限に抑えられるからである。
なお上記公開発明では、加熱還元工程で金属鉄外皮が生成し、該外皮内で高度の還元性雰囲気が形成されることによって金属化率が効率よく進行することが強調されているが、その後の研究によると、原料成形体中に配合された炭素質還元剤の燃焼によって大量に発生するCOガスにより原料成形体近傍は高度の還元性雰囲気に維持されるため、必ずしもその様な金属鉄外皮の形成は必須でないことを確認している。
米国特許3,443,931号公報
特開平8−27507号公報
特開平9−256017号公報
上記の様に本発明の製法では、鉄鉱石や酸化鉄またはその部分還元物などの酸化鉄源(以下、鉄鉱石等ということがある)と、コークスや石炭などの炭素質還元剤(以下、炭材ということがある)を含む原料成形体を還元溶融して粒状の金属鉄を製造する際に、該製造の末期における特に浸炭・溶融時の雰囲気条件を適正にコントロールすることによって、還元鉄の再酸化を防止してよりFe純度の高い粒状金属鉄の製造を可能にすると共に、金属鉄の再酸化によるFeOの生成を抑えて炉床耐火物の溶損を可及的に抑制したところに特徴を有しており、以下その具体的な構成を実施例図面を示す図面を参照しながら詳細に説明して行く。
図1〜3は本発明が適用される本発明者ら自身が開発した回転炉床型還元溶融炉の一例を示す該略説明図で、ドーナツ状の回転移動床を有するドーム型構造のものを示しており、図1は概略見取図、図2は図1におけるA−A線断面相当図、図3は、理解の便のため図1における回転炉床の回転移動方向に展開して示す概略断面説明図であり、図中1は回転炉床、2は該回転炉床をカバーする炉体であり、回転炉床1は、図示しない駆動装置により適当な速度で回転駆動できる様に構成されている。
炉体2の壁面適所には複数の燃焼バーナ3が設けられており、該燃焼バーナ3の燃焼熱およびその輻射熱を回転炉床1上の原料成形体に伝えることにより、該成形体の加熱還元が行われる。図示する炉体2は好ましい例を示したもので、炉体2内部は3枚の仕切壁K1,K2,K3で第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、第4ゾーンZ4に仕切られており、該炉体2の回転方向最上流側には回転炉床1を臨んで原料および副原料装入手段4が配置されると共に、回転方向最下流側(回転構造であるため、実際には装入手段4の直上流側にもなる)には排出手段6が設けられている。
この還元溶融炉を稼動するに当たっては、回転炉床1を所定の速度で回転させておき、該回転炉床1上に、鉄鉱石等と炭材を含む原料成形体を装入装置4から適当な厚さとなる様に供給していく。炉床1上に装入された原料成形体は、第1ゾーンZ1を移動する過程で燃焼バーナ3による燃焼熱及び輻射熱を受け、該成形体内の炭材およびその燃焼により生成する一酸化炭素により該成形体中の酸化鉄は固形状態を維持した状態で加熱還元される。その後、第2ゾーンZ2で更に加熱還元され、ほぼ完全に還元されて生成した還元鉄は、第3ゾーンZ3で更に還元性雰囲気下で加熱されることにより浸炭して溶融し、副生するスラグと分離しながら凝集して粒状の金属鉄となった後、第4ゾーンZ4で任意の冷却手段Cにより冷却されて固化し、その下流側に設けられた排出手段6によって順次掻き出される。この時、副生したスラグも排出されるが、これらはホッパーHを経た後、任意の分離手段(篩目や磁選装置など)により金属鉄とスラグの分離が行われ、最終的に鉄分純度が95%程度以上、より好ましくは98%程度以上でスラグ成分含量の極めて少ない金属鉄として得ることができる。
尚この図では、第4ゾーンZ4を大気開放型としているが、実際はできるだけ放熱を防止すると共に炉内雰囲気調整を適切に行なうためカバーで覆い、ほぼ密閉構造とすることが望ましい。またこの例では、回転炉内を3枚の仕切壁K1,K2,K3で第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、第4ゾーンZ4に仕切った例を示したが、本発明ではこうした分割構造に限定される訳ではなく、炉のサイズや目標生産能力、操業形態などに応じて適当に変更することも勿論可能である。但し本発明では、追って詳述する如く少なくとも加熱還元の前半期の固体還元領域と後半期の浸炭・溶融・凝集領域との間に隔壁を設け、炉内温度および雰囲気ガスを個別に制御できる様な構成としておくことが望ましい。
上記還元・溶融プロセスにおいて、還元時(固体還元期)の雰囲気温度が高すぎる場合、具体的には還元過程のある時期に、雰囲気温度が原料中の脈石成分や未還元酸化鉄等からなるスラグ組成の融点を超えて高温になると、これら低融点のスラグが溶融して移動炉床を構成する耐火物と反応して溶損させ、平滑な炉床を維持できなくなる。また、固体還元期に酸化鉄の還元に必要とされる以上の熱が加わると、原料中の鉄酸化物であるFeOが還元される前に溶融し、該溶融FeOが炭材中の炭素(C)と反応する所謂溶融還元(溶融状態で還元が進行する現象で、固体還元とは異なる)が急速に進行する。該溶融還元によっても金属鉄は生成するが、該溶融還元が起こると、流動性の高いFeO含有スラグが炉床耐火物を著しく溶損させるので、実用炉としての連続操業が困難になる。
こうした現象は、原料成形体を構成する鉄鉱石や炭材、或いは更にバインダー等に含まれるスラグ形成性成分の組成などによって変わってくるが、固体還元時の雰囲気温度が約1400℃を超えると、上記の様な低融点スラグの滲み出しが起こって炉床耐火物が溶損され、1500℃を超えると原料鉄鉱石等の銘柄に関わりなく、好ましくない上記溶融還元反応が進行して炉床耐火物の溶損が顕著になることが確認された。
図4は、酸化鉄源として鉄鉱石、炭素質還元剤として石炭を用いた原料成形体(直径が16〜19mmのペレット)を、雰囲気温度が約1300℃(図中の直線1)に制御された炉内へ装入し、還元率(原料成形体における酸化鉄中の酸素の除去率)がほぼ100%になるまで固体還元を行ない、得られる還元鉄を、図中の直線3で示す時点で、約1425℃(直線2)に制御された溶解ゾーンへ装入して溶解させた場合の反応状況を示すもので、図中には、予め原料成形体内へ装入した熱電対により連続的に測定される成形体の内部温度と、炉の雰囲気温度を示すと共に、還元過程で発生する二酸化炭素と一酸化炭素の経時変化も併せて示している。
この図からも明らかな様に、炉内に装入された原料成形体を、固体状態を保ちつつ、該原料成形体中に含まれるスラグ成分の部分的な溶融を引き起こすことなく、還元率(酸素除去率)で80%(図4のA点)以上、好ましくは95%(図4のB点)以上にまで還元を進めるには、炉内温度を1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲に保って固体還元を行ない、引き続いて炉内温度を1350〜1500℃に高めて、一部残された酸化鉄を還元すると共に生成した金属鉄を浸炭溶融させて凝集させる2段加熱方式を採用すれば、粒状の金属鉄を安定して効率よく製造することができる。
図4には、連続的に測定された雰囲気温度の履歴を示しており、実験開始前に1300℃に設定した炉内に原料成形体を装入することにより約80〜100℃の温度降下が観察されるが、その後徐々に設定温度にまで回復し、固体還元の末期には初期の設定温度に復帰している。該初期の温度降下は炉の特性に由来するもので、該炉の加熱手段を工夫すれば該初期の温度降下は最小限に抑えることができる。
また図4の横軸に示す時間は、原料成形体を構成する鉄鉱石や炭材の組成等によって若干の違いはあるが、通常は10分から13分程度で酸化鉄の固体還元と溶融および凝集を完了させることができる。
この時、原料成形体の固体還元を80%未満の還元率に止めてから加熱溶融を行なうと、前述した如く原料成形体から低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物を溶損させる。ところが、固体還元末期で80%以上、より好ましくは95%以上の還元率を確保した上で次工程の浸炭・溶融・凝集を行なうと、原料成形体中の鉄鉱石等の銘柄や配合組成などに関わりなく、原料成形体中に一部残存しているFeOも成形体内部で還元が進行するため、スラグの滲み出しが最小限に抑えられ、炉床耐火物の溶損を生じることなく安定して連続操業を行なうことができる。
そして、図4における前段の固体還元領域で、低融点スラグの滲み出しを生じることなく高レベルの還元率を確保することのできる適正な炉内温度は1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲であり、1200℃未満の温度では固体還元反応の進行が遅く炉内滞留時間を長くしなければならないので生産性が悪く、一方炉内温度が1400℃以上、特に1500℃を超えると、前述した如く原料鉄鉱石等の銘柄に関係なく還元工程で低融点スラグの滲み出しが起こり、炉床耐火物の溶損が著しくなって連続操業が困難になる。なお原料鉄鉱石の組成や配合量によっては、1400〜1500℃の温度領域で滲み出し現象を起こさないこともあるが、その頻度と可能性は比較的少なく、従って固体還元期の好適温度としては1200〜1500℃、より好ましくは1200〜1400℃の範囲を採用することが望ましい。なお実操業においては、固体還元期の初期には炉内温度を1200℃以下に設定し、固体還元の後半期に1200〜1500℃に温度を高めて固体還元を進めることも勿論可能である。
固体還元領域で目標の固体還元を終えた成形体は、炉内温度を1425℃に高めた溶融領域へ移送する。そうすると、図4に示す如く成形体の内部温度は上昇して行くが、C点で一旦降下した後再び昇温して設定温度の1425℃に達する。C点での上記温度降下は、還元鉄の溶融に伴う溶解潜熱で抜熱されるためと思われ、即ち該C点を溶融開始点と見ることができる。この溶融開始点は、還元鉄粒子内の残存炭素量によってほぼ決まり、該還元鉄粒子が該残存炭素やCOガスにより浸炭を受けて融点が降下することより急速に溶融する。従ってこの溶融を速やかに行なわせるには、固体還元を終えた還元鉄粒子内に上記浸炭に十分な量の炭素が残存していなければならない。この残留炭素量は、原料成形体を製造する際の鉄鉱石等と炭材の配合割合によって決まるが、本発明者らが実験によって確認したところによると、固体還元期における最終還元率がほぼ100%に達した状態、即ち金属化率が100%に達した状態で、該固体還元物中の残留炭素量(即ち余剰炭素量)が1.5%以上となる様に当初の炭材配合量を確保しておけば、還元鉄を速やかに浸炭させて低融点化させることができ、1300〜1500℃の温度域で速やかに溶融させ得ることが確認された。ちなみに上記還元鉄中の残留炭素量が1.5%未満では、浸炭のための炭素量不足により還元鉄の融点が十分に降下せず、加熱溶融のための温度を1500℃以上に高めなければならなくなる。
なお浸炭量がゼロの場合、即ち純鉄の溶融温度は1537℃であり、この温度よりも高温に加熱してやれば還元鉄を溶融させることができるが、実用炉においては炉床耐火物にかかる熱負荷を軽減するため操業温度はできるだけ低温に抑えることが望ましく、また副生するスラグの融点を考慮すると、操業温度は1500℃程度以下に抑えることが望ましい。より具体的には、図4における溶融期の溶融開始点(C点)から約50〜200℃の昇温量を確保できる様に操業条件を制御することが望ましい。即ち、こうした固体還元と浸炭溶融をより円滑且つ効率よく進行させるには、上記浸炭溶融時の温度を固体還元時の温度よりも50〜200℃、より好ましくは50〜150℃程度高温に設定することが望ましい。
更に本発明では、最終的に得られる金属鉄中の炭素量が1.5〜4.5%、より好ましくは2.0〜4.0%の範囲となる様に製造条件を制御することが望ましい。この炭素量は、原料成形体を製造する際の炭材配合量と、固体還元期の雰囲気制御によってほぼ決まり、特に下限値は固体還元末期における還元鉄中の残留炭素量とその後の保持時間(浸炭量)によって決まってくるが、前述の如く固体還元末期に概略100%に近い還元率を達成した上で尚且つ1.5%の残留炭素量を確保できれば、最終的に得られる金属鉄の炭素含有量を上記範囲の下限値以上に高めることができる。また、固体還元完了時点での還元鉄中の残留炭素量で4.0%以上を確保した上で、引き続く溶融期で該還元鉄の浸炭・溶融と凝集を行なえば、得られる金属鉄中の炭素量を最大の4.8%にまで高め得ることを確認している。しかしながら、より安定した連続操業と製品金属鉄の品位を高める上でより好ましい残留炭素量は1.5〜3.5%の範囲である。
なおこの間の雰囲気ガスを見ると、固体還元が急速に進行している時期には、原料成形体中の酸化鉄と炭材の反応によって大量のCOが生成し、自己シールド作用により成形体近傍は高い還元性雰囲気に維持されるが、固体還元の末期およびその後の浸炭・溶融期におけるCOガスの発生量は激減するので、自己シールド作用は期待できない。
尚図5は、固体還元生成物の金属化率と残留FeO及び残留炭素の関係を調べた結果を示したもので、図示する如く残留FeOは固体還元の進行、即ち金属化率の上昇につれて減少する。図中の直線1までは、前記図4に示した様に、1200〜1500℃に制御された炉内で原料成形体の固体還元が進行し、その後、引き続いて1350〜1500℃の温度と高い還元性雰囲気に制御された溶融期で還元鉄の浸炭・溶融・凝集が進行するが、この間の金属化率と残留FeOおよび残留炭素の関係は、図5における直線1よりも右側の曲線に相当する関係で変化する。
図中の(1)と(2)は、金属化率と残留炭素量の関係を示す曲線であり、(1)は、金属化率100%の時点で残留する炭素量が1.5%である場合を、また(2)は、金属化率100%の時点で残留する炭素量が3.0%の場合を示しており、本発明を実施する際には、残留炭素量が曲線(1)以上となる様に、原料成形体の製造段階で炭材の配合量を調整することが望ましい。
尚、原料成形体を製造する際の炭材配合量を一定にしたとしても、炉内雰囲気ガスの還元度によっては金属化率が100%時点での残留炭素量は若干変動するので、操業時の雰囲気ガスの還元度に応じて前記炭材の配合量はその都度適当に制御すべきであるが、何れにしても、金属化率100%時点での最終的な残留炭素量が1.5%以上となる様に、当初の炭材配合量を調整すべきである。
ちなみに図6は、金属化率100%時点での最終的な残留炭素量と、得られる金属鉄のC含有率の関係を調べた結果を示したもので、該残留炭素量が1.5〜5.0%であれば、得られる金属鉄のC量で1.0〜4.5%を確保することができ、同残留炭素量を2.0〜4.0%とすれば、得られる金属鉄のC量で1.0〜4.5%を確保することができる。
上記説明では、FeOの還元状態を表わす指標として金属化率と還元率の2種を使用しているが、それらの定義は次の通りであり、両者の関係は例えば図7に示すことができる。両者の関係は酸化鉄源として用いられる鉄鉱石等の銘柄によって異なるが、図7は、マグネタイト(Magnetite:Fe3O4)を酸化鉄源として用いた場合の関係を示している。
金属化率=[生成した金属鉄/(生成した金属鉄+鉄鉱石中の鉄)]×100(%)
還元率=[還元過程で除去された酸素量/原料成形体中に含まれる酸化鉄中の酸素量]×100(%)
ところで本発明の実施に用いられる還元溶融炉では、前述の如く原料成形体の加熱にバーナー加熱が採用される。そして固体還元期は、前記図4でも説明した様に、炉内に装入された原料成形体中の酸化鉄源と炭材との反応により大量のCOガスと少量のCO2ガスが発生するので、原料成形体近傍は自から放出する上記COガスのシールド効果によって十分な還元性雰囲気に保たれる。
ところが、固体還元期の後半から末期にかけては、上記COガスの発生量が急速に減少するため自己シールド作用が低下し、バーナ加熱によって生じる燃焼排ガス(CO2やH2O等の酸化性ガス)の影響を受け易くなり、折角還元された金属鉄が再酸化を受け易くなる。また、固体還元の終了後は、成形体中の残留炭素による還元鉄の浸炭による融点降下によって微小還元鉄の溶融と凝集が進行するが、この段階でも前記自己シールド作用は乏しいので、還元鉄は再酸化を受け易い。
従って、この様な再酸化を可及的に抑えつつ固体還元後の浸炭・溶融・凝集を効率よく進めるには、浸炭・溶融領域の雰囲気ガス組成を適切に制御することが重要となる。
そこで、固体還元終了後の浸炭・溶融時において、還元鉄の再酸化を防止しつつ浸炭・溶融を効率よく進めるための雰囲気条件について検討を進めた。
その検討結果を図8を参照しつつ説明する。なおこの実験では箱型の電気炉を使用し、浸炭・溶融時における雰囲気調整剤として炭素質の粉粒体を用いて、これを炉床上に適当な厚さで敷き詰めておくことにより、浸炭・溶融時の雰囲気を高還元性に維持する方法を採用した。
即ち、粒径の異なる石炭粒を雰囲気調整剤として使用し、これをアルミナトレイ上に約3mmの厚さで敷き詰めた後、その上に直径約19mmの原料成形体50〜60個を並べて載置すると共に、その1つに熱電対をセットしておき、これを箱型電気炉内に装入して加熱時の温度を測定すると共に、発生するガス組成を測定し、生成する金属鉄の再酸化の可能性を調べた。尚電気炉の温度は最高到達温度が約1450℃となる様に設定し、且つ初期の炉内雰囲気ガス組成はCO2:20%,N2:80%とした。
図8は、電気炉内の温度を徐々に上昇させた時の前記熱電対によって検知される原料成形体の温度と雰囲気ガス組成を経時的に測定した結果を示したもので、横軸は温度変化、縦軸は雰囲気ガスの簡易還元度を表わす(CO)/(CO+CO2)を示している。そしてこの図には、4種類の実験結果をプロットしており、図中の(3)は雰囲気調整剤を使用しなかった場合、(4)は平均粒径が3.0mmを超える粗粒の石炭を雰囲気調整剤として使用した場合、(1)、(2)は粒度を2.0mm以下に調整した微粒石炭粉A,Bを使用した場合の結果を示し、この図には、再酸化の可能性を示す目安としてFeO−Fe平衡曲線とFe3O4−FeO平衡曲線も併記している。また、図中に丸で囲まれた領域は、夫々の実験において固体還元がほぼ完了し、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が始まる時期を示しており、この時期における雰囲気ガスの制御が本発明では最も重要となる。
この図からも明らかな様に、雰囲気調整剤を使用しなかった(3)では、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が開始する領域(C)がFeO−Fe平衡曲線よりもかなり下になっており、一部が溶融還元を起こしながら還元鉄全体が溶融することを表わしている。この場合でも金属鉄は生成するが、前述した如く溶融還元が起こると、原料成形体からの溶融スラグの滲み出しが起こるばかりでなく、溶融FeOの生成によって炉床耐火物の溶損が顕著となるため、実操業上の障害となる。
これに対し、(1)、(2)は微細化した石炭粉を雰囲気調整剤として使用した場合の例で、これらのグラフからも明らかな様に雰囲気ガスの還元度は大幅に改善されており、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が起こる領域(A)はFeO−Fe平衡曲線の上部に位置しFeOの生成が起こらない領域に維持されている。また(4)は、粗粒の石炭を用いた例であるが、この場合は、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が起こる領域(B)がFeO−Fe平衡曲線の若干下側に位置しており、若干量の再酸化が起こる可能性を秘めているが、得られる金属鉄の成分分析を行なったところ再酸化は殆ど起こっていないことが確認された。
そして、少なくとも浸炭・溶融・凝集の開始期において、雰囲気ガスの還元度が0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、最も好ましくはFeO−Fe平衡曲線の上になる様に雰囲気ガスの還元度を制御してやれば、固体還元により生成した還元鉄の再酸化を招くことなくその浸炭・溶融・凝集を円滑に進めることができ、Fe純度の高い金属鉄を極めて効率よく製造し得ることが確認された。尚、上記図8の実験データをそのまま解析すると、簡易還元度が0.5〜0.7レベルでは相当量の再酸化が懸念されるが、この実験では飽くまでも雰囲気ガスの還元度を求めており、実際の原料成形体における内部或いはその近傍は、原料成形体内の残留炭素および前記雰囲気調整剤の存在によって高還元性雰囲気に保たれているはずであり、しかも炉床上部雰囲気から原料成形体近傍へ侵入してくる酸化性ガス(CO2やH2Oなど)は炭素質の雰囲気調整剤によって直ちに還元されるので、実測される雰囲気ガスの還元度が0.5〜0.7レベルであっても再酸化は起こさないものと推定される。ちなみに該還元度が0.5未満では、後記図16の写真にも示す如く金属鉄が再酸化を受け易くなると共に、浸炭も進み難くなって金属鉄の凝集による粒状化も進み難く、一部スラグを巻き込んだ殻状物となり、Fe純度の低下や形状品質の劣化により本発明の目的を果たせなくなる。
尚、還元鉄の浸炭・溶融・凝集が完了した後は、雰囲気ガスの還元度は急速に低下してくるが、実操業工程ではこの時点で溶融凝集した金属鉄と副生スラグはほぼ完全に分離しているので、雰囲気ガスの影響は殆ど受けることがなく、これを冷却凝固させることによって鉄品位の高い粒状の金属鉄を効率よく得ることができる。
尚上記からも明らかな様に、雰囲気調整剤として石炭粉を使用する場合は、粒径を3mm以下、より好ましくは2mm以下に微細化して使用することにより、浸炭・溶融・凝集時の再酸化を一層確実に防止することができるので好ましい。また実操業時の炉内への歩留まりや操業性などを考慮すると、該石炭粉の粒径は0.3〜1.5mmの範囲が最も好ましい。該石炭粉を敷き詰める厚さは特に制限されないが、薄すぎる場合は雰囲気調整剤としての絶対量が不足気味になるので、好ましくは2mm程度以上、より好ましくは3mm以上を確保することが望ましい。厚さの上限は特に存在しないが、過度に厚く敷いても雰囲気調整作用は自ずと飽和し、経済的に無駄になるので、好ましくは7mm程度以下、より好ましくは6mm程度以下に抑えるのが実際的である。尚該雰囲気調整剤としては、石炭以外にもコークスや木炭など、要はCO発生源となるものであれば何でもよく、勿論これらの混合物を使用することも可能である。
この雰囲気調整剤は、原料成形体を炉床上に装入する前に炉床上に予め敷き詰めておいてもよく、その場合は、還元・溶融過程で操業条件のバラツキによって生じることのある溶融スラグの滲み出しに対し炉床耐火物を保護する作用も発揮する。しかし、雰囲気調整剤の前記作用が期待されるのは固体還元終了後の浸炭・溶融・凝集時期であるから、原料成形体が浸炭・溶融を始める直前に上方から炉床上に振り掛けることも勿論有効である。
上記の様に本発明では、特に浸炭・溶融時における雰囲気ガスの還元度を高めることによって、還元鉄の再酸化を防止すると共に浸炭・溶融を効率よく進めるところに特徴を有しているが、固体還元から浸炭・溶融・凝集に亘る一連の工程をより効率よく進めるには、各段階毎に温度や雰囲気ガスを適切に制御することが望ましい。即ち固体還元期の温度は、前述した通り溶融還元反応による溶融FeOの生成が起こらない様、好ましくは1200〜1400℃に保ち、また浸炭・溶融・凝集期の温度は1300〜1500℃の範囲に保つことが望ましく、より好ましくは、前記固体還元期の温度を浸炭・溶融・凝集期の温度よりも50〜200℃低温に制御することが望ましい。
雰囲気ガス条件については、固体還元期には原料成形体中の炭材の燃焼によって多量発生するCOガスによって高度の還元性雰囲気が維持されるので炉内雰囲気ガスの調整はそれほど必要とされないが、浸炭・溶融・凝集期には、前述の如く原料成形体からのCOガスの放出量は大幅に減少し、バーナー燃焼によって生成する酸化性ガスにより再酸化を起こし易いので、この時期以降は前記雰囲気調整剤の使用も含めて、炉内雰囲気ガスを適切に制御することが重要となる。
従って、この様な還元溶融の進行時期に応じて個別に適切な温度と炉内雰囲気ガス組成の調整を可能にするには、前記図1〜3でも説明した様に還元溶融炉を隔壁によって炉床の移動方向に少なくとも2以上に仕切り、仕切られた区画のうち上流側は固体還元区画、下流側は浸炭・溶融・凝集区画として、夫々の区画で温度および雰囲気ガス組成を個別に制御できる様な構造とすることが望ましい。尚図3では、3枚の隔壁によって4区画に仕切り、より厳密な温度と雰囲気ガス組成の制御が行なえる様にした例を示しているが、こうした分割区画の数は、還元溶融設備の規模や構造などに応じて任意に増減することが可能である。
ところで、上記方法によって得られる金属鉄はスラグ成分を殆ど含んでおらずFe純度の非常に高いものであり、この金属鉄は電気炉や転炉の如き既存の製鋼設備へ送り鉄源として使用されるが、これらを製鋼原料として使用するには、硫黄[S]の含有量をできるだけ低減することが望ましい。そこで、前記金属鉄の製造工程で、鉄鉱石や炭材中に含まれるS成分を可及的に除去して低[S]の金属鉄を得るべく、更に研究を重ねた。
その結果、前記鉄鉱石や炭材を配合して原料成形体を製造する際に、該原料中にCaO源(生石灰の他、消石灰や炭酸カルシウムなどを含む)を積極的に配合し、鉄鉱石等に含まれる脈石成分などのスラグ形成成分も加味した原料成形体中に含まれる全スラグ形成成分の塩基度(即ちCaO/SiO2比)が0.6〜1.8、より好ましくは0.9〜1.5の範囲となる様に成分調整してやれば、最終的に得られる金属鉄中のS含有量を0.10%以下、更には0.05%程度以下にまで低減し得ることが確認された。
ちなみに、炭素質還元剤として最も一般的に用いられるコークスや石炭には通常0.2〜1.0%程度のSが含まれており、これら[S]の大部分は金属鉄中に取り込まれる。一方、CaO源の積極添加による塩基度調整を行なわない場合、鉄鉱石の銘柄などによってかなりの違いはあるものの、原料成形体中に含まれるスラグ形成成分から算出される塩基度は大抵の場合0.3以下であり、この様な低塩基度のスラグでは、固体還元あるいはその後の浸炭・溶融・凝集過程で金属鉄へのSの混入(加硫)が避けられず、原料成形体中に含まれる全[S]のうち概略85%程度が金属鉄中に取り込まれる。その結果として、金属鉄の[S]量は0.1〜0.2%の非常に高い値となり、製品鉄としての品質を損なう。
ところが、上記の様に原料成形体の製造段階でCaO源の積極添加によりスラグ形成成分の組成を塩基度が0.6〜1.8の範囲となる様に調整してやれば、固体還元および浸炭・溶融・凝集の際に副生するスラグ中に上記[S]が固定され、その結果として金属鉄の[S]量を大幅に低減できることが確認された。
該低S化の機構は、原料成形体中に含まれる[S]がCaOと反応し(CaO+S=CaS)、CaSとして固定されるためと考えている。従来、本発明で採用される還元溶融機構が明確にされていない状況の下では、通常の溶銑脱硫で期待される様なCaO添加による脱硫は期待できないと考えられていたが、本発明者らが確認したところでは、固体還元終了時点で還元鉄中に残留する炭素による浸炭によって還元鉄の溶融と凝集およびスラグ分離が進行する際に、スラグ中のCaOがSを捕捉して固定し、金属鉄の[S]含有量を大幅に低減できることが分かった。
こうした低S化機構は、CaO含有スラグを用いた通常の溶銑脱硫とは異なり、本発明の製法を実施する際の特有の反応と考えている。勿論、還元鉄の浸炭・溶融後、副生する溶融スラグとの間で十分な加熱条件下の接触が確保されるならば、液(溶融鉄)−液(溶融スラグ)間の反応により、スラグ中のS含有量(S%)と金属鉄中のS含有量[S%]との比(すなわち、Sの分配比)(S%)/[S%]が決定されることも考えられるが、本発明の方法では、生成した溶融鉄と溶融スラグは、図9(写真)によっても確認できる様にスラグ−メタル間の接触面積は極めて少なく、還元鉄が浸炭・溶融・凝集した後のスラグ−メタル間の平衡反応による低S化はあまり期待できない。従って、本発明で採用される原料成形体中へのCaOの積極添加による脱硫機構は、還元鉄の浸炭・溶融・凝集とスラグ分離が進む過程で生じるCaO特有のS捕捉反応と、それによる金属鉄への加硫防止作用によるものと考えている。
尚、塩基度調整のために添加されるCaO量は、鉄鉱石等に含まれる脈石成分の量や組成、配合する炭材の種類や配合量などに応じて決めるべきであるが、スラグ形成成分全体としての塩基度を上記0.6〜1.8の範囲に調整するための標準的な添加量は、CaO純分換算で成形体全量中に2.0〜7.0%の範囲、より好ましくは3.0〜5.0%の範囲であり、消石灰[Ca(OH)2]や炭酸カルシウム(CaCO3)などを使用する場合の添加量は、上記CaO換算量とする。そして、原料成形体中にたとえば4%のCaCO3を添加してスラグ形成成分の塩基度を約0.9〜1.1に調整した場合は、下記式によって求められる見掛けの脱硫率で45〜50%を確保でき、また約6%のCaCO3を添加してスラグ形成成分の塩基度を約1.2〜1.5に調整した場合は、見掛けの脱硫率で70〜80%を確保できることが確認された。
見掛け脱硫率(%)=[CaO添加原料成形体を用いた時の金属鉄中のS(%)/CaO無添加の原料成形体を用いた時の金属鉄中のS(%)]×100
上記CaO源添加による低S化効果を、箱型電気炉を用いて確認した実験データに基づいて説明する。図10は、鉄鉱石と炭材および少量のバインダー(ベントナイトなど)および適量のCaOを混合して成形した原料成形体を使用し、本発明の方法により還元溶融を行なった時のSの変化を調べた結果を示したものである。
図10中の乾燥成形体は、還元溶融前の原料中に含まれる[S]量を100%とし、炭材(石炭)から約89%、鉄鉱石から約11%のSが原料中に含まれることを示している。この成形体を本発明の方法で還元溶融した場合、前記図4で説明した固体還元完了時点での還元鉄中にはほぼ85%のSが残留しており、約12%はその間に炉外へ揮発除去される。そして、CaO源の添加を行なわなかった成形体(該成形体中のスラグ形成成分組成から求められる塩基度は0.165)を使用した場合は、最終的に得られる金属鉄中に74.8%のSが取り込まれ、スラグ中には10.2%のSが捕捉されることが確認された。
これに対し、CaO源を4.5%添加してスラグ形成成分の塩基度を1.15に調整した成形体を使用した場合は、金属鉄中に取り込まれるS量は43.2%に低減すると共に、スラグに捕捉されるS量は48.8%に増大し、且つ該製造工程で炉外へ揮発除去されるS量は約8%に減少し、またCaO源を5.0%添加してスラグ形成成分の塩基度を1.35に調整した成形体を使用した場合は、金属鉄中に取り込まれるS量は19.7%に低減すると共に、スラグに捕捉されるS量は78.8%に増大し、且つ該製造工程で炉外へ揮発除去されるS量は約1.5%に減少している。
上記箱型電気炉を用いた基礎実験で、CaO源添加による塩基度調整が金属鉄の低S化に極めて有効であることが確認されたので、実証炉を用いて同様の実験を行ない、CaO源の添加量を変えてスラグ塩基度を種々変化させたときの金属鉄の低S化に及ぼす塩基度の定量的な影響を調査した。結果を図11に示す。
この図には、CaO源添加量を変えたときに生成する最終スラグの塩基度と金属鉄中の[S]の関係を図示しており、図中の各点が実績値で、前記箱型電気炉によって得た基礎実験結果を斜線領域で併記している。基礎実験では電気加熱方式を採用しており、雰囲気ガスとして不活性ガスを使用しているため雰囲気の酸化ポテンシャルは低く、見掛けの脱硫には有利な結果となっている。これに対し実証炉の場合は、バーナ燃焼を採用しているので燃焼排ガスの生成により雰囲気ガスの還元度は基礎実験に比べて低くなっており、金属鉄中の[S]量は基礎実験の結果より高くなっている。しかし基本的な傾向は基礎実験結果をほぼ踏襲しており、CaO源を全く添加しない場合[領域(A)]における金属鉄の[S]レベルは概略0.120であるが、塩基度を約1.0に調整すると、領域(B)の如く[S]量は0.050〜0.080%まで低下し、見掛けの脱硫率は約33〜58%となっている。更に塩基度を1.5にまで高めると、領域(C)の如く金属鉄中の[S]は概略0.050%にまで低減できることを確認できる。
尚、塩基度が1.8以上になるまでCaO源を添加すると、生成スラグの融点が上昇するため操業温度を過度に高めなければならなくなり、炉の損傷が加速されると共に熱経済的にも不利であり、更には還元鉄の凝集性能も低下し、得られる金属鉄が微粒化して製品価値が損なわれるので好ましくない。
これらの実験からも明らかな様に、原料成形体中に適量のCaO源を積極添加してスラグ形成成分の塩基度を約0.6以上に高めると、生成スラグのS捕捉能が著しく高められて金属鉄中に取り込まれるS量が大幅に低減され、金属鉄の低S化が達成される。しかも前記図10で説明した様に、一連の金属鉄製造工程でSOx等として炉外へ排出されるS量も大幅に低減するので、排ガスによる大気汚染が軽減されると共に、排ガスの脱硫処理を行なう場合でも、脱硫負荷を大幅に軽減できる。
尚、低S化のために上記CaO源の添加を行なった場合、添加量によっては副生スラグの低融点化によって還元溶融期に低融点スラグの滲み出しが起こり易くなり、炉床耐火物の溶損を招く恐れがある。しかし本発明を実施する際には、前述した如く固体還元期と浸炭・溶融・凝集期の2段加熱方式を採用し、固体還元期を1200〜1400℃、浸炭・溶融・凝集期を1350〜1500℃の好ましい温度条件に設定し、副生スラグの融点以下の温度で固体還元を十分に進めてから、一部残留するFeOの還元と還元鉄の浸炭・溶融・凝集を進めることによって、好ましくない副生スラグの滲み出しは最小限に抑えることができる。
上記の様に本発明によれば、鉄鉱石と炭材を含む原料成形体を固体還元してから浸炭・溶融・凝集させて金属鉄を製造する際に、特に浸炭・溶融時における雰囲気ガスの還元度を0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上に制御することによって、還元鉄の再酸化を生じることなくFe純度の非常に高い粒状の金属鉄を得ることができ、また原料成形体中にCaOを積極的に添加してスラグ形成成分の塩基度を調整することによって該金属鉄の低S化を果たすことができる。そして得られる粒状の金属鉄は、冷却凝固させてから篩分けなどにより凝固スラグと分離し、各種製鉄・製鋼炉の溶解原料として利用できる。
しかし本発明で還元溶融炉から取り出される金属鉄は、融点以下の温度に冷却されているとはいえ依然として800〜1200℃の高温状態にあり、これを更に常温にまで冷却してから製鋼炉などへ供給することは、熱エネルギー的に無駄が生じる。そこで、該高温状態の金属鉄の保有熱を有効に活用し、該高温の金属鉄をそのまま、或いは更に加熱溶融してから製鋼炉へ供給する一環製鉄・製鋼ラインを組めば、熱ロス低減の上でも極めて実用的となる。
勿論、既存の還元鉄製造プロセスにおいて、得られる高温の還元鉄を冷却することなく隣設した電気炉などの製鋼炉へ適正量添加することにより電気炉などの電力原単位を節約し、且つ生産性を改善する技術、更には、石炭ベースの炭材を用いて還元鉄製造炉で製造された高温の還元鉄を引き続き溶融炉へ供給して溶湯を製造する製鉄・製鋼法(国際公開No.99/11826号)等は公知となっている。しかしこれらの公知技術は、所謂還元鉄であって内部に灰分や脈石成分由来のスラグが相当量含まれていること、また還元末期に再酸化を受けた酸化鉄も含まれていること、また石炭ベースの還元剤を用いた還元鉄では多量のSが含まれていること、等の点で、浸炭・溶融・凝集してスラグ成分の完全分離された金属鉄を使用する一環プロセスとは区別される。
特に低S化された金属鉄を使用する一環プロセスでは、精錬炉における脱硫負荷が軽減されることから、鉄源の還元溶融と溶解精錬を含めた製鉄・製鋼一環システムとして極めて有益で幅広く実用可能な生産方式を構築できる。
ちなみに図12は、こうした一環生産方式の一例を示す説明図であり、工程Aは、還元溶融炉で製造されたスラグフリーの金属鉄を一旦常温まで冷却してから電気炉などの製鋼炉に適量供給し製鋼原料として利用する製鋼方式、工程Bは、高温の金属鉄を、近接して設置した電気炉などの製鋼炉に高温状態(800〜1200℃)を保ったままで供給し、熱補給のための電力原単位を低減可能にした方式、工程Cは、高温の金属鉄を、隣設した専用の金属鉄溶融炉へ全量送って加熱溶融し、これを製鋼炉へ溶融鉄として供給する方式、をそれぞれ示している。即ち本発明によって得られる金属鉄は、スラグフリーで鉄分純度が高く、更に塩基度調整により低S化を進めたものはS含有量も少ないので、これを製鋼原料として利用する一環システムを構築することにより、電気炉などの電力原単位を低減し、或いは脱硫負荷を軽減しつつ安定した品質の溶鋼を生産性良く製造することが可能となる。
以下、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1
鉄源としてのヘマタイト系鉄鉱石と石炭および少量のバインダー(ベントナイト)を均一に混合して直径約19mmの原料成形体を製造し、これを用いて金属鉄の製造を行なった。即ちこの成形体を、前記図1〜3に示した様な回転炉床型の還元溶融炉へ装入し、雰囲気温度を約1350℃に制御して金属化率が約90%となるまで固体還元を進める。その後、引き続いて雰囲気温度を1440℃に設定した浸炭・溶融・凝集ゾーンへ送って浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離を行ない、スラグフリーの金属鉄を製造した。
この時、炉床上には予め粒径が2mm以下の石炭粒を雰囲気調整剤として約5mmの厚さで敷き詰めてから原料成形体を装入することにより、浸炭・溶融・凝集期の雰囲気ガスの還元度が0.60〜0.75の範囲となる様に制御した。この時の原料配合、固体還元終了時の還元鉄組成、最終的に得られた金属鉄の成分組成、生成スラグの組成などを図13に示した。
溶融・凝集しスラグとほぼ完全に分離した金属鉄を冷却ゾーンに送って1000℃まで冷却し凝固させてから排出機によって炉外へ排出し、回収された金属鉄、副生スラグおよび余剰炭材の生成比率と夫々の組成分析を行なった。なお、還元溶融炉における浸炭・溶融直前の還元鉄を抜き出して組成分析を行なったところ、金属化率は約90%、残留炭素量は4.58%であった。上記原料成形体の装入から金属鉄として取り出すまでの時間は約9分と極めて短時間であり、得られた金属鉄のC含有量は2.88%、Si含有量は0.25%、S含有量は0.175%であり、この金属鉄は副生するスラグと簡単に分離することができた。最終的に得られた金属鉄の外観を図14(写真)に示す。
実施例2
鉄源としてマグネタイト系鉄鉱石を使用し、これを石炭と少量のバインダー(ベントナイト)およびスラグ塩基度調整のため5%のCaCO3と共に均一に混合し、造粒して直径約19mmの原料成形体を作製した。
この原料成形体を、雰囲気調整剤としての石炭粒(平均粒径:約3mm)を約3mmの厚さで敷き詰めた炉床上に装入し、前記実施例1と同様に雰囲気温度を約1350℃に維持しつつ金属化率がほぼ100%となるまで固体還元を進め、しかる後、1425℃に保った溶融領域へ送って浸炭・溶融と凝集および副生スラグの分離を行ない、スラグフリーの金属鉄を製造した。この時の原料配合、固体還元終了時の還元鉄組成、最終的に得られた金属鉄の成分組成、生成スラグの組成などを図15に示した。
溶融・凝集しスラグとほぼ完全に分離した金属鉄を冷却ゾーンに送り、1000℃まで冷却し凝固させてから排出機により炉外へ排出し、回収された金属鉄、副生スラグおよび余剰炭材の生成比率と夫々の組成分析を行なった。なお、還元溶融炉における浸炭・溶融直前の還元鉄を抜き出して組成分析を行なったところ、金属化率は約92.3%、残留炭素量は3.97%であった。上記原料成形体の装入から金属鉄として取り出すまでの時間は約8分と極めて短時間であり、得られた金属鉄のC含有量は2.10%、Si含有量は0.09%、S含有量は0.065%であった。即ちこの実験では低S化のためのCaO源の添加を行なっているため、前記実施例1よりも低S化が達成されている。
この実施例では、CaO源添加による副生スラグの低融点化によって固体還元の後半期に溶融スラグの滲み出しが懸念されたが、固体還元期の温度を1200〜1400℃に設定し、固体還元により高い金属化率の還元鉄としてから1350〜1500℃に昇温する2段加熱方式を採用し、且つ炉床面に石炭粉を雰囲気調整剤として敷き詰めておくことで、溶融スラグの滲み出しによる炉床耐火物溶損の問題は全く生じなかった。
また、固体還元末期の還元鉄を抜き出して微視的構造を詳細に調べたところ、CaO源を添加しなかった前記実施例1では、還元鉄表面に高濃度のFe−(Mn)−Sの存在が確認され、これが浸炭・溶融時に溶鉄内に取り込まれることが確認されたのに対し、CaO源を添加した本実施例では、固体還元の末期にSの殆どはCaO源と反応して固定され、浸炭・溶融工程で溶鉄内へのSの混入は抑えられることが確認された。
更に上記の実験で、雰囲気調整剤として使用する石炭粉の粒度を2.0mm以下の細粒物に代えた以外は前記と同様にして実験を行なったところ、得られる金属鉄中のS含有量は0.032%にまで低減することが確認された。
実施例3
石灰石を5.0%配合した粒径19〜20mmの原料成形体を使用し、前記実施例2と同様の方法で固体還元および浸炭・溶融・凝集を行なって粒状の金属鉄を製造した。この金属鉄を800℃まで冷却して取り出し、その温度を保って直ちに電気炉の鉄源として約40%(それ以外は鉄スクラップ)配合して溶融した。
その結果、電気炉における消費電力は、スクラップ100%操業時の448kWh/tに比べて約68kWh/t(約15%)抑えられ、且つ溶融時間の短縮に伴なって生産性は約14%向上できることが確認された。更に、金属鉄のS含有量は0.018%で、目標溶鋼のS含有量とほぼ同レベルまで低減されているため、電気炉での脱硫負荷は大きく軽減され、安定して効率よく操業できることが確認された。またこの金属鉄は実質的にスラグが含まれていないので、得られる溶鋼の不純介在物量は少なく、高品質の溶鋼を得ることができる。
比較例1
前記実施例1と同様にして粒状金属鉄を製造する際に、固体還元がほぼ完了し、生成した微細粒状還元鉄への浸炭と溶融が進行する浸炭・溶融区画における雰囲気ガスの還元度が0.35〜0.45の範囲となる様に雰囲気調整を行なった以外はほぼ同様にして実験を行なった。その結果、得られた金属鉄は、図16に示す如く一部スラグを巻き込んだ殻状塊成物となり、Fe純度は約90%以下で劣悪であると共に、C含有量も低く(約0.7%以下)、商品価値の劣悪なものであった。
この結果からも明らかな様に、浸炭・溶融・凝集期の還元度が0.5未満であるときは、雰囲気ガスに残留炭素量が消耗されると共に、微小且つ活性な還元鉄が再酸化を起こし易く、更には浸炭も十分に進まないため1500℃以下の温度では溶融し難くなり、副生スラグの分離も効率よく進行せず、Fe純度の高い粒状金属鉄を得ることができない。