JP3844873B2 - 金属鉄の製法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鉱石等の酸化鉄を炭材等の炭素質還元剤と共に加熱還元して金属鉄を得る技術の改良に関し、特に、鉄鉱石等の酸化鉄を炭材などの炭素質還元剤と共に加熱して還元し金属鉄を得る際に、必要最小限の炭素質還元剤で酸化鉄を金属鉄にまで効率よく還元すると共に、鉄鉱石などの酸化鉄源中に脈石成分等として混入してくるスラグ成分をうまく溶融分離し、高純度の金属鉄を効率よく製造することのできる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鉱石や酸化鉄ペレット等の酸化鉄を炭材等の炭素質還元剤や還元性ガスにより直接還元して還元鉄を得る直接製鉄法としては、従来よりミドレックス法に代表されるシャフト炉法が知られている。この種の直接製鉄法は、天然ガス等から製造される還元ガスをシャフト炉下部の羽口より吹き込み、その還元力を利用し酸化鉄を還元して還元鉄を得る方法である。また最近では、天然ガスに代わる還元剤として石炭等の炭材を使用する還元鉄製造プロセスが注目されており、具体的には、鉄鉱石等の焼成ペレットを石炭粉と共にロータリーキルンで加熱還元する、所謂SL/RN法がすでに実用化されている。
【0003】
また他の還元鉄製造法として米国特許第3,443,931号公報には、炭材と粉状酸化鉄を混合して塊状化し、ロータリーハース上で加熱還元して還元鉄を製造するプロセスが開示されている。このプロセスは、粉鉱石と粉炭を混合して塊状化し、これを高温雰囲気下で加熱還元するものである。
【0004】
これらの方法で製造された還元鉄は、そのまま或はブリケット状等に成形してから電気炉へ装入し、鉄源として用いられる。近年、鉄スクラップのリサイクルが活発化するにつれて、上記方法によって得られる還元鉄はスクラップ中に混入してくる不純物元素の希釈材として注目されている。
【0005】
ところが従来の還元製鉄法によって得られる還元鉄には、原料として用いた酸化鉄(鉄鉱石など)や炭材(石炭など)に含まれるSiO2 、Al23 、CaO等のスラグ成分がそのまま混入してくるため、製品の鉄品位(金属鉄としての純度)は低くなる。実用に当たっては、次の精錬工程でこれらのスラグ成分は分離除去されるが、スラグ量の増加は精錬溶湯の歩留りを低下させるばかりでなく電気炉の操業コストにも大きな影響を及ぼすので、鉄品位が高くスラグ成分含有量の少ない還元鉄が求められているが、前述の如き従来の還元鉄の製法でこうした要求に応えるには、還元鉄製造原料として鉄品位の高い鉄鉱石を使用しなければならず、実用可能な製鉄原料の選択の幅を大幅に狭めることになる。
【0006】
他方、酸化鉄を直接還元して還元鉄を得る方法としてDIOS法等の溶融還元法も知られている。この方法は、酸化鉄を予め鉄純度で30〜50%程度にまで予備還元しておき、その後、鉄浴中で炭素と直接還元反応させることによって金属鉄にまで還元を行う方法であるが、この方法は予備還元と鉄浴中での最終還元の2工程が必須になるため作業が煩雑であるばかりでなくで、鉄浴中に存在する溶融酸化鉄(FeO)と耐火物が直接接触するため、耐火物の損耗が激しいという問題も指摘される。
【0007】
更に特公昭56−19366号公報には、金属酸化物と固体炭素質材料およびスラグ形成材を含む集塊物を加熱・還元し、該集塊物の形状を保ちながら、還元により生成した金属鉄をスラグシェルで包む様な状態を形成し、その後スラグシェルを溶融させて金属鉄とスラグを分離する方法を開示している。ところがこの方法では、還元により生成した金属の再酸化を阻止するため、該金属を完全に包み込むに足る量のスラグを生成させなければならず、スラグ形成材の配合量が不足すると金属の包み込みが不十分となって金属の再酸化が避けられなくなる。しかも加熱還元条件によってはFeO濃度の高いスラグが生成し、設備の内張り耐火物を著しく損傷するという、実用化する上で大きな問題も生じてくる。
【0008】
上記の様に、スラグ成分含有量の少ない金属鉄を製造する方法の実現は、製品金属鉄としての付加価値を高めるばかりでなく、電気炉を用いた製鉄コストの低減、更には金属鉄製造における使用原料の選択の柔軟性という観点から極めて重要になってくる。また、加熱・還元により副生するスラグ中の酸化鉄含有量を極力少なくし、耐火物の溶損を抑えることは、この種の製鉄法を工業的規模で実現可能にする上で極めて重要となる。
【0009】
本発明者らはこうした状況に着目し、鉄成分含有量の高い酸化鉄はもとより鉄成分含有量の比較的低い鉄鉱石等からでも、耐火物の溶損などを生じることなく鉄純度の極めて高い金属鉄を、簡単な処理で効率よく得ることのできる技術の開発を期してかねてより研究を進めており、その研究成果として下記の方法を開発し、先に特開平9−256017号として提案した。
【0010】
この発明は、炭素質還元剤が存在する酸化鉄の成形体を加熱還元して金属鉄を製造する際に、
▲1▼加熱還元により金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部には酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進めると共に、内部に生成スラグの凝集物を形成し、
▲2▼加熱還元により金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部に酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進め、更に加熱を続けて内部に生成するスラグを金属鉄外皮の外側へ流出させ、
▲3▼加熱還元により金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部には酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進め、更に加熱を続けて金属鉄とスラグを溶融分離し、あるいは
▲4▼加熱還元により金属鉄外皮を生成且つ成長させ、内部には酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進めると共に、内部に生成スラグの凝集物を形成させ、次いで生成スラグを金属鉄から分離する
ところに特徴を有している。
【0011】
上記▲2▼の方法を実施するに当たっては、金属鉄外皮の一部を溶融させることによって、内部の溶融スラグを金属鉄外皮外へ流出させればよく、この際、あるいは前記▲3▼の方法を実施するに当たり、金属鉄外皮の一部もしくは全部を溶融させるには、金属外皮内に存在する炭素質還元剤を金属鉄に溶解(固溶)させること(この現象を”浸炭”ということもある)によって当該金属外皮の融点を降下させればよい。
【0012】
尚上記公開発明において、「金属鉄外皮内部に酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進める」ことの好ましい定量的基準は、加熱還元工程で、「FeOを主体とする酸化鉄の含有率が5重量%以下、より好ましくは2重量%以下となるまで還元を進めること」であり、また別の観点からすると、還元反応によって生成する金属鉄から分離される生成スラグ中のFeOを主体とする酸化鉄の含有量が、5重量%以下、より好ましくは2重量%以下となるまで還元を進めることが望ましい。
【0013】
そして、この方法によって得られる高純度の金属鉄および生成スラグは、加熱溶融した状態で比重差により分離し、あるいは冷却固化してから磁選等により分離すると、金属化率で95%程度以上、更には98%以上といった非常に高純度の金属鉄を得ることができ、しかもこの公開発明によれば、生成スラグ中の酸化鉄含有量を可及的に少なくすることができるので、酸化鉄に起因する処理炉耐火物の溶損も起こらず、設備保全の観点からしても極めて実用性の高い技術として、その実用化が期待される。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは上記公開発明の基本的な技術思想を活用し、これを工業的規模でより経済的に効率よく実現可能にすべく、特に酸化鉄の還元に用いられる炭素質還元剤の消費量低減と消費熱量の低減を期して更に研究を進めてきた。
【0015】
即ち上記公開発明では、前述の如く炭素質還元剤が存在する酸化鉄の成形体を加熱還元し、該成形体の周りに金属鉄外皮を生成且つ成長させて、内部には酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進めると共に、内部に生成スラグを凝集分離することを基本とする直接還元製鉄法であり、該還元を効率よく進めるには、成形体中に含まれる被還元成分である酸化鉄に対して過剰量の炭素質還元剤を使用しなければならず、また生成する金属鉄を生成スラグから効率よく分離するには、該金属鉄への炭素の固溶量(浸炭量)を増やすことによって金属鉄の融点を低下させることが有効となる。
【0016】
こうした理由もあって、上記公開発明では、原料酸化鉄に対し炭素質還元剤を理論当量を超えてかなり過剰に使用している。ところがこの公開発明を工業規模で実用化する際に、原料中の炭素質還元剤が占めるコスト比率はかなり高く、該炭素質還元剤の消費量を必要最小限に抑えることは、この方法の工業化を実現するうえで極めて重要となる。また、この加熱還元には多大な熱エネルギーを必要とするので、該熱エネルギーを必要最小限に抑えることも極めて重要となる。
【0017】
本発明はこうした事情に着目してなされたものであって、その目的は、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する際に、炭素質還元剤の消費量と加熱還元に要する熱エネルギーを必要最小限に抑え、酸化鉄の還元を実用規模でより低コストで効率よく遂行することのできる方法を確立しようとするものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る金属鉄の製法は、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する方法において、前記成形体中の有効炭素量を、該成形体中の酸化鉄を還元するのに必要な化学量論量CA に対し、CA 〜{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}[式中、T.Feは酸化鉄中の全Fe含有率(重量%)を表わす]の範囲に調整すると共に、加熱還元温度を、前記過剰量の有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度TA 〜(TA +50)℃の温度範囲、もしくは1350〜1400℃の温度範囲のうち高い方の温度範囲内に制御するところに特徴を有している。
【0019】
また上記本発明を別の観点から見ると、上記加熱還元温度を、前記有効炭素量がCA 〜{CA +[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}であるときは、前記化学量論量を超える有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度TA 〜(TA +50)℃の温度範囲内に、また前記有効炭素量が{CA +[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}超、{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}以下であるときは、1350〜1400℃の温度範囲内に制御する方法として位置付けることもできる。
【0020】
【発明の実施の形態】
上記の様に本発明では、炭素質還元剤(以下、炭材ということもある)が存在する酸化鉄(以下、鉄鉱石ということもある)の成形体を加熱還元して金属鉄を製造する際に、成形体中の炭材量を必要最小限に抑えると共に、加熱還元時の温度を可及的に低くすることによって消費熱エネルギーの低減を可能にしたものであり、以下、本発明で定める前記炭材量や加熱温度を定めた理由を詳細に説明していく。
【0021】
炭材と酸化鉄を含む成形体を加熱すると、下記反応式によって還元反応が進行し還元鉄(金属鉄)が生成する。
FeOx + xC → Fe + xCO……(1)
FeOx + (x/2)CO → Fe + (x/2) CO2 ……(2)
Y=y1 +y2 ……(3)
但し、Y:還元に必要なCの化学当量(mol)
1 :(1)式の反応に必要な炭素量(mol)
2 :(2)式の反応に必要な炭素量(mol)
【0022】
従って、加熱還元の原料となる炭材と酸化鉄を含む成形体を製造する際の酸化鉄に対する炭材の配合比率は、上記(3)式で示される理論当量以上に設定しなければならない。一方、理論当量を超えて配合された炭材中の過剰Cは、還元により生成した金属鉄に固溶し、図1のFe−C状態図に示す如く金属鉄の融点を低下させる。そして、Cが固溶した金属鉄の融点よりも加熱温度が高くなると、該金属鉄は溶融し、生成スラグとの分離が進行する。
【0023】
即ち上記成形体中に配合される炭材の配合量は、酸化鉄の還元に要する理論当量以上とすべきであることは当然として、それを超える過剰量は生成する金属鉄への固溶による融点の低下、延ては生成スラグとの分離を効率よく進めるための加熱温度にも大きくかかわってくる。そこでこうした知見を基に、酸化鉄の還元と金属鉄へのCの固溶(それに伴う融点降下)に最も無駄のない最適炭材配合量と加熱温度を明らかにすべく研究を進めてきた。
【0024】
その結果まず炭材量については、炭材中に含まれる有効炭素量基準で、酸化鉄の還元に要する化学量論量CA 以上で且つ{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}以下に抑えるのが最も効果的であることを確認した。ここで炭材中の有効炭素量とは、酸化鉄の還元と金属鉄の浸炭に有効に消費される炭素分を意味しており、即ち、酸化鉄と混合して成形体を製造する際の加熱乾燥工程、あるいは加熱還元のための昇温工程で還元反応が開始する温度に至るまでの間に炭化水素ガスなどとして揮発する炭素分を除いた炭素分を意味する。
【0025】
そして、炭材中の有効炭素量が上記化学量論量CA 未満では、炭素量不足になって全酸化鉄の還元を完結させることができず、また生成した金属鉄へのCの固溶による融点降下による加熱温度の低減効果も期待できなくなる。そして上記化学量論量CA を超える過剰分の有効炭素は、図1にも示した様に、生成する金属鉄に固溶してその融点を降下させ、結果として、より低温でのスラグ分離を可能とするが、こうした浸炭(Cの固溶)による金属鉄の融点降下は{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}で下限となり、それ以上にC固溶量が増大すると融点は上昇してくる。即ち、{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}を超える過剰量の有効炭素は、酸化鉄の加熱還元には無駄であるばかりでなく、生成する金属鉄の融点降下とそれに伴う加熱温度の低下には却ってマイナスとなり、更には後述する如く成形体の圧潰強度も低下して加熱還元時に崩壊し易くなる傾向も生じてくるので、有効炭素量の上限は{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}と定めた。
【0026】
一方加熱還元温度については、前記過剰量の有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度TA 〜(TA +50)℃の温度範囲、もしくは1350〜1400℃の温度範囲のうち高い方の温度範囲に制御することが必要となる。即ち加熱温度の下限は、第1の要件として、前記過剰量の有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度TA 以上としなければならず、該加熱温度が上記液相線温度TA 未満では、Cが固溶した金属鉄が溶融しないため生成スラグとの分離が進行し得なくなる。但し、加熱温度がたとえ前記液相線温度TA 以上であっても、該加熱温度が1350℃未満の低温域では過剰炭素の固溶速度が著しく低下し、本発明で一応の目標還元時間とする「20分以下」では金属鉄の融点が1350℃以下にまで下がらず、生成スラグとの分離が進行し得なくなる。
【0027】
この様な理由から、加熱温度の下限は、上記「液相線温度TA または1350℃」の高い方の温度とすべきであるが、加熱温度を過度に高めることは熱エネルギー消費量の増大につながり、無為にランニングコストの増大を招くだけであるので、実操業への適用を考慮して好ましい加熱温度の上限は「(TA +50)℃または1400℃」の高い方の温度と定めている。
【0028】
かくして本発明で定める有効炭素量と加熱温度の好適範囲は、図1に斜線で示す領域となり、該狭い範囲の固定炭素配合量と加熱温度を採用することによって、酸化鉄の加熱還元をより少ない炭材量と熱エネルギーで効率よく遂行することができる。
【0029】
なお図1からも明らかである様に、上記好適加熱温度を示す斜線領域はFe中のC固溶量が2.4%の前後で変化しており、C固溶量が0〜2.4%の範囲では好適加熱温度は液相線Lに沿って変化し、C固溶量が2.4を超えると好適加熱温度は1350〜1400℃の一定範囲となる。こうした傾向より、前記有効炭素量がCA 〜{CA +[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}であるときは、前記化学量論量を超える有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度TA 〜(TA +50)℃の温度範囲内に、また前記有効炭素量が{CA +[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}超、{CA +[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}以下であるときは、1350〜1400℃の温度範囲内に制御する方法と言い替えることもできる。
【0030】
本発明を実施する際に用いられる炭素質還元剤としては、採掘後粉砕・篩い分け等の処理を加えただけの石炭粉、乾留等の熱処理を施した例えばコークスを粉砕したもの、石油コークスなど、その種類の如何は一切問わず、例えば炭素質を含む廃棄物として回収される高炉ダスト等であっても構わない。但し本発明で使用する炭素質還元剤は、加熱還元反応を効率よく進行させるため、有効炭素量が70重量%以上、より好ましくは80重量%以上のものを選択し、且つ比表面積を高めるため粒径が2mm以下、望ましくは1mm以下の粉状のものを使用することが望ましい。また鉄鉱石等の酸化鉄についても、同様に比表面積を大きくして還元反応効率を高めるため、粒径が2mm以下、望ましくは1mm以下の粉状のものを使用するのがよい。
【0031】
本発明では、これらの炭素質還元剤と酸化鉄を前記好適配合比率となる様に混合し、必要により適当なバインダーを併用して塊状、粒状、ペレット状、ブリケット状など任意の形状に成形し、炭素質還元剤の配合量、即ち有効炭素量に応じて前述の如く加熱還元温度を好適範囲に制御することにより、金属鉄を経済的に効率よく製造することができる。
【0032】
【実施例】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、下記実施例はもとより本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実験例
表1に示す組成の鉄鉱石と炭材およびバインダーを同表に示す比率で配合し、造粒して得た平均径17mmのペレットを使用し、下記の如く加熱温度を数水準変更して加熱還元を行ない、酸化鉄の還元・溶融挙動を観察した。なお表2に、炭材の配合比率と還元後の過剰炭素量(配合した酸化鉄を還元するのに必要な化学量論量に対して過剰の有効炭素量:理論値)および該過剰炭素量が全量金属鉄に固溶したと仮定したときの金属鉄の融点を示す。
(加熱条件)
加熱温度:1200〜1500℃
加熱雰囲気:N2
加熱時間:20分
【0034】
【表1】
Figure 0003844873
【0035】
【表2】
Figure 0003844873
【0036】
上記実験で得られた還元処理物の化学組成と金属鉄の溶融状態を表3に示すと共に、ペレット製造時の炭材配合量と加熱温度が、生成する金属鉄の溶融状態に及ぼす影響を図2に一覧表として示す(図2中に記載したNo.1〜10は、表3の試料No.に対応している)。また図3には、上記実験で得た還元処理物のの断面写真、図4にはその一部の外観写真を抜粋して示し、図5には、表3における試料No.8で得た還元生成物の断面写真[図5(A)]とその顕微鏡写真[図5(B)]を示す。
【0037】
尚、図3,5の写真において、白く現われているのは還元鉄が溶融し凝集したものを示し、灰色〜黒色の部分は生成スラグを示している。また図5(B)の灰色地にアメーバー状に現われているのは、金属鉄に固溶することなく残存した固体Cを示している。
【0038】
【表3】
Figure 0003844873
【0039】
表1〜3および図2〜5より次の様に解析することができる。
試料No.1〜4は、炭材配合量に応じて還元時の加熱温度を適正に制御した実施例で、いずれも還元により生成した金属鉄が十分に溶融し、殆んど1塊りに凝集しており、「T.Fe」、「M.Fe」、「金属化率」の何れにおいても非常に高い値が得られている。
【0040】
これらに対し試料No.5〜10は、炭材の有効炭素量に対して還元時の加熱温度が不足する比較例であり、還元生成物の断面には部分的に金属鉄の凝集物が見られるものの、全体が溶融・凝集するまでには至っておらず、酸化鉄の還元と生成した金属鉄へのCの固溶とそれに伴う融点の降下が不十分で、例えばNo.5,6,8では部分的に金属鉄外皮の生成は見られるが、内部にも無数の金属鉄が分散しており、溶融が不十分でスラグとの分離が十分に進行しておらず、またNo.7,9,10では金属鉄外皮そのものが殆んど生成しておらず、金属鉄と生成スラグの分離が殆んど行なわれていない。
【0041】
更にスラグ成分(CaO+SiO2 +Al23 )を見ると、試料No.1〜4(実施例)では何れもスラグ含有量は1重量%以下の極めて低い値を示しており、スラグ分離がほぼ完全に行なわれているのに対し、No.5〜10では何れも7重量%前後のスラグが混入しており、スラグ分離が不十分であることを確認できる。
【0042】
また、図5(B)(No.8で得た還元生成物の断面拡大写真)からも明らかである様に、還元時の加熱温度が低過ぎる場合は、還元に必要な化学量論量のCに対して過剰量のCが金属鉄に固溶することなく固体Cとして系内に残存しており、このことからも、加熱温度不足のために金属鉄へのCの固溶が十分に進まず、金属鉄の溶融が不十分になっていることを確認できる。
【0043】
また下記表4は、炭材配合量がペレットの圧潰強度に与える影響を調べた結果(ペレットの製法は前記と同じ)を示したものであり、炭材配合量の増大によってペレットの圧潰強度は大幅に低下してくることが分かる。従って、ペレットの圧潰強度を高めて加熱還元時におけるペレットの破壊や崩壊、更には粉化を抑えて加熱還元を効率よく進めるうえでも、炭材の配合量は必要最小限に抑えるべきである。
【0044】
【表4】
Figure 0003844873
【0045】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、炭素質還元剤の配合量を、酸化鉄の還元に要する化学量論量と生成する金属鉄への固溶量、更には該C固溶に伴う金属鉄の融点を考慮して加熱温度を適正に制御することにより、必要最小限の炭素質還元剤の使用量と加熱温度で酸化鉄の加熱還元と溶融によるスラグとの分離を効率よく進めることができ、工業的規模でのより経済的で実用性の高い金属鉄の製法を確立できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明法における過剰有効炭素量と還元時の好適加熱温度範囲を、Fe−C状態図によって説明するための図である。
【図2】酸化鉄の還元に必要な化学量論量のCに対する過剰C量と還元時の加熱温度が、生成する金属鉄の溶融状態に与える影響を、表形式で示した図である。
【図3】上記図2および表3のNo.1〜10で得た還元生成物の断面写真である。
【図4】実験例で得た加熱還元生成物の一部を抜粋し、過剰有効炭素量と加熱温度および還元生成物の外観写真を表形式にまとめた図である。
【図5】実験例のNo.8で得た還元生成物の図面代用断面写真および断面拡大写真である。

Claims (2)

  1. 炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する方法において、前記成形体中の有効炭素量を、該成形体中の酸化鉄を還元するのに必要な化学量論量Cに対し、C〜{C+[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}[式中、T.Feは酸化鉄中の全Fe含有率(重量%)を表わす]の範囲に調整すると共に、加熱還元温度を、前記化学量論量を超える有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度T〜(T+50)℃の温度範囲、もしくは1350〜1400℃の温度範囲のうち、高い方の温度範囲内に制御することにより前記金属鉄を溶融させることを特徴とする金属鉄の製法。
  2. 炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する方法において、前記成形体中の有効炭素量を、該成形体中の酸化鉄を還元するのに必要な化学量論量Cに対し、C〜{C+[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}の範囲に調整すると共に、加熱還元温度を、前記有効炭素量がC〜{C+[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}であるときは、前記化学量論量を超える有効炭素が全量金属鉄に固溶したと仮定した時のFe−C系状態図における液相線温度T〜(T+50)℃の温度範囲内に、また前記有効炭素量が{C+[(0.024)/(1−0.024)]×T.Fe}超、{C+[(0.043)/(1−0.043)]×T.Fe}以下であるときは、1350〜1400℃の温度範囲内に制御することにより前記金属鉄を溶融させることを特徴とする金属鉄の製法。
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