JP4265726B2 - 湿潤時の密着性が良好な表面処理剤、前記表面処理剤を用いた工法及び鋼矢板 - Google Patents

湿潤時の密着性が良好な表面処理剤、前記表面処理剤を用いた工法及び鋼矢板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理剤に関する。更に詳しくは、摩擦低減剤又は土付着防止剤として用いる表面処理剤、並びに、該表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法、推進工法、土付着防止用鋼矢板、及び、土付着防止工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築分野や土木分野の基礎工事等においては、工事を行うために設備や経費、日数等がかかることから、これらを抑制して効率よく行うことや、地盤中に埋設された基礎構造物が破損すると、その修復等に多大な労力を費やすことから、このような不具合の発生を抑制することが切望されていた。これらを改善することができれば、基礎工事等にかかる費用を抑え、かつ迅速に工事を完了することが可能となる。
【0003】
このような基礎工事等においては、例えば、タンク類、貯水槽、ヒューム管、鋼管、鋼管杭等を地中に埋設するための潜函工法、推進工法等の工事では、土圧や土との摩擦により基礎構造物を土中に沈下させたり押し進めたりすることが困難である等の各種の問題があった。これら各種の工事により地下に埋設された基礎構造物では、基礎構造物表面と周辺地盤との間の摩擦(ネガティブフリクション)により破損する等の問題もあった。
【0004】
また、土止め擁壁を利用した地下掘削、基礎構造物埋設工法等でよく利用される鋼矢板等の仮設鋼材等を用いる工事では、工事終了後の引抜き回収作業において土が付着してくることから、回収後、平行に積み上げることができないので、回収後の仮置きが困難であるという問題や、仮設鋼材は回収後の再使用が前提であるので、工事業者から仮設鋼材のリース業者へ返却する際に仮設鋼材の洗浄費用を払わなければならないという問題等があった。
【0005】
このような問題について、種々検討されている。例えば、ベントナイトモルタルや地盤と鋼材との摩擦力を低減する技術として、特開昭63−165615号公報には、揮発性膜形成樹脂と高吸水性樹脂を塗布して膜を形成することに関し、揮発性膜形成樹脂として天然ゴムや合成ゴム、プラスチックを水に懸濁させたラテックスを用いることが開示されている。また、地盤と杭等の基礎構造物との摩擦力を低減する技術として、特開昭58−191816号公報には、実施例において吸水膨潤性樹脂とポリビニルアルコール等の樹脂溶液又はポリプロピレングリコール等の非水系の液体に混合した分散液が開示され、特開昭63−27619号公報には、実施例においてポリビニルブチラールとゼラチン又は寒天の微粉末が混入され、アルコールを溶剤とした水膨潤性塗料が開示されている。
【0006】
これらの技術では、基材表面に吸水性樹脂が付着されることになるが、例えば、基材が地盤に埋め込まれるときや埋め込まれた後に吸水性樹脂が膨潤、剥離することにより地盤との摩擦を低減することを目的としている。
しかしながら、基材表面に付着された吸水性樹脂のすべてが膨潤してしまう時間が早すぎることから、地盤中で長期にわたってその効果が持続しなかったり、基材表面に吸水性樹脂を付着させるバインダーの密着力が不足したりするという問題があった。例えば、地下水の多い地盤では、摩擦低減効果を長期間維持することができず、また、膨潤後の吸水性樹脂が基材表面から脱落してその効果を充分に発揮することができなかった。
【0007】
また、これらの技術では、吸水性樹脂を基材表面に付着させる際に、PVAやラテックスをバインダーとして用いるために水を使用することになるが、予め水を混合すると吸水性樹脂が膨潤するため、(1)バインダーとなる成分を先に基材に塗布し、乾燥しない間に、その上に吸水性樹脂を撒いたり、(2)水と混合し、粘土状になったものを基材に塗り付けたりすることにより塗布膜を形成させている。
【0008】
しかしながら、(1)の吸水性樹脂を撒く場合では、吸水性樹脂が均一に塗布できず、また、吸水性樹脂とバインダーとの密着性が低いという問題があった。また、(2)の粘土状になったものを塗り付ける場合では、塗布物の粘度が高いため、スプレー塗布等の塗布作業が困難であり、また、塗布膜の均一性も低いという問題もあった。
【0009】
従って、吸水性樹脂の膨潤速度を適切に調整し、バインダーの基材表面への密着力を向上すると共に、塗布作業を容易とし、かつ、基材表面と地盤(土)との間の摩擦力を低減する作用を均一に発揮するために工夫する余地があった。また、従来では、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制することができる有効な技術がなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、地下水の多い地盤に用いたとしても吸水性樹脂の膨潤速度が適切に調整され、かつ膨潤後の吸水性樹脂の基材表面からの脱落が抑制され、しかも、塗布作業を容易とし、かつ基材表面と地盤(土)との間の摩擦力を低減する作用を均一に発揮することができる、摩擦低減剤又は土付着防止剤として用いる表面処理剤、並びに、該表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法、推進工法、土付着防止用鋼矢板、及び、土付着防止工法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、基材表面に施工することにより、摩擦低減剤又は土付着防止剤として用いることができる表面処理剤について検討するうち、吸水性樹脂(a)、並びに、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)を必須成分とすると、バインダー樹脂(b)の耐水性が優れることに起因して、表面処理剤により基材表面に形成される層中の吸水性樹脂(a)が表面付近から徐々に吸水膨潤されて放出される徐放速度を適切に調整することが可能となり、その結果、地下水の多い地盤中でも摩擦低減効果や土付着防止効果を長期間維持することが容易となり、かつ吸水性樹脂(a)の膨潤後でもバインダー樹脂(b)の基材表面への密着力が維持されて吸水性樹脂(a)の脱落を抑制することが可能となることに着目した。また、溶剤(c)を必須成分とすると、スプレー塗布等の塗布作業が容易となり、かつ基材表面と地盤(土)との間の摩擦力を低減する作用を均一に発揮することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、このような表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法又は推進工法や、土付着防止用鋼矢板、土付着防止工法によれば、基礎工事等にかかる費用を抑え、かつ迅速に工事を完了することが可能となることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、吸水性樹脂(a)、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)(以下、単に「バインダー樹脂(b)」ともいう)並びに溶剤(c)を必須成分とする表面処理剤であって、基材表面に施工することにより、基材表面と地盤(土)との間の摩擦を低減する摩擦低減剤として用いる表面処理剤である。
本発明はまた、上記表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法又は推進工法でもある。
【0013】
本発明はまた、吸水性樹脂(a)、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)並びに溶剤(c)を必須成分とする表面処理剤であって、基材表面に施工することにより、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止剤として用いる表面処理剤でもある。
【0014】
本発明は更に、上記表面処理剤を施工してなる土付着防止用鋼矢板でもある。
本発明はそして、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止工法であって、上記表面処理剤、及び/又は、上記土付着防止用鋼矢板を使用する土付着防止工法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0015】
本発明の表面処理剤は、基材表面に施工されて表面処理層(塗膜)を形成することにより、下記(1)〜(5)の作用効果を発揮することになる。
すなわち(1)吸水性樹脂(a)が吸水膨潤する機能を発揮し、バインダー樹脂(b)が吸水性樹脂(a)を基材表面に付着させるバインダー機能を発揮することにより、基材の地盤埋設時には基材表面と表面処理層が密着しており、打設時に剥がれることが抑制され、基材の地盤放置時に地盤(土)中の水分を吸水膨潤して潤滑ゲル層が形成され、基材の引き抜き時や地盤移動時に潤滑ゲル層が潤滑剤として機能しながら、基材表面から剥がれて土と共に地盤中に残ることから、基材表面と地盤(土)との間の摩擦力が低減し、土の付着を抑制することが可能となる。
【0016】
(2)バインダー樹脂(b)が水及びアルカリ水に不溶であることに起因して、耐水性が優れて密着力が向上することになり、地下水の多い地盤に基材を埋設する場合でも、表面処理層における膨潤速度や徐放速度の調整すなわち遅くすることが容易となり、かつ膨潤後の吸水性樹脂(a)の脱落が抑制されて、上記(1)の摩擦低減効果や土付着防止効果を充分にかつ長期間維持して発揮させることが可能となる。
【0017】
(3)表面処理層の基材表面への密着力は大きいが、強度は大きくないように設定すると、大きな引っかき力により表面処理層が剥離してしまうことを最小限に抑えることができる。
【0018】
(4)溶剤(c)を使用することにより、塗布するときに吸水性樹脂(a)が吸水膨潤することがないことから、均一に塗布することが可能となり、粘度が低くスプレー塗布等も可能で塗布作業が容易となる。
(5)上塗りとして耐水性付与剤層を活用することにより、基材を打設するときの表面処理層の密着性維持(剥離防止)と、吸水性樹脂(a)が地盤(土)中の水分により吸水膨潤することをより充分に両立することができる。
【0019】
以下に本発明の表面処理剤における必須成分について説明する。
本発明の表面処理剤を構成する吸水性樹脂(a)としては、水を吸水することによって膨潤し、かつ自重に対するイオン交換水の吸水倍率が3倍以上の樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0020】
上記吸水性樹脂(a)としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸架橋体、ポリ(メタ)アクリル酸塩架橋体、スルホン酸基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリオキシアルキレン基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステル架橋体、ポリ(メタ)アクリルアミド架橋体、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体、ポリジオキソラン架橋体、架橋ポリエチレンオキシド、架橋ポリビニルピロリドン、スルホン化ポリスチレン架橋体、架橋ポリビニルピリジン、デンプン−ポリ(メタ)アクリロニトリルグラフト共重合体のケン化物、デンプン−ポリ(メタ)アクリル酸(塩)グラフト架橋共重合体、ポリビニルアルコールと無水マレイン酸(塩)との反応生成物、架橋ポリビニルアルコールスルホン酸塩、ポリビニルアルコール−アクリル酸グラフト共重合体、ポリイソブチレンマレイン酸(塩)架橋重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記吸水性樹脂(a)の好ましい形態としては、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有する吸水性樹脂が挙げられ、より好ましくは、アミド基又はヒドロキシアルキル基を有する吸水性樹脂が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合架橋体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等を例示することができる。また、特に好ましい形態としては、ポリオキシアルキレン基を有する吸水性樹脂が挙げられ、例えば、メトキシポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸塩との共重合架橋体等を例示することができる。これらの形態では、アルカリ水に対する吸水性が向上することになるが、メトキシポリオキシアルキレン基を有する吸水性樹脂が特に優れている。
【0022】
上記吸水性樹脂(a)としてはまた、水溶性を有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて架橋剤を含む単量体成分を重合することによって得られる樹脂を用いることができる。この場合、吸水性樹脂(a)が水に対する吸水性に優れ、かつ一般的に安価となることから好ましい。このような吸水性樹脂を形成するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて用いられる架橋剤とは特に限定されるものではないが、エチレン性不飽和単量体としては、下記に例示する単量体の1種又は2種以上が挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、及び、これら単量体のアルカリ金属塩やアンモニウム塩;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及び、その四級化物;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、及び、これら単量体の誘導体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルスクシンイミド等のN−ビニル単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド等のN−ビニルアミド単量体;ビニルメチルエーテル等。
【0024】
上記エチレン性不飽和単量体の好ましい形態としては、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられ、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を例示することができる。また、特に好ましい形態としては、ポリオキシアルキレン基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらの形態のエチレン性不飽和単量体を用いると、吸水性樹脂(a)のアルカリ水に対する吸水性が向上することになるが、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートを用いることが特に好ましい。
【0025】
上記吸水性樹脂(a)を形成する単量体成分としてエチレン性不飽和単量体を2種以上併用する場合においては、吸水性樹脂(a)を形成する全単量体成分100重量%に対して、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体の割合を1重量%以上とすることが好ましい。1重量%未満であると、ノニオン性基及び/又はスルホン酸(塩)基を有するエチレン性不飽和単量体により形成されることによる吸水性の効果が低くなるおそれがある。より好ましくは、10重量%以上である。
【0026】
上記エチレン性不飽和単量体を2種以上併用する場合の組み合わせとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸ナトリウム等の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とアクリルアミドとの組み合わせ、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの組み合わせ等が好適である。
【0027】
上記吸水性樹脂(a)を製造する際の重合方法や、重合に使用する開始剤等の添加剤としては特に限定されるものではなく、通常用いられている方法により行うことができる。このように得られる吸水性樹脂(a)の重量平均分子量や形状、平均粒子径等は、表面処理剤の組成やアルカリ水のpH、作業環境等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、平均粒子径としては、30〜800μmであることが好ましい。800μmを超えると、バインダー樹脂(b)の溶剤溶液に吸水性樹脂(a)を混合したときに吸水性樹脂(a)の粒子が大き過ぎることによって粒子が沈み易くなるおそれがあり、30μm未満であると、吸水性樹脂(a)の粒子が小さ過ぎることによって微粉として飛び散り易くなり、取扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、30〜600μmであり、更に好ましくは、30〜400μmである。
【0028】
本発明の表面処理剤を構成する水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)としては、▲1▼水及びアルカリ水に不溶であり、▲2▼吸水性樹脂(a)を基材と密着させるバインダー機能を有する樹脂であれば、特に限定はされないが、例えば、酸価が15mgKOH/g未満の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体〔(メタ)アクリル系モノマーのみ、若しくはスチレン、酢酸ビニル等のモノマーとの共重合体等〕、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート及びスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0029】
上記バインダー樹脂(b)において、水及びアルカリ水に不溶であるとは、雨水、夜露、地下水等の水や、セメント等の水硬性混和物中のアルカリ水に対して不溶性であることを意味し、例えば、次のような溶解性テストにおける樹脂の重量減少率で水及びアルカリ水不溶性を評価することができる。すなわち本発明におけるバインダー樹脂(b)の水への溶解性は、室温(20℃)のイオン交換水に、一定重量(X1)の乾燥後塗膜を24時間浸漬し、浸漬後塗膜の乾燥後(150℃×24hr)の重量(Y1)と比較した際、Y1/X1≧0.9である。Y1/X1として、好ましくは0.95であり、最も好ましくは1である。
【0030】
また、アルカリ水への溶解性は、例えば、バインダー樹脂の5mm以下の形をした成形体(例えば、二軸押出機を用いて得ることができるような直径3mm、長さ3mmの円筒状のペレット形状、ペレット化されていなくても、5mm以下の大きさになるようにカットされた成形体等であればよい)10gを0.4重量%濃度のNaOHの水溶液500gに投入し、25℃にて、24時間攪拌を行った後のバインダー樹脂(b)の成形体におけるアルカリ水へ溶解した重量の減少率で求めることができる。
【0031】
上記アルカリ水への溶解性テストにおいては、24時間攪拌後に溶解せずに残った樹脂分について、ろ別等を行い、水で洗浄し、乾燥後の重量を求める。そして、上記と同様に、溶解性テストにかける前に元のバインダー樹脂(b)の重量(X2)と溶解性テスト後の重量(Y2)とから、本発明におけるバインダー樹脂(b)のアルカリ水への溶解性は、Y2/X2≧0.9である。Y2/X2として、好ましくは0.95であり、最も好ましくは1である。
【0032】
上記水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)の酸価は、本発明では耐水性を向上するために15mgKOH/g未満であることが好ましく、10mgKOH/g未満であることがより好ましく、5mgKOH/g未満であることが更に好ましい。
【0033】
上記水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)のガラス転移温度としては特に限定はないが、基材表面への密着性及び基材を土中へ埋設する際における表面処理層の強靭性の両立という点から、−20℃〜120℃にガラス転移温度を有することが好ましい。ガラス転移温度が−20℃以下であると、表面処理層がべたつきやすくなり、特に塗布後の基材を積み重ねたて放置した場合にはブロッキングを生じるおそれがある。また、表面処理層の強度が不足するために、基材を土中へ埋設する際に剥離し易くなる。このことからガラス転移温度が0℃以上であると更に好ましい。また、ガラス転移温度が120℃を超えると、表面処理層が硬くなり過ぎ、基材への密着性や柔軟性が乏しくなり、やはり基材を土中に埋設する際に剥離及び吸水性樹脂(a)の脱落が生じ易くなる。このことからガラス転移温度が100℃以下であると更に好ましく、0℃〜20℃の間と、20℃〜100℃の間のそれぞれにガラス転移温度を有すると柔軟化成分と形状保持成分とのバランスが良く更に好ましい。
【0034】
上記ガラス転移温度の測定は、示差走査熱量測定(DSC)により行うことができ、例えば、DSC220C(商品名、セイコー電子工業社製)を用いて、窒素雰囲気下において「JIS K 7121 プラスチックの転移温度測定方法」により行うことができる。また、試験体の状態調節は、上記JIS規格の3.(3)により行うことができる。
【0035】
上記水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定はないが、30000〜300000の範囲が好ましく、50000〜200000の範囲がより好ましい。前述の重量平均分子量の樹脂を用いることにより、表面処理層の強靭性と耐水性のバランスを取ることが容易となる。
【0036】
本発明の表面処理剤を構成する溶剤(c)としては、通常の塗料等に用いられる公知の溶剤であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導品、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導品等の1種又は2種以上が挙げられる。なお、本発明では、溶剤(c)として、バインダー樹脂(b)中に含まれる溶剤を利用することもできる。
【0037】
上記溶剤(c)の中でも、基材表面へ塗布するのに適した沸点、安全性等を有する溶剤を用いることが好ましい。低沸点の溶剤を選定すれば、速乾性があり、短時間で表面処理層が形成できるために厚塗り等が容易となり、また、高沸点の溶剤を選定すれば、乾燥速度を調整して、夏場等の現場作業における作業性を好適にすることができる。このように溶剤(c)を使用することにより、水を含む媒体を用いた場合に生じる吸水性樹脂(a)の吸水による膨潤はなく、ゲル状にならないために塗布作業が容易になり、本発明の作用効果の1つが発揮されることになる。また、メチルエチルケトンやメタノール等の揮発性の大きい溶剤を用いると、10分程度で乾燥し、水を媒体として用いる場合よりも非常に速く乾燥するために、次の作業又は工程に迅速に移行することができ、工期又は基材表面への塗布に要する時間を著しく短縮することができる。
【0038】
本発明の表面処理剤には、上述した必須成分以外に、その作用効果を阻害しない範囲で、他の樹脂、顔料、各種安定剤、各種充填材等の他の添加剤(d)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。例えば、表面処理層が形成されていることが容易に判別可能であるように、着色する目的で、顔料を混合したり、必要に応じて他の用途の各種添加剤を混合したりしてもよい。
【0039】
本発明の表面処理剤を構成する全成分100重量%に対する必須成分すなわち吸水性樹脂(a)、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)並びに溶剤(c)の合計量の重量割合としては、例えば、表面処理剤100重量%に対して、50重量%以上であること好ましい。50重量%未満であると、本発明の作用効果が阻害されるおそれがある。より好ましくは、70重量%以上であり、特に好ましくは、80重量%以上である。
【0040】
本発明の表面処理剤における各成分の重量割合としては特に限定されないが、例えば、本発明の表面処理剤の作用効果を確実に発揮するためには、吸水性樹脂(a)は、5〜60重量%、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)は、10〜70重量%、溶剤(c)は、5〜70重量%、他の添加剤(d)は、0〜50重量%であることが好ましい。より好ましくは、吸水性樹脂(a)は、10〜50重量%、水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)は、10〜60重量%、溶剤(c)は、10〜60重量%、他の添加剤(d)は0〜30重量%である。
【0041】
本発明の表面処理剤は、基材表面に施工することにより表面処理層を形成し、その作用効果を発揮することになるが、基材表面に施工するとは、基材表面に本発明の表面処理剤を塗布して表面処理層を形成することや、本発明の表面処理剤を塗布して表面処理層を形成させたシートを表面処理層が外側になるように基材表面に貼り付けること等を意味する。
【0042】
本発明の表面処理剤の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、通常用いられる塗料の塗布方法を用いることができ、具体的には、はけ、ローラー等を用いて塗装してもよいし、リシリガン等のスプレー器具を用いて吹き付け塗装してもよい。また、基材表面と地盤(土)との間の摩擦力を低減したい部分(場所)や地盤(土)の付着を防止したい部分(場所)に対応するように基材表面やシートに塗布することになるが、その他の部分に塗布してもよい。塗布量としては特に限定されず、例えば、40〜700g/m2 とすることが好ましい。40g/m2 未満であると、本発明の作用効果を充分に発揮することができないおそれがあり、700g/m2を超えると、塗布して乾燥させるまでの時間が長くなり、経済的に不利となるおそれがある。より好ましくは、50〜500g/m2であり、更に好ましくは、70〜300g/m2 である。なお、基材表面には、他の表面処理が施されていたり、下塗り等が塗装されていたりしてもよい。
【0043】
本発明の表面処理剤をシートに塗布し、該シートを基材表面に貼り付ける場合、例えば、布、紙、プラスチックフィルム等のシートを用いることができる。この場合、シートの裏面に粘着剤を塗工しておくと、基材表面への貼り付けが容易になるため好ましい。粘着剤としては特に限定されず、例えば、一般に使用されるアクリル系粘着剤でも良いし、グリース油等を用いると、工事現場で貼り付けを誤ったときに剥離して再貼り付けすることが容易となるので好ましい。
【0044】
本発明の表面処理剤により基材表面に表面処理層が形成されることになるが、この表面処理層上に、上塗り(トップコート)として、耐水性付与剤を塗布することにより耐水性付与剤層を形成することができる。これにより、例えば、基材を保管しておく場合に、吸水性樹脂(a)が雨や夜露、地面からの水分等を吸水して膨潤してしまい、地盤(土)中でその作用を充分に発揮することができなくなることをより抑制することが可能となると共に、基材表面と表面処理層との密着力の低下をより抑制することが可能となる。すなわち地盤基礎構造体等の施工において、施工前の基材の保管時も施工中にも、表面処理層の密着性維持(剥離防止)と、吸水性樹脂(a)が地盤(土)中の水分により吸水膨潤することをより充分に両立することができる
【0045】
上記耐水性付与剤としては、表面処理層中の吸水性樹脂(a)がその作用を発揮する前に膨潤することを防止することができる耐水性付与剤層を形成することができるものであれば特に限定されず、例えば、上述のバインダー樹脂(b);ワックスやシリコーン系撥水剤等の従来公知の撥水剤等を用いることができる。また、耐水性付与剤の塗布方法としては、上述した表面処理剤の塗布方法と同様に行うことができる。この場合、耐水性付与剤の付着量としては、50g/m2 程度あれば充分であるが、特に限定されるものではない。
【0046】
本発明の表面処理剤を利用すると、上述したような作用効果が発揮されることになるが、本発明の表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法又は推進工法では、各工法で用いる埋設物の基材表面に本発明の表面処理剤による表面処理層が形成されることから、本発明の作用効果を発揮して工事の効率を向上させるために有効である。このようなネガティブフリクションカット工法、潜函工法又は推進工法は、それぞれ本発明の1つである。なお、上記の各工法では、基材表面に施工することにより、基材表面と地盤(土)との間の摩擦を低減する摩擦低減剤として用いる本発明の表面処理剤を使用することになる。
【0047】
また、本発明の表面処理剤を施工してなる土付着防止用鋼矢板も同様に、本発明の作用効果を発揮することになる。このような土付着防止用鋼矢板も、本発明の1つである。更に、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止工法であって、本発明の表面処理剤、及び/又は、本発明の土付着防止用鋼矢板を使用する土付着防止工法も同様に、本発明の作用効果を発揮して各種の基礎工事等における効率を向上させるために有効である。このような土付着防止工法も、本発明の1つである。なお、上記の土付着防止用鋼矢板及び土付着防止工法では、基材表面に施工することにより、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止剤として用いる本発明の表面処理剤を使用することになる。
【0048】
上記の各工法で用いる埋設物とは、地盤(土)に埋設される基材を意味し、その状態としては、(1)地盤(土)に埋設される前の状態にある基材、(2)地盤(土)に埋設された状態にある基材、(3)地盤(土)から抜き出された状態にある基材等が挙げられる。すなわち上記埋設物とは、これらの状態にある基材を意味するものである。また、埋設物の全体が地盤(土)に埋設される必要はなく、少なくとも一部分が地盤(土)に埋設されることになればよい。このような埋設物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0049】
上記埋設物としては、摩擦低減剤として用いる場合には、地下構造物、ネガティブフリクションカット工法、潜函工法や推進工法に用いられる基体や基材であれば特に限定されず、鋼管やヒューム管等の管類、鋼矢板、波板、H形鋼、I形鋼、鋼管杭、鉄柱、コンクリート杭、ポール等の杭類、潜函工法で用いられる各種タンク類、貯水槽等が挙げられる。また、土付着防止剤として用いる場合には、土止め壁等を構成するための引抜き回収を前提とする仮設鋼材として用いられる基材であれば特に限定されず、上記の鋼矢板の他に、波板、H形鋼、I形鋼、鋼管杭、鉄柱等の杭類等が挙げられる。
【0050】
以下に本発明の実施形態を例示して説明する。
本発明の表面処理剤を摩擦低減剤として用いる場合、埋設物すなわち基体や基材の施工形態としては特に限定されるものではない。例えば、地盤に穴を掘削し、クレーン等で基体である鉄鋼等を釣り下げ、設置し、埋設してもよいし、基体を打設、押し込みながら施工する方法である潜函工法や推進工法等を採用してもよい。また、杭用ケーシングを地盤中に設置し、その内部に鉄筋を設けた後に、コンクリートを打設しながら杭用ケーシングを抜いていくことにより鉄筋コンクリートで構成された地盤基礎構造物を施工する工法を用いる場合にも、杭用ケーシングの外側に表面処理層を形成させて行うと、土圧による影響を抑えて杭用ケーシングを引き抜き易くすることができる。このように、本発明ではいずれの打設方法においても、地下水の多い地盤に基材を埋設する場合等において、表面処理層における徐放速度の調整が容易であり、かつ膨潤後の吸水性樹脂(a)の脱落が抑制されて本発明の作用効果を発揮することができることから、周辺の地盤への影響を最小限に抑えながら、基材表面と地盤(土)間の摩擦力を低減でき、工事の速度、効率を著しく向上することができる。また、地盤中に埋設後には、各種の地下基礎構造物の基材表面と周辺地盤との摩擦をカットし、周辺地盤の変化が構造物へ影響を与えることを抑制することができることから、地下基礎構造物のネガティブフリクションカット工法も有効である。上述したように、本発明の表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法又は推進工法もまた、それぞれ本発明の1つであるが、本発明の表面処理剤を使用するその他の工法も本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0051】
本発明の表面処理剤における特徴の1つとして、摩擦低減剤として用いる場合に、表面処理層が徐放性を有することが挙げられる。徐放性とは、表面処理層中の表層部分にある吸水性樹脂(a)から徐々に地盤(土)中の水分を吸水することにより、吸水膨潤した吸水性樹脂(a)を有する湿潤ゲル層を地盤(土)と接触する面に徐々に供給する性質である。この場合、表面処理層中の表層部分に湿潤ゲル層が形成されることになり、該湿潤ゲル層が潤滑剤として機能すると共に、吸水膨潤した吸水性樹脂(a)の密着力が低下することに起因して地盤(土)との間で摩擦力が生じると湿潤ゲル層が剥がれて摩擦を低減することになる。そして表面処理層中の表層部分には、新たな湿潤ゲル層が供給されることになる。このような徐放性の調節は、吸水性樹脂(a)の親水性等を適宜設定することにより行うことができるが、本発明では、バインダー樹脂(b)の耐水性が優れることに起因して吸水性樹脂(a)の徐放速度を調整して遅くすることが可能であることから、様々な工事条件や地下基礎構造体の要求性能に応じて表面処理層の吸水速度を適切に設定することが容易であり、基材表面に施工された表面処理層の表面から、地盤(土)中の水分を適当量吸収させることにより、何日間にも渡って、つまり長期間に渡って、新たな湿潤ゲル層(吸水膨潤層)を基材表面に供給することを適切に行うことが可能となる。
【0052】
上記の徐放性について、具体的な1例として図1を用いて説明する。
図1(1)〜(4)では、埋設物1における基材表面付近の一部の断面概念図を示している。図1(1)に示すように埋設物1(例えば鋼管)に本発明の表面処理剤を塗布して表面処理層3を形成し、(2)に示すようにその表面付近を吸水膨潤させて湿潤ゲル層を形成させた後、埋設物1を土中へ打設(1日目)すると、埋設物1の基材表面と地盤2との間で摩擦力が生じるが、湿潤ゲル層が潤滑剤として機能すると共に、(3)に示すように湿潤ゲル層が表面処理層3の表面から剥がれた状態となる。そして、次の日の工事までに、表面処理層3の表面付近は土中の水分を吸水膨潤し、新たに湿潤ゲル層を形成して(4)に示すような状態となる。2日目に、1日目と同様の方法で地面から埋設物1を打設し、更に土中深くに押込む場合、湿潤ゲル層は同様に潤滑剤として機能すると共に、表面処理層3の表面から剥げることになる。このように(3)と(4)に示すような現象を繰り返すことにより、土中で何日にも渡って打設が繰り返される推進工法等を行う場合でも、本発明の表面処理剤を地上で1度埋設物に塗布するだけで、工事中を通じてずっと土中で摩擦低減機能を発揮することが可能になる。
【0053】
本発明の表面処理剤により形成される表面処理層は、地下水の多い地盤中に基材が打設される場合でも上記のように徐放性という性質を有することから、摩擦低減剤として用いる場合に、摩擦低減効果の持続性に優れており、徐々に工事が進行していく潜函工法や推進工法に対して有効であり、また、埋設後であっても長期間に渡って摩擦低減効果が持続することになり、地盤等の変動が起きても、地盤の変動に伴う埋設物の変動や変位を最小限に抑えることができる。その結果、地盤基礎構造物等の埋設物が地盤中で安定化されることにより、その上に建造されるビル等の建築物が安定化されることになる。例えば、地盤基礎構造物をクレーン等で土中の穴に施工した場合でも、長期間に渡って、基材表面と地盤(土)との間の摩擦低減効果が持続することになるため、本発明の表面処理剤を用いることにより、効果の高い地盤基礎構造物のネガティブフリクションカット工法を行うことが可能となる。
【0054】
本発明の表面処理剤を土付着防止剤として用いる場合、仮設鋼材等の埋設物の施工形態としては、上述した摩擦低減剤として用いる場合と同様に特に限定されるものではない。この場合には、埋設物の基材表面に形成される表面処理層の厚みを工事条件等により適宜調整することが好ましい。例えば、土中の水分量が少ないときや仮設鋼材等の埋設期間が短いときには、表面処理層の厚みを薄くすることにより、比較的少量の水分でも基材表面への密着力を低下させるようにすることが好ましい。これにより、埋設物を地盤中に打設して表面処理層を湿潤させ、埋設物を引き抜くときに剥がれ易くすることができることから、基材表面への土の付着をより抑制することが可能となる。また、土中の水分量が多いときや仮設鋼材等の埋設期間が長いときには、表面処理層の厚みを厚くすることにより、本発明におけるバインダー樹脂(b)が発揮する効果と相まって、比較的多量の水があっても、埋設期間中、湿潤ゲル層の供給を安定化させて基材表面への土の付着をより防止することができる。このように、表面処理層の厚みを調節したり、上記摩擦低減剤として用いる場合と同様に吸水性樹脂(a)の親水性等を調節したりすることにより、各種現場の土質、埋設期間等に合わせて、土付着防止能を発揮することが可能となる。
【0055】
本発明の表面処理剤を土付着防止剤として用いることにより、仮設鋼材等の埋設物の基材表面に表面処理層を形成する場合では、埋設物を引き抜くときに、周辺地盤を引き上げる等の悪影響が少なく、引抜き後の埋設物にはほとんど土の付着がなく、埋設物の引抜き後には地盤に生じる空隙が最小限(仮設鋼材自体の体積とほぼ同じ)に抑えられるので、後処理(埋め戻し)に必要な薬剤、土砂の使用量が最小限に抑えられることになる。
【0056】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0057】
製造例1
吸水性樹脂(a)を以下の方法で以て調製した。即ち、温度計とブレード(攪拌翼)とを備え、内面が三フッ化エチレンでライニング処理された容量1.5Lの卓上型ジャケット付きニーダーを反応器として用い、該反応器に、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(分子量512)60.18g、メタクリル酸(分子量86.09)3.76g、メタクリル酸ナトリウム(分子量108)210.69g、架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレート1.3g、及び、溶媒であるイオン交換水352.37gを仕込んだ。単量体成分における架橋剤の割合は0.14モル%である。
【0058】
ジャケットに50℃の温水を流すことにより、上記の水溶液を窒素ガス気流下、攪拌しながら50℃に加熱した。次いで、重合開始剤である2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(分子量271.27,和光純薬工業株式会社製化成品V−50)の11.6重量%水溶液10gを添加して10秒間攪拌した後、攪拌を停止して静置した。単量体成分に対する重合開始剤の割合は0.2モル%である。
【0059】
重合開始剤を添加した後、直ちに重合反応が開始され、90分経過後に内温が100℃(ピーク温度)に達した。その後、ジャケットに80℃の温水を流しながら、内容物を更に30分間熟成させた。これにより、含水ゲルを得た。反応終了後、ブレードを回転させて含水ゲルを微細な状態になるまで解砕した後、反応器を反転させて該含水ゲルを取り出した。
【0060】
得られた含水ゲルを熱風循環式乾燥機を用いて140℃で3時間乾燥した。乾燥後、乾燥物を卓上簡易型粉砕機(協立理工株式会社製)を用いて粉砕した。これにより、平均粒子径160μmの吸水性樹脂(1)を得た。
【0061】
製造例2
酸価15mgKOH/g未満のバインダー樹脂(b)のうち、アクリル系ポリマーを以下の方法で以て調製した。即ち、温度計と滴下装置とを備えた容量50Lの槽型反応器に、アクリル酸0.03kg、アクリル酸エチル2.3kg、メタクリル酸メチル0.67kg、重合開始剤である2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)12g、及び、溶媒であるメチルアルコール3kgを仕込んだ。また、滴下装置に、アクリル酸0.07kg、アクリル酸メチル2.2kg、メタクリル酸メチル4.73kg、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)26g、及び、メチルアルコール7kgからなる混合溶液を仕込んだ。
上記のメチルアルコール溶液を窒素ガス雰囲気下、攪拌しながら65℃に加熱し、20分間反応させた。これにより、内容物の重合率を70%に調節した。続いて、内温を65℃に保ちながら、滴下装置から上記の混合溶液を2時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、内容物を65℃で更に3時間熟成させた。反応終了後、内容物にメチルアルコール10kgを混合することにより、アクリル系ポリマー(1)の33重量%メチルアルコール溶液を得た。
【0062】
得られたアクリル系ポリマー(1)の重量平均分子量は12万であり、酸価は8mgKOH/gであった。また、アクリル系ポリマー(1)の示差走査熱量測定を行った結果、アクリル系ポリマー(1)は、ガラス転移温度を−80℃〜120℃の範囲内に2つ有していた。
【0063】
比較製造例1
比較用アクリル系ポリマー(バインダー樹脂)を以下の方法で以て調製した。即ち、温度計と滴下装置とを備えた容量50Lの槽型反応器に、アクリル酸0.45kg、アクリル酸エチル2.4kg、メタクリル酸メチル0.15kg、重合開始剤である2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)12g、及び、溶媒であるメチルアルコール3kgを仕込んだ。また、滴下装置に、アクリル酸1.05kg、アクリル酸メチル2.25kg、メタクリル酸メチル3.70kg、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)26g、及び、メチルアルコール7kgからなる混合溶液を仕込んだ。
【0064】
上記のメチルアルコール溶液を窒素ガス雰囲気下、攪拌しながら65℃に加熱し、20分間反応させた。これにより、内容物の重合率を74%に調節した。続いて、内温を65℃に保ちながら、滴下装置から上記の混合溶液を2時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、内容物を65℃で更に3時間熟成させた。反応終了後、内容物にメチルアルコール10kgを混合することにより、比較用アクリル系ポリマー(1)の33重量%メチルアルコール溶液を得た。
【0065】
得られた比較用アクリル系ポリマーの重量平均分子量は13万であり、酸価は113mgKOH/gであった。また、比較用アクリルポリマー(1)の示差走査熱量測定を行った結果、比較用アクリルポリマー(1)は、ガラス転移温度を−80℃〜120℃の範囲内に2つ有していた。
【0066】
実施例1
製造例1で得られた吸水性樹脂(1)100部、製造例2で得られたアクリル系ポリマー(1)303部、2−ブタノン(メチルエチルケトン)397部を良く混合した後、厚さ3mm、1辺が70mmの正方形の鋼製試験板(片面)に、1kg/mの塗布量で塗布し、室温で18時間乾燥させる。
【0067】
この塗膜上に図2に記載した形状の50mm×50mmの治具を、無塗布面にはエポキシ系接着剤を治具全面に塗って接着し、塗布面には、治具接着面の左右10mmずつの幅にエポキシ系接着剤を塗って接着した(すなわち、中央部の30mm×50mm部分は未接着)。
【0068】
上記のように作成した引っ張り試験用の塗布鋼板(治具付き)(1)を20℃条件下、イオン交換水に24時間浸漬した後、引っ張り試験機にて、塗膜の基材(鋼板)に対する湿潤密着強度を測定した。その結果、上記、アクリル系ポリマー(1)を用いた引っ張り試験用塗布鋼板(1)の湿潤密着強度は、88N/cmであり、充分強度の強いものであった。
【0069】
実施例2
実施例1において、アクリル系ポリマー(1)の代わりにKRATON D−1101(クレイトンポリマージャパン(株)製、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)100部を、2−ブタノン(メチルエチルケトン)303部の代わりにトルエン300部を使用する以外は、実施例1と同様の操作を行い、引っ張り試験用塗布鋼板(2)の湿潤密着強度を測定した。その結果、上記、KRATON D−1101を用いた引っ張り試験用塗布鋼板(2)の湿潤密着強度は、118N/cmであり、充分強度の強いものであった。
【0070】
比較例1
実施例1において、アクリル系ポリマー(1)の代わりに比較用アクリルポリマー(1)を用いる以外は同様の操作を行い、比較用引っ張り試験用塗布鋼板(1)の湿潤密着強度を測定した。その結果、上記、比較用アクリルポリマー(1)を用いた比較用引っ張り試験用塗布鋼板(1)の湿潤密着強度は、5N/cmであり、非常に弱いものであった。
【0071】
実施例3
製造例1で製造した吸水性樹脂(1)100部、製造例2で得られたアクリル系ポリマー(1)303部、2−ブタノン(メチルエチルケトン)397部を良く混合して、摩擦低減剤用塗料(1)を作製した。次に、前記摩擦低減剤用塗料(1)を、厚さ1mm、直径50mm、長さ500mmの鋼管の表面(内側、外側両方)に乾燥時の厚さが100μmとなるように均一にはけ塗りした。室温で12時間反応後には塗膜は充分な強度を持っており、鉄へらで強くこすっても少し剥離する程度であった。
【0072】
このようにして得た摩擦低減剤用塗料(1)塗布済み鋼管を、まず、イオン交換水中に10分浸漬した。浸漬後の鋼管表面は、吸水、膨潤した摩擦低減剤層におおわれぬるぬるしていた。次にこの鋼管を、予め打設1時間前に10L/mの水を撒き、充分に湿潤させた弊社敷地内(大阪府吹田市)の地面に垂直に立てて、鋼管の上に厚さ3mm、60mm×60mmの鋼板を乗せた上から、500gの金槌により60cmの高さから、10回たたいて、鋼管を土中に打設した。この時に地表から打設された深さを表1に示した。この鋼管を1日放置し、翌日、まず、鋼管表面(内側、外側両方)に約500mlのイオン交換水を掛け、約10分放置した。放置後の鋼管表面は、吸水、膨潤した摩擦低減剤層におおわれぬるぬるしていた。次に、1日目と同じ方法で鋼管を土中に打設した。この時、地表から打設された深さを表1に示した。更に、この鋼管を1日放置し、2日目と同じ操作で打設を行い、地表から打設された深さを表1に示した。
【0073】
上記実験における、地表から打設された深さは3日間を通じて、摩擦低減剤用塗料(1)を塗布しないもの(比較例1)よりも著しく大きく、またその深さは3日間を通じてほとんど変化がなかった。この結果から見ても、本発明の摩擦低減剤用塗料(1)を基材表面に塗布することにより、3日間に渡って基材表面に摩擦低減剤層が供給され、摩擦低減効果が発揮されたことがわかる。
【0074】
実施例4及び比較例1、2
実施例1において、摩擦低減剤用塗料(1)の代わりに、表1に記載した組成からなる(比較用)摩擦低減剤用塗料を用いる、もしくは摩擦低減剤用塗料を全く用いないこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、打設された深さを測定し、その結果を表1にまとめた。
【0075】
本発明の摩擦低減剤用塗料(2)の場合には、摩擦低減剤用塗料(1)の場合と同様に良好な結果が得られたが、酸価が113mgKOH/gと大きな比較用アクリル系ポリマー(1)を用いた比較用摩擦低減剤(1)を用いた場合には、1日目の摩擦低減効果は良好なものの、2日目以降にはその効果が大きく減少していしまっている。これは、耐水性が弱いため、今回の設定のように100μmという薄塗り、水分の多い軟弱地盤では、1日目で比較用摩擦低減剤(1)の塗膜がほとんどすべて膨潤剥離してしまっているためと考えられる。
【0076】
【表1】
Figure 0004265726
【0077】
実施例5
製造例1で製造した吸水性樹脂(1)50部、製造例2で得られたアクリル系ポリマー(1)151部及び2−ブタノン49部をよく撹拌して、土付着防止剤用塗料(1)を作製した。次に、上記土付着防止剤用塗料(1)を長さ8.1mのIV型鋼矢板の下部7.5m(裏表両面)に0.25kg/mの塗布量で均一にはけ塗りし、外気温(10±5℃)で18時間乾燥させ本発明の土付着防止用鋼矢板(1)を得た。乾燥後の塗膜は充分な強度を持っており、鉄へらで強くこすってもほとんど剥離しなかった。
【0078】
このようにして得た、本発明の土付着防止用鋼矢板(1)を、バイブロを用いて東京都品川区(シルト層、地下水が豊富な軟弱地盤)の土中に埋設し、1ヶ月後、同じくバイブロを用いて引抜きを行った。引抜き後の土付着防止用鋼矢板(1)の土及び土付着防止剤用塗料(1)塗膜の付着状況を表2にまとめた。
表2を見てわかるように、引抜き後の土付着防止用鋼矢板(1)には、ほとんど土及びウレタンプレポリマー(1)塗膜の付着は見られず、土付着防止能は非常に良好なものであることがわかる。
【0079】
実施例6及び比較例3、4
実施例1において、土付着防止剤用塗料(1)の代わりに、表2に記載した組成からなる(比較用)土付着防止剤用塗料を用いる、もしくは土付着防止剤用塗料を全く用いないこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、土及び(比較用)土付着防止剤用塗料塗膜の付着状況を表2にまとめた。
【0080】
【表2】
Figure 0004265726
【0081】
【発明の効果】
本発明の表面処理剤は、上述の構成よりなるので、基材表面に施工することにより、基材表面と地盤(土)との間の摩擦を低減する摩擦低減剤、又は、基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止剤として用いるものであり、地下水の多い地盤に用いたとしても吸水性樹脂の膨潤速度が適切に調整され、かつ膨潤後の吸水性樹脂の基材表面からの脱落が抑制され、しかも、塗布作業を容易とし、かつ基材表面と地盤(土)との間の摩擦力を低減する作用を均一に発揮することができる。また、本発明の表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法、潜函工法、推進工法、土付着防止用鋼矢板、及び、土付着防止工法を用いることは、基礎工事等にかかる費用を抑え、かつ迅速に工事を完了するために有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面処理剤の実施形態において、表面処理膜の作用効果を説明するための断面概念図である。
【図2】本発明の表面処理剤の基材表面への密着力を測定する際に用いられる引っ張り試験用治具の概略図である。
【符号の説明】
1 埋設物
2 地盤
3 表面処理層
3a 吸水性樹脂(a)
3b 水及びアルカリ水に不溶なバインダー樹脂(b)

Claims (9)

  1. 吸水性樹脂(a)と、水及びアルカリ水に不溶であり、−80〜120℃にガラス転移温度を有し、かつ酸価が8mgKOH/g以下のバインダー樹脂(b)と、溶剤(c)とを必須成分とする仮設鋼材用の表面処理剤を使用するネガティブフリクションカット工法あって、
    該工法は、水を媒体として用いずに、該表面処理剤を仮設鋼材の基材表面に施工する工程と、該表面処理剤が施工された仮設鋼材を地盤(土)中に打設する工程とを有するとともに、該仮設鋼材に施工された表面処理剤により、基材表面と地盤(土)間の摩擦力を低減する湿潤ゲル層を、基材表面の地盤(土)と接触する面に徐々に供給する工程を有することによって、該工法の施工期間中、基材表面と地盤(土)との間の摩擦を低減する
    ことを特徴とするネガティブフリクションカット工法
  2. 前記バインダー樹脂(b)は、熱可塑性エラストマーである
    ことを特徴とする請求項1に記載のネガティブフリクションカット工法
  3. 前記バインダー樹脂(b)のガラス転移温度は、0〜100℃である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のネガティブフリクションカット工法
  4. 前記仮設鋼材は、鋼管、鋼矢板又はH形鋼である
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のネガティブフリクションカット工法
  5. 仮設鋼材の基材表面と地盤(土)との間の付着を抑制する土付着防止工法であって、吸水性樹脂(a)と、水及びアルカリ水に不溶であり、−80〜120℃にガラス転移温度を有し、かつ酸価が8mgKOH/g以下のバインダー樹脂(b)と、溶剤(c)とを必須成分とする仮設鋼材用の表面処理剤使用する工法であり、
    該工法は、水を媒体として用いずに、該表面処理剤を仮設鋼材の基材表面に施工する工程と、該表面処理剤が施工された仮設鋼材を地盤(土)中に打設する工程とを有するとともに、該仮設鋼材に施工された表面処理剤により、基材表面と地盤(土)間の摩擦力を低減する湿潤ゲル層を、基材表面の地盤(土)と接触する面に徐々に供給する工程を有することによって、該工法の施工期間中、基材表面への土の付着を防止する
    ことを特徴とする土付着防止工法。
  6. 前記バインダー樹脂(b)は、熱可塑性エラストマーである
    ことを特徴とする請求項5に記載の土付着防止工法。
  7. 前記仮設鋼材は、鋼管、鋼矢板又はH形鋼である
    ことを特徴とする請求項5又は6に記載の土付着防止工法。
  8. 前記仮設鋼材は、土め壁に用いられるものである
    ことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の土付着防止工法。
  9. 前記バインダー樹脂(b)のガラス転移温度は、0〜100℃である
    ことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の土付着防止工法。
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