本発明は、集合住宅の共用玄関に設置されカメラを備える共用部装置から各住戸にそれぞれ設置される住戸機を選択して呼び出すことにより、共用部装置と住戸機との間で通信路を確立し、通信路の確立された住戸機が共用部装置からの映像信号を受け取るとともに共用部装置との間で通話可能となる集合住宅用テレビ付きインターホンシステムに関するものである。
従来から提供されている集合住宅用のテレビ付きインターホンシステムの構成例を図7に示す(特許文献1参照)。図示例では、集合住宅の共用玄関に設置される共用部装置(ロビーインターホン)1と、各住戸にそれぞれ配置される複数台の住戸機2とを備え、共用部装置1と住戸機2とが伝送線路を介して接続されている。伝送線路は、共用部装置1に接続される幹線L1と、各住戸機2にそれぞれ接続される住戸別線L2とを含み、幹線L1と各住戸別線L2との間にはそれぞれ分岐器3が介装される。
共用部装置1は、音声の入出力が可能な共用部通話装置11と、来訪者を撮像するTVカメラであるカメラ12と、来訪者により操作される選択装置13とを備える。また、住戸機2は、音声の入出力が可能な住戸機通話装置21と、カメラ12により撮像された映像を表示するモニタ22とを備える。選択装置13は住戸番号を指定する番号キーと呼出釦とを備え、共用部装置1において選択装置13の操作により住戸番号を選択して呼出釦を押下すると住戸番号に対応する住戸機2を選択したことになり、選択した住戸機2と共用部装置1との間で通信路が確立する。共用部装置1との通信路が確立した住戸機2では、住戸機通話装置21を用いて共用部通話装置11との間での通話が可能になるとともに、カメラ12で撮像された映像をモニタ22に表示することが可能になる。
伝送線路としては2対以上のペア線をシース内に備える多対ツイストペアケーブルを用いており、図示例では共用部通話装置11と住戸機通話装置21との間で音声信号を伝送するとともにカメラ12により撮像した映像情報を含む映像信号をモニタに伝送する共用線Ldと、選択装置13により選択された住戸機2を指定する制御信号を伝送する制御線Lcとにそれぞれペア線を用いている。つまり、図示例の伝送線路では2対のペア線を用いている。ここで、音声信号と映像信号と制御信号とは伝送中の信号形態が変化することがあるが、以下の説明では物理的な信号形態の変化によらず、情報内容が同じである信号を同名で呼ぶことにする。たとえば、後述するようにカメラ12から出力された信号はFM変調されるから、変調の前後では物理的な信号形態は変化するが、情報内容としてはカメラ12で撮像した映像情報に着目しており、着目する情報内容には変化がないから、以下の説明では変調の前後の信号をいずれも映像信号と呼ぶ。音声信号および制御信号についても同様である。
共用部装置1において、共用部通話装置11はマイクロホン11aおよびスピーカ11bからなり、マイクロホン11aとスピーカ11bとはそれぞれ増幅器14a,14bを介して音声回路14cに接続されている。音声回路14cは、2個の増幅器14a,14bと2線の共用線Ldとの間に挿入するために2線4線変換回路を含んでおり、マイクロホン11aからの音声信号を共用線Ldに送出し、共用線Ldからの音声信号をスピーカ11b側に出力する機能を有する。また、カメラ12から出力される映像信号は、FM変調回路15aにおいてFM変調された後に、増幅器15bおよび不平衡−平衡変換のための結合トランス15cを介して共用線Ldに送出される。共用部装置1には内部回路を制御するCPU10が設けられ、CPU10には選択装置13が接続されるとともに、制御線Lcとの間のインタフェースとなる制御信号送受信回路16が接続される。つまり、制御信号送受信回路16は、CPU10から出力された制御信号を制御線Lcに送出し、制御線Lcから受信した制御信号をCPU10に引き渡す機能を有する。共用部装置1の内部電源は、電源部17によって商用電源(交流100V)から生成される。
一方、住戸機2において、住戸機通話装置21はマイクロホン21aおよびスピーカ21bからなり、マイクロホン21aとスピーカ21bとはそれぞれ増幅器24a,24bを介して音声回路24cに接続されている。音声回路24cは、2個の増幅器24a,24bと2線の共用線Ldとの間に挿入するために2線4線変換回路を含んでおり、マイクロホン21aからの音声信号を共用線Ldに送出し、共用線Ldからの音声信号をスピーカ21b側に出力する機能を備えている。したがって、共用部装置1と住戸機2との間で共用線Ldを通して音声信号を授受することができ、来訪者が共用部装置1を用いるとともに居住者が住戸機2を用いることによって、来訪者と居住者との間で音声通話が可能になる。
住戸機2に設けた音声回路24cには、子器インタフェース23および子器接続線L3を介してドアホン子器5が接続される。ドアホン子器5は集合住宅の各住戸の玄関先に配置されるものであってマイクロホンおよびスピーカを備え、子器インタフェース23はドアホン子器5との通話のための音声双方向増幅回路や音声回路24cを接続するための開閉路回路などを備える。したがって、ドアホン子器5と住戸機通話装置21との間での通話が可能になっている。また、ドアホン子器5には呼出釦が設けられ、子器インタフェース23ではドアホン子器5での呼出釦の操作時に呼出音を音声回路24cに入力して、スピーカ21bから送出させる機能も備える。ドアホン子器5の電源は住戸機2に内蔵した子器電源部28aから電源重畳部28bを介して供給される。電源重畳部28bは音声信号伝送帯域に対するインピーダンスを高くして子器接続線L3に電源を重畳する回路である。ここに、子器接続線L3には伝送線路とは別シースのケーブルを用いるのが一般的であるが、伝送線路の中の1対のペア線を流用することも可能である。
住戸機2において、モニタ22には液晶表示器あるいはCRTが用いられる。共用線Ldを通して住戸機2に入力される映像信号は、平衡−不平衡変換のための結合トランス25cを介して増幅器25bに入力され、増幅器25bで増幅された後にFM復調回路25aにおいてFM復調される。FM復調回路25aから出力された映像信号は、モニタ22に入力されることによってモニタ22の画面に映像を表示する。つまり、共用部装置1のカメラ12において撮像された来訪者の映像が住戸機2のモニタ22に表示されるから、住戸内の居住者が来訪者を確認することができるのである。
ここで、上述のように音声信号と映像信号との両方で共用線Ldを用いるために、共用部装置1および住戸機2にはそれぞれ多重分離回路19,29を設けている。共用部装置1と住戸機2とにそれぞれ用いている多重分離回路19,29はほぼ同構成であって、音声回路24cと共用線Ldとの間に挿入される低周波通過部19a,29aと、結合トランス15c,25cと共用線Ldとの間に挿入される高周波通過部19b,29bとからなる。低周波通過部19a,29aは音声信号に対して低インピーダンスであって映像信号に対して高インピーダンスのものを用い、高周波通過部19b、29bは音声信号に対して高インピーダンスであって映像信号に対して低インピーダンスのものを用いる。図示例では、低周波通過部19a,29aとしてインダクタを用い、高周波通過部19b,29bとしてコンデンサを用いている。
住戸機2には内部回路を制御するCPU20が設けられ、CPU20には制御線Lcとのインタフェースとなる制御信号送受信回路26が接続される。制御信号送受信回路26は、CPU20から出力された制御信号を制御線Lcに送出し、制御線Lcから受信した制御信号をCPU20に引き渡す機能を有する。住戸機2の内部電源は、電源部27によって商用電源(交流100V)から生成される。
上述のようにして共用部装置1の選択装置13により選択された住戸機2が共用部装置1との間で通信路を確立している状態は、共用部装置1または住戸機2において通話終了が検出されると終了する。つまり、共用部装置1の共用部通話装置11または住戸機2の住戸機通話装置21にハンドセットを用いる場合にはハンドセットをオンフックすることによって通話終了を検知でき、ハンズフリーで通話する場合には適宜の操作釦を用いて通話終了を指示できる。
ところで、共用線Ldおよび制御線Lcは、分岐器3においては幹線L1と住戸別線L2とが直結されている。したがって、共用部装置1から送出された制御信号は制御線Lcに接続されるすべての住戸機2に伝送される。ここに、住戸機2のCPU20には個別にアドレス(たとえば、住戸番号)が設定されており、共用部装置1に設けた選択装置13によってアドレスを選択することによって、アドレスを指定する制御信号をすべての住戸機2に伝送することが可能になっている。住戸機2のCPU20は、制御信号に含まれるアドレスが自己のアドレスであれば内部回路を作動させるように構成されており、したがって、共用部装置1と選択された住戸機2との間でのみ通話可能にすることが可能になるとともに、選択された住戸機2でのみカメラ12で撮像された来訪者をモニタ22に表示することが可能になる。
ところで、住戸機2における多重分離回路29の低周波通過部29aおよび高周波通過部29bと共用線Ldとの間には閉結スイッチ29cが挿入されている。閉結スイッチ29cは、CPU20により制御され、常時はオフであって低周波通過部29aおよび高周波通過部29bを共用線Ldから分離しているが、共用部装置1の選択装置13により選択されるとオンになり共用部装置1との通話が終了するまでの間は低周波通過部29aおよび高周波通過部29bを共用線Ldに接続する。したがって、共用部装置1での操作により特定の住戸番号の住戸機2が選択されると、選択された住戸機2のみが共用線Ldとの間で映像信号を受信するとともに音声信号を授受することができ、他の住戸機2では閉結スイッチ29cがオフであって映像信号および音声信号に対する住戸別線L2のインピーダンスが高くなる。つまり、映像信号および音声信号の減衰が少なくなり伝送品質が向上する。
また、閉結スイッチ29cの一端には抵抗Rが直列接続され、閉結スイッチ29cと抵抗Rとの直列回路は、直流的には共用線Ldを介して共用部装置1に設けた電源重畳部18、さらに電源部17の出力端間に接続される。ここに、住戸機2において映像信号の経路にはコンデンサを用いた高周波通過部29bおよび結合トランス25cが存在するから、共用線Ldに印加された直流電源が映像信号を処理する回路に印加されることはないが、音声信号の経路にインダクタを用いた低周波通過部29aを挿入するだけでは、音声回路24cに直流電圧が印加されることになって不都合である。そこで、音声回路24cと低周波通過部29aとの間には直流カット用のコンデンサCを挿入してある。
ところで、上記従来例で用いる分岐器3は、それぞれ一対のダイオードD1a,D2a、D1b,D2bからなる2個のダイオードスイッチ35a,35bを備える。ダイオードスイッチ35aは住戸別線L2における共用線Ldの各線路にそれぞれダイオードD1a,D2aを挿入してあり、ダイオードスイッチ35bは幹線L1における住戸別線L2の分岐点に対して共用部装置1から遠い方の共用線Ldの各線路にそれぞれダイオードD1b,D2bを挿入してある。ダイオードスイッチ35aにおいて、ダイオードD1aは幹線L1側にアノードが接続され、ダイオードD2aは幹線L1側にカソードが接続される。また、ダイオードスイッチ35bのダイオードD1bはダイオードD1aとアノードが共通接続され、ダイオードD2bはダイオードD2aとカソードが共通接続される。各ダイオードD1a,D2a,D1b,D2bには、たとえばPINダイオードを用いている。なお、図7においては幹線L1および住戸別線L2を分岐器3に接続するための端子36〜38を図示している。
以下に上記従来例の要部の動作を簡単に説明する。いま、共用部装置1に設けた選択装置13によっていずれかの住戸機2が選択されたとすると、選択された住戸機2ではCPU20の制御下において閉結スイッチ29cをオンにする。閉結スイッチ29cがオンになると共用部装置1の電源部17の出力端間に共用線Ldを介して抵抗Rが接続され直流的にループ回路が閉じるから、ループ回路上のダイオードD1a,D2a,D1b,D2bがオンになる。つまり、ダイオードスイッチ35aがオンになって共用部装置1に選択された住戸機2に接続されている住戸別線L2が幹線L1に接続され、共用部装置1に選択された住戸機2のみが共用線Ldを介して共用部装置1に接続され、共用部装置1と住戸機2との間で映像信号および音声信号の伝送が可能になるのである。このように、閉結スイッチ29cがオンになった住戸機2と共用部装置1との間の分岐器3におけるダイオードスイッチ35aがオンになり、周波数多重化されている映像信号および音声信号を分岐器3に通過させることが可能になる。なお、共用部装置1に選択されていない住戸機2では閉結スイッチ29cはオフに保たれるからダイオードスイッチ35aはオフに保たれ、共用線Ldに関しては、当該住戸機2に接続されている住戸別線L2が幹線L1に接続されることはない。また、当該住戸機2を接続している住戸別線L2と幹線L1との接続点に対して共用部装置1よりも遠方側のダイオードスイッチ35bはオフに保たれるから、遠方側における幹線L1の状態は共用部装置1と住戸別線L2との間のインピーダンスに影響しない。
上記従来例においては、上述のように共用部装置1と住戸機2とは共用線Ld上では一対一に接続されるから、複数台の住戸機2が共用部装置1に接続されることによる共用線Ldのインピーダンスの低下がなく、映像信号および音声信号を高品質で伝送することが可能になる。
特開2004−186835号公報
しかしながら上記従来例において、ダイオードスイッチ35a,35bがオフのときでも幹線L1および住戸別線L2の共用線Ldに存在する浮遊容量Cfによって線間が交流的に短絡されてしまうため(図8参照)、音声信号又は映像信号の交流信号電圧のピーク値がダイオードD1a,D2a,D1b,D2bの順方向電圧降下VF(約0.6〜0.7V)の2個分を越える場合、閉結スイッチ29cのオン/オフに関わらず、浮遊容量Cfを介してダイオードスイッチ35a,35bが交流的にオンとなってしまう。その結果、共用部装置1と複数の住戸機2が同時に接続されることとなり、共用部装置1と住戸別線L2との間のインピーダンスが整合しなくなってしまう。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、共用線の線間に存在する浮遊容量を介して音声信号や映像信号が伝送されることをなくしてインピーダンス低下による映像信号および音声信号の品質劣化が防止できる集合住宅用テレビ付きインターホンシステムを提供することにある。
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、集合住宅の共用玄関に配置され音声の入出力が可能な共用部通話装置および来訪者を撮像するカメラを備える共用部装置と、集合住宅の各住戸にそれぞれ配置され共用部装置とは伝送線路を介して接続されるとともに共用部装置に付設した選択装置を来訪者が操作することにより選択されると共用部装置との間で通信路を確立する複数台の住戸機とを備え、共用部装置は共用線の線間に直流電圧を印加する電源部を備え、住戸機は、共用部装置のカメラにより撮像された映像を表示するモニタと、共用部通話装置との間で音声通話が可能な住戸機通話装置とを備え、伝送線路は、共用部装置に接続された幹線と各住戸機に接続された住戸別線とを含むとともに幹線と各住戸別線との接続部位にそれぞれ介装された複数台の分岐器を有し、幹線および各住戸別線は、少なくとも選択装置の操作に伴って発生する制御信号を伝送する制御線と、音声を伝送する音声信号および音声信号よりも高周波であって映像を伝送する映像信号とを周波数多重化した信号を伝送する共用線とからなり、分岐器は、住戸別線における共用線に挿入される一対のツェナーダイオードからなるダイオードスイッチを備え、各住戸機は、共用部装置による選択時に電源部との間で共用線を通るループ回路を閉成するように制御され非選択時にはループ回路を開放するように制御される閉結スイッチをそれぞれ備え、閉結スイッチによりループ回路が閉成されるとループ回路上のダイオードスイッチがオンしてなり、ダイオードスイッチの一方のツェナーダイオードがループ回路に対して順方向に挿入されるとともに他方のツェナーダイオードがループ回路に対して逆方向に挿入されることを特徴とする。
この発明によれば、閉結スイッチによりループ回路が開成されているときにはダイオードスイッチの一方のツェナーダイオードのツェナー電圧と他方のツェナーダイオードの順方向電圧との和が映像信号および音声信号の信号電圧を下回らない限り共用線の浮遊容量を介して映像信号および音声信号が伝送されることはなく、インピーダンス低下による映像信号および音声信号の品質劣化が防止できる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、分岐器は、住戸別線における共用線に挿入され、映像信号の周波数に対するインピーダンスが音声信号の周波数に対するインピーダンスよりも高くなるインピーダンス素子を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、インピーダンス素子によって映像信号に対する住戸別線における共用線のインピーダンスを大きくしているため、閉結スイッチによりループ回路が開成されているときにツェナーダイオードのアノードとカソード間に存在する容量成分を介して映像信号が住戸別線の共用線に伝送されることがなく、幹線における共用線を伝送する映像信号の劣化が防止できる。
請求項3の発明は、請求項1の発明において、分岐器は、住戸別線における共用線に挿入されて映像信号を伝送する分岐トランスと、分岐トランスの1次巻線と2次巻線との間に挿入され、映像信号の周波数に対するインピーダンスが音声信号の周波数に対するインピーダンスよりも高くなるインピーダンス素子とを有する伝送部を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、分岐トランスを介して映像信号を伝送することにより、映像信号の周波数においては幹線側から住戸別線側をみたときのインピーダンスが高くなるから、閉結スイッチによりループ回路が開成されているときにツェナーダイオードのアノードとカソード間に存在する容量成分を介して伝送される映像信号を抑制することができ、幹線における共用線を伝送する映像信号の劣化が防止できるとともに、幹線側と住戸別線側とで共用線のインピーダンスを整合させて映像信号の品質劣化が防止できる。
請求項4の発明は、請求項1の発明において、分岐器は、住戸別線における共用線に挿入されて映像信号を伝送する分岐トランスと、分岐トランスの1次巻線の両端と2次巻線の両端との間にダイオードスイッチのツェナーダイオードと直列接続された状態でそれぞれ挿入され、映像信号の周波数に対するインピーダンスが音声信号の周波数に対するインピーダンスよりも高くなる一対のインピーダンス素子とを備えたことを特徴とする。
この発明によれば、分岐トランスを介して映像信号を伝送することにより、映像信号の周波数においては幹線側から住戸別線側をみたときのインピーダンスが高くなるから、閉結スイッチによりループ回路が開成されているときにツェナーダイオードのアノードとカソード間に存在する容量成分を介して伝送される映像信号を抑制することができ、幹線における共用線を伝送する映像信号の劣化が防止できるとともに、幹線側と住戸別線側とで共用線のインピーダンスを整合させて映像信号の品質劣化が防止でき、さらに映像信号がダイオードスイッチを介さずに伝送されるためにツェナーダイオードのオン抵抗による映像信号の減衰を防ぐことができる。
請求項5の発明は、請求項3の発明において、分岐器は、ダイオードスイッチを介して幹線の共用線に接続される複数の伝送部を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、ダイオードスイッチを追加せずに共用線を複数分岐することができる。
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れかの発明において、ダイオードスイッチは、住戸別線の共用線に挿入されるとともに一対のツェナーダイオードのアノードにそれぞれアノードが接続された2つのツェナーダイオードを有することを特徴とする。
この発明によれば、住戸別線の共用線における平衡度が向上する。
本発明によれば、閉結スイッチによりループ回路が開成されているときにはダイオードスイッチの一方のツェナーダイオードのツェナー電圧と他方のツェナーダイオードの順方向電圧との和が映像信号および音声信号の信号電圧を下回らない限り共用線の浮遊容量を介して映像信号および音声信号が伝送されることはなく、インピーダンス低下による映像信号および音声信号の品質劣化が防止できるという効果がある。
以下、本発明を実施形態により詳細に説明する。但し、以下の各実施形態において、共用部装置1と住戸機2は従来例と共通であるから図示並びに説明を省略し、本発明の特徴である分岐器3についてのみ説明する。
(実施形態1)
本実施形態は、図1に示すように、従来例の分岐器3におけるダイオードスイッチ35a,35bをツェナーダイオードZD1a,ZD2a,ZD1b,ZD2bで構成した点に特徴がある。すなわち、ダイオードスイッチ35aは住戸別線L2における共用線Ldに挿入される一対のツェナーダイオードZD1a,ZD2aからなり、ダイオードスイッチ35bは幹線L1における共用線Ldに挿入される一対のツェナーダイオードZD1b,ZD2bからなる。但し、各一対のツェナーダイオードZD1a,ZD2a,ZD1b,ZD2bは閉結スイッチ29cがオンのときに直流的に閉じるループ回路上で互いのカソード同士およびアノード同士が直列に接続される向きで共用線Ldに挿入されている。また、ダイオードスイッチ35a,35bを構成するツェナーダイオードZD1a,ZD2a,ZD1b,ZD2bにおいては、ループ回路が閉じて直流電圧が重畳されているときに映像信号および音声信号の下側のピーク値よりもツェナー電圧と順方向電圧との和が低くなり、且つループ回路が閉じていないときに映像信号および音声信号の両側のピーク値よりもツェナー電圧と順方向電圧との和が高くなるようにツェナー電圧が設定されている。
以下に本実施形態の要部の動作を簡単に説明する。いま、共用部装置1に設けた選択装置13によっていずれかの住戸機2が選択されたとすると、選択された住戸機2ではCPU20の制御下において閉結スイッチ29cをオンにする。閉結スイッチ29cがオンになると共用部装置1の電源部17の出力端間に共用線Ldを介して抵抗Rが接続され直流的にループ回路が閉じるから、ループ回路上のツェナーダイオードZD1a,ZD2aが電源重畳部18を介して電源部17から重畳される直流電圧によってオンになる。つまり、ダイオードスイッチ35aがオンになって共用部装置1に選択された住戸機2に接続されている共用線Ldが幹線L1に接続され、さらに、この共用線Ldの幹線下流(接続上、共用部装置1から離れる側)に介装されるダイオードスイッチ35bがオフのままだから、共用部装置1に選択された住戸機2のみが共用線Ldを介して共用部装置1に接続され、共用部装置1と一台の住戸機2との間で映像信号および音声信号の伝送が可能になるのである。ここで、共用部装置1に選択されていない住戸機2においては、ループ回路が閉じていないために電源部17から重畳される直流電圧が印加されず、しかも、ループ回路上に挿入された一対のツェナーダイオードZD1a,ZD2aのツェナー電圧および順方向電圧の和が映像信号および音声信号のピーク電圧よりも高くなるように設定されているので、例え共用線Ldの線間が浮遊容量Cfで交流的に短絡されていたとしても映像信号および音声信号が伝送されることはない。
上述のように、閉結スイッチ29cがオンになった住戸機2と共用部装置1との間の分岐器3におけるダイオードスイッチ35aがオンになるとともに、この分岐器3と共用部装置1との間のダイオードスイッチ35bがオフのままであり、周波数多重化されている映像信号および音声信号を分岐器3に通過させることが可能になる。一方、共用部装置1に選択されていない住戸機2では閉結スイッチ29cがオフに保たれるから、例え共用線Ldの線間が浮遊容量Cfを介して交流的に短絡していてもダイオードスイッチ35aはオフに保たれ、当該住戸機2に接続されている住戸別線L2が幹線L1に接続されることはなく、インピーダンス低下による映像信号および音声信号の品質劣化が防止できる。また、当該住戸機2を接続している住戸別線L2と幹線L1との接続点に対して共用部装置1よりも遠方側のダイオードスイッチ35bも同様にオフに保たれるから、遠方側における幹線L1の状態は共用部装置1と住戸別線L2との間のインピーダンスに影響しない。
上述のように、本実施形態においては、閉結スイッチ29cによりループ回路が開成されているときにはダイオードスイッチ35a,35bの一方のツェナーダイオードZD1a,ZD1b(又はZD2a,ZD2b)のツェナー電圧と他方のツェナーダイオードZD2a,ZD2b(又はZD1a,ZD1b)の順方向電圧との和が映像信号および音声信号の信号電圧を下回ることがないから、共用線Ldの浮遊容量Cfを介して映像信号および音声信号が伝送されることはなく、インピーダンス低下による映像信号および音声信号の品質劣化が防止できるものである。
(実施形態2)
本実施形態は、図2に示すように、映像信号の周波数に対するインピーダンスが音声信号の周波数に対するインピーダンスよりも高くなるインピーダンス素子(例えば、インダクタX1,X2)を、共用線Ldに対してダイオードスイッチ35aを構成するツェナーダイオードZD1a,ZD2aと直列に挿入した点に特徴がある。
実施形態1においては、ダイオードスイッチ35aがオフのときであっても、ツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードとカソードとの間に存在する容量成分を介して周波数の高い映像信号が流れてしまい、映像信号の周波数帯域では共用部装置1と複数の住戸機2とが同時に接続されることとなり、幹線L1側と住戸別線L2側とで共用線Ldのインピーダンスが整合しなくなって幹線L1側の映像信号が減少してしまう虞がある。
そこで、本実施形態においては、共用線Ldに対してダイオードスイッチ35aを構成するツェナーダイオードZD1a,ZD2aと直列にインダクタX1,X2を挿入し、映像信号の周波数帯域における住戸別線L2の共用線LdのインピーダンスをインダクタX1,X2で大きくしている。
上述のように、本実施形態では、インダクタX1,X2によって映像信号に対する住戸別線L2における共用線Ldのインピーダンスを大きくしているため、閉結スイッチ29cによりループ回路が開成されているときにツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードとカソード間に存在する容量成分を介して映像信号が住戸別線L2の共用線Ldに伝送されることがなく、幹線L1における共用線Ldを伝送する映像信号の劣化が防止できる。また、ダイオードスイッチ35bを幹線L1側の共用線Ldに挿入する場合、分岐器3の接続台数が増加するにつれてダイオードスイッチ35bにおける電圧降下の影響で共用線Ldに重畳される直流電圧が低下してしまうが、本実施形態においては、映像信号についてインダクタX1,X2を介して住戸別線L2の共用線Ldを高インピーダンス分岐しているために幹線L1側のダイオードスイッチ35bを省略することができ、分岐器3が増加しても共用部装置1の電源部17から重畳する直流電圧を大きくする必要がなく、無駄な電力消費を抑えることができる。
(実施形態3)
実施形態2においては、住戸別線L2の共用線LdにインダクタX1,X2を挿入しているため、幹線L1側と住戸別線L2側とで共用線Ldのインピーダンス整合を保つことが困難となり、映像信号の品質が劣化してしまう虞がある。
そこで本実施形態においては、図3に示すように、住戸別線L1における共用線Ldに挿入されて映像信号を伝送する分岐トランスTと、分岐トランスTの1次巻線n1と2次巻線n2との間に挿入されるインダクタX1,X2とを有する伝送部39を分岐器3に備えており、この点に本実施形態の特徴がある。
分岐トランスTの1次巻線n1は、それぞれ抵抗R1,R2並びに直流カット用のコンデンサC1,C2を介してツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードに接続され、2次巻線n2は、直流カット用のコンデンサC3,C4を介して端子36に接続される。また、インダクタX1,X2は、ツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードに一端が接続され、他端が端子36に接続されている。抵抗R1,R2は共用線Ldの特性インピーダンスよりも十分に大きいインピーダンス値を有し、幹線L1側の共用線Ldの特性インピーダンスに影響を与えずに映像信号の一部を住戸別線L2側の共用線Ldに分岐させることが可能である。また分岐トランスTは2次側の特性インピーダンスが住戸別線L2の共用線Ldの特性インピーダンスと等しくなるように巻数比が調整されている。
以下に本実施形態の要部の動作を簡単に説明する。選択された住戸機2で閉結スイッチ29cがオンになると直流的にループ回路が閉じてダイオードスイッチ35aがオンになり、共用部装置1に選択された住戸機2に接続されている住戸別線L2が幹線L1に接続され、映像信号が伝送部39における分岐トランスTを介して住戸機2に伝送されるとともに、音声信号が伝送部39におけるインダクタX1,X2を介して共用部装置1と住戸機2との間を伝送される。一方、選択されていない住戸機2では閉結スイッチ29cがオフであるからループ回路が直流的に開成されているためにダイオードスイッチ35aがオフになり、周波数の低い音声信号はダイオードスイッチ35aで阻止される。これに対して周波数の高い映像信号はツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノード−カソード間に存在する容量成分を介して伝送部39に伝送されてしまうが、伝送部39においては分岐トランスTによってインピーダンスを整合させているから、ダイオードスイッチ35aがオフの時においてもインピーダンス低下による映像信号の品質劣化を抑えることができる。
而して、本実施形態においては、分岐トランスTを介して映像信号を伝送することにより、映像信号の周波数においては幹線L1側から住戸別線L2側をみたときのインピーダンスが高くなるから、閉結スイッチ29cによりループ回路が開成されているときにツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードとカソード間に存在する容量成分を介して伝送される映像信号を抑制することができ、幹線L1における共用線Ldを伝送する映像信号の劣化が防止できるとともに、幹線L1側と住戸別線L2側とで共用線Ldのインピーダンスを整合させて映像信号の品質劣化が防止できる。
尚、図4に示すようにダイオードスイッチ35aを介して幹線L1の共用線Ldに接続される複数の伝送部39を設ければ、ダイオードスイッチ35aを追加せずに、1台の分岐器3から複数台の住戸機2へ共用線Ldを分岐させることができる。
(実施形態4)
実施形態3においては、ツェナーダイオードZD1a,ZD2aのオン抵抗(数Ω程度)によって映像信号が多少減衰してしまう。
そこで本実施形態においては、図5に示すように、ダイオードスイッチ35aを構成するツェナーダイオードZD1a,ZD2aをインダクタX1,X2と直列に接続しており、この点に本実施形態の特徴がある。尚、他の構成は実施形態3と共通であるから説明は省略する。
而して、本実施形態においては、映像信号がダイオードスイッチ35aを介さずに伝送されるため、ツェナーダイオードZD1a,ZD2aのオン抵抗による映像信号の減衰を抑えることができるものである。
ところで、図6に示すようにツェナーダイオードZD1a,ZD2aのアノードにアノードが接続されるとともにカソードが端子36に接続される一対のツェナーダイオードZD1c,ZD2cをダイオードスイッチ35aに追加すれば、住戸別線L2の共用線Ldにおける平衡度を向上させることができる。但し、この構成は本実施形態に限らず実施形態1〜3の何れにおいても同様の効果を奏する。
実施形態1における分岐器のブロック図である。
実施形態2における分岐器のブロック図である。
実施形態3における分岐器のブロック図である。
同上における他の分岐器のブロック図である。
実施形態4における分岐器のブロック図である。
同上における他の分岐器のブロック図である。
従来例のブロック図である。
同上の説明図である。
符号の説明
3 分岐器
35a ダイオードスイッチ
ZD1a,ZD2a ツェナーダイオード
L1 幹線
L2 住戸別線
Ld 共用線