本発明の目的は、上記事実を考慮して、入力振動の周波数に基づいてオリフィスの開閉状態を自動的に制御でき、しかも製造コストを効果的に低減できる防振装置を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係る防振装置は、振動発生部及び振動受け部の一方に連結される第1の取付部材と、振動発生部及び振動受け部の他方に連結される第2の取付部材と、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材との間に配置された弾性体と、前記弾性体を隔壁の一部として液体が封入され、該弾性体の弾性変形に伴って内容積が変化する主液室と、隔壁の少なくとも一部が変形可能に形成され、液体が封入された副液室と、前記主液室と前記副液室との間を連通するオリフィスと、内部が前記オリフィスの一部を形成する開放液室と前記オリフィスから隔離された閉鎖液室とに区画され、液体が封入されたシリンダ室と、前記シリンダ室内に配設されると共に、前記閉鎖液室と前記開放液室とを連通する連通路が形成され、前記閉鎖液室内へ移動して前記開放液室を開放する開放位置と前記開放液室内へ移動して該開放液室を閉鎖する閉鎖位置との間で往復動可能とされたマス部材と、前記連通路を通して前記閉鎖液室から前記開放液室側へのみ液体を流出させ得る逆止弁と、前記マス部材を前記閉鎖位置へ向かって付勢する付勢部材と、を有した防振装置であって、前記マス部材、前記逆止弁及び前記付勢部材を、特定の周波数を有する共振振動により共振現象が生じる振動共振系として構成し、前記共振振動の入力に同期し、前記振動共振系が前記連通路を通して前記閉鎖液室から前記開放液室側へ液体を間欠的に流出させつつ、前記マス部材を前記付勢部材の付勢力に抗して前記閉鎖位置から前記開放位置側へ間欠的に移動させることを特徴とする防振装置。
本発明の請求項1に係る防振装置の作用を以下に説明する。
請求項1の防振装置では、基本的に、第1及び第2の取付部材の何れか一方に連結された振動発生部側から振動が伝達されると、第1及び第2の取付部材間に配置された弾性体が弾性変形し、この弾性体の内部摩擦に基づく制振機能によって振動が吸収され、振動受け部側へ伝達される振動が低減される。
また請求項1の防振装置では、マス部材、逆止弁及び付勢部材は特定の周波数を有する共振振動により共振現象が生じる振動共振系として構成されており、この振動共振系が、共振振動の入力に同期し、連通路を通して閉鎖液室から開放液室側へ液体を間欠的に流出させつつ、マス部材を付勢部材の付勢力に抗して閉鎖位置から前記開放位置側へ間欠的に移動させる。
すなわち、請求項1の防振装置では、振動発生部から特定の周波数を有する共振振動が伝達され、この共振振動が振動共振系へ入力すると、振動共振系には共振現象が発生して入力振動が運動エネルギとして蓄えられ、この運動エネルギによりマス部材が逆止弁に僅かな変位又は弾性変形を生じさせつつ振動する。これにより、共振振動の入力に同期して逆止弁が連通路を開放及び閉鎖する開閉動作を繰り返すように作動すると同時に、マス部材の連通路及び逆止弁を通して閉鎖液室から開放液室側へ液体を間欠的に流出させつつ、マス部材がシリンダ室内で付勢部材の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動する。
このとき、逆止弁が閉鎖液室から開放液室側へのみ液体を流出させ、開放液室から閉鎖液室側へは液体が流れないので、閉鎖液室内に封入された液圧の作用によりマス部材の閉鎖位置側への移動が阻止される。
従って、共振振動の入力が一定時間以上に亘って続くと、マス部材が閉鎖位置から開放位置へ移動してオリフィスの一部を形成する開放液室を開放することから、オリフィスを通して液体が主液室と副液室との間で流通可能になる。これにより、主液室内からオリフィス内に液体が流入することで、圧力変化及び粘性抵抗等が生じつつこのオリフィス内を液体が流通し、主液室と副液室との間で液体が相互に流通(液柱共振)するので、液体の液柱共振や粘性抵抗等によっても特定の周波数(共振周波数)を有する共振振動が低減されて、振動受け部側に共振振動がより一層伝達され難くなる。
一方、請求項1の防振装置では、吸振振動の入力後に、振動発生部から共振振動以外の振動、すなわち共振周波数以外の周波数を有する振動が伝達されると、振動共振系には共振現象が生じないことから、開放位置にあったマス部材が付勢部材の付勢力により閉鎖位置に復帰してオリフィスの一部を形成する開放液室を閉鎖するので、オリフィスを通して主液室と副液室との間で液体が流通しなくなる。
このとき、閉鎖液室内に封入された液圧がマス部材の閉鎖位置側への移動を阻止するように作用することから、マス部材を閉鎖位置側へ円滑に移動させるためには、マス部材の移動量に対応する液体を閉鎖液室内から流出させる必要があり、このためには、例えば、共振振動の非入力時に、副液室又は主液室から閉鎖液室へ液体を流入させるリーク路を設けることができる。
以上説明した請求項1の防振装置によれば、アクチュエータ、電磁バルブ及びコントローラ等が無くとも、入力振動の周波数に基づいてオリフィスの開閉状態を自動的に制御できるので、防振装置の防振性能を維持しつつ製造コストを低減することが可能となる。
また本発明の請求項2に係る防振装置は、請求項1記載の防振装置において、前記共振振動の非入力時に、前記副液室又は前記主液室から前記閉鎖液室へ液体を流入させるリーク路を有することを特徴とする。
また本発明の請求項3に係る防振装置は、請求項1又は2記載の防振装置において、前記共振振動が車両のエンジンアイドリング時に主として発生するアイドル振動であることを特徴とする。
また本発明の請求項4に係る防振装置は、請求項3記載の防振装置において、オリフィスが2本存在し、前記開放液室により一部が形成された前記オリフィスが前記アイドル振動に対応する路長及び断面積を有するアイドルオリフィスとされ、他のオリフィスがアイドル振動に対して相対的に低い周波数を有するシェイク振動に対応して前記アイドルオリフィスよりも細く又は長く形成されて液体の流通抵抗が大きいシェイクオリフィスとされたことを特徴とする。
請求項4に係る防振装置の作用を以下に説明する。
請求項4の防振装置では、オリフィスが2つ存在し、開放液室により一部が形成され、マス部材により開閉可能とされたオリフィスがアイドル振動に対応する路長及び断面積を有するアイドルオリフィスとされ、他のオリフィスがアイドル振動に対して相対的に低い周波数を有するシェイク振動に対応してアイドルオリフィスよりも細く又は長く形成されて液体の流通抵抗が大きいシェイクオリフィスとされている。
これにより、アイドルオリフィスでは低減できないような低い周波数のシェイク振動が入力した場合には、マス部材によりアイドルオリフィスが閉鎖された状態となるが、シェイクオリフィスを通して主液室と副液室との間で液体が相互に流通するので、シェイク振動をシェイクオリフィス内における液体の液柱共振や粘性抵抗等によって低減できる。この結果、アイドル振動及びシェイク振動の何れの振動が入力しても、これらの振動を効果的に低減できるようになる。
尚、アイドルオリフィスが開放された状態では、振動入力時に主液室内からアイドルオリフィス及びシェイクオリフィスにそれぞれ液体が流入するが、シェイクオリフィスはアイドルオリフィスに比べて液体の流通抵抗が大きいので、液体の大部分はアイドルオリフィスを通して主液室と副液室との間を流通することになる。
また本発明の請求項5に係る防振装置は、請求項1乃至4の何れか1項記載の防振装置において、前記逆止弁が弁座及び弁体を有し、前記弁座を、前記マス部材の前記開放液室内に面し、かつ前記連通路の開口端を含む部位に設け、前記弁体を、弾性材料により形成すると共に、前記開放液室側から前記弁座に所定の弾性力で圧接するように配置したことを特徴とする。
また本発明の請求項6に係る防振装置は、請求項1乃至5の何れか1項記載の防振装置において、前記マス部材の前記閉鎖位置と前記開放位置との間での移動方向を、振動発生部から入力する振動の主振幅方向と略一致させたことを特徴とする。
以上説明したように、本発明の防振装置によれば、入力振動の周波数に基づいてオリフィスの開閉状態を自動的に制御でき、しかも製造コストを効果的に低減できる。
以下、本発明の実施形態に係る防振装置について図面を参照して説明する。
図1及び図2には本発明の実施形態に係る防振装置が示されている。この防振装置10には、その上部側に円筒状であって下端部に外周側に延出するフランジ部14を有した上部外筒金具12が設けられると共に、この上部外筒金具12の下側に円筒状であって段差部18を介して上端側よりも下端側が小径とされた下部外筒金具16が配置されている。下部外筒金具16の上端部にも、外周側へ延出するフランジ部20が形成されており、このフランジ部20上に上部外筒金具12のフランジ部14が載置され、このフランジ部14の外周側がフランジ部20の外周側を挟み込みむように内周側へかしめられることにより、上部外筒金具12と下部外筒金具16とが互いに連結固定されている。防振装置10は、下部外筒金具16がカップ状のホルダ金具(図示省略)内へ嵌挿されることにより、このホルダ金具を介して車両のエンジン側へ連結固定される。
下部外筒金具16の内周面には、円筒形状をしたゴム製の弾性体22の外周部が加硫接着されると共に、この弾性体22の外周部から上方へ延出する薄肉ゴム層24が加硫接着されている。弾性体22の内周側には円柱状の内筒金具26が配設されており、内筒金具26の外周面及び頂面部には弾性体22が加硫接着されている。内筒金具26には、その下端面から軸心Sに沿ってねじ穴28が穿設されている。このねじ穴28にはボルトがねじ込まれ、このボルトにより車両の車体側との連結用のブラケット(図示省略)の一端部が内筒金具26に固定される。
防振装置10内には、略肉厚円板状の仕切部材30が上部外筒金具12及び下部外筒金具16の内周側であって、弾性体22の上側に配設されている。仕切部材30は、下部外筒金具16及び上部外筒金具12に固定されると共に、上部外筒金具12及び下部外筒金具16の内周側の空間を軸方向に沿って2個の小空間に区画する。これら2個の小空間はそれぞれオイル、エチレングリコール等の液体が封入される主液室32及び副液室34とされる。主液室32は、下部外筒金具16、仕切部材30及び弾性体22により構成され、弾性体22の弾性変形に伴って内容積が拡縮する。
上部外筒金具12の内周面及び外周面には薄膜状のゴム膜36がそれぞれ加硫接着により被覆されており、このゴム膜36の上端部には、弾性変形可能なゴム製のダイヤフラム38の周縁部が全周に亘って接合されている。このダイヤフラム38は上部外筒金具12の上端側の開口を閉止して、副液室34の隔壁の一部を形成している。尚、ダイヤフラム38は、その外側(上側)が大気に開放されており、副液室34の内容積を拡縮するように変形可能とされている。
仕切部材30は、図3に示されるように、合成樹脂やアルミニウム等の金属材料により形成された略円筒状の上部オリフィス部材40と、アルミニウム等の金属材料により形成された円板状の下部オリフィス部材42とを備えている。上部オリフィス部材40は、下面側が開口した有底円筒状に形成されており、その上面側を閉止した頂板部44には、図3に示されるように扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の開口部46が穿設されると共に、これら開口部46の内周側に肉厚のボス部48が形成されており、このボス部48には、その中心部に軸心Sに沿って貫通する嵌挿穴50が穿設されている。また上部オリフィス部材40には、その下端部に外周側へ延出する円環状のフランジ部52が形成されている。
図3に示されるように、下部オリフィス部材42には、中央側に上方へ向かって円形凸状に形成された嵌挿部54が形成されると共に、その外周部に上部オリフィス部材40のフランジ部52に対応する円環状のフランジ部56が形成されている。また下部オリフィス部材42には、嵌挿部54とフランジ部56との間に周方向へ延在する凹状の溝部58が全周に亘って形成されている。この溝部58の底面部には、周方向に沿って所定の部位に連通穴60が穿設されている。
図1に示されるように、仕切部材30では、下部オリフィス部材42の嵌挿部54が下方から上部オリフィス部材40の中空部内へ挿入されると共に、下部オリフィス部材42のフランジ部56が上部オリフィス部材40のフランジ部52へ突き当てられた状態とされる。これらのフランジ部52,56は、上部外筒金具12のフランジ部14と下部外筒金具16のフランジ部20との間に挟持される。これにより、上部オリフィス部材40と下部オリフィス部材42とが一体化されると共に、上部外筒金具12及び下部外筒金具16に対して固定される。このとき、上部外筒金具12が必要に応じて縮径するように内周側へ絞り込まれる。これにより、ゴム膜36を介して上部外筒金具12の内周面を上部オリフィス部材40の外周面へ所要の圧接力で圧接させることができる。
上部オリフィス部材40の下端側が下部オリフィス部材42により閉止されることにより、上部オリフィス部材40内には外部から区画された円柱状のシリンダ室62が形成される。このシリンダ室62内にも主液室32及び副液室34内と同一の液体が封入される。また、上部オリフィス部材40と下部オリフィス部材42とが一体化されることにより、下部オリフィス部材42の溝部58は、上部オリフィス部材40の底面部により上面側が閉止されて外部から区画された周方向へ細長い空間を形成する。一方、上部オリフィス部材40の底面部には、溝部58における連通穴60に対応する部位に仕切部(図示省略)が下方へ突出するように形成されており、この仕切部は溝部58内に挿入され、連通穴60に隣接する部位で溝部58の周方向に沿った一部を閉塞する。この溝部58内に形成される有端状の空間は、後述するシェイクオリフィス64及びアイドルオリフィス66の一部を構成する。
一方、上部オリフィス部材40には、図3に示されるように、その外周面に軸心Sを中心として螺旋状に延在する外周溝68が形成されており、この外周溝68は、上部オリフィス部材40の外周面を2周近くに亘って延在し、その外周側が上部外筒金具12の内周面に被覆されたゴム膜36により閉止される。また上部オリフィス部材40には、フランジ部52の内周側に隣接して軸方向へ貫通する下部連通穴70が穿設されると共に、頂板部44の外周縁部に軸方向へ貫通する上部連通穴72が切り欠れて形成されている。下部連通穴70は外周溝68の下端部を下部オリフィス部材42の溝部58の一端部に連通させ、また上部連通穴72は外周溝68の上端部を副液室34に連通させている。これにより、外周溝68と溝部58とは下部連通穴70を通して1本に繋がり、その両端部がそれぞれ上部連通穴72及び連通穴60を通して副液室34及び主液室32に接続される。
図3に示されるように、上部オリフィス部材40には、その外周壁部を径方向に沿って貫通する中間開口112が形成されており、この中間開口112は、外周溝68の下端部に対して手前側の部分とシリンダ室62とを互いに連通させている。ここで、下部連通穴70を通して1本に繋がった外周溝68と溝部58とは、全体としてシェイクオリフィス64を形成し、また外周溝68における下部連通穴70から中間開口112までの部分は、下部オリフィス部材42の溝部58と共にアイドルオリフィス66の一部を形成する。
図1に示されるように、仕切部材30には、その中心部に後述するマスプランジャ74を軸方向へ移動可能に支持するための軸部材76が配設されている。軸部材76には、丸棒状の摺動軸78が形成されると共に、この摺動軸78の上端側に摺動軸78よりも大径の頭部80が形成され、さらに頭部80の上端部には、外周側へ延出する円板状のストッパ部82が一体的に形成されている。また軸部材76には、その中心部を軸方向に沿って貫通する細径のリーク路84が形成されている。
軸部材76は、摺動軸78が上部オリフィス部材40の嵌挿穴50を通してシリンダ室62内へ挿入される。このとき、軸部材76は、頭部80が嵌挿穴50内へ圧入等により固定されると共に、ストッパ部82がボス部48の上面部に当接した状態とされる。これにより、摺動軸78がシリンダ室62内で軸心Sに沿って延在するように支持される。シリンダ室62内に支持された摺動軸78の先端面と下部オリフィス部材42の上面部との間には隙間が形成される。これにより、副液室34とシリンダ室62とは、軸部材76のリーク路84を通して互いに連通することになる。
図4に示されるように、仕切部材30のシリンダ室62内には、所定の重量を有するマスプランジャ74が軸方向に沿って移動可能に配設されている。マスプランジャ74は全体として肉厚円板状に形成されており、プランジャ本体86と、このプランジャ本体86に組み付けられる軸受88、弁体90及び押え金具92とを備えている。プランジャ本体86は、大型化を避けると共に必要とする重量を確保するため、比較的比重が大きいステンレス等の金属材料により形成されており、その中心部には軸方向へ貫通する中心穴94が穿設されている。
プランジャ本体86の中心穴94内には円筒状に形成された軸受88が嵌挿されている。この軸受88の内周側には、軸部材76の摺動軸78が相対的に摺動可能に挿入されている。これにより、プランジャ本体86は、シリンダ室62内で摺動軸78により軸心Sと同軸的なるように位置決めされると共に、軸方向に沿って移動可能に支持される。このとき、プランジャ本体86の外周面とシリンダ室62の内周面との間には隙間が形成され、これらの面間には直接的には摩擦が生じないようになっているが、これらの面間を通って実質的に液体が流通しないように隙間の幅が十分に狭いものになっている。
プランジャ本体86の上面中央部には、図3に示されるように円形凹状の弁体収納部96が形成されており、この弁体収納部96内には円板状の弁体90が収納されている。弁体90には中心部に円形の嵌挿穴97が穿設されており、この嵌挿穴97の内周側には軸受88の上端部が嵌挿されている。弁体90は、中央部の肉厚が一定とされると共に、この肉厚一定の中央部よりも外周側の撓み部91の肉厚が外周側へ向かって徐々に薄くなっている。また弁体90はゴム等の弾性材料により形成されており、撓み部91の撓み方向への剛性が所定の大きさになるように厚さ、材質等が調整されている。
マスプランジャ74の押え金具92は、下方へ向かって開いたキャップ状に形成されており、プランジャ本体86上端部の外周側へ嵌挿されている。これにより、プランジャ本体86の弁体収納部96内に収納された弁体90は、その中央部付近が弁体収納部96の底面部と押え金具92との間に挟持され、軸方向に沿って僅かに圧縮された状態とされる。ここで、図3に示されるように、弁体収納部96の底面部は平面状の弁座98として構成されており、弁体収納部96内に収納された弁体90の撓み部91は、自然状態に対して所定量上方へ撓んだ変形状態に保持されており、これによる一定の復元力(予圧力)で弁座98に圧接している。また撓み部91と押え金具92の下面部との間には、内周側から外周側へ向かって幅広となる隙間が形成され、図4に示されるように、この隙間により撓み部91は弁座98から離間するように撓み変形可能とされている。
マスプランジャ74は、シリンダ室62の内部を軸方向(上下方向)に沿って2個の小液室に区画すると共に、図1に示される閉鎖位置と図2に示される開放位置との間で移動可能とされている。2個の小液室のうちマスプランジャ74の上側の小液室は、アイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100とされ、またマスプランジャ74の下側の小液室はアイドルオリフィス66から隔離された閉鎖液室102とされている。この閉鎖液室102と副液室34とは、軸部材76のリーク路84を通して互いに連通している。
プランジャ本体86には、図1及び図3に示されるように、弁体収納部96の底面部とプランジャ本体86の下面部との間を貫通する貫通穴104が複数本(本実施形態では、4本)形成されている。また押え金具92の頂板部には、扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の連通開口106が穿設されており、この連通開口106は、上部オリフィス部材40に穿設された複数個の開口部46及び弁体90の撓み部91にそれぞれ面するように開口している。これにより、貫通穴104、弁体収納部96及び連通開口106は、開放液室100と閉鎖液室102とを繋ぐ連通路118(図4参照)を構成し、この連通路118内での液体の流通が弁体90及び弁座98からなる逆止弁114により制御される。
具体的には、逆止弁114は、図1に示されるように弁体90の撓み部91が弁座98に所定の与圧力で圧接している状態では、連通路118の一部を構成する貫通穴104を閉止して閉鎖液室102と開放液室100との間における液体流通を阻止し、また図4に示されるように弁体90の撓み部91が上方へ撓み変形して弁座98から離間している状態では、連通路118の一部を構成する貫通穴104を開放して閉鎖液室102から開放液室100側へのみ液体を流通可能とする。
図3に示されるように、プランジャ本体86には、その下面部における貫通穴104の内周側に周方向へ延在する受け溝108が環状に形成されており、この受け溝108内にはコイルスプリング110の一端部が挿入されている。このコイルスプリング110は、受け溝108の底面部と下部オリフィス部材42の上面部との間に圧縮状態となるように介装されており、プランジャ本体86を常に所定の付勢力で閉鎖位置側へ付勢している。
図1に示されるように、マスプランジャ74が閉鎖位置にあるときには、マスプランジャ74(プランジャ本体86)の外周面により上部オリフィス部材40の中間開口112が閉止される。これにより、主液室32と副液室34とは、上部オリフィス部材40の外周溝68及び下部オリフィス部材42の溝部58により構成されたシェイクオリフィス64のみを通して互い連通する。
また図2に示されるように、マスプランジャ74が閉鎖位置から開放位置へ移動すると、マスプランジャ74(プランジャ本体86)が上部オリフィス部材40の中間開口112を開放する。これにより、開放液室100が中間開口112を通して上部オリフィス部材40の外周溝68の中間部に接続され、開放液室100、外周溝68の中間開口112から下部連通穴70までの部分、及び下部オリフィス部材42の外周溝68からなるアイドルオリフィス66が開放状態となり、このアイドルオリフィス66を通して主液室32と副液室34とが互いに連通する。このとき、主液室32と副液室34とはシェイクオリフィス64を通しても互いに連通しているが、シェイクオリフィス64の路長がアイドルオリフィス66よりも長くなっている。このため、アイドルオリフィス66内における液体の流通抵抗が、シェイクオリフィス64内における液体の流通抵抗よりも十分に小さいものになり、主液室32内の液圧変化に伴って生じる主液室32と副液室34との間の液体の移動は、その大部分がアイドルオリフィス66を通して、すなわち実質的にはアイドルオリフィス66を通して行われる。
以上説明した防振装置10では、マスプランジャ74、逆止弁114の弁体90及びコイルスプリング110が、特定の周波数を有する振動により共振現象が生じる振動共振系として構成されている。具体的には、外部から入力する振動がアイドル振動(例えば、18〜30Hz)である場合には、このアイドル振動の入力に同期し、前記振動共振系が貫通穴104、弁体収納部96及び連通開口106からなる連通路118を通して閉鎖液室102から開放液室100側へ液体を間欠的に流出させつつ、マスプランジャ74をコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動させる。なお、このようなアイドル振動は、主として車両のエンジンアイドリング時に発生する。また車両が車体等に共振を誘発する特定速度で走行している際には、アイドル振動よりも低周波数域の振動であるシェイク振動(例えば、9〜15Hz)が主として発生する。
次に、本発明の実施形態に係る防振装置10の作用を説明する。
防振装置10では、例えば、ブラケット(図示省略)を介して内筒金具26に連結されたエンジンが作動すると、エンジンの振動が内筒金具26を介して弾性体22に伝達される。このとき、弾性体22は吸振主体として作用し、弾性体22の内部摩擦等に基づく制振機能によって振動を吸収し、ホルダ金具(図示省略)を介して外筒金具12,16に連結された車体側へ伝達される振動が低減される。
また本実施形態に係る防振装置10では、、マスプランジャ74、逆止弁114の弁体90及びコイルスプリング110が、アイドル振動により共振現象が生じる振動共振系として構成されており、この振動共振系が、外部から入力する振動がアイドル振動である場合には、このアイドル振動の入力に同期し、貫通穴104、弁体収納部96及び連通開口106からなる連通路118を通して閉鎖液室102から開放液室100側へ液体を間欠的に流出させつつ、マスプランジャ74をコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動させる。
すなわち、防振装置10では、外部からアイドル振動が伝達され、このアイドル振動が振動共振系へ入力すると、振動共振系には共振現象が発生して入力振動が運動エネルギとして蓄えられ、この運動エネルギによりマスプランジャ74が弾性体である弁体90に僅かな弾性変形を生じさせつつ振動する。これにより、アイドル振動の入力に同期して弁体90の撓み部91が弁座98に対して離間及び圧接を繰り返すように撓み方向へ弾性変形すると同時に、マスプランジャ74の連通路118を通して閉鎖液室102から開放液室100側へ液体を間欠的に流出させつつ、マスプランジャ74がシリンダ室62内でコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動する。
このとき、逆止弁114が閉鎖液室102から開放液室100側へのみ液体を流出させ、開放液室100から閉鎖液室102側へは液体が流れないので、閉鎖液室102内に封入された液圧の作用によりマス部材の閉鎖位置側への移動が阻止される。なお、閉鎖液室102内へはリーク路84を通して副液室34から液体が流入可能となっているが、リーク路84の内径が十分細く、このリーク路84内では液体の粘性の影響が非常に大きいものになるので、入力振動によって生じる閉鎖液室102内の瞬間的な圧力変動によってはリーク路84を通して液体が閉鎖液室に供給されることは殆ど無い。
従って、アイドル振動の入力が一定時間以上に亘って続くと、マスプランジャ74が閉鎖位置から開放位置へ移動してアイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100を開放することから、アイドルオリフィス66を通して液体が主液室32と副液室34との間で流通可能になる。これにより、主液室32内からアイドルオリフィス66内に液体が流入することで、圧力変化及び粘性抵抗等が生じつつこのアイドルオリフィス66内を液体が流通し、主液室32と副液室34との間で液体が相互に流通(液柱共振)するので、液体の液柱共振や粘性抵抗等によってもアイドル振動が低減されて、振動受け部となる車体側にアイドル振動がより一層伝達され難くなる。
一方、本実施形態に係る防振装置10では、アイドル振動の入力後に、外部からアイドル振動以外の振動(例えば、シェイク振動)が伝達されると、振動共振系には共振現象が生じないので、開放位置にあったマスプランジャ74がコイルスプリング110の付勢力により閉鎖位置に復帰してアイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100を閉鎖するので、アイドルオリフィス66を通して主液室32と副液室34との間で液体が流通しなくなる。
このとき、マスプランジャ74の移動量に対応する液体がリーク路84を通って閉鎖液室102から副液室34内へ流出する。これにより、閉鎖液室102内に封入された液圧によりマスプランジャ74の閉鎖位置側への移動が阻止されなくなるので、マスプランジャ74を開放位置から閉鎖位置まで円滑に移動させることができる。
また本実施形態に係る防振装置10では、主液室32と副液室34と繋ぐオリフィスとしてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64の2つが存在し、シェイクオリフィス64がアイドルオリフィス66よりも長く形成されて液体の流通抵抗が大きくなっている。これにより、防振装置10では、アイドルオリフィスでは低減できないような低い周波数の振動(シェイク振動)が入力した場合には、マスプランジャ74によりアイドルオリフィス66の一部を構成する閉鎖液室102が閉鎖された状態となるが、シェイクオリフィス64を通して主液室32と副液室34との間で液体が相互に流通するので、このようなシェイク振動もシェイクオリフィス64内における液体の液柱共振や粘性抵抗等によって低減できる。この結果、防振装置10では、アイドル振動及びシェイク振動の何れの振動が外部から入力しても、これらの振動を効果的に低減できるようになる。
なお、本実施形態の防振装置10では、アイドルオリフィス66の一部がシェイクオリフィス64の一部と共用された構造になったいたが、アイドルオリフィスとシェイクオリフィスとを共用部分が存在しないそれぞれ独立したものにしても良い。この場合にも、シェイクオリフィスは、アイドルオリフィスよりも細く又は長く形成されて液体の流通抵抗が大きいものとされる。
また防振装置10では、逆止弁114の弁体90を弾性材料により形成することで、この弁体90により振動共振系の一部を構成していたが、このような弁体を液圧により実質的に弾性変形が生じない材料(例えば、金属、樹脂)により形成し、弁体をコイルスプリング、板バネ、ゴムブッシュ等の弾性材により弾性的に支持し、弁座98へ所定の圧接力で圧接するようにしても良い。この場合にも、圧接力や弾性材の剛性等を適宜調整することにより、弁体を構成要素の一部とする振動共振系が構成可能になる。
また本実施形態に係る防振装置10では、マスプランジャ74の閉鎖位置と開放位置との間での移動方向を、エンジン等から入力する振動(アイドル振動)の振幅方向と略一致している。これにより、マスプランジャ74の移動方向とアイドル振動の振幅方向が一致していない場合と比較し、外部から入力するアイドル振動の運動エネルギが効率良く振動共振系へ入力し、アイドル振動の入力時における振動共振系の作動速度、すなわちマスプランジャ74の閉鎖位置から開放位置への移動速度を大きなものにできる。
以上説明した本実施形態に係る防振装置10によれば、従来のオリフィス切換式の防振装置で必要とされたアクチュエータ、電磁バルブ及びコントローラ等を不要として装置の製造コストを大幅に低減できると共に、入力振動の周波数に基づいてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64それぞれの開閉状態を自動的に制御できるので、広い周波数範囲の入力振動を効果的に減衰吸収できる。
また防振装置10では、アイドル振動の入力開始後、可能な限り短時間で、マスプランジャ74を閉鎖位置から開放位置まで移動させることが望ましい。このアイドル振動の入力時におけるマスプランジャ74の閉鎖位置から開放位置まで移動時間を短縮するためには、例えば、図5(A)に示されるように、下部オリフィス部材42の中心部に軸方向へ貫通する圧力供給穴120を形成するか、図5(B)に示されるように、下部オリフィス部材42の中心側の一部に開口部122を形成し、この開口部122に弾性変形可能なゴム製のメンブラン124を配設することが有効である。すなわち、このように下部オリフィス部材42に圧力供給穴120及びメンブラン124の一方を設けることにより、振動入力に伴う主液室32内の圧力変化を閉鎖液室102の液体へ伝搬できるようになるので、入力振動に同期する圧力変化を入力振動と共に振動共振系へ作用させ、振動共振系の共振現象を促進し、マスプランジャ74の移動速度を効果的に増加できるようになる。
なお、圧力供給穴120の内径が大きすぎると、主液室32内での液圧損失が過大になり、防振性能を低下させる原因なる。このことから、圧力供給穴120の内径は、0.1mm以上で、防振装置10の軸心Sを中心とする外径の1/10以下の範囲で適宜設定される。