JP4262391B2 - 弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、建物や精密機器等の免震、制振、除振あるいは防振のために使用される弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物に係り、特に滑り材に四フッ化エチレン樹脂を使用した弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
建物等の構造物の免震構造は、構造物と基礎との間に構造物の剛性に比べ遥かに低い水平剛性を持つ免震層を設けて構成されている。この免震層の1つとして、従来から積層ゴムが使用されている。この積層ゴムを利用した免震システムとしては、▲1▼天然ゴムを用いた積層ゴムとダンパとを組合せたもの、▲2▼積層ゴムのゴム状弾性体として高減衰のゴム材料を用いたもの(高減衰積層ゴム)、▲3▼積層ゴム内に形成された中空部に鉛プラグが封入されたもの(鉛プラグ入り積層ゴム)、▲4▼積層ゴムの滑り面に低摩擦材を設け平板の滑り板上を摺動させるもの等が挙げられる。中でも▲4▼の滑り支承体は、低摩擦材を設けた積層ゴムが滑り板上を滑り始めてからの水平剛性がゼロなので、構造物の免震に有効とされている免震層の長周期化が可能な免震構造として注目されている。
【0003】
▲4▼の弾性滑り支承体は図4(a)に示すように、上部構造体51に固定される積層ゴム52と、下部基礎53に固定されるステンレス等の滑り板54とを備えている。積層ゴム52は上部鋼板55および下部鋼板56間にゴム層521と中間鋼板522とが交互に積層成型され、さらに、滑り板54上を摺動可能な低摩擦材57が下部鋼板56に、貼付または表面処理等されている。したがって、地震発生時には低摩擦材57と滑り板54との間で滑りが生じるので、免震効果を発揮することができる。なお、積層ゴム52は、滑り板54が若干傾斜されて設置されていても、低摩擦材57と滑り板54との間に隙間が生じないようにする可動部の役割や、滑り初めの衝撃の緩和、微小振動の吸収等の役割を担っている。
【0004】
また、積層ゴム52の下部鋼板56と低摩擦材57とは、接着材にて固定されている。この際、図4(b)に示すように、下部鋼板56に凹部56aを形成し、この凹部56aに低摩擦材57を接着材にて嵌着させる嵌め込み型構造にしてもよい。この嵌め込み型構造の役割は、地震時に積層ゴム52が水平変形する際に、低摩擦材57に生じる水平方向の力を下部鋼板56に伝えること、および荷重支持下において低摩擦材57が凹部56a内に広がることで厚さが薄くなってしまうクリープ現象(コールドフロー)を防止することにある。
【0005】
このような弾性滑り支承体50の低摩擦材57は、一般的には四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)にガラス繊維、カーボン等の補強材や添加材を配合したものが使用されている。なお、補強材や添加材が配合されていない四フッ化エチレン樹脂は、樹脂の中では最も低い摩擦係数と言われているが、比較的軟らかい材質のため摺動時に磨耗等の難があるとされ、低摩擦材57に使用されることは稀である。
【0006】
このように構成された弾性滑り支承体50は図5に示すように、地震時に積層ゴム52のゴム層521が水平変形し、この積層ゴム52に発生する水平力QSRが低摩擦材57の摩擦力(=鉛直荷重×摩擦係数)QSFに打ち勝つと、当該低摩擦材57が滑り板54上を摺動するので、構造物の揺れを長周期化させることができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような弾性滑り支承体50は、使用条件や積層ゴム52の形状によっては図6に示すように、低摩擦材57が固定された下部鋼板56の一部位が鉛直方向に浮き上がり、低摩擦材57が部分接触になる現象が起きる難点があった。例えば、積層ゴム52の高さを高くして鉛直荷重を大きくすることにより免震層を長周期化させると、積層ゴム52が傾斜しやすくなり、また、ばね定数を小さくして滑り出し前の固有周期を長周期化させると、積層ゴム52が水平変形しやすくなる。即ち、積層ゴム52が傾斜したり水平変形したりすると、積層ゴム52の水平変位が大きくなり当該積層ゴム52の荷重支持が不安定になるので、低摩擦材57を有する下部鋼板56に回転力が働くようになり低摩擦材57が部分接触になる現象が顕著になる。
【0008】
このように低摩擦材57が部分接触になると、▲1▼摩擦係数が設計値よりも低下し、地震時に設計通りの効果が得られなくなる、▲2▼部分接触した低摩擦材57の部位が磨耗して地震後にクリープ現象等が発生し、長期耐久性に影響を与える、▲3▼地震経験後の滑り特性が変化して、次回以降の地震時に所定の特性を得られなくなる、等の不具合が生じやすくなる。
【0009】
本発明は、このような従来の難点を解決するためになされたもので、低摩擦材に補強材や添加材が配合されていない四フッ化エチレン樹脂を使用しても、当該低摩擦材が部分接触になる現象を極力回避できる弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成する本発明の弾性滑り支承体は、ゴム状弾性体と剛性材料とが交互に積層成型された積層ゴムと、積層ゴムに対向配置される滑り板と、滑り板に面接触する積層ゴムの滑り面に設けられ、四フッ化エチレン樹脂のみから成る低摩擦材とから構成された弾性滑り支承体であって、積層ゴムの形状を決定するパラメータとして、当該積層ゴムの前記ゴム状弾性体の体積弾性率Ebおよび圧縮の曲げ弾性係数Erから予め決定された演算要素、
【0011】
【数4】
【0012】
によって求まる当該積層ゴムのゴム状弾性体の補正曲げ弾性係数Erbと、当該積層ゴムのゴム状弾性体の外径D、1層の厚さtRおよび層数nから予め決定された演算要素、
【0013】
【数5】
【0014】
によって求まる当該積層ゴムの2次形状係数S2との積の逆数である滑り安定係数1/αを用いて、低摩擦材の摩擦係数の設計値範囲内における積層ゴムの形状を前記低摩擦材の部分接触現象が顕著にならず而も剛滑り支承体の摩擦係数に対する最大の摩擦係数低下率が20%以内となるよう前記滑り安定係数(1/α)を規定して当該積層ゴムが形成されているものである。
【0015】
このように構成された弾性滑り支承体によれば、四フッ化エチレン樹脂のみから成る低摩擦材の摩擦係数の設計値範囲内における滑り安定係数から、積層ゴムの形状を算出できるので、低摩擦材が部分接触になりにくい積層ゴムを形成することができる。
【0016】
また、本発明の弾性滑り支承体において、低摩擦材の摩擦係数の設計値範囲内における滑り安定係数は、
【0017】
【数6】
【0018】
であるものがよい。これにより、鋼材等の剛性体のみから成る剛滑り支承体に使用される低摩擦材の摩擦係数を基準にした場合における弾性滑り支承体に使用される低摩擦材の摩擦係数の低下率の限界値が定まるので、免震設計の限界値とすることができる。
【0019】
また、本発明の構造物は、上述した弾性滑り支承体を用いて上部構造体と下部構造体を互いに相対変位可能に振動絶縁するために、積層ゴムが上部構造体に固定され、滑り板が前記下部構造体に固定されているものである。このような構造にすることにより、地震経験後の構造物の滑り特性の変化を極力抑えることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物における好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0021】
本発明の好ましい実施の一形態である弾性滑り支承体は図1に示すように、構造物である建物2とコンクリート基礎3とを互いに相対変位可能に振動絶縁するもので、建物2に固定される積層ゴム4と、コンクリート基礎3に固定され積層ゴム4に対向配置される滑り板5とを備え、建物2に固定された積層ゴム4はコンクリート基礎3に固定された滑り板5上に載置されている。
【0022】
積層ゴム4は、連結鋼鈑6及び端部鋼鈑7間にゴム状弾性体であるゴム層8と、剛性材料である中間鋼鈑9とが交互に積層成形され、さらに、連結鋼鈑6には建物2に取付けるための取付板10が固定され、端部鋼鈑7には滑り板5上を摺動可能に面接触させる低摩擦材11が接着剤にて貼付されている。ゴム層8には、剪断弾性率Gが0.29〜1.47MPaの弾性機能に優れた天然ゴム又はクロロプレンゴム等の合成ゴムが用いられ、又、連結鋼鈑6、端部鋼鈑7及び中間鋼鈑9には、ゴム層8との付着性から、通常は、一般構造用圧延鋼材(SS材)、冷間圧延鋼板(SPCC)、熱間圧延軟鋼板(SPHC)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、建築構造用圧延鋼材(SN材)等の鋼製材料を用いるが、ニッケル板、銅板、黄銅板又はニッケルメッキ、銅メッキ、黄銅メッキを施した鋼鈑を使用することもできる。又、取付板10にも鋼製材料等が使用される。なお、積層ゴム4の積層成型は加硫接着が好ましいが、非接着、部分接着又は後接着でもよい。又、低摩擦材11は、例えば四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(以下、「純PTFE」という。))のみから成り、積層ゴム4の端部鋼板7に貼付する際、クリープ現象を防止するために嵌め込み型構造にしてもよい。
【0023】
滑り板5は、コンクリート基礎3に露出した状態で埋め込まれたベースプレート12上にボルト等で固定されている。この滑り板5の材料としては、水分等による発錆を考慮してステンレス鋼板が用いられ、特に、表面をバフ研磨等で鏡面状に仕上げられたもの(♯400仕上)が多用されているが、フッ素樹脂等でコーティングしたものでもよく、また、クラッド鋼でもよい。ここで、クラッド鋼とは、鋼材を母材としたクラッドで、ある金属を他の金属で全面に亘り被覆し、且つその境界面が金属組織的に接合しているものをいう。なお、滑り板5は、剛性を保つことができれば、エンジニアリング・プラスチックや非鉄金属等を用いることもできる。
【0024】
このように構成された弾性滑り支承体1に適用される積層ゴム4の形状を決定するパラメータとして、当該積層ゴム4のゴム層8の体積弾性率Eb(196133N/cm2(重量単位では20000kgf/cm2))および圧縮の曲げ弾性係数Er(N/cm2)から予め決定された演算要素、
【0025】
【数7】
【0026】
によって求まる当該積層ゴム4のゴム層8の補正曲げ弾性係数Erb(N/cm2)と、当該積層ゴム4のゴム層8の外径D(cm)、1層の厚さtR(cm)および層数nから予め決定された演算要素、
【0027】
【数8】
【0028】
によって求まる積層ゴム4の2次形状係数S2とを用いる。なお、圧縮の曲げ弾性係数Erは、理論的に算出された弾性係数が実測値に対応しないため、予め決定された演算要素、
【0029】
【数9】
【0030】
によって補正しておく。(但し、E0はゴム層8の縦弾性係数(N/cm2)、Gは剪断弾性率(N/cm2)、κはゴム層8の硬度に応じた補正係数で、κ=1.2338−0.0124G+7×10-5×G2−1×10-7×G3(重量単位では、κ=1.2338−0.11307G+0.0059701G2−0.00010451G3(Gの単位はkgf/cm2))、S1は積層ゴム4の1次形状係数、Dは積層ゴム4の受圧ゴム部外径(cm)、dは積層ゴム4の受圧ゴム部内径(cm)である。)
このようなパラメータを、積層ゴム4の形状を決定するために用いるのは、補正曲げ弾性係数Erbが積層ゴム4の曲げ変形に関係する係数で、曲げ応力の指標となるからで、また、2次形状係数S2が主に座屈荷重や水平剛性に関係する係数で積層ゴム4の安定性を表す指標となるからである。したがって、使用するゴム材料が一定のときに補正曲げ弾性係数Erbが大きくなるほどゴム層が薄くなり、また、2次形状係数S2が大きくなるほど積層ゴム4が偏平になる。
【0031】
ここで、積層ゴム4と、当該積層ゴム4に働く回転モーメントとの関係を示す回転剛性Krは、次式で表せる。
【0032】
【数10】
【0033】
この式(3)を以下のように置き換えると、
【0034】
【数11】
【0035】
が導き出せる。ここで、通常、積層ゴム4の受圧ゴム部はD4>>d4のため、d≒0とすると、式(4)は、
【0036】
【数12】
【0037】
となるが、断面係数Zは、
【0038】
【数13】
【0039】
積層ゴム4の2次形状係数S2は、
【0040】
【数14】
【0041】
なので、式(5)から、
【0042】
【数15】
【0043】
を導くことができる。
【0044】
これにより、係数αから低摩擦材11が部分接触になりにくい積層ゴム4を形成させることができることがわかる。但し、係数αではゴム層8を有さない剛滑り支承体においてα=∞となるため、逆数1/αとし、これを滑り安定係数とする。なお、滑り安定係数1/αの単位はm2/Nである。
【0045】
このような積層ゴム4の形状を決定するパラメータの諸条件を踏まえて、剛滑り支承体に使用される低摩擦材の摩擦係数を基準にした場合における弾性滑り支承体1に使用される低摩擦材11の摩擦係数の低下率の限界値を定めるために、純PTFEのみから成る低摩擦材11の摩擦係数μと、滑り安定係数1/αとの関係を明らかにする実験を行った。
【0046】
【実施例】
この実験では、積層ゴム4の連結鋼板6、端部鋼板7及び取付板10に一般構造用圧延鋼材(SS400)、ゴム層8に天然ゴム、中間鋼板9に熱間圧延鋼板(SPHC)、及び滑り板5にステンレス鋼板(SUS304(♯400バフ研磨))を、それぞれ使用した。また、積層ゴム4の形状としては、表1に示す条件A、B、C、Dのものを使用した。
【0047】
【表1】
【0048】
このような条件の各積層ゴム4を試験体としてそれぞれ滑り板5上に載置し、最大速度20cm/secの±20cmの正弦波加振を実施して摩擦係数μを求めた。なお、この実験によって得られた図2に示すような水平荷重−水平変位曲線の3サイクル目のY軸切片(変位0点の水平荷重)の正負方向平均値を降伏荷重Qdとし、この降伏荷重Qdを鉛直荷重Pvで除したものを摩擦係数μとした。
【0049】
【数16】
【0050】
ここで、最大速度を20cm/secとしたのは純PTFEの摩擦係数μに速度依存性があるからで、静的な速度から10cm/secまでは摩擦係数μが上昇し、速度が10〜15cm/sec程度で摩擦係数μは上昇しなくなり、以降、安定した摩擦係数μを得られるからである。なお、高速の50cm/sec程度からは摩擦係数μが若干低下する。
【0051】
また、この実験での面圧は、7.35MPa、14.7MPa、22.1MPaの3パターンで実施した。
【0052】
一方、滑り安定係数1/αは、上述した積層ゴム4の形状を決定するパラメータの諸条件に基づき算出した。この際、次式のように積層ゴム4の受圧ゴム部内径dを考慮して算出すべきであるが、
【0053】
【数17】
【0054】
表1に示すように、考慮しない場合と、
【0055】
【数18】
【0056】
大差ないので、積層ゴム4の受圧ゴム部内径dを考慮せずに算出した。
【0057】
この実験の結果は、図3の純PTFEのみから成る低摩擦材11の摩擦係数μと、滑り安定係数1/αとの関係を表すグラフから明らかなように、各面圧ともに滑り安定係数1/αの上昇に伴い摩擦係数μが低下していることがわかった。また、高面圧時に、
【0058】
【数19】
【0059】
程度から、低摩擦材11が部分接触する挙動が確認され、1/33を上回ると低摩擦材11の部分接触現象が顕著になった。即ち、鋼材等の剛性体のみから成る剛滑り支承体(1/α=0)と比較すると、低摩擦材11の部分接触現象とともに摩擦係数μの低下が大きくなっていることがわかった。このことから、純PTFEのみから成る低摩擦材11の摩擦係数μの設計値範囲内における滑り安定係数1/αは、当該低摩擦材11の部分接触現象が顕著にならず而も剛滑り支承体の摩擦係数に対する最大の摩擦係数低下率が20%以内となる点を免震設計の限界値と定めると、
【0060】
【数20】
【0061】
の範囲での使用となるが、建物の用途、形状や弾性滑り支承体の形状を考慮すると、摩擦係数低下率が15%以内となる、
【0062】
【数21】
【0063】
の範囲での使用が好ましく、さらに、弾性滑り支承体のライフサイクルを長くしたい場合には、摩擦係数低下率が10%以内となる、
【0064】
【数22】
【0065】
の範囲での使用が好ましい。
【0066】
このような図3に示すグラフから各面圧ごとに近似式を求めると、面圧7.35MPaの場合は、
【0067】
【数23】
【0068】
となり、面圧14.7MPaの場合は、
【0069】
【数24】
【0070】
となり、面圧22.1MPaの場合は、
【0071】
【数25】
【0072】
となる。これら近似式を免震設計に適用すれば、滑り安定係数1/αを低摩擦材11の部分接触の度合いの指標とすることができる。例えば、表2に示すように、
【0073】
【表2】
【0074】
滑り安定係数1/αを任意値として定め、これら滑り安定係数1/αから各面圧(7.35MPa、14.7MPa、22.1MPa)ごとの近似式によって低摩擦材11の摩擦係数μを求めれば、剛滑り支承体の摩擦係数μに対する摩擦係数低下率を求めることができるので、低摩擦材11の部分接触現象が顕著にならない滑り安定係数1/αの範囲を定めることができる。
【0075】
なお、純PTFEのみから成る低摩擦材11の摩擦係数μの設計値範囲は、鉛直荷重によっても異なるが、最大で0.05〜0.15、設計に余裕を持たせたい場合には0.07〜0.13が好ましい。
【0076】
このようにして形成された積層ゴム4を備えた弾性滑り支承体1を、本発明の構造物に用いて、上部構造体としての建物2と下部構造体としてのコンクリート基礎3とを互いに相対変位可能に振動絶縁するために、積層ゴム4が建物2に固定され、滑り板5がコンクリート基礎3に固定されているので、地震経験後の建物2の滑り特性の変化を極力抑えることができる。これにより、地震の多い地域で長年に亘って使用される建物に好適である。なお、積層ゴム4がコンクリート基礎3に固定され、滑り板5が建物2に固定されている構造物においても、地震経験後の建物2の滑り特性の変化を極力抑えることができる。
【0077】
また、本発明においては構造物として建物を例示していたが、これに限らず、橋や精密機器等でもよい。
【0078】
また、本発明においては弾性滑り支承体を構成する積層ゴムの構造は、連結鋼鈑6及び端部鋼鈑7間にゴム層8と中間鋼鈑9とが交互に積層成形され、さらに、建物2に取付けるための取付板10が連結鋼鈑6に固定されていたが、これに限らず、連結鋼鈑が一体化された取付板及び端部鋼鈑間にゴム層と中間鋼鈑とが交互に積層成形された積層ゴムでもよいのは言うまでもない。
【0079】
さらに、本発明においては弾性滑り支承体を構成する積層ゴムに貼付される低摩擦材11の材料として純PTFEが使用されていたが、これに限らず、純PTFEと同等の低摩擦材料ならば、どのような材料でもよい。
【0080】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の弾性滑り支承体によれば、四フッ化エチレン樹脂のみから成る低摩擦材の摩擦係数の設計値範囲内における滑り安定係数から、積層ゴムの形状を算出でき、この算出データから低摩擦材が部分接触になりにくい積層ゴムを形成することができるので、既存材料中、最も摩擦係数が低い四フッ化エチレン樹脂のみから成る低摩擦材が、部分接触になる現象を極力回避できる積層ゴムを構築できる。したがって、低摩擦材を摩擦係数の設計値範囲内で使用できるようになり、この結果、低摩擦材の偏磨耗を極力抑えることできることから、地震経験後の滑り特性の変化を最小限に留めることができるので、次回以降の地震時に安定した所定の滑り特性を得ることができるようになる。
【0081】
また、この弾性滑り支承体を用いて、建物、橋等の構造物を振動絶縁すれば、地震経過後の構造物の滑り特性の変化を最小限に留めることができるので、地震の多い地域で長年に亘って使用される構造物に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の弾性滑り支承体及びこれを用いた構造物における好ましい実施の形態例を示す説明図。
【図2】本発明の弾性滑り支承体が水平方向の振動エネルギを受けた場合の荷重と変位との関係を表すグラフ。
【図3】本発明の弾性滑り支承体による低摩擦材の摩擦係数と滑り安定係数との関係を表すグラフ。
【図4】従来の弾性滑り支承体を示す図で、(a)は全体説明図、(b)は部分詳細図。
【図5】従来の弾性滑り支承体の振動絶縁動作を示す説明図。
【図6】従来の弾性滑り支承体による振動絶縁動作の難点を示す説明図。
【符号の説明】
1・・・・・弾性滑り支承体
2・・・・・建物(上部構造体)
3・・・・・コンクリート基礎(下部構造体)
4・・・・・積層ゴム
5・・・・・滑り板
11・・・・・低摩擦材
Eb・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の体積弾性率
Er・・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の圧縮の曲げ弾性係数
Erb・・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の補正曲げ弾性係数
D・・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の外径
tR・・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の1層の厚さ
n・・・・・ゴム層(ゴム状弾性体)の層数
S2・・・・・積層ゴムの2次形状係数
1/α・・・・・滑り安定係数
Claims (3)
- ゴム状弾性体と剛性材料とが交互に積層成型された積層ゴムと、前記積層ゴムに対向配置される滑り板と、前記滑り板に面接触する前記積層ゴムの滑り面に設けられ、四フッ化エチレン樹脂のみから成る低摩擦材とから構成された弾性滑り支承体であって、
前記積層ゴムの形状を決定するパラメータとして、当該積層ゴムの前記ゴム状弾性体の体積弾性率(Eb)および圧縮の曲げ弾性係数(Er)から予め決定された演算要素、
- 請求項1または2記載の弾性滑り支承体を用いて上部構造体と下部構造体を互いに相対変位可能に振動絶縁するために、前記積層ゴムが前記上部構造体に固定され、前記滑り板が前記下部構造体に固定されていることを特徴とする構造物。
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