JP4261667B2 - 海藻加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、海藻から効率的にカラギナンを製造するとともに、原料海藻に含まれる高機能タンパク質レクチンを同時に生産する加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
[カラナギンの製造]
海藻は有用な多糖類、すなわち寒天,アルギン酸,カラギナン等を生産し藻体内に保有しており、特に紅藻類(Rhodophyceae)のスギノリ科(Gigartinaceae)スギノリ属(Gigartina),ツノマタ属(Chondrus),オゴノリ科(Gracilariaceae)オゴノリ属(Gracilaria),イバラノリ科(Hypneaceae),イバラノリ属(Hypnea),ミリン科(Solieriaceae)キリンサイ属(Eucheuma、Kappaphycus)等はカラギナンを保有している。
【0003】
採取した海藻からこれらを抽出する際には、一般的に熱水抽出または酸,あるいはアルカリ溶液中での加温抽出が行われている。
【0004】
海藻からカラギナンを製造するには、主として原料海藻を収穫した場所または養殖海藻の場合は養殖地の近辺において太陽熱を利用して自然乾燥させたものをカラギナン抽出工場に搬入し、加工処理をしていた。
【0005】
しかしながら、対象とする海藻の有用成分は乾燥,加熱により失活する成分が含まれているので、このように加温抽出に先立って海藻体を乾燥するのは活性のある成分を抽出する上では好ましくない。
【0006】
又、上記に例示した海藻類は樹枝状に生育し、乾燥後もその形態を保つために比較的嵩高な状態を示すので、取り扱いに不便であった。
【0007】
更に、乾燥キリンサイには約40%の無機塩類が含まれているため、カラギナン含有量は35%程度と低く、効率よくカラギナンを得ることは困難であった。
【0008】
準精製のカラギナン、いわゆるフィリピンナチュラルグレイド(PNG)を生産する場合、新鮮海藻または半乾燥海藻をアルカリ液で処理した後に、乾燥,粉砕して製造するが、この処理で使用するアルカリ液は強アルカリ液であるため、できるだけ小型の装置を用いて、少量のアルカリ液で処理できるようにすることが望まれている。
【0009】
[レクチンの製造]
キリンサイ属海藻からレクチンを製造する方法としては、WO95/18149等に、新鮮海藻を直接凍結乾燥を行い、その乾燥粉末からレクチンを抽出,精製されることが記載されている。
【0010】
しかしながら、この方法は試薬用といったごく少量のレクチンを必要とするときには有効であると思われるが、医薬品等の需要量が多い場合には、大規模な生産設備が必要になり、操作性,コスト面からも実用的ではない。
【0011】
キリンサイに含まれるレクチンは、強い太陽光での天日乾燥、また加温,アルカリ処理により活性を失うので、このような行程を経たキリンサイからは活性のあるレクチンを抽出するのは困難である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、原料海藻からカラギナンを効率的に製造するとともに、原料海藻に含まれる活性を有した高機能タンパク質レクチンを同時に効率よく生産可能な海藻加工方法が求められている。
【0013】
更に、準精製のカラギナンを生産する場合には処理装置の小型化とアルカリ液の使用量を少なくすることも課題となる。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1の海藻加工方法は、未乾燥の海藻を圧搾機により圧搾して、海藻重量の65〜85%に相当する搾汁と、海藻重量の35〜15%に相当する搾粕とに分離し、圧搾により分離された搾粕、又は該搾粕を苛性カリまたは苛性ソーダと塩化カリとの混合溶液で加熱処理したものを水洗,脱水し、天日または乾燥機により乾燥させて半精製カラギナンを製造することを特徴とする。
【0016】
請求項の海藻加工方法は、未乾燥の海藻を圧搾機により圧搾して、海藻重量の 65 85 %に相当する搾汁と、海藻重量の 35 15 %に相当する搾粕とに分離し、圧搾により分離された搾汁からレクチンを限外濾過し、濃縮してレクチンを回収することを特徴とする。
【0017】
請求項の海藻加工方法は、請求項1又は請求項の方法において、レクチン回収前またはレクチン回収後の搾汁を濃縮乾固して有機物を含む無機塩類を得ることを特徴とする。
【0018】
請求項の海藻加工方法は、請求項1,請求項2又は請求項3の方法において、2軸圧搾機により海藻を圧搾することを特徴とする。
【0019】
カラギナン、寒天など有用な多糖類を海藻から効率的に抽出する方法は、工業的なレベルで行われている。しかし、これらの海藻に含まれる他の成分も同時に抽出し、海藻に含まれる多くの成分を有効に取得するために、本発明では圧搾により抽出に先立って搾汁と搾粕とに分離している。
【0020】
新鮮な湿った海藻を直接圧搾して搾粕(固体画分)と搾汁(液体画分)に分画することにより、生理活性物質(レクチン)など熱、日光にやや不安定な有効成分の回収率を下げる加温、乾燥等の工程を避けることができる。
【0021】
そして多糖類を搾粕の画分に、可溶性生理活性タンパク質や海藻由来の塩分を搾汁の画分に生理活性の損失を起こさず分離することができる。
【0022】
更に圧搾により海藻は小さな粒状になり表面積が増加する結果、以降の工程、すなわち、乾燥,アルカリ抽出等の処理が速やかにかつ安定的に行われ全体の生産効率が上昇する。
【0023】
また圧搾により海藻内部に含まれる塩分は水分と共に優先的に搾汁に出るので、搾粕に残る塩分は減少する。そのため、搾粕を乾燥した後に残る塩分も少なくなり相対的に単位重量当たりのカラギナン等の有用成分の含量が多くなる。
【0024】
2軸圧搾機は、互いに反転する2軸を有し、各軸にはスクリューが装着されており、該スクリューが噛み合う間隙を通る未乾燥の海藻を圧搾して搾汁と搾粕とに分離することが可能である。スクリューのピッチ幅,スクリューの向きおよび軸の回転速度を選択,制御することにより、処理速度,搾汁率を制御することができる。
【0025】
このような2本の軸に装着した隣接したスクリューが噛み合う間隙を通る間に投入した原料海藻を強く圧搾し、固形分としての搾粕と、溶液分としての搾汁に容易に分離することができるが、この際には変質させるような発熱は生じないのでタンパク質等の変性は生じない。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
【0027】
[圧搾による分離]
まず、未乾燥のキリンサイ属海藻をサイレントカッターで予備切断した。これにより房状で30〜70cmの長さを有するキリンサイ属海藻を、2〜10cm程度の長さに切断して次工程を円滑に行うことができる。次いで、切断された海藻5Kgを2軸圧搾機に投入して圧搾した。
【0028】
図1は本実施例に用いた2軸圧搾機の構造を示す概念図であり、図中(1a)及び(1b)は回転軸であり、(2a)及び(2b)は各回転軸(1a),(1b)に取り付けられたスクリューである。(3)は原料となる海藻の投入口である。2本の回転軸(1a),(1b)は互いに反対方向に回転し、原料海藻はスクリュー相互間で圧搾される。搾汁は圧搾部周囲のピン(4)の隙間より滴下し、残りの搾粕は軸の先端のハブ(5)から排出される。
【0029】
多種ある圧搾機のなかで2軸圧搾機を用いたのは、搾汁と搾粕とが明瞭に分離することができるからである。すなわち、食品分野における多くの圧搾機は食物に含まれる汁を回収することを目的としたものが多く、搾粕を画分するという点では余り適していないものが多い。しかしながら、本発明では搾汁と搾粕を共に有効に利用しようとするものであるために、搾汁と搾粕とが明瞭に分離することができる圧搾機が好ましく、この点において2軸圧搾機は本発明の実施に好適である。
【0030】
又、重要な分離物であるレクチンは先述のように加工処理中の加温,昇温によりその活性が著しく減衰することが知られており、この点において圧搾工程における昇温が少ない2軸圧搾機の使用はレクチンの高い回収率を得る上で好適である。
【0031】
圧搾は、海藻重量の65〜85%に相当する搾汁と、海藻重量の35〜15%に相当する搾粕とに分離する。ここで、搾汁率(海藻重量に対する搾汁重量の割合)は主に実用的な意義から定めたものである。すなわち、搾汁率が65%より低いと搾粕に比較的多くの水分が残って後工程となる搾粕の乾燥等の効率が良くないからであり、又、圧搾による生物試料の脱水は85%がほぼ限界であろうと思われるためである。
【0032】
実際に圧搾による分離を行ったところ、搾粕は1.02Kg、搾汁は3.9Kgが得られ回収率は98%であった。
【0033】
尚、海藻の圧搾処理速度を制御する条件を見出すため、2軸圧搾機の回転軸の回転数を3段階に設定して比較した。原料海藻は予め未乾燥の新鮮な海藻をサイレントカッターにより2〜5cmに切断し、切断後に2軸圧搾機を用いて圧搾した。その測定結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
Figure 0004261667
この測定結果から、軸回転速度を高くしても詰まりもなく回転速度に比例して海藻が圧搾処理でき、且つ、搾汁率もほぼ低下することなく搾粕,搾汁に分離することができることがわかる。したがって、海藻を圧搾して搾粕と搾汁に効率的に分離上では軸回転数は高速に設定することが望ましい。
【0035】
[搾粕の乾燥]
次いで、この搾粕をそのまま天日乾燥した。ここで、搾粕と未処理の新鮮な海藻藻体とを天日乾燥した場合の両者の乾燥速度を比較した。
【0036】
尚、新鮮な海藻としては水槽から取り出したキリンサイ藻体を用い、搾粕は同量の新鮮キリンサイ藻体を上記のように2軸圧搾機により圧搾,分離したものを用いた。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
Figure 0004261667
搾粕は新鮮海藻が含む水分の約80%が除かれ、しかも長さが約3〜10mmに裁断されているため、従来の樹枝状の海藻の約十分の一の時間で乾燥が可能になることがわかる。このことは天日乾燥のみならず機械乾燥でも同様である。
【0038】
乾燥品は長径約5mmの微粒状になるため、容器への充填率が上がり、輸送上も大きなメリットが得られる。
【0039】
[アルカリ処理によるカラギナン抽出]
圧搾機を用いて分離した海藻の搾粕を天日等で乾燥させたのち、アルカリ処理を行ってカラギナンを抽出した。
【0040】
6%水酸化カリウム液4リットルに対し、乾燥したキリンサイの搾粕200gを加え攪拌しながら加温する。80℃で2時間加温し、水洗,中和した後、加温し濾布で濾過する。そして、濾液を冷却し、ゲル化して回収する。
【0041】
これにより原料の乾燥搾粕200gに対して、ゲル化乾燥物を135g得ることができた。ゲル強度を0.2%KCL添加のKCL法の定法でサン電子社製のレオメーターを用いて測定した結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
Figure 0004261667
このことから本発明により得られた乾燥搾粕はそれを加温して作成したゲルのゲル化破断強度の点から、そのままでも確実に凝固し、更にアルカリ処理を施せば市販の粗アルカリ処理品と比較しても十分なゲル強度を示すものであるといえる。
【0043】
又、本発明を用いた場合、搾粕は粒状となっているので、短時間でアルカリ処理ができ、生産性を向上させることができる。しかも、装置を小型化でき、使用するアルカリ溶液の量も少なくすることができる。
【0044】
[搾汁からレクチン回収]
約35kgの新鮮な海藻を2軸圧搾機により圧搾し、搾汁26kgと搾粕3.25kgを回収した。そして、各画分に含まれるレクチンの濃度はELISA法により定量した。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
Figure 0004261667
定量の結果より、回収された活性レクチンの55%は搾汁に回収されていることがわかる。
【0046】
搾汁の不溶物を遠心沈降させて(9000rpmで20min)除去した後、5000mlの溶液を限外濾過機により96mlに濃縮し、レクチンを回収した。限外濾過膜は分子量10,000以上のものを通さない規格品を使用した。
【0047】
搾汁の原液と濃縮液との蛋白質濃度及びレクチン濃度の比較を表5に示す。
【0048】
【表5】
Figure 0004261667
圧搾機を使用して海藻から得た搾汁を用いることにより、それに含まれる生理活性蛋白質(レクチン)は効率的に回収できることがわかる。
【0049】
[搾汁乾燥]
圧搾機により20Kgの新鮮な海藻から約16kgの搾汁を得た。先述のように海藻中に含まれるレクチンの50%以上は搾汁中に抽出されるので、これを用いて上記の方法(特許WO95/18149)に準じてレクチンの精製を行った。
【0050】
この搾汁5リットルを真空凍結乾燥機に入れて運転し、ピンク色を帯びた乾燥粉末を約230g得た。
【0051】
又、同様に圧搾機により得た搾汁を送風乾燥機により乾燥濃縮した。約60℃の温風を12時間送風することにより液量は約10分の1になった。また、ピンク色は褪色し、淡い褐色に変化した。
【0052】
圧搾機の搾汁を遠心処理した上澄み液を限外濾過器により濾過して低分子画分と高分子画分とに画分した。高分子画分は生理活性タンパク質のレクチンが含まれており低分子画分は主に塩類であった。
【0053】
したがってレクチン回収前またはレクチン回収後の搾汁を濃縮乾固して有機物を含む無機塩類を得ることができ、特に上記の低分子画分の溶液を真空凍結乾燥や天日乾燥等により乾燥すれば無機塩類を効率よく回収することができる。
【0054】
このようにして搾汁から得られた有機物を含む無機塩類は、調味料又は入浴剤の素材として利用することができる。
【0055】
【発明の効果】
以上述べたように原料海藻を圧搾して搾粕と搾汁とに分離させることにより、原料海藻からカラギナンを効率的に製造するとともに、原料海藻に含まれる活性を有した高機能タンパク質レクチンを同時に効率よく生産可能な海藻加工方法と、それに用いる圧搾機を提供することできた。
【図面の簡単な説明】
【図1】2軸圧搾機の構造の概要を示した図。
【符号の説明】
(1a),(1b) 回転軸
(2a),(2b) スクリュー

Claims (4)

  1. 未乾燥の海藻を圧搾機により圧搾して、海藻重量の65〜85%に相当する搾汁と、海藻重量の35〜15%に相当する搾粕とに分離し、
    圧搾により分離された搾粕、又は該搾粕を苛性カリまたは苛性ソーダと塩化カリとの混合溶液で加熱処理したものを水洗,脱水し、天日または乾燥機により乾燥させて半精製カラギナンを製造することを特徴とする海藻加工方法。
  2. 未乾燥の海藻を圧搾機により圧搾して、海藻重量の 65 85 %に相当する搾汁と、海藻重量の 35 15 %に相当する搾粕とに分離し、
    圧搾により分離された搾汁からレクチンを限外濾過し、濃縮してレクチンを回収することを特徴とする海藻加工方法。
  3. レクチン回収前またはレクチン回収後の搾汁を濃縮乾固して有機物を含む無機塩類を得ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の海藻加工方法。
  4. 2軸圧搾機により海藻を圧搾することを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3記載の海藻加工方法。
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