JP4259627B2 - 低圧鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低圧鋳造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
低圧鋳造は、例えば、アルミニウム合金から成るロードホイールやシリンダブロックなどの自動車用部品の製造に用いられている。この種の低圧鋳造では、鋳型のキャビティ内に保持炉内の溶湯を加圧供給するに際して、保持炉からキャビティへの導入管であるストーク内やキャビティ内に不活性ガスを供給し、この不活性ガスにより溶湯表面における酸化被膜の生成を抑制して、溶湯の湯廻り性を高めるようにしている。このような機能を備えた低圧鋳造装置としては、図5に示すようなものがあった。
【0003】
図5(a)に示す低圧鋳造装置100は、キャビティ101を形成する鋳型102と、鋳型102の下側に配置され且つ溶湯103を蓄えた保持炉104と、上端部を鋳型102の湯口105に接続し且つ下端部を溶湯103に浸漬したストーク106を備えている。ストーク106は、その上端部が内筒106aを有する2重構造になっており、内筒106aの外周側である環状領域106bに対して不活性ガスの供給系107が設けてある。
【0004】
上記の低圧鋳造装置100は、保持炉104内を加圧し、ストーク106を介して溶湯103をキャビティ101内に加圧供給する際に、供給系107からストーク106内に不活性ガスを供給する。そして、キャビティ101内の溶湯103が製品108として凝固したのち、図5(b)に示すように、供給系107から環状領域106b内に不活性ガスを供給することにより、製品108と未凝固の溶湯103との間を不活性ガスGで分離する。これにより、2回目以降の鋳造において、ストーク106内の溶湯103の表面に酸化被膜が生成されるのを防止している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記したような従来の低圧鋳造装置100にあっては、消耗品であるストーク106が複雑な2重構造であって、高価であると共に、環状領域106bに溶湯103が詰まったり、内筒106aの端部が溶損したりするといった不具合が生じやすく、ストーク106のメンテナンス工数が多いものとなっており、また、鋳造の際には、ストーク106内だけではなくキャビティ101内にも不活性ガスの供給を行うので、全体として不活性ガスの使用量が多くなるという問題があり、これらの問題を解決することが課題であった。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、キャビティ内への酸化被膜の侵入を防止して、溶湯の良好な湯廻り性を得ることができるうえに、保守管理性の良い簡単な構造のストークを使用することができ、しかも、不活性ガスの使用量を節減することができる低圧鋳造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる低圧鋳造方法は、請求項1として、保持炉内の溶湯を鋳型のキャビティ内に加圧供給するに際し、鋳型の湯口に取付けるフィルタを用い、キャビティ内への不活性ガスの供給を開始するのに先立って、保持炉内の溶湯の加圧を開始するステップと、
前記保持炉内の溶湯の加圧により保持炉から圧送されてきた溶湯がフィルタに達する直前に、キャビティ内に不活性ガスを供給すると共に、不活性ガスのガス供給路よりも上側の位置からキャビティ内の空気を吸引排出するステップと、前記キャビティに対する不活性ガスの供給および空気の吸引排気を開始したのち、フィルタを通してキャビティ内に溶湯を加圧供給するステップとを有する構成とし、請求項2として、溶湯がフィルタに達する直前に保持炉内に対する加圧速度を減少させ、キャビティ内が所定の不活性ガス雰囲気になった後に保持炉内に対する加圧速度を増大させる構成としており、上記の構成を課題を解決するための手段としている。
【0008】
なお、上記の構成において、不活性ガスとしては、例えばアルゴンガスや窒素ガスが用いられる。また、請求項2の構成において、保持炉内に対する加圧速度の減少には、加圧速度を零(圧力保持)にする場合も含まれる。
【0010】
【発明の作用】
本発明の請求項1に係わる低圧鋳造方法では、鋳型の湯口に取付けるフィルタを用い、加圧により保持炉から圧送されてきた溶湯がフィルタに達する直前に、キャビティ内に不活性ガスを供給すると共に、不活性ガスのガス供給路よりも上側の位置からキャビティ内の空気を吸引排出するので、キャビティ内が速やかに不活性ガス雰囲気に置換されることとなり、こののち、フィルタを通してキャビティ内に溶湯を加圧供給するので、溶湯の表面の酸化被膜がフィルタにより除去され、キャビティ内においては不活性ガスによって新たな酸化被膜の生成が防止される。つまり、当該低圧鋳造方法では、保持炉と鋳型の間に設けるストークとしては簡単な構造のもので良く、また、ストーク内に不活性ガスを供給する必要がないので、その分不活性ガスの使用量が節減される。
【0011】
本発明の請求項2に係わる低圧鋳造方法では、請求項1の低圧鋳造方法において、溶湯がフィルタに達する直前に保持炉内に対する加圧速度を減少させ、キャビティ内が所定の不活性ガス雰囲気になった後に保持炉内に対する加圧速度を増大させており、このような簡単な圧力制御により、キャビティ内が不活性ガス雰囲気に置換される時間が確実に得られるうえに、不活性ガスを余分に使用することがなく、その後のフィルタによる酸化被膜の除去やキャビティ内での新たな酸化被膜の生成防止をより確実にし得る。
【0015】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わる低圧鋳造方法によれば、不活性ガスの供給とそのガス供給路よりも上側の位置からの空気の吸引排出により、キャビティ内を速やかに不活性ガス雰囲気に置換することができると共に、フィルタによって酸化被膜や溶湯における介在物がキャビティ内へ侵入するのを確実に防止することができ、キャビティ内での新たな酸化被膜の生成を防止して溶湯の良好な湯廻り性を得ることができる。また、簡単な構造のストークを採用し得るので、ストークの費用やメンテナンス工数を大幅に節減することができると共に、ストーク内への不活性ガスの供給を行わないので、その分不活性ガスの使用量を節減することができる。そして、不活性ガスの節減および不活性ガス雰囲気への迅速化により、鋳造のサイクルタイムを短縮することができ、生産性の向上にも貢献し得ると共に、不活性ガスによる鋳型の温度変化をきわめて小さくしてその温度変化による品質への影響を防止することができ、高品質の製品を得ることができる。
【0016】
本発明の請求項2に係わる低圧鋳造方法によれば、請求項1と同様の効果を得ることができるうえに、簡単な圧力制御によってキャビティ内を不活性ガス雰囲気に置換する時間を確実に得ることができ、しかも、不活性ガスの余分な使用を防止することができ、その後のフィルタによる酸化被膜の除去およびキャビティ内での新たな酸化被膜の生成防止をより確実に行うことができる。
【0020】
【実施例】
以下、図面に基づいて、本発明に係わる低圧鋳造方法および同方法が適用可能な低圧鋳造装置の一実施例を説明する。
【0021】
図1(a)に示す低圧鋳造装置1は、アルミニウム合金製の自動車用のロードホイールを製造するものであって、軸線を上下方向としたロードホイールに対応するキャビティ2を形成する鋳型3と、鋳型3の下側に配置した保持炉4と、上端部を鋳型3の湯口5側に接続し且つ下端部を保持炉4の溶湯6内に浸漬させたストーク7を備えている。この実施例では、鋳型3とストーク7の間に、ストーク7とほぼ同じ径を有する筒状のフィーダ8が設けてある。
【0022】
鋳型3は、ロードホイールの内部に対応する上部型9と、湯口5を有する下部型10と、ロードホイールの外周に対応する側部型11を備えている。ここで、上部型9は、図示の状態から上方向に移動可能であり、また、側部型11は、円周方向に複数に分割してあるとともに半径方向に移動可能であり、これにより製品の取出しを行うようにしてある。
【0023】
また、鋳型3は、湯口5に酸化被膜除去用のフィルタ12を備えると共に、キャビティ2内に対して、不活性ガスのガス供給手段13と、空気の吸引排出手段14と、酸素センサ15を備えている。
【0024】
フィルタ12は、図4(a)に示すように、鉄鋼材料を用いた網から成るものであって、アルミニウム合金の溶湯に対して充分な耐熱性を有している。このフィルタ12は、下向きに開放したカップ状を成す本体部12aと、本体部12aの開口縁部に連続する鍔部12bを有しており、とくに、鍔部12bはフィルタ中心方向に弾性変形することが可能である。
【0025】
フィルタ12は、図4(b)に示すように、鋳型3を開いた状態において、湯口5に押込む要領で同湯口5の内周面に鍔部12bを弾性的に当接させることにより、その弾発力により湯口5に仮止めされる。そして、図4(c)に示すように、鋳型3を閉じると、本体部12aの頂部にキャビティ内面つまりこの実施例では上型9の下面に設けた下向きの突部9aが当接し、突部9aにより押え込まれ、これにより、別の固定手段を用いることなく鋳型3内に確実に固定され、溶湯6の圧力によりずれるような心配も全くない。なお、この実施例では、湯口5の内周面が上側に向けて直径が漸次拡大されるテーパ面になっており、フィルタ12が必要以上に下がるのをより確実に防止している。
【0026】
不活性ガスのガス供給手段13は、不活性ガスとしてのアルゴンガスを蓄えたガスボンベ16と、鋳型3の側部型11において型内外を連通させる状態に形成したガス供給路17と、加圧ボンベ16とガス供給路17を接続するガス供給管18と、ガス供給管18の途中を開閉するガス用バルブ19を備えている。
【0027】
空気の吸引排出手段14は、減圧用ポンプ20と、鋳型3の側部型11において型内外を連通させる状態に形成した空気排出路21と、減圧用ポンプ20と空気排出路21を接続する空気排出管22を備えている。このとき、空気排出路21は、不活性ガスの供給の際に効率の良い空気の排出を行うために、先のガス供給路17の反対側においてキャビティ2の上端部近傍に設けてある。
【0028】
酸素センサ15は、この実施例では、ガス供給路17の上方に取付けてあり、図外の測定機器に接続してある。なお、酸素センサ15は、複数箇所に設けることもある。また、キャビティ2に対して、ガス供給路17および空気排出路21の開放部分には、溶湯6の侵入を防ぐために、エアベント、多孔質材あるいはスリット等が設けてある。
【0029】
保持炉4は、溶湯6を蓄える本体23と蓋体24で構成してあって、内部を加圧するための空気供給手段25や溶湯6の保温手段などを備えている。空気供給手段25は、空気供給源26と、保持炉4の蓋体24に取付けた空気導入管27と、空気供給源26と空気導入管27を接続する空気供給管28と、空気供給管28の途中を開閉する空気用バルブ29を備えている。
【0030】
ストーク7は、単純な筒状を成すものであって、保持炉4の蓋体24を上下に貫通した状態で設けてある。このストーク7は、構造が簡単であるため、比較的安価であり、溶湯6が詰まったり溶損したりする恐れもないので、メンテナンスがきわめて容易である。
【0031】
次に、上記の構成を備えた低圧鋳造装置1の動作とともに本発明に係わる低圧鋳造方法を説明する。
【0032】
低圧鋳造装置1において鋳造を行うには、まず、空気供給手段25の空気用バルブ29を開放して保持炉4内に空気を供給することにより、図1(b)中のA−Bに示すように保持炉4内を加圧する。これにより、溶湯6がストーク7内を上昇する。また、ストーク7内の溶湯6の表面には空気との接触によって酸化被膜が生成されている。
【0033】
次に、図2に示すように、保持炉4から圧送されてきた溶湯6がフィルタ12に達する直前には、図1(b)中のB−Cに示ように、加圧速度を減少させて零(圧力保持)の状態にし、ガス供給手段13のガス用バルブ19を開放して、キャビティ2内に不活性ガスを供給すると共に、吸引排出手段14の減圧用ポンプ20を作動させて、キャビティ2内の空気を吸引排出する。これにより、キャビティ2内は速やかに不活性ガス雰囲気に置換されることとなる。また、ストーク7内には不活性ガスが供給されないので、その分不活性ガスの使用量が節減されている。
【0034】
そして、酸素センサ15により、キャビティ2内の不活性ガスの置換率が所定の値(例えば80%)になったことを検知したのちには、不活性ガスの供給および空気の吸引排出を停止すると共に、図1(b)中のC−Dに示すように、再び空気供給手段25で加圧速度を増大させることにより、図3に示すように、フィルタ12を通してキャビティ2内に溶湯6を加圧供給する。
【0035】
すなわち、上記低圧鋳造装置1では、酸素センサ15により不活性ガスへの置換の度合いを常時把握しているので、キャビティ2内への溶湯6の加圧供給のタイミングなどを図ることが容易である。また、キャビティ2内が不活性ガス雰囲気に置換されたのち、フィルタ12を通してキャビティ2内に溶湯6を加圧供給するので、溶湯6の表面の酸化被膜や溶湯6中の介在物はフィルタ12により確実に除去され、キャビティ2内においては不活性ガスによって新たな酸化被膜の生成が防止されている。
【0036】
溶湯6の加圧供給後には、図1(b)中のD−Eに示すように、キャビティ2内の溶湯6が凝固するまでの間、一定の加圧力を保持する。そして、溶湯6が凝固したのちには、図1(b)中のE−Fに示すように、加圧力を一定の度合いで減少させ、ストーク7内の未凝固の溶湯6が保持炉4内の湯面と同じ高さになるまで下降したのち、鋳型3を開いて製品の取出しを行う。
【0037】
このように、当該低圧鋳造装置1および低圧鋳造方法では、簡単な構造のストーク7による費用やメンテナンス工数の節減、不活性ガス雰囲気への速やかな置換によるサイクルタイムの短縮化や鋳型2の大幅な温度変化の防止、不活性ガスの使用量の節減、さらにはフィルタ12による酸化被膜等の確実な除去などを実現すると共に、キャビティ2内での新たな酸化被膜の生成を防止することで溶湯6の良好な湯廻り性が得られることとなり、高品質の製品が得られる。
【0038】
また、当該低圧鋳造装置1では、下向きに開放したカップ状を成し且つその頂部がキャビティ内面(突部9a)に当接する本体部12aと、本体部12aの開口縁部に連続し且つ湯口5の内周面に弾性的に当接する鍔部12bを有するフィルタ12を用いているので、湯口5に対するフィルタ12の装着あるいは交換の作業を行うことがきわめて容易である。
【0039】
このフィルタ12としては、溶湯6に対する耐熱性を考慮すれば、例えばセラミックス製のものを適用することも可能ではあるが、この場合には弾力性に欠けるのでこの実施例のような良好な装着性が得られなくなる。したがって、フィルタ12としては、鉄鋼材料を用いた網を採用することにより、耐熱性および弾力性の双方が得られ、しかも、きわめて安価に得ることができる。
【0040】
なお、上記実施例では、保持炉4から圧送されてきた溶湯6がフィルタ12に達する直前に、加圧速度を減少させて零(圧力保持)の状態にする場合を説明したが、例えば、溶湯6がフィーダ8に達したところで、図1(b)中のBo−Cに示すように加圧速度を低下させ、この後にガス供給手段13および吸引排出手段14を作動させるようにしてもよく、いずれの場合であっても、空気供給手段25において簡単な圧力制御を行うことにより、キャビティ2内を不活性ガス雰囲気に置換する時間が確実に得られ、しかも、不活性ガスが余分に使用されることもなく、その後のフィルタ12による酸化被膜の除去やキャビティ2内での新たな酸化被膜の生成防止が確実に成される。
【0041】
また、当該低圧鋳造装置1および低圧鋳造方法では、例えば自動車のロードホイールの製造において、従来の2重構造のストークを使用した場合に比べて、不活性ガスの使用量を1/3〜1/5程度にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる低圧鋳造方法および同方法が適用可能な低圧鋳造装置の一実施例を説明する断面図(a)と、時間経過に伴う保持炉内の加圧力の変化を示すグラフならびにガス供給手段および吸引排出手段の作動状況を示すタイムチャート(b)である。
【図2】 溶湯が湯口まで達した状態を説明する断面図である。
【図3】 溶湯をキャビティ内に加圧供給した状態を説明する断面図である。
【図4】 フィルタを示す斜視図(a)、フィルタを仮止めした状態を示す断面図(b)およびフィルタを固定した状態を示す断面図(c)である。
【図5】 従来の低圧鋳造装置において加圧前の状態(a)および加圧後の状態(b)を説明する各々断面図である。
【符号の説明】
1 低圧鋳造装置
2 キャビティ
3 鋳型
4 保持炉
5 湯口
6 溶湯
7 ストーク
12 フィルタ
12a 本体部
12b 鍔部
13 ガス供給手段
14 吸引排出手段
15 酸素センサ
Claims (2)
- 保持炉内の溶湯を鋳型のキャビティ内に加圧供給するに際し、鋳型の湯口に取付けるフィルタを用い、キャビティ内への不活性ガスの供給を開始するのに先立って、保持炉内の溶湯の加圧を開始するステップと、
前記保持炉内の溶湯の加圧により保持炉から圧送されてきた溶湯がフィルタに達する直前に、キャビティ内に不活性ガスを供給すると共に、不活性ガスのガス供給路よりも上側の位置からキャビティ内の空気を吸引排出するステップと、
前記キャビティに対する不活性ガスの供給および空気の吸引排気を開始したのち、フィルタを通してキャビティ内に溶湯を加圧供給するステップとを有することを特徴とする低圧鋳造方法。 - 溶湯がフィルタに達する直前に保持炉内に対する加圧速度を減少させ、キャビティ内が所定の不活性ガス雰囲気になった後に保持炉内に対する加圧速度を増大させることを特徴とする請求項2に記載の低圧鋳造方法。
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