本発明の車両の減速度制御装置は、例えばエンジンおよび電動機を車両の駆動輪との間で動力伝達可能に備えている車両に好適に適用されるが、エンジンのみ或いは電動機のみ車両の駆動輪との間で動力伝達可能に備えているものでも良いなど、種々の車両に適用され得る。電動機は、電気エネルギーを回転運動に変換する電動モータや、回転運動を電気エネルギーに変換する発電機、或いはその両方の機能を備えているもの(モータジェネレータ)である。
本発明は、エンジンのみを動力源とするエンジン駆動車両や、電動機のみを動力源とする電気自動車、エンジンおよび電動機の両方を動力源とするハイブリッド車両、エンジンや電動機以外の原動機を動力源として備えている車両、或いは3つ以上の原動機を備えている車両など、種々の車両に適用され得る。ハイブリッド車両には、エンジンの動力を直接駆動輪に伝達可能なパラレルハイブリッド車両と、エンジンからの動力は発電にのみ使用され駆動輪には直接伝達されないシリーズハイブリッド車両がある。
本発明は、例えば(a) 前記目標減速度設定手段の操作に従って目標減速度を増減設定する目標減速度制御手段と、(b) その目標減速度制御手段によって設定された前記目標減速度に応じてブレーキ力を制御するブレーキ制御手段とを有して構成される。
上記ブレーキ制御手段によるブレーキ力の制御は、自動変速機の変速比の変更によるエンジンブレーキ制御や、電動機の回生制動トルク、逆回転方向の力行トルクによるブレーキ力の増大、或いは正回転方向の力行トルクによるブレーキ力の低減等により、所定のブレーキ力を発生するように行われるが、このような動力源ブレーキの他に、車輪に設けられたホイールブレーキ等の他の制動装置を用いてブレーキ力を制御することもできる。上記自動変速機としては、遊星歯車式や平行軸式等の有段変速機に限らず、ベルト式、トロイダル型等の無段変速機を用いることもできる。エンジンの種類によっては、吸排気バルブの開閉タイミングやリフト量、或いはスロットル弁開度などを制御してエンジンブレーキ力を制御することもできるなど、種々の態様が可能である。
有段変速機の変速制御と電動機のトルク制御を併用してブレーキ力を制御する場合、目標減速度設定手段の操作に従って目標減速度制御手段により目標減速度を段階的に変化させる時の変化量は、有段変速機の変速によって達成される減速度の変化量よりも小さく、電動機のトルク制御と変速制御との組合せにより、ブレーキ力がきめ細かく制御されるようにすることが望ましい。目標減速度制御手段によって増減設定される目標減速度の増大側の変化量と減少側の変化量は同じであっても良いが、増大側と減少側の変化量を相違させることもできる。
目標減速度に応じてブレーキ力を制御するブレーキ制御手段は、目標減速度が得られる必要ブレーキ力を予め定められた演算式やデータマップなどから求め、動力源ブレーキなどでその必要ブレーキ力を発生させるように構成されるが、必要ブレーキ力は路面勾配や車両重量(乗車人数など)等の運転環境によって変化するため、その運転環境をパラメータとして必要ブレーキ力を求めることが望ましい。減速度を検出して、目標減速度となるようにブレーキ力をフィードバック制御することも可能である。
目標減速度設定手段は、例えばシフトレバーの所定の操作ポジションや、ステアリングホイール、ステアリングコラム、インストルメントパネル等、運転席近傍の種々の部位に配設することが可能で、例えば、シフトレバーの操作で増減指示する第1目標減速度設定手段と、ステアリングホイール或いはその近傍にシフトレバーとは別個に配設される第2目標減速度設定手段とを有して構成される。シフトレバーは、ステアリングコラムに配設されるものでも、運転席横のセンターコンソール部分に配設されるものでも良いが、ステアリングホイールまたはその近傍に第2目標減速度設定手段が設けられる場合には、運転席横のセンターコンソール部分に配設することが望ましい。
目標減速度設定手段は、例えば自動的に原位置に復帰する自動復帰型のスイッチが用いられ、押釦式やレバー式など種々の態様が可能で、例えば1回のON操作毎に目標減速度が1段階ずつアップダウンされるが、ON操作の継続時間によって目標減速度が2段階以上連続的に変化したり飛び越して変化したりするようにしても良い。ON操作の継続時間に応じて目標減速度が連続的に増減されるようにしても良い。1つの目標減速度設定手段は、例えば目標減速度を大きくするDecel用、および目標減速度を小さくするCan−Decel用の一対のスイッチで構成される。
減速度制御モードは、例えばステアリングホイールまたはその近傍などに配設される目標減速度設定手段のDecelスイッチがON操作されることによって設定されるようにすることが可能である。その場合には、その目標減速度設定手段のCan−DecelスイッチのON操作で減速度制御モードを解除できるようにすることが望ましい。例えば、Can−Decelスイッチにより減速度制御モードによる減速度制御が実施されていない場合と同等の減速度まで目標減速度が低下させられた場合に減速度制御モードが解除されるようにすれば良い。
前進走行モード選択手段は、例えばシフトレバーの操作ポジションとして前進走行モード選択ポジション(Dポジションなど)を設け、その前進走行モード選択ポジションへ操作されることにより、自動変速機等の動力伝達切換装置が前進駆動状態とされて前進走行モードが機械的に成立させられるように構成される。前進走行モード選択手段が切換スイッチなどで、前進走行モードが電気的に成立させられるようになっていても良い。
前進走行モードは、少なくとも前進駆動状態となってアクセル操作に応じて前進走行するもので、例えば自動変速機の全ての変速範囲で自動的に変速しながら前進走行するフルレンジ自動変速モードなどである。
減速度制御制限手段は、例えば、その時の目標減速度設定手段の操作を無効として目標減速度の増減設定を禁止し、更には減速度制御モードそのものの設定を禁止するように構成される。その場合に、前進走行モード選択手段の操作は有効で、前進駆動状態(アクセルOFFのエンジンブレーキ状態などを含む)とすることが望ましく、その後に目標減速度設定手段が再操作されることにより減速度制御モードに設定するなどして減速度制御を開始するように構成される。
上記減速度制御制限手段はまた、目標減速度設定手段による目標減速度の増減設定を一時的に禁止するだけで、前進走行モード(前進駆動状態)が成立する所定時間後或いは所定のタイミングなどで、減速度制御の実施を許容するものでも良い。
減速度制御制限手段は、前進走行モード選択手段の操作と目標減速度設定手段の操作とが同時に行われた場合に減速度制御を制限するが、それ等の操作が同時に行われたか否かは、制御や作動が重複するなどしてショック等が生じるか否かを基準にして判断され、例えば1秒程度以内のずれで両方の操作が行われた場合には、同時操作と判断して減速度制御を制限するように構成される。
また、目標減速度設定手段を操作しながら前進走行モードの設定操作が行われた場合は、前進走行モードの設定と同時に目標減速度を増減設定して減速度制御が行われることになるため、その操作開始時間のずれの大小に拘らず全て同時操作と判断して、減速度制御を制限すれば良い。すなわち、前進走行モードの設定操作が行われた後、1秒程度の時間が経過する前に目標減速度設定手段の操作が行われた場合には、全て同時操作と判断するようにしても良いのである。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1の(a) は、本発明が適用されたハイブリッド車両用の駆動装置8の骨子図で、(b) は、駆動装置8に設けられた自動変速機10の複数のギヤ段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。車両用駆動装置8は、燃料の燃焼によって動力を発生するエンジン30、第1電動機MG1、第2電動機MG2、および自動変速機10を、その順番で同軸上に備えており、車両の前後方向(縦置き)に搭載するFR車両に好適に用いられる。そして、主としてエンジン30および第2電動機MG2が走行用の動力源として使用され、第1電動機MG1は、主としてエンジン始動用および発電用として用いられる。第1電動機MG1、第2電動機MG2は、何れも電動モータおよび発電機の両方の機能を有するものである。また、第1電動機MG1は、図示しないダンパを介してエンジン30に接続されているとともに、第1電動機MG1と第2電動機MG2との間にはクラッチCiが設けられ、エンジン30および第1電動機MG1と第2電動機MG2との間の動力伝達を遮断できるようになっている。なお、電動機MG1、MG2、自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1(a) では中心線の下半分が省略されている。
自動変速機10は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は入力部材に相当するもので、第2電動機MG2のロータに一体的に連結されており、出力軸24は出力部材に相当するもので、プロペラシャフトや差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。
図2は、上記自動変速機10の第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の回転速度を直線で表すことができる共線図で、下の横線が回転速度「0」で、上の横線が回転速度「1.0」すなわち入力軸22と同じ回転速度であり、クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態(係合、解放)に応じて第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の8つの前進ギヤ段が成立させられるとともに、第1後進ギヤ段「Rev1」および第2後進ギヤ段「Rev2」の2つの後進ギヤ段が成立させられる。図1の(b) の作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態との関係をまとめたもので、「○」は係合を表している。各ギヤ段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められ、図1(b) に示す変速比は、ρ1=0.463、ρ2=0.463、ρ3=0.415の場合である。なお、図1(a) の符号26はトランスミッションケースである。
図3は、上記自動変速機10やエンジン30、電動機MG1、MG2などを制御するために車両に設けられた制御系統の概略を説明するブロック線図で、アクセルペダル50の操作量Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。エンジン30の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によって開き角(開度)θTHが制御される電子スロットル弁56が設けられている。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットル弁開度センサ62、車速V(出力軸24の回転速度Nout に対応)を検出するための車速センサ64、第1電動機MG1の回転速度NM1を検出するためのMG1回転速度センサ66、第2電動機MG2の回転速度NM2(=入力軸22の回転速度Nin)を検出するためのMG2回転速度センサ68、シフトレバー72の操作ポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、シフトレバー72がEポジションへ操作されたことを検出するためのEポジションスイッチ76、電動機MG1、MG2に接続されたバッテリ77の残容量SOCを検出するためのSOCセンサ78、第1Decelスイッチ80、第1Can−Decelスイッチ81、第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、スロットル弁開度θTH、車速V、第1電動機回転速度NM1、第2電動機回転速度NM2、シフトレバー72の操作ポジションPSH、Eポジションへの操作の有無、残容量SOC、第1Decel指令Decel1、第1Can−Decel指令Can−Decel1、第2Decel指令Decel2、第2Can−Decel指令Can−Decel2などを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
前記電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機10の変速制御、電動機MG1、MG2の力行/回生制御などを行い、エンジン30や電動機MG1、MG2の作動状態が異なる複数の運転モードで走行する。図5は、運転モードの一例で、エンジン走行モードでは、クラッチCiを係合させてエンジン30を接続し、そのエンジン30により駆動力を発生させて走行する。エンジン30に余裕がある場合など、必要に応じて第1電動機MG1を回生制御してバッテリ77を充電することもできる。エンジン+モータ走行モードでは、クラッチCiを係合させてエンジン30を接続し、そのエンジン30および第2電動機MG2により駆動力を発生させて走行する。モータ走行モードでは、クラッチCiを解放してエンジン30を遮断し、第2電動機MG2により駆動力を発生させて走行する。バッテリ77の残容量SOCが少ない場合など、必要に応じてエンジン30を作動させるとともに第1電動機MG1を回生制御してバッテリ77を充電する。減速度制御モードでは、クラッチCiを係合させてエンジン30を接続し、フューエルカットによりエンジン30に対する燃料供給を遮断してエンジンブレーキを発生させるとともに、第2電動機MG2を力行或いは回生制御することにより、所定の動力源ブレーキを発生させる。第1電動機MG1についても、第2電動機MG2と同様に力行或いは回生制御して、動力源ブレーキの調整に使用することができる。
また、上記電子制御装置90による自動変速機10の変速制御は、シフトレバー72の操作ポジションPSHに応じて行われる。シフトレバー72は運転席の近傍、具体的には運転席の左側のセンターコンソール部分に配設され、図6に示すシフトパターン120に従って移動操作されるようになっており、シフトパターン120には、「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、「7」、「6」、・・・「L」の操作ポジションが車両の前後方向に沿って設けられている。「P」ポジションは駐車位置で、自動変速機10は動力伝達遮断状態とされるとともに、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってパーキングロック機構などにより機械的に出力軸24、すなわち駆動輪が回転不能に固定される。「R」ポジションは後進走行を行なう後進走行位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従って油圧制御回路98(図3参照)のマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10は前記後進ギヤ段「Rev1」または「Rev2」が成立させられる。「N」ポジションは動力伝達遮断位置で、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、自動変速機10はクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の全部が解放されて動力伝達遮断状態とされる。
「D」ポジションは、自動変速機10の前進ギヤ段を自動的に切り換えて前進走行する前進走行位置すなわち前進走行ポジションで、例えばシフトレバー72の移動操作に従ってマニュアルバルブが機械的に切り換えられることにより、総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を成立させることが可能とされ、それ等の総ての前進ギヤ段「1st」〜「8th」を用いて自動的に変速する最上位のDレンジ(フルレンジ自動変速モード)が成立させられる。すなわち、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されると、そのことをレバーポジションセンサ74のDポジション接点信号から判断してDレンジを電気的に成立させ、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の総ての前進ギヤ段を用いて変速制御を行う。具体的には、油圧制御回路98に設けられた複数のソノレイド弁やリニアソレノイド弁のATソレノイド99の励磁、非励磁を制御することにより油圧回路を切り換え、図1(b) に示すようにクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の作動状態を変化させて、第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」の何れかの前進ギヤ段を成立させるのである。この変速制御は、例えば図8に示すように車速Vおよびアクセル操作量Accをパラメータとして予め記憶された変速マップ等の変速条件に従って行われ、車速Vが低くなったりアクセル操作量Accが大きくなったりするに従って変速比が大きい低速側の前進ギヤ段を成立させる。
「7」〜「L」ポジションは、予め定められた複数の変速レンジを手動操作で切り換えるマニュアル変速ポジションで、それ等の操作ポジション「7」、「6」、・・・「L」に応じて図9に示す7、6、・・・Lの各変速レンジが成立させられる。図9は、変速レンジとその変速範囲を示す図で、ギヤ段の欄の数字「1」〜「8」は第1速前進ギヤ段「1st」〜第8速前進ギヤ段「8th」を表しており、変速比が最も大きい最低速前進ギヤ段は何れも第1速前進ギヤ段「1st」で、最高速前進ギヤ段が1つずつ変化している。また、各変速レンジでは、第1速前進ギヤ段「1st」からその最高速前進ギヤ段までの範囲で、前記Dレンジと同じ変速条件に従って自動的に変速が行なわれる。したがって、例えば下り坂などでシフトレバー72が「D」ポジションから、「7」ポジション、「6」ポジション、「5」ポジション、・・・へ順次切換操作されると、変速レンジがD→7→6→5→・・・へ切り換えられ、第8速前進ギヤ段「8th」から第7速前進ギヤ段「7th」、第6速前進ギヤ段「6th」、第5速前進ギヤ段「5th」・・・へ順次ダウンシフトされることになる。
前記「D」ポジションの横すなわち運転席に近い側には「E」ポジションが設けられている。この「E」ポジションは、前記図5の減速度制御モードを実施するための減速度制御モード選択ポジションで、シフトレバー72が「E」ポジションへ移動操作されると、そのことがEポジションスイッチ76によって検出される。「E」ポジションの前後には、目標減速度を小さくするための「Can−Decel」位置、および目標減速度を大きくするための「Decel」位置が設けられており、シフトレバー72がそれ等の「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されると、そのことが前記第1Decelスイッチ80、第1Can−Decelスイッチ81によって検出され、第1Decel指令Decel1、第1Can−Decel指令Can−Decel1を表す減速指示信号が電子制御装置90に供給される。これにより、動力源ブレーキによって減速度を制御する減速度制御モードにおける目標減速度が変更され、減速度を増したい場合、すなわち急激な制動を行いたい場合には、シフトレバー72を後方(「Decel」位置側)へ倒せば良く、減速度を低減したい場合、すなわち緩やかな制動を行いたい場合には、シフトレバー72を前方(「Can−Decel」位置側)へ倒せば良い。Eポジションスイッチ76は、シフトレバー72が「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されてもON状態を維持する。
上記「Decel」位置、「Can−Decel」位置への操作に関して、シフトレバー72は前後方向に連続的にスライドするのではなく、節度感を持って動く。すなわち、シフトレバー72は、中立状態、前方に倒した状態、後方に倒した状態の3つのうち何れかの状態を採る。運転者がシフトレバー72に加える力を緩めれば、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により直ちに中立位置すなわち「E」ポジションへ戻されるようになっており、第1Decelスイッチ80および第1Can−Decelスイッチ81はそれぞれスプリング等の付勢手段により自動的にOFF状態に復帰する。これ等の第1Decelスイッチ80および第1Can−Decelスイッチ81をON操作するシフトレバー72は第1の目標減速度設定手段である。なお、シフトレバー72は減速度制御モード選択手段を兼ねており、「E」ポジションへ操作されることによりEポジションスイッチ76をONにして減速度制御モードに設定するとともに、「D」ポジションへ戻されることによりEポジションスイッチ76をOFFにして減速度制御モードを解除する。
減速度制御モードではまた、上述したシフトレバー72の操作の他、図7に示すようにステアリングホイール84の近傍のステアリングコラム86に配設された第2Decelスイッチ82および第2Can−Decelスイッチ83が矢印で示すように回動操作(ON操作)されることによっても、目標減速度が増減させられる。すなわち、第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83が回動操作されると、これ等の第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83から前記電子制御装置90に第2Decel指令Decel2、第2Can−Decel指令Can−Decel2を表す減速指示信号が出力され、目標減速度が増減させられるのである。第2Decelスイッチ82および第2Can−Decelスイッチ83は、何れも運転者によりON操作される自動復帰型のスイッチで、それぞれスプリング等の付勢手段により自動的に原位置(OFF状態)まで戻り回動させられる。また、位置固定のステアリングコラム86に設けられているため、運転者がステアリングホイール84を回転操作している最中でも容易に操作できる。これ等の第2Decelスイッチ82および第2Can−Decelスイッチ83は第2の目標減速度設定手段である。
減速度制御モードによる減速度制御は、前記電子制御装置90が機能的に備えている図4の減速度制御モード実行手段110によって実行され、前記シフトレバー72が「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されることによって出力される第1Decel指令Decel1や第1Can−Decel指令Can−Decel1、および前記ステアリングコラム86に配設された第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83の操作で出力される第2Decel指令Decel2、第2Can−Decel指令Can−Decel2に応じて目標減速度を変更しつつ動力源ブレーキを制御する。減速度制御モード実行手段110は、目標減速度制御手段112および動力源ブレーキ制御手段114を有し、図10および図11のフローチャートに従って信号処理を行うようになっている。図10のステップS7およびS10は目標減速度制御手段112によって実行され、ステップS8は動力源ブレーキ制御手段114によって実行される。また、ステップS3〜S5は減速度制御制限手段である。図11は、図10のステップS8の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。また、図16〜図18は、図10、図11のフローチャートに従って減速度制御が行われた場合のタイムチャートの一例である。なお、この図10、図11のフローチャートに従って行われる減速度制御は、本発明とは異なる参考例である。
図10のフローチャートにおいて、ステップS1ではEポジションスイッチ76がONか否か、すなわちシフトレバー72が「E」ポジションに有るか否かを判断し、ONでなければステップS11でその他の制御を行って一連の信号処理を終了するが、ONの場合にはステップS2以下を実行する。ステップS2では目標減速度設定手段がONか否か、具体的にはシフトレバー72が「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されることによって第1Decel指令Decel1または第1Can−Decel指令Can−Decel1が供給されたか否か、或いはステアリングコラム86に配設された第2Decelスイッチ82または第2Can−Decelスイッチ83が操作されることによって第2Decel指令Decel2または第2Can−Decel指令Can−Decel2が供給された否かを判断する。そして、それ等の目標減速度設定手段が何れもOFFの場合にはステップS9以下を実行し、何れか1つでもONの場合にはステップS3以下を実行する。
ステップS9では、Eポジションスイッチ76のON信号に基づいて減速度制御モードに設定し、既に減速度制御モードに設定されている場合には継続する。また、ステップS10では、目標減速度設定手段が何れも操作されていないことから、現在の目標減速度を維持し、ステップS8でその目標減速度で減速するように動力源ブレーキ、すなわち自動変速機10の変速制御によるエンジンブレーキ制御および第2電動機MG2のトルク制御を行う。減速度制御モードの設定時に定められる目標減速度の初期値は0で、その後の目標減速度設定手段の操作を有効にするように減速度制御モードをアクティブ(待機状態)にするだけであり、実質的に減速度制御は行われない。すなわち、目標減速度=0は、DレンジにおけるアクセルOFFの惰性走行時で、フューエルカット状態のエンジンブレーキのみが作用している場合に、特別な減速度制御を行うことなく得られる減速度で、自動変速機10のギヤ段に基づいて車速Vに応じて発生するエンジンブレーキ力によって得られる基準値(図12の破線)である。図16のタイムチャートの時間t1 は、シフトレバー72が「E」ポジションへ操作されることにより、ステップS9で減速度制御モードがアクティブ(ON)とされた時間である。
ステップS2の判断がYES(肯定)の場合、すなわち目標減速度設定手段の何れか1つでもONの場合に実行するステップS3では、前記Eポジションスイッチ76のON信号の開始時間と目標減速度設定手段のON信号とが同時か否か、具体的には制御や作動が重複した場合にショック等が発生する可能性がある1秒程度以内のずれか否かを判断する。同時でない場合、すなわち既に減速度制御モードが設定されている状態で、1秒以上経過した後に目標減速度設定手段がON操作された場合には、ステップS6で減速度制御モードを継続するとともに、ステップS7で、目標減速度設定手段の操作に応じて目標減速度を増減設定し、ステップS8で、増減設定された目標減速度に応じて動力源ブレーキを制御する。上記ステップS7では、シフトレバー72が「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されることによって出力される第1Decel指令Decel1および第1Can−Decel指令Can−Decel1と、ステアリングコラム86に配設された第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83の操作で出力される第2Decel指令Decel2および第2Can−Decel指令Can−Decel2とを区別することなく処理するようになっており、Decel指令Decel1またはDecel2が供給された場合には、目標減速度を予め定められた一定の変化量β(図12参照)だけ増大させる一方、Can−Decel指令Can−Decel1またはCan−Decel2が供給された場合には、目標減速度を変化量βだけ減少させる。なお、誤操作による増減を防止するため、Decel指令Decel1、Decel2やCan−Decel指令Can−Decel1、Can−Decel2が予め定められた所定時間以上継続して供給された場合に有効と判断して目標減速度を増減する。
ここで、目標減速度の初期値である目標減速度=0、すなわち減速度制御が実施されていない状態で、シフトレバー72が「Decel」位置へ操作されるか、ステアリングコラム86に配設された第2Decelスイッチ82がON操作されると、図12に実線で示すように減速度制御無し状態(図12の破線)よりも変化量βだけ大きい目標減速度が車速Vをパラメータとして設定される。すなわち、新たに減速度制御が開始される時には、その開始時の減速度(図12の破線)を基準としてその時の車速Vに応じて目標減速度が設定されるのである。目標減速度の設定に際しては、図13に示すように路面勾配を考慮することも可能で、下り勾配では水平な平坦路よりも大きな目標減速度が設定されるようにしても良い。なお、減速度制御モードが実施されていない場合の減速度は、ギヤ段の切換位置に凹凸ができるが、図12の破線はその凹凸を平滑化して示したものであり、減速度制御モードで増減設定される目標減速度は、図12に実線や一点鎖線で示すようにそのような凹凸の無いデータマップ或いは演算式に従って設定される。また、本実施例では変化量βが一定値であるが、車速V等をパラメータとして可変設定されるようにしても良いし、目標減速度の増加側と減少側とで異なる値としても良い。また、Decel指令Decel1、Decel2やCan−Decel指令Can−Decel1、Can−Decel2の継続時間に応じて変化量βを連続的に変化させ、目標減速度を連続的に増減させるようにすることもできる。
図16の時間t2 は、シフトレバー72が「Decel」位置へ操作されることにより第1Decel指令Decel1がONとなり、図12に実線で示す目標減速度が設定されて減速度制御が開始された時間であり、時間t3 は、シフトレバー72が更に「Decel」位置へ操作されて第1Decel指令Decel1がONとなり、目標減速度が更に1段階(β)増加させられた時間である。
図17は、減速度制御モードを実行中の別の例を示すタイムチャートで、時間t1 は、シフトレバー72が「Decel」位置へ操作されて第1Decel指令Decel1が供給されることにより、目標減速度が1段階(β)増加させられた時間で、時間t3 は、ステアリングコラム86の第2Decelスイッチ82が操作されて第2Decel指令Decel2が供給されることにより、目標減速度が更に1段階(β)増加させられた時間である。また、時間t4 は、ステアリングコラム86の第2Can−Decelスイッチ83が操作されて第2Can−Decel指令Can−Decel2が供給されることにより、目標減速度が1段階(β)減少させられた時間で、時間t5 は、シフトレバー72が「Can−Decel」位置へ操作されて第1Can−Decel指令Can−Decel1が供給されることにより、目標減速度が更に1段階(β)減少させられた時間である。変化量βは、自動変速機10の変速によって達成される減速度の変化量よりも小さく、第2電動機MG2の回生トルク制御と変速制御との組合せによってブレーキ力がきめ細かく制御されるようになっており、時間t3 では、自動変速機10が第8速前進ギヤ段「8th」から第7速前進ギヤ段「7th」へダウンシフトされるとともに、第2電動機MG2の回生トルクが1段階だけ小さくされることにより、目標減速度の変化量βに対応する所定量だけ動力源ブレーキが増大させられる。
また、前回のON操作からの時間間隔TDが予め定められたOFF時間よりも短い場合には、短時間の連続操作によって減速度が大きく変化することを回避するため、そのON操作を無効とするようになっており、図17の時間t2 は、シフトレバー72の「Decel」位置への操作に拘らず現在の目標減速度が維持された場合である。このOFF時間は、シフトレバー72の「Can−Decel」位置への操作や第2Decelスイッチ82、第2Can−Decelスイッチ83についても同様に適用され、急な減速度の変化が防止されるが、Decel側すなわち目標減速度の増大側のみ制限し、目標減速度を低減するCan−Decel側については連続操作を有効とするなど、種々の態様が可能である。この他、減速度制御による自動変速機10のダウンシフトでエンジン回転速度NEがオーバー回転になったり、駆動力変化で車両の挙動が不安定になったりする場合等も、動力源ブレーキの増減制御がキャンセルされる。
前記ステップS8の動力源ブレーキ制御を図11のフローチャートを参照しつつ具体的に説明する。図11のステップR1では、前記ステップS7、またはS10で設定された目標減速度に応じて必要ブレーキトルクを算出する。これは、例えば図14に実線で示すように、目標減速度が大きくなる程必要ブレーキトルクが大きくなるように予め定められたデータマップや演算式に従って求められるが、目標減速度を設定する段階で路面勾配を考慮しない場合には、必要ブレーキトルクを求める段階で路面勾配を考慮して、例えば図14に破線で示すように、下り勾配では水平な平坦路よりも大きな必要ブレーキトルクが算出されるようにすることが望ましい。この他、車両重量(乗車人数など)についても、車両重量が大きくなる程必要ブレーキトルクが大きくなるようにすることが望ましい。但し、フットブレーキ操作の有無やフットブレーキ力とは関係なく定められ、フットブレーキ操作の変化によって動力源ブレーキが変化することはない。
ステップR2では、バッテリ77の残容量SOCが予め定められた上限値α以下か否かを判断し、SOC≦αであればバッテリ77の充電が可能であるため、ステップR3で、必要ブレーキトルクを発生させることができる範囲で高速側の前進ギヤ段を設定するとともに、ステップR4で第2電動機MG2を回生制御し、エンジンブレーキ力および回生トルクの両方で目的とするブレーキトルクが得られるようにする。また、SOC>αの場合には、バッテリ77の充電が不可であるため、ステップR5で、必要ブレーキトルクを発生させることができる範囲で低速側の前進ギヤ段を設定するとともに、ステップR6で第2電動機MG2を力行制御し、その力行トルクでエンジンブレーキ力を低減することにより目的とするブレーキトルクが得られるようにする。
すなわち、動力源ブレーキトルクは、自動変速機10のギヤ段に応じて得られるエンジンブレーキトルクと第2電動機MG2の力行トルク或いは回生トルクとを加算したものであるため、図15に実線で示す各前進ギヤ段におけるエンジンブレーキトルクを中心として、第2電動機MG2を回生制御すれば、その回生トルクに応じて動力源ブレーキトルクをそれぞれ破線で示す範囲まで増大させることができる。また、第2電動機MG2を力行制御すれば、その力行トルクに応じて動力源ブレーキトルクを一点鎖線で示す範囲まで減少させることが可能で、各ギヤ段において得られる動力源ブレーキトルクの範囲が互いにオーバーラップさせられているのである。例えば、第7速前進ギヤ段「7th」で第2電動機MG2を回生制御することによって得られる動力源ブレーキトルクの範囲と、第6速前進ギヤ段「6th」で第2電動機MG2を力行制御することによって得られる動力源ブレーキトルクの範囲は、互いに重複している。したがって、基本的には第2電動機MG2を回生制御してバッテリ77を充電しつつ目的とするブレーキトルクを発生させるが、バッテリ77が満充電で充電不可の場合には、ギヤ段を下げてエンジンブレーキトルクを増大させるとともに、第2電動機MG2を力行制御してブレーキトルクを低下させることにより、目的とするブレーキトルクを得ることができるのである。
なお、第2電動機MG2に加えて第1電動機MG1を力行或いは回生制御すれば、各前進ギヤ段における動力源ブレーキトルクの制御範囲を更に拡大することが可能で、必要ブレーキトルクに応じて3つ以上の前進ギヤ段の中から適当なギヤ段を選択して動力源ブレーキ制御を行うことができるようにすることもできる。第2電動機MG2のトルク容量が大きい場合も、同様に3つ以上の前進ギヤ段の中から選択できるようにすることができる。また、前記ステップR5、R6では、低速側の前進ギヤ段を設定するとともに第2電動機MG2を力行制御してブレーキトルクを低下させるようになっていたが、高速側の前進ギヤ段を設定するとともに第2電動機MG2に逆回転方向の力行トルクを加えてブレーキトルクを増大させるようにしても良い。
また、電動機MG1、MG2のフェールで回生トルクが得られない場合には、自動変速機10の変速制御によるエンジンブレーキ力のみで対応する。逆に、車速Vが低下してクラッチCiが解放された場合など、エンジンブレーキ力が得られない場合は、第2電動機MG2の回生制御のみで対応する。
また、減速度制御モードの実行中にアクセルペダル50が踏込み操作された場合には、第2電動機MG2のトルク制御を中止するとともに、自動変速機10のギヤ段はそのままでエンジン30の出力をアクセル操作量Accに応じて制御する。シフトレバー72が「E」ポジションから「D」ポジションへ戻し操作されて、減速度制御モードが解除(OFF)された場合には、自動変速機10を含めて全ての減速度制御をキャンセルする。
図10に戻って、前記ステップS3の判断がYES(肯定)の場合、すなわちEポジションスイッチ76のON信号の開始から1秒程度経過する前に目標減速度設定手段がONとなった場合には、ステップS4を実行し、減速度制御モードに設定しないとともに、ステップS5では目標減速度の設定・変更を禁止し、目標減速度設定手段のON信号を無効とする。図18のタイムチャートの時間t1 は、Eポジションスイッチ76のON信号の開始時間であるが、略同時に第1Decelスイッチ80から第1Decel指令Decel1が供給されたため、減速度制御モードが設定されなかった時間であり、その第1Decel指令Decel1の供給が停止して前記ステップS2に続いてステップS9が実行されることにより、時間t2 で減速度制御モードに設定される。その後、再びシフトレバー72が「Decel」位置へ操作されて第1Decel指令Decel1がONになると、ステップS7が実行され、図12に実線で示す目標減速度が設定されて減速度制御が開始される。図18の時間t3 は、このように減速度制御が開始された時間である。
上記図18において、Eポジションスイッチ76のON信号の開始時間よりも第1Decel指令Decel1のON信号の開始時間の方が早いが、これはスイッチの応答性や信号の認識時間の相違などによるもので、シフトレバー72自体は、「E」ポジションへ操作してから「Decel」位置へ倒される。Eポジションスイッチ76がONとなった後に第1Decel指令Decel1が供給された場合には、Eポジションスイッチ76がONとなった段階でステップS9で減速度制御モードに設定されるが、その後1秒程度以内に第1Decel指令Decel1が供給されると、同時判定によりステップS4以下が実行され、目標減速度の増減が禁止されて、実質的に減速度制御が行われない。その場合に、ステップS4では、減速度制御モードを解除することなく設定状態すなわちアクティブ状態を継続する。
また、ステアリングコラム86の第2Decelスイッチ82をON操作しながらシフトレバー72を「E」ポジションへ操作することも可能で、その場合は第2Decel指令Decel2が先に供給されるが、Eポジションスイッチ76のONに伴って減速度制御モードへの移行と目標減速度の増大設定とを同時に行う必要があり、制御が複雑になることから、その場合も同時操作と判断してステップS4以下を実行する。なお、ステップS4ではEポジションスイッチ76のONに拘らず減速度制御モードが設定されないが、破線で示すように、Eポジションスイッチ76のONに従って減速度制御モードに設定するようにしても差し支えない。
ここで、本参考例の減速度制御装置は、シフトレバー72を「E」ポジションへ移動させて減速度制御モードに設定する操作と、目標減速度を増減するための目標減速度設定手段のON操作とが同時に行われた場合には、ステップS4で減速度制御モードの設定が禁止されるとともに、ステップS5で目標減速度の設定・変更が禁止されて減速度制御が行われないため、減速度制御モードへの移行と目標減速度の増減設定とを同時に行って減速度制御を行う場合のように、信号処理が複雑になってショックが発生したり適切な減速度が得られなかったりして運転者に違和感を生じさせることが防止される。
次に、他の参考例を説明する。なお、以下の参考例において前記参考例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
前記参考例では、目標減速度の初期値、すなわちシフトレバー72が「E」ポジションへ操作されることによりステップS10で最初に設定される目標減速度=0であったが、前記図12に実線で示す減速度、すなわち減速度制御無し状態(図12の破線)よりも変化量βだけ大きい目標減速度が車速Vをパラメータとして初期設定され、直ちに減速度制御が開始されるようにしても良い。図19、図20は、その場合のタイムチャートの一例で、それぞれ前記図16、図18に対応する図である。
このように、減速度制御モードの設定と同時に減速度制御が開始される場合に、目標減速度設定手段が同時に操作され、それに伴って目標減速度を増減設定すると、目標減速度が短時間で変化してショックが生じたり減速度の変化が大きくなったりして運転者に違和感を生じさせる可能性がある。これに対し、本参考例では図20に示すように目標減速度の設定・変更が禁止され、時間t2 で減速度制御モードに設定されて減速度制御が開始されるとともに、その後に再び目標減速度設定手段が操作されることにより、目標減速度が変更されるため、目標減速度が短時間で変化してショックが生じたり減速度の変化が大きくなったりして運転者に違和感を生じさせることが防止される。
また、前記参考例ではシフトレバー72が減速度制御モード選択手段として機能し、「E」ポジションへ操作することによって減速度制御モードに設定できるようになっていたが、図21に示すようにシフトパターン122とは別にEモード選択スイッチ124を設け、そのEモード選択スイッチ124のON、OFFで減速度制御モードを設定、およびその設定を解除できるようにすることもできる。Eモード選択スイッチ124は、一度押圧操作されるとON状態となり、手を離してもON状態を維持するとともに、次に押圧操作されることによりOFFになるものであるが、自動復帰型のスイッチを採用して、1回の押圧操作毎にONとOFFとを信号処理で切り換えるものでも良い。
シフトパターン122は、「D」ポジションの左右両側に「Decel」位置および「Can−Decel」位置が設けられており、シフトレバー72がそれ等の「Decel」位置または「Can−Decel」位置へ操作されると、そのことが第1Decelスイッチ80、第1Can−Decelスイッチ81によって検出される。シフトレバー72は、左右方向に連続的にスライドするのではなく、節度感を持って動く。すなわち、シフトレバー72は、中立状態、左側へ倒した状態、右側へ倒した状態の3つのうち何れかの状態を採る。運転者がシフトレバー72に加える力を緩めれば、シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により直ちに中立位置すなわち「D」ポジションへ戻されるようになっている。
この場合は、前記図10のステップS1においてEポジションスイッチ76のON、OFFを判断する代わりに、Eモード選択スイッチ124のON、OFFが判断され、以後の各ステップが行われることにより、前記参考例と同様の作用効果が得られる。
また、図21においてEモード選択スイッチ124を備えておらず、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されてDレンジが成立している状態で、更にシフトレバー72が「Decel」位置へ操作されるか、ステアリングコラム86の第2Decelスイッチ82がON操作されることにより、そのまま減速度制御モードに設定して減速度制御が行われるようにすることも可能で、その場合は、図22のフローチャートに従って信号処理を行うようにすれば良い。このような態様が本発明の実施例であり、シフトレバー72が「D」ポジションへ操作されることにより成立させられるDレンジは、車両を前進走行させる前進走行モードで、シフトレバー72は前進走行モード選択手段として機能している。図22のステップSS3は前記目標減速度制御手段112によって実行され、ステップSS4は前記動力源ブレーキ制御手段114によって実行される。また、ステップSS6、SS8、SS9は減速度制御制限手段である。図23は、図22のフローチャートに従って減速度制御が行われた場合のタイムチャートの一例である。
図22のフローチャートにおいて、ステップSS1ではレバーポジションセンサ74のDポジション接点がONか否か、すなわちシフトレバー72が「D」ポジションに有るか否かを判断し、ONでなければそのまま減速度制御に関する信号処理を終了するが、Dポジション接点がONの場合にはステップSS2以下を実行する。ステップSS2では、減速度制御モードがONすなわち既に設定されて減速度制御を実行中か否かを、例えば減速度制御モードが設定されていることを表すフラグなどによって判断し、減速度制御モードが設定されている場合には、ステップSS3、SS4を実行する。ステップSS3、SS4では、前記参考例のステップS7、S8と同様に、目標減速度設定手段(Decelスイッチ80、82、およびCan−Decelスイッチ81、83)のON信号に応じて目標減速度を増減設定しつつ、その目標減速度に応じて動力源ブレーキを制御することにより減速度制御を行う。
ステップSS2の判断がNO(否定)の場合、すなわち減速度制御モードが未だ設定されていない場合には、ステップSS5でDecelスイッチ80または82がONか否かを判断し、何れもONでない場合には減速度制御モードに設定することなく信号処理を終了する(ステップSS10)が、Decelスイッチ80または82の何れかがONの場合には、ステップSS6以下を実行する。ステップSS6では、Dポジション接点のONとDecelスイッチ80または82のONとが同時か否かを判断し、同時であればステップSS8、SS9を実行し、前記ステップS4、S5と同様に、減速度制御モードに設定しないとともに目標減速度の設定・変更を禁止し、Decelスイッチ80または82のON信号を無効とする。ステップSS6の同時判定は、Dレンジへの移行制御と減速度制御とが重複してショック等が発生する可能性がある否かを基準にして、例えばDポジション接点のON信号の開始から1秒程度以内にDecelスイッチ80または82がONとなった場合には同時と判定する。また、第2Decelスイッチ82をON操作しながらシフトレバー72を「D」ポジションへ操作することも可能であるが、その場合も、Dレンジへの移行制御と減速度制御とが重複するため同時と判定する。
図23のタイムチャートの時間t1 は、Dポジション接点のON信号の開始時間であるが、略同時に第1Decelスイッチ80から第1Decel指令Decel1が供給されたため、減速度制御モードが設定されなかった時間であり、その後、再びシフトレバー72が「Decel」位置へ操作されて第1Decel指令Decel1が供給されると、ステップSS6に続いてステップSS7が実行され、減速度制御モードに設定されるとともに減速度制御が開始される。図23の時間t2 は、このように減速度制御モードに設定された時間で、この実施例では目標減速度の初期値として前記図12に実線で示す減速度、すなわち減速度制御無し状態(図12の破線)よりも変化量βだけ大きい目標減速度が車速Vをパラメータとして設定される。なお、このような減速度制御モードの設定の有無とは関係なく、「D」ポジションへのシフトレバー操作に伴ってDレンジが成立させられ、自動変速機10は、減速度制御モードではその減速度制御によって所定の前進ギヤ段が成立させられる。また、減速度制御モードでない場合には、図8の変速マップに従って車速Vに応じて所定の前進ギヤ段が成立させられる。
このように、本実施例では例えばニュートラル(N)による惰性走行から減速度制御モードへ移行する場合に、シフトレバー72を「D」ポジションへ移動させる操作と、減速度制御モードに設定するために更に「Decel」位置へ移動させる操作或いは第2Decelスイッチ82のON操作とが同時に行われた場合には、ステップSS8で減速度制御モードの設定が禁止されるとともに、ステップSS9で目標減速度の設定・変更が禁止されて減速度制御が行われないため、前進走行モード(Dレンジ)への移行と目標減速度の増減設定とを同時に行って減速度制御を行う場合のように、駆動力変動などのショックが発生するなどして運転者に違和感を生じさせることが防止される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。