JP4258945B2 - 耳割れの少ない方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法に係り、とくに方向性電磁鋼スラブを熱間圧延した時に生じる耳割れを有効に防止して製品歩留りを向上できる方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、主として変圧器その他の電気機器の鉄心として用いられ、かかる用途に適合すべく磁束密度、鉄損値等の磁気特性に優れることが基本的に重要である。そのため、方向性電磁鋼板の製造の際に重要なことは、いわゆる仕上焼鈍工程により二次再結晶させた結晶粒の方位を、{110 }<001> 方位、いわゆるゴス方位に高度に集積させることである。
【0003】
このような二次再結晶の集積を効果的に促進させるためには、▲1▼一次再結晶の成長を選択的に抑制する、▲2▼インヒビターと呼ばれる分散相を均一かつ適正なサイズで形成する、ことが重要である。このようなインヒビターとしては、Cu2-x S 、Cu2-x Se、MnS 、MnSe、AlN 、VN等のように硫化物、セレン化物、および窒化物で、しかも鋼中への溶解度が極めて小さい物質が用いられる。このため、従来から、熱間圧延前のスラブ加熱においては高温加熱を行いインヒビターを完全に固溶させ、熱間圧延以降二次再結晶までの過程でこのインヒビターを微細に分散析出させる方法がとられている。なお、Sb、Sn、As、Pb、P 、BiおよびMo等の粒界偏析型元素もインヒビターとして利用されている。
【0004】
従来、方向性電磁鋼板を製造するための一般的な製造工程では、厚み100 〜300mm のスラブを1100℃以上の温度で加熱してインヒビター成分を完全に固溶させた後、熱延板とし、次いでこの熱延板を1回又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延によって、最終板厚の冷延板とし、その後はこの冷延板に脱炭焼鈍を施し、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶および純化を目的として最終仕上焼鈍を施している。
【0005】
近年は、省エネルギー化への要請が一層強まり、方向性電磁鋼板に対する高磁束密度化、低鉄損化へのニーズも一層増してきた。これらの要請に応えるために、方向性電磁鋼板の製造方法においては、成品板厚の低減、高Si化、さらには二次再結晶後の鋼板にレーザー光やプラズマジェットを照射し溝を形成するなど物理的方法により磁区を細分化し、低鉄損化を図る方法が採られるようになった。また、2種以上のインヒビターを複合して添加し、粒成長抑制力を高めることも行われ、さらには冷間圧延工程にて板温を高めた、いわゆる温間圧延が行われたりするようになった。これらの技術およびその進歩により、極めて良好な磁気特性を有する製品が得られるようになった。
【0006】
ところで、方向性電磁鋼板は、上記したような磁気特性の向上に加えて、製品を安価に供給することも強く望まれており、かかる高級品を歩留り良く製造することが製造者サイドにおいて重要な課題となっている。このような歩留り向上という観点からは、熱延板エッジ部の耳割れ発生を如何に防止するかが重要な課題となっている。
【0007】
方向性電磁鋼板製造時の熱間圧延工程における耳割れを防止する技術については既に数多くの開示がある。
例えば、特開昭60−145204号公報、特開昭60−200916号公報、特開昭61−71104 号公報、特開昭62−196328号公報、特開平5−138207号公報には、熱間圧延中のシートバーの側面の形状を整えることで耳割れを防止する方向性けい素鋼の熱間圧延方法が開示されている。これらの技術は、側面の形状が悪い場合には粗大に成長した結晶の粒界部でノッチ状の凹部が生じ、これが耳割れの起点となることから、側面の形状を整えることによって耳割れ防止を図るものであり、多少の効果が認められた。しかしながら、これらの技術において、特に熱間仕上圧延1パス目の出側で幅圧下を行う場合には、耳割れ防止効果は少なく十分満足できなかった。また、特開昭60−145204号公報、特開昭61−71104 号公報、特開昭62−196328号公報、特開平5−138207号公報に記載の技術で、熱間仕上圧延の入り側で幅圧下を行う場合には、熱間仕上圧延の出側で幅圧下を行う場合に比べると耳割れ防止への効果は大きいが、未だ十分な耳割れ防止ができるというレベルではない。
【0008】
さらに、特開昭54−31024 号公報に記載された熱間粗圧延の最終圧下率を規制する方法、特開平3−133501号公報に記載されたスラブ加熱後に幅圧下、水平圧下を施す方法、特開平3−243244号公報に記載されたスラブ鋳込み組織を制御する方法および特開昭61−3837号公報に記載されたスラブ断面形状を特殊形状にする方法等についても、それぞれ耳割れに対して多少の効果はあるものの、かかる効果は粗圧延時に幅圧下する方法に比べて小さく、粗圧延時の幅圧下方法に大きく左右されるため、有効な方法とはいえなかった。
【0009】
一方、例えば、特開昭60−200916号公報には、スラブを加熱したのち、熱間粗圧延段階で5 〜40%の幅圧下を施し、耳割れを防止する方向性けい素鋼板の製造方法が提案されている。確かに、特開昭60−200916号公報に記載された技術によれば、熱延時には耳割れ深さが20〜40mmという大きな耳割れは減少するが、10mm以上といった比較的大きな耳割れは依然として残存していた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このように、電磁鋼板の熱延時における耳割れ低減技術は、まだ完成された技術とはなっていないうえ、最近では、磁気特性をさらに向上させるため、粒界偏析型のインヒビタ−が増量されるようになり、以前に比べ電磁鋼板は、耳割れが発生し易く耳割れ最大深さも大きい材料となっている。とくに、熱延鋼板先端部(LE部)の両エッジ部で耳割れが多発し、歩留りが低下していた。このため、とくにLE部での耳割れを著しく低減あるいは防止できる、方向性電磁鋼板の熱間圧延技術の開発が熱望されていた
この発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、熱間仕上圧延時に多発する、鋼板先端部(LE部)での耳割れをさらに効果的に軽減して、方向性電磁鋼板を歩留り高く製造できる、方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、方向性電磁鋼のシートバーを熱間仕上圧延し熱延板とするに当たり、シートバーの側面温度、γ相率と耳割れ発生との関係を詳細に調べた。その結果、シートバーエッジ部のγ相率が熱延板の耳割れ発生に大きく影響することを突き止めた。
【0012】
まず、本発明者が行った実験結果を説明する。
Si:3%含有する方向性電磁鋼シートバーについて、熱間仕上圧延の入り側で、長さ方向にエッジ部(側面)の温度を測定した。その一例を図1に示す。この測温したシートバーについて、熱間仕上圧延後、耳割れの発生状況を調査したが、耳割れは、シートバーのエッジ部温度が1080℃超えのエッジ部(先端部(LE部)近傍)に集中していた。
【0013】
また、Si:3%含有する方向性電磁鋼シートバーから実験素材を切り出し、これら実験素材を1420℃に加熱した後、所定の温度まで空冷し、その後急冷して、組織を観察した。その結果、母相( α相) 中に、急冷直前に生成していたγ相を反映する組織が観察された。この組織の面積率と、急冷直前の実験素材の温度との関係を図2に示す。図2から、急冷直前の実験素材の温度が1080℃超えの温度で、この組織(γ相)の面積率が20%近くの高い値を示していることがわかる。
【0014】
これらの実験結果は、γ相率が高い状態で水平圧下(熱間仕上圧延)を施すと耳割れが発生し易くなることを示しており、その理由は次のように考えられる。
α相とγ相が共存する状態で材料が変形されると、α相とγ相は硬さが異なるので、応力集中が生じ微小な亀裂が生成する。この微小な亀裂の成長および合体によって耳割れが発生する。また、この微小な亀裂はγ相率が高いほど顕著となる。したがって、γ相率が高い温度域で水平圧下を行うと微小亀裂が増加し、その後の水平圧下により亀裂の成長および合体が生じ易くなり、耳割れが多発すると考えられる。
【0015】
本発明者は、図1と図2から、シートバーエッジ部の温度を1080℃以下とし、γ相率を低くしてのち、水平圧延(熱間仕上圧延)を施すことにより、熱延板の耳割れ発生を著しく低減できることを見いだした。さらに、本発明者は、放冷でシートバーエッジ部の温度を1080℃以下とする場合には、仕上圧延機の入側でかなりの時間待機するため、仕上圧延後の鋼板のシートバー後端部相当(TE部)の位置で、磁気特性の低下が生じていた。
【0016】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加え完成されたものである。
すなわち、本発明は、Si:2.5〜5.5 mass%を含有する方向性電磁鋼スラブを、加熱炉で加熱してから粗圧延を行いシートバーとし、ついで該シートバーに仕上圧延を施し熱延板とする方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法において、前記仕上圧延を行うに際し、前記シートバーの先端部から長さ方向に所定の位置までの両エッジ部のみを仕上圧延機の入側で急冷し1080℃以下の温度としたのち、直ちに水平圧下を行うことを特徴とする方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法である。
その場合、前記仕上圧延機の入側での急冷は、スプレーノズルで冷却水を噴射するエッジ冷却装置により行うことが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明が対象とする方向性電磁鋼熱延鋼板の素材として用いる方向性電磁鋼スラブの組成について説明する。
Si:2.5 〜5.5 mass%
Siは、鋼板の比抵抗を高め、鉄損を下げるのに有効な成分であるが、5.5mass %を超える含有量では冷延性が損なわれ、一方、2.5mass %未満の含有量では比抵抗が低下するだけでなく、二次再結晶および純化のために行われる最終仕上焼鈍中にα→γ変態によって結晶方位のランダム化を生じ、十分な鉄損低減効果が得られない。このためSi含有量は2.5 〜5.5 mass%の範囲とした。
【0018】
なお、Si以下の成分は、必ずしも限定する必要はないが、好ましい成分、および好ましい含有量の範囲については下記のとおりである。
C:0.01〜0.10mass%
Cは、熱間圧延、冷間圧延中の組成の均一分散化のみならず、ゴス方位結晶粒の発達に有効な成分であり、少なくとも0.01mass%含有させるのが望ましい。しかし、0.10mass%を超えて含有すると、脱炭が困難となり、かえってゴス方位結晶粒の集積に乱れが生じる。このため、Cは0.01〜0.10mass%の範囲とするのが望ましい。
【0019】
Mn:0.02〜0.12mass%
Mnは、熱間脆性を防止するために、少なくとも0.02mass%の含有を必要とするが、Mn含有量が多すぎると磁気特性の劣化を引き起こすので、上限は0.12mass%とするのが望ましい。
インヒビターとしては、MnS 、MnSe系又はAlN 系の単独使用又は併用が可能である。更にMnの代わりにCuを用いてもよい。この場合、Cuの適正量は0.02〜0.50mass%である。Cu含有量が0.02mass%未満の場合には抑制効果に乏しく、逆に0.50mass%を超えた場合は抑制効果が損なわれる。
【0020】
S、Seのうちから選ばれる少なくとも一種:0.005 〜0.06mass%
S、Seは、いずれも方向性電磁鋼板の一次再結晶を制御するインヒビターの構成成分として有力である。インヒビターの抑制力の観点からは少なくとも0.005mass %の含有を必要とするが、0.06mass%を超える含有ではその効果が損なわれる。したがって、その下限、上限をそれぞれ0.005mass %、0.06mass%とするのが好ましい。
【0021】
インヒビター構成成分のうち、Al:0.005〜0.10mass%、N:0.004 〜0.015mass %
Al、Nはいずれも方向性電磁鋼板の一次再結晶を制御するインヒビターの構成成分として有力であり、その含有量の範囲については、MnS 、MnSeにおけるS、Seの場合と同様の理由により上記の範囲に定めた。
【0022】
なお、インヒビターの構成成分としては、上記のS、Se、Alの他、Ni、Cu、Sn、Sb、Mo、TiおよびBi等も有利に作用するので、これらの成分をそれぞれ少量あわせて添加することもできる。これらの成分の好適範囲は、Ni、Cu、Snが0.01〜0.30mass%、Sn、Mo、Ti、Biが0.005 〜0.1mass %であり、これらの各インヒビター構成成分についても、一種又は二種以上の複合使用が可能である。
【0023】
本発明では、上記した組成の方向性電磁鋼スラブを、加熱炉で加熱してから粗圧延を行いシートバーとし、ついで該シートバーに仕上圧延を行い熱延板とする。スラブの加熱温度は、通常の方向性電磁鋼スラブの加熱温度で同じでよく、1300〜1450℃とするのが好ましい。
加熱したスラブの粗圧延条件は、とくに限定する必要はないが、水平圧延を行う直前のスラブ側面温度を900 ℃以上に調整するのが耳割れ発生を防止するためには効果的である。
【0024】
さらに、粗圧延終了後のシートバーに水平圧下(仕上圧延)を施すに際し、シートバー先端部から長さ方向に所定の位置までの両エッジ部のみを、1080℃以下、好ましくは1000℃以上の温度に急冷する。本発明でいうシートバー先端部から所定の位置までとはシートバーエッジ部温度が高い領域を指し、エッジ部温度により異なるが、例えば先端部から全長さの1/3までの領域とするのが好ましい。エッジ部温度の高い、先端部から長さ方向に所定の位置までの範囲を急冷すれば、耳割れ発生の危険温度域を回避して圧延することができ顕著な耳割れ発生を防止できる。
【0025】
両エッジ部の温度を1080℃以下とするに際し、空冷では、TE部の温度が低下しすぎて、AlN 等の析出物が粗大化し、磁気特性の低下を招く。すなわち、図2のTE部の温度を磁気特性の低下がみられない1000℃以上に保持するには、LE部を含めてスラブ全体の加熱温度を1300〜1450℃とする必要がある。このため、シートバーエッジ部温度が高いシートバー先端部から所定の位置までの両エッジ部の温度を1080℃以下とするべく急冷する。また、急冷を行うことにより、仕上げ圧延開始までの待機時間を削減することができ、生産能率が向上するという効果もある。急冷は、スプレーノズルで冷却水を噴射する方法等が好適であり仕上げ圧延機の入側に設置し、エッジ部のみを冷却可能としたエッジ冷却装置により行うのが好ましい。
【0026】
上記した方法で製造された熱延板では、耳割れの発生による切り捨て量が少なく製品歩留りが顕著に向上する。
上記した方法で製造された熱延板は、通常、その後に一回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施され、ついで脱炭焼鈍を施されたのち、表面に焼鈍分離剤を塗布されてから最終仕上焼鈍を施され方向性電磁鋼板とされる。
【0027】
【実施例】
方向性電磁鋼スラブ(厚さ220mm )を連続鋳造法により製造した。このスラブを、ガス燃焼炉で1180℃、更に誘導加熱炉で加熱した後、熱間粗圧延で厚さ40mmのシートバーとし、引き続いて、熱間仕上圧延を行い2.6mm の熱延板とした。この際、各シートバーを仕上圧延機入り側で空冷あるいはエッジ部のみをスプレーノズルで水冷し、仕上圧延機入側でのシートバーエッジ部の温度(側面)を変化させ、直ちに仕上圧延を行い熱延板としコイル状に巻き取った。なお、エッジ部の水冷はシートバー先端部から長さ方向に約1/4までの領域とした。なお、仕上圧延前に、エッジ部温度の調整を行わない場合を従来例とした。
【0028】
これらの熱延板コイルについて、耳割れ発生状況を観察し各熱延板コイルの耳割れ最大深さ、および切り捨て長さを求め、切り捨て量(%)を算出した。
本発明例では、耳割れ最大深さは10mm以下と耳割れが低減し、切り捨てロスは1.0 %が0.6 %となり従来例に比べ歩留りが向上した。
【0029】
【発明の効果】
以上から明らかなように、本発明によれば、方向性電磁鋼板を製造するに際して、特に熱間圧延工程での熱延板の幅方向端部(エッジ部)に発生する耳割れを効果的に低減することが可能となり、これにより耳割れに起因する端部切り捨て量を低減でき、製品歩留りを飛躍的に向上させることができるという産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱間仕上圧延の入側におけるエッジ部(側面)温度を示すグラフである。
【図2】γ相相当組織の面積率におよぼす急冷直前の素材温度の影響を示すグラフである。
Claims (2)
- Si:2.5〜5.5 mass%を含有する方向性電磁鋼スラブを、加熱炉で加熱してから粗圧延を行いシートバーとし、ついで該シートバーに仕上圧延を施し熱延板とする方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法において、前記仕上圧延を行うに際し、前記シートバーの先端部から長さ方向に所定の位置までの両エッジ部のみを仕上圧延機の入側で急冷し1080℃以下の温度としたのち、直ちに水平圧下を行うことを特徴とする方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法。
- 前記仕上圧延機の入側での急冷は、スプレーノズルで冷却水を噴射するエッジ冷却装置により行うことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼熱延鋼板の製造方法。
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