JP3674183B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器や発電機などの鉄心に用いられる方向性電磁鋼板のなかでも、特に鉄損が極めて低く磁束密度の高い方向性電磁鋼板の製造方法を提案するものである。
【0002】
Siを含有し、かつ結晶方位が(110)〔001〕方位や(100)〔001〕方位に配向した方向性電磁鋼板は優れた軟磁気特性を有することから商用周波数域での各種鉄心材料として広く用いられている。その折、電磁鋼板に要求される特性としては、一般に50Hzの周波数で1.7 Tに磁化させたときの損失である W17/50 であらわす鉄損が低いことが重要である。発電機や変圧器としての鉄心の鉄損は、この W17/50 の値が低い材料を用いることにより大幅に低減できることから、鉄損として W17/50 の低い材料の開発が年々強く求められてきている。
【0003】
【従来の技術】
一般に、材料の鉄損を低減するには、渦電流損を低下させるために有効なSiの含有量を増加し電気抵抗を高める方法、鋼板板厚を薄くする方法、結晶粒を細粒化する方法さらには結晶方位の集積度を高めて磁束密度を向上させる方法などが知られている。このうち、Si含有量を増加させる手法および鋼板板厚を薄くする手法について検討を加えたが、Si含有量を増加させる手法はSiを過度に含有させると圧延性や加工性を劣化させるので好ましくなく限界があり、また鋼板板厚を薄くする手法は極端な製造コストの増大をもたらすので自ずから限界があった。
【0004】
上記のうちの磁束密度を向上させる手法については、これまで数多く研究されてきており、例えば、特公昭46−23820号公報(高磁束密度電磁鋼板の熱処理法)には、鋼中にAlを添加し熱間圧延後に1000〜1200℃の温度範囲と高温での熱延板焼鈍とその後の急冷処理によって微細なAlN を析出させ最終の冷間圧延での圧下率を80〜95%とする高圧下を施す技術が提案開示されており、これによってB10で1.95Tと極めて高い磁束密度を得ている。これは、微細に分散析出したAlN が1次再結晶粒の成長を抑制するインヒビターとしての強い作用を有することを利用し、結晶方位の優れた核のみを2次再結晶させることにより方位の優れた結晶組織を有する製品を得ようとするものである。
【0005】
しかしながら、この技術では一般的に結晶粒が粗大化し、よって低い鉄損を得ることが難かしく、また、熱延板焼鈍において完全にAlN を固溶することが困難であるので、安定して高磁束密度の製品を得ることが困難であった。その理由は、この技術が最終圧延の圧下率を80〜95%という高圧下を施すことを必須としており、これにより少数の結晶方位の優れた核のみを成長させ、優れた磁束密度を得ようとするもので、高磁束密度は得られるものの、2次再結晶粒の発生密度が低くなり製品での結晶粒が粗大化するので磁気特性が不安定化するからである。
【0006】
その後、AlN をインヒビターとする材料の製造技術に関しては、特公昭54−23647号公報(高級一方向性電磁鋼板の製造方法)および特公昭54−13846号公報(特性の優れた高磁束密度一方向性珪素鋼板を得る冷間圧延法)に開示されているような、冷間圧延パス間で時効処理を施す技術や、特開平7−32006号公報(方向性けい素鋼板の冷間圧延方法および冷間圧延機のロール冷却装置)に開示されているような温間圧延技術によって材料の磁気特性を安定化する試みがなされてきたが、いずれも安定して高磁束密度の製品を得るには未だ不十分であり、上記したような本質的な理由による製造上の不安定性は依然解消されなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記したように、結晶方位の集積度を高めて高磁束密度を得ようとすると、それにともない必然的に結晶粒が粗大化し、磁気特性が不安定化する。これを抑制すべく結晶粒の細粒化を図ると逆に結晶方向集積度が低下し磁束密度の低下を招く、このような二律背反状態のため、これまで高磁束密度で極めて鉄損の低い材料を安定して製造することは困難であった。
【0008】
そこで、この発明は、AlN をインヒビターとする方向性電磁鋼板を製造するにあたって、本質的に内在する製品板での結晶粒の粗大化という不安定要因を解消して極めて低い鉄損を得、しかも極めて高い磁束密度B8 が得られる方向性電磁鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記した二律背反の状態を解消すべく、発明者らはインヒビターであるAlN の析出分散状態に着目し、従来とは全く異なった析出方法をとることにより、極めて微細にAlN を析出させ、1次再結晶粒の成長に対し強い抑制効果が得られることを見出し、これを有効に活用してこの発明を達成したものである。
なすわち、この発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0010】
(1)C:0.025 〜0.095 wt%、Si:1.5 〜7.0 wt%、Mn:0.03〜2.5 wt%、SもしくはSeのうちの1種または2種の合計:0.003 〜0.040 wt%、Al:0.010 〜0.030 wt%およびN:0.003 〜0.010 wt%を含有し残部Feおよび不可避的不純物よりなる、けい素鋼スラブを素材として、該スラブを1350℃以上の温度に加熱し、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施してから1回冷間圧延法または中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法により冷間圧延し最終冷延板厚とするか、もしくは、熱間圧延後、中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法により冷間圧延し最終冷延板厚としたのち、1次再結晶焼鈍を施し、その後、焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程により方向性電磁鋼板を製造するにあたり、
熱間の仕上げ圧延圧下率を85〜99%の範囲とし、仕上げ圧延終了温度を950 〜1150℃の範囲でかつ素材のSi含有量およびAl含有量との関係から下記式(1)を満たす温度範囲とする熱間圧延を行うこと、
熱間圧延終了後20℃/s以上の冷却速度で急冷して670 ℃以下の温度でコイルに巻取ること、
熱延板焼鈍および中間焼鈍をともに、800 ℃の温度まで5〜25℃/sの範囲の昇温速度で昇温し、900 〜1125℃の温度域で保持時間を150 秒間以下とする条件で行うこと、
冷間圧延を、1回冷間圧延法により圧下率:80〜95%の範囲で行い最終冷延板厚とするか、もしくは、2回冷間圧延法により第1回目の圧延を圧下率:15〜60%の範囲で行ったのち、中間焼鈍後第2回目の圧延を圧下率:80〜95%の範囲で行い最終冷延板厚とすること、
TiO2 ,TiN, MgTiO3 ,FeTiO2, SrTiO3およびTiS のうちから選ばれる1種の化合物または2種以上の混合物:1〜20wt%およびCa:0.01〜3.0 wt%を含有し、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を用いること、
最終仕上げ焼鈍の昇温途中の少なくとも900 ℃以上の温度からはH2 を含有する雰囲気中で昇温すること、
との順次組合せになることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第1発明)。
〔記〕
610 + 40 X+Y≦T≦ 750 + 40 X+Y --- (1)
ただし
T:仕上げ圧延終了温度(℃)
X: Si ( wt %)
Y: Al ( wtppm )
(2)けい素鋼スラブがさらに、Sb,Sn, Bi, Te, Ge, P,Zn, InおよびCrの中から選ばれる1種または2種以上の元素をそれぞれ0.001 〜0.30wt%にて含有する第1発明に記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第2発明)。
【0011】
(3)最終冷間圧延直前の熱延板焼鈍または中間焼鈍時の冷却が、鋼板内固溶C量を高めるための急冷処理である第1発明または第2発明に記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第3発明)。
【0012】
(4)最終冷間圧延が、90〜350 ℃の温度範囲の温間圧延か、もしくは、100 〜300 ℃の温度範囲で10〜60分間の時間範囲のパス間時効処理を施すものである第1、第2または第3発明に記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第4発明)。
【0013】
(5)最終冷間圧延前の焼鈍で、0.005 〜0.025 wt%の脱炭を施すことを特徴とする第1発明ないし第4発明のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第5発明)。
【0014】
ここでTi化合物とは、TiO2,TiN, MgTiO3 ,FeTiO2, SrTiO3, TiS などのTiを含有する酸化物や窒化物および硫化物などの物質である。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、この発明に至った実験例について以下に述べる。
C:0.08wt%(以下単に%であらわす)、Si:3.32%、Mn:0.07%、Al:0.024 %、Se:0.020 %、Sb:0.040 %、N:0.008 %を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる250 mm厚のけい素鋼スラブ2本をそれぞれ1380℃の温度に加熱した。
【0016】
その一方は、1220℃の温度で板厚:45mmとする粗圧延後、1050℃の温度で板厚:2.2 mmとする仕上げ圧延を終了したのち、大量の冷却水を噴射して50℃/sの冷却速度で冷却し、550 ℃の温度でコイルに巻取った(コイルAとする)。
他方は、1220℃の温度で板厚:45mmとする粗圧延後、950 ℃の温度で板厚:2.2 mmとする仕上げ圧延を終了したのち、大量の冷却水を噴射して25℃/sの冷却速度で冷却し、550 ℃の温度でコイルに巻取った(コイルBとする)。
【0017】
これらA,Bのコイルをそれぞれ2分割し(A−1,A−2およびB−1,B−2とする)、A−1およびB−1の熱延板コイルは、昇温速度:12℃/sで1110℃の温度まで昇温させたのち30秒間保持する熱延板焼鈍をそれぞれ施し、A−2およびB−2の熱延板コイルは、昇温速度:12℃/sで1170℃の温度まで昇温させたのち30秒間保持する熱延板焼鈍をそれぞれ施した。
【0018】
これらの熱延板は、酸洗後、120 ℃の温度での冷間圧延を施して最終冷延板厚:0.27mmとしたのち、脱脂処理を施してから、0.15%のCaと0.08%のBを含有するMgO 中にTiO2を4.5 %添加したものを焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布し、それぞれコイルに巻取った。
【0019】
その後、最終仕上げ焼鈍条件として、800 ℃の温度までの昇温をN2 雰囲気中で30℃/hの昇温速度で、800 〜1050℃の温度域の昇温をN2 :25%およびH2 :75%の混合雰囲気中で15℃/sの昇温速度で、1050〜1200℃の温度域の昇温および1200℃・5時間の均熱をH2 雰囲気中で、かつ1050〜1200℃の温度域の昇温速度を20℃/sとし、降温に際しては、800 ℃の温度までをH2 雰囲気中で急冷し、800 ℃以下の温度をN2 雰囲気中で冷却する熱サイクルと雰囲気を採用して、それぞれ最終仕上げ焼鈍を行った。
【0020】
最終仕上げ焼鈍後は、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカとりん酸マグネシウムからなる張力コートを塗布し焼付けそれぞれ製品とした。
かくして得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し800 ℃の温度で3時間の歪取焼鈍を施したのち、1.7 Tの磁束密度における鉄損 W17/50 および磁束密度B8 を測定し、さらにこれらの鋼板をマクロエッチして平均結晶粒径を調査した。
これらの調査結果を表1にまとめて示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1から明らかなように、熱間圧延(仕上げ圧延)終了温度が高く、熱延板焼鈍温度が低い記号A−1のコイルは、従来条件である記号B−2に比し、極めて高い磁束密度(B8)と極めて低い鉄損( W17/50 )が得られている。
【0023】
かかる良好な結果を得た理由について調査した結果、以下に述べることが明らかとなった。
すなわち、従来の方法においては、熱延板焼鈍時の高温均熱時にγ変態を起こさせ、AlN の再固溶ののち、その冷却過程での再析出を狙うものであるが、上記実験で良好な結果を得た記号A−1のコイルでは、熱延板焼鈍の昇温過程で極めて微細なAlN が析出し、これが強いインヒビターの抑制作用をもたらすものであることがわかった。
【0024】
したがって、この発明における第1の技術的ポイントは熱延板焼鈍温度は析出したAlN の再固溶やオストワルド成長が起こらないように低温にする必要があることであり、この点が従来とは技術的思想を全く異にするものである。
【0025】
この発明における熱延板焼鈍温度の適正値については、焼鈍後の結晶組織の粒サイズを適正にすることを目的にするものであり、焼鈍温度が過度に低い場合、圧延後の再結晶組織において2次再結晶の核となる(110)粒の強度が不足し、良好な方位の2次再結晶が得られなくなる。そこで(110)粒の高い強度を得るためには、熱延板焼鈍後の結晶組織を一定サイズ以上に粗大化する必要があり、このためには、900 ℃以上の温度まで昇温することが不可欠である。
【0026】
一方、熱延板焼鈍温度の上限については、上記したように、昇温過程で微細に析出したAlN の再固溶およびオストワルド成長をさせないことが最も肝要な点となる。
このためには、1125℃以下の温度で均熱時間が150 秒間以内の焼鈍とすることが必要とされる。かかる焼鈍における昇温時のAlN の析出現象は、ほぼ900 ℃の温度までに終了するが、昇温速度によってそのサイズや分布が変化するので、昇温速度を制御することも必要である。昇温速度が5℃/sよりも遅いとAlN が粗大析出しやすく、逆に25℃/sよりも速いとAlN の析出量が不十分となる。
【0027】
焼鈍後の冷却条件は特に限定する必要はないが、例えば特公平7−84615号公報(磁束密度に優れる方向性けい素鋼板の製造方法)に記載されているような、急冷処理して微細カーバイドを析出させる技術は1次再結晶集合組織を良好にするので、この発明に適用して有効である。また、焼鈍時に鋼板表層部の脱炭を行うことは、さらに好ましい結果を得ることができる。
【0028】
第2の技術的ポイントは、熱延板焼鈍の昇温過程で微細なAlN を析出させる手法を効果的に活用するための必須条件として、熱間圧延工程ではAlN を析出させないことである。仮に、熱間圧延工程においてAlN が析出したとすると、熱延板焼鈍の昇温過程ですでに析出しているAlN を核としてAlN が成長するため、少数の粗大な析出AlN が存在し抑制力が減少することになる。
【0029】
熱延板焼鈍の昇温過程でAlN が微細析出する過程を詳細に調査したところ、熱延板中にすでに多数のAlN とは異なる超微細析出物がすでに存在していて、これらがAlN 析出の核となっていること、さらに、これらの超微細析出物はMnS 、CuS 等の硫化物や、MnSe、CuSe等のセレン化物およびこれらの複合析出物からなり、熱間仕上げ圧延温度が適正な範囲において極めて微細に析出することがわかった。すなわち、鋼中に転位等の欠陥が高密度に存在する状態でAlN の析出を抑制できればよいことがわかった。ここで、仕上げ圧延温度が適正温度よりも高い場合には、鋼中に存在する欠陥の密度が低下して十分な数の上記した超微細析出物が得られず、逆に低い場合には、この析出が不十分となり、ともに超微細析出物の析出密度は低下する。なお、これらの析出物は超微細であるため、0.003 %以上のわずかな量で十分であるがSおよび/またはSeを鋼中に含有させておくことが必要になる。
【0030】
熱間圧延工程においてAlN の析出を防止する手段は、以下の3点がある。
そのひとつは、熱間圧延(仕上げ圧延)終了温度を高温化しAlN を過飽和固溶状態で鋼中に存在させることである。AlN の析出温度は、SiやAlの含有量によって変化することが知られているので、これらの含有量に合せて熱間圧延終了温度を変える必要がある。熱間圧延終了温度が低く過ぎる場合には熱間圧延工程でAlN が析出してしまい、上記実験において熱延板焼鈍を高温として再固溶・再析出させた記号B−2のコイルはともかくとしても、熱延板焼鈍を低温とした記号B−1のコイルのように少数の粗大なAlN の析出状態となり、抑制力が低下して2次再結晶不良となる。
【0031】
他のひとつは、熱間圧延終了後鋼板を急冷する点である。すなわち、これにより過飽和状態のままAlを鋼中に凍結することが可能になる。冷却速度が遅い場合には、冷却の過程でAlN が析出しやすくなる。このため必要とされる冷却速度は20℃/s以上である。
【0032】
残るひとつは、熱間圧延終了後のコイル巻取り温度を低温とする点である。コイルは長時間その温度近傍に保持されるため、巻取り温度が高いとやはりAlN の析出を招く結果となる。このためコイル巻取り温度を670 ℃以下とすることが必要である。
【0033】
ついで、上記したようにSi含有量とAl含有量とが関係する熱間圧延終了温度の適正範囲について調査した。
【0034】
Si含有量とAl含有量とを意図的に変化させた以外は前述の実験とほぼ同様の成分組成の250 mm厚の各種けい素鋼スラブを用い、熱間圧延終了温度を変化させた以外は前述の実験の記号A−1と同様の工程でそれぞれ製品とし、得られた各製品の磁束密度B8 /Bs (Bs は飽和磁束密度) の値を調査した。
図1は、製品の結晶方位の集積度(B8 /Bs )に及ぼす素材のSiおよびAl含有量ならびに熱間圧延終了温度の影響を示すグラフである。
【0035】
図1より、B8 /Bs が0.98以上の極めて高い値を得るためには熱間圧延終了温度は、Si(%)をXおよびAl(ppm)をYとしてあらわす610 +40X+Y以上でかつ950 ℃以上の温度が必要であり、また、750 +40X+Y以下でかつ1150℃以下の温度であることが必要であることがわかる。熱間圧延終了温度が上記範囲より、低い場合にはAlN が熱間圧延工程で析出し、高い場合には高温域における圧延となり熱延板のバンド組織の幅が増大して良好な2次再結晶の成長を妨害するようになる。
【0036】
第3の技術的ポイントは、焼鈍温度を低温とすることにより2次再結晶粒の結晶粒径が細粒化する点である。この理由は明確ではないが、焼鈍温度を低温化することによりγ変態量が低下し圧延前の結晶粒が実質的に増加し、圧延1次再結晶組織において(110)粒の核生成頻度が増加したためではないかと推察される。
【0037】
1次再結晶組織において(110)粒が増加した場合、2次再結晶粒が細粒化することはよく知られた現象であるが、この場合には従来より磁束密度の低下を招くことも常であった。しかし、この発明においては、強いインヒビターの抑制作用のため2次再結晶粒の細粒化と同時に磁束密度の向上効果も得られたものと推定される。
【0038】
冷間圧延工程については、熱延板焼鈍を施したのち1回の冷間圧延を行う1回冷間圧延法、熱延板焼鈍を施したのち第1回目の冷間圧延後中間焼鈍を施してから第2回目の冷間圧延を行う2回冷間圧延法、または、熱延板焼鈍を省略して第1回目の冷間圧延後中間焼鈍を施してから第2回目の冷間圧延を行う2回冷間圧延法のいずれもが採用できる。この冷間圧延工程における焼鈍では、その昇温過程でAlN を析出させるとともに析出したAlN のオストワルド成長、再固溶・再析出を防止するよう留意すること、熱延板焼鈍と中間焼鈍とを行う場合の2回目の焼鈍(中間焼鈍)でも析出したAlN のオストワルド成長、再固溶・再析出を防止するよう留意することが肝要である。
【0039】
また冷間圧延圧下率は、従来より公知のように最終圧延の圧下率を80〜95%の範囲とすることが重要である。
【0040】
次の実験として、最終仕上げ焼鈍条件についての調査を行った。
C:0.08%、Si:3.38%、Mn:0.07%、Al:0.022 %、Se:0.020 %、Sb:0.035 %およびN:0.008 %を含み、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる250 mm厚のけい素鋼スラブ10本を、それぞれ1410℃の温度に加熱し、1250℃の温度で板厚:45mmとする粗圧延後、1020℃の温度で板厚:2.2 mmとする仕上げ圧延を終了したのち、大量の冷却水を噴射して55℃/sの冷却速度で急冷し、550 ℃の温度でコイル状に巻取った。
【0041】
これらの熱延板は昇温速度6.5 ℃/sで昇温し1050℃・30秒間の熱延板焼鈍を行い、酸洗後、ゼンジマー圧延機により120 〜160 ℃の温度範囲での温間圧延を施し最終冷延板厚:0.30mmとしたのち、脱脂処理を行いそれぞれ850 ℃・2分間の脱炭・1次再結晶焼鈍を施した。
【0042】
つづいて、これらの脱炭焼鈍板に、表2に示す焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を、1180℃の温度まで30℃/sの昇温速度で昇温し7時間保持したのち降温するヒートパターンで、400 ℃の温度まではN2 雰囲気中で、その後は表2に示す雰囲気中でそれぞれ行った。
【0043】
【表2】
【0044】
その後、それぞれの鋼板について、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、60%のコロイダルシリカを含むりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃の温度で焼付け製品とした。
【0045】
かしくて得られた各製品より圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し800 ℃の温度で3時間の歪取り焼鈍を施したのち、1.7 Tの磁束密度における鉄損( W17/50 )および磁束密度(B8)をそれぞれ測定するとともに、各製品板の平均結晶粒径も測定した。
これらの測定結果を表3にまとめて示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から、最終仕上げ焼鈍において高温までN2 単味の雰囲気で処理した条件記号AやBの製品は磁気特性が劣っている。これは、鋼板の窒化が進行し方位の劣る結晶粒が2次再結晶したことが、磁束密度の低下および平均結晶粒径の値からわかる。
【0048】
また、焼鈍分離剤に含有されるべき成分として、CaおよびTiが必須の成分であることも理解される。鋼板表面には、脱炭焼鈍時に鋼板表層に生成した SiO2 と焼鈍分離剤の主成分であるMgO とが最終仕上げ焼鈍時に反応してフォルステライト(Mg2 SiO4)を主成分とする被膜が形成されているが、焼鈍分離剤にこれらの成分を添加することによって、被膜中にCaおよびTiの窒化物または酸化物が形成され、被膜の強化作用が高められ、被膜の張力効果が増加する結果磁気特性を向上させたものと考えられる。
【0049】
最終仕上げ焼鈍の雰囲気はかかる被膜中の酸化物や窒化物の形成に重要な働きをしており、焼鈍の中期から後期において特に還元性を強めておくことが必要であると考えられる。すなわち、還元性の強いH2 を雰囲気中に含有させることによって鋼中窒化物の分解を促進し被膜中のAl含有量を増加させることが可能になり、同時に還元性雰囲気によって被膜形成を促進し、被膜中に含有するTiやCaの量も増加させることが可能となったと思われる。
【0050】
なお、この発明の効果を発現するための成分組成について種々探索した結果、特にAlについて、熱延板焼鈍の昇温過程でAlN を十分に析出させるためには、Al含有量が0.010 〜0.030 %の範囲で良好な結果が得られることがわかった。
【0051】
以上、上記した実験・調査結果からの知見をもとに、この発明を完成したものである。
つぎに、この発明の方向性電磁鋼板の成分組成や製造方法について、この発明の効果を発現するための要件とその範囲および作用などについて詳述する。
まず、素材の成分組成について述べる。
【0052】
C:0.025 〜0.095 %
Cは、含有量が0.095 %を超えるとγ変態量が過剰となり、熱間圧延中のAlの分布が不均一となって熱延板焼鈍や中間焼鈍の昇温過程で析出するAlN の分布の均一性を阻害し、また、脱炭焼鈍の負荷も増大して脱炭不良が発生しやすくなる。一方、0.025 %未満では、組織改善効果が得られず2次再結晶が不完全となり磁気特性が劣化する。したがって、その含有量は0.025 〜0.095 %の範囲とする。
【0053】
Si:1.5 〜7.0 %
Siは、電気抵抗を増加させ鉄損を低減させるために必須の成分であり、このためには1.5 %以上含有させることが必要であるが、7.0 %を超えて含有させると加工性が劣化し製品の製造や製品の加工が極めて困難になる。したがって、その含有量は1.5 〜7.0 %の範囲とする。
【0054】
Mn:0.03〜2.5 %
Mnは、Siと同様に電気抵抗を高め、また製造時の熱間加工性を向上させるので重要な成分である。この目的のためには0.03%以上含有させることが必要であるが、2.5 %を超えて含有させるとγ変態を誘起して磁気特性が劣化する。したがって、その含有量は0.03〜2.5 %の範囲とする。
【0055】
Al:0.010 〜0.030 %、N:0.003 〜0.010 %
鋼中には上記成分のほか2次再結晶を誘起するためのインヒビターが必要で、インヒビター成分としてAlおよびNを含有させることを必須とする。
Alは、含有量が0.010 %未満の場合は熱延板焼鈍や中間焼鈍での昇温過程で析出するAlN の量が不足し良好な2次再結晶を得ることがてきなく、逆に0.030 %を超える場合はAlN の析出温度が上昇し、通常の熱間圧延ではAlN の析出を抑制することができなくなる。したがって、Alは0.010 〜0.030 %の範囲で含有させることとする。
【0056】
Nは、含有量が0.003 %未満の場合、熱延板焼鈍や中間焼鈍の昇温過程において析出するAlN 量が不足し良好な2次再結晶を得ることがてきなく、逆に0.010 %を超える場合、鋼中でガス化しふくれなどの欠陥をもたらす。したがって、Nは0.003 〜0.010 %の範囲で含有させることとする。
【0057】
これらの他に若干量のSおよび/またはSeを含有させることが必要である。それらの成分は鋼中にMn化合物もしくはCu化合物として析出するが、インヒビターとしての作用はほとんどなく、熱延板焼鈍や中間焼鈍の昇温過程において析出するAlN の析出核として機能する。これらは微細高密度分散の核生成のための析出であるので析出量としては少量で十分であり、この機能の発現のためには、SもしくはSeの単独あるいは複合で0.003 %以上含有させれば十分である。また、過剰に含有する場合も過剰分が粗大析出するだけであるのでさして有害とはならない。ただし、0.040 %を超えて含有する場合は粒界に析出して熱間圧延時の加工性を阻害するのでSもしくはSeの単独あるいは複合で0.040 %までの含有量とする。
【0058】
さらに、Sb,Sn, Bi, Te, Ge, P,Zn, InおよびCrなどはインヒビターとして抑制力を強化する補助的な働きを有するので、鋼中に随時含有させることが好ましい。それらの好適含有量としてはそれぞれ0.001 〜0.30%の範囲である。
【0059】
その他の添加成分については、例えば、Ni,CoおよびMoなどは鋼板の表面性状を改善する効果があるので適宜含有させることは可能である。
【0060】
ついで、この発明の製造方法について述べる。
上記の成分組成に調整されたけい素鋼スラブは、従来より公知のいかなる方法によっても製造することができる。
【0061】
該けい素鋼スラブは、通常のスラブ加熱に供されたのち熱間圧延により熱延板コイルとされるが、この時スラブ加熱温度を1350℃以上とすることがこの発明の重要な構成要件である。このスラブ加熱温度が1350℃未満である場合インヒビターの固溶が十分でなく、AlN の微細かつ均一な分散析出状態が得られなくなる。
【0062】
熱間圧延に際しては、スラブ加熱前後において組織の均一化のための厚み低減処理や幅圧下処理などの公知の技術を随時加えることは可能である。
【0063】
そして熱間圧延においては、以下に列記する4要件が必須となる。
第1に、仕上げ圧延での累積圧下率を85〜99%の範囲とすることである。これは、累積圧下率が85%未満の場合熱延板でのバンド組織の間隔が大きくなり、2次再結晶に有害となり、逆に99%を超えると熱延板に再結晶粒が存在するようになり、冷間圧延工程でのAlN の分散析出状態が粗くなることによる。
【0064】
第2に、仕上げ圧延終了温度T(℃)を、950 ℃から1150°までの温度範囲とし、かつ、Si(%)XおよびAl(ppm)Yに応じ、下記式(1)を満たす範囲にすることが必要である。
610 +40X+Y≦T≦750 +40X+Y --- (1)
これは、仕上げ圧延終了温度が上記下限値を下回るとMnS の超微細析出が困難となり、またAlN が圧延中に析出するようになるので、熱延板焼鈍や中間焼鈍におけるAlN の微細均一な析出が得られず、所望の磁気特性を有する製品が得られなくなり、逆に上限値を上回る場合は、高温域での圧延となりAlN の析出核となる硫化物やセレン化物の超微細析出をもたらす鋼中の欠陥が不足し、結局AlN の微細均一な析出が得られず所望の磁気特性を有する製品が得られなくなることによる。
【0065】
第3に、仕上げ圧延終了後20℃/s以上の冷却速度で急冷することが必要である。すなわち、このことは急冷により過飽和状態のAlN の析出を抑制し、熱延板焼鈍や中間焼鈍における昇温過程でのAlN 析出のための駆動力を高めることになる。
第4に、コイル巻取り温度を670 ℃以下とすることである。これは、巻取り温度が670 ℃を超える場合は、過飽和状態のAlN が析出してしまいインヒビターの抑制力が劣化し所望の磁気特性の製品が得られなくなることによる。
【0066】
冷間圧延工程においては、前記したように、熱延板焼鈍を施したのち1回冷間圧延法、熱延板焼鈍を施したのち中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法または熱延板焼鈍を省略した中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法のいずれもが採用できる。この冷間圧延工程における最初の焼鈍(熱延板焼鈍または中間焼鈍)では、その昇温過程でこの発明の骨子とするAlN を微細析出させ、その後の焼鈍過程および2回目の焼鈍(中間焼鈍)では析出したAlN のオストワルド成長や再固溶・再析出を防止するように留意することが極めて重要である。
【0067】
この冷間圧延工程で最初に行う焼鈍、すなわち、熱延板焼鈍を施す1回冷間圧延法および2回冷間圧延法においては熱延板焼鈍、熱延板焼鈍を省略する2回冷間圧延法においては中間焼鈍の昇温過程でAlN を微細析出させるためには、その昇温過程にて、800 ℃の温度までの昇温速度を5〜25℃/sの範囲とすることが必要である。これは、昇温速度が5℃/s未満では析出物が粗大に析出し、インヒビターとしての強い抑制力が得られず、逆に25℃/sを超える場合は析出物の析出量が不十分となり、同じくインヒビターとしての強い抑制力が得られなくなるためである。
【0068】
さらに、この焼鈍は900 〜1125℃の温度範囲で150 秒間以下の保持時間とすることが必要である。すなわち、焼鈍温度が過度に低い場合、圧延後の再結晶組織において2次再結晶の核となる(110)粒の強度が不足し良好な方位の2次再結晶組織が得られなくなることから、(110)粒の十分な強度を得るためにこの焼鈍後の結晶組織を一定サイズ以上に粗大化しておく必要がある。このためには900 ℃以上の温度で焼鈍することが不可欠となる。また、焼鈍温度の上限については、昇温過程で微細に析出させたAlN をオストワルド成長もしくは再固溶させないことがもっとも肝要な点となる。このためには1125℃以下の焼鈍温度としかつ保持時間を150 秒間以下とすることが必要とされる。
このように焼鈍温度を低温化することにこの発明の特徴があり、かくして、1次再結晶粒の組織中に(110)粒の強度を増加させることが可能となり、結果として高磁束密度でかつ細粒組織の2次再結晶を得ることができる。
【0069】
また、かかる焼鈍の冷却過程については、特に必要とされる点はないが、焼鈍後の鋼中の固溶Cを増加させる急冷処理を行ったり、鋼中に微細カーバイドを析出させるための急冷低温保持処理を行ったりすることは、製品の磁気特性を向上させるので有効である。さらに、焼鈍雰囲気の酸化性を高めて鋼板表層部を脱炭する公知の手段も有効に作用する。
【0070】
ここで、最終冷間圧延前の熱延板焼鈍や、中間焼鈍での脱炭量は0.005 〜0.025 %の範囲とすることがよい。
かかる脱炭処理によって鋼板表層部のC含有量が低下し、焼鈍時のγ変態量が低減するため、2次再結晶の核が生成する板厚表層部のインヒビターの抑制力が強化され、より好ましい2次再結晶を得ることができる。この効果を得るためには、鋼板のC含有量を0.005 %以上低減することがよい。しかし、0.025 %を超えて低減した場合、1次再結晶組織を劣化させるので好ましくない。
【0071】
なお、熱延板焼鈍後2回冷間圧延法の2番目の焼鈍(中間焼鈍)についても、微細析出したAlN の状態を保つためおよび結晶組織の調整のために最初の焼鈍と同様に900 〜1125℃の温度範囲で150 秒間以下の焼鈍とする。
【0072】
冷間圧延の圧下率については、従来から公知のように、最終冷間圧延の圧下率を80〜95%の範囲とすることが必要である。これは、圧下率が95%を超えると2次再結晶が困難となり、80%未満では良好な2次再結晶粒の方位が得られず、ともに製品での磁束密度が劣化することによる。
【0073】
また、2回冷間圧延法の第1回目の圧延圧下率は15〜60%の範囲とする。これは、圧下率が15%未満の場合は圧延再結晶の機構が作用せず結晶組織の均一化が得られず、逆に60%を超えると結晶組織の集積化が起り第2回目の圧延の効果が得られなくなるためである。
【0074】
さらに、最終冷間圧延においては、公知のように90〜350 ℃の温度範囲での温間圧延を行うことや、100 〜300 ℃の温度範囲で10〜60分間の時間範囲のパス間時効処理を行うことは、1次再結晶集合組織を改善する効果を有しより好ましい結果が得られるので、この発明に適用することは有意である。
【0075】
なお、最終冷間圧延後に、公知のように磁区細分化のため鋼板表面に線状の溝を設けることもよい。
【0076】
かかる方法により最終冷延板厚とした鋼板には、公知の手法による1次再結晶焼鈍を施したのち、Ti化合物を1〜20%およびCaを0.01〜3.0 %の範囲で含有する焼鈍分離剤を塗布してから、昇温途中の少なくとも900 ℃以上からはH2 を含む雰囲気中で昇温する最終仕上げ焼鈍を施す。
【0077】
上記で、焼鈍分離剤中にTi,Caを含有させる理由は、最終仕上げ焼鈍によって形成される被膜中にこれらの成分の酸化物や窒化物が生成し、これらによる被膜の張力効果の向上が考えられることによるものであり、このためには、Ti化合物を1%以上、Caを0.01%以上含有させることが必要である。しかしながら、Ti化合物を20%を超えて含有させた場合は、多量のTiが鋼中に侵入し磁気特性の劣化をもたらし、かつ、被膜形成も阻害され、Caを3.0 %を超えて含有させた場合は、被膜の密着性が劣化するので、それらの含有量の上限をTi化合物が20%、Caが3.0 %とする。
【0078】
最終仕上げ焼鈍において、焼鈍中に鋼板の窒化が生じると方位の劣る結晶粒の2次再結晶を招くので、最終仕上げ焼鈍の雰囲気は少なくとも900 ℃以上においてH2 を含ませることが必要である。また、H2 を含む雰囲気とすることは、上記被膜中の酸化物や窒化物の形成に重要な働きをしており、900 ℃以上の温度の焼鈍の中期から後期において特に還元性を強めておくことが重要であると考えられる。
【0079】
この最終仕上げ焼鈍後は、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、鋼板表面に絶縁コーティングを塗布して製品とするが、必要に応じてコーティング塗布前に鋼板表面を鏡面化してもよいし、絶縁コーティングとして張力コーティングを用いてもよく、また、コーティングの塗布焼付け処理を平坦化処理と兼ねてもよい。
【0080】
さらに、2次再結晶後の鋼板には鉄損の低減をはかるため、公知の磁区細分化処理としてプラズマジェットやレーザ照射を線状に施したり、突起ロールによる線状のへこみを設けたりする処理を施すこともできる。
【0081】
【実施例】
実施例1
C:0.08%、Si:3.35%、Mn:0.07%、Al:0.022 %、Se:0.012 %、Sb:0.02%およびN:0.008 %を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成のけい素鋼スラブを、1410℃の温度に加熱したのち、板厚:45mmのシートバーに1230℃の温度で粗圧延し、圧延終了温度:1020℃で板厚:2.2 mmとする仕上げ圧延後、冷却水を噴射させて冷却速度:25℃/sで冷却し600 ℃の温度でコイルに巻取り熱延板とした。
【0082】
この熱延板を1100℃の温度まで昇温速度:12.5℃/sで昇温し、この温度で30秒間保持する熱延板焼鈍を施したのち、酸洗し、板厚:1.5 mmに冷間圧延した。
【0083】
ついで、この冷延板コイルを2等分し、露点:40℃のH2 雰囲気中で中間焼鈍を施し、C含有量を0.06%まで低減したが、その際、一方をこの発明の適合例として1080℃・50秒間の焼鈍を施し、他方を比較例として1200℃・50秒間の焼鈍を施した。
【0084】
これらの中間焼鈍板を、それぞれ、鋼板温度:220 ℃の温間圧延により、最終冷延板厚:0.22mmとしたのち、脱脂処理し、850 ℃・2分間の脱炭・1次再結晶焼鈍後、0.5 %のCaを含有するMgO にTiO2を5%添加した焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍として、N2 雰囲気中で800 ℃の温度まで30℃/hの昇温速度で、N2 :25%、H2 :75%の混合雰囲気中で800 ℃から1050℃の温度までを12.5℃/hの昇温速度でそれぞれ昇温し、その後H2 雰囲気中で1200℃の温度まで25℃/hの昇温速度で昇温して、この温度で6時間保持したのち降温し、この時600 ℃までをH2 雰囲気で600 ℃からはN2 雰囲気で降温する処理を施した。
【0085】
この最終仕上げ焼鈍後は、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、60%のコロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを張力コーティングとして塗布したのち800 ℃の温度で焼付け、磁区細分化処理としてプラズマジェットを6mmピッチで照射しそれぞれ製品とした。
【0086】
これらの製品について調査した磁気特性の測定結果は以下の通りである。
【0087】
上記結果から明らかなように、中間焼鈍温度の高い比較例に比し、この発明の適合例は極めて優れる磁気特性を示している。
【0088】
実施例2
表4に示す種々の成分組成になるけい素鋼スラブを1430℃の温度に加熱後、板厚:50mmのシートバーに1250℃の温度で粗圧延したのち、仕上げ圧延し、記号VII およびXの鋼については1000℃の仕上げ圧延終了温度で、その他の鋼については1030℃の仕上げ圧延終了温度でそれぞれ板厚:2.6 mmとし、その後ジェット水を噴射して35℃/sの冷却速度で冷却し550 ℃の温度でコイルに巻取り熱延板とした。
【0089】
【表4】
【0090】
さらに、これらの熱延板を酸洗し、板厚:1.8 mmに冷間圧延後、15℃/sの昇温速度で1080℃の温度まで昇温し露点:50℃のH2 雰囲気中で50秒間保持する中間処理を施したのち、230 ℃の鋼板温度での温間圧延によりそれぞれ最終冷延板厚:0.26mmの冷延板とした。
【0091】
これらの冷延板を脱脂処理し、850 ℃・2分間の脱炭・1次再結晶焼鈍を施したのち、0.35%のCaと0.07%のBを含有するMgO に5%のTiO2、2%のSr(OH)2 および2%のSnO2を添加した焼鈍分離剤を塗布してコイル状に巻取ってから、最終仕上げ焼鈍として、N2 雰囲気中で850 ℃の温度まで30℃/hの昇温速度で昇温し850 ℃の温度で25時間保持後、N2 :25%、H2 :75%の混合雰囲気中で1200℃の温度まで昇温速度:15℃/hで昇温し、H2 雰囲気中でこの温度に5時間保持したのち降温する処理をそれぞれ施した。
【0092】
その後、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカを含有する張力コーティングを塗布し焼付けてそれぞれ製品とした。
これらの製品について調査した磁気特性の測定結果を表5にまとめて示す。
【0093】
【表5】
【0094】
表5から明らかなように、Al、S+SeあるいはNの含有量がこの発明の限定範囲を外れる比較例に比し、この発明の適合例はいずれも良好な磁気特性を示している。
【0095】
実施例3
C:0.075 %、Si:3.35%、Mn:0.07%、Al:0.022 %、S:0.004 %、Sb:0.02%およびN:0.0075%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成のけい素鋼スラブ(a)、
C:0.073 %、Si:3.36%、Mn:0.07%、Al:0.024 %、S:0.002 %、Sb:0.02%およびN:0.0082%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成のけい素鋼スラブ(b)、
C:0.080 %、Si:3.52%、Mn:0.07%、Al:0.030 %、S:0.008 %、Sb:0.02%およびN:0.0075%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成のけい素鋼スラブ(c)および
C:0.073 %、Si:3.05%、Mn:0.07%、Al:0.018 %、S:0.004 %、Sb:0.02%およびN:0.0075%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成のけい素鋼スラブ(d)の4種類の、それぞれ各2本づつを1380℃の温度に加熱後、板厚:35mmのシートバーに粗圧延し、仕上げ圧延で、圧延終了温度を985 ℃と1090℃との2種類に変化させ板厚:2.2 mmとしたのち、ジェット水を噴射し45℃/sの冷却速度で急冷して570 ℃の温度でコイルに巻取りそれぞれ熱延板とした。
【0096】
これらの熱延板にそれぞれ15℃/sの昇温速度で1100℃まで昇温し30秒間保持する熱延板焼鈍を施したのち、酸洗し、中間板厚:1.5 mmとする冷間圧延後、中間焼鈍を施した。
【0097】
この中間焼鈍では、1090℃の温度で60秒間保持したのち、ミスト水を噴射して40℃/sの冷却速度で急冷後350 ℃の温度で30秒間保持するカーバイトの析出処理を行った。
【0098】
その後、各鋼板はゼンジマー圧延機によって120 〜230 ℃の温度範囲のパス間時効処理を施しながら、それぞれ最終冷延板厚:0.22mmに圧延した。
【0099】
これらの冷延板を脱脂処理し、磁区細分化処理として50μm の幅で深さ20μm の溝を、鋼板幅方向から15度の角度の線状に鋼板長手方向に4mmのピッチで設けたのち、850 ℃・2分間の脱炭・1次再結晶焼鈍を施し、0.22%のCaおよび0.08%のBを含有するMgO に7.5 %のTiO2および3%のSnO2を添加した焼鈍分離剤を塗布しコイルに巻取ってから、最終仕上げ焼鈍として、N2 雰囲気中で850 ℃の温度まで30℃/hの昇温速度で昇温し850 ℃の温度で25時間保持後、N2 :25%、H2 :75%の混合雰囲気中で1150℃の温度まで昇温速度:15℃/hで昇温し、H2 雰囲気中でこの温度に5時間保持したのち降温する処理をそれぞれ施した。
【0100】
その後、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、50%のコロイダルシリカを含有する張力コーティングを塗布し焼付けてそれぞれ製品とした。
これらの製品について調査した磁気特性の測定結果を表6にまとめて示す。
【0101】
【表6】
【0102】
表6から明らかなように、S含有量が0.003 %を超え、かつ熱間仕上げ圧延終了温度(T)が 610+40X+Y≦T≦750 +40X+Yを満足するこの発明の適合例については、いずれも極めて低い鉄損の値を示している。
【0103】
実施例4
前掲表4に示した記号VII の成分組成になるスラブ10本を、それぞれ1400℃の温度に加熱後、板厚:50mmのシートバーに粗圧延したのち、圧延終了温度:1060℃、板厚:2.7 mmとする仕上げ圧延を施し、その後ジェット水を噴射して40℃/sの冷却速度で急冷し600 ℃の温度でコイルに巻取りそれぞれ熱延板とした。
【0104】
これらの熱延板に17℃/sの昇温速度で1100℃の温度まで昇温し60秒間保持する熱延板焼鈍を施したのち、酸洗し、最終冷延板厚:0.30mmとする冷間圧延後、脱脂処理を施し、850 ℃・2分間の脱炭・1次再結晶焼鈍をそれぞれ施した。
【0105】
その後、前掲表2に示した焼鈍分離剤をそれぞれ塗布したのち、最終仕上げ焼鈍は、400 ℃の温度まではN2 雰囲気中で昇温しその後は最終の保持温度を1200℃とした以外は表2に示した雰囲気中でそれぞれ処理した。その際のヒートパターンは1200℃の温度まで25℃/sの昇温速度で昇温し、この温度で8時間保持したのち降温した。
【0106】
最終仕上げ焼鈍後は、未反応焼鈍分離剤を除去したのち、60%のコロイダルシリカを含有するりん酸アルミニウムを塗布し800 ℃の温度で焼付けたのち、磁区細分化処理としてプラズマジェットを7mmピッチで線状に照射しそれぞれ製品とした。
これらの製品について調査した磁気特性の測定結果を表7にまとめて示す。
【0107】
【表7】
【0108】
表7から明らかなように、この発明の適合例はいずれも極めて低い鉄損を示している。
【0109】
【発明の効果】
この発明は、成分組成を限定した素材を用い、熱間圧延条件、熱延板焼鈍条件および中間焼鈍条件を特定して冷間圧延前焼鈍でAlN の析出核を微細に析出させ、さらに焼鈍分離剤の組成などその他製造条件を特定して方向性電磁鋼板を製造するものであり、
この発明によれば、鉄損の極めて低い高磁束密度方向性けい素鋼板を製造することができ、近年の鉄心材料の低鉄損化要請に有利に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】製品の結晶方位の集積度(B8 /Bs ) に及ぼす素材のSiおよびAl含有量ならびに熱間圧延終了温度の影響を示すグラフである。
Claims (5)
- C:0.025 〜0.095 wt%、Si:1.5 〜7.0 wt%、Mn:0.03〜2.5wt%、SもしくはSeのうちの1種または2種の合計:0.003 〜0.040 wt%、Al:0.010 〜0.030 wt%およびN:0.003 〜0.010 wt%を含有し残部Feおよび不可避的不純物よりなる、けい素鋼スラブを素材として、該スラブを1350℃以上の温度に加熱し、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施してから1回冷間圧延法または中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法により冷間圧延し最終冷延板厚とするか、もしくは、熱間圧延後、中間焼鈍を挟む2回冷間圧延法により冷間圧延し最終冷延板厚としたのち、1次再結晶焼鈍を施し、その後、焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程により方向性電磁鋼板を製造するにあたり、
仕上げ圧延圧下率を85〜99%の範囲とし、仕上げ圧延終了温度を950 〜1150℃の範囲でかつ素材のSi含有量およびAl含有量との関係から下記式(1)を満たす温度範囲とする熱間圧延を行うこと、
熱間圧延終了後20℃/s以上の冷却速度で急冷して670 ℃以下の温度でコイルに巻取ること、
熱延板焼鈍および中間焼鈍をともに、800 ℃の温度まで5〜25℃/sの範囲の昇温速度で昇温し、900 〜1125℃の温度域で保持時間を150 秒間以下とする条件で行うこと、
冷間圧延を、1回冷間圧延法により圧下率:80〜95%の範囲で行い最終冷延板厚とするか、もしくは、2回冷間圧延法により第1回目の圧延を圧下率:15〜60%の範囲で行ったのち、中間焼鈍後第2回目の圧延を圧下率:80〜95%の範囲で行い最終冷延板厚とすること、
TiO2,TiN, MgTiO3 ,FeTiO2, SrTiO3およびTiS のうちから選ばれる1種の化合物または2種以上の混合物:1〜20wt%およびCa:0.01〜3.0 wt%を含有し、MgO を主成分とする焼鈍分離剤を用いること、
最終仕上げ焼鈍の昇温途中の少なくとも900 ℃以上の温度からはH2 を含有する雰囲気中で昇温すること、
との順次組合せになることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
〔記〕
610 +40X+Y≦T≦750 +40X+Y --- (1)
ただし
T:仕上げ圧延終了温度(℃)
X:Si(wt%)
Y:Al(wtppm) - けい素鋼スラブがさらに、Sb,Sn, Bi, Te, Ge, P,Zn, InおよびCrの中から選ばれる1種または2種以上の元素をそれぞれ0.001 〜0.30wt%にて含有する請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終冷間圧延直前の熱延板焼鈍または中間焼鈍時の冷却が、鋼板内固溶C量を高めるための急冷処理である請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終冷間圧延が、90〜350 ℃の温度範囲の温間圧延か、もしくは、100 〜300 ℃の温度範囲で10〜60分間の時間範囲のパス間時効処理を施すものである請求項1、2または3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終冷間圧延前の焼鈍で、0.005 〜0.025 wt%の脱炭を施すことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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