JP4255374B2 - 僧帽弁輪治療具 - Google Patents

Description

本発明は、一般的には、変形した心臓の弁を治療する器具、システムおよび方法に関する。本発明は、より具体的には、回旋枝（ｃｉｒｃｕｍｆｌｅｘ ａｒｔｅｒｙ）の血流を妨げることなく僧帽弁の拡張を矯正するために冠状静脈の中から僧帽弁輪を圧迫あるいは再形成するための器具、システムおよび方法であって、正確な器具の設置および取り換えに効果があるように冠状静脈内でガイド・ワイヤを用いることにより実施される場合がある器具、システムおよび方法に関する。

ヒトの心臓は一般には４個の弁を含む。これらの弁のうち、最も重要なものは僧帽弁として知られている。僧帽弁は、左心房と左心室との間の左心房心室開口部に位置する。僧帽弁は、左心室が収縮するときに、左心室から左心房への血液の逆流を阻止するためのものである。血液の逆流を阻止するために、僧帽弁は、左心室が収縮する際のかなりの背圧に耐えることができなければならない。

僧帽弁の尖は、該尖を左心室収縮の間支持するために、精巧だが強靱な索によって心臓の筋肉壁に固定されている。健康な僧帽弁では、僧帽弁の形態が、左心室収縮の際の血液の逆流が起こらないように尖が互いに重なることを保証する。

逆流を阻止する僧帽弁の正常な機能は、疾患またはある種の自然な欠陥によって発生する拡張性心筋症によって障害されることがある。例えば、ある種の疾患は、僧帽弁輪の拡張を起こすことがある。これは、僧帽弁の形態の変形につながり、左心室収縮の際に僧帽弁の非効果的な閉鎖を引き起こす。かかる非効果的な閉鎖は、僧帽弁を通じる漏れと逆流とにつながる。心臓の細菌性炎症または心不全が、上記の僧帽弁輪の歪みまたは拡張を引き起こすことがある。言うまでもなく、僧帽弁閉鎖不全は、矯正することなしに済ませるわけにはいかない。

機能障害を有する僧帽弁を修復する１つの方法は、前記弁を完全に交換することである。この方法は、尖の１つが著しく損傷し、あるいは、変形したときに僧帽弁を交換するのに特に適していることがわかった。弁全体の交換は、拡張した僧帽弁輪に伴う直接的な問題を除去するが、現在入手可能な心臓の人工弁には天然の心臓の弁と同じ耐久性はない。

さまざまな他の外科的手順が、僧帽弁輪の変形を矯正し、無傷で自然な心臓の弁の機能を保持するために開発されてきた。これらの外科的技術は、拡張または変形した弁輪の形状を修復することを伴う。一般に弁輪形成術として知られるかかる技術は、前記弁輪を外科的に拘束して、拡張を最小限にする。弁輪を再形成し、僧帽弁の開閉の際に弁の動きを拘束するために、プロテーゼが弁の葉状部のほぼ基部に縫合されるのが典型的である。

多くの異なるタイプのプロテーゼがかかる外科用に開発されてきた。一般に、プロテーゼは、弁輪の基部の周りに適合する、環状または部分的に環状の形をした部材である。前記環状または部分的に環状の形をした部材は、金属のような剛直な材料か、あるいは、可撓性の材料かでできている場合がある。

上記の従来技術の方法は、僧帽弁閉鎖不全の治療にある程度成功したが、課題と、望ましくない結果に終わる可能性とがないわけではなかった。例えば、これらの手順は心臓を切開する手術を要する。このような手順は、高額の費用がかかり、かなりの回復時間を要する非常に侵襲的なものであり、かかる手順に伴う付随的な死のリスクがある。これらの因子を考慮して、かかる手順は、最後の手段としてとっておかれることがしばしばあり、そのため、僧帽弁閉鎖不全の病状進行の後期に適用される。さらに、かかる手順の有効性は、術中に評価することは困難で、術後かなり後までわからない場合もある。そのため、最適な効果を得るためにプロテーゼを調整し、あるいは、プロテーゼを変化させる能力は非常に制約される。後からの矯正は、行われるとしても、新たな心臓切開手術を要する。

心臓切開手術をしないで僧帽弁閉鎖不全を治療するための改良された治療法が最近提案された。これは、心臓の冠状静脈が、僧帽弁輪の近傍にあるか、少なくとも部分的には僧帽弁輪を取り囲んでいて、大心静脈を含む静脈系に伸びることの認識によって可能になった。ここで用いられる「冠状静脈」という用語は、前記冠状静脈そのものを指すだけではなく、これに加えて、前記大心静脈を含む冠状静脈と関連する静脈系をも指す。前記治療法は、僧帽弁輪の形状を再形成して有利な効果を与えるために冠状静脈の中に導入される器具を使用するものである。

前記装置は、心臓の冠状静脈中に受け入れられる断面寸法と、前記冠状静脈中に配置されるとき応力がかからない弓状の形状を有する長手方向寸法とを有する。前記器具は僧帽弁を部分的に取り囲み、前記僧帽弁に内向きの圧力を加える。前記内向きの圧力が、僧帽弁の形態を実質的に回復させるために、僧帽弁輪か、あるいは僧帽弁輪の少なくとも一部を圧迫する。この手順は有効な弁の閉鎖作用を促進し、僧帽弁の閉鎖不全を除去する。

前記装置は、ペースメーカーのリードのような心臓のリードを埋め込むために用いられる技術と同様の経皮的技術だけを用いて冠状静脈中に埋め込まれる場合がある。前記器具を埋め込むための１つの提案されたシステムは、前記器具と着脱可能に連結するように形作られた細長いイントロデューサを含む。前記イントロデューサは、前記器具を心臓の中の冠状静脈口を通って冠状静脈中に移動させることができるように可撓性であることが好ましい。誘導を促進するために、細長いシース（ｓｈｅａｔｈ）が冠状静脈の中に最初に進入させられる。それから、前記器具とイントロデューサとは、該器具が冠状静脈の中に配置されるまで、前記シースの内腔を通って移動させられる。前記器具は、弾性材料でできているため、前記シースを通って前進する際に前記内腔の湾曲に合わせる。それから前記シースは、前記器具が応力のかからない弓形の形状をとることができるように部分的に抜き出される。いったん前記器具が適当に配置されると、前記イントロデューサは前記器具から脱離して、前記シースに格納される。その後、前記シースの取り出しにより手順は完了する。結果として、前記器具は冠状静脈の中に留置され、僧帽弁の形態を回復するために僧帽弁に内向きの圧力を加える。

上記の治療法は、従来の心臓切開外科手術のアプローチより多くの利点がある。前記装置、システムおよび方法は比較的非侵襲的な手順に用いられるため、僧帽弁閉鎖不全は、前記装置、システムおよび方法で僧帽弁閉鎖不全の病状進行の初期に治療することができる。前記装置は、いかなる非侵襲的な心臓専門医によっても比較的容易に設置できる。心臓は前記手順の間中完全に無傷のままに保たれるため、前記手順の有効性は容易に検定することができる。調整が望ましいと思われる場合には、かかる調整は患者が回復室に送られる前に実行される。

残念なことには、人体の解剖学的構造は複数の課題をこの最近提案された僧帽弁閉鎖不全の処置の手順に与えている。より具体的には、ヒトの心臓は大動脈の下流にある冠状動脈を含む。冠状動脈の１つの分枝は回旋枝（ｃｉｒｃｕｍｆｌｅｘ ａｒｔｅｒｙ）で、回旋枝は回旋枝の左縁枝（ｌｅｆｔ ｍａｒｇｉｎａｌ ｂｒａｎｃｈ）を含む。ここで用いられる「回旋枝」という用語は、回旋枝そのものあるいはこれから生じるいかなる分枝をも含む意味である。回旋枝はほぼ冠状静脈に沿って遠位に伸びるが、冠状動脈より近位側の場所で冠状静脈の下をくぐる。回旋枝は心臓の生存に重要な血流を支える。そこで、この血流の減少は避けなければならない。その結果、冠状静脈の中に配置された器具は、回旋枝の狭窄を避けるために、回旋枝と冠状静脈との交差点の先の冠状静脈の中に伸びることはあってはならない。これは回旋枝と冠状静脈との交差点の位置を知る必要があることを意味し、前記器具が回旋枝に伸びないことを保証するために、冠状静脈の中の前記器具を正確に位置決めすることを意味する。

上記の課題は、ヒトの心臓の解剖学的構造、とりわけ僧帽弁の病状は患者ごとに異なるという事実によってさらにこじれている。そのため、最初の治療器具の設置の後、該最初の器具の有効性を検定しなければならない。異なる特性または形状を有する別の器具のほうがより有効性が高い場合には、前記最初の器具を簡単に除去して、回旋枝と冠状静脈との交差点を避けるために同じ設置精度で前記別の器具を設置する方法が提供されなければならない。

本発明はこれらの課題を解決する。本発明は、最初の器具または如何なる取り換え用の器具を冠状静脈の中に正確に設置することができることにより回旋枝と冠状静脈との交差を避けることが可能になる治療のシステムおよび手順を提供する。この目標に加えて、本発明は、回旋枝と冠状静脈との交差点を簡単に位置決定し、所望の場合には、本治療法の術中に連続観察することを可能にする。さらに、本発明は、冠状静脈の中で回旋枝を通り越すにもかかわらず、回旋枝の狭窄を避けるように形作られている僧帽弁治療器具を提供することを意図している。

本発明は、心臓の僧帽弁輪の病状に効果がある装置を提供する。該装置はガイド・ワイヤと僧帽弁輪治療器具とを含み、前記ガイド・ワイヤは心臓の冠状静脈の中に挿入されるように形作られ、前記僧帽弁輪治療器具は、前記ガイド・ワイヤを滑動可能に受け入れて前記ガイド・ワイヤ上で心臓の冠状静脈の中に前進するように形作られている。

前記装置は、前記器具より近位側のガイド・ワイヤを滑動して受け入れるように形作られている細長いイントロデューサを含む場合がある。前記イントロデューサは前記器具を冠状静脈の中に設置する間該器具に脱着可能に固定される場合がある。前記装置は、前記器具およびイントロデューサが前記ガイド・ワイヤを滑動して受け入れるとき、前記ガイド・ワイヤ、器具およびイントロデューサを受け入れるための寸法の内腔を有するガイド・チューブを含む場合がある。

前記装置は、Ｘ線透視検査で視認可能で回旋枝の中に進入できる細長い可撓性の部材を含む場合がある。前記ガイド・ワイヤはＸ線透視検査で視認可能であるために、Ｘ線透視検査で回旋枝と冠状静脈との交差点がわかる場合がある。

さらに本発明は、心臓の僧帽弁輪の病状に効果がある僧帽弁輪再形成用の僧帽弁輪器具を提供する。該器具は弾性部材を含み、該弾性部材は、心臓の冠状静脈の中に受け入れられる断面寸法を有し、僧帽弁輪の少なくとも一部を再形成するために前記器具が僧帽弁に隣接する冠状静脈の中に設置されるとき、部分的に僧帽弁を取り囲み僧帽弁に内向きの圧力を加えるために、弓状の形状を有する長手方向の寸法とを有する。前記器具は、回旋枝と冠状静脈との交差点で回旋枝に圧力を加えることを避けるため、屈曲部を有する遠位端を含む。

さらに本発明は、僧帽弁に隣接する心臓の冠状静脈の中に留置されるときに実質的に半径方向で内向きの力を僧帽弁輪に加えるために、弾性材料でできたほぼＣ字形のクリップ部材を含む僧帽弁輪治療器具を提供する。前記器具は、回旋枝と冠状静脈との交差点で回旋枝に圧力を加えることを避けるため、屈曲部を有する遠位端を有する。

さらに本発明は、回旋枝と冠状静脈との交差点を位置決定する方法を提供する。前記方法は、Ｘ線透視検査で視認可能な第１の細長い可撓性のロッドを冠状静脈の中に挿入するステップと、Ｘ線透視検査で視認可能な第２の細長い可撓性のロッドを回旋枝に挿入するステップと、心臓をＸ線透視検査に供して第１のロッドと第２のロッドとの交差点を位置決定するステップとを含む。

さらに本発明は、僧帽弁輪再形成治療具を心臓の冠状静脈内に設置する方法を提供する。該方法は、心臓の冠状静脈の中にガイド・ワイヤを挿入するステップと、細長い僧帽弁輪圧迫治療具を冠状静脈内で該治療具が心臓の僧帽弁を少なくとも部分的に取り囲む位置まで前記ガイド・ワイヤ上を前進させるステップとを含む。

前記前進させるステップは、前記治療具より近位側の前記ガイド・ワイヤ上に細長い可撓性のイントロデューサを滑動するように取り付けるステップと、前記イントロデューサの遠位端を前記治療具の近位端に係合させるステップと、前記イントロデューサを用いて前記治療具を冠状静脈の中に遠位方向に押すステップとを含む。前記治療具が冠状静脈内に設置された後、前記イントロデューサは抜き出される。

前記治療具の設置の間、前記イントロデューサは前記治療具に脱着可能に固定される場合がある。設置の後で前記イントロデューサが抜き出される前に前記イントロデューサは前記治療具から脱離される場合がある。

前記方法は、前記ガイド・ワイヤの断面寸法より大きい断面寸法の内腔を有する細長い可撓性のガイド・チューブを用意するステップと、該ガイド・チューブの内腔に前記ガイド・ワイヤがある状態で、前記ガイド・ワイヤ上で前記ガイド・チューブを心臓の冠状静脈の中に挿入するステップとを含む場合がある。その後前記治療具は、前記ガイド・チューブの中を前記ガイド・ワイヤに沿って押される場合がある。

さらに本発明は、心臓の冠状静脈内に僧帽弁輪治療具を設置する方法を提供する。前記方法は、Ｘ線透視検査で視認可能な第１のワイヤを心臓の回旋枝の中に挿入するステップと、Ｘ線透視検査で視認可能な第２のワイヤを心臓の冠状静脈の中に挿入するステップと、心臓をＸ線透視検査に供して第１のワイヤと第２のワイヤとの交差点を視認可能にするステップと、細長い僧帽弁輪治療具を該治療具の遠位端が前記第１のワイヤと第２のワイヤとの交差点より近位側にある位置で冠状静脈内に設置するステップとを含む。設置の際、前記治療具は第２のワイヤによって冠状静脈内に誘導されることが好ましい。

さらに前記方法は、細長い可撓性のイントロデューサを前記治療具より近位側で第２のワイヤ上に滑動するように取り付けるステップと、前記イントロデューサの遠位端を前記治療具の近位端に係合させるステップと、前記イントロデューサを用いて前記治療具を冠状静脈の中へ遠位方向に押すステップとを含む場合がある。設置の間、前記イントロデューサは前記治療具に脱着可能に固定される場合がある。設置の後、前記イントロデューサは前記治療具から脱離されて抜き出される場合がある。

さらに前記方法は、第２のワイヤの断面寸法より大きい断面寸法の内腔の細長い可撓性のガイド・チューブであって、Ｘ線透視検査で透明なガイド・チューブを用意するステップと、第２のワイヤが前記ガイド・チューブの内腔にある状態で第２のワイヤ上の前記ガイド・チューブを心臓の冠状静脈内に挿入するステップとを含む場合がある。前記治療具は、冠状静脈内の所望の位置に達するまで前記ガイド・チューブ内で前記イントロデューサによって第２のワイヤに沿って押される場合がある。

さらに本発明は、心臓の僧帽弁輪を再形成するために、心臓の冠状静脈内に圧迫治療具を設置する方法を提供する。前記方法は、断面寸法を有する細長い可撓性のガイド・ワイヤを用意するステップと、該ガイド・ワイヤを心臓の冠状静脈内に挿入するステップと、前記ガイド・ワイヤの断面寸法より大きな断面寸法の内腔を有する細長い可撓性のガイド・チューブを用意するステップと、前記ガイド・ワイヤが前記ガイド・チューブの内腔にある状態で、前記ガイド・ワイヤ上で前記ガイド・チューブを心臓の冠状静脈内に挿入するステップとを含む。

さらに前記方法は、前記ガイド・チューブの内腔にあって、前記ガイド・ワイヤを滑動して受け入れるように形作られ、近位端を含む僧帽弁輪圧迫治療具を用意するステップと、前記ガイド・チューブの内腔にあって、前記ガイド・ワイヤを滑動して受け入れるように形作られ、遠位端を有する可撓性の細長いイントロデューサを用意するステップと、前記治療具を前記ガイド・ワイヤ上に配置するステップとを含む。

さらに前記方法は、前記ガイド・ワイヤ上に前記イントロデューサを配置するステップと、前記イントロデューサの遠位端を前記治療具の近位端に係合されるステップと、前記治療具が心臓の冠状静脈内で僧帽弁を少なくとも部分的に取り囲むまで前記ガイド・チューブ内で前記ガイド・ワイヤに沿って遠位方向に前記イントロデューサを用いて前記治療具を押すステップと、心臓から前記イントロデューサと前記ガイド・チューブとを抜き出すステップとを含む。

前記治療具の設置の際、前記イントロデューサは前記治療具に脱着可能に固定される場合がある。設置の後で前記イントロデューサが抜き出される前に、前記イントロデューサは前記治療具から脱離される場合がある。その後前記治療具の有効性が検定される場合がある。

取り換え用の治療具が必要な場合には、前記治療具を取り換え用治療具と取り換えるためのさらなるステップが実行される場合がある。前記ステップは、前記ガイド・ワイヤと前記治療具との上の前記ガイド・チューブを心臓の冠状静脈内に挿入するステップと、前記イントロデューサを前記ガイド・ワイヤの上から前記ガイド・チューブ内に挿入するステップと、前記イントロデューサの遠位端を前記治療具の近位端に脱着可能に固定するステップと、前記イントロデューサおよび治療具を近位方向に前記ガイド・チューブから抜き出すステップとを含む場合がある。前記治療具が除去されたとき、取り換え用治療具が最初の治療具が設置されたのと同じやり方で設置される場合がある。

新規性があると信じられる本発明の特徴は特許請求の範囲において個別に列挙される。本発明は、そのさらなる面および有利な点とともに、添付図面と関連させて以下の詳細な説明を参照することにより最も良く理解できる場合があり、複数の図面で同一の参照番号は同一の要素を特定する。

図１を参照して、図１は、本発明をより良く理解するために、心臓１０の僧帽弁１２、冠状静脈１４、冠状動脈１５および回旋枝１７を露出するべく心房を除去した、ヒトの心臓１０の上面図である。図１に一般的に示されるのは、心臓１０の肺動脈弁２２、大動脈弁２４および三尖弁２６である。

僧帽弁１２は、前尖１６、後尖１８および僧帽弁輪２０を含む。前記輪は、尖１６および１８を取り囲み、左心室収縮の間完全な閉鎖を提供するために、これらの間隔を保持する。周知のとおり、冠状静脈１４は、僧帽弁輪２０に隣接する僧帽弁１２を部分的に取り囲む。同じく周知のとおり、冠状静脈は心臓の静脈系の一部であり、左心房と左心室の間の房室間溝（ＡＶ ｇｒｏｏｖｅ）に沿って伸びる。これは、冠状静脈を実質的に僧帽弁輪と同じ平面上に配置し、本発明の僧帽弁治療具を内部に設置するために冠状静脈が利用できるようにする。

特に重要なのは冠状静脈１４と回旋枝１７との生理学的な関係である。回旋枝１７は冠状動脈１５から分枝して心臓１０の重要な組織に血流を供給する。回旋枝は交差点１９で冠状静脈１４の下を通る。僧帽弁治療具が冠状静脈１４内に配置されるときに回旋枝１７を通る血流の減少を避けることが本発明の１つの面である。

図２は、本発明の実施態様の僧帽弁治療具３０を示す。図２からわかるとおり、前記治療具は、冠状静脈１４の中に埋め込まれるときに僧帽弁輪２０に隣接する僧帽弁１２を少なくとも部分的に取り囲むために、細長く弓状の形をしている。治療具３０は、応力が加えられない予め記憶された形状の弧の半径が、拡張した僧帽弁輪２０の半径よりも小さい。このため治療具３０は、心臓の冠状静脈内に埋め込まれるとき、僧帽弁輪を圧迫して、矢印３２で示されるほぼ半径方向内向きの力を僧帽弁輪２０に加える。この力が僧帽弁輪２０を再形成し、原状、あるいは、ほぼ原状の形態に復帰させ、左心室収縮の間左心房を密封するため、尖１６および１８がより完全に接することを可能にする。

治療具３０は冠状静脈に受け入れられる断面寸法を有する。治療具３０は、冠状静脈中に進入するために真っ直ぐになることおよび／または曲がることができるように、弾性材料でできていることが好ましい。冠状静脈の中に配置された後、前記治療具は、上記のとおり僧帽弁輪に作用するために、予め記憶された弓状の形をとることができる。そのため、前記治療具は、例えば、当業者に周知のニチノール（ｎｉｔｉｎｏｌ）というニッケルチタン合金でできている場合がある。周知のとおり、この材料は、形状を記憶させることができ、その記憶した形状に復帰するために十分な記憶を有しつつ、真っ直ぐにしたり、部分的に曲げたりするように操作することができる。ステンレス鋼も治療具３０を製作するのに用いることができる材料に含まれる。冠状静脈中に受け入れられるために、前記治療具は、例えば、４フレンチまたは５フレンチのオーダーの断面寸法を有する場合がある。

図２を参照して、治療具３０は遠位端３４と近位端３６とを有する。前記治療具は、遠位端３４と近位端３６との間に、遠位端３４を通って伸びる穿孔４０と近位端３６を通って伸びる穿孔４２とに対し同一直線上に配置される溝３８を含む。近位端３６は、突出する固定ピン４６を有する組み込みスリーブ４４を含む。以下に示すとおり穿孔４０および４２は、治療具３０の設置の際に該治療具が滑動してガイド・ワイヤを受け入れることを可能にする。設置の際には、前記ガイド・ワイヤは溝３８の中に収容される。

図３および４は僧帽弁治療具３０の留置または埋め込みを行うための装置５０を示す。装置５０は、ガイド・ワイヤ５２と、ガイド・チューブ５４と、細長いイントロデューサ５６とを含む。

ガイド・ワイヤ５２は細長いコイルであることが好ましい。ガイド・ワイヤ５２は、治療具３０の穿孔４０および４２を貫通することができる外側寸法を有する。これは、治療具３０の溝３８の中に収容された状態のガイド・ワイヤ５２の上を治療具３０が滑動してガイド・ワイヤ５２を受け入れることを可能にする。

ガイド・チューブ５４は細長く、可撓性で生体親和性の材料でできている。ガイド・チューブ５４は、治療具３０とイントロデューサ５６とを内部に受け入れることができる内腔５５を含む。

イントロデューサ５６は、ガイド・ワイヤ５２を受け入れガイド・ワイヤ５２の上を滑動するような寸法の内部の溝を有する細長いコイルの形状をとることが好ましい。遠位端５８で前記イントロデューサは、前記治療具３０のスリーブ４４を受け入れる場合があるスリーブ６０を含む。前記イントロデューサスリーブ６０は、治療具３０のピン４６を脱着可能に受け入れるための移動止めスロット６２を含む。これは前記治療具の設置の際にイントロデューサ５６を治療具３０と脱着可能に固定することを可能にする。またこれは、別の治療具と交換するために治療具３０を除去する必要がある場合に、前記イントロデューサを治療具３０と再固定することを可能にする。

上記のとおり、回旋枝１７は冠状静脈１４の下を通る。治療具３０が設置されるとき、冠状静脈から回旋枝に対して力が加えられることは許されるべきではない。そこで本発明の１の実施態様によると、前記治療具は、回旋枝と冠状静脈との交差点より近位側となる位置で治療具３０の遠位端３４が冠状静脈の中に埋め込まれる。これは、前記交差点の決定を要する。図５および６は、かかる決定が本発明によってどのように行われるかを示す。

細長いワイヤまたはコイル７０のような第１の細長い部材が回旋枝１７の中に挿入される。ワイヤ７０はＸ線透視検査で視認可能な材料でできているか、あるいは、Ｘ線透視検査で視認可能なコーティングを施されたその他の材料でできている場合がある。つぎに、ガイド・ワイヤ５２であってもよい第２のワイヤが、冠状静脈洞口１３から冠状静脈１４に挿入される。ガイド・ワイヤ５２はＸ線透視検査で視認可能な材料でできているか、あるいは、Ｘ線透視検査で視認可能なコーティングを施された別の材料でできていることが好ましい。ワイヤ５２および７０はステンレス鋼でできた細長いコイルであることが好ましい。

心臓１０か、あるいは、少なくとも回旋枝が冠状静脈の下を通る心臓１０の一部かがＸ線透視検査に供される。Ｘ線透視検査は当業者に周知である。よって、ワイヤ５２および７０が交差し、回旋枝と冠状静脈とが交差する交差点１９は、Ｘ線透視検査によって容易に観察できるであろう。Ｘ線透視検査は、治療具３０が冠状静脈の中に配置されるときに治療具３０の遠位端３４より遠位側にあるべき交差点１９の位置を決定する。

いったん交差点１９が決定されると、治療具３０を設置してもよい。前記治療具を設置する間、第１のワイヤ７０は、連続的なＸ線透視検査か事後のＸ線透視検査かが適切な治療具の配置を確認することを可能にするように、回旋枝に配置されたままである場合がある。

図７は、どのように装置５０が治療具３０を埋め込むのに用いられるかを示す。ここではガイド・ワイヤ５２は、回旋枝と冠状静脈との交差点の決定を支援するためにすでに冠状静脈１４の中に配置されているものとする。上記のとおり、ワイヤ７０もこの時点で心臓内部に配置されている場合がある。

つぎに、ガイド・チューブ５４が心臓内に進入する。前記ガイド・チューブはガイド・ワイヤ５２の上を前進する。すなわち、前記ガイド・ワイヤはガイド・チューブ５４を前記治療具が埋め込まれるべき冠状静脈内に誘導する。

ガイド・チューブ５４が冠状静脈内で位置決めされるとき、治療具３０およびイントロデューサ５６はガイド・ワイヤ５２の上を通ってガイド・チューブ５４の中に前進する。最初イントロデューサ５６の遠位端５８は、イントロデューサ５６のスリーブ６０を治療具３０のスリーブ４４の上を通って前進させ、固定ピン４６を移動止め固定溝６２に挿入することによって、治療具３０の近位端３６に脱着可能に固定される（図３および４）。

イントロデューサ５６の遠位端が治療具３０の近位端と係合した状態で、前記治療具は、ガイド・ワイヤ５２とガイド・チューブ５４との両方により誘導されて、イントロデューサ５６に押されて冠状静脈１４内に挿入される。

前記治療具が、その遠位端が交差点１９より近位側にある状態で冠状静脈１４内に定位され、その位置がＸ線透視検査で確認されるとき、前記イントロデューサは除去される。これは、前記イントロデューサを回転させてピン４６を固定解除し、前記イントロデューサを前記ガイド・チューブから抜き出すことにより達成される。それから、ガイド・チューブ５４は、前記治療具はガイド・ワイヤ５２の上に設置されたままで、抜き出される場合がある。この時点で治療具３０の性能を評価する場合がある。異なる特性の別の治療具がより適切であると判断される場合には、前記治療具は簡単に取り換えることができる。これは、前記ガイド・チューブを前記治療具に再挿入し、前記イントロデューサを再挿入し、前記イントロデューサを前記治療具に固定し、前記イントロデューサを用いて前記治療具を前記ガイド・チューブを通って除去することによって達成される。その後新しい治療具が前記のとおり設置される場合がある。

いったん上記の手順の要求を満たす治療具が設置されると、ガイド・ワイヤ５２と、まだ心臓内に入ったままの場合にはワイヤ７０とは除去することができる。これにより治療具３０は図８に示されるとおりの適切な位置に留置される。ここで治療具３０は僧帽弁輪に隣接する冠状静脈１４内で部分的に僧帽弁１２を取り囲むことが理解できるであろう。治療具３０遠位端３４は交差点１９より近位側にある。前記治療具の近位端３６は冠状静脈洞口１３を通って右心房から少し突出する（図示されない）。前記治療具の除去がその後必要と判断される場合、スリーブ４４およびピン４６はそのまま残っている。

図９は、本発明の実施態様の別の僧帽弁治療具１３０を示す。図９からわかるとおり、前記治療具は細長く、冠状静脈１４内に埋め込まれるとき僧帽弁輪２０に隣接する僧帽弁１２を少なくとも部分的に取り囲むように弓状の形状を有する。治療具１３０は、応力が加えられない予め記憶された形状の弧の半径が、拡張した僧帽弁輪２０の半径より小さいので、図示されたように心臓の冠状静脈内に埋め込まれるとき、内向きのほぼ半径方向の力を加える。この力は僧帽弁輪２０を、原状、あるいは、ほぼ原状の形態に復帰させ、左心室収縮の間左心房を密封するため、尖１６および１８がより完全に接することを可能にする。

治療具１３０は冠状静脈に受け入れられる断面寸法を有する。冠状静脈中に進入するために真っ直ぐになることおよび／または曲がることができるように、弾性材料でできていることが好ましい。冠状静脈の中に配置された後、前記治療具は、上記のとおり僧帽弁輪に作用するために、予め記憶された弓状の形をとることができる。そのため、前記治療具は、例えば、当業者に周知のニチノール（ｎｉｔｉｎｏｌ）というニッケルチタン合金でできている場合がある。

治療具１３０は、遠位端１３４と近位端１３６とを有する。遠位端１３４と近位端１３６との間に前記治療具は、遠位端１３４を通って伸びる穿孔１４０と近位端１３６を通って伸びる穿孔１４２と同一直線上に配置される溝１３８を含む。近位端１３６は、突出する固定ピン１４６を有する組み込みスリーブ１４４を含む。穿孔１４０および１４２は、治療具１３０の設置の際に、前記治療具が前記ガイド・ワイヤを滑動して受け入れることを可能にする。設置の際、前記ガイドワイヤは溝１３８の中に収容される。

治療具１３０は、遠位端１３４に屈曲部５０を含む。下記のとおり、遠位端１３４は回旋枝１７および冠状静脈１４の交差点１９を超えた先に位置する。しかし屈曲部１５０のため、前記治療具は交差点１９を超えた先に位置するにもかかわらず回旋枝１７に圧力を加えて圧迫することを免れる。治療具１３０は上記の装置を用いて埋め込まれる場合がある。

図１０は本発明の実施態様の別の僧帽弁輪治療具２３０を示す。図２の治療具３０と同様に、治療具２３０は細長く、冠状静脈１４内に埋め込まれるとき僧帽弁輪２０に隣接する僧帽弁１２を少なくとも部分的に取り囲むように弓状の形状をしている。治療具２３０は、応力がかからない記憶された形状の半径が拡張した僧帽弁輪２０の半径より小さいので、心臓の冠状静脈内に埋め込まれたときに僧帽弁輪２０に内向きのほぼ半径方向の力を僧帽弁輪２０に加えて、原状、あるいは、ほぼ原状の形態に復帰させ、左心室収縮の間左心房を密封するため尖１６および１８がより完全に接することを可能にする。

治療具２３０は冠状静脈に受け入れられる断面寸法を有する。治療具２３０は上記の弾性材料のいずれかでできていることが好ましい。

治療具２３０は遠位端２３４と近位端２３６とを有する。前記治療具は、遠位端２３４と近位端２３６との間に近位端２３６を通って伸びる穿孔２４２と同一直線上に配置される溝２３８を含む。さらに近位端２３６は、突出する固定ピン２４６を有する組み込みスリーブ２４４を含む。穿孔２４２は、治療具２３０の設置の際前記治療具が前記ガイド・ワイヤを滑動して受け入れることを可能にする。設置の際前記ガイド・ワイヤは溝２３８の中に収容される。ガイド・ワイヤ５２とガイド・チューブ５４と細長いイントロデューサ５６とを含む図３および４の装置５０は、治療具２３０の設置のために上記のとおり用いられる場合がある。しかしここで、前記治療具がガイド・チューブ５４の中に収容され、ガイド・ワイヤ５２が溝２３８の中に収容されているため、前記治療具の１つの端だけがガイド・ワイヤ５２を滑動して受け入れる必要がある。

上記からわかるとおり、本発明は、新規で改良された僧帽弁閉鎖不全を治療するための治療具、装置および方法を提供する。本装置は経皮的な技術のみで用いられる場合がある。さらに前記僧帽弁輪治療具は、回旋枝と冠状静脈との交差点を避けるように埋め込むことが可能である。最後に、本治療法の有効性は前記の埋め込み作業の間に迅速に推定され、最適化された結果のために取り換えが可能である。

本発明の具体的な実施態様が示され、説明されたが、改変を行うことはでき、したがって、添付する特許請求の範囲においては、本発明の真の精神と範囲の内に属する全てのかかる変更および改変に及ぶことが意図されている。

心房を除去したヒトの心臓の上面図。 本発明の実施態様の僧帽弁輪圧迫治療具の透視図。 本発明の好ましい実施態様に従う僧帽弁圧迫治療具を設置するための装置の透視図。 図３に記載の装置の別の透視図。 本発明の好ましい実施態様に従う回旋枝と冠状静脈との交差点を決定する方法を示す、図１と同様のヒトの心臓の上面図。 図５の６−６の線に沿う断面図。 本発明の好ましい実施態様に従う僧帽弁輪治療具の設置を示す、ヒトの心臓の別の上面図。 本発明の実施態様である埋め込み型僧帽弁治療具を示すヒトの心臓の上面図。 心臓内に埋め込まれた、本発明の実施態様である本発明の僧帽弁治療装置を示すヒトの心臓の上面図。 本発明の実施態様の別の僧帽弁輪治療具の透視図。

符号の説明

１０ 心臓
１２ 僧帽弁
１４ 冠状静脈
１５ 冠状静脈口
１７ 回旋枝
２０ 僧帽弁輪
３０、１３０、２３０ 僧帽弁治療具
３８、１３８、２３８ 溝
４０、４２、１４０、１４２、２４２ 穿孔
５２ ガイド・ワイヤ
５４ ガイド・チューブ
５６ イントロデューサ
６０ スリーブ

Claims (7)

1. 僧帽弁の周りで僧帽弁に隣接する心臓の冠状静脈洞内に配置されたときに僧帽弁輪に実質的に半径方向で内向きの力を加えるために、応力がかからない状態で弓形形状をなす弾性部材を含む僧帽弁輪治療具であって、
   該治療具はガイド・ワイヤ上を滑動するように前記治療具を取り付けるガイド・ワイヤ受け入れ構造を有し、当該ガイド・ワイヤ受け入れ構造は、ガイド・ワイヤが貫通できるような寸法の筒状の穿孔を含んでいる、僧帽弁輪治療具。
2. 請求項１に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   対向端部を有し、前記ガイド・ワイヤ受け入れ機構が、前記対向端部間に延びているガイド・ワイヤ収容溝を更に含んでいる僧帽弁輪治療具。
3. 請求項２に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   前記ガイド・ワイヤ収容溝が前記穿孔と整合している僧帽弁輪治療具。
4. 請求項１に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   当該治療具をイントロデューサに脱着可能に固定する構造とされた脱着可能な固定機構を更に含んでいる僧帽弁輪治療具。
5. 請求項１に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   前記弾性部材が、当該治療具が冠状静脈洞内へと進入せしめられつつある際に変形形状に変形されるような構造とされている僧帽弁輪治療具。
6. 請求項１に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   前記弾性部材が更に、心臓の冠状静脈内に配置されたときに僧帽弁輪の形状を再形成するために、変形形状から応力がかからない形状へと変化する構造とされている僧帽弁輪治療具。
7. 請求項１に記載の僧帽弁輪治療具であって、
   前記僧帽弁輪が半径を有し、前記応力がかからない形状が前記僧帽弁輪の半径よりも小さい半径を有している、僧帽弁輪治療具。

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