図1は本発明に係る光ピックアップ装置の全体構成を示した図である。
図1に示した如く、光ディスク駆動装置10内に移動自在に設けた本発明に係る光ピックアップ装置20は、波長λ1が450nm以下の第1レーザー光L1により情報信号を基板厚さが薄い信号面1bに超高密度に記録又は再生する第1光記録媒体(例えばBlu−ray Disc)1と、波長λ2が第1レーザー光L1の波長λ1より長く650nm前後の第2レーザー光L2により情報信号を前記した信号面1bよりも基板厚さが厚い信号面2bに高密度に記録又は再生する第2光記録媒体(例えばDVD)2と、第1,第2レーザー光L1,L2のいずれかが入射するレーザービーム入射面を共通化し且つ第1,第2光記録媒体1,2の各信号面1b,2bを組み合わせて一体的に積層した組み合わせ型光記録媒体とを選択的に適用可能に開発したものである。
尚、ここでの図示を省略するものの、第1,第2光記録媒体1,2の各信号面1b,2bを組み合わせた組み合わせ型光記録媒体は合計のディスク基板厚さが略1.2mmに形成されるものであるが、以下の説明ではBlu−ray Disc1,DVD2の個々について詳述し、組み合わせ型光記録媒体の場合はその応用であるので説明を省略する。
また、以下の説明では、第1,第2光記録媒体1,2として、円盤状の光ディスクに適用した場合について説明するが、これに限ることなく、カード状の光記録媒体であっても良い。
そして、上記した第1,第2光記録媒体1,2は、光ディスク駆動装置10内に回転自在に設けたスピンドルモータ11の軸に固着したターンテーブル12上に選択的に装着されるようになっている。
ここで、上記した第1光記録媒体となるBlu−ray Disc1は、次世代光ディスク規格に基づいてレーザービーム入射面1aと信号面1bとの間のディスク基板厚さt1が略0.05mm〜0.15mmに薄く設定されて、この上に補強板1cを貼り合せて合計厚さが厚く形成されており、この合計厚さは例えば略1.2mmである。尚、以下の説明では、第1光記録媒体をBlu−ray Disc1と記して説明する。
また、上記した第2光記録媒体となるDVD2は、DVD規格に基づいてレーザービーム入射面2aと信号面2bとの間のディスク基板厚さt2がBlu−ray Disc1よりも厚く略0.6mmに設定されて、この上に補強板2cを貼り合せて合計厚さが略1.2mmに形成されている。尚、以下の説明では、第2光記録媒体をDVD2と記して説明する。
この際、実施例では、Blu−ray Disc1,DVD2の各ディスク基板厚さt1,t2が、例えば0.1mm,0.6mmにそれぞれ設定されているものとする。
また、Blu−ray Disc1のレーザービーム入射面1a又はDVD2のレーザービーム入射面2aの下方には、本発明に係る光ピックアップ装置20がBlu−ray Disc1又はDVD2の径方向に移動自在に設けられている。
上記した光ピックアップ装置20では、ピックアップ筐体21内にBlu−ray Disc1に対応して波長が450nm以下の第1レーザー光L1を出射する第1レーザー光源(以下、青色半導体レーザーと記す)22と、DVD2に対応して波長が650nm前後の第2レーザー光L2を出射する第2レーザー光源(以下、赤色半導体レーザーと記す)23とが設けられている。
この際、実施例では、青色半導体レーザー22から出射される第1レーザー光L1の基準波長λ1は例えば405nmに設定され、一方、赤色半導体レーザー23から出射される第2レーザー光L2の基準波長λ2は例えば660nmに設定されているものとする。
まず、Blu−ray Disc1に対応して青色半導体レーザー22側について説明すると、青色半導体レーザー22から出射した波長λ1=405nmの第1レーザー光L1は直線偏光(p偏光)の発散光であり、この発散光がコリメータレンズ24で平行光となり、第1レーザー光L1の平行光が偏光ビームスプリッタ25の偏光選択性誘電体多層膜25a(p偏光:反射、s偏光:透過)で反射されて90°方向を転じ、この後、第1レーザー光L1は位相板26を透過して円偏光となる。この際、第1レーザー光用の位相板26は波長λ1=405nmの第1レーザー光L1が透過するときに(λ1)/4の位相差を与えるものである。
また、位相板26を透過した第1レーザー光L1は、ダイクロイックプリズム27のダイクロイック膜27aを透過する。この際、ダイクロイックプリズム27のダイクロイック膜27aは、青色半導体レーザー22から出射した波長λ1=405nmの第1レーザー光L1に対して透過させ、且つ、赤色半導体レーザー23から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2に対して反射させるように膜付けされている。
また、ダイクロイックプリズム27を透過した第1レーザー光L1は、立ち上げ用の平面ミラー28で90°光線方向を転じて、この後、第1レーザー光L1の平行光をレンズホルダ29内の下方部位に収納した一例の回折型光学素子30又は他例の回折型光学素子30’に入射させて、この回折型光学素子30(又は30’)で回折させることなく0次光をそのまま透過させた後に、更に、レンズホルダ29内の上方部位に収納した対物レンズ31に入射させ、この第1レーザー光L1を対物レンズ31で絞って得た第1レーザービームをBlu−ray Disc1のレーザービーム入射面1aから入射させて信号面1b上に集光している。
この際、レンズホルダ29内の下方部位に収納した一例の回折型光学素子30又は他例の回折型光学素子30’は後述するように内周領域に形成した回折パターン部の形状が異なるものであり、この実施例では一例の回折型光学素子30又は他例の回折型光学素子30’のいずれか一方を用いている。
尚、第1レーザー光L1に対する回折型光学素子30(又は30’)の作用についての詳細は後述する。
上記した対物レンズ31は、Blu−ray Disc用として開口数が0.75以上に設定され、且つ、互いに対向する第1,第2面31a,31bのうち少なくとも一方の面が非球面に形成されているものであるが、この実施例では開口数(NA)が0.85の単玉レンズであり、且つ、後述するように回折型光学素子30(又は30’)側と対向する第1面31a及び各光ディスク1,2側と対向する第2面31bが共に非球面に形成されて、波長λ1=405nmの第1レーザー光L1に対して無限共役で最適化されている。そして、第1レーザー光L1に対して球面収差が最小となる対物レンズ31とBlu−ray Disc1のレーザービーム入射面1aとの間の距離、すなわち作動距離は略0.5mm程度である。
また、レンズホルダ29内の下方部位に収納した回折型光学素子30(又は30’)と、レンズホルダ29内の上方部位に収納した対物レンズ31とは、レンズホルダ29内で光軸を合わせて一体化することによりコマ収差の発生を抑えており、更に、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを後述するように適切な値に設定することで、対物レンズ31の光軸に対して僅かにチルトした第2レーザー光L2の光線が回折型光学素子30(又は30’)に入射した場合の波面収差(像高特性)を最良にするが、この実施例の要部となる回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31については、後で詳述する。
また、レンズホルダ29の外周にはフォーカスコイル32とトラッキングコイル33とが一体的に取り付けられ、且つ、レンズホルダ29の外周に固着させた不図示の複数本のサスペンションワイヤを介してレンズホルダ29がBlu−ray Disc1又はDVD2のフォーカス方向とトラッキング方向とに揺動可能に支持されている。
そして、フォーカスコイル32とトラッキングコイル33と不図示の永久磁石とにより、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31とがレンズホルダ29と一体となってBlu−ray Disc1のフォーカス方向とトラッキング方向とに制御されている。尚、後述するDVD2の場合にも、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31とがレンズホルダ29と一体となってDVD2のフォーカス方向とトラッキング方向とに制御されるものである。
この後、対物レンズ31で集光した第1レーザービームによってBlu−ray Disc1の信号面1bへの再生、記録、または消去が行われる。
更にこの後、Blu−ray Disc1の信号面1bで反射された第1レーザー光L1による戻りの第1反射光は往路と反対回りの円偏光となって対物レンズ31に再入射し、この対物レンズ31により平行光となり、回折型光学素子30(又は30’)を通過した後に平面ミラー28で90°光線方向を転じ、ダイクロイックプリズム27のダイクロイック膜27aを透過し、位相板26を透過して往路とは偏光方向が直交した直線偏光(s偏光)となる。この際、位相板26を透過した第1反射光は往路とは偏光方向が直交した直線偏光(s偏光)であるので偏光ビームスプリッタ25の偏光選択性誘電体多層膜25aを透過し、検出レンズ34で収束光となり、第1光検出器35に集光する。そして、第1光検出器35でBlu−ray Disc1の信号面1bを再生した時のトラッキングエラー信号,フォーカスエラー信号,メインデータ信号を検出している。
次に、DVD2に対応して赤色半導体レーザー23側について説明すると、赤色半導体レーザー23から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2は直線偏光(p偏光)の発散光であり、この発散光がDVD用集積デバイス36中のホログラム素子37を通過してコリメータレンズ39で平行光となり、この平行光が第2レーザー光用の位相板40を透過して円偏光となる。この際、第2レーザー光用の位相板40は波長λ2=660nmの第2レーザー光L2が透過するときに(λ2)/4の位相差を与えるものである。
尚、上記したDVD用集積デバイス36は、赤色半導体レーザー23と、この赤色半導体レーザー23の上方に設置したホログラム素子37と、赤色半導体レーザー23の右方に設置した第2光検出器38とを不図示の半導体基板上で一体化したものである。
また、位相板40を透過した第2レーザー光L2は、ダイクロイックプリズム27のダイクロイック膜27aで反射して90°光線方向を転じ、更に、立ち上げ用の平面ミラー28で90°光線方向を転じ、この後、第2レーザー光L2の平行光を回折型光学素子30(又は30’)に入射させて、この回折型光学素子30(又は30’)の外周領域で対物レンズ31への開口数(NA)が0.65相当になるように開口制限させるも、内周領域で回折させた1次光によって球面収差を補正した後に、回折された1次光が対物レンズ31に入射され、この第2レーザー光L2を対物レンズ31で絞って得た第2レーザービームをDVD2のレーザービーム入射面2aから入射させて信号面2b上に集光している。
尚、第2レーザー光L2に対する回折型光学素子30(又は30’)の作用についての詳細は後述する。
この後、対物レンズ31で集光した第2レーザービームによってDVD2の信号面2bへの再生、記録、または消去が行われる。
更にこの後、DVD2の信号面2bで反射された第2レーザー光L2による戻りの第2反射光は往路と反対回りの円偏光となって対物レンズ31に再入射し、1次光の第2反射光が対物レンズ31により収束光となり、更に、回折型光学素子30(又は30’)により平行光となった後に平面ミラー28で90°光線方向を転じ、ダイクロイックプリズム27のダイクロイック膜27aで反射して90°光線方向を転じ、位相板40を透過後に往路とは反対の直線偏光(s偏光)となって、コリメータレンズ39で収束光となり、ホログラム素子37によって回折し、第2光検出器38に集光する。そして、第2光検出器38でDVD2の信号面2bを再生した時のトラッキングエラー信号,フォーカスエラー信号,メインデータ信号を検出している。
この際、赤色半導体レーザー23とDVD2の信号面2bとの間の光軸上に配置された集光光学系によって発生する球面収差を回折型光学素子30(又は30’)で補正しているが、この球面収差が最小となった時に、対物レンズ31とDVD2のレーザービーム入射面2aとの間の距離、すなわち作動距離は略0.27mm程度である。
上記説明したように、DVD2側では無偏光光学系であるが、往路と直交した直線偏光となるので、赤色半導体レーザー23への第2反射光が与える影響はほとんどない。
ここで、実施例の要部となる一例の回折型光学素子30又は他例の回折型光学素子30’と、対物レンズ31とについて図2〜図6を用いて順に説明する。
図2(a)〜(c)は図1に示した一例の回折型光学素子を説明するための図であり、(a)は上面図,(b)は縦断面図,(c)は内周側凹凸状回折パターン部の拡大図、
図3(a)〜(c)は図1に示した他例の回折型光学素子を説明するための図であり、(a)は上面図,(b)は縦断面図,(c)は内周側階段状回折パターン部及び外周側凹凸状回折パターン部の拡大図、
図4はBlu−ray Disc用として無限共役に最適化された対物レンズを用いて、Blu−ray Disc,DVDを記録又は再生する場合を拡大して示した図、
図5は図4に示した対物レンズに第1レーザー光を入射した場合の球面収差及び正弦条件を示した図、
図6は一般的なレンズにおける正弦条件を説明するための図である。
まず、図2(a),(b)に示した如く、実施例における一例の回折型光学素子30は、光透過性を有する厚さ0.925mmのBK7(ホウケイ酸クラウンガラス)を用いて、外形形状を5mm角の正方形に形成し、且つ、対物レンズ31(図1)と対向する上面30a側で中心“O”を中心にした直径φ2.96mmの内周領域内に内周側凹凸状回折パターン部30a1が凹凸リング状に形成されていると共に、この内周側凹凸状回折パターン部30a1の外周に隣接した外周領域で直径φ2.96mm〜φ3.8mm内に外周側平坦部30a2が上面30aと同じ高さで平坦に形成されている。尚、回折型光学素子30の内周側凹凸状回折格子パターン30a1は上面30a側(対物レンズ側)でなく、下面30b側(半導体レーザー側)であっても良い。
この際、図2(c)に拡大して示した如く、回折型光学素子30の上面30aの内周領域に形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1の凹凸はn段の階段構造で考えた場合に段数nが2段で段差数n−1を1段に設定したものと等価であり、この凹凸の高さ方向の寸法は第1レーザー光L1の基準波長λ1=405nmを設計波長としている。そして、段差数n−1が1段の内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さd1は、青色半導体レーザー22(図1)から出射した波長λ1=405nmの第1レーザー光L1の0次光に対して回折作用が発生しないように下記の数1から求めると、全く回折せずに第1レーザー光L1の0次光をそのまま透過するようになり、この時に内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さd1は位相差2π(第1レーザー光L1の波長λ1相当に等しい光路差)になる。
上記した数1中でk1を第1レーザー光L1の0次光に対する周期係数(自然数)とすると、第1レーザー光L1の0次光に対する周期係数k1はk1=1となり、且つ、波長λ1=405nmの第1レーザー光L1に対する回折型光学素子30の屈折率N1をN1=1.5302とした時に、第1レーザー光L1の0次光に対する内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さはd1は、上記した数1から
d1=0.405/(1.5302−1)μm=0.764μm となる。これにより、内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さd1=0.764μmは第1レーザー光L1の波長λ1相当に等しい光路差が得られる値であり、従って、内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さd1が第1レーザー光L1の波長λ1相当に等しい光路差になるように設定されることになる。
一方、回折型光学素子30の上面30aの内周領域に形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1の凹凸の半径方向の寸法は第2レーザー光L2の基準波長λ2=660nmを設計波長としている。この場合に、回折型光学素子30の内周側凹凸状回折パターン部30a1は、後述するように赤色半導体レーザー23(図1)から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2の平行光を回折して出射させた1次光を対物レンズ31(図1)を介してDVD2(図1)の信号面2b上に照射した時に、この信号面2b上での第2レーザー光L2のスポットが開口数(NA)=0.65相当になり、第2レーザー光L2の1次光の球面収差が最小となるように下記の数2に示した位相差関数Φ(x)により内周側凹凸状回折パターン部30a1の中心“O”からの半径方向の距離xにおける位相差が求まり、その位相差を2値化することによって半径方向の凹凸形状が決定する。
上記した数2において、回折型光学素子30の内周側凹凸状回折パターン部30a1に対する位相差関数Φ(x)中の位相差関数係数A
2〜A
8の一例を下記の表1に示す。
この表1に示した位相差関数係数A2〜A8項の値は、回折型光学素子30と対物レンズ31との間の間隔k(図1)を2mmに設定した時に、後述するように第2レーザー光L2に対して像高特性が最小となるように最適化したものである。
この際、位相差関数Φ(x)中の位相差関数係数A2項は、有限補正によって球面収差を補正するものであり、この位相差関数係数A2項の値をA2>0に設定すると第2レーザー光L2が回折型光学素子30の内周側凹凸状回折パターン部30a1で回折されて略平行光から拡散光として対物レンズ31側に出射され、一方、位相差関数係数A2項の値をA2≦0に設定すると第2レーザー光L2が回折型光学素子30の内周側凹凸状回折パターン部30a1で回折されて略平行光から収束光として対物レンズ31側に出射されるので、この実施例では後述するように第2レーザー光L2に対して内周側凹凸状回折パターン部30a1を正弦条件不満足に設計するために位相差関数係数A2項の値をA2>0に設定している。また、位相差関数Φ(x)中の位相差関数係数A4項以下は、波面補正によって球面収差を補正するものである。
図2(b)に戻り、回折型光学素子30の下面30bには、上記した内周側凹凸状回折パターン部30a1と対向して光透過性平坦部30b1が中心“O”を中心にして直径φ2.96mm以内の内周領域に円形状に形成され、且つ、光透過性平坦部30b1の外周に隣接して直径φ2.96mm以上で直径φ3.8mm以下の外周領域内に第2レーザー光L2に対して対物レンズ31への開口数が0.65相当になるように制限する第2レーザー光用開口制限部30b2がダイクロイック膜を用いてリング状に成膜されている。
この際、回折型光学素子30のうちで直径φ3.8mm以下の外周領域内を通過する第1レーザー光L1に対しては対物レンズ31への開口数が0.85相当になるようにするものであるが、後述するように対物レンズ31の直径はφ3.74mmであり、回折型光学素子30と対物レンズ31とのセンターずれが最大±3μmの公差を考えている。
尚、第2レーザ光用開口制限部30b2は、前記したダイクロイック膜の成膜や凹凸状回折パターン部の形成をしなくても良く、第2レーザー光L2に対して平坦な外周側平坦部30a2をそのまま透過させた場合、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30の外周側平坦部30a2での収差は大きく、内周領域と外周領域の波面は非連続で変化し、波面の連続性が保たれなくなり、外周光はDVD2の信号面2b上でスポット形成に寄与しない。尚、以下では、第2レーザ光用開口制限部30b2にダイクロイック膜を成膜しているものとして説明する。
次に、図3(a),(b)に示した如く、実施例における他例の回折型光学素子30’は、光透過性を有する厚さ0.925mmのBK7(ホウケイ酸クラウンガラス)を用いて、外形形状を5mm角の正方形に形成している点が先に図2を用いて説明した一例の回折型光学素子30と同じであるものの、対物レンズ31(図1)と対向する上面30a側で中心“O”を中心にした直径φ2.96mmの内周領域内に内周側階段状回折パターン部30a3が階段リング状に形成されていると共に、この内周側階段状回折パターン部30a3の外周に隣接した外周領域で直径φ2.96mm〜φ3.8mm内に外周側凹凸状回折パターン部30a4が等ピッチで凹凸リング状に形成されている点が一例の回折型光学素子30に対して異なるものである。尚、回折型光学素子30’の内周側階段状回折格子パターン30a3及び外周側凹凸状回折パターン部30a4は上面30a側(対物レンズ側)でなく、下面30b側(半導体レーザー側)であっても良い。
この際、図3(c)に拡大して示した如く、回折型光学素子30’の上面30aの内周領域に形成した内周側階段状回折パターン部30a3は、ミクロ的(微視的)に見ると、階段構造の段数nが5段であるので段差数n−1は4段になっており、一方、マクロ的(巨視的)に見ると、多段ブレーズ(鋸歯状)状になっており、この階段の高さ方向の寸法は第1レーザー光L1の基準波長λ1=405nmを設計波長としている。そして、5段構造で段差数が4段である内周側階段状回折パターン部30a3中の階段状凹部全体の深さを求めるにあたって、内周側階段状回折パターン部30a3の段数nに基づいてn値化して一般的に表現すると、下記の数3で示すことができるが、段数nは3以上の整数であれば良いものである。
即ち、階段構造の段数がn段で段差数がn−1段である内周側階段状回折パターン部において、第1レーザー光L1の0次光に対する階段状回折パターン部中の階段状凹部全体の深さはd(n−1)は、下記の数3から求めることができる。
そして、5段構造で段差数が4段である内周側階段状回折パターン部30a3中の階段状凹部全体の深さをd(5−1)=d4と表示すると、1段当たりの階段状凹部の深さは(d4)/4となり、これら1段当たりの階段状凹部の深さ(d4)/4は第1レーザー光L1の波長λ1の2倍相当の光路差(略位相差2πの2倍)になるように設定されている。
一方、回折型光学素子30’の上面30aの内周領域に形成した内周側階段状回折パターン部30a3の階段の半径方向の寸法は第2レーザー光L2の基準波長λ2=660nmを設計波長としている。この場合に、内周側階段状回折パターン部30a3の階段の半径方向も先に説明した数2及び表1を適用することで、内周側階段状回折パターン部30a3の中心“O”からの半径方向の距離xにおける位相差が求まり、その位相差を5値化することによって半径方向の階段形状が決定する。
更に、回折型光学素子30’の上面30aの外周領域に形成した外周側凹凸状回折パターン部30a4の凹凸の深さは、第1レーザー光L1の基準波長λ1=405nmを設計波長としている。そして、外周側凹凸状回折パターン部30a4の凹部の深さは5段構造の内周側階段状回折パターン部30a3中の最下段の位置から第1レーザー光L1の波長λ1の略2倍相当の光路差が得られる値に設定され、且つ、外周側凹凸状回折パターン部30a4の凸部の高さは5段構造の階段状回折パターン部30a3中の最下段の位置から第1レーザー光L1の波長λ1の略6倍相当の光路差が得られる値に設定されている。この際、外周側凹凸状回折パターン部30a4の平均位相は第1レーザー光L1の波長λ1の略4倍相当となり、全体の色収差を最も低減できる。尚、外周側凹凸状回折パターン部30a4全体で、内周側階段状回折格子パターン30a3の略平均位相となるように、階段状としても同様の効果が得られる。
図3(b)に戻り、回折型光学素子30’の下面30bには、上記した内周側階段状回折パターン部30a3と対向して光透過性平坦部30b1が中心“O”を中心にして直径φ2.96mm以内の内周領域に円形状に形成され、且つ、光透過性平坦部30b1の外周に隣接して直径φ2.96mm以上で直径φ3.8mm以下の外周領域内に第2レーザー光L2に対して対物レンズ31への開口数が0.65相当になるように制限する第2レーザー光用開口制限部30b2がダイクロイック膜を用いてリング状に成膜されている。尚、この回折型光学素子30’の場合でも第2レーザー光用開口制限部30b2を形成してなくても良いものである。
次に、図4に示した如く、実施例の要部となる対物レンズ31は、Blu−ray Disc用として無限共役で最適に設計されたものであり、硝材として例えばNBF1(HOYA製光学ガラス)を用いて、回折型光学素子30(又は30’)と対向する第1面31a側を非球面に形成すると共に、Blu−ray Disc1又はDVD2と対向する第2面31b側も非球面に形成している。
この際、対物レンズ31の第2面31bとBlu−ray Disc1のレーザービーム入射面1aとの間の作動距離WD1は略0.5mm程度であり、また、対物レンズ31の第2面31bとDVD2のレーザービーム入射面2aとの間の作動距離WD2は略0.27mm程度である。
そして、対物レンズ31の硝材にNBF1(HOYA製光学ガラス)を用いた場合には、青色半導体レーザー22(図1)から出射した波長λ1=405nmの第1レーザー光L1に対する屈折率N3が1.768985であり、また、赤色半導体レーザー23(図1)から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2に対する屈折率N4は1.738532である。
ここで、波長λ1=405nmの第1レーザー光L1によりBlu−ray Disc1を記録又は再生するように無限共役で最適に設計した対物レンズ31の仕様を下記の表2に示す。
この表2から、青色半導体レーザー22(図1)から出射した第1レーザー光L1の基準波長λ1=405nmと同じ波長を設計波長に設定し、且つ、対物レンズ31は開口数(NA)が0.85のものを使用する。
次に、対物レンズ31の第1面31a及び第2面31bを非球面に形成する際、下記する数4の多項式を用いて非球面を表すものとする。
上記した数4の多項式を用いた時に、対物レンズ31の第1面31aを非球面に形成するための非球面係数B
4〜B
12の一例を下記の表3に示す。
また、上記した数4の多項式を用いた時に、対物レンズ31の第2面31bを非球面に形成するための非球面係数B
4〜B
10の一例を下記の表4に示す。
更に、図2に示した一例の回折型光学素子30又は図3に示した他例の回折型光学素子30’と、図4に示した対物レンズ31とをレンズホルダ29内に収納した時に、Blu−ray Disc1,DVD2に対する各光学面形成部材について下記の表5に示す。
この表5から、対物レンズ31の第1面31aの頂点における曲率半径は1.812171mmであり、第2面31bの頂点における曲率半径は−6.507584mmであり、対物レンズ31の第1,第2面31a,31b間のレンズ厚さが3.104mmであり、対物レンズ31のBlu−ray Disc1への作動距離は0.5mmであり、対物レンズ31のDVD2への作動距離は0.269mmである。
また、対物レンズ31は、Blu−ray Disc1に対応した第1レーザー光L1に対して正弦条件を満足するように設計されており、図5では対物レンズ31の第1レーザー光L1への球面収差及び正弦条件を示している。この図5中で縦軸は第1レーザー光L1の対物レンズ31への開口数(NA)=0.85に対して正規化した光線高さを示し、横軸はズレ量(mm)を示している。
ところで、上記した正弦条件を満足している状態とは、図6に示したように、光軸からの高さhの光線がレンズに対して光軸に平行に入射してこのレンズから出射した際の出射角度がαである時に、h/sinαが一定値を満たすことであり、正弦条件が満たされた時に有効径内の各光線の横倍率が一定と見なせるものである。
そして、上述した対物レンズ31がBlu−ray Disc1に対して正弦条件を満たしている時には、第1レーザー光L1の0次光を用いて設計しているので、図2に示した回折型光学素子30の内周側凹凸状パターン部30a1又は図3に示した回折型光学素子30’の内周側階段状パターン部30a3の形状に左右されない。
次に、図2に示した一例の回折型光学素子30又は図3に示した他例の回折型光学素子30’と、図4に示した対物レンズ31とをレンズホルダ29内に収納した状態で、Blu−ray Disc1,DVD2を記録又は再生する場合について図7〜図10を用いて順に説明する。
図7は図2に示した一例の回折型光学素子と、図4に示した対物レンズとにより、Blu−ray Discを記録又は再生する場合を模式的に示した図、
図8は図3に示した他例の回折型光学素子と、図4に示した対物レンズとにより、Blu−ray Discを記録又は再生する場合を模式的に示した図、
図9は図2に示した一例の回折型光学素子と、図4に示した対物レンズとにより、DVDを記録又は再生する場合を模式的に示した図、
図10は図3に示した他例の回折型光学素子と、図4に示した対物レンズとにより、DVDを記録又は再生する場合を模式的に示した図である。
まず、図7に示した如く、レンズホルダ29内に収納した一例の回折型光学素子30と対物レンズ31とによりBlu−ray Disc1を記録又は再生する場合には、対物レンズ31の第2面31bとBlu−ray Disc1のレーザービーム入射面1aとの間で作動距離WD1が0.5mm程度に設定されている状態で青色半導体レーザー22(図1)から出射した波長λ1=405nmの第1レーザー光L1をコリメータレンズ24(図1)で平行光にし、この平行光を回折型光学素子30の下面30側から入射させる際、第1レーザー光L1の平行光を下面30の内周領域に円形状に形成した光透過性平坦部30b1と、この光透過性平坦部30b1の外側にダイクロイック膜を用いてリング状に成膜した第2レーザー光用開口制限部30b2とをそのまま透過させた後、更に、第1レーザー光L1の平行光を回折型光学素子30の上面30aの内周領域に形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1で回折させずに0次光をそのまま透過させ、また、上面30aの外周領域に形成した外周側平坦部30a2をそのまま透過させ、平行光のままで対物レンズ31の第1面31aに入射させている。
そして、対物レンズ31の第1,第2面31a,31bで絞った第1レーザービームをBlu−ray Disc1のレーザービーム入射面1aから入射させてディスク基板厚さが0.1mmの信号面1b上に集光している。
この場合には、波長λ1=405nmの第1レーザー光L1に対して回折型光学素子30の上面30aに形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1で回折が生じないため、回折型光学素子30での反射並びに吸収以外の光量損失がなく(形状誤差による回折損失はあるが,詳細は後述する)、前記したように内周側凹凸状回折パターン部30a1中の凹部の深さd1が0.764μmに形成されている場合に、0次光の回折効率は100%である。現時点では、波長λ1=405nmの青色半導体レーザー22(図1)の出力が低いため、実施例の光ピックアップ装置20(図1)の各光学部品においては、光量損失が少ないことが必須となっている。
一方、図8に示した如く、レンズホルダ29内に収納した他例の回折型光学素子30’と対物レンズ31とによりBlu−ray Disc1を記録又は再生する場合には、回折型光学素子30’の下面30bから入射させた第1レーザー光L1の平行光を上面30aの内周領域及び外周領域にそれぞれ形成した内周側階段状回折パターン部30a3及び外周側凹凸状回折パターン部30a4で回折させずにそのまま透過させ、平行光のままで対物レンズ31の第1面31aに入射させている。
次に、図9に示した如く、レンズホルダ29内に収納した一例の回折型光学素子30と対物レンズ31とによりDVD2を記録又は再生する場合には、対物レンズ31の第2面31bとDVD2のレーザービーム入射面2aとの間で作動距離WD2が0.269mmに設定されている状態で赤色半導体レーザー23(図1)から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2をコリメータレンズ39(図1)で平行光にし、この平行光を回折型光学素子30の下面30b側から入射させる際、第2レーザー光L2の平行光を下面30bの外周領域にダイクロイック膜を用いてリング状に成膜した第2レーザー光用開口制限部30b2で遮蔽して対物レンズ31への開口数(NA)が0.65相当になるように開口制限させるも、回折型光学素子30の下面30bの内周領域に円形状に形成した光透過性平坦部30b1を透過させた後、更に、第2レーザー光L2の平行光を回折型光学素子30の上面30aの内周領域に形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1で回折させた1次光によって球面収差を補正して、回折させて得た1次光を対物レンズ31の第1面31aに入射させている。
そして、対物レンズ31の第1,第2面31a,31bで絞った第2レーザービームをDVD2のレーザービーム入射面2aから入射させてディスク基板厚さが0.6mmの信号面2b上に集光している。
この場合、対物レンズ31はBlu−ray Disc用として設計されているので、赤色半導体レーザー23(図1)から出射した波長λ2=660nmの第2レーザー光L2に対して球面収差が大きくなるものの、回折型光学素子30の上面30aに形成した内周側凹凸状回折パターン部30a1で第2レーザー光L2に対して有限補正(位相差関数係数A2項)と波面補正(位相差関数係数A4項以下)とによって球面収差を補正しているので、DVD2への記録又は再生に支障をきたさない。
一方、図10に示した如く、レンズホルダ29内に収納した他例の回折型光学素子30’と対物レンズ31とによりBlu−ray Disc1を記録又は再生する場合には、回折型光学素子30’の下面30bの内周領域に形成した光透過性平坦部30b1から入射させた第2レーザー光L2の平行光を上面30aの内周領域に形成した内周側階段状回折パターン部30a3で回折させた1次光によって球面収差を補正して、回折させて得た1次光を対物レンズ31の第1面31aに入射させている。
上記から実施例の光ピックアップ装置20(図1)では、Blu−ray Disc用の第1レーザー光L1とDVD用の第2レーザー光L2とを平行光の状態で一例の回折型光学素子30又は他例の回折型光学素子30’に入射させているために、第1,第2レーザー光L1,L2の光軸が対物レンズ31の光軸に対して僅かにズレた場合でもコマ収差の悪化が少なくなると共に、光ピックアップ装置20を組み立てる時に光軸調整が簡単となる。
次に、図2に示した一例の回折型光学素子30又は図3に示した他例の回折型光学素子30’と、図4に示した対物レンズ31とをレンズホルダ29(図1)内に収納する場合に、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔k(図1)について、図11〜図19を用いて説明する。
図11は対物レンズとDVDとの間の作動距離WD2に対する回折型光学素子と対物レンズの偏芯時の波面収差を示した図、
図12は対物レンズとDVDとの間の作動距離WD2に対する回折型光学素子と対物レンズへの第2レーザー光の波長誤差による軸上色収差を示した図、
図13は対物レンズとDVDとの間の作動距離WD2に対する回折型光学素子と対物レンズに光軸からチルトした第2レーザー光の光線が入射したときの像高特性(波面収差)を示した図、
図14は対物レンズとDVDとの間の作動距離WD2に対する回折型光学素子の最小ピッチを示した図、
図15は回折型光学素子と対物レンズとの間の間隔kを2mmに設定し、且つ、第2レーザー光に対して回折型光学素子を正弦条件不満足に設計した場合の収差図、
図16は回折型光学素子と対物レンズとの間の間隔kを2mmに設定し、且つ、第2レーザー光に対して回折型光学素子を正弦条件満足に設計した場合の収差図、
図17は回折型光学素子と対物レンズとの間の間隔kを4mmに設定し、且つ、第2レーザー光に対して回折型光学素子を正弦条件不満足に設計した場合の収差図、
図18は回折型光学素子と対物レンズとの間の間隔kを4mmに設定し、且つ、第2レーザー光に対して回折型光学素子を正弦条件満足に設計した場合の収差図、
図19は回折型光学素子と対物レンズとの間の間隔kを1mmに設定し、且つ、第2レーザー光に対して回折型光学素子を正弦条件満足に設計した場合の収差図である。
ここで、図2に示した一例の回折型光学素子30又は図3に示した他例の回折型光学素子30’と、図4に示した対物レンズ31とをレンズホルダ29(図1)内で間隔k(図1)を隔てて配置する場合に、対物レンズ31は前述したようにBlu―ray Disc1に対応した第1レーザー光L1に対して正弦条件を満足するように設計されているものの、図2に示した回折型光学素子30の内周側凹凸状回折パターン部30a1又は図3に示した回折型光学素子30’の内周側階段状回折パターン部30a3をDVD2に対応した第2レーザー光L2に対して後述するように正弦条件が不満足になるように設計した上で、第2レーザー光L2に対して像高特性が最小となるように回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔k(図1)を求めれば良いことを見出した。以下、これについて順を追って説明する。
まず、図11は、先に図4を用いて説明した対物レンズ31が先に示した表3、表4に基づいて第1,第2面31a,31b(図1,図4)を非球面に形成して第1レーザー光L1に対して正弦条件を満たして設計された状態であり、且つ、先に図2(又は図3)を用いて説明した回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折パターン部30a1(又は内周側階段状回折パターン部30a3)が後述するように第2レーザー光L2に対して正弦条件を変化させて位相差関数係数A2〜A8を最適に設定して設計されている状態である時に、対物レンズ31とDVD2との間の作動距離WD2と、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kとに基づいて、回折型光学素子30(又は30’)の中心と対物レンズ31の中心との位置ズレによる偏芯特性を示している。
ここで、波長λ2が660nmの第2レーザー光L2の平行光を回折型光学素子30(又は30’)の下面30b(図9,図10)に垂直に入射させる際に、回折型光学素子30(又は30’)の中心と対物レンズ31の中心とが偏芯なく一致するように予め最適に設計しておき、且つ、この設計条件のもとで回折型光学素子30(又は30’)の中心と対物レンズ31の中心との間で例えば仮に5μmの偏芯量を与えた状態で、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを1mm,2mm,4mmとそれぞれ変化させて、対物レンズ31とDVD2との作動距離WD2に対する波面収差(λ2・rms)を求めた結果、偏芯特性は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kに依存せず、作動距離WD2で決まることが判明した。
次に、図12は図11と同様の条件で設計した回折型光学素子30(又は30’)及び対物レンズ31に対して軸上色収差を示している。上記した軸上色収差とは、第2レーザー光L2の基準波長660nmから1nm波長がずれた661nmの場合の波面収差である。そして、ここでも回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを1mm,2mm,4mmとそれぞれ変化させて、対物レンズ31とDVD2との作動距離WD2に対する軸上色収差(λ2・rms)を求めた結果、軸上色収差は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kに依存せず、作動距離WD2で決まることが判明した。
次に、図13は図11と同様の条件で設計した回折型光学素子30(又は30’)及び対物レンズ31に対して像高特性を示している。上記した像高特性とは、回折型光学素子30(又は30’)に対して、第2レーザー光L2の平行光を回折型光学素子30(又は30’)の下面30b(図9,図10)に垂直に入射させる際に、第2レーザー光L2の光線が垂直入射から所定量として例えば0.3°チルトした時の波面収差(λ2・rms)である。そして、ここでも回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを1mm,2mm,4mmとそれぞれ変化させて、対物レンズ31とDVD2との作動距離WD2に対する像高特性を示す波面収差(λ2・rms)を求めた結果、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kが変化した場合に像高特性が変化する。よって、像高特性は任意の作動距離WD2に対して、前記間隔kを適切に設定することで最良にすることが可能であることが判明した。言い換えると、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折パターン部30a1(又は内周側階段状回折パターン部30a3)を正弦条件不満足に設計した上で、対物レンズ31の光軸から所定量(0.3°)チルトした第2レーザー光L2への像高特性が小さくなるように回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを設定すれば良いことになる。
上述した軸上色収差は、一般的に光ディスクに記録するシステムの場合にシステムの成否に関わる重要なファクターである。この際、光ピックアップ装置20(図1)全体のマージンによるが、波長誤差1nmの軸上色収差は、第2レーザー光L2の波長λ2に対して0.03λ2・rms以内、望ましくは0.02λ2・rms以内に抑えることが必須である。そして、所望の軸上色収差を決める際に、例えば、本実施例では余裕をみて、1nm波長がずれたときの軸上色収差を0.015λ2・rms以内とする。この際、対物レンズ31とDVD2との間の作動距離WD2は広いほど対物レンズ31がDVD2に衝突する可能性が少なく、且つ、光ピックアップ装置20(図1)を組み立て易いので、図12から0.015λ2・rms程度の軸上色収差が得られる近傍を拡大させてシュミレーションして、作動距離WD2を0.269mmとする。
そして、この作動距離WD2=0.269mmに対して、一義的に偏芯特性も決定される。偏芯特性は第2レーザー光L2の波長λ2に対して0.012λ2・rms以内に抑えるとすると、5μmの偏芯時に0.019λ2・rmsであるので、5×0.012/0.019=3.15μm以内の偏芯公差をもって、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31の半径方向の位置決めをする。そして、前述したように、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kによって、像高特性を最良にする。この時、像高特性を最良にするには回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間隔kが略2mmである。即ち、第2レーザー光L2の光線が0.3°チルトしたときの像高特性を0.012λ2・rms以内とすると、作動距離WD2=0.269mmに対して図13中での最小の像高特性は0.009λ2・rmsであり、前記間隔kは略2mmであれば良い。以上の特性を満たすように回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折パターン部30a1(又は内周側階段状回折パターン部30a3)に対して設定したものが先に表1に示した位相差関数係数A2〜A8である。
また、上記した作動距離WD2=0.269mmの場合とは異なって、図13より対物レンズ31とDVD2との間の作動距離WD2を後述するように0.331mmと設定した場合には、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔k(図1)を4mmとするのが像高特性が最良であり、一方、作動距離WD2を後述するように0.241mmとした場合には回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31の間の間隔kを1mmとするのが最良であるものの、この間隔kが1mmの場合には狭すぎて、組立て性に難があり、望ましくない。
また、第2レーザー光L2に対して像高特性が0.001λ2・rmsずれた場合、マレシャルクライテリオン0.07λ2・rms(光ピックアップ層装置全体システムとしての許容収差)に対して約1%にあたり、光ピックアップ装置20(図1)全体としてのマージンに影響がないので、前記間隔kは10%程度のずれは十分許容される。よって、ここでの回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kは10%程度のずれを含めて最適な値に設定するものとする。これにより、対物レンズ31の光軸から所定量(0.3°)チルトした第2レーザー光L2でDVD2を記録又は再生する時の波面収差の値がマレシャルクライテリオン以下になる。
次に、図14は図11と同様の条件で設計した回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)に対して、最小ピッチを示している。上記した最小ピッチとは、先に示した図2(c){又は図3(c)}に示したピッチTのうち、隣接するピッチTが緩やかに増減するときの内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)の最小長さである。そして、ここでも回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを1mm,2mm,4mmとそれぞれ変化させた時に、内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)の最小ピッチは、回折型光学素子30と対物レンズ31との間の間隔kに依存せず、作動距離WD2のみで決定される。この際、先に示した表1の位相差関数係数A2〜A8の場合、最小ピッチは69μmである。
この際、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)の最小ピッチは広いほど回折での損失が少なくなり、設計値に近い回折効率を得ることができる。回折型光学素子30(又は30’)を作製する場合に、凹凸(又は階段)のエッジが90°の角度になれば回折損失がないが、実際は80°程度が現実である。よって、ピッチTが狭いほど輪帯数が多くなり、回折損失が増大する。一般に、光ピックアップ装置20(図1)に使用するプリズムやレンズ類の光学部品はそれぞれ最大10%程度の効率損失を見込んでいる。従って、回折型光学素子30(又は30’)の回折損失は設計値から10%以下が望まれる。その回折損失を満たす輪帯幅wは下記の数5で表される。
この際、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)の1段当たりの深さdが深くなるほど、輪帯幅wを広くとることで回折損失を抑えることができる。本実施例の場合、ピッチTを凹凸状(又は階段状)に2値化(又は5値化)しているので、輪帯幅は最小ピッチの略1/2(又は略1/5)になる。
次に、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔k(図1)を
適切に設定するにあたって、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件不満足に設計するか、もしくは正弦条件満足に設計するかについて述べる。この際、無限系での正弦条件不満足量OSCは、下記の数6で求めることができ、
この数6に基づいて図15〜図19では第2レーザー光L2への球面収差及び正弦条件を示しており、各図中で縦軸は第2レーザー光L2の対物レンズ31への開口数(NA)=0.65に対して正規化した光線高さを示し、横軸はズレ量(mm)を示している。
まず、図15は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを2mmに設定し、且つ、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件不満足に設計した場合の収差図を示しており、この図15から明らかなように球面収差はないが、無限共役比における正弦条件は満足していない。
一方、図16は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを上記と同様に2mmに設定しているものの、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件満足に設計した場合の収差図を示しており、この図16から明らかなように球面収差はなく、無限共役比における正弦条件は満足している。
この際、下記の表6は図15の場合と図16の場合に対して、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)への位相差関数係数A
2〜A
8及び、そのときの諸特性を比較したものを示している。
この表6から明らかなように、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件不満足に設計するか、それとも正弦条件満足に設計するかは、位相差関数係数A2〜A8項のうちでとくに位相差関数係数A2項の値に大きく起因していることわかる。ここでは、位相差関数係数A2項の値を例えば25に設定した場合に正弦条件不満足となり、一方、位相差関数係数A2項の値を例えば50.6に設定した場合に正弦条件満足となる。尚、位相差関数係数A4〜A8項の値はそれぞれ表6に示している。
そして、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kが2mmの場合には、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)を正弦条件不満足に設計することで得られる像高特性の値が0.009λ2・rmsとなり、正弦条件満足に設計することで得られる像高特性の値(0.015λ2・rms)よりもかなり良好になる。更に、回折型光学素子30(又は30’)を正弦条件不満足に設計した時の作動距離WD2の値は0.269mmとなり、正弦条件満足に設計した時の作動距離WD2の値(0.297mm)よりもわずかに狭くなる。
次に、図17は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを4mmに設定し、且つ、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件不満足に設計した場合の収差図を示しており、この図17から明らかなように球面収差はないが、無限共役比における正弦条件は満足していない。
一方、図18は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを上記と同様に4mmに設定しているものの、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件満足に設計した場合の収差図を示しており、この図18から明らかなように球面収差はなく、無限共役比における正弦条件は満足している。
この際、下記の表7は上記した図17及び図18の場合に対して、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)への位相差関数係数A
2〜A
8及び、そのときの諸特性を比較したものを示している。
この表7でも前記した表6と同様な傾向があり、ここでは、位相差関数係数A2項の値を例えば85に設定した場合に正弦条件不満足となり、一方、位相差関数係数A2項の値を例えば103.5に設定した場合に正弦条件満足となる。尚、位相差関数係数A4〜A8項の値はそれぞれ表7に示している。
そして、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kが4mmの場合には、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)を正弦条件不満足に設計することで得られる像高特性の値が0.014λ2・rmsとなり、正弦条件満足に設計することで得られる像高特性の値(0.023λ2・rms)よりもかなり良好になるものの、間隔kを2mmに設定した時の方が像高特性の値が最小(最良)となることがわかる。更に、回折型光学素子30(又は30’)を正弦条件不満足に設計した時の作動距離WD2の値は0.331mmとなり、正弦条件満足に設計した時の作動距離WD2の値(0.0.349mm)よりもわずかに狭くなる。
次に、図19は回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを1mmに設定し、且つ、第2レーザー光L2に対して回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)を正弦条件満足に設計した場合の収差図を示しており、この図19から明らかなように球面収差はなく、無限共役比における正弦条件は満足している。
この際、下記の表8は図19の場合に対して、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)への位相差関数係数A
2〜A
8及び、そのときの諸特性を示している。
この表8の場合、図19に示すように回折型光学素子30(又は30’)が正弦条件を満たす時に、像高特性を最良にするものの、前述したように、間隔kが1mmの場合には狭すぎて組立て性に難があるので望ましくない。
上記の表8から位相差関数係数A2項の値が0近傍からそれより小さい時、即ち、回折型光学素子30(又は30’)を透過後の第2レーザー光L2の光線が略平行光から収束光となって対物レンズ31側に出射する場合に正弦条件を満たし、この時に像高特性が最良になる。一方、前記した表6及び表7に示したように位相差関数係数A2項の値がA2>0で、位相差関数係数A2項の値が大きいほど、回折型光学素子30(又は30’)のパワーが大きく、有限補正が主として作用し、即ち、回折型光学素子30(又は30’)を透過後の第2レーザ−光L2の光線が略平行光から拡散光になるほど、正弦条件の不満足量を所定程度大きくすることによって、像高特性を良くすることができる。更に、望ましくは、位相差関数係数A2項の値がA2>0のとき、前述した数6式の正弦条件不満足量OSCの最小値が0以上である。
以上、説明してきたように、Blu−ray Disc用に設計されている対物レンズ31に対して、DVD2を再生、記録または消去する場合に、回折型光学素子30(又は30’)の内周側凹凸状回折格子パターン30a1(又は内周側階段状回折格子パターン30a3)への位相差関数係数A2項の値をA2>0に設定して正弦条件不満足に設計した上で、像高特性が最良に得られるように回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31との間の間隔kを適切に設定することによって調整し、他の諸特性についてはバランスを取ることが必要である。
そして、光ピックアップ装置20(図1)のマージンから望ましくは、回折型光学素子30(又は30’)と対物レンズ31とに第2レーザ−光L2を入射したとき、第2レーザ−光L2の波長λ2に対して像高特性(0.3°)が0.02λ2・rms以下、偏芯特性(対物レンズとの偏芯5μm)が0.02λ2・rms以下、軸上色収差(1nm波長変化時)が0.02λ・rms以下が望ましい。