JP4253220B2 - 磁性ガーネット単結晶膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液相エピタキシャル法により磁性ガーネット単結晶膜を育成する磁性ガーネット単結晶膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁性ガーネット単結晶膜は、光アイソレータ等に用いられるファラデー回転子として光通信システムに多く用いられている。図5は、液相エピタキシャル(LPE)法による従来の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。図6は、図5の各ステップでの坩堝(るつぼ)内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図5及び図6に示すように、まず白金(Pt)を主成分とする貴金属製の坩堝に、鉄(Fe)、希土類元素、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、ホウ素(B)などの酸化物からなる原材料を充填する(ステップS21)。次に、原材料を充填した坩堝を電気炉内に配置する(ステップS22)。電気炉中で900〜1000℃程度の温度まで昇温させて坩堝内の材料を溶融し(ステップS23)、白金を主成分とする貴金属製の攪拌用治具で材料の溶融物を攪拌して均一な融液にする(ステップS24)。
【0003】
その後、融液温度を700〜900℃程度の育成温度(育成開始温度)に設定する(ステップS25)。次に、白金を主成分とする貴金属製の基板固定用治具でGGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)単結晶基板などを固定し、当該基板の片面を融液に接触させて(ステップS26)、融液温度を徐々に降温させながら基板上に厚さ数百μmの磁性ガーネット単結晶膜をエピタキシャル成長させる(ステップS27)。育成終了後、磁性ガーネット単結晶膜を融液から切り離し(ステップS28)、炉温を室温まで徐々に冷却する(ステップS29)。これにより、育成された磁性ガーネット単結晶膜が徐冷されるとともに、坩堝内に残存する融液が冷却されて固化する。次に、磁性ガーネット単結晶膜を坩堝から取り出す(ステップS30)。その後、坩堝内に残存して固化している材料を取り除いて廃棄し、坩堝を酸で洗浄する(ステップS31)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−1395号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、磁性ガーネット単結晶膜の育成に一度使用されて育成後に坩堝内に残存する材料は廃棄される。すなわち、坩堝内に充填された原材料の成分のうち一部のみが磁性ガーネット単結晶膜となり、残りは廃棄されることになる。磁性ガーネット単結晶膜の育成には廃棄分を含む原材料全体の費用が必要になるため、磁性ガーネット単結晶膜の育成コストが極めて高くなってしまうという問題が生じる。
【0006】
上記の問題を解決するために、坩堝内に残存する材料を廃棄せず、再度加熱溶融して繰り返し使用する手法が考えられる。しかしながら、1回目の磁性ガーネット単結晶膜育成後に坩堝内に残存する材料を繰り返し用いて複数回の磁性ガーネット単結晶膜の育成を試みると、2回目以降に育成された磁性ガーネット単結晶膜に多数の結晶欠陥が発生してしまう。このため、2回目以降に育成された磁性ガーネット単結晶膜では、光学素子に適した光学特性が得られないという問題が新たに生じる。
【0007】
ここで、特許文献1には、坩堝に充填した材料を繰り返し用いてビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶厚膜を育成する際の単結晶厚膜の割れを抑制するために、単結晶厚膜育成前の融液を950℃以上の温度で少なくとも10時間以上保持する磁気光学ガーネットの製造法が提案されている。しかしながら、特許文献1に提案された製造法を用いれば磁性ガーネット単結晶膜の割れを抑制することはできるものの、磁性ガーネット単結晶膜に多数の結晶欠陥が発生するのは防止できない。
【0008】
本発明の目的は、結晶欠陥の少ない磁性ガーネット単結晶膜を低コストで育成できる磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、坩堝に原材料を充填し、前記原材料を所定の溶融温度で融解して融液を生成し、前記融液を用いて液相エピタキシャル法により磁性ガーネット単結晶膜を育成した後に、前記融液の温度を膜育成終了時より低下させずに次の磁性ガーネット単結晶膜の育成を開始することを特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法によって達成される。
【0010】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成終了から10分以内に前記溶融温度近傍までの前記融液の昇温を開始することを特徴とする。
【0011】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成終了後、直ちに前記融液の昇温を開始することを特徴とする。
【0012】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜を育成した後に、前記融液に所定量の追加材料を追加することを特徴とする。
【0013】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記追加材料は、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成により前記融液から減少した溶質の成分を含むことを特徴とする。
【0014】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の重量に基づいて前記所定量を算出することを特徴とする。
【0015】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成前後での前記融液の重量変化に基づいて前記所定量を算出することを特徴とする。
【0016】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記坩堝は、金又は金を含む材質で形成されていることを特徴とする。
【0017】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、金又は金を含む材質で形成された攪拌用治具で前記融液を攪拌することを特徴とする。
【0018】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、金又は金を含む材質で形成された基板固定用治具で固定された基板に前記磁性ガーネット単結晶膜を育成することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。本実施の形態は、原材料を溶融した融液を繰り返し使用してLPE法により複数の磁性ガーネット単結晶膜を順次育成する際に、1つの磁性ガーネット単結晶膜の育成が終了してから次の磁性ガーネット単結晶膜の育成を開始するまでの間の融液温度を所定温度以上に保持することを特徴としている。また、本実施の形態は、1つの磁性ガーネット単結晶膜の育成が終了してから10min(分)以内に融液温度を育成温度以上に昇温させるとともに、融液温度を昇温させながら当該磁性ガーネット単結晶膜を取り出して次の磁性ガーネット単結晶膜の育成に移ることを特徴としている。これにより、2回目以降の磁性ガーネット単結晶膜の育成で問題となる結晶欠陥の発生が抑制される。
【0020】
ここで、磁性ガーネット単結晶膜の主要な構成元素は、希土類元素、鉄、ビスマス等である。坩堝内には、これらの酸化物が原材料として充填される。LPE法による育成で磁性ガーネット単結晶膜となるのは、坩堝内に充填される原材料のうちごく一部だけである。そのため、育成後に坩堝内に残存した材料を廃棄せずに繰り返し使用することができれば、材料コストを削減できるとともに、坩堝に材料を充填する工程や坩堝を洗浄する工程などを削減できる。
【0021】
ところが、ファラデー回転子に使用される磁性ガーネット単結晶膜は、非磁性ガーネット単結晶基板(GGG単結晶基板)の片面に数百μmの膜厚に成長させる必要がある。このため、育成後には融液中の溶質が育成前に比べてかなりの割合で減少する。したがって、一度育成に使用した材料を再び用いて磁性ガーネット単結晶膜の育成を試みても溶質量が不足し、膜厚の薄い磁性ガーネット単結晶膜しか育成できない。そこで、育成した磁性ガーネット単結晶膜の重量を測定して、育成で減少した分の溶質を育成後に残った材料に追加材料として追加する。これにより、再びほぼ同じ材料の条件で次の磁性ガーネット単結晶膜を育成できるため、溶質以外の材料の大部分を繰り返し使用しながら、十分な膜厚の磁性ガーネット単結晶膜を複数育成できる。
【0022】
しかし、一度使用した材料の融液を室温まで冷却すると、例えば白金製の坩堝から融液に溶けた白金が他の元素と複合酸化物を形成してしまう。白金は融液に溶解し難いために坩堝や治具の材質に使われているものの、若干は溶解してしまう。融液に溶解した白金は、他の元素と複合酸化物を形成すると非常に溶解し難い固形物になる。一度冷却して固化した材料を再び溶融してもこの固形物が融液に溶解することはほとんどない。この融液を用いて磁性ガーネット単結晶膜を育成すると、融液中に残存する固形物が単結晶の成長面に付着して結晶成長を阻害する。これが磁性ガーネット単結晶膜に発生する結晶欠陥の原因になる。
【0023】
そこで、磁性ガーネット単結晶膜の育成終了後、融液を固形物の析出しない所定温度以上の高温に保持しながら磁性ガーネット単結晶膜を取り出し、次の磁性ガーネット単結晶膜の育成に移る。これにより融液中に白金を含む複合酸化物が形成されることがなく、結晶欠陥の原因となる固形物が融液中に析出することもない。したがって、坩堝内に充填した原材料を繰り返し使用して複数の磁性ガーネット単結晶膜を育成しても、各磁性ガーネット単結晶膜の結晶欠陥の発生を抑制できる。
【0024】
図1は、本実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。図2は、図1の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図1及び図2に示すように、まず、白金や金(Au)等の貴金属製の坩堝に、鉄、希土類元素、ビスマス、鉛、ホウ素などの酸化物からなる原材料を充填する(ステップS1)。次に、原材料を充填した坩堝を電気炉内に配置する(ステップS2)。以上の工程は、例えば室温で行われる。次に、電気炉中で例えば940℃程度の溶融温度まで坩堝内の材料を昇温させて溶融し(ステップS3)、白金や金等の貴金属製の攪拌用治具で材料の溶融物を攪拌して均一な融液にする(ステップS4)。
【0025】
図3は、攪拌用治具を用いて溶融物を攪拌している状態を示している。図3に示すように、攪拌用治具1は、長方形平板状に形成されている。攪拌用治具1は、その一端辺のほぼ中央でセラミック製の攪拌棒6に接続固定されている。坩堝4内に攪拌棒6を搬入し、電気炉の加熱コイル11に通電することにより加熱されて溶融した融液8中に攪拌棒6先端の攪拌用治具1を浸す。攪拌棒6を棒の中心軸回りに回転させると攪拌用治具1も共に回転し、融液8を攪拌することができる。
【0026】
次に、融液温度を降温させ、例えば850℃程度の育成開始温度に設定する(ステップS5)。次に、白金や金等の貴金属製の基板固定用治具でGGG単結晶基板などを固定し、当該基板の少なくとも片面を融液8に接触させて(ステップS6)、融液温度を例えば838℃まで徐々に降温させながら基板上に厚さ数百μmの磁性ガーネット単結晶膜を育成する(ステップS7)。
【0027】
図4は、基板固定用治具でGGG単結晶基板を固定し、LPE法を用いて磁性ガーネット単結晶膜を育成している状態を示している。図4に示すように、基板固定用治具2は、GGG単結晶基板10を3点で支持する3本の線状支持部と、基板10を保持するために各線状支持部の一端側で折り曲げられた基板保持部とを有している。各線状支持部の他端側は、一つにまとめられてセラミック製の支持棒7に接続固定されている。支持棒7を所定距離だけ貴金属製の坩堝4内に搬入して、支持棒7先端の基板固定用治具2に保持された基板10の少なくとも片面を坩堝4内の融液8中に浸す。そして、支持棒7を棒の中心軸回りに回転させると、基板10も基板固定用治具2と共に回転し、基板10片面に融液8を十分接触させることができる。このとき、基板固定用治具2の基板保持部は、基板10片面と共に融液8中に浸されている。基板10片面には、磁性ガーネット単結晶膜12がエピタキシャル成長する。
【0028】
育成終了後、磁性ガーネット単結晶膜12を融液8から切り離す(ステップS8)。その後、育成された磁性ガーネット単結晶膜12の温度が室温まで徐々に低下する条件で、磁性ガーネット単結晶膜12を引き上げて電気炉外に取り出す(ステップS9)。ここで、磁性ガーネット単結晶膜12を徐冷しながら電気炉外に取り出すのは、熱衝撃による割れの発生を防止するためである。
【0029】
磁性ガーネット単結晶膜12の育成終了時は、融液温度が最も低くなっている。それに加えて、熱的な蓋(ふた)となっている円板状の基板10を融液8直上から移動させてしまうため、融液温度が大きく低下するおそれがある。この状態でかつ融液8に強制対流のない条件で10minより長い時間融液8を放置すると、融液8中に固形物が析出し易くなる。このため、融液8の温度が育成終了時の温度より低下しないように、育成終了後速やかに昇温を開始する。これにより、融液8を溶融した状態に維持でき、固形物の析出も防止できる。具体的には、育成終了から昇温開始までの時間tを10min以内にし、好ましくは育成終了後直ちに融液8の昇温を開始する(t≒0(min))。
【0030】
融液8を溶融温度の940℃程度まで昇温させた後、必要であれば、磁性ガーネット単結晶膜12となって融液8から減少した溶質の成分を含む追加材料を坩堝4内に追加する(ステップS10)。追加材料の分量は、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の重量や膜厚等に基づいて算出される。あるいは、育成前後での融液8の重量変化に基づいて、追加材料の分量を算出してもよい。その後、ステップS4〜S10を繰り返し、複数の磁性ガーネット単結晶膜12を順次育成する。
【0031】
本実施の形態では、坩堝4内に充填した原材料を繰り返し使用して複数の磁性ガーネット単結晶膜12を順次育成している。したがって、坩堝4内に残存する材料を廃棄してしまうことがないため、磁性ガーネット単結晶膜12の育成コストを削減できる。さらに本実施の形態では、1つの磁性ガーネット単結晶膜12の育成終了後、次の磁性ガーネット単結晶膜12の育成を開始する前に追加材料を追加しているため、2回目以降の育成でも十分な膜厚の磁性ガーネット単結晶膜12が得られる。
【0032】
また、本実施の形態では、磁性ガーネット単結晶膜12の育成終了後から次の磁性ガーネット単結晶膜12の育成開始までの間、融液温度を固形物の析出しない所定温度以上の高温に保持している。これにより、融液8中に白金を含む複合酸化物が形成されることがなく、結晶欠陥の原因となる固形物が融液8中に析出することもない。したがって、2回目以降の磁性ガーネット単結晶膜12の育成で問題となる結晶欠陥の発生を抑制できる。
【0033】
以下、本実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法について、実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。
(実施例1)
白金製の坩堝4に、16.265gのGd2O3、18.977gのYb2O3、380.80gのFe2O3、16.833gのGeO2、78.946gのB2O3、2608.1gのBi2O3、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。融液温度を940℃まで上げて坩堝4内の原材料を融解し、白金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了後、直ちに昇温を開始して融液温度を940℃まで上昇させた(t≒0(min))。そして、育成された磁性ガーネット単結晶膜12の温度が室温まで徐々に低下する条件で、磁性ガーネット単結晶膜12を引き上げて電気炉外に取り出した。磁性ガーネット単結晶膜12を洗浄した後に膜厚を評価したところ、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Pt0.01Ge0.01であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0034】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd2O3、1.810gのYb2O3、6.296gのFe2O3、0.036gのGeO2、4.427gのBi2O3、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして940℃に維持されている融液8を白金製の攪拌用治具1を使用して攪拌し、追加材料を融解した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚495μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0035】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、結晶欠陥の発生数に有意な差はなかった。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は、共に1個/cm2であった。また、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12に割れの発生は認められなかった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となる2つのファラデー回転子を作製した。両ファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は、共に0.03dBであった。1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は45.0dBであり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は44.5dBであった。このように、良好な特性の得られる2枚の磁性ガーネット単結晶膜12を同じ融液8から問題なく育成することができた。
【0036】
(実施例2)
白金製の坩堝4に、16.265gのGd2O3、18.977gのYb2O3、380.80gのFe2O3、16.833gのGeO2、78.946gのB2O3、2608.1gのBi2O3、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。融液温度を940℃まで上げて坩堝4内の原材料を融解し、白金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了から10min経過後に昇温を開始し、融液温度を940℃まで上昇させた(t=10(min))。そして、育成された磁性ガーネット単結晶膜12の温度が室温まで徐々に低下する条件で、磁性ガーネット単結晶膜12を引き上げて電気炉外に取り出した。磁性ガーネット単結晶膜12を洗浄した後に膜厚を評価したところ、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Pt0.01Ge0.01であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0037】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd2O3、1.810gのYb2O3、6.296gのFe2O3、0.036gのGeO2、4.427gのBi2O3、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして940℃に維持されている融液8を白金製の攪拌用治具1を使用して攪拌し、追加材料を融解した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚505μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0038】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、結晶欠陥の発生数に有意な差はなかった。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は、共に1個/cm2であった。また、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12に割れの発生は認められなかった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となる2つのファラデー回転子を作製した。両ファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は、共に0.03dBであった。1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は46.0dBであり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は45.0dBであった。このように、良好な特性の得られる2枚の磁性ガーネット単結晶膜12を同じ融液8から問題なく育成することができた。
【0039】
(実施例3)
金製の坩堝4に、16.265gのGd2O3、18.977gのYb2O3、380.80gのFe2O3、20.554gのGeO2、78.946gのB2O3、2608.1gのBi2O3、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。融液温度を940℃まで上げて坩堝4内の原材料を融解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了から10min経過後に昇温を開始し、融液温度を940℃まで上昇させた(t=10(min))。そして、育成された磁性ガーネット単結晶膜12の温度が室温まで徐々に低下する条件で、磁性ガーネット単結晶膜12を引き上げて電気炉外に取り出した。磁性ガーネット単結晶膜12を洗浄した後に膜厚を評価したところ、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Ge0.02であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0040】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd2O3、1.810gのYb2O3、6.296gのFe2O3、0.072gのGeO2、4.427gのBi2O3、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして940℃に維持されている融液8を金製の攪拌用治具1を使用して攪拌し、追加材料を融解した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚510μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0041】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、結晶欠陥の発生数に有意な差はなかった。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は、共に1個/cm2以下であった。また、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12に割れの発生は認められなかった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となる2つのファラデー回転子を作製した。両ファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は、共に0.01dBであった。1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は46.5dBであり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子の消光比は45.8dBであった。
【0042】
本実施例では、融液8に接触する坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が、金で形成されている。金は融液にほとんど溶解しない上に、非常に酸化物を作り難い元素である。このため、磁性ガーネット単結晶膜12に金が取り込まれることはなく、融液中で不溶性の酸化物を作ることもない。したがって、実施例1及び2よりさらに良好な特性の得られる2枚の磁性ガーネット単結晶膜12を同じ融液8から育成することができた。なお、本実施例では、坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が全て金で形成されているが、坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2は金を主成分として含む材質で形成してもよい。また、坩堝4が金(又は金を主成分として含む材質)で形成されていれば、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が他の材質で形成されていてもほぼ同様の効果が得られる。
【0043】
(比較例)
白金製の坩堝4に、16.265gのGd2O3、18.977gのYb2O3、380.80gのFe2O3、16.833gのGeO2、78.946gのB2O3、2608.1gのBi2O3、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。融液温度を940℃まで上げて坩堝4内の原材料を融解し、白金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了から30min経過後に昇温を開始し、融液温度を940℃まで上昇させた(t=30(min))。そして、育成された磁性ガーネット単結晶膜12の温度が室温まで徐々に低下する条件で、磁性ガーネット単結晶膜12を引き上げて電気炉外に取り出した。磁性ガーネット単結晶膜12を洗浄した後に膜厚を評価したところ、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Pt0.01Ge0.01であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0044】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd2O3、1.810gのYb2O3、6.296gのFe2O3、0.036gのGeO2、4.427gのBi2O3、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして940℃に維持されている融液8を白金製の攪拌用治具1を使用して攪拌し、追加材料を融解した。CaMgZr置換GGG基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、融液温度を850℃まで下げてから基板10の片面を融液8に接触させて、融液温度を838℃まで徐々に低下させながらエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚485μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0045】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12にはほとんど結晶欠陥は認められなかったが、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12の表面には多数の結晶欠陥が認められた。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は1個/cm2であり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は56個/cm2であった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となるファラデー回転子を作製した。1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子は、波長1.55μmにおける光挿入損失が0.03dBであり、消光比が46.0dBであった。2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子は、波長1.55μmにおける光挿入損失が0.03dBであり、消光比が22.6dBであった。2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子は、結晶欠陥の増加が原因で消光比が極めて悪化していた。このように、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12は、ファラデー回転子の製造には使えない結果となった。
【0046】
表1は、上記の実施例及び比較例で得られた磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子の特性等をまとめて示している。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、1回目の育成終了から10min以内の間に昇温を開始した実施例1乃至3では、その後の2回目の育成でも良好な特性の磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子が得られた。これに対し、1回目の育成終了から30min経過後に昇温を開始した比較例では、その後の2回目の育成では良好な特性の磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子が得られなかった。
【0049】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、結晶欠陥の少ない磁性ガーネット単結晶膜を低コストで育成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。
【図3】攪拌用治具を用いて溶融物を攪拌している状態を示す図である。
【図4】基板固定用治具でGGG単結晶基板を固定し、液相エピタキシャル法を用いて磁性ガーネット単結晶膜を育成している状態を示す図である。
【図5】従来の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 攪拌用治具
2 基板固定用治具
4 坩堝
6 攪拌棒
7 支持棒
8 融液
10 基板
11加熱コイル
12 磁性ガーネット単結晶膜
Claims (9)
- 金で形成された坩堝に原材料を充填し、
前記原材料を所定の溶融温度で融解して融液を生成し、
前記融液を用いて液相エピタキシャル法により磁性ガーネット単結晶膜を育成した後に、前記融液の温度を膜育成終了時より低下させずに前記融液を昇温させてから、次の磁性ガーネット単結晶膜の育成を開始すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項1記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記磁性ガーネット単結晶膜の育成終了から10分以内に前記溶融温度近傍までの前記融液の昇温を開始すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項2記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記磁性ガーネット単結晶膜の育成終了後、直ちに前記融液の昇温を開始すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記磁性ガーネット単結晶膜を育成した後に、前記融液に所定量の追加材料を追加すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項4記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記追加材料は、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成により前記融液から減少した溶質の成分を含むこと
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項5記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記磁性ガーネット単結晶膜の重量に基づいて前記所定量を算出すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項5記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
前記磁性ガーネット単結晶膜の育成前後での前記融液の重量変化に基づいて前記所定量を算出すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
金で形成された攪拌用治具で前記融液を攪拌すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。 - 請求項1乃至8のいずれか1項に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
金で形成された基板固定用治具で固定された基板に前記磁性ガーネット単結晶膜を育成すること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
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