JP4253221B2 - 磁性ガーネット単結晶膜の製造方法 - Google Patents

磁性ガーネット単結晶膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液相エピタキシャル法により磁性ガーネット単結晶膜を育成する磁性ガーネット単結晶膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁性ガーネット単結晶膜は、光アイソレータ等に用いられるファラデー回転子として光通信システムに多く用いられている。図5は、液相エピタキシャル(LPE)法による従来の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。図6は、図5の各ステップでの坩堝(るつぼ)内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図5及び図6に示すように、まず白金(Pt)を主成分とする貴金属製の坩堝に、鉄(Fe)、希土類元素、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、ホウ素(B)などの酸化物からなる原材料を充填する(ステップS21)。次に、原材料を充填した坩堝を電気炉内に配置する(ステップS22)。電気炉中で900〜1000℃程度の温度まで昇温させて坩堝内の材料を溶融し(ステップS23)、白金を主成分とする貴金属製の攪拌用治具で材料の溶融物を攪拌して均一な溶液にする(ステップS24)。
【0003】
その後、融液温度を700〜900℃程度の育成温度(育成開始温度)に設定する(ステップS25)。次に、白金を主成分とする貴金属製の基板固定用治具でGGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)単結晶基板などを固定し、当該基板の片面を融液に接触させて(ステップS26)、融液温度を徐々に降温させながら基板上に厚さ数百μmの磁性ガーネット単結晶膜をエピタキシャル成長させる(ステップS27)。育成終了後、磁性ガーネット単結晶膜を融液から切り離し(ステップS28)、炉温を室温まで徐々に冷却する(ステップS29)。これにより、磁性ガーネット単結晶膜が徐冷されるとともに、坩堝内に残存する融液が冷却されて固化する。次に、磁性ガーネット単結晶膜を坩堝から取り出す(ステップS30)。その後、坩堝内に残存して固化している材料を取り除いて廃棄し、坩堝を酸で洗浄する(ステップS31)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−1395号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、磁性ガーネット単結晶膜の育成に1度使用されて育成後に坩堝内に残存する材料は廃棄される。すなわち、坩堝内に充填された原材料の成分のうち一部のみが磁性ガーネット単結晶膜となり、残りは廃棄されることになる。磁性ガーネット単結晶膜の育成には廃棄分を含む原材料全体の費用が必要になるため、磁性ガーネット単結晶膜の育成コストが極めて高くなってしまうという問題が生じる。
【0006】
上記の問題を解決するために、坩堝内に残存する材料を廃棄せずに繰り返し使用する手法が考えられる。しかしながら、1回目の磁性ガーネット単結晶膜育成後に坩堝内に残存する材料を繰り返し用いて2回目以降の磁性ガーネット単結晶膜の育成を試みると、2回目以降に育成された磁性ガーネット単結晶膜に多数の結晶欠陥や割れが発生してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、結晶欠陥や割れの少ない磁性ガーネット単結晶膜を低コストで育成できる磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、金又は金を含む材質で形成された坩堝に原材料を充填し、前記原材料を融解して融液を生成し、前記融液を用いて、液相エピタキシャル法により複数の磁性ガーネット単結晶膜を繰り返し育成することを特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法によって達成される。
【0009】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、金又は金を含む材質で形成された攪拌用治具で前記融液を攪拌することを特徴とする。上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、金又は金を含む材質で形成された基板固定用治具で固定された基板に前記磁性ガーネット単結晶膜を育成することを特徴とする。
【0010】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜を育成する毎に、前記融液に所定量の追加材料を追加することを特徴とする。上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記融液が冷却されて固化した後に前記追加材料を追加することを特徴とする。
【0011】
上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記追加材料は、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成により前記融液から減少した溶質の成分を含むことを特徴とする。上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の重量に基づいて前記所定量を算出することを特徴とする。上記本発明の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成前後での前記融液の重量変化に基づいて前記所定量を算出することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。本実施の形態は、原材料を溶融した融液を繰り返し使用して複数の磁性ガーネット単結晶膜を順次育成する際に、金(Au)又は金を主成分とする材質でそれぞれ形成された坩堝、攪拌用治具及び基板固定用治具を用いる点に特徴を有している。
【0013】
磁性ガーネット単結晶膜の主要な構成元素は、希土類元素、鉄、ビスマス等である。坩堝内には、これらの酸化物が原材料として充填される。磁性ガーネット単結晶膜の育成に使用されるのは、坩堝内に充填される原材料のうちごく一部だけである。そのため、育成後に坩堝内に残存した材料を繰り返し使用することができれば、材料コストを削減できるとともに、坩堝に材料を充填する工程や坩堝を洗浄する工程などを削減できる。
【0014】
しかしながら、白金を主成分とする材質で形成された従来の坩堝や治具を用いて、2回目の磁性ガーネット単結晶膜の育成を試みると、1回目の育成時には確認できなかった固形物の析出が融液中に認められる。この固形物は、それまでの磁性ガーネット単結晶膜育成で坩堝や治具から溶解した白金と他の元素との複合酸化物である。白金は融液に溶解し難いために坩堝や治具の材質に使われているものの、若干は溶解してしまう。融液に溶解した白金は、他の元素と複合酸化物を作ると非常に溶解し難い固形物になる。一度冷却して固化した材料を再び融解してもこの固形物が融液に溶解することはほとんどない。そして、この白金を含有する複合酸化物が結晶成長部に付着すると、結晶成長が阻害されて結晶欠陥が生じてしまう。また、融液に固形物が浮遊すると、その固形物を核として結晶成長が生じるため融液の組成が変動してしまう。このため、成長中の磁性ガーネット単結晶膜の組成が変動し、磁性ガーネット単結晶膜表面に同心円状の割れが生じてしまう。
【0015】
それに対して、金は融液にほとんど溶解しない上に、非常に酸化物を作り難い元素である。このため、融液中で不溶性の酸化物を作ることはない。金又は金を主成分として含む材質で形成された坩堝や治具を用いると、融液を複数回使用して繰り返し磁性ガーネット単結晶膜を育成する際に、一旦融液を冷却して固化した後の2回目以降の育成であっても融液中への固形物の析出は認められない。したがって、育成される磁性ガーネット単結晶膜の結晶欠陥や割れを大幅に抑制することができる。なお、本実施の形態では、坩堝や基板の大きさ等に基づいて決定される最大膜厚に近い膜厚の磁性ガーネット単結晶膜を複数育成することを前提としている。
【0016】
図1は、本実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。図2は、図1の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図1及び図2に示すように、まず、金又は金を主成分として含む材質で形成された坩堝に、鉄、希土類元素、ビスマス、鉛、ホウ素などの酸化物からなる原材料を充填する(ステップS1)。次に、原材料を充填した坩堝を電気炉内に配置する(ステップS2)。以上の工程は、例えば室温で行われる。次に、電気炉中で900〜1000℃程度の温度まで昇温させて坩堝内の材料を溶融し(ステップS3)、金又は金を主成分として含む材質で形成された攪拌用治具で材料の溶融物を攪拌して均一な溶液にする(ステップS4)。
【0017】
図3は、攪拌用治具を用いて溶融物を攪拌している状態を示している。図3に示すように、攪拌用治具1は、金又は金を主成分として含む材質で長方形平板状に形成されている。攪拌用治具1は、その一端辺のほぼ中央でセラミック製の攪拌棒6に接続固定されている。金又は金を主成分として含む材質で形成された坩堝4内に攪拌棒6を搬入し、電気炉の加熱コイル11に通電することにより加熱されて溶融した融液8中に攪拌棒6先端の攪拌用治具1を浸す。攪拌棒6を棒の中心軸回りに回転させると攪拌用治具1も共に回転し、融液8を攪拌することができる。
【0018】
次に、融液温度を700〜900℃程度の育成開始温度に設定する(ステップS5)。次に、金又は金を主成分として含む材質で形成された基板固定用治具でGGG単結晶基板などを固定し、当該基板の片面を融液8に接触させて(ステップS6)、融液温度を例えば徐々に降温させながら基板上に厚さ数百μmの磁性ガーネット単結晶膜を育成する(ステップS7)。
【0019】
図4は、基板固定用治具でGGG単結晶基板を固定し、液相エピタキシャル法を用いて磁性ガーネット単結晶膜を育成している状態を示している。図4に示すように、基板固定用治具2は、基板10を3点で支持する3本の線状支持部と、基板10を保持するために各線状支持部の一端側で折り曲げられた基板保持部とを有している。線状支持部及び基板保持部は、金又は金を主成分として含む材質で形成されている。各線状支持部の他端側は、一つにまとめられてセラミック製の支持棒7に接続固定されている。支持棒7を所定距離だけ貴金属製の坩堝4内に搬入して、支持棒7先端の基板固定用治具2に保持された基板10の少なくとも片面を坩堝4内の融液8中に浸す。そして、支持棒7を棒の中心軸回りに回転させると、基板10も基板固定用治具2と共に回転し、基板10片面に融液8を十分接触させることができる。このとき、基板固定用治具2の基板保持部は、基板10片面と共に融液8中に浸されている。基板10片面には、磁性ガーネット単結晶膜12がエピタキシャル成長する。
【0020】
育成終了後、磁性ガーネット単結晶膜12を融液8から切り離し(ステップS8)、炉温を室温まで徐々に冷却する(ステップS9)。これにより、磁性ガーネット単結晶膜12が徐冷されるとともに、坩堝4内に残存する融液8が冷却されて固化する。その後、磁性ガーネット単結晶膜12を坩堝4から取り出す(ステップS10)。次に、必要であれば、磁性ガーネット単結晶膜12となって融液8から減少した溶質の成分を含む追加材料を坩堝4内に追加する(ステップS11)。追加材料の分量は、得られた磁性ガーネット単結晶膜12の重量や膜厚等に基づいて算出される。あるいは、育成前後での融液(固化している状態を含む)8の重量変化に基づいて、追加材料の分量を算出してもよい。その後、ステップS3〜S11を繰り返し、複数の磁性ガーネット単結晶膜12を順次育成する。
【0021】
本実施の形態によれば、坩堝4内に充填した原材料を繰り返し使用して複数の磁性ガーネット単結晶膜12を順次育成している。したがって、坩堝4内に残存する材料を廃棄してしまうことがないため、磁性ガーネット単結晶膜12の育成コストを削減できる。
【0022】
また、本実施の形態によれば、融液8に接触する坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が、金又は金を主成分として含有する材質で形成されている。このため、磁性ガーネット単結晶膜12の育成が終了する度に融液8を冷却しても、融液8中に固形物は析出しない。したがって、従来の磁性ガーネット単結晶膜12の徐冷方法を用いても、結晶欠陥や割れの発生が少ない磁性ガーネット単結晶膜12を育成できる。
【0023】
以下、本実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法について、実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。
(実施例1)
金製の坩堝4に、16.265gのGd23、18.977gのYb23、380.80gのFe23、18.564gのGeO2、78.946gのB23、2608.1gのBi23、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。炉温を950℃まで上げて坩堝4内の原材料を融解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG単結晶基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了後、炉温を室温まで下げて磁性ガーネット単結晶膜12を取り出した。得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Ge0.02であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0024】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd23、1.810gのYb23、6.296gのFe23、0.072gのGeO2、4.427gのBi23、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして炉温を950℃まで上げて再び坩堝4内の材料を溶解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚505μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0025】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、結晶欠陥の発生数に有意な差はなかった。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は、共に1個/cm2以下であった。また、2枚の磁性ガーネット単結晶膜12に割れの発生は認められなかった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となる2つのファラデー回転子を作製した。両ファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は、共に0.01dBであった。消光比は、1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子が45.0dBであり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子が45.5dBであった。このように、良好な特性の得られる2枚の磁性ガーネット単結晶膜12を同じ融液8から問題なく育成することができた。
【0026】
(実施例2)
金製の坩堝4に、16.265gのGd23、18.977gのYb23、380.80gのFe23、18.564gのGeO2、78.946gのB23、2608.1gのBi23、及び2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。950℃まで炉温を上げて坩堝4内の原材料を融解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG単結晶基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了後、炉温を室温まで下げて磁性ガーネット単結晶膜12を取り出した。得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Ge0.02であった。基板10及び磁性ガーネット単結晶膜12の重量を測定し、その重量と予め測定された基板10の重量との差から磁性ガーネット単結晶膜12の重量を求めた。磁性ガーネット単結晶膜12の重量は16.1gであった。
【0027】
1回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.444gのGd23、1.810gのYb23、6.296gのFe23、0.072gのGeO2、4.427gのBi23、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして炉温を950℃まで上げて再び坩堝4内の材料を溶解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚505μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0028】
2回目の育成で融液8から減少した材料の重量を求め、その分の3.478gのGd23、1.828gのYb23、6.359gのFe23、0.072gのGeO2、4.471gのBi23、及び0.071gのPbOを追加材料として坩堝4内に追加した。そして炉温を950℃まで上げて再び坩堝4内の材料を溶解し、金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。基板10を金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚495μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0029】
育成した3枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、結晶欠陥の発生数に有意な差はなかった。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、3枚の磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は、全て1個/cm2以下であった。また、3枚の磁性ガーネット単結晶膜12に割れの発生は認められなかった。これらの磁性ガーネット単結晶膜12をそれぞれ加工して無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となる3つのファラデー回転子を作製した。これらのファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は、全て0.01dBであった。消光比は、1枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子が44.0dBであり、2枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子が45.5dBであり、3枚目の磁性ガーネット単結晶膜12を用いて作製されたファラデー回転子が45.0dBであった。このように、良好な特性の得られる3枚の磁性ガーネット単結晶膜12を同じ融液8から問題なく育成することができた。
【0030】
(比較例)
白金製の坩堝4に、16.265gのGd23、18.977gのYb23、380.80gのFe23、16.833gのGeO2、78.946gのB23、2608.1gのBi23、2020.6gのPbOを原材料として充填し、坩堝4を電気炉内に配置した。炉温を950℃まで上げて坩堝4内の材料を溶解し、白金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG単結晶基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。育成終了後、炉温を室温まで下げて磁性ガーネット単結晶膜12を取り出した。得られた磁性ガーネット単結晶膜12の膜厚は500μmであった。蛍光X線装置により分析したところ、磁性ガーネット単結晶膜12の組成は、Bi1.20Gd1.20Yb0.58Pb0.02Fe4.98Pt0.01Ge0.01であった。
【0031】
次に、再び炉温を950℃まで上げ、1回目の育成で使用して坩堝内に残存する材料を溶解し、白金製の攪拌用治具1を使用して融液8を攪拌した。ところが融液8表面には、固形物が溶解することなく残っていた。基板10を白金製の基板固定用治具2に取り付けて炉内に投入し、850℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚155μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。
【0032】
育成した2枚の磁性ガーネット単結晶膜12の表面を目視により観察したところ、1回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12にはほとんど結晶欠陥は認められなかったが、2回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12の表面には多数の結晶欠陥が認められ、同心円状の割れが多数発生していた。顕微鏡を用いて結晶欠陥密度の評価をしたところ、1回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は1個/cm2以下であり、2回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12の結晶欠陥密度は56個/cm2であった。1回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12を加工して、無反射膜の成膜を行い、波長1.55μmの光に対して回転角45deg.となるファラデー回転子を作製した。ファラデー回転子の波長1.55μmにおける光挿入損失は0.03dBで、消光比は46.0dBであった。一方、2回目に育成した磁性ガーネット単結晶膜12は膜厚が薄いため、ファラデー回転子に加工することができなかった。このように、良好な特性の得られる磁性ガーネット単結晶膜12は、同じ融液8から1回しか育成できなかった。
【0033】
表1は、上記の実施例及び比較例で得られた磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子の特性等をまとめて示している。
【0034】
【表1】
Figure 0004253221
【0035】
表1に示すように、金製の坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2を用いるとともに、育成の度に材料を追加した実施例1及び2では、良好な特性の磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子が複数個得られた。これに対し、白金製の坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2を用いるとともに、育成の度に材料を追加していない比較例では、良好な特性の磁性ガーネット単結晶膜12及びファラデー回転子が1つしか得られなかった。
【0036】
本発明は、上記実施の形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施の形態では、育成終了後の磁性ガーネット単結晶膜12を徐冷する工程(ステップS9)では、坩堝4内の融液8も冷却されて固化しているが、本発明はこれに限られない。磁性ガーネット単結晶膜12を融液8から切り離して坩堝4から引き上げた後に徐冷すれば、坩堝4内の融液8の温度は維持したままでもよい。この場合、次の磁性ガーネット単結晶膜12を育成する前に材料を再び溶融する工程(ステップS3)では、ステップ11で追加した追加材料だけを溶融すればよい。
【0037】
また、上記実施の形態では、坩堝4、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が全て金又は金を主成分として含む材質で形成されているが、本発明はこれに限られない。坩堝4が金又は金を主成分として含む材質で形成されていれば、攪拌用治具1及び基板固定用治具2が他の材質で形成されていても、上記実施の形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0038】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、結晶欠陥や割れの少ない磁性ガーネット単結晶膜を低コストで育成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態による磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。
【図3】攪拌用治具を用いて溶融物を攪拌している状態を示す図である。
【図4】基板固定用治具でGGG単結晶基板を固定し、液相エピタキシャル法を用いて磁性ガーネット単結晶膜を育成している状態を示す図である。
【図5】従来の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図5の各ステップでの坩堝内の原材料(融液)の温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 攪拌用治具
2 基板固定用治具
4 坩堝
6 攪拌棒
7 支持棒
8 融液
10 基板
11 加熱コイル
12 磁性ガーネット単結晶膜

Claims (8)

  1. 金で形成された坩堝に原材料を充填し、
    前記原材料を融解して融液を生成し、
    前記融液を用いて、液相エピタキシャル法により複数の磁性ガーネット単結晶膜を繰り返し育成すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  2. 請求項1記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    金で形成された攪拌用治具で前記融液を攪拌すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    金で形成された基板固定用治具で固定された基板に前記磁性ガーネット単結晶膜を育成すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    前記磁性ガーネット単結晶膜を育成する毎に、前記融液に所定量の追加材料を追加すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  5. 請求項4記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    前記融液が冷却されて固化した後に前記追加材料を追加すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  6. 請求項4又は5に記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    前記追加材料は、前記磁性ガーネット単結晶膜の育成により前記融液から減少した溶質の成分を含むこと
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  7. 請求項6記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    前記磁性ガーネット単結晶膜の重量に基づいて前記所定量を算出すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
  8. 請求項6記載の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法において、
    前記磁性ガーネット単結晶膜の育成前後での前記融液の重量変化に基づいて前記所定量を算出すること
    を特徴とする磁性ガーネット単結晶膜の製造方法。
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