図1は、本発明の実施の一形態である摩擦撹拌接合装置20の要部を示すブロック図である。摩擦撹拌接合装置20は、接合すべき複数の被接合部材22a,22bが互いに重ね合わされて設けられる被接合物22に対して位置決めされた状態で、各接合物22a,22bを互いに摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:略称FSW)する装置である。本発明において被接合部材22a,22bが重ね合わされる状態は、被接合部材22a,22bが互いに当接されて突き合わされる場合も含み、また複数の被接合部材22a,22bの間に隙間が形成されるものも含む。
摩擦撹拌接合装置20は、たとえばアルミ合金製の薄厚および中厚製品の製造に用いられ、自動車ボディ、意匠構造物、重ね接合物および突合せ接合物の製造に用いられる。
摩擦撹拌接合装置20は、ツール保持具23に装着した接合ツール21を基準軸線L1まわりに回転駆動するツール回転駆動手段24と、接合ツール21を基準軸線に沿って変位駆動するツール変位駆動手段25とを有する。
また摩擦撹拌接合装置20は、接合にあたって接合ツール21の先端面14と、接合ツール21を装着するツール保持具23に対して反対側の被接合物22の背表面15との基準軸線L1方向の距離であるツール間距離D3を取得するツール間距離取得手段44と、ツール回転駆動手段24およびツール変位駆動手段25を制御する制御手段48とをさらに有する。
制御手段48は、ツール間距離取得手段44が取得するツール間距離D3に基づいて、ツール間距離D3が予め定められる目標ツール間距離D4となる位置まで、接合ツール21を被接合物22に没入させるように、少なくともツール変位駆動手段25を制御する。
摩擦撹拌接合装置20は、円筒状の接合ツール21を被接合物22に回転接触させるとともに接合ツール21を被接合物22に押付け、接合ツール21と被接合物22とに摩擦熱を生じさせる。次に摩擦熱によって被接合物22を軟化させ、接合ツール21を被接合物22内に没入させる。接合ツール21は、少なくとも各被接合部材22a,22bが互いに対向する対向部分19a,19bを含む領域である撹拌領域に没入するまで変位駆動される。
次に接合ツール21によって、撹拌領域における被接合部材22a,22bを、流動化して撹拌し、各被接合部材22a,22bのそれぞれの対向部分19a,19bが混ざり合う接合領域22cを形成する。次に接合ツール21を回転させながら被接合物22から離脱させることによって、流動する接合領域22cを冷却して固体化し、各被接合部材22a,22bを接合される。
接合ツール21は、耐磨耗性を有する。接合ツール21は、被接合部材22a,22bよりも高度の高い材質から成り、たとえば超硬合金から成る。また摩擦撹拌接合装置20は、被接合部材22a,22bを接合ツール21と反対側から支持する支持ツール30を備えてもよく、接合ツール21と支持ツール30とによって被接合物22を挟持した状態で接合動作を行ってもよい。支持ツール30は、たとえば鋼または銅から成る。
接合ツール21は、円筒状に形成されるショルダ部26と、ショルダ部26の一端面となるショルダ面26aから軸線方向一方側に突出する円筒状のピン部27とを有する。ショルダ部26は、軸線方向に垂直な断面形状が軸線方向に沿って一様に形成され、ツール保持具23に装着される。
ピン部27の直径は、ショルダ部26の直径よりも小さく形成され、ショルダ部26およびピン部27の互いの軸線は、同一線上に配置される。たとえばピン部27は、直径が5mmでかつ軸線方向寸法が3mmである。またショルダ部26の直径は、10mmである。
図2は、摩擦撹拌接合装置20の一部を切断して示す断面図である。摩擦撹拌接合装置20は、予め定められる基準軸線L1まわりに回転自在かつ基準軸線L1に沿って変位自在に構成され、接合ツール21が着脱自在に装着されるツール保持具23と、ツール保持具23を基準軸線L1まわりに回転駆動するツール回転駆動手段24と、ツール保持具23を基準軸線L1に沿って変位駆動するツール変位駆動手段25と、ツール保持具23に対向する位置に設けられ、ツール保持具23と反対側から被接合物22を支持するための支持ツール30を有する支持ツール形成部31と、ロボットアーム29に連結される基台28とを含んで構成される。
ツール保持具23は、ツール回転駆動手段24によって基準軸線L1まわりに回転するとともにツール変位駆動手段25によって基準軸線L1に沿って移動する。ツール保持具23は、接合ツール21を着脱自在に装着する。ツール保持具23に装着される接合ツール21は、ツール保持具23とともに基準軸線L1まわりに回転するとともに基準軸線L1に沿って移動する。
ツール回転駆動手段24は、ツール保持具23を回転自在に支持するツール回転用軸受34と、ツール保持具23を基準軸線L1まわりに回転させるためのツール回転モータ35と、ツール回転モータ35からの回転力をツール保持具23に伝達する伝達部18とを有する。
回転用軸受34は、ツール保持具23を部分的に支持する。ツール保持具23は、回転用軸受34に支持される残余の部分が回転用軸受34から基準軸線L1に沿って突出する。またツール回転モータ35は、予め定められる一定回転速度で回転する。ツール回転モータ35は、回転速度を可変可能に構成されてもよい。
ツール変位駆動手段25は、基準軸線L1に沿って変位自在に構成される可動部17と、可動部17を基準軸線L1に沿って変位自在に支持する支持部36と、可動部17を基準軸線L1に沿って変位駆動するためのツール変位モータ37と、ツール変位モータ37からの回転力を基準軸線L1に沿う方向の直進力に変換して可動部17に伝達する伝達部16とを有する。
支持部36は、可動部17を支持するガイドレールによって実現され、ツール変位モータ37は、サーボモータによって実現される。また伝達部16は、ツール変位モータ37の回転力をねじまたは歯車などを用いて直進力に変換する。ツール変位モータ37は、その電流値がフィードバック制御され、予め定められる出力トルクで回転する。ツール変位モータ37は、出力トルクが可変可能である。
ツール変位駆動手段25の可動部17には、ツール回転手段24の支持部34およびツール回転モータ35が固定される。またツール変位駆動手段25の支持部36は、基台28に固定される。ツール変位モータ37を回転させることによって、可動部17とともにツール回転駆動手段24を基台28に対して変位駆動することができる。
支持ツール形成部31は、略L字状に形成される。支持ツール形成部31は、基準軸線L1に略平行に延びる第1形成部分38と、第1形成部分38の基準軸線方向一端部38aに屈曲して連なる第2形成部分39とを有する。
第1形成部分38の基準軸線方向他端部38bは、基台28に固定される。第2形成部分39は、第1形成部分38の基準軸線方向一端部38aから基準軸線L1に向かって延びて、支持ツール30が設けられる。支持ツール30は、第2形成部分39からツール保持具23に向かって基準軸線L1に沿って突出する。支持ツール30は、基準軸線L1に同軸な円柱状に形成される。
基台28は、上述するようにツール変位駆動手段25の支持部36および支持ツール形成部31の基準軸線方向他端部38bが固定される。また基台28は、ロボットアーム29の先端部29aに連結される。基台28は、ロボットアーム29によって変位駆動され、被接合物22の接合位置に移動する。
ツール変位駆動手段25がツール保持具23を基準軸線L1に沿って変位駆動することによって、支持ツール30とツール保持具23との間の間隔は調整可能に構成される。また接合時に被接合物22に対する接合ツール21の加圧力F1および回転速度を制御することによって、3枚以上の複数の被接合部材から成る被接合物の接合にも適用できるように構成される。
図3は、摩擦撹拌接合装置20を変位駆動する多関節ロボット130を示す側面図である。多関節ロボット130は、第1アーム134と、第2アーム137と、第3アーム129とを有する。
第1アーム134は、ベース131に設けられる第1関節132に連結されてy軸まわりに角変位する。また第1アーム134は、ベース131に設けられる第2関節133によってz軸まわりに角変位する。第2アーム137は、第1アーム134に設けられる第3関節135を介して第1アーム134に連結されてy軸まわりに角変位する。また第2アーム137に設けられる第4関節136によって第2アーム先端部136aが部分的にx軸まわりに角変位する。
第3アーム29は、第2アーム先端部136に設けられる第5関節138を介して第2アーム137に連結される。第3アーム29は、第5関節138によってy軸まわりに角変位する。第3アーム29の先端部129aには、基台28が連結される。上述するx軸、y軸およびz軸は、互いに直交する軸線である。
多関節ロボット130の各アーム134,137,29は、たとえばサーボモータから成るアクチュエータによって駆動される。多関節ロボット130は、各アーム134,137,29を制御するロボット制御部160をさらに有する。ロボット制御部160は、アクチュエータに制御信号を伝えるケーブル161を介して、教示された動作を各アーム134,137,29に行わせる。
図4は、摩擦撹拌接合装置20の電気的構成を示すブロック図である。摩擦撹拌接合装置20は、ツール回転駆動手段24と、ツール変位駆動手段25と、ツール移動量検出手段40と、加圧力検出手段41と、たわみ補正データ蓄積手段42と、接合条件データ蓄積手段43と、ツール間距離取得手段44と、たわみ量算出手段45と、入力手段46と、表示手段47と、制御手段48とを含む。
ツール移動量検出手段40は、ツール保持具23の基準軸線L1方向の移動距離を検出する。ツール移動量検出手段40は、たとえばツール変位モータ37の回転角度位置を検出するエンコーダによって実現される。ツール移動量検出手段40は、検出結果をツール間距離取得手段44に与える。ツール移動量検出手段40は、接合ツール21の位置を検出するツール位置検出手段となる。
また加圧力検出手段41は、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力F1を検出する。具体的に加圧力検出手段41は、ツール変位モータ37の電流の値を検出する。ツール変位モータ37の電流の値は、ツール変位モータ37の出力トルクに比例し、接合ツール21の加圧力F1に対応する。加圧力検出手段41は、検出結果をたわみ量算出手段45に与える。
また加圧力検出手段41は、支持ツール30に設けられるロードセル41であってもよい。ロードセル41は、支持ツール30が被接合物22から与えられる加圧力F2を検出し、この検出値を接合ツール21の加圧力F1としてたわみ量算出手段45に与える。ロードセル41を用いて接合ツール21の加圧力F1を求めることによって、ツール変位モータ37の電流の値から加圧力F1を求める場合に比べて、より正確な加圧力F1を求めることができる。
たわみ補正データ蓄積手段42は、接合ツール21の加圧力F1に対して、摩擦撹拌接合装置20がたわむたわみ量δをデータベース化して蓄積する。たわみ量δは、支持ツール30が加圧力を受けて基準状態から基準軸線L1に沿ってたわむ支持ツールたわみ量と、接合ツール21が加圧力F1に対する反力F3を被接合物22から受けて、基準状態から基準軸線L1に沿ってたわむ接合ツールたわみ量との総合した値となる。このたわみ量δは、実験によって予め求められる。
たわみ量算出手段45は、加圧力検出手段41から与えられる検出結果に基づいて、たわみ補正データ蓄積手段42からたわみ量δを抽出する。またたわみ量算出手段45は、抽出結果をツール間距離取得手段44に与える。
支持ツール30は、接合時に被接合物22を支持し、ツール保持具23に対して反対側の被接合物22の面である背表面15に当接する。したがってたわみ量算出手段45は、被接合物22の背表面15の基準位置に対する位置関係を検出する背表面位置検出手段となる。
ツール間距離取得手段44は、ツール移動量検出手段40の検出結果と、たわみ量算出手段45との抽出結果に基づいて、ツール間距離D3を算出する。ツール間距離D3は、接合ツール21の先端面であるピン部27の先端面14と、支持ツール30の先端面13との距離である。言換えると、ツール間距離D3は、ピン部27の先端面14と、ツール保持具23に対して反対側の被接合物22の背表面15との距離である。ツール間距離取得手段44は、算出結果を制御手段48に与える。
入力手段46は、各被接合部材22a,22bの板厚、各被接合部材22a,22bの材質、接合すべき被接合物22a,22bの枚数などの設定条件が作業者などから入力される。
接合条件データ蓄積手段43は、入力手段46から入力される設定条件に対して最適な接合条件をデータベース化して蓄積する。接合条件は、撹拌接合装置20の接合時の接合条件である。接合条件は、接合ツール21の回転速度、接合ツール21の加圧力、接合時間および目標ツール間距離D4などである。目標ツール間距離D4は、接合ツール21が被接合物22に没入し、被接合物22の接合が良好に接合されるときのツール間距離D3である。このような接合条件は、実験によって予め求められる。
表示手段47は、少なくとも接合ツール21が背表面15に最も近接したときの最小ツール間距離に基づく接合結果を報知する報知手段である。表示手段47は、最小ツール間距離が予め定められる目標ツール間距離以下に設定される限界ツール間距離より小さい場合に、接合異常であることを接合結果として表示する。
制御手段48は、ツール回転駆動手段24およびツール変位駆動手段25を制御する。本実施の形態では、制御手段48は、ツール間距離D3に基づいて、ツール変位駆動手段25を制御することによって、接合ツール21から被接合物22に与える加圧力F1を調整する。
上述する電気的構成において、たわみ補正データ蓄積手段42および接合条件データ蓄積手段43は、たとえばコンピュータ読取可能な記録媒体である。またツール間距離取得手段44、たわみ量算出手段45および制御手段48は、予め定められる各プログラムを実行することによって実現される。
入力手段46は、作業者が設定条件を入力可能なスイッチが設けられ、たとえばキーボード、タッチパネルなどを含む。また表示手段47は、液晶ディスプレイなどによって実現される。
図5は、支持ツール形成部31のたわみを誇張して摩擦撹拌接合装置20の一部を切断して示す断面図である。接合時に摩擦撹拌接合装置20は、被接合物22と摩擦撹拌接合装置20とが相対的に位置決めされた状態で、装着した接合ツール21によって被接合物22を基準軸線L1に沿って加圧する。このとき接合ツール21と支持ツール30とが、被接合物22を協働して挟持する。接合ツール21から加圧力F1が与えられた被接合物22は、基準軸線L1に沿って支持ツール30を加圧する。支持ツール30を有する支持ツール形成部31は、被接合物22から加圧力F2を受けて、基準軸線L1に沿ってたわむ。
ツール変位モータ37の出力トルクは、ツール変位モータ37に流れる電流にほぼ比例する。ツール変位モータ37の出力トルクは、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力F1に対応し、出力トルクの変化に応じて加圧力F1も変化する。したがって加圧力検出手段41が、変位駆動モータ37に流れる電流値を検出することによって、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力F1を検出することができる。
またたわみ量δは、接合ツール21の加圧力F1にほぼ比例する。たわみ量算出手段45は、加圧力検出手段41によって加圧力F1が与えられると、与えられた加圧力F1に対応するたわみ量δをたわみ量補正データ蓄積手段42から抽出する。
図6は、接合ツール21が支持ツール30を加圧しない自然状態で、接合ツール21と支持ツール30とが当接した状態を示す断面図である。加圧しない状態で接合ツール21が支持ツール30に当接する場合、その基準軸線L1方向の当接位置が基準位置Pとして設定される。
図7は、接合ツール21と支持ツール30との間に隙間11がある状態を示す断面図である。接合ツール21は、ツール変位駆動手段25によって基準軸線方向L1に沿って変位駆動される。ツール移動量検出手段41は、接合ツール21の移動量を検出し、基準位置Pから接合ツール21の基準軸線L1方向の一端面となるピン部27の先端面14までの基準軸線距離である接合ツール距離D1を検出する。
ツール移動量検出手段41は、基準位置Pに対する接合ツール21のピン部27の先端面14の位置を検出する。接合ツール21が支持ツール30に近接するとともに接合ツール距離D1が短くなり、接合ツール21が支持ツール30から離反するとともに接合ツール距離D1が長くなる。
図8は、摩擦撹拌接合装置20のたわみを説明するための断面図である。接合ツール21が被接合物22を加圧しながら没入すると、被接合物22は、支持ツール30に加圧力F2を与える。これによって支持ツール30または支持ツールを支持する部分がたわむ。したがって支持ツール30の先端面13の位置は、基準位置Pから基準軸線L1に支持ツールたわみ距離D2Aだけ変位する。
また接合ツール21が被接合物22を加圧しながら没入すると、接合ツール21は、被接合物22から反力F3を受ける。これによって接合ツール21または接合ツール21を支持する部分がたわむ。したがって接合ツール21の先端面14の位置は、たわみがない場合の仮想接合ツール位置Qから基準軸線L1方向に接合ツールたわみ距離D2Bだけ変位する。
たわみ量算出手段45は、加圧力検出手段41が検出する接合ツール21の加圧力F1に基づいて、上述する支持ツール30のたわみ距離D2Aと接合ツール21のたわみ距離D2Bを総合した値を、たわみ補正データ蓄積手段42から抽出する。またツール間距離取得手段44は、ツール移動量検出手段41から接合ツール21および支持ツール30にたわみがない状態での接合ツール間距離D1を取得するとともに、たわみ量算出手段45から接合ツール21および支持ツール30のたわみ距離D2A,D2Bを取得する。ツール間距離取得手段44は、この接合ツール間距離D1とたわみ距離D2A,D2Bを足し合わせて、ツール間距離D3を取得する。
図9は、摩擦撹拌接合における制御手段48の動作を示すフローチャートである。また図10は、摩擦撹拌接合装置20の動作を説明するための断面図であり、図10(1)〜図10(5)の順に動作が進む。図9および図10を参照して、摩擦撹拌接合装置20の摩擦撹拌接合動作を説明する。
まずステップa0で、設定条件が作業者によって入力手段46から入力されるとともに、ツール保持具23に接合ツール21が装着され、接合動作を行うための準備動作が行なわれる。準備動作によって、被接合物22と摩擦撹拌接合装置20とが相対的に位置決めされる。ロボットアーム29によって摩擦撹拌接合装置20が被接合物22に向かって変位駆動される。
摩擦撹拌接合装置20と被接合物22との位置決めが完了すると、準備動作が完了したことを示す信号がロボット制御部160から制御手段48に与えられる。これによって制御手段48は、ステップa1に進み、摩擦撹拌接合における動作を開始する。このとき接合ツール21と支持ツール30と間には、重ね合わされた複数、たとえば2枚の被接合物22a,22bから成る被接合物22が配置される。
ステップa1では、制御手段48が、摩擦撹拌接合に必要な接合条件を取得する。制御手段48は、入力手段46から入力された設定条件に対応する最適な接合条件を、接合条件データ蓄積手段43に蓄積されるデータから抽出する。設定条件は、被接合部材22a,22bの材質、板厚および接合枚数などである。接合条件は、接合ツール21の設定回転速度、指定加圧力、接合時間および目標ツール間距離D4などである。制御手段48が接合条件を取得するとステップa2に進む。
ステップa2では、制御手段48がツール回転駆動手段24に指令を与える。指令を与えられたツール回転駆動手段24は、接合ツール21の回転を開始し、ステップa3に進む。ステップa3では、制御手段48が接合ツール21の回転速度が予め定められる設定回転速度に達したか否かを判断し、設定回転速度に達したと判断すると、ステップa4に進む。摩擦撹拌接合装置20は、接合ツール21の回転速度を検出する回転速度検出手段を有する。制御手段48は、回転速度検出手段から接合ツール21の回転速度を取得することによって設定回転速度に達したか否かを判断する。
ステップa4では、制御手段48がツール変位駆動手段25に指令を与える。制御手段48から指令を与えられたツール変位駆動手段25は、接合ツール21を支持ツール30に近接する方向に変位駆動し、ステップa5に進む。図10(1)に示すように接合ツール保持具23を回転させながら支持ツール30に向かって変位移動させることによって、図10(2)に示すように接合ツール21のピン部27の先端面14を被接合物22に回転接触させる。このとき接合ツール21は被接合物22を加圧する。
接合ツール21を、被接合物22に回転接触させることによって、接合ツール21と被接合物22との間で摩擦熱を生じさせる。摩擦熱によって被接合物22が軟化する。接合ツール21は、被接合物22を加圧しているので、接合ツール21が被接合物22に徐々に没入する。
ステップa5では、被接合物22に没入する接合ツール21のうち、先端部分であるピン部26が被接合物21に埋没して、図10(3)に示すように接合ツール21のショルダ面26aが被接合物22に接触したか否かを制御手段48が判断する。制御手段48は、ショルダ面26aが被接合物22に接触したことを判断するとステップa6に進む。
制御手段48は、ツール回転モータ35を流れるフィードバック電流を取得し、その値が予め定めるしきい値を越えたことを検出した場合に、ショルダ面26aが被接合物22に接触したことを判断する。ショルダ面26aが被接合物22に接触すると設定回転速度で回転するために必要な出力トルクが大きくなり、フィードバック電流が増加する。したがって制御手段48がツール回転モータ35を流れるフィードバック電流を監視することによってショルダ面26aが被接合物22に接触したか否かを判断することができる。
ステップa6では、制御手段48は、ツール間距離取得手段44からツール間距離D3を取得し、ステップa7に進む。ステップa7では、制御手段48がツール間距離D3に基づいて、接合ツール21の加圧力F1を調整する。制御手段48は、ツール変位駆動手段24に指令を与え、接合ツール21の加圧力F1を調整し、ステップa8に進む。
制御手段48は、検出されるツール間距離D3が目標ツール間距離D4に近づくにつれて、接合ツール21から被接合物22に与える加圧力F1が小さくなるように、ツール変位駆動手段24を制御する。たとえば加圧力F1の制御式は、次式によって設定される。
F1=f0+G(D3−D4)
上式において、F1は、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力F1である。またf0は、指定加圧力f0であって、予め定められる値である。指定加圧力f0は、時間tによって変化する関数であり、たとえば一定加圧力を一定時間与える関数であってもよい。またGは、ゲイン値であって予め定められる定数である。またD3はツール間距離D3であって時間経過とともに変化する。またD4は、目標ツール間距離D4であって予め定められる定数である。指定加圧力f0、ゲイン値Gは、予め実験によって最適な値に設定される。
このように接合ツール21の加圧力F1を適切に調整することによって、接合後の被接合物22の残厚E1を目標の値にすることができる。また本発明で、残厚E1の目標の値は、予め定められる目標範囲の値であってもよい。また上述するツール間距離D3に基づく加圧力F1の制御式は、実施の形態の一例示であって、他の制御式に変更してもよい。
また制御手段48は、制御式に基づかずに加圧力F1を算出してもよい。たとえば実験などによって予め求められるツール間距離D3に応じた加圧力F1を蓄積手段が蓄積してもよい。この場合、制御手段48は、蓄積手段からツール間距離D3に応じた最適な加圧力F1を抽出する。
ステップa8では、制御手段48が、ツール間距離D3と、ステップa1で取得した目標ツール間距離D4とを比較する。制御手段48は、図10(4)に示すようにツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達したことを判断するとステップa9に進む。またツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達していないと判断するとステップa6に戻る。言換えると、接合ツール21が背表面15に最も近接したときの最小ツール間距離が目標ツール間距離D4に達したことを判断すると、ステップa9に進み、そうでないとステップa6に戻る。
ステップa9では、図10(5)に示すように、制御手段48が、ツール変位駆動手段25に指令を与える。制御手段48から指令を与えられたツール変位駆動手段25は、接合ツール21を支持ツール30から離反する方向に変位駆動し、接合ツール21を被接合物22から離脱させる。
接合ツール21が予め定める初期位置に変位駆動すると、制御手段48は、ツール回転駆動手段24に指令を与える。制御手段48から指令を与えられたツール回転駆動手段24は、接合ツール21の回転を停止し、ステップa10に進む。ステップa10では、制御手段48は動作を終了する。
制御手段48は、ツール間距離D3を監視し、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達した場合に、接合ツール21を被接合物22から離脱させる。これによって突合せ状態が一定でない場合であっても、目標ツール間距離D4に達するまで接合ツール21を被接合物22に没入することができ、被接合物22の残厚E1を目標の値にすることができる。
たとえば設定条件として、板厚が2.0mmのアルミニウム合金であって、日本工業規格(JIS)に規定されるA6N01合金が2枚重ね合わされる場合、目標とする目標ツール間距離D4は、0.7mmに設定され、被接合物22の残厚E1は、0.6mm以上でかつ0.8mm以下に制御される。
図11は、隙間12が形成される2つの被接合部材22a,22bが接合される接合時の状態を示す断面図である。また図12は、隙間12が形成される2つの被接合部材22a,22bが接合された接合後の状態を示す断面図である。
被接合物22の接合部分に隙間12が形成される場合、接合ツール21は、一方の被接合部材22aを加圧し、一方の被接合部材22aを変形させて互いの被接合物22a,22bが当接した状態で接合を行う。接合ツール21は、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達する位置まで没入するので、目標ツール間距離D4に達するまでに接合ツール21が被接合物22から離脱することがない。
これによって上述する従来の技術のように、目標ツール間距離D4に達する前に接合ツール21が離脱すること、または目標ツール間距離D4に達しても接合ツール21が離脱せずに被接合物22を突き抜けることを防止することができる。すなわち被接合物22に隙間12が形成される場合であっても、被接合物22の残厚E1を目標の値にすることができる。被接合物22の残厚E1を目標の値することによって、被接合物22の接合強度を保ち、接合品質を均一にすることができる。
図13は、摩擦撹拌接合における制御手段48の他の形態の動作を示すフローチャートである。制御手段48は、ツール間距離D3を監視し、接合異常が生じたと判断すると、接合後または接合中に接合異常を示す接合結果を表示手段47に表示させる。
また接合条件データ蓄積手段43は、目標ツール間距離D4以下に設定される限界ツール間距離D5を蓄積する。接合ツール21が被接合物22に没入し、ツール間距離D3が限界ツール間距離D5より小さくなると、被接合物22の接合異常が生じるおそれがある。
制御手段48は、接合時に最小となるツール間距離D3が限界ツール間距離D5未満である場合、すなわちD3<D5となる場合に接合異常であることを表示手段47に表示させる。また接合時に最小となるツール間距離D3が限界ツール間距離D5以上であって目標ツール間距離D4以下である場合、すなわちD5≦D3≦D4となる場合に、正常接合であることを表示手段47に表示させる。また接合時間を経過しても、接合時に最小となるツール間距離D3が目標ツール間距離D4を超える場合、すなわちD3>D4となる場合に、接合異常であることを表示手段47に表示させる。
上述する場合の制御手段48の動作を、図13を参照して説明する。制御手段48が行う動作のうち、ステップb0〜ステップb7の動作は、図9に示すステップa0〜a7と同様の動作を示す。したがってステップb5以前については説明を省略し、ステップb6以降について説明する。
ステップb6では、制御手段48は、ツール間距離取得手段44からツール間距離D3を取得し、ステップb7に進む。ステップb7では、制御手段48がツール間距離D3に基づいて、接合ツール21の加圧力F1を調整し、ステップb8に進む。
ステップb8では、制御手段48が、ツール間距離D3と、接合条件データ蓄積手段43に蓄積される限界ツール間距離D5とを比較する。制御手段48は、ツール間距離D3が限界ツール間距離D5未満、すなわちD3<D5であると判断するとステップb9に進み、そうでないと判断するとステップb12に進む。
ステップb9では、制御手段48が、ツール変位駆動手段25に指令を与える。制御手段48から指令を与えられたツール変位駆動手段25は、接合ツール21を支持ツール30から離反する方向に変位駆動し、接合ツール21を被接合物22から離脱させる。接合ツール21が予め定める初期位置に変位駆動すると、制御手段48は、接合ツール21の回転を停止し、ステップb10に進む。ステップb10では、制御手段48が表示手段47を制御し、接合状態が接合異常であることを表示させ、ステップb11に進む。ステップb11では、制御手段48は動作を終了する。
またステップb8において、制御手段48が、ツール間距離D3が限界ツール間距離D5以上、すなわちD3≧D5と判断するとステップb12に進む。ステップb12では、制御手段48が、ツール間距離D3と、接合条件データ蓄積手段43に蓄積される目標ツール間距離D4とを比較する。制御手段48は、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4以下、すなわちD5≦D3≦D4であると判断するとステップb13に進み、そうでないと判断するとステップb15に進む。
ステップb13では、ステップb9と同様に制御手段48が、ツール変位駆動手段25に指令を与え、接合ツール21を被接合物22から離反させて、接合ツール21の回転を停止する。接合ツール21の回転を停止すると、ステップb14に進む。ステップb14では、制御手段48が表示手段47を制御し、接合状態が正常であることを表示させ、ステップb11に進む。ステップb11では、制御手段48は動作を終了する。
またステップb12において、制御手段48が、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4を超える、すなわちD3>D4と判断するとステップb15に進む。ステップb15では、制御手段48が、接合開始時からの経過時間と、ステップb1で接合条件データ蓄積手段43に蓄積される接合時間とを比較する。制御手段48は、接合開始時からの経過時間が接合時間以上であると判断するとステップb16に進む。また制御手段48が、接合開始時からの経過時間が接合時間未満であると判断するとステップb6に戻る。
ステップb16では、ステップb9と同様に制御手段48が、ツール変位駆動手段25に指令を与え、接合ツール21を被接合物22から離反させて、接合ツール21の回転を停止する。接合ツール21の回転を停止すると、ステップb17に進む。ステップb17では、制御手段48が表示手段47を制御し、接合状態が接合異常であることを表示させ、ステップb11に進む。ステップb11では、制御手段48は動作を終了する。
板厚が2.0mmのアルミニウム合金であって、日本工業規格(JIS)に規定されるA6N01合金が2枚重ね合わされる場合、目標とする目標ツール間距離D4は、0.7mmに設定され、限界ツール間距離D5は、0.5mmに設定される。
図14は、接合ルーツ21が被接合物22を突き抜けた接合時の状態を示す断面図である。被接合部材22a,22bの形状誤差などによって、接合すべき被接合部材22a,22bに形成される隙間12が解消されずに接合が行なわれる場合には、接合ツール21が短時間で被接合物22a,22bを突き抜けることがある。このような場合、被接合物22の接合強度が低下する場合がある。
図14に示す状態では、ツール間距離D3が限界ツール間距離D5より小さくなり、表示手段47が接合異常を示す接合結果を表示する。これによって作業者は、接合状態が接合異常であることを知り、接合後に強度試験を行うことなく接合異常を判定することができる。
図15は、接合すべき被接合部材22aが準備されずに接合動作が行なわれた接合時の状態を示す断面図である。接合すべき被接合物22aが準備されずに接合動作が行なわれる場合には、接合ツール21が短時間で被接合物22bに没入する。
図15に示す状態においても図14と同様に、ツール間距離D3が限界ツール間距離D5より小さくなり、表示手段47が接合異常を示す接合結果を表示する。これによって作業者が、接合状態が接合異常であることを判定することができる。
図16は、設定時間を経過しても接合ツール21がツール間距離D4まで達しない接合時の状態を示す断面図である。被接合部材の材質および接合ツール21の磨耗状態などによって、設定時間を経過しても目標ツール間距離D4に達しない場合がある。この場合、被接合部材22a,22bを十分に摩擦撹拌することができず、接合強度が低下する。
図16に示す状態では、ツール間距離D3が限界ツール間距離D4より大きくなり、表示手段48が接合異常を示す接合結果を表示する。これによって作業者は、接合状態が接合異常であることを知り、接合後に強度試験を行うことなく接合異常を判定することができる。
このように制御手段48は、接合が正常か否かを表示手段47に表示させることによって、作業者および他の加工装置に接合異常となる被接合物を知らせることができ、利便性を向上させることができる。またステップb10とステップb11とで表示態様を異ならせてもよい。これによってツール間距離D3が限界ツール間距離D5よりも小さくなって接合異常になったのか、接合時間を経過してもツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達することができなかったか否かを選別することができ、さらに利便性を向上することができる。
また制御手段48は、ステップb9において、接合時間、回転速度および加圧力を調整して、接合異常を改善してから接合ツール21を被接合物22から離脱してもよい。たとえばツール間距離D3が限界ツール間距離D5以上となる位置で接合ツール21を所定時間回転させる。流動する被接合物22によって接合孔を埋めることで残厚E1を目標とする値に近づけてもよい。
以上のように本実施の形態では、ツール間距離D3に基づいて、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力F1を調整したが、被接合物22の残厚E1を制御するために、接合ツール21の回転速度をツール間距離D3に応じて変化させてもよい。また接合時間をツール間距離D3に応じて変化させてもよい。またツール間距離D3に応じて、加圧力F1、回転速度、接合時間の少なくとも2つ以上を併用して調整してもよい。
たとえばピン部27が埋没し、ツール間距離D3が目標ツール間距離に近づくにつれて、接合ツール21の回転速度を低くなるようにツール回転駆動手段24を制御してもよい。これによってツール間距離D3が目標ツール間距離D4に近づいたときに、流動する被接合物が撹拌過剰となることを抑えて、被接合物の残厚E1を目標とする値に容易にすることができる。また流動する被接合物が溶融すること、接合ツール21が没入する周囲の被接合部分が隆起することおよび流動した被接合物が飛散することを防止することができる。
以上のように本発明の摩擦撹拌装置20によれば、従来のスポット溶接に用いられていた溶接電流、冷却水および供給空気などが不要となり、接合するために必要とするエネルギ消費を大幅に低減することができる。またエネルギ源としての装置および設備が不要となるので、大幅な設備投資の低減を図ることができる。
また従来のスポット溶接に用いる溶接ガンを流用でき、接合部材の制約、接合強度および生産効率のいずれについても、スポット溶接と同等以上の能力を容易に達成することができる。
摩擦撹拌接合装置20は、ツール間距離D3を監視しながら、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達するまで、接合ツール21を被接合物22に没入させる。これによって突合せ状態が一定でない場合であっても、接合ツール21の被接合物22への没入量を一定にすることができ、接合後の被接合物22の残厚E1を指定の値に制御することができる。これによって被接合物22の残厚E1を均一化することができ、接合品質を安定化することができる。
また突合せ状態が変化しても、作業者が手動で接合条件を変更する必要がなく、利便性を向上することができる。複数の接合部分に連続して接合を行う場合に、接合部分の厚さが異なることがあっても、また接合を繰り返すうちに接合ツール21の温度が上昇しても、被接合物22の残厚E1を均一にすることができ、接合品質を安定化することができる。
また複数の被接合部材22a,22bをそれぞれ十分に流動させることができるツール間距離D3に、目標ツール間距離D4を設定することによって、目標ツール間距離D4に達した接合ツール21は、被接合部材22a,22bの境界部分19a,19bを十分に撹拌することができる。これによって被接合部材22a,22bの接合領域22cを増やし、被接合物22の接合異常を防止することができる。
また接合ツール21および支持ツール30のたわみを考慮してツール間距離D3を算出することによって、接合ツール21が被接合物22を加圧する加圧力F1の変化に対応した正確なツール間距離D3を求めることができる。これによって接合ツール21の没入量を正確に制御することができ、被接合物22の残厚E1をより正確に制御することができる。
また取得されるツール間距離D3に基づいて、制御手段48が接合ツール21から被接合物22に与える加圧力F1を調整する。加圧力F1を調整することによって接合ツール21の没入速度および発熱量を変化させる。時間経過とともに変化するツール間距離D3が目標ツール間距離D4に一致するまで接合ツール21を被接合物22に適切に没入させることができる。これによって被接合物22の残厚E1を調整することができ、接合品質を安定させることができる。
また接合ツール21の先端部分であるピン部27が被接合物22埋没し、ショルダ部26のショルダ面26aが被接合物22に接触してから、制御手段48が加圧力F1の調整を開始する。これによって接合ツール21のピン部27が被接合物22に埋没するまでに加圧力が高くなることを防止することができる。これによって被接合物のツール保持具に対して反対側部分が盛り上る、いわゆる打痕が生じることを防止することができる。
制御手段48は、接合ツール21の加圧力F1の調整として、取得されるツール間距離D3が目標ツール間距離D4に近づくにつれて、接合ツール21から被接合物22に与える加圧力F1を小さくする。これによってツール間距離D3が目標ツール間距離D4に近づくと、接合ツール21の没入速度が低くなり、ツール間距離D3を目標ツール間距離D4に一致させやすくすることができる。
また逆にツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達する前でかつ目標ツール間距離D4より大きい場合には、加圧力F1を大きくし、接合ツール21の没入速度を高くすることができる。接合ツール21の没入速度を高くすることによって、接合時間を短縮することができる。
また図13のフローチャートに示すように、表示手段47によって接合異常であることを知らせることができるので、接合異常を知らされた作業者は、接合後、接合異常となる被接合物22を選別することができる。
また制御手段48は、ツール回転モータ35のフィードバック電流およびツール変位モータ37のフィードバック電流を取得することによって、フィードバック電流の変化に基づいて、接合段階を把握することができる。たとえばツール回転モータ35のフィードバック電流が段階的に増加することによって、接合ツール21のピン部27の先端面14が被接合物22に接触したことを判断する。さらにピン部27の先端面14が被接合物22に接触してからツール回転モータ35のフィードバック電流が段階的に増加することによって、接合ツール21のショルダ部26のショルダ部26aが被接合物22に当接したことを判断することができる。
摩擦撹拌接合装置20は、接合ツール21の磨耗量が入力されるまたは接合ツールの磨耗量を推測する磨耗量取得手段を有してもよい。ツール間距離取得手段44は、磨耗量取得手段から与えられる接合ツール21の磨耗減少量を考慮してさらに正確なツール間距離D3を算出することができる。
たとえば摩擦撹拌接合を行なう前の準備状態で、図6に示すように制御手段48が接合ツール21を支持ツール30に当接させる、いわゆる空打ち動作を行なう。空打ち動作にあたって、まずツール移動量検出手段40によって支持ツール30に接合ツール21が当接するときの接合ツール移動量を検出する。磨耗量取得手段は、接合ツール21が支持ツール30に当接した時の接合ツール移動量と、磨耗する前の接合ツール21が支持ツール30にする初期接合ツール移動量とを比較することによって、接合ツール21の磨耗量を算出することができる。ピン部27の先端面14が最初に被接合物22に当接する位置とショルダ部26のショルダ面26aが最初に被接合物22に当接する位置とを取得することによって、ショルダ面26aからピン部27の先端面14までの磨耗による高さ変化を算出することができる。
図17は、本発明の他の実施の形態である摩擦撹拌接合装置120を示す側面図である。図17に示す摩擦撹拌接合装置120は、図2に示す摩擦撹拌接合装置20に対して支持ツール形成部31以外について同様の構成を示す。同様の構成については、同様の参照符号を付し、説明を省略する。
摩擦撹拌接合装置120は、支持ツール形成部31を備えず、摩擦撹拌接合装置120とは別に設けられる支持装置200に支持された状態の被接合物22を接合する。このときたわみ量δは、被接合物22からの反力によってロボットアーム29が基準軸線L1方向にたわむ量となる。他の構成および動作については、上述する摩擦撹拌接合装置と同様であり、同様の効果を得ることができる。
図18は、接合時のツール間距離D3と加圧力との関係を示すグラフである。上述したように本発明では、ツール間距離D3に基づいて接合ツール21が被接合物22に与える加圧力が調整される。加圧力の調整は、図18の実線300および一点鎖線301で示すように、ツール間距離D3に基づいて、加圧力を変化させてもよい。さらに図18の破線302で示すように、被接合物22に予め定める一定の加圧力を与えるようにし、ツール間距離D3に基づいて、加圧開始時期および加圧終了時期を設定する場合も調整に含む。このように本発明の「調整」は、一定に維持した状態で開始時期および終了時期を変更する場合も含む。
図19は、本発明の加圧力の他の調整方法を説明するためのタイムチャートである。以下に示す調整方法について、上述した調整方法に対応する部分については、省略し、異なる部分について記載する。
まず制御手段48は、接合開始時刻T1から接合ツール21を被接合物22に向かって移動させる。そして接合ツール21は、回転しながら被接合物22に接触してツール接触時刻T2に達する。接合ツール21は、回転するとともに被接合物22を押圧し、被接合物22に加圧力を与える。また接合ツール21は、被接合物22を摩擦撹拌して軟化させて、被接合物22に没入する。
接合ツール21の先端部が没入して先端部没入時刻T3に達すると、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を予め定める標準加圧力P1となるように、ツール変位駆動手段25を制御する。先端部没入時刻T3から予め定める時刻経過して、接合状態判定時刻T4に達すると、制御手段48は、ツール間距離D3が予め定める設定ツール間距離H1であるかどうかを判断する。
状態判定時刻T4におけるツール間距離D3が設定ツール間距離H1と等しい場合には、予め定める標準没入速度と実際の接合ツール21の没入速度とが同様であると判断し、図19に実線303で示すように、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を標準加圧力P1に維持して、接合動作を継続する。
また状態判定時刻T4におけるツール間距離D3が設定ツール間距離H1よりも大きいツール間距離H2の場合には、標準没入速度よりも実際の接合ツール21の没入速度が遅いと判断し、図19に一点鎖線304で示すように、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を標準加圧力P1よりも大きい加圧力P2に維持して、接合動作を継続する。これによって接合ツール21の没入速度が標準没入速度よりも速くなる。
また状態判定時刻T4におけるツール間距離D3が設定ツール間距離H1よりも小さいツール間距離H3の場合には、予め定める標準没入速度よりも実際の接合ツール21の没入速度が速いと判断し、図19に二点鎖線305で示すように、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を標準加圧力P1よりも小さい加圧力P3に維持して、接合動作を継続する。これによって接合ツール21の没入速度が標準没入速度よりも遅くなる。
ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達するであろう撹拌完了時刻T5に達すると、接合ツール21を被接合物22から離脱させる。そして接合ツール21が被接合物22に与える加圧力が徐々に減少し、加圧終了時刻T6で加圧力を除去して接合ツール21を被接合物22から離反させる。
このように状態判定時刻T4におけるツール間距離D3に基づいて、状態判定時刻T4以降の加圧力を決定することによって、接合ツール21の没入速度を変化させることができ、被接合ツール21の板厚のばらつきなどにかかわらずに、撹拌完了時刻T5における接合ツール21のツール間距離D3を目標ツール間距離D4に近づけることができる。これによって接合後の被接合物22の残板厚をほぼ均一にすることができる。なお状態判定時刻T4以降の加圧力Pは、次式によって与えられてもよい。
P=P1+G×(H1−H)
ここでHは、状態判定時刻T4におけるツール間距離D3であり、H1は、設定ツール間距離である。したがってH1−Hは、設定ツール間距離H1から状態判定時刻T4におけるツール間距離Hを減算した値である。Gは、ゲイン値であって予め定められる定数である。P1は、標準加圧力である。標準加圧力P1およびゲイン値Gは、予め実験によって最適な値に設定される。
このようにして接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を調整すると、被接合部材の板厚などにかかわらず、接合終了時間をほぼそろえることができる。しかし接合中に加圧力を変更した場合には、ツール間距離取得手段44によって算出されるツール間距離と実際のツール間距離とが少々ずれてしまう。したがって目標とする被接合物22の残板厚の許容範囲が小さい場合には、図19に示す加圧力の調整方法では、接合後の被接合物22の残板厚が許容範囲を満足しない場合がある。
図20は、加圧力とたわみの関係を示すグラフである。たわみ補正データ蓄積手段42は、加圧力とたわみの関係を示すデータベースを蓄積する。このデータベースは、接合ツール21に複数の異なる加圧力を与えた場合のたわみ量をそれぞれ実測した各実測値に基づいて求められる。具体的には、予め定める加圧力毎に加圧力に対するたわみ量を実測し、残りの加圧力に対するたわみ量を、実測した加圧力に対するたわみ量に基づいて補間することによってデータベースが生成される。このようなデータベースは、摩擦撹拌装置の種類毎にそれぞれ求められる。
図20には、実測したたわみ量を三角△306で示し、実測したたわみ量に基づいた加圧力とたわみ量との関係を直線307で示す。データベースに基づいてたわみを求めることによって、無加圧時と加圧時とでオフセットaが生じる場合、たわみと加圧力との関係が近似式で表現できない場合などであっても、たわみ量の信頼性を向上することができる。
実測したたわみ量は、静的な加圧力、すなわち一定の加圧力を与えた場合に摩擦撹拌接合装置がたわむ量である。このような静的な加圧力に対するたわみ量は、実験によって求めることができる。これに対して動的な加圧力、すなわち変動する加圧力を与えた場合に摩擦撹拌接合装置がたわむ量は、加圧力の変動具合に応じて変化してしまい、実験によって求めることが困難である。
図20に動的なたわみ量を丸点○308で示すように、動的な加圧力によるたわみ量と、静的な加圧力によるたわみ量とは、ずれ309が生じる。たとえば接合時に接合ツール21が支持ツール30に与える加圧力が変動することによって、動加圧時のたわみ量は、静加圧時のたわみ量に比べて約10パーセント低下する。したがってこの低下分のたわみが誤差として生じる。
図21は、先端部没入時刻T3から加圧終了時刻T5まで加圧力を一定に維持した場合を示すグラフである。また図22は、先端部没入時刻T3から加圧終了時刻T5まで加圧力を変化させた場合を示すグラフである。図21に示すように、接合中に加圧力を一定に維持した場合には、加圧力が静的となり、ツール間距離取得手段44によって求められるたわみ量である演算たわみ350と、実際のたわみ量である現実たわみ351とのずれがほとんどない。これによって接合後の被接合物22の残板厚を目標とする値に精度よく一致させることができる。
これに対して図22に示すように、接合中に加圧力を変化させた場合には、加圧力が動的となり、前記演算たわみ350と前記現実たわみ351との間に、たわみ誤差309が生じる。この場合、たわみ誤差309によって実際のたわみ量351を正確に求めることができないので、演算たわみ量に基づいて求められるツール間距離D3も、実際のツール間距離に対して誤差が生じて、少々ずれてしまう。これによって接合後の被接合物22の残板厚が目標とする値から少々ずれてしまう。
図23は、被接合物22の残板厚の設定値と実測値との関係を示すグラフである。加圧力を一定に維持して摩擦撹拌接合を行う場合には、図23の細い一点鎖線310に示すように、被接合物22の実際の残板厚は、予め定める設定値に対するずれが小さい。これに対して加圧力を変化させて摩擦撹拌接合を行う場合には、図23の太い一点鎖線311に示すように、被接合物22の実際の残板厚は、予め定める設定値に対してずれが大きくなる。
目標とする残板厚に対して許容される残板厚許容範囲が大きい場合は、加圧力を変化させても加圧力を一定にしても、残板厚許容範囲312を満足することができる。しかしながら目標とする残板厚に対して許容される残板厚許容範囲が小さい場合は、加圧力を一定にしなければ、残板厚許容範囲312を満足しない。
図24は、残板厚とせん断強度の関係を示すグラフである。残板厚は、薄すぎても厚すぎてもせん断強度が低い。そしてせん断強度が最も高くなる強度最大残板厚Sは、実験によって求めることができる。せん断強度は、残板厚が薄い状態から強度最大残板厚Sに近づくにつれて大きくなり、強度最大残板厚Sからさらに厚くなるにつれて小さくなる。
予め定められる規格せん断強度が設定される場合、規格せん断強度U1が大きい場合には、強度最大残板厚Sからのばらつきを小さく抑える必要があり、小さい残板厚許容範囲313を満足する必要がある。この場合には、上述したように加圧力を一定に維持した状態で摩擦撹拌接合が行なわれる。
また規格せん断強度U2が小さい場合には、強度最大残板厚Sからのばらつきが大きくてもよく、大きい残板厚許容範囲312を満足すればよい。この場合には、加圧力を一定に維持しても、加圧力を変動させてもよい。
図25は、加圧力を一定に維持する場合の制御手段の動作を示すフローチャートである。制御手段48が行う動作のうち、ステップc0〜ステップc6の動作は、図9に示すステップa0〜a6と同様の動作を示す。またステップc8〜ステップc10の動作は、図9に示すステップa8〜ステップa10と同様の動作を示す。したがってステップc7の動作が異なる以外は、図9に示す手順と同様である。したがってステップc7以前およびステップc8以降の動作については、説明を省略し、ステップc7の動作について説明する。
ステップc6で、ツール間距離D3を取得すると、ステップc7に進む。ステップc7では、ロードセル49から検出される加圧力を取得し、加圧力が予め定める一定値となるようにツール変位駆動手段44をフィードバック制御し、ステップc8に進む。
このようにロードセル49によって接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を検出する。そしてツール間距離取得手段44が、加圧力に対応するたわみ量とツールの位置とに基づいて、ツール間距離D3を算出する。制御手段48は、接合ツール21の先端部が没入してから、ツール間距離D3が目標ツール間距離に達するまで、サーボモータに与える電流を調整して、接合ツール21の加圧力を一定に制御する。
このように接合中に接合ツール21が被接合物22に与える加圧力、言い換えると接合ツール21が被接合物22を介して支持ツール30に与える加圧力をほぼ一定に保つ。すなわち、図19に示すような残板厚の偏差による加圧力の比例制御は行わない。これによって接合ツール21が被接合物22を押付けた場合に起因する摩擦撹拌接合装置のたわみ量を一定に保つことができる。したがって図21に示すように、加圧力が変動する場合に比べて算出されるツール間距離D3の信頼度を向上することができ、被接合物22の残板厚をさらに精度よく目標の値にすることができる。
なお、目標とする残板厚を接合強度が最大となる強度最大残板厚Sに設定することによって、接合後の強度を向上することができる。また残板厚を均一化することによって、接合後の被接合物22の接合跡の形状をそろえることができ、美観を向上することができる。またせん断強度試験を行った場合に生じる破断径のばらつきを小さくすることができる。破断径は、せん断強度によってはく離した2つの被接合部材のうち、支持ツール側の被接合部材に形成される接合跡である。破断径の形状は、せん断強度に影響するので、破断径のばらつきを小さくすることによって、せん断強度のばらつきを小さくすることができる。
また、ツール間距離取得手段44は、加圧力検出手段41から検出される加圧力に応じたたわみ量を、たわみ補正データ蓄積手段42が有するデータベースから抽出する。本実施の形態では、予め定める加圧力毎に加圧力に対するたわみ量を実測し、残りの加圧力に対するたわみ量を、実測した加圧力に対するたわみ量に基づいて補間することによってデータベースを生成する。これによって、たわみ量と加圧力との関係が線形でない場合であっても対応することができ、さらに精度よくたわみ量を算出することができる。
また、ロードセル49によって加圧力を検出する場合、ロードセル49の検出結果に基づいて、加圧力が予め定める上限値を超える場合または下限値未満の場合に加圧力異常を報知してもよい。これによってツール変位駆動手段25の可動部分の潤滑剤不足などによって、十分な加圧力が被接合物22に与えられない場合を報知することができる。このように接合状態が異常である可能性があることを作業者に知らせることによって、利便性を向上することができる。
図26は、加圧力を一定に維持する場合の制御手段の他の動作を示すフローチャートである。制御手段48は、接合ツール21が被接合物22に接触してから経過する接合時間を測定し、ツール間距離D3と接合時間とに応じてツール変位駆動手段44を制御する。また制御手段48は、接合異常が生じた場合、接合後または接合中に、接合異常を表わす接合結果を表示手段47に表示させる。この場合、摩擦撹拌接合装置は、接合ツール21が被接合物22に没入する接合時間を測定する接合時間測定手段をさらに含む。
接合条件データ蓄積手段43は、接合最大時間と、接合最小時間と、限界ツール間距離とを記憶する。接合ツール21が被接合物22に没入してから最大接合時間を経過すると、被接合物22の接合異常が生じるおそれがある。たとえば接合最大時間を超えると、被接合物22が過大に熱せられて、被接合物22の接合部分の熱ひずみが大きくなる場合がある。
また接合最小時間が経過しないと、被接合物22の流動化した領域の撹拌不足が生じるおそれがある。この場合、複数の被接合部材が互いに混ざり合う部分が少なくなり、強度不足となる場合がある。また限界ツール間距離よりもツール間距離D3が小さくなると、接合後の残板厚が十分に確保することができないおそれがある。この場合、接合強度が不足したり美観が損なわれたりする。このような接合最大時間、接合最小時間、限界ツール間距離は、予め実験などによって求められ、入力手段46から入力される。
制御手段48が行う動作のうち、ステップd0〜ステップd7の動作は、図25に示すステップc0〜ステップc7と同様の動作を示す。したがってステップd6以前の動作については、説明を省略し、ステップd7以降の動作について説明する。
ステップd7では、制御手段48がツール間距離D3に基づいて、接合ツール21の加圧力を予め定められる一定値に調整し、ステップd8に進む。ステップd8では、接合ツール21が被接合物22に没入してから、接合最大時間を超えたか否かを判断する。接合最大時間を超えている場合には、ステップd9に進む。ステップd9では、接合ツール21を被接合物22から離脱させて、ステップd10に進む。ステップd10では、接合最大時間に達したことを示す情報を報知してステップd15に進む。そしてステップd15で接合動作を終了する。
ステップd8において、接合最大時間を超えていない場合には、ステップd11に進む。ステップd11では、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達したか否かを判断し、目標ツール間距離D4に達していない場合には、ステップd6に戻る。またツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達した場合には、ステップd12に進む。
ステップd12では、ツール間距離D3が限界ツール間距離であるか否かを判断し、限界ツール間距離に達している場合には、ステップd12に進む。ステップd12では、接合ツール21を被接合物22から離脱させて、ステップd10に進む。ステップd10では、限界ツール間距離に達したことを示す情報を報知してステップd15に進む。そしてステップd15で接合動作を終了する。
ステップd11において、限界ツール間距離に達していない場合には、ステップd13に進む。ステップd13では、接合ツール21が被接合物22に没入してから、接合最小時間未満であるか否かを判断する。接合最小時間未満である場合には、ステップd12に戻る。またステップd13において接合最小時間を超える場合には、ステップd14に進む。そしてステップd14で接合ツール21を被接合物22から離脱させて、ステップd15に進む。そしてステップd15で接合動作を終了する。
図27は、接合時間と加圧力との関係を示す図である。接合最大時間および接合最小時間は、入力手段を用いて作業者が任意に与えることができる。また予め接合条件データ蓄積手段43に記憶されていてもよい。たとえば作業者は、教示加工時間Atと、上限比率αmaxおよび下限比率αminを設定可能である。また教示加工時間Atは、接合ツール21が被接合物22に没入すべき距離に比例して設定されてもよい。
上限比率αmaxおよび下限比率αminは、複数の接合位置について摩擦撹拌接合装置が順次接合する場合、全接合位置共通に設定される。また上限比率αmaxおよび下限比率αminは、接合位置毎に設定してもよい。なお、接合位置毎に上限比率αmaxおよび下限比率αminが設定されることによって、より接合品質を向上することができる。教示加工時間Atは、全接合位置共通でもよく、また各接合位置にそれぞれ設定されてもよい。この場合、接合最大時間は、接合加工時間Atに上限比率αmaxを乗算した値、すなわちAt×αmaxとなる。接合最小時間は、接合加工時間Atに下限比率αminを乗算した値、すなわちAt×αminとなる。
接合中のツール間距離Gは、次式によって表わされる。
G=L+D
ここで、Gは、ツール間距離D3を表わす。Lは、接合ツール21の位置を表わす。Dは、ツール保持具23のたわみと支持ツール30とのたわみを総合した総たわみ量Dを表わす。総たわみ量Dは、次式によって表わされる。
D=K1(Pf)
ここで、K1(Pf)は、ロードセル49によって検出される加圧値Pfに対応するたわみ量である。またK1(Pf)は、ロードセル49によって検出される加圧力Pfに応じたたわみ量がデータベースから抽出された値である。また加圧力は、予め定められる教示加圧力となるように制御される。
図27に破線320で示すように、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達しない場合であっても、予め定める接合最大時間(At×αmax)を超えると、接合ツール21の被接合物22への没入を解除する。これによって接合ツール21がいつまでたっても被接合物22に没入しつづけることを防ぐことができる。接合最大時間に達した場合には、予め定める基準位置に接合ツール21を移動して、接合異常であることを表示するとともに被接合物22の残板厚を表示する。
また図27に一点鎖線321で示すように、接合最小時間(At×αmin)未満で、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達してしまった場合、接合最小時間を超えるまで接合ツール21の被接合物22への没入を継続する。これによって被接合物22の撹拌を十分に行い、撹拌不足を防止することができる。接合最小時間を超えて接合を行なった場合には、接合異常を表示せず、被接合物22の残板厚を算出して表示する。また複数の接合部分を接合する場合は、接合異常となった接合部分を示す情報を表示してもよい。
また図27に2点差線322で示すように、接合最小時間(At×αmin)に達する前に、ツール間距離D3が限界ツール間距離D4に達してしまう場合には、接合ツール21の被接合物22の没入を解除する。これによって接合ツール21が被接合物22に没入しすぎることを防ぐことができ、接合品質を向上することができる。たとえば接合ツール21が被接合物22を貫通することを防ぐことができる。限界ツール間距離に達した場合には、予め定める基準位置に接合ツール21を移動した時点で、接合異常であることを報知する。また複数の接合部分を接合する場合は、接合異常となった接合部分を示す情報を表示してもよい。このように接合最大時間、接合最小時間および限界ツール間距離を設定することによって、接合品質をさらに安定することができ、利便性を向上することができる。
図28は、本発明のさらに他の実施の形態の摩擦撹拌接合装置を示すブロック図である。摩擦撹拌接合装置は、図1、図2および図4に示す摩擦撹拌接合装置と類似した構成を示し、類似した構成については、同様の参照符号を付して説明を省略する。摩擦撹拌接合装置は、上述した構成の他に、接合ツール21を冷却する冷却手段500を有する。また摩擦撹拌接合装置は、接合ツール21が被接合物22に与える加圧力を測定するための加圧力検出手段として、ロードセル49が設けられることが好ましい。なおたわみ量を検出するためにロードセル49とたわみ補正データ蓄積手段42を備えたが、レーザ変位計などによって摩擦撹拌接合装置のたわみ量を直接検出してもよい。この場合も、ツール間距離取得手段44は、たわみ量とツールの位置とに基づいてツール間距離D3を算出する。
冷却手段500は、冷却した空気を接合ツール21に吹き付ける空気噴出部によって実現される。たとえば空気噴出部によって接合ツール21に吹き付けられる冷却空気は−40℃以上室温以下で、流量350リットル/min(0.35m3/min)以上990リットル/min(0.99m3/min)以下であることが好ましい。冷却空気の温度は、低いほうが接合ツールの熱膨張を抑制することができるが、低すぎると、接合時間がかかる。なお、許容残板厚の余裕度が大きい場合は、冷却温度は、室温でもよい。たとえば冷却空気の温度は、−10℃、流量は、700リットル/min(0.7m3/min)に設定される。冷却手段500は、冷却空気を吹き付ける時間および温度など、ツールを冷却する冷却条件を調整可能であることが好ましい。このとき、前記接合加工時間Atは、3秒に設定され、前記上限比率αmaxは、50%に設定され、前記下限比率αminは、50%に設定される。これによって撹拌量を十分に保つとともに、過剰に接合ツール21が加熱することがない。
加圧力検出手段41としてロードセル49を用いた場合には、ロードセル49によって検出される加圧力が一定となるように、ツール変位駆動手段25がフィードバック制御される。またツール間距離取得手段44は、ロードセル49から検出される加圧力に基づいた摩擦撹拌装置のたわみ量をデータベースから抽出する。そして抽出したたわみ量と接合ツール21の移動量に基づいて、ツール間距離D3を演算する。
図29は、摩擦撹拌接合装置の動作を示すフローチャートである。摩擦撹拌接合装置は、スポット連続接合に好適に用いられる。制御手段48の接合動作については、上述する接合動作のうちのいずれかの動作を行うことによって、実現することができる。図29に示す摩擦撹拌接合装置は、接合部分を接合した後、次の接合部分に移動する間に、冷却手段500によって接合ツール21を冷却する。
具体的には、ステップe0で、複数の接合部分が予め教示され、複数の接合部分に連続して接合可能な状態となった状態で、接合動作の開始命令が与えられると、ステップe1に進み、接合動作を開始する。
ステップe1では、上述する接合動作のうちのいずれかの接合動作を行い、被接合物22に予め定められる接合部分を接合する。そしてステップe2に進む。ステップe2では、摩擦撹拌接合装置と被接合物22との相対位置を変更する。このとき冷却手段500によって接合ツール21が冷却される。そしてステップe3に進む。ステップe3では、予め定められる全ての接合部分の接合を完了したか否かを判断し、接合が完了していない場合には、ステップe1に戻り、他の接合部分の接合動作を行う。またステップe3において、すべての接合部分の接合を完了したと判断した場合には、ステップe4に進み、動作を終了する。
このように、接合ツール21を接合動作以外で冷却することによって接合ツール21の過度の温度膨張を防ぐことができ、スポット接合を複数行った場合であっても、ツール間距離の信頼性を向上することができる。
図30は、接合ツール21の温度を示すタイムチャートである。上述したように接合動作が複数回行われる場合、連続して各接合動作を行う期間にわたって、接合ツール21が冷却される。接合ツール21は、被接合物22に没入している間は、その温度が上昇する。そして接合後に被接合物22から離脱すると冷却手段500によって冷却される。冷却温度および冷却期間などが調整されることによって、接合ツール21を予め定める温度範囲に保つことができ、過度に温度が上昇したり、過度に温度が低下したりすることを防止することができる。
また一つの接合部分毎に、接合最大時間および接合最小時間、限界ツール間距離が設定されるとともに冷却手段500を備えることによって、連続して各接合動作を行う期間にわたって、接合ツール21の温度を予め定める範囲内に収めることができ、より確実に接合ツール21を予め定める温度に保つことができる。これによって複数の接合部分を順にスポット接合する場合に、接合ツールが過度に熱膨張することができ、制御手段48が認識するツール間距離D3が実際のツール間距離とずれることを防止して、接合後の残板厚を全ての接合部分について、精度よく調整することができる。冷却手段によるツール冷却は、連続的に行ってもよく、予め定められる時間ごとに冷却、冷却停止を繰返してもよい。これによって複数の接合部分のうち少々の接合部分が接合異常となった場合であっても、全体として接合される被接合物の接合強度を向上することができる。また複数の接合部分のうち、接合異常となる接合部分の数をカウントし、そのカウント数が予め定められるカウント数を超えた場合に作業者に接合異常状態を報知することによって、接合強度が不足するであろう接合後の被接合物22を抽出してもよい。
またさらに他の実施の形態として、冷却手段500に換えて、接合ツールの変形量を検出する変形量検出手段を備えてもよい。この場合、接合ツール21の変形量として、接合ツールの磨耗量または温度変形量などの接合ツールの変形量を検出し、その変形量をツール間距離取得手段44に与えることによって、接合ツールの変形量を考慮したツール間距離を求めることができ、さらに接合後の被接合物の残板厚を目標の値に近づけることができる。
この場合、予め定める許容変形量を超えた場合、たとえば基準形状の80%以下および120%以上の形状となった場合に接合ツール21が変形していることを報知してもよい。これによって作業者は、接合ツール21の磨耗時期や、冷却時期を判断することができ、利便性を向上することができる。磨耗量は、前述した方法によって算出することができる。また熱膨張量は、レーザ変位計を用いてもよく、また接合ツール21の温度を測定し、その温度に基づいて算出してもよい。
以上のような本発明の実施の形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で構成を変更して適用してもよい。基準軸線L1は、鉛直方向に交差する方向に延びてもよい。これによってロボットアーム29によって変位駆動される摩擦撹拌接合装置20,120は、鉛直方向に交差する方向に重なる被接合部材22a,22bを互いに接合することができる。
また本発明は、スポット接合に用いられるとしたが、被接合物22に埋没した状態で、基準軸線L1に対して交差する方向に連続的に移動する連続摩擦撹拌接合であってもよい。また被接合物22を構成する複数の被接合部材22a,22bの枚数は、2枚に限定されない。また重ね合わせのほか複数の被接合物22a,22bが突き合わされた状態で接合されてもよい。また複数の被接合部材22a,22bは、アルミ合金に限定されず、接合ツール21よりも軟質であり、摩擦熱によって流動化する材料であればよい。各接合部材22a,22bが異なる材質から成ってもよい。
また制御手段48がコンピュータプログラムを読込んで、上述する動作を実行してもよく。またコンピュータプログラムが格納された記録媒体から読み出されたコンピュータプログラムを読込んで、上述する動作を実行してもよい。
また本発明は、ツール間距離D3が、予め定める目標ツール間距離D4になるまで、接合ツール21を回転させながら被接合物22に没入させて、被接合物22を軟化させて流動させる摩擦撹拌工程と、ツール間距離D3が目標ツール間距離D4に達した後、接合ツール21を被接合物22から離脱させる離脱工程とを
を有する摩擦撹拌接合方法も含み、上述する摩擦撹拌接合動作について一部を手動で行ってもよい。