JP4250030B2 - 光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は自動車のホイールリムに使用されるアルミニウム合金板に関するものであり、特に光輝性ホイールリムに使用されるAl−Mg系アルミニウム合金板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来一般にアルミニウム合金製の自動車用ホイールとしては、鋳造によるもの、あるいは鍛造によるもの、さらには展伸材を用いて成形加工により製造したものなどがあるが、最近ではコスト面および軽量化の観点から、2ピースホイールあるいは3ピースホイールとして、アルミニウム合金展伸材を成形加工したリムを用いたものが多くなっている。
【0003】
ところでアルミニウム合金を用いた場合のメリットとしては軽量であることばかりでなく、装飾性の観点から表面に美麗な光沢を与えたいわゆる光輝性のものを作りやすいことがあり、そこでアルミニウム合金展伸材を成形加工したホイールリムとしては、光輝性ホイールリムが多い。このような展伸材を用いた光輝性のホイールリムに使用されるアルミニウム合金としては、例えば特許文献1にも示されているように、成形性に優れたAl−Mg系合金、すなわちJIS5000番系の合金を使用することが多い。またこのようなアルミニウム合金展伸材を用いた光輝性ホイールリムの製造方法としては、例えば3ピースホイール用リムの場合、展伸材からなる円板状の素材を、スピニング加工によりカップ状ないしは椀型の形状に成形し、その後穴抜き加工を行ない、バフ研磨と化学研磨を施して表面を鏡面化し、さらに陽極酸化処理を施してリムを製造する方法が一般的である。また例えば2ピースホイール用リムの場合、そのリムの製造法としては、長尺状の板材を湾曲させて両端をフラッシュバット溶接等により溶接して、短円筒状とし、その短円筒状のものに対しロールフォーミングを施してリム形状とし、さらに前記同様に研磨や陽極酸化処理を施す方法が一般的である。
【0004】
しかるに最近では展伸材を用いた光輝性ホイールリムの製造方法としても、従来の上述のような方法に代えて、アルミニウム缶等に多用される深絞り加工を適用し、得られた深絞りカップから複数個のリムを得る方法が開発され、実用化されるに至っている。
【0005】
この方法では、図1に示すように円板状の素板1に深絞り加工を施して、高さ(深さ)が複数個のリムに相当する深いカップ状部材2に成形し、そのカップ状部材2に対して偏肉化ならしを行なった後、輪切りにより複数個の短円筒状の部材3を得(一般にこの工程は条取りと称される)、その短円筒状部材のそれぞれについて、図示しない曲げ加工、フレアー加工、スピニング加工などを必要応じて施してリム形状とし、さらにバフ研磨および化学研磨を行なって表面を鏡面化し、陽極酸化処理を施す。
【0006】
前述のようにアルミニウム合金展伸材を用いて深絞り加工により深絞りカップ状の部材を得、これを輪切りにすることにより複数個のリム向けの短円筒部材を得る方法では、材料の結晶方位の異方性が小さく、深絞り加工時における耳率が低いことが要求される。すなわち、図1に示したように、深絞り加工して得られたカップ状部材2を輪切りにして複数個のリムに相当する複数個の短円筒部材3を得るに当っては、その底部5のみならず、耳4の部分をも切り捨てざるを得ないが、その場合に材料の結晶方位の異方性が大きくて耳率が高ければ、カップ状部材2の耳4の山4Aと谷4Bとの高低差が大きくなり、そのため同じ寸法の素材を用いてもカップ状部材2から採取可能な短円筒状部材3の数が少なくなって、材料歩留りが低下してしまう。
【0007】
しかるに従来の一般的な光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、この点について全く検討がなされておらず、材料の結晶方位の異方性が充分に小さく耳率が低い材料が得られるとは限らなかったのが実情である。
【0008】
すなわち、前述のような従来の展伸材を用いたアルミニウム合金製ホイールリムの製造方法のうち、主として3ピースホイールに使用されているスピニング加工は、加工時の材料挙動が深絞り加工とは全く異なり、そのためスピニング加工を適用する方法に好適とされる材料(例えば特許文献1に示される材料)でも、深絞り加工を施した場合に耳率を安定して低くし得るとは限らなかった。また従来主として2ピースホイールリムの製造に適用されている方法、すなわち長尺の素板を丸めてフラッシュバット溶接等により溶接することにより短円筒状部材とし、さらにリム形状に成形する方法に適用される材料も、溶接性は配慮されるものの、深絞り加工の耳率に関しては全く考慮する必要がなく、そのためこの方法に用いられる材料も、深絞り加工を施した場合に耳率を安定して小さくし得るとは限らなかったのが実情である。
【0009】
なお、1枚の円板状素材から深絞り加工によってそのまま1個のリムを成形する方法も古くから知られてはいるが、この場合は1枚の素材から得られるリムが1個だけであるため、深絞り加工も浅いカップ状に成形すれば足り、そのため耳率もさほど大きな問題とはならず、そのため材料としても、図1に示すような方法を適用した場合のような耳率に対する厳しい要求もされていなかったのである。
【0010】
そこで、図1に示すような方法によって1枚の素板から複数個のリムに相当する円筒状部材を深絞り加工によって得、その後に各円筒状部材をリム形状に成形する方法に適した光輝性アルミニウム合金ホイールリム用材料、すなわち材料の結晶方位の異方性が小さく、安定して耳率が低い材料、換言すれば1枚の素板から安定して多数のホイールリムを得ることができる材料の新たなる開発が強く望まれている。
【0011】
ところで本発明者等は、素材合金の成分組成を適切に調整するばかりでなく、板の結晶方位を適切に制御することによって、材料の結晶方位の異方性が小さく耳率の低い光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板、すなわち前述のような深絞り−輪切りを適用したリム製造方法に好適なアルミニウム合金板が得られることを現に見出し、その光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板およびその製造方法について、既に特願2003−168724、特願2003−170275、特願2003−170276において提案している。
【0012】
すなわちこれらの提案の発明に係る光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板は、基本的には、Mg1.8〜3.8%を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAl及び不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度(最大方位密度)がランダムの30倍以下であり、しかも耳率が6%以下であることを特徴とするものであり、またその製造方法として、熱間圧延条件等を詳細に規定している。
【0013】
【特許文献1】
特開2002−249841
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
特願2003−168724等の提案によれば、確かに前述のような深絞り−輪切りを適用したリム製造方法に適したアルミニウム合金板を得ることは可能であるが、リム製造において必要な成形性の点では、未だ確実かつ安定して優れた成形性が得られるとは限らないのが実情であった。すなわち、リムの製造には各種の成形加工が施されるため、良好な成形性が要求される。さらに最近では需要家のニーズも多様化しており、リムのデザインとしても種々のデザインが施されるようになって、従来の一般的なリム材料程度の成形性では充分に満足できないことも多くなっている。例えば、成形加工によって生じることのあるオレンジピールと称される肌荒れは、表面外観品質を損なって商品価値を減じ、また成形加工によってクラックが発生すれば、ホイールリムとしての耐久性が著しく損なわれるが、前述の各提案のホイールリム用アルミニウム合金板では、これらの成形性の点では未だ充分に対処されているとは言えなかったのである。
【0015】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、前記各提案によるアルミニウム合金板と同様に、材料の結晶方位の異方性が小さくて耳率が低く、深絞り−輪切りを適用したリム製造方法に好適であると同時に、成形性も確実かつ安定して優れた光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前述のような課題を解決するべく本発明者等が鋭意実験・検討を重ねた結果、素材合金の成分組成の適切な調整と板の結晶方位の適切な制御と併せて、板の結晶粒サイズと金属間化合物の分散状態を適切に制御することによって、前述の課題を解決し得ることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0017】
具体的には、請求項1の発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板は、Mg1.8〜3.8%を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度がランダムの30倍以下であり、しかも耳率が6%以下であり、さらに圧延方向断面の平均結晶粒サイズが100μm以下であり、さらに板表面に存在する最大径3μm以上の粗大金属間化合物が1mm2当り5〜620個の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0018】
また請求項2の発明は、請求項1に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板において、前記アルミニウム合金が、前記各成分のほかさらにCu0.01〜0.20%を含むものである。
【0019】
さらに請求項3の発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1もしくは請求項2に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を製造するにあたり、前記成分組成のアルミニウム合金の鋳塊に対して粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施すにあたって、粗圧延における板厚150〜35mmの段階における各圧延パスでの1パス当り圧下量を50mm以下に規制するとともに、その段階において1パス当り圧下量15〜50mmの高圧下の圧延パスを1回以上適用し、かつ粗圧延の上り温度を400〜480℃の範囲内とし、さらに仕上げ圧延における最終パスの圧延速度を20〜75m/分の範囲内とするとともに上り温度を170〜260℃の範囲内に制御し、得られた熱間圧延板コイルに対してその後15〜45%の圧延率で冷間圧延を行ない、さらに290〜450℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持する最終焼鈍を行なうことを特徴とするものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
先ずこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板に使用されるアルミニウム合金の成分限定理由について説明する。
【0021】
Mg:
Mgの添加は、Mgそれ自体の固溶による強度向上に効果があり、またMgは転位との相互作用が大きいため、加工硬化による強度向上の効果も期待でき、したがってホイールリムとしての要求強度を満たすためにはMgは不可欠な元素である。またMgは結晶方位と耳率の制御、さらには結晶粒サイズの制御にも有効な元素である。但しMg量が1.8%未満ではホイールリムとしての要求強度を満たすことが困難となり、一方Mg量が3.8%を越える高Mg合金の場合には、結晶方位の異方性と耳率を小さくすることは可能であり、また平均結晶粒サイズを小さくすることもできるが、その場合は、偏肉ならし加工を行なう際に材料の加工硬化が大きくなり過ぎて、深絞りカップに割れが生じて製品としての価値を損なうおそれがある。そのためMg量は、1.8〜3.8%の範囲内とした。
【0022】
Fe:
Feは、光輝性の向上、ならびに結晶方位、耳率、結晶粒サイズ、および金属間化合物の分散状態の制御に大きな効果がある元素であるが、Fe含有量が0.15%を越えれば、後述する粗大金属間化合物の数密度が規定範囲を越えてしまう。したがって結晶方位の異方性と耳率を小さくしかつ平均結晶粒サイズを小さくすることは可能であっても、Al−Fe−(Mn)−(Si)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。また粗大な金属間化合物が多くなり過ぎて成形性が大きく低下してしまう。そこでFe含有量は、0.15%以下に規制することとした。
【0023】
Si:
Siも、光輝性の向上、ならびに結晶方位、耳率、結晶粒サイズ、および金属間化合物の分散状態の制御に大きな効果がある元素であるが、Si含有量が0.15%を越えれば、後述する粗大金属間化合物の数密度が規定範囲を越えてしまう。したがって結晶方位の異方性と耳率を小さくしかつ平均結晶粒サイズを小さくすることは可能であるものの、Al−Fe−Si−(Mn)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。さらには粗大な金属間化合物が多くなり過ぎて成形性が大きく低下してしまう。そこでSi含有量は、0.15%以下に規制することとした。
【0024】
Mn:
Mnも、光輝性の向上、ならびに結晶方位、耳率、結晶粒サイズ、および金属間化合物の分散状態の制御に大きな効果がある元素であり、Mn含有量が0.10%を越えれば、後述する粗大金属間化合物の数密度が規定範囲を越えてしまう。したがって結晶方位の異方性と耳率、結晶粒サイズには有利であるが、Al−Fe−Mn−(Si)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。さらには粗大な金属間化合物が多くなり過ぎて成形性が大きく低下してしまう。そこでMn含有量は、0.10%以下に規制することとした。
【0025】
Cr:
Crも、光輝性の向上、ならびに結晶方位、耳率、結晶粒サイズ、および金属間化合物の分散状態の制御に大きな効果がある元素であるが、Cr含有量が0.10%を越えれば、後述する粗大金属間化合物の数密度が規定範囲を越えてしまう。したがって結晶方位の異方性と耳率および平均結晶粒サイズは小さくできるものの、Al−Cr系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。また粗大な金属間化合物が多くなり過ぎて成形性が大きく低下してしまう。そこでCr含有量は、0.10%以下に規制することとした。
【0026】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良いが、前記各元素のほか、さらにCuを0.01〜0.20%の範囲内で添加しても良い。
【0027】
すなわち、Cuの添加は、Cuそれ自体の固溶による強度向上があり、またCuは転位との相互作用が大きいため、加工硬化による強度向上も期待でき、そのためホイールリムとしての要求強度を満たすために効果的な元素である。但しCu添加量が0.01%未満では強度向上効果が充分に得られず、一方Cu添加量が0.20%を越えれば光輝性が低下する。そのためCuを添加する場合のCu量は0.01〜0.20%の範囲内とした。
【0028】
そのほか、アルミニウム合金に通常不可避的に含有される元素、例えばZnは、光輝性を低下させる金属間化合物や成形性に悪影響を与える粗大な金属間化合物を形成しないから、0.20%以下まで含まれても良い。
【0029】
なお一般のアルミニウム合金では、鋳塊の結晶粒微細化のためにTi、あるいはTiおよびBを添加する場合があり、この発明の場合も鋳塊結晶粒微細化のためにTiを単独であるいはBと組合せて添加することは許容される。但し、Ti量が0.30%を越えれば、後述する粗大金属間化合物の数密度が規定範囲を越えてしまう。したがって結晶方位の異方性と耳率には有利であるが、粗大な金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまい、品質低下は避けられない。そこで、Tiを添加する場合のTi量は0.30%以下とすることが望ましい。またTiと組合せてBを添加する場合のB量は300ppm以下とすることが望ましい。
【0030】
この発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、上述のように合金の成分組成を調整するばかりでなく、板における各結晶方位のうち方位密度が最大の方位の結晶方位密度がランダムの30倍以下であること、言い換えれば、板の中にある全ての結晶方位の方位密度がランダムの30倍以下であることが、板の耳率を確実かつ安定して低くするために重要である。
【0031】
すなわち、アルミニウム合金板に見られる主な結晶方位には、Cube方位、Goss方位、R方位、Brass方位、S方位、Cu方位などがある。これらの結晶方位は、その方位の密度が高ければ、絞りカップ上に耳を発生させてしまう。そして本発明者等の実験によれば、これらの各結晶方位のうち、いずれかの結晶方位の密度がランダムの30倍を越えてしまえば、耳率が6%を越えてしまい、後述するように輪切り工程において複数個の短円筒状部材を得ることが困難となることが判明した。そこでこの発明では、板の最大方位密度がランダムの30倍を越えないことを規定した。なおこの発明において結晶方位の方位密度は、板の表面から板厚の1/4の位置においてX線回折を行ない、(200)、(220)、(111)の不完全極点図から方位分布関数(ODF)を計算し、傾角を考慮せずに求めることとする。
【0032】
さらにこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、その特性値として、耳率が6%以下であることを規定している。すなわち、製品板の耳率が6%を越えれば、深絞りカップ上に現われる耳の山と谷の差が顕著となって、絞りカップの底面から谷までの長さが短くなり、その結果輪切り工程において、輪切り(条取り)によって得ることができる短円筒状部材の数が少なく(すなわち条取り可能な条数が少なく)なり、歩留りの低下を招く。そこで、この発明では、製品板の耳率を6%以下に規制することとした。
【0033】
またこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、圧延方向断面の平均結晶粒サイズを100μm以下とする必要がある。このように平均結晶粒サイズを規制することとした理由は次の通りである。
【0034】
すなわち、前述の特許文献1においてはスピニング加工用アルミニウム合金厚板およびその製造方法が開示されており、板厚方向によって平均結晶粒サイズを制御することが提案されているが、本発明者等がこのような材料で実際にホイールを製造してみたところ、需要家の要求を満たす品質レベル(特に成形加工時の肌荒れの発生を確実に防止できること)には到達できなかった。そこでさらに種々検討を重ねたところ、成形加工時の肌荒れ等の発生を確実かつ安定して防止するためには、板厚全域にわたる平均結晶粒サイズの制御が必要であり、特に圧延方向断面の平均結晶粒サイズを100μm以下に規制すれば、需要家の要求する品質レベルを満足して、肌荒れ等の発生を確実かつ安定して防止し得ることが判明し、これを規定したのである。なここで平均結晶粒サイズは、切断法により偏光顕微鏡組織写真上から測定した。
【0035】
さらにこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、金属間化合物の分散条件として、板表面に存在する最大径3μm以上の粗大な金属間化合物が、1mm2当り5個以上、620個以下である必要がある。このように金属間化合物の分散条件を定めた理由は次の通りである。
【0036】
粗大な金属間化合物は光輝性を低下させる原因となるから、光輝性の観点からすれば、粗大な金属間化合物は極力少ない方が好ましいが、いたずらに粗大金属間化合物の数を減らそうとすれば、高純度のアルミニウム地金を使用しなければならず、そのためホイールリムの材料コストが高くなり過ぎてしまう。また別の観点から考慮すれば、硬くて脆い粗大な金属間化合物は、成形性を著しく低下させる原因となる。特にスピニング加工などでは、粗大な金属間化合物の周辺にマイクロクラックが発生してしまい、ホイールの耐久性を低下させるおそれがある。一方、さらに別の観点から見れば、粗大な金属間化合物は、結晶方位の異方性と耳率の制御に有効であり、特にこの発明で一つの目的としている異方性の小さい材料を得るためには効果的であり、粗大な金属間化合物の数が多ければ結晶方位の異方性を小さくでき、耳率を低くすることができる。さらに粗大な金属間化合物は、結晶粒サイズを制御するためにも有効であり、粗大の金属間化合物が多ければ、結晶粒サイズを小さくすることが容易となる。
【0037】
このように金属間化合物、特に粗大な金属間化合物は、光輝性ホイールリムの性能に種々の影響を及ぼし、また製造コストにも関係する。そこでこれらの種々の観点を考慮して、本発明者等が実験を繰返した結果、板表面に存在する最大径3μm以上の金属間化合物が、1mm2当り5個以上、620個以下の範囲内であるならば、高コスト化を招くことなく高品質なホイールリムを製造できることが明らかになった。すなわち、最大径3μm以上の金属間化合物が1mm2当り5個未満である場合には、満足できる性能は得られるものの、高純度のアルミニウム地金を使用しなければならず、ホイールリムの材料コストが高くなり過ぎる。一方、最大径3μm以上の粗大金属間化合物の数が1mm2当り620個を越える場合には、結晶方位の異方性と耳率、さらには平均結晶粒サイズの制御に対しては有効であるが、光輝性の低下が著しくなり、また成形性も大きく低下してしまう。なおここで粗大な金属間化合物数の定量化には、画像解析処理装置のルーゼックスを用い、板表面で測定した。
【0038】
次にこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造プロセスについて説明する。
【0039】
先ず前述のような成分組成のアルミニウム合金を、DC鋳造法等の常法に従って鋳造し、得られた鋳塊に対し、均質化処理を兼ねた加熱処理を行なうか、または均質化処理を行なってから熱間圧延前加熱処理を行ない、続いて熱間圧延によって所望の板厚の熱間圧延板とする。
【0040】
ここで熱間圧延工程は、一般的な熱間圧延プロセスと同様に、粗圧延および仕上げ圧延の組合せによって行なうが、この発明の製造方法の場合、粗圧延条件、仕上げ圧延条件のそれぞれについて細かく規制することが必要である。
【0041】
すなわち、先ず粗圧延においては、板厚150〜35mmの段階において、各圧延パスにおける1パス当りの圧下量を50mm以下に規制するとともに、その段階における1パス当りの圧下量が15〜50mmの範囲内となるような高圧下の圧延パスを、1回以上行なう必要があり、また粗圧延の上り温度を400〜480℃の範囲に制御する必要がある。このように熱間粗圧延条件を定めた理由は次の通りである。
【0042】
すなわち熱間粗圧延は、結晶方位の異方性と耳率、さらには結晶粒サイズの制御に大きな影響を与える。そして特に150〜35mmの段階で、全ての圧延パスが圧下量15mm未満の低圧下圧延であれば、粗圧延の上り温度が400℃を下回ってしまい、製品板の結晶方位の異方性が大きくなり、耳率が6%を越えてしまう。一方、板厚150〜35mmの段階で50mmを越えるような著しい高圧下の圧延パスを1回でも行なってしまえば、粗圧延上り温度が480℃を越えてしまう。そしてこのように480℃を越える高温で粗圧延を終了すれば、粗大な再結晶粒が形成され、製品板にまでこの影響が現われてしまい、その結果、製品板の平均結晶粒サイズが100μmを越えてしまって、成形加工時の肌荒れ等を招いてしまう。そこで粗圧延の条件を前述のように規制することとした。なおここで、粗圧延における1パス当り圧下量15〜50mmの高圧下の圧延パスは、その高圧下圧延パスの開始時の板厚が150〜35mmの範囲内にあれば良く、その高圧下圧延パスの終了時の板厚が35mmより薄くても良いことはもちろんである。
【0043】
次に仕上げ圧延においては、最終パスの圧延速度を20〜75m/分の範囲内とし、かつ仕上げ圧延の上り温度を170〜260℃の範囲内に制御する必要がある。このように熱間仕上げ圧延の条件を定めた理由は次の通りである。
【0044】
すなわち熱間仕上げ圧延における最終パスの圧延速度が20m/分未満であれば生産性を大きく低下させて、コスト上昇を招いてしまう。さらには、上り温度が170℃を下回ってしまって生産管理が難しくなってしまう。一方、仕上げ圧延最終パスの圧延速度が75m/分を越えれば、上り温度が260℃を越えてしまい、結晶方位の異方性が大きくなって、耳率が6%を越えることがある。さらには、上り温度によっては製品板の平均結晶粒サイズが100μmを越えることがある。そこで仕上げ圧延の条件を前述のように規制することとした。
【0045】
以上のような粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延によって得られた熱間圧延板に対しては、冷間圧延を行なって所要の製品板厚とする。この冷間圧延は、圧延率15〜45%の範囲内で行なう必要がある。すなわち、冷間圧延率が15%未満では、その後に最終焼鈍を行なうことによって製品板の結晶方位の異方性と耳率を小さくすることは可能であるが、最終焼鈍時に結晶粒が粗大化し過ぎて平均結晶粒サイズが100μmを越え、その結果製品板の加工時において加工部位に肌荒れ(オレンジピール)が著しく発生してしまって品質低下をもたらすおそれがある。一方、冷間圧延率が45%を越えれば、その後の最終焼鈍時においては結晶粒の粗大化を抑制できるが、結晶方位の異方性が大きくなって耳率が6%を越えてしまうおそれがある。そこで冷間圧延率は15〜45%の範囲内とした。
【0046】
冷間圧延後には最終焼鈍を施す。この最終焼鈍は、290〜450℃の範囲内の温度で0.5〜10時間の保持とする必要がある。すなわち最終焼鈍温度が290℃未満では、材料が完全に再結晶しないため、深絞り−輪切り後の偏肉ならし加工時において材料に割れが生じて、製品としての価値を損なうおそれがある。また結晶方位の異方性が大きくなって耳率が6%を越えてしまう。一方最終焼鈍温度が450℃を越えれば、結晶方位の異方性と耳率は小さくなるが、結晶粒が粗大化し過ぎて平均結晶粒サイズが100μmを越え、その結果、製品加工時において加工部位に肌荒れが著しく発生してしまって、品質低下をもたらすおそれがある。また最終焼鈍の保持時間が0.5時間未満では、組織の均一性を得ることが困難となる。一方最終焼鈍の保持時間が10時間を越えれば、結晶方位の異方性と耳率は小さくなるが、結晶粒が粗大化し過ぎて平均結晶粒サイズが100μmを越え、その結果製品板加工時に肌荒れが著しく発生してしまう。そこで最終焼鈍の条件は、290〜450℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持とした。なおこのような最終焼鈍は、通常のバッチ式の箱型焼鈍炉によって行なうことができる。
【0047】
【実施例】
表1の合金番号1〜6に示す種々の化学成分のAl合金について、常法に従ってDC鋳造し、得られた鋳塊に対して均質化処理を兼ねた500℃×10時間の加熱処理を行なってから、粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、さらに冷間圧延および最終焼鈍を行なって板厚6.0mmの製品板に仕上げた。熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍の詳細な条件について表2の製造番号1〜10に示す。
【0048】
得られた各製品板について、平均結晶粒サイズと表面における最大径3μm以上の粗大金属間化合物の数を調べ、さらに最大方位密度を測定するとともに耳率を調べ、また強度として、成形前の製品板(元板)について引張り強さ(TS)を調べた。さらに、製品板に深絞り加工を行なって、偏肉ならし加工、輪切り、曲げ加工、フレア加工、スピニング加工を施し、バフ研磨および化学研磨により表面を鏡面化した後、陽極酸化処理を行なって実際にリムを作成し、表面の光輝性および成形性を評価した。これらの結果を表3に示す。
【0049】
結晶方位については、既に述べた通り、X線回折により板厚の1/4の厚さの部位で(200)、(220)、(111)の不完全極点図を測定し、方位分布関数(ODF)を計算して、方位密度が最も高かった結晶方位とその方位密度(最大方位密度)を表3に示した。なおこの場合、傾角を考慮せずに各方位の方位密度を求めた。ここで、表3中における最大方位密度がランダムの30倍を越える場合が不合格となる。
【0050】
また耳率測定は、ブランク径180mmφ、絞り比1.92の条件で深絞り加工を行なって絞りカップを作製し、次のような方法で評価した。
耳率(%)=(平均耳高さ/平均谷高さ)×100
但し、平均耳高さ=(平均山高さ)−(平均谷高さ)
ここで、耳率が6%を越える場合が不合格となる。
【0051】
また成形前の元板の引張り強さ(TS)については、140MPa未満では、ホイールとしては剛性不足であり、したがって成形前の元板のTSが140MPa未満の場合が不合格となる。
【0052】
さらに光輝性の評価は、前述のように実際に陽極酸化処理まで行なったホイールリムを作成して、目視判定により評価した。ここで、表3において光輝性評価は、光輝性が低かったり、輝きにむらがある場合を不合格として×印を付し、合格の場合に○印を付した。また肌荒れ評価については、肌荒れが著しい場合を不合格として×印を付し、合格の場合を○印とした。
【0053】
また成形性の評価は、次のイ、ロの項目に着目し、両者を満足した場合に合格として○印を付し、いずれか一方でも満足されない場合に不合格として×印を付した。
イ:リムに加工した状態で表面の肌荒れが目立たないこと。なお肌荒れは、既に述べたように結晶粒サイズが大きい場合に生じやすい。
ロ:目視で観察してクラックが見えないこと。粗大な金属間化合物の周辺ではマイクロクラックが発生しやすく、そのため粗大な金属間化合物が多ければマイクロクラックが連続して目視で確認できる程度のクラックに成長してしまう。
【0054】
さらに、総合評価として、以上のような全ての評価項目で合格の場合を○印、いずれか一つの評価項目でも不合格の場合を×印とした。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1〜表3から明らかなように、製造番号1、製造番号4の例は、いずれもこの発明の成分組成範囲内の合金を用い、製造プロセスもこの発明の方法に従って製造して、全ての条件がこの発明で規定する範囲内となったものであり、この場合は全ての評価項目で合格となった。
【0059】
一方製造番号2、製造番号3、製造番号5、製造番号6の例は、合金の成分組成はこの発明で規定する範囲内であるが、製造プロセス条件が外れたため、最大結晶方位密度の条件がこの発明で規定する範囲を越えて耳率が大きくなるか、または平均結晶粒サイズが大きくて成形性評価で不合格となった。
【0060】
さらに製造番号7〜製造番号10の各例は、この発明で規定する成分組成範囲から外れた合金を使用したものであり、この場合は強度(元板TS)もしくは光輝性評価で不合格となるか、または粗大な金属間化合物が多くなって成形性評価で不合格となった。
【0061】
【発明の効果】
この発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板は、結晶方位の異方性が小さくて耳率が安定して低く、そのため深絞り−輪切りによって複数個のリムに相当する部材を同時に得るホイールリム製造法に適しており、そのようなホイールリム製造法を適用した場合において高い材料歩留りを安定して得ることができると同時に、成形性も優れていて、リムに加工した後の表面に肌荒れやクラックが発生するおそれもない。またこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法によれば、上述のようなホイールリム製造法に適した材料、素板、すなわち結晶方位の異方性が小さくて耳率の低く、しかも成形性にも優れたアルミニウム合金板を、量産的規模で確実かつ安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を用いてリムを製造する方法の例を示す略解図である。
【符号の説明】
1 円板状の素板
2 深絞りによるカップ状部材
3 短円筒状部材
4 耳
Claims (3)
- Mg1.8〜3.8%(mass%、以下同じ)を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度がランダムの30倍以下であり、しかも耳率が6%以下であり、さらに圧延方向断面の平均結晶粒サイズが100μm以下であり、さらに板表面に存在する最大径3μm以上の粗大金属間化合物が1mm2当り5〜620個の範囲内にあることを特徴とする、光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板。
- 請求項1に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板において、
前記アルミニウム合金が、前記各成分のほかさらにCu0.01〜0.20%を含むものである、光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板。 - 請求項1もしくは請求項2に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を製造するにあたり、
前記成分組成のアルミニウム合金の鋳塊に対して粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施すにあたって、粗圧延における板厚150〜35mmの段階における各圧延パスでの1パス当り圧下量を50mm以下に規制するとともに、その段階において1パス当り圧下量15〜50mmの高圧下の圧延パスを1回以上適用し、かつ粗圧延の上り温度を400〜480℃の範囲内とし、さらに仕上げ圧延における最終パスの圧延速度を20〜75m/分の範囲内とするとともに上り温度を170〜260℃の範囲内に制御し、得られた熱間圧延板コイルに対してその後15〜45%の圧延率で冷間圧延を行ない、さらに290〜450℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持する最終焼鈍を行なうことを特徴とする、光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法。
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