JP4078254B2 - 光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は自動車のホイールリムに使用されるアルミニウム合金板の製造方法に関するものであり、特に光輝性ホイールリムに使用される異方性の小さいAl−Mg系アルミニウム合金板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来一般にアルミニウム合金製の自動車用ホイールとしては、鋳造によるもの、あるいは鍛造によるもの、さらには展伸材を用いて成形加工により製造したものなどがあるが、最近ではコスト面および軽量化の観点から、2ピースホイールあるいは3ピースホイールとして、アルミニウム合金展伸材を成形加工したリムを用いたものが多くなっている。
【0003】
ところでアルミニウム合金を用いた場合のメリットとしては軽量であることばかりでなく、装飾性の観点から表面に美麗な光沢を与えたいわゆる光輝性のものを作りやすいことがあり、そこでアルミニウム合金展伸材を成形加工したホイールリムとしては、光輝性ホイールリムが多い。このような展伸材を用いた光輝性のホイールリムに使用されるアルミニウム合金としては、例えば特許文献1にも示されているように、成形性に優れたAl−Mg系合金、すなわちJIS5000番系の合金を使用することが多い。またこのようなアルミニウム合金展伸材を用いた光輝性ホイールリムの製造方法としては、例えば3ピースホイール用リムの場合、展伸材からなる円板状の素材を、スピニング加工によりカップ状ないしは椀型の形状に成形し、その後穴抜き加工を行ない、バフ研磨と化学研磨を施して表面を鏡面化し、さらに陽極酸化処理を施してリムを製造する方法が一般的である。また例えば2ピースホイール用リムの場合、そのリムの製造法としては、長尺状の板材を湾曲させて両端をフラッシュバット溶接等により溶接して、短円筒状とし、その短円筒状のものに対しロールフォーミングを施してリム形状とし、さらに前記同様に研磨や陽極酸化処理を施す方法が一般的である。
【0004】
しかるに最近では展伸材を用いた光輝性ホイールリムの製造方法として、従来の上述のような方法に代えて、アルミニウム缶等に多用される深絞り加工を適用し、得られた深絞りカップから複数個のリムを得る方法が開発され、実用化されるに至っている。
【0005】
この方法では、図1に示すように円板状の素板1に深絞り加工を施して、高さ(深さ)が複数個のリムに相当する深いカップ状部材2に成形し、そのカップ状部材2に対して偏肉化ならしを行なった後、輪切りにより複数個(n個)の短円筒状の部材3を得(一般にこの工程は条取りと称される)、その短円筒状部材のそれぞれについて、図示しない曲げ加工、フレアー加工、スピニング加工などを必要応じて施してリム形状とし、さらにバフ研磨および化学研磨を行なって表面を鏡面化し、陽極酸化処理を施す。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−249841
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述のようにアルミニウム合金展伸材を用いて深絞り加工により深絞りカップ状の部材を得、これを輪切りにすることにより複数個のリム向けの短円筒部材を得る方法では、材料の結晶方位の異方性が小さく、深絞り加工時における耳率が低いことが要求される。すなわち、図1に示したように、深絞り加工して得られたカップ状部材2を輪切りにして複数個のリムに相当する複数個の短円筒部材3を得るに当っては、その底部5のみならず、耳4の部分をも切り捨てざるを得ないが、その場合に材料の結晶方位の異方性が大きくて耳率が高ければ、カップ状部材2の耳4の山4Aと谷4Bとの高低差が大きくなり、そのため同じ寸法の素材を用いてもカップ状部材2から採取可能な短円筒状部材3の数が少なくなって、材料歩留りが低下してしまう。
【0008】
しかるに従来の一般的な光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板では、この点について全く検討がなされておらず、材料の結晶方位の異方性が充分に小さく耳率が低い材料が得られるとは限らなかったのが実情である。
【0009】
すなわち、前述のような従来の展伸材を用いたアルミニウム合金製ホイールリムの製造方法のうち、主として3ピースホイールに使用されているスピニング加工は、加工時の材料挙動が深絞り加工とは全く異なり、そのためスピニング加工を適用する方法に好適とされる材料(例えば特許文献1に示される材料)でも、深絞り加工を施した場合に耳率を安定して低くし得るとは限らなかった。また従来主として2ピースホイールリムの製造に適用されている方法、すなわち長尺の素板を丸めてフラッシュバット溶接等により溶接することにより短円筒状部材とし、さらにリム形状に成形する方法に適用される材料も、溶接性は配慮されるものの、深絞り加工の耳率に関しては全く考慮する必要がなく、そのためこの方法に用いられる材料も、深絞り加工を施した場合に耳率を安定して小さくし得るとは限らなかったのが実情である。
【0010】
なお、1枚の円板状素材から深絞り加工によってそのまま1個のリムを成形する方法も古くから知られてはいるが、この場合は1枚の素材から得られるリムが1個だけであるため、深絞り加工も浅いカップ状に成形すれば足り、そのため耳率もさほど大きな問題とはならず、そのため材料としても、図1に示すような方法を適用した場合のような耳率に対する厳しい要求もされていなかったのである。
【0011】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、図1に示すような方法によって1枚の素板を深絞り加工し、さらにその深絞りカップから輪切りにより複数個のリムに相当する複数個の円筒状部材を得、その後に各円筒状部材をリム形状に成形する方法に適した光輝性アルミニウム合金ホイールリム用材料、すなわち材料の結晶方位の異方性が小さく、安定して耳率が低い材料を、確実かつ安定して製造し得る方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前述のような課題を解決するべく本発明者等が鋭意実験・検討を重ねた結果、素材合金の成分組成を適切に調整するばかりでなく板の結晶方位を適切に制御することによって、材料の結晶方位の異方性が小さく耳率の低い光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板、すなわち前述のような深絞り−輪切りを適用したリム製造方法に好適なアルミニウム合金板が得られることを見出し、既に特願2003−168724において提案している。
【0013】
すなわち上記提案の発明に係る光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板は、Mg1.8〜3.8%を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAl及び不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度(最大方位密度)がランダムの30倍以下であり、しかも耳率が6%以下であることを特徴とするものである。なおここで、前記アルミニウム合金としては、前記各成分のほかさらにCu0.01〜0.20%を含むものであっても良い。
【0014】
ところで前記特願2003−168724の提案においては、上述のような最大方位密度がランダムの30倍以下で耳率が6%以下の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を得るための方法として、熱間圧延上がりで再結晶率80%以上の熱間圧延板を得て、その後に中間焼鈍を行なうことなく、冷間圧延を行なって製品板厚とし、さらに最終焼鈍を行なって最終板(製品板)に仕上げる方法を開示している。
【0015】
しかるに本発明者等がさらに実験・検討を重ねたところ、冷間圧延を行なわずに、熱間圧延上がり板厚のままで製品板厚とする製造方法でも、熱間圧延条件、特に最終パスの直前の1パスおよび最終パスにおける圧延率、圧延速度を適切に規制するとともに熱間圧延上がり温度を適切に規制することによって、熱間圧延上がりの板厚のままの製品板として、最大方位密度がランダムの30倍以下で耳率が6%以下のホイールリム用アルミニウム合金板、すなわち前述のような深絞り−輪切りを適用したホイールリム製造方法に適したアルミニウム合金板が得られることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0016】
具体的には請求項1の発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法は、Mg1.8〜3.8%を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、そのアルミニウム合金の鋳塊に対して、熱間圧延を行なうにあたり、最終パスの直前のパスにおける圧延率を25〜55%、圧延速度を70〜350m/分に制御するとともに、最終パスの圧延率を27〜55%、圧延速度を80〜350m/分に制御し、かつ上がり温度を300〜370℃の範囲内に制御して熱間圧延し、コイルに巻取り、これにより再結晶率が90%以上の熱間圧延板コイルを得、さらにその熱間圧延板コイルの巻ぐせを矯正するためのレベリングを施した後、200〜500℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持のレベリング歪み除去焼鈍を行ない、これによって板の各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度がランダムの30倍以下であってかつ耳率が6%以下であるアルミニウム合金板を得ることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項2の発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金を素材として、前記各成分のほかさらにCu0.01〜0.20%を含むものを用いることを特徴とするものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
先ずこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法に使用されるアルミニウム合金素材の成分限定理由について説明する。
【0019】
Mg:
Mgの添加は、Mgそれ自体の固溶による強度向上に効果があり、またMgは転位との相互作用が大きいため、加工硬化による強度向上の効果も期待でき、したがってホイールリムとしての要求強度を満たすためにはMgは不可欠な元素であり、さらにMgは結晶方位と耳率の制御にも有効である。但しMg量が1.8%未満ではホイールリムとしての要求強度を満たすことが困難となり、一方Mg量が3.8%を越える高Mg合金の場合には、結晶方位の異方性と耳率を小さくすることは可能であるが、偏肉ならし加工を行なう際に材料の加工硬化が大きくなり過ぎて、深絞りカップに割れが生じて製品としての価値を損なうおそれがある。そのためMg量は、1.8〜3.8%の範囲内とした。
【0020】
Fe:
Feは、光輝性の向上、ならびに結晶方位と耳率の制御に大きな効果がある元素であるが、Fe含有量が0.15%を越えれば、結晶方位の異方性と耳率を小さくすることは可能であっても、Al−Fe−(Mn)−(Si)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。そこで、Fe含有量は0.15%以下に規制することとした。
【0021】
Si:
Siも光輝性の向上ならびに結晶方位と耳率の制御に大きな効果がある元素であるが、Si含有量が0.15%を越え越えれば、結晶方位の異方性と耳率を小さくすることは可能であるものの、Al−Fe−Si−(Mn)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。そこで、Si含有量は0.15%以下に規制することとした。
【0022】
Mn:
Mnも光輝性の向上ならびに結晶方位と耳率の制御に大きな効果がある元素であるが、Mn含有量が0.10%を越えれば、結晶方位の異方性と耳率には有利であるが、Al−Fe−Mn−(Si)系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。そこで、Mn含有量は0.10%以下に規制することとした。
【0023】
Cr:
Crも光輝性の向上ならびに結晶方位と耳率の制御に大きな効果がある元素であるが、Cr含有量が0.10%を越え越えれば、結晶方位の異方性と耳率は小さくできるものの、Al−Cr系の金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまって、外観品質の低下を招いてしまう。そこで、Cr含有量は0.10%以下に規制することとした。
【0024】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良いが、前記各元素のほか、さらにCuを0.01〜0.20%の範囲内で添加しても良い。
【0025】
すなわち、Cuの添加は、Cuそれ自体の固溶による強度向上があり、またCuは転位との相互作用が大きいため、加工硬化による強度向上も期待でき、そのためホイールリムとしての要求強度を満たすために効果的な元素である。但しCu添加量が0.01%未満では強度向上効果が充分に得られず、一方Cu添加量が0.20%を越えれば光輝性が低下する。そのためCuを添加する場合のCu量は0.01〜0.20%の範囲内とした。
【0026】
そのほか、アルミニウム合金に通常不可避的に含有される元素、例えばZnは光輝性を低下させる金属間化合物を形成しないから、0.20%以下まで含まれても良い。
【0027】
なお一般のアルミニウム合金では、鋳塊の結晶粒微細化のためにTi、あるいはTiおよびBを添加する場合があり、この発明の場合も鋳塊結晶粒微細化のためにTiを単独であるいはBと組合せて添加することは許容される。但し、Ti量が0.30%を越えれば、結晶方位の異方性と耳率には有利であるが、粗大な金属間化合物によって光輝性が低下したり、輝きにむらが生じてしまい、品質低下は避けられず、そこでTiを添加する場合のTi量は0.30%以下とすることが望ましい。またTiと組合せてBを添加する場合のB量は300ppm以下とすることが望ましい。
【0028】
この発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法では、上述のように合金の成分組成を調整するばかりでなく、最終的に得られる製品板における各結晶方位のうち方位密度が最大の方位の結晶方位密度がランダムの30倍以下であること、言い換えれば、板の全ての結晶方位の方位密度がランダムの30倍以下に規制されていることが、耳率を確実かつ安定して低くするために重要である。
【0029】
すなわち、アルミニウム合金板に見られる主な結晶方位としては、Cube方位、Goss方位、R方位、Brass方位、S方位、Cu方位などがあるが、これらの結晶方位は、その方位の密度が高ければ、絞りカップ上に耳を発生させてしまう。そして本発明者等の実験によれば、これらの各結晶方位のうち、いずれかの結晶方位の密度がランダムの30倍を越えてしまえば、耳率が6%を越えてしまい、後述するように輪切り工程において複数個の短円筒状部材を得ることが困難となることが判明した。そこでこの発明では、製品板の最大方位密度がランダムの30倍を越えないことを規定した。なおこの発明において結晶方位の方位密度は、板の表面から板厚の1/4の位置においてX線回折を行ない、(200)、(220)、(111)の不完全極点図から方位分布関数(ODF)を計算し、傾角を考慮せずに求めることとする。
【0030】
さらにこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法では、製品板の特性値として耳率が6%以下であることを規定している。すなわち、製品板の耳率が6%を越えれば、深絞り加工によって得られる深絞りカップ上に現われる耳の山と谷の差が顕著となって、絞りカップの底面から谷までの長さが短くなり、その結果輪切り工程において、輪切り(条取り)により得ることができる短円筒状部材の数が少なく(すなわち条取り可能な条数が少なく)なって、歩留りの低下を招く。そこで、この発明では、最終的な製品板での耳率を6%以下に規制することとした。
【0031】
次にこの発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造プロセスについて説明する。
【0032】
先ず前述のような成分組成のアルミニウム合金を、DC鋳造法等の常法に従って鋳造し、得られた鋳塊に対し、均質化処理を兼ねた加熱処理を行なうかまたは均質化処理を行なってから熱間圧延前加熱処理を行ない、続いて熱間圧延によって製品板厚まで圧延し、コイルに巻取る。
【0033】
ここで熱間圧延工程は、複数のパスで行なわれるのが通常であるが、特にこの発明の方法の場合、最終パスの直前の1パス(以下これを“最終前パス”と記す)においては、その圧延率を25〜55%の範囲内、圧延速度を70〜350m/分の範囲内に制御し、また最終パスにおいては、圧延率を27〜55%の範囲内、圧延速度を80〜350m/分の範囲内に制御し、さらに熱間圧延上がり温度を300〜370℃の範囲内に制御して、熱間圧延上がりで再結晶率が90%以上の熱間圧延板を得る必要がある。
【0034】
以下にこれらの熱間圧延条件についてさらに詳細に説明する。
【0035】
最終前パスの圧延率:25〜55%
最終前パスの圧延率が25%未満では、最終前パス後の回復もしくは再結晶が抑制されてしまうため、製品板の結晶方位の異方性が大きくなってしまい、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発達してしまう。このように絞りカップ上に耳が発達し過ぎれば、耳の山と谷が明白になり過ぎて、既に述べたように輪切り工程での条取り可能な短円筒状部材の数が少なくなって、歩留り低下をもたらす。一方、最終前パスで55%を越える高圧下圧延を行なえば、最終前パス後の回復もしくは再結晶が促進されるため、製品板の結晶方位の異方性と耳率は小さくなるが、熱延コーティングが発生してしまい、品質低下をもたらすおそれがある。そこで熱間圧延の最終前パスの圧延率は25〜55%の範囲内に制御することとした。
【0036】
最終前パスの圧延速度:70〜350m/分
最終前パスの圧延速度が70m/分未満では、最終前パス後の回復もしくは再結晶が抑制されてしまうため、製品板の結晶方位の異方性を大きくしてしまい、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発達してしまい、前記同様な問題が生じる。一方、最終前パスで350m/分を越える高速圧延を行なえば、最終前パス後の回復もしくは再結晶が促進されるため、製品板の結晶方位の異方性と耳率は小さくなるが、熱延コーティング発生してしまい、品質低下をもたらすおそれがある。そこで熱間圧延の最終前パスの圧延速度は70〜350m/分の範囲内に制御することとした。
【0037】
最終パスの圧延率:27〜55%
最終パスの圧延率が27%未満では、熱間圧延上がり温度が300℃を下回ってしまうおそれがあり、その場合には熱間圧延上がりで再結晶率90%以上を確保することが困難となる。このように熱間圧延上がりで再結晶率90%以上を確保できなければ、その後のレベリング後のレベリング歪み除去焼鈍において未再結晶部が再結晶し、そのためせっかく熱間圧延工程で制御した結晶方位の異方性が大きく変化してしまい、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発達してしまうおそれがある。一方最終パスで55%を越える高圧下圧延を行なえば、熱延コーティングが発生してしまって、品質低下をもたらすおそれがある。そこで熱間圧延最終パスの圧延率は27〜55%の範囲内に制御することとした。
【0038】
最終パスの圧延速度:80〜350m/分
最終パスの圧延速度が80m/分未満では、熱間圧延の上がり温度が300℃を下回る場合があり、その場合には熱間圧延上がりで再結晶率90%以上を確保することが困難となる。このように熱間圧延上がりで再結晶率90%以上を確保できなければ、その後のレベリング後のレベリング歪み除去焼鈍において未再結晶部が再結晶し、そのためせっかく熱間圧延工程で制御した結晶方位の異方性が大きく変化してしまい、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発達してしまうおそれがある。一方最終パスで350m/分を越える高速圧延を行なえば、熱延コーティングが発生してしまって、品質低下を招くおそれがある。そこで熱間圧延における最終パスの圧延速度は80〜350m/分の範囲内に制御することとした。
【0039】
熱間圧延上がり温度:300〜370℃
熱間圧延における上がり温度が300℃を下回れば、熱間圧延上がり板において再結晶率90%以上を確保することが困難となり、既に述べたと同様にその後のレベリング後のレベリング歪み除去焼鈍で未再結晶部が再結晶し、異方性が変化して、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発生してしまうおそれがある。一方370℃を越える高温上がりとするためには、圧延率55%を越える高圧下圧延が必要となるが、既に述べたように、55%を越える高圧下圧延では熱延コーティングが発生してしまって、品質低下をもたらすおそれがある。そこで熱間圧延の上がり温度は300〜370℃の範囲内に制御することとした。
【0040】
熱間圧延上がり板の再結晶率:90%以上
熱間圧延上がりで板の再結晶率90%以上を確保できなければ、その後のレベリング後のレベリング歪み除去焼鈍において未再結晶部が再結晶してしまい、そのためせっかく熱間圧延工程で制御した結晶方位の異方性が大きく変化してしまい、深絞り工程で絞りカップ上に耳が発達してしまって、輪切り工程で所望とする数の短円筒状部材を得ることが困難となって、歩留り低下をもたらす。そこで、熱間圧延上がりでの板の再結晶率は90%以上と規定した。なお、ここで再結晶率の測定は、圧延方向断面の結晶粒組織を観察し、画像解析処理装置ルーゼックスを用いて行なった。
【0041】
以上のようにして熱間圧延を行なって所望の製品板厚とし、コイルに巻上げた後には、その熱間圧延板コイルに対してレベリングを行なう。このレベリングは、熱間圧延板コイルの巻ぐせを矯正するためのものであるが、レベリングの具体的手段としては、ストレッチャー、ローラーレベラー、さらには重し焼鈍法などがあり、いずれの手段を用いても良いが、通常はローラーレベラーを用いることが多く、この発明の実施例でもローラーレベラーを用いることとした。
【0042】
さらにレベリング歪み除去焼鈍は、レベリングによって導入された転位を消滅させ、製品板に対する深絞り加工、偏肉ならし加工、輪切り、曲げ加工、フレアー加工、スピニング加工での成形性を向上させるために行うものであり、200〜500℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持の条件で行なう。ここで、焼鈍温度が200℃未満ではレベリング歪みを完全に除去できないため、焼鈍を行なう意味がない。一方、焼鈍温度が500℃を越えれば、結晶方位の異方性と耳率は小さくなるが、結晶粒が粗大化し過ぎて製品加工時において加工部位に肌荒れ(オレンジピール)が著しく発生してしまい、品質低下をもたらす。また、焼鈍の保持時間が0.5時間未満では、焼鈍温度によってはレベリング歪みを完全に除去できないことがある。一方、10時間を越える長時間の焼鈍では、異方性と耳率は小さくできるが、焼鈍温度によっては結晶粒が粗大化し過ぎて、加工時において肌荒れ(オレンジピール)が著しく発生してしまう。そこでレベリング歪み除去焼鈍の温度は200〜500℃、保持時間は0.5〜10時間の範囲内とした。なおここで規定するレベリング歪み除去焼鈍は、通常のバッチ式の箱型焼鈍炉を使用して実施することができる。
【0043】
【実施例】
表1の合金番号1〜7に示す種々の化学成分のAl合金について、常法に従ってDC鋳造し、得られた鋳塊に対して均質化処理を兼ねた490℃×8時間の加熱処理を行なってから、熱間圧延を施して製品板厚6.0mmに仕上げ、コイルに巻取った。さらにローラーレベラーによりレベリングを行なった後、レベリング歪み除去焼鈍を行なって製品板に仕上げた。熱間圧延およびレベリング歪み除去焼鈍の詳細な条件について表2の製造番号1〜11に示す。
【0044】
得られた各製品板について、最大方位密度を測定するとともに、耳率を調べ、さらに強度として、成形前の製品板(元板)について引張り強さ(TS)を調べた。さらに、製品板に深絞り加工を行なって、偏肉ならし加工、輪切り、曲げ加工、フレア加工、スピニング加工を施し、バフ研磨および化学研磨により表面を鏡面化した後、陽極酸化処理を行なって実際にリムを作成し、そのホイールリムについて、表面の光輝性および肌荒れを評価した。これらの結果を表3に示す。
【0045】
結晶方位については、既に述べた通り、X線回折により板厚の1/4の厚さの部位で(200)、(220)、(111)の不完全極点図を測定して、方位分布関数(ODF)を計算し、方位密度が最も高かった結晶方位とその方位密度(最大方位密度)を表3に示した。なおこの場合、傾角を考慮せずに各方位の方位密度を求めた。ここで、表3中における最大方位密度が30倍を越える場合が不合格となる。
【0046】
また耳率測定は、ブランク径180mmφ、絞り比1.92の条件で深絞り加工を行なって絞りカップを作製し、次のような方法で評価した。
耳率(%)=(平均耳高さ/平均谷高さ)×100
但し、平均耳高さ=(平均山高さ)−(平均谷高さ)
ここで、耳率が6%を越える場合が不合格となる。
【0047】
また成形前の元板の引張り強さ(TS)については、140MPa未満では、ホイールリムとしては剛性不足であり、したがって成形前の元板のTSが140MPa未満の場合が不合格となる。
【0048】
さらに光輝性および肌荒れの評価は、前述のように実際に陽極酸化処理まで行なったホイールリムを作成して、目視判定により評価した。ここで、表3において光輝性評価は、光輝性が低かったり、輝きにむらがある場合を不合格として×印を付し、合格の場合に○印を付した。また肌荒れ評価については、肌荒れが著しい場合を不合格として×印を付し、合格の場合を○印とした。
【0049】
そしてまた総合評価として、全ての評価項目で合格の場合を○印、いずれか一つの評価項目でも不合格の場合を×印とした。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表1〜表3から明らかなように、製造番号1、製造番号4、製造番号6の例は、いずれもこの発明の成分組成範囲内の合金を用い、製造プロセスもこの発明の方法に従って製造して、最大結晶方位密度および耳率がこの発明で規定する範囲内となったものであり、この場合は全ての評価項目で合格となった。
【0054】
一方製造番号2、製造番号3、製造番号5、製造番号7の例は、合金の成分組成はこの発明で規定する範囲内であるが、製造プロセス条件が外れたため、最大結晶方位密度の条件がこの発明で規定する範囲を越えて耳率が過大となるか、または肌荒れ評価で不合格となった。
【0055】
さらに製造番号8〜製造番号11の各例は、この発明で規定する成分組成範囲から外れた合金を使用したものであり、この場合は強度(元板TS)または光輝性評価で不合格となった。
【0056】
【発明の効果】
この発明の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法によれば、結晶方位の異方性が小さくて耳率が安定して低いホイールリム用アルミニウム合金板を、確実かつ安定して得ることができ、したがってこの発明の方法により得られたアルミニウム合金板を、深絞り−輪切りによって複数個のリムに相当する部材を同時に得るホイールリム製造法に適用すれば、材料歩留りを安定して高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明により得られる光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板を用いてホイールリムを製造する方法の例を示す略解図である。
【符号の説明】
1 円板状の素板
2 深絞りによるカップ状部材
3 短円筒状部材
4 耳
Claims (2)
- Mg1.8〜3.8%(mass%、以下同じ)を含有し、かつFe量が0.15%以下、Si量が0.15%以下、Mn量が0.10%以下、Cr量が0.10%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、そのアルミニウム合金の鋳塊に対して、熱間圧延を行なうにあたり、最終パスの直前のパスにおける圧延率を25〜55%、圧延速度を70〜350m/分に制御するとともに、最終パスの圧延率を27〜55%、圧延速度を80〜350m/分に制御し、かつ上がり温度を300〜370℃の範囲内に制御して熱間圧延し、コイルに巻取り、これにより再結晶率が90%以上の熱間圧延板コイルを得、さらにその熱間圧延板コイルの巻ぐせを矯正するためのレベリングを施した後、200〜500℃の範囲内の温度で0.5〜10時間保持のレベリング歪み除去焼鈍を行ない、これによって板の各結晶方位のうち、方位密度が最大の方位の方位密度がランダムの30倍以下であってかつ耳率が6%以下であるアルミニウム合金板を得ることを特徴とする、光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1に記載の光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法において、
前記アルミニウム合金を素材として、前記各成分のほかさらにCu0.01〜0.20%を含むものを用いる、光輝性ホイールリム用アルミニウム合金板の製造方法。
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