JP4248865B2 - 乾式メタン発酵用有機性廃棄物の前処理方法 - Google Patents

乾式メタン発酵用有機性廃棄物の前処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機性廃棄物の処理方法及びそのための前処理方法に関する。より具体的には、本発明は、メタン発酵を利用して有機性廃棄物を処理する方法及びそのための前処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
家畜糞尿や生ゴミ、都市下水汚泥をはじめとする有機性固形廃棄物は、近年増え続け、その処理対策が検討されている。例えば、1日当たりの発生量は、食品廃棄物が約5万トン、家畜排泄物が約26万トン、下水余剰汚泥が約32万トン、また有機性廃棄物の総量としては、1日当たり約63万トンを超える廃棄物が発生している(茅野充男他,生物系廃棄物の資源化とリサイクル,農林水産業と環境保全,産業技術会議編集発行,p.255−295,2000年)。このような有機性廃棄物の処分方法として、メタン発酵技術が実用化している。この方法は、固形性廃棄物の有機性成分を嫌気的な条件下で微生物により分解して最終的にはメタンガスへと変換するものである。例えば、1トン当たり、牛糞尿からは10〜30Nm3、豚糞尿からは32〜48Nm3、鶏糞尿からは66〜110Nm3、し尿からは5〜7Nm3、残飯からは176Nm3のメタンガスを回収することができる(茅野充男他,前掲,2000年)。しかし、このメタン発酵法には、以下の課題がある。(1)施設が大規模になるため建設コストとランニングコストが高くなり易い。(2)固形性原料をそのままメタン発酵(湿式法)することにより発酵済み液が生じるが、この発酵済み液は依然として残存有機物濃度やアンモニアをはじめとした栄養塩類濃度が高いため、二次処理として高度水処理設備が必要であり、そのための建設費と維持費が高価になり易い。(3)発酵済み液を液肥として再利用する際にも量的な制限が生じやすく、アンモニア濃度が高いため地下水汚染の影響が懸念されている。(4)悪臭が生じやすい。さらに、家畜糞尿を対象としてメタン発酵を行う場合には、(5)高濃度のアンモニアがメタン発酵に支障をきたすことが知られており、アンモニア阻害を防止する技術が要求されている。
【0003】
以上のような課題から、メタン発酵法の改善についていくつか報告がある。例えば、上記(2)の発酵済み液に関して、機械的な脱水による処理がある(特許文献1)が、この場合には、固液分離ができても液の後処理が必要であり、操作が煩雑となる。また例えば上記(2)の発酵済み液の減容化に関して、近年、含水率の低い有機性固形廃棄物を対象にメタン発酵する乾式メタン発酵法という技術が有望視されている(例えば、特許文献2及び3参照)。この方法では、発生する発酵済み液の量を大幅に削減することができ、このようなコンパクト化により上記(1)及び(2)の課題についてコスト削減や二次処理の問題を緩和できる。しかしながら、乾式メタン発酵法においても、原料となる有機性廃棄物の含水率を低減させるための処理が必要であり、また依然として上記(3)〜(5)の課題が残る。この(3)及び(5)の高濃度アンモニアの存在に関して、可溶化促進法としても用いられる苛性ソーダ(NaOH)を用いたアルカリ処理による脱アンモニア(特許文献4)と、スチーム又は加熱によるアンモニアの除去(特許文献5及び6)が知られている。しかし、特許文献4によるアルカリ処理では、アルカリ化した原料をメタン発酵のために中和するための新たな薬剤が必要であり、そのためのコストが大きくなる。また特許文献5及び6によるスチーム(蒸気供給)及び加熱では、大量のエネルギー供給が必要であり、エネルギー効率が悪い。また蒸気供給は、上記(1)の課題に関して有機性廃棄物の減容化にも利用されているが、大量のエネルギーが必要な点で効率的とは言えない。
従って、有機性廃棄物を処理するための効率的かつ経済的な方法又は前処理方法が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−316130号公報
【特許文献2】
特開平11−309493号公報
【特許文献3】
特開2002−320949号公報
【特許文献4】
特開2002−177994号公報
【特許文献5】
特開2001−137812号公報
【特許文献6】
特開2002−86195号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、例えば乾式メタン発酵法を利用して有機性廃棄物を処理する方法において、より効率的かつ経済的に処理を行うための前処理方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、有機性廃棄物の減容化、可溶化及び脱アンモニアを促進するための前処理方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生石灰を用いて有機性廃棄物を前処理することによって、有機性廃棄物を脱水して減容化し、かつ有機性廃棄物に含まれるアンモニアをアルカリ化して除去(脱アンモニア)し、さらには有機性廃棄物中に含まれるタンパク質などの成分を分解して可溶化できることを見出した。またこの生石灰は上記反応中に消石灰に変化し、この消石灰がメタン発酵を阻害する要因となる揮発性低級脂肪酸を低減し、かつメタン発酵に用いられる微生物の生存及びその活性を増大し、さらにはメタン発酵を阻害する有害菌を死滅させることを見出し、生石灰を用いて有機性廃棄物を前処理することで、さらにはメタン発酵効率を向上させることができるという知見を得、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、有機性廃棄物の処理において、有機性廃棄物に生石灰(CaO)を投入するアルカリ反応工程を行うことを特徴とする有機性廃棄物の前処理方法である。
上記前処理方法を適用する有機性廃棄物の処理は、好ましくはメタン発酵により、より好ましくは乾式メタン発酵により行う。
【0008】
上記前処理方法において、アルカリ反応工程は、好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜110℃、さらに好ましくは100℃の温度で行う。また上記アルカリ反応工程において、生石灰(CaO)は消石灰(Ca(OH)2)に変化する。上記前処理方法においては、アルカリ反応工程前に、さらに有機性廃棄物を好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜110℃、さらに好ましくは100℃にて加熱する加熱工程を行う。またアルカリ反応工程後、さらに有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和する中和反応工程を行うことが好ましい。該中和反応工程においては、中和は、例えば炭酸ガス(CO2)を用いて行うことができる。
【0009】
また本発明は、有機性廃棄物に生石灰(CaO)を投入するアルカリ反応工程を含む前処理段階、及びメタン発酵段階を含むことを特徴とする、有機性廃棄物の処理方法である。
【0010】
上記有機性廃棄物の処理方法において、前処理段階は、さらに有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和する中和反応工程を含むものであってもよい。またメタン発酵段階は、乾式メタン発酵により行うことが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る有機性廃棄物の処理方法及びそのための前処理方法は、有機性廃棄物を生石灰(CaO)を用いてアルカリ化するアルカリ反応工程を行うことを特徴としており、該生石灰により有機性廃棄物を脱水して減容化し、かつ有機性廃棄物に含まれるアンモニアをアルカリ化して除去(脱アンモニア)し、さらには有機性廃棄物中に含まれるタンパク質などの成分を分解して可溶化できるというものである。また上記反応後、生石灰は消石灰に変化し、これがさらにメタン発酵効率を向上させる。消石灰の存在によってアルカリ化した有機性廃棄物の処理物は、例えば炭酸ガスにより中和することができる。従って、本発明の有機性廃棄物の処理方法及びそのための前処理方法は、エネルギー供給量が少なく、出来る限りシステムの循環系を成立させて効果的に固形性原料の減容化が可能な方法であり、かつ、メタン発酵に支障を及ぼさず、炭素ガスのリサイクルによって二酸化炭素の排出抑制にも効果的である。
【0012】
1.アルカリ反応工程
本発明に係る有機性廃棄物の処理方法における前処理段階及び前処理方法では、処理対象の有機性廃棄物を生石灰(CaO)を用いてアルカリ化するアルカリ反応工程を行う。本発明において「有機性廃棄物の処理」とは、有機性廃棄物を分解又は無害化し、その容積を減らすこと、さらには有機性廃棄物から有用物質を回収し、資源化することを指す。また本発明の方法で処理対象となる有機性廃棄物は、有機物由来の廃棄物であれば特に限定するものではないが、産業廃棄物(例えば、浄化槽汚泥、下水汚泥、食品廃棄物、伐採材など)、農業廃棄物(例えば、家畜糞尿、農集汚泥など)、家庭内廃棄物(例えば、生ゴミ、古紙、し尿、下水汚泥など)が挙げられる。
【0013】
前処理に使用する生石灰は、酸化カルシウム又はCaOとも称され、結晶性粉末として存在する。生石灰は、水や二酸化炭素と反応することが知られており、この反応を利用してアンモニアやアルコールの乾燥剤、及びその他の工業用薬剤として用いられている。本発明において使用する生石灰は、一般的な生石灰であれば特に限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、粒径約5mmの粒子状であり、加熱乾燥して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)に変質していない乾燥状態のものが好ましい。
【0014】
アルカリ反応工程は、上記生石灰を有機性廃棄物に投入し、好ましくは混合することにより行う。使用する生石灰量は、有機性廃棄物の種類及び量などにより異なるが、当業者であれば容易に決定しうる。例えば、有機性廃棄物に対して、約0.5〜5%(w/v)、好ましくは約1〜2%(w/v)で生石灰を投入する。投入後、有機性廃棄物と生石灰を機械撹拌などによって十分に混合することが好ましい。また生石灰の投入(混合)回数は特に制限されないが、アルカリ化反応が完了するのに適した回数で行なう。従って、数回、例えば2〜3回程度生石灰を投入し、混合してもよい。このアルカリ反応工程は、加熱によりさらに有機性廃棄物の含水率が低減し、pHが高くなり、またアンモニア除去率が高くなるため、好ましくは約70〜120℃、より好ましくは約80〜110℃、さらに好ましくは100℃において行う。アルカリ反応時間は、投入した生石灰量、処理する有機性廃棄物の種類及び量、反応温度などによって異なるが、例えば反応温度100℃の場合には約2時間にわたりアルカリ反応工程を行うことが好ましい。
【0015】
また、上記アルカリ反応工程の前に、原料である有機性廃棄物を加熱してもよい。例えば、有機性廃棄物をアルカリ反応減容槽に投入し、熱を供給して温度約70〜120℃、好ましくは約100℃にて、約0.5〜4時間、好ましくは約1時間加熱維持してもよい。この加熱工程において原料となる有機性廃棄物を予め加温することによって、生石灰投入時に反応促進効果が得られる。なお、アルカリ反応工程は、生石灰による化学反応と加熱とによって相乗効果が得られる。図1に示すメタン発酵の原理においては、加熱分解(可溶化)プロセスがあり、このプロセスが全体の発酵時間に影響を及ぼす。従って、アルカリ反応及び加熱によって可溶化が相乗的に促進されることにより、例えば低級脂肪酸(VFA)などにまで可溶化を進行させることによって、メタン発酵効率を大幅に改善することができる。以上のように、本発明の有機性廃棄物の処理方法の前処理段階及び前処理方法においては、アルカリ反応工程前及び反応工程を加熱して行うことが好ましい。この加熱は、任意の手段により行うことができるが、特に本発明の有機性廃棄物の処理方法の系における経済性を考慮した場合には、メタン発酵において発生したメタンガスからボイラー熱を製造して得られた熱源を利用して熱風を供給することが好ましい。
【0016】
上記アルカリ反応工程においては、次のような反応が起こる:
(1) 水分蒸発
CaO+H2O → Ca(OH)2
(2) 脱アンモニア
NH4 → NH3(気体)
(3) タンパク質の可溶化反応
タンパク質 → ペプチド、アミノ酸
【0017】
(1)の水分蒸発により、有機性廃棄物を減容化することができる。「減容化」とは、有機性廃棄物中に含まれる水分を脱水し、有機性廃棄物全体の量を低減することを指す。この有機性廃棄物の減容化により、有機性廃棄物処理量の低減、メタン発酵を行う発酵槽のコンパクト化、及び処理液の削減を達成することができる。乾式メタン発酵法の適用基準は一般的には含水率約85%以下であるのに対し、例えば有機性廃棄物の1種であるウシ糞尿の含水率は約95〜98%である。従って、本発明の前処理方法(前処理段階)により、有機性廃棄物を脱水し、含水率を低減させると共に、有機性廃棄物の量を低減させる(減容化する)ことができる。
【0018】
また、(1)の反応において、生石灰が水分と反応して水酸化カルシウムに変化する際に生じる水和熱によっても含水率の低下(すなわち乾燥)が助長及び促進される。
【0019】
また上記(2)の反応により、有機性廃棄物中のアンモニアを、脱アンモニア、すなわちアンモニアガスとして除去することができる。乾式メタン発酵においては、高濃度のアンモニアの存在がメタン発酵を阻害し、また発酵済み液中にアンモニアが存在する場合にはさらに二次処理を行う必要がある。従って、乾式メタン発酵を行う場合には、アンモニアを除去することが好ましい。本発明の前処理方法又は前処理段階により、有機性廃棄物中のアンモニアを脱アンモニアし、それによりメタン発酵の促進、発酵済み液中のアンモニア除去、及び臭気の削減などを達成することができる。
【0020】
さらに上記(3)の反応により、有機性廃棄物中に固形分として含まれるタンパク質をペプチド及び/又はアミノ酸に分解し、可溶化することができる。上述したように、図1に示すメタン発酵の原理においては、加熱分解(可溶化)プロセスがあり、このプロセスが全体の発酵時間に影響を及ぼす。可溶化が促進されることにより、例えば低級脂肪酸(VFA)などにまで可溶化を進行させることによって、メタン発酵効率を大幅に改善することができる。
【0021】
上述したアルカリ反応工程において用いる生石灰(CaO)は、水分(H2O)と反応して消石灰(水酸化カルシウム又はCa(OH)2とも称される)に変化する。本発明者は、この消石灰が、有機性廃棄物の可溶化からガス化の過程において発生する揮発性低級脂肪酸(VFA)濃度を抑制することを確認した(実施例3)。VFA濃度が高い場合には、メタン発酵における微生物の生存及びその活性が低減することが知られている。従って、メタン発酵を行う場合には、有機性廃棄物におけるVFA濃度が低減しているとよい。本発明の前処理方法又は前処理段階により、VFA濃度を抑制し、メタン発酵効率を向上することができる。
【0022】
さらにこの消石灰は、メタン発酵を阻害しかつ環境及び動物に対し有毒な微生物(有害指標菌)を殺菌する(死滅させる)ことを確認した(実施例4)。従って、本発明の前処理方法又は前処理段階は、処置対象の有機性廃棄物に含まれる有害菌を駆除することができ、その結果、メタン発酵効率を向上することができる。以上のような効果から、消石灰は、投入した生石灰から変化したもの以外にも、別に適量を添加して有機性廃棄物と混合してもよい。
【0023】
2.中和反応工程
アルカリ反応工程後、さらに、有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和する中和反応工程を行うことが好ましい。ただし、コスト・時間の削減を目的とした場合には、アルカリ反応工程を削除してもよく、この工程は必須ではないことに留意されたい。
【0024】
上述のアルカリ反応工程により有機性廃棄物はアルカリ化するため、その後行うメタン発酵の進行が阻害されることになる。従って、中和反応工程を行って有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和することが好ましい。中和は、当技術分野で公知の任意の中和剤又は中和手段を使用して行うことができるが、本発明においては特に炭酸ガス(CO2)により行うことが好ましい。中和剤又は中和手段は、アルカリ反応で用いた生石灰(CaO)が変化したアルカリ性の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)に供給することによって、これを炭酸カルシウム(CaCO3)に変換させ、pHの中和反応を促進させる。
中和手段として炭酸ガスを用いる場合には、下記の反応が起こる:
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2
以上のように、本発明の前処理方法又は前処理段階で用いられる生石灰は、水酸化カルシウムに変化するため、容易に炭酸ガスで中和することが可能となる。中和反応により生じる炭酸カルシウム及び水は、それぞれその後のメタン発酵及び脱水により除去することができる。前処理においてその他のアルカリ化剤又はアルカリ化手段を採用した場合には、中和するための装置又は薬剤のコストがかさむのに対し、炭酸ガスを用いた場合にはその後の中和処理を経済的かつ簡便に行うことができる。
【0025】
中和手段として用いる炭酸ガスは、任意の供給源により提供することが可能であるが、有機性廃棄物の処理方法全体の経済性を考慮した場合、メタン発酵において生成されたバイオガス(炭酸ガス及びメタンガスを含む)から、例えば好適なガス精製装置などを利用して炭酸ガスを分離し、これを使用することが好ましい。ガス精製装置は、当技術分野で周知であり、当業者であれば本発明に適した装置を適宜選択し、設置することができる。例えば、炭酸ガスを分離・精製するために、圧力変動吸着(Pressure Swing Adsorption;PSA)式のガス精製装置が知られている。
【0026】
以上のアルカリ反応工程及び場合により中和反応工程によって、有機性廃棄物の処理物と、アンモニア、揮発性低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、水蒸気(H2O)、炭酸ガス、及びその他の微量な成分が排出される。本発明の有機性廃棄物の処理方法及び前処理方法においては、このように生じた気体を排出する際に、排ガス吸着塔を通過させて、これらの成分をトラップすることが好ましい。有機性廃棄物の処理施設に設置される排ガス吸着塔は、その内部にアンモニア吸着剤、鉄粉、活性炭、コンポストなどが充填され、排ガスの吸着が飽和状態となった場合にはこれらを入れ換えて充填できるものとする。
【0027】
上述した前処理方法は、あらゆる有機性廃棄物の処理において、有機性廃棄物の減容化、脱アンモニア及び可溶化に有用であり、有機性廃棄物の処理系をコンパクト化し、コストを低減させる。またメタン発酵を利用して有機性廃棄物を処理する場合には、本発明の前処理段階により、脱アンモニア、メタン菌の生存及びその活性の増大、有害菌の除去を達成することができ、その結果、メタン発酵効率が向上する。
【0028】
3.メタン発酵法
前述したアルカリ反応工程を含む前処理段階を行った後、メタン発酵工程を行って有機性廃棄物を処理する。メタン発酵法は、当技術分野で公知の方法であり、メタンの生成経路の原理は図1に示し、また具体的なメタン発酵法及びその装置は、例えば特許文献1〜6に記載されている。
【0029】
具体的には、有機性廃棄物を破砕し、混在するプラスチックなどを分別除去し、加温(約30〜60℃)し、メタン菌を添加してメタン発酵を行う。メタン発酵により発生したバイオガス(炭酸ガス及びメタンガスを含む)と消化液とを分離して、それぞれ別々に回収する。個々のより詳細な工程及び装置は、当技術分野で公知の文献を参照されたい(例えば特許文献1〜6)。
【0030】
本発明の前処理方法は、有機性廃棄物の含水率低下による減容化のみならず、アルカリ反応による脱アンモニアやタンパク質等の可溶化促進が可能である。従って、さまざまな家畜糞尿の乾式メタン発酵前処理だけではなく、生ゴミや食品加工工場・水産加工工場から発生する有機性廃棄物、都市下水やコミュニティープラント、浄化槽の脱水余剰汚泥などの各種有機性廃棄物の減容化方法として適用できる。また、本発明の前処理方法の適用後に乾式メタン発酵で発生した熱源を熱風として再利用したり、発生した炭酸ガスを中和反応に再利用するなど二酸化炭素の排出抑制にも効果的である。従来のメタン発酵技術の普及化の課題としては、▲1▼建造コストの低減、▲2▼エネルギー効率の改善、▲3▼売電システムの確立、▲4▼対象原料の拡大、▲5▼処理効率の向上と処理の安定化、▲6▼臭気対策、及び▲7▼発行済み液対策(2次処理設備の削減)があるが、本発明により、以上の▲1▼、▲2▼及び▲5▼〜▲7▼の課題が解決される。
【0031】
以下の「4.乾式メタン発酵の処理フロー」の項目に、本発明の好ましい有機性廃棄物の処理方法及びそのための前処理方法の例として、処理フローの概略を記載する。
【0032】
4.乾式メタン発酵の処理フロー
図2に処理フローの概略図を示す。この構成を、処理工程の順に以下簡単に説明する。
▲1▼原料投入
原料となる有機性廃棄物を原料受入槽1に投入する。
【0033】
<前処理工程>
▲2▼熱風供給
有機性廃棄物を原料受入槽1からアルカリ反応減容槽2に移し、ファン3から熱風(約100℃)を約3時間にわたり供給する。ここで熱風は、後のメタン発酵において発生したメタン由来のボイラー熱を利用して得られる。
▲3▼生石灰投入
熱風供給開始から約1時間後に、生石灰投入装置4からアルカリ反応減容槽2に生石灰を投入し、有機性廃棄物と生石灰とを混合撹拌する(アルカリ反応工程)。このアルカリ反応工程においては、次のような反応が起こる。
(1) 水分蒸発
CaO+H2O → Ca(OH)2
(2) 脱アンモニア
NH4 → NH3(気体)
(3) タンパク質の可溶化反応
タンパク質 → ペプチド、アミノ酸
▲4▼炭酸ガス中和反応工程
熱風供給開始から約3時間後に熱風供給を停止し、PSAガス精製装置5から炭酸ガスをアルカリ反応減容槽2に約3時間通気し、その間混合撹拌する。ここで、炭酸ガスは、メタン発酵により発生したバイオガスをPSAガス精製装置5においてメタンと炭酸ガスとに分離することにより得られる。この炭酸ガス中和反応工程においては、次のような反応が起こる。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2
▲5▼排ガスのトラップ
アルカリ反応減容槽の出口では、アンモニアガス、揮発性低級脂肪酸、及びその他の微量な成分が排ガス中に含まれるため、これらをトラップするために排ガスを排ガス吸着塔12を通過させる。排ガス吸着塔12では、アンモニア吸着材、鉄粉、活性炭、コンポストなどを内部に充填し、排ガスを吸着させる。
【0034】
<乾式メタン発酵工程>
▲6▼メタン発酵
前処理工程により減容化された有機性廃棄物をメタン発酵槽6へ移送し、乾式メタン発酵を行って有機性廃棄物を分解する。得られた気体はガスホルダー7へ移送し、消化液は消化液貯留槽8へ移送する。
▲7▼バイオガスの処理
ガスホルダー7の気体はバイオガスとして脱硫塔9を通ってPSAガス精製装置5に移送される。PSAガス精製装置5においては、バイオガスを炭酸ガスとメタンガスとに分離する。この炭酸ガスは、上述したように、前処理工程のためにアルカリ反応減容槽2へ供給される。またメタンガスは、発電機・ボイラー10へ移送され、メタンガスからボイラー熱を製造する。このボイラー熱は、上述したメタン発酵における加熱に利用するため、熱交換機11に移送され、そこからメタン発酵槽6へ供給される。
【0035】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕有機性廃棄物のアルカリ反応工程
本実施例においては、実験室内で牛糞尿(含水率97%)を原料(有機性固形廃棄物モデル)として減容化・可溶化促進効果についての検証実験を実施した。実験条件は、生石灰の添加率を0%、0.1%、0.5%、1.0%、5.0%、及び10.0%の6条件、熱風供給温度を常温(27℃)、70℃、85℃、及び100℃の4条件として、それぞれの条件下での脱水減容化、可溶化効果、及び脱アンモニア効果について比較した。
【0036】
その結果、含水率97%の原料を用いた際、熱風温度100℃、生石灰添加率1%の条件下では反応時間2時間において乾式メタン発酵法の適用基準である含水率85%を達成した(図3〜5)。なお、アルカリ反応(生石灰添加)と熱風供給を併用することでその相乗効果が見られた。その場合の減容率は66%であり(図3)、1/3の容積になったことから、その後のメタン発酵施設のコンパクト化につながることが示唆された。
【0037】
また、100℃条件下において生石灰添加率1%で30分後にはpH12のアルカリ条件となることが確認された(図6)。また、苛性ソーダ(NaOH)を添加したアルカリ条件によって固形分の可溶化傾向が確認された(図7)。固形性原料を対象としたメタン発酵では、アルカリ条件下にて可溶化反応が律速になることが知られている。従って、本法のアルカリ反応を適用することにより、メタン発酵の効率化につながることが示唆された。
【0038】
さらに、アルカリ反応と熱風供給することで、原料中のアンモニウムイオンの減少が確認された。生石灰添加率1%、温度100℃の時のアンモニア除去率は63%であり(図8及び9)、本法のアルカリ反応を適用することにより、メタン発酵におけるアンモニア阻害が回避できることが示唆された。なお、生糞尿のアンモニア濃度は4,000から5,000ppmであり、図10に示すように、アンモニア濃度が4,000ppmでは、メタン発酵効率が42%低下することを実験的に確認している。従って、本法のアルカリ反応によりアンモニア濃度が63%除去されることでアンモニア濃度阻害の心配は無くなることが明らかになった。
【0039】
〔実施例2〕中和反応工程
本実施例においては、アルカリ反応減容槽に炭酸ガスを供給した場合のpH変化を調べた。その結果、アルカリ反応減容槽に炭酸ガスを供給することによりpHの中和反応が生じ、炭酸ガスで12時間通気後にはpH7.5となった。従って、炭酸ガスを用いることにより、メタン発酵のアルカリによる発酵阻害の影響がなくなることが明らかとなった。
【0040】
10t/日の生糞尿からメタン発酵により得られるバイオガス量は約300Nm3/日であり、そのバイオガス中の炭酸ガスの含有量は40%であるため、炭酸ガス発生量は120m3/日である。一方、生石灰は下記式Iに準じて水酸化カルシウムを生成し、水酸化カルシウムは下記式IIによって炭酸カルシウムに変換されるため、1モルの生石灰が1モルの炭酸ガスを固定することになる。
CaO + H2O → Ca(OH)2 (I)
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O (II)
従って、1%の生石灰を投与(100kg)した場合には、
100,000g CaO ÷ 56g CaO/mol =
1,786mol CaO
ここで炭酸ガス1molは22.4Lであるため、
1,786mol × 22.4L CO2/mol =
40,006L CO2 → 40m3 CO2
発生炭酸ガスの固定量は、
40m3 CO2 ÷ 120m3 CO2 = 33%
【0041】
以上より、メタン発酵で発生するバイオガスのうち約40%を占める二酸化炭素の固定量は、アルカリ反応減容槽に炭酸ガスを供給することでその1/3が大気放散されずに固定されることになる。また炭酸ガスを供給するために別の手段を必要としないため、有機性廃棄物の処理系全体のエネルギー効率がよく、経済的である。
【0042】
〔実施例3〕メタン発酵効率に対する消石灰の効果
本実施例においては、メタン発酵効率に対する消石灰の効果について試験した。図11に示すように、アンモニア濃度の増大によって揮発性低級脂肪酸(VFA)が蓄積することがわかる。例えば、アンモニア濃度4,000ppm、pH=7.0〜8.5においては、VFAが200〜250mg−COD/l蓄積し、アンモニア濃度2,000ppmと比較して約4倍相当の蓄積量である(図11A〜D)。高濃度の揮発性低級脂肪酸存在下ではメタン発酵における微生物の生存及びその活性が阻害されるため、実施例2に示すようにアンモニア濃度を低減させた場合には、揮発性低級脂肪酸の高濃度蓄積を阻害し、メタン発酵の阻害を回避できる。
【0043】
消石灰を添加した際の牛糞尿のメタン発酵効率について検討した結果、図12に示すように水素資化性メタン活性は約1.8倍、酢酸資化性メタン活性は約2倍に上昇することが明らかとなった。また消石灰の添加により、下記表1に示すように揮発性低級脂肪酸(VFA)濃度が抑制される。さらに、下記表2に示すように、FISH法を利用して汚泥中に含まれる真正細菌及びメタン菌の存在を調べた結果、メタン菌数も1.5倍多くなることが明らかとなった。FISH法に使用した検出用DNAプローブの塩基配列を下記表3に示す。
【0044】
従って、本発明の前処理方法又は前処理段階を適用すると、後のメタン発酵の効率も向上する(例えば、メタン生成活性の増大、VFA濃度の低減、メタン菌数の増大など)ことが期待できる。
【0045】
【表1】
Figure 0004248865
【0046】
【表2】
Figure 0004248865
【0047】
【表3】
Figure 0004248865
【0048】
〔実施例4〕メタン発酵における有害菌除去に対する消石灰の効果
本実施例においては、消石灰がメタン発酵における有害菌を除去する効果について確認した。
【0049】
消石灰の有害指標菌の殺菌効果について検証した結果、図13に示すように、糞便性大腸菌群(J)と糞便性連鎖球菌(H)共に70℃にて約0.1時間で死滅することが確認された。従って、本発明の前処理方法又は前処理段階の適用(生石灰を用いたアルカリ反応処理を100℃にて2時間)によって、有害菌の駆除も可能となる。
【0050】
【発明の効果】
本発明により、乾式メタン発酵を利用して有機性廃棄物をより効率的かつ経済的に処理するための方法及び前処理方法が提供される。本発明の前処理方法は、有機性廃棄物の減容化、脱アンモニア及び可溶化を促進するものである。この減容化により発酵済み液の量が大幅に削減され、その結果、有機性廃棄物処理施設及び処理システムのコンパクト化、コスト削減、二次処理の削減の問題を緩和できる。また脱アンモニア及び可溶化によって、メタン発酵効率の向上、臭気低減の問題を緩和できる。さらに本発明の前処理方法における生石灰の使用によって、生石灰が変化した消石灰の効果、例えばメタン発酵効率の向上、メタン菌の生存及びその活性の増大、有害菌の死滅などを享受することができる。また本発明の前処理方法において行う中和反応工程においては、メタン発酵段階において発生したバイオガス中の炭酸ガスを再利用するため、有機性廃棄物の処理システム全体が効率的に稼働することになる。
【0051】
【配列表】
Figure 0004248865
Figure 0004248865
【0052】
【配列表フリーテキスト】
配列番号1及び2:合成オリゴヌクレオチド
【図面の簡単な説明】
【図1】メタン発酵法におけるメタン生成経路の原理を示す図である。
【図2】本発明の乾式メタン発酵の処理フローの一例を示す概略図である。
【図3】本発明の前処理方法又は前処理段階による、含水率の低下による減容化特性を表すフローチャートを示す図である。図中、TS(Total Solid)とは乾燥した状態での固形分量を表し、wc(water content)とは含水率を表す。
【図4】常温(A)及び100℃(B)における、生石灰の添加率による含水率の変化を示す図である。
【図5】生石灰添加率と温度による含水率の低下特性を示す図である。
【図6】100℃における生石灰添加率によるpH変化を示す図である。
【図7】アルカリ条件における牛糞の可溶化特性を示す写真である。Aは原料(含水率80%)を表し、Bは、各試薬添加後を表す。Bにおいて、添加した試薬は、1:1N NaOH、2:100%EtoH、3:5N NaOH、及び4:5NHClである。
【図8】100℃における生石灰添加率によるアンモニア濃度の減少を示す図である。
【図9】生石灰添加率と温度によるアンモニア濃度の減少率を示す図である。
【図10】アンモニア濃度によるメタン転換率の減少(発酵阻害)特性を示す図である。
【図11】アンモニア濃度阻害による揮発性低級脂肪酸(VFA)の蓄積特性を示す図である。AはpH7.0、BはpH7.5、CはpH8.0、DはpH8.5における揮発性低級脂肪酸濃度を示す。各X軸項目の2本のグラフのうち、左側のグラフはメタン発酵開始時(start)、右側のグラフはメタン発酵終了時(end)を示す。
【図12】消石灰添加によるメタン生成活性の増加特性を示す図である。
【図13】消石灰存在下における、有害指標微生物の70℃条件下における死滅速度を示す図である。
【符号の説明】
1 原料受入槽
2 アルカリ反応減容槽
3 ファン
4 生石灰投入装置
5 PSAガス精製装置
6 メタン発酵槽
7 ガスホルダー
8 消化液貯留槽
9 脱硫塔
10 発電機・ボイラー
11 熱交換機
12 排ガス吸着塔

Claims (8)

  1. 乾式メタン発酵による有機性廃棄物の処理において、有機性廃棄物に生石灰(CaO)を投入するアルカリ反応工程を行うことを特徴とする有機性廃棄物の前処理方法。
  2. アルカリ反応工程を70〜120℃の温度で行うものである、請求項記載の前処理方法。
  3. アルカリ反応工程において生石灰が消石灰(Ca(OH))に変化するものである、請求項1又は2記載の前処理方法。
  4. アルカリ反応工程前に、さらに有機性廃棄物を70〜120℃にて加熱する加熱工程を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前処理方法。
  5. アルカリ反応工程後、さらに有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和する中和反応工程を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の前処理方法。
  6. 中和を炭酸ガス(CO)を用いて行うものである、請求項記載の前処理方法。
  7. 有機性廃棄物に生石灰(CaO)を投入するアルカリ反応工程を含む前処理段階、及び乾式メタン発酵段階を含むことを特徴とする、有機性廃棄物の処理方法。
  8. 前処理段階がさらに有機性廃棄物のアルカリ反応処理物を中和する中和反応工程を含むものである、請求項記載の処理方法。
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