JP4239386B2 - 表面処理アルミニウム材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に形成された粗面化表面と、最外層を形成する塗膜層を有する表面処理アルミニウム材に係り、特に最外層として設けられた塗膜層の鉛筆硬度が6H以上であって、同時に優れた塗膜密着性及び耐衝撃性を有する表面処理アルミニウム材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム材は、優れた加工性を有することから、押出形材や板材等として鉄道車両内装、建物の窓や玄関建具等の建物の内外装、ビル外壁や内装等の各種建築部材、道路資材、各種キャビネット、冷凍車コンテナ内外装、冷凍ショーケース、各種日用品等極めて多岐に亘って利用されている。
【0003】
このようなアルミニウム材の押出形材や板材は、一般に、その表面に陽極酸化処理を施して陽極酸化皮膜層を形成したり、更にその上にアクリル電着塗装を施して複合皮膜層を形成したり、また、表面に化成処理を施して化成皮膜層を形成し、その後に通常の塗装を施して塗膜層を形成した表面処理アルミニウム材として使用されている。
【0004】
ところで、これら表面に陽極酸化皮膜層や塗膜層が形成されたアルミニウム材は、長期に亘って美観と優れた耐食性を発揮するが、アルミニウム材が他の金属に比べて柔らかく、このアルミニウム材を表面処理して形成された陽極酸化皮膜層や塗膜層、特に最外層を形成する塗膜層は、その塗膜硬度や耐衝撃性等の物性において不足する場合があり、そのため、摺動部や人の出入りの激しい部位では、アルミニウム材表面の塗膜層が傷付き易く、また、塗膜割れし易く、長期間に亘って美観を維持し続けるのが困難であるという問題がある。
【0005】
また、仮に塗膜硬度の高い塗膜層が形成されたアルミニウム材が得られたとしても、一般に塗膜層はその塗膜硬度が高くなるにつれて塗膜密着性や耐衝撃性が低下する傾向にあり、高い塗膜硬度と優れた塗膜密着性及び耐衝撃性の相反する性能を同時に満足する塗膜層を得るのは困難であり、用途等に応じてそのいずれかの性能をある程度犠牲にせざるを得ないという問題がある。
【0006】
また、このように表面に塗膜層が形成されたアルミニウム材は、優れた耐食性、耐候性及び加工性を有するため、前述したように広範な用途で使用されているが、最近では、最終ユーザの嗜好の変化から、薄っぺらである、安っぽい、冷たい等の感じがすることを指摘するものも出始めている。このため、公共施設や鉄道施設のように不特定多数の人々が使用する環境で用いられる材料については、これまでのアルミニウム材に代わって樹脂部材が用いられ始めているのが現状である。
【0007】
しかしながら、上記樹脂部材で形成された樹脂製品については、廃棄後のリサイクル方法が確立されていないため、廃棄物処理に大きな費用がかかるばかりでなく、地球環境を汚染するという問題もある。
【0008】
【発明が解決すべき課題】
そこで、本発明者等は、アルミニウム及びアルミニウム合金からなるアルミニウム材において、アルミニウム材本来の優れた耐食性、耐候性及び加工性だけでなく、高い塗膜硬度を有し、しかも、優れた塗膜密着性及び耐衝撃性を有する表面処理アルミニウム材について鋭意研究した結果、アルミニウム材の表面に表面処理後のアルミニウム材の素地の硬度に応じた表面粗さRzを有する粗面化表面を形成することにより、最外層として設けられる塗膜層に対して容易に鉛筆硬度6H以上の塗膜硬度と優れた塗膜密着性及び耐衝撃性とを付与できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に、最外層として、単に塗膜硬度が高いというだけでなく優れた塗膜密着性及び耐衝撃性をも有する塗膜層を有し、これによってアルミニウム材本来の優れた耐食性、耐候性及び加工性だけでなく、塗膜硬度と塗膜密着性及び耐衝撃性とにおいて優れた性能を発揮する表面処理アルミニウム材を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、アルミニウム材の表面に、単に塗膜硬度が高いというだけでなく優れた塗膜密着性及び耐衝撃性をも同時に有する塗膜層を形成することができ、これによって耐食性、耐候性、加工性、塗膜硬度、塗膜密着性及び耐衝撃性において優れた性能を発揮する表面処理アルミニウム材を製造することができる表面処理アルミニウム材の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に予め求められた表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVに応じて決められた表面粗さR z の粗面化表面を形成し、次いでこの粗面化表面が形成されたアルミニウム材の表面に最外層として塗膜層を設け、塗膜層の鉛筆硬度が6H以上である表面処理アルミニウム材を製造するに際し、上記粗面化表面の表面粗さR z は、表面処理アルミニウム材の素地が1種類のアルミニウム材で構成されている場合には、このアルミニウム材の粗面化表面の表面粗さR z が下記の関係式
R z ≧ 1.8×10 4 /HV 2
を満足し、また、表面処理アルミニウム材の素地が2種以上のアルミニウム材からなる素地構成材で構成されている場合には、この素地の粗面化表面の表面粗さR z が下記の関係式
R z ≧ 1.8×10 4 / ( HVn ) 2
(但し、HVnは素地を構成する2種以上の素地構成材のうちでビッカース硬さの値が最小となる素地構成材のビッカース硬さを示す。)を満足することを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、上記の表面処理アルミニウム材の製造方法において、表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVが、粗面化表面及び塗膜層を有する表面処理アルミニウム材の試作品を形成して予め測定される表面処理アルミニウム材の製造方法である。
【0013】
本発明において、アルミニウム材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金の押出形材や、圧延加工された厚肉又は薄肉の板材、又はこれらを適宜折り曲げ加工した曲げ加工材等が使用される。
また、上記アルミニウム材の表面は、平坦面に限らず、湾曲面又は球状面も含まれ、かつ適宜のコーナー線を介して連続する複数の平坦面及び/又は湾曲(球状)面の組合せも含まれる。更に、加工されたアルミニウム材については、その表となる面が片面である場合と両面である場合とがあり、従って、アルミニウム材の表面については片面の場合と両面の場合とが含まれる。
【0014】
そして、本発明の表面処理アルミニウム材の素地を構成するアルミニウム材(すなわち、素地構成材)についても、必ずしも1種のアルミニウム材である必要はなく、表面処理アルミニウム材の用途等に応じて、例えばプレス成形した板材と形材を組合わせて作られた窓枠の化粧カバー等のように、2種以上の複数のアルミニウム材を組合せて構成されたものでもよい。
【0015】
本発明において、アルミニウム材の表面に形成される粗面化表面の表面粗さRzは、このアルミニウム材の表面に粗面化表面が形成され、また、塗装処理と焼付け処理とが施されて最終的に最外層となる塗膜層が形成された後のアルミニウム材、すなわち表面処理アルミニウム材の素地(すなわち、最終的に塗膜焼付け処理を施して最外層の塗膜層を形成せしめた表面処理後のアルミニウム材)の硬度に応じた値を有する必要があり、この素地の硬度については、素地の硬さを正確に反映するものであれば、例えばビッカース硬さ(JIS Z2244-1998)、ブリネル硬さ(JIS Z2243-1998)等どのような測定値でもよいが、再現性の観点から、好ましくはビッカース硬さHVである。
【0016】
ここで、この表面処理アルミニウム材の素地の硬度をビッカース硬さHVで規定する場合、この表面処理アルミニウム材の素地が1種類のアルミニウム材で構成されているときには、好ましくは、このアルミニウム材の粗面化表面の表面粗さRzが下記の関係式
Rz ≧ 1.8×104/HV2
を満足するように、アルミニウム材の表面に形成される粗面化表面の表面粗さRzを決定するのがよく、また、表面処理アルミニウム材の素地が2種以上のアルミニウム材からなる素地構成材で構成されているときには、好ましくは、この素地の粗面化表面の表面粗さRzが下記の関係式
Rz ≧ 1.8×104/(HVn)2
(但し、HVnは素地を構成する2種以上の素地構成材のうちでビッカース硬さの値が最小となる素地構成材のビッカース硬さを示す。)を満足するように、アルミニウム材の表面に形成される粗面化表面の表面粗さRzを決定するのがよい。
【0017】
これらの関係式は、表面処理アルミニウム材の素地の硬度をビッカース硬さHVで規定する場合に、鉛筆硬度6H以上の高い塗膜硬度と非常に良好な塗膜密着性及び耐衝撃性とを同時に付与するという観点から見出されたものであり、この表面粗さRzが上記関係式で与えられ値より小さくなると、鉛筆硬度6H以上の高い塗膜硬度が得られ難くなる。なお、この表面粗さRzの上限値については、特に制限はないが、コスト面や塗装外観から70μm程度までが好ましい。
【0018】
また、上記粗面化表面は、アルミニウム材の表面の一部又は全部に形成されていればよいが、本発明の目的を達成する上で、好ましくは、アルミニウム材の全表面積に対して粗面化表面が占める割合が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは100%であるのがよい。
更に、上記粗面化表面がアルミニウム材の片面(表となる面)のみに形成される場合にも、その場合にも粗面化表面はアルミニウム材の表面(片面)の一部又は全部に形成されていればよく、また、本発明の目的を達成する上で、好ましくは、アルミニウム材の表面(片面)の全表面積に対して粗面化表面が占める割合が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは100%であるのがよい。
【0019】
ここで、粗面化表面の表面粗さRzが表面処理アルミニウム材の素地の硬度に応じた値を有するということは、表面処理前の素材の硬さがプレス成形や研磨、ショットブラスト等による加工、更には塗装焼付の加熱処理による熱履歴等によって変化する場合があるが、完成品となった塗装後の正確な素材の硬さを知る必要があるので、先ず本発明の表面処理アルミニウム材の製作手順に従って粗面化表面及び塗膜層を有する表面処理アルミニウム材の試作品(又は試験片)を作製するか、あるいは、アルミニウム材の表面に適当な表面粗さRzを有する粗面化表面を作り、塗料を塗布することなく塗装の際の焼付処理と同じ加熱条件で加熱処理して試作品(又は試験片)を作製し、次いでこの試作品(又は試験片)の素地の硬度を測定し、求められた素地の硬度に応じて粗面化表面の表面粗さRzを決定し、この決定された表面粗さRzを達成する粗面化処理の処理条件を設定し、設定された処理条件に従って粗面化処理を行うことにより粗面化表面が形成されているということを意味する。
【0020】
この目的で製作される試作品(又は試験片)は、アルミニウム材の種類、粗面化表面、及び塗膜層並びに必要に応じて付与されるその他の表面処理と製作手順及びその際の製作条件とにおいて、製作予定の表面処理アルミニウム材と全く同じであるのが理想ではあるが、少なくとも適当な表面粗さRzを有する粗面化表面を形成し、実際に表面処理アルミニウム材を製造するときの塗膜の焼付条件と同じ条件で加熱処理を行って素材の硬さを測定すれば、必ずしも製作予定の表面処理アルミニウム材の表面処理と製作手順及びその際の製作条件と完全に一致している必要はない。
【0021】
また、最外層を構成する塗膜層については、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の塗料を用いて形成することができ、例えば、有機塗料としては、アクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、ふっ素樹脂塗料、ポリエステル、ビニールオルガノゾル等の塗料を挙げることができ、また、無機系塗料としては、アルキルシリケート系塗料、光触媒酸化チタン含有無機塗料、シリカゾル系塗料、アルカリ金属塩素系塗料、金属アルコキシド系塗料等の塗料を挙げることができ、更に、有機及び無機の複合塗料としては、例えばアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン、シリコン樹脂等を反応させたシロキサン結合を主体とするシリコンポリマー系塗料や、アルコキシシラン、アルコキシチタン等をゾル−ゲル法で反応させた金属アルコキシド系塗料、シリカ系セラミックス塗料等のセラミックス系塗料、光触媒酸化チタン含有の有機・無機複合塗料等の塗料を挙げることができる。また、これら塗膜層を形成する塗料については、顔料を含む有色塗料又はクリア塗料が使用される。
【0022】
この塗膜層の膜厚については、通常5μm以上80μm以下であり、好ましくは5μm以上60μm以下であるのがよい。塗膜層の膜厚が5μm未満であると粗面化処理によって得られるアルミニウム材の凹凸を解消できず、最外層として形成された塗膜層に凹凸が生じ、好ましくない外観となる場合がある。また、塗膜層の厚さが80μmを超えると、効果が飽和するばかりでなく、かえって使用される塗料そのものの塗膜硬度が現出し、本発明の目的の1つである高い塗膜硬度を発現せしめることが難しくなる。
【0023】
本発明において、表面処理アルミニウム材の塗膜層は、その鉛筆硬度が6H以上であることが必要であり、好ましくは7H以上であるのがよい。この塗膜層の鉛筆硬度が6Hより低いと、塗膜に傷がつき易くなるという問題がある。
【0024】
更に、本発明においては、粗面化表面が形成されたアルミニウム材の表面に塗膜層を設けるのに先駆けて、このアルミニウム材の表面に下地処理として化成処理により化成皮膜層を設けてもよい。この化成処理としては、例えばアルカリ−クロメート系、クロメート系、燐酸−クロメート系、燐酸亜鉛系、ノンクロム系、塗布型等の公知の方法を適用することができる。化成処理を施すことにより、耐食性や塗膜密着性が一層向上する。
【0025】
次に、本発明の表面処理アルミニウム材は、先ず、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に、予め求められた表面処理アルミニウム材の素地の硬度に応じて決められた表面粗さRzの粗面化表面を、ショットブラスト処理、エッチング処理、エンボスロール圧延処理等の粗面化処理により形成し、次いで、必要により化成処理して化成皮膜層を設けた後、上記粗面化表面が形成されたアルミニウム材の表面に塗料を塗布し、焼付処理して最外層として塗膜層を設けることにより製造される。
【0026】
上記粗面化処理において、ショットブラスト処理としては、例えば、アルミニウム材の表面に対して、最大粒径が1mm以下であって、かつ、平均粒径が20μm以上のアルミナ粒子を用いてショットブラストを施すことが望ましい。
このショットブラスト処理において、アルミナ粒子を用いることが望ましいとしたのは、アルミニウム材の表面に硬質で微細な凹凸を容易に形成することができ、かつ、アルミナ粒子がアルミニウム材の表面に残留した場合においても、後工程の陽極酸化処理時に悪影響を及ぼさないためである。従って、ショットブラスト処理には、アルミナ粒子と同様の作用効果を発揮し得る他のセラミック、砂、又は金属等からなる粒子を用いることも可能である。
【0027】
また、上記粗面化処理として行われるエッチング処理は、例えば、酸やアルカリのエッチング液を使用した化学エッチングでアルミニウム材の表面の粗面化を行う方法である。
更に、上記粗面化処理として行われるエンボスロール圧延処理は、例えば、一対の圧延ロールのうちの少なくとも一方の圧延ロールとしてロール表面が粗面化された圧延ロールを用い、これら一対の圧延ロール間にアルミニウム板材を挿入し、加圧下に通過させ、粗面化された圧延ロールの凹凸をアルミニウム材の表面に転写させることにより行なうものである。
【0028】
ここで、上記圧延ロールのロール表面を粗面化する手段については、例えば、レーザーダル加工、ショットダル加工等を用いることができ、その際、圧延ロールの粗面化は、この圧延ロールのロール間を通過したアルミニウム材の表面に、表面粗さRz 3〜70μmの凹凸が形成されるように行われる。
【0029】
上記レーザーダル加工は、例えば、高エネルギー密度のビーム、例えばレーザービームをブライトロール表面に照射して規則的な凹凸パターンを施して、アルミニウム材に与えようとする凹凸パターンを形成する技術である。また、ショットダル加工は、ショットブラストによりブライトロール表面に不均一な凹凸パターンを施して、アルミニウム材に与えようとする凹凸パターンを形成する技術である。
【0030】
次に、このようにして粗面化表面が形成されたアルミニウム材の表面には、必要に応じて、その全面に化成処理により化成皮膜層が設けられる。この化成処理は、一般に、市販の処理液による浸漬法や塗布法による公知の方法で行われる。
【0031】
このように粗面化処理により必要な表面粗さRzを有する粗面化表面が形成され、更に必要に応じて化成処理により化成皮膜層が設けられたアルミニウム材は、その表面に、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装又は浸漬塗装等の塗装処理が施され、陽極酸化皮膜層の上に塗膜層が形成される。上記電着塗装、スプレー塗装、及び浸漬塗装等はそれぞれ公知の方法によって行うことができる。
本発明方法により製造された表面処理アルミニウム材の最外層を形成する塗膜層は、少なくともその鉛筆硬度が6H以上の値を示し、同時に、優れた塗膜密着性及び耐衝撃性を発揮する。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の実施に好適な形態を図面と共に説明する。本発明は以下の実施形態や実施例に限定されるものではない。
【0033】
先ず、アルミニウム材1の押出形材又は板材を公知の方法により用意する。
次に、このアルミニウム材1に塗膜を設けるときと同じ焼付け条件(加熱温度、加熱時間)でアルミニウム材の加熱を行う。その後、このアルミニウム材素地のビッカース硬さHVを測定する。その結果、アルミニウム材1の表面において、表面粗さRzの下限値がアルミニウム材素地の塗膜焼付け後のビッカース硬さHVに応じて求められる。上記表面粗さRzの下限値以上である粗面化表面2が形成される。
【0034】
このようにして求められたアルミニウム材1に形成すべき所定の表面粗さRzの粗面化表面を形成するのに適した粗面化処理(例えば、ショットブラスト処理)の条件を設定し、これに基づいてアルミニウム材1の表面にアルミナ粒子によるショットブラスト処理を施し、ビッカース硬さHVに応じて求められた上記表面粗さRzの粗面化表面2を形成する。この際の粗面化処理の条件は、通常、用いるアルミナ粒子が粒径20μm以上1mm以下であり、また、アルミニウム材1の送り速度が約1m/分程度であって、ショット圧力が1〜5kg/cm2の範囲である。
【0035】
更に、アルミニウム材1の粗面化表面2を脱脂し洗浄した後、この粗面化表面2の上に直接塗装処理を施して塗膜層4を設けるか、あるいは、必要によりアルミニウム材1の粗面化表面2に化成処理を施して化成皮膜層3を設けた後、この化成皮膜層3の上に塗膜層4を設ける。この際の塗装処理は、通常、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装又は浸漬塗装等の方法が用いられる。
【0036】
【実施例】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【0037】
実施例1〜17及び比較例1〜14
表1に示すように、ビッカース硬さの異なる各種のアルミニウム材からなり、同じ形状及びサイズの板材又は形材に形成された試験片を用意し、実施例1〜17及び比較例1〜7とした。各試験片の表面には、粒径50〜500μmのアルミナ粒子(組成;Al2O3:96.6wt%、TiO2:2.4wt%、SiO2:0.6wt%、及びその他)を用い、ショット圧力を3段階に変化させてショットブラスト処理を施し、各試験片の表面に表1に示す表面粗さRzを持つ粗面化表面を形成した。
【0038】
次いで、これら実施例1〜6、14〜16及び比較例4、5の試験片については表面洗浄処理を行い、また、残りの実施例7〜13、17及び比較例1〜3、6、7の試験片については下地処理としてクロメート処理を施した。
上記表面洗浄処理は、先ず35%-硝酸に1分間浸漬したのち水洗し、次いで50℃で5%-水酸化ナトリウム水溶液に3分間浸漬したのち水洗し、更に35%-硝酸に1分間浸漬したのち水洗し、最後に50℃で5分間乾燥する方法で行った。また、上記クロメート処理は、40℃の処理液(日本パーカライジング社製:アロジン1200)に浸漬し、クロム付着量が約20mg/m2となるように化成処理を行い、水洗した後、50℃で5分間乾燥する方法で行った。
【0039】
次に、上記各実施例1〜17及び比較例1〜7の試験片について、直ちに所定の塗装処理を行なった。即ち、実施例1〜10、15〜17及び比較例1〜3、6、7の各試験片については、表1に示す膜厚のシロキサン結合を有する有機・無機複合系塗料を用いた塗装を施した。この塗装はスプレー塗装により行い、190℃×20分の焼き付け処理を行なった。
また、実施例11〜14及び比較例4、5の各試験片については、スプレー塗布により熱硬化型アクリル系塗料を塗布し、次いで170℃×20分の焼き付け処理を行なった。
【0040】
なお、表1に示したビッカース硬さHVは、各種のアルミニウム材からなる試験片について、粒径が約300μmのアルミナ粒子でショットブラストを行い、約20μmの表面粗さRzを持つ粗面化表面を形成した。その後、塗料を用いた塗装処理は行わずに、焼付処理の際の加熱条件、すなわち190℃×20分又は170℃×20分の加熱処理のみを実施し、得られた表面処理後の各試験片について、定法に従って樹脂に埋め込み、研磨した後、試験荷重0.2452N(HV 0.025)、保持時間15秒の条件で測定した。
【0041】
以上の実施例1〜17及び比較例1〜7の各試験片について、表面の塗膜層の塗膜硬度を鉛筆硬度法(JIS K5400-1990に準拠)により測定すると共に、塗膜層の密着性(付着性)を碁盤目法(JIS K5400-1990に準拠)により測定し、◎:はがれによる欠損部が無い、○:欠損部の面積が全正方形面積の5%以下である、△:欠損部の面積が全正方形面積の5〜15%である、×:欠損部の面積が全正方形面積の15%を超えている、の4段階基準で評価した。
【0042】
更に、上記実施例1〜17及び比較例1〜7の各試験片について、塗膜の耐衝撃性をデュポン衝撃試験法(JIS K5400-1990に準拠)により測定した。この際の衝撃荷重は500g(撃ち型及び受け台半径6.35±0.03mm)であり、落下高さは50cmである。耐衝撃性の判定基準は、衝撃による変形で、◎:割れ・剥がれを認めない、○:周辺部に目視観察で微かなひび割れを生じた、×:割れ・剥がれが生じた、の3段階で評価した。
【0043】
更に、上記の結果から表面処理アルミニウム材の総合評価を行い、鉛筆硬度が6H以上であって、塗膜密着性が◎又は○と評価され、かつ、耐衝撃性が◎又は○と評価されたものを◎:良好と評価し、1項目でも上記の基準を満たさないものを×:不良と判定した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1〜13の試験片はその粗面化表面の表面粗さRzが関係式Rz ≧ 1.8×104/HV2を満たしており、また、実施例14〜17の試験片は関係式Rz ≧ 1.8×104/(HVn)2(但し、HVnは素地を構成する2種以上の素地構成材のうちでビッカース硬さの値が最小となる素地構成材のビッカース硬さを示す。)を満たし、いずれも表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVに応じた表面粗さRzの粗面化表面を有して塗膜硬度(鉛筆硬度)、塗膜の密着性及び耐衝撃性において優れているのに対し、この粗面化表面の表面粗さRzが上記関係式を満たさず、表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVに応じていない比較例1〜7の各試験片については、その塗膜硬度(鉛筆硬度)、塗膜の密着性及び耐衝撃性がそのいずれかにおいて不足しているのが判る。
【0046】
【発明の効果】
本発明の表面処理アルミニウム材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に、最外層として、単に塗膜硬度が高いというだけでなく、優れた塗膜密着性及び耐衝撃性をも有する塗膜層を有し、これによってアルミニウム材本来の耐食性、耐候性及び加工性に加えて、塗膜硬度と塗膜密着性及び耐衝撃性とが同時に優れた性能を発揮する。
【0047】
また、本発明の表面処理アルミニウム材の製造方法によれば、アルミニウム材の表面に、単に塗膜硬度が高いというだけでなく優れた塗膜密着性及び耐衝撃性をも有する塗膜層を形成することができ、これによって耐食性、耐候性、加工性、塗膜硬度、塗膜密着性及び耐衝撃性において優れた性能を発揮する表面処理アルミニウム材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の表面処理アルミニウム材を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
1…アルミニウム材、2…粗面化表面、3…化成皮膜層、4…塗膜層。
Claims (2)
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材の表面に予め求められた表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVに応じて決められた表面粗さRzの粗面化表面を形成し、次いでこの粗面化表面が形成されたアルミニウム材の表面に最外層として塗膜層を設け、塗膜層の鉛筆硬度が6H以上である表面処理アルミニウム材を製造するに際し、
上記粗面化表面の表面粗さRzは、表面処理アルミニウム材の素地が1種類のアルミニウム材で構成されている場合には、このアルミニウム材の粗面化表面の表面粗さRzが下記の関係式
Rz ≧ 1.8×104/HV2
を満足し、また、表面処理アルミニウム材の素地が2種以上のアルミニウム材からなる素地構成材で構成されている場合には、この素地の粗面化表面の表面粗さRzが下記の関係式
Rz ≧ 1.8×104/(HVn)2
(但し、HVnは素地を構成する2種以上の素地構成材のうちでビッカース硬さの値が最小となる素地構成材のビッカース硬さを示す。)
を満足する
ことを特徴とする表面処理アルミニウム材の製造方法。 - 表面処理アルミニウム材の素地のビッカース硬さHVは、粗面化表面及び塗膜層を有する表面処理アルミニウム材の試作品を形成して予め測定される請求項1に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
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