JP4236383B2 - 水分散性金属表面処理剤、表面処理金属材とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐食性、塗料密着性、耐アルカリ性等の基本性能のみならず、耐溶剤性、耐傷付き性に優れる表面処理金属材と、その表面処理金属材を得ることができる貯蔵安定性に優れた水分散性金属表面処理剤と製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近の家電用表面処理金属材、特に亜鉛系めっき鋼板などに対し、耐指紋性、耐食性、耐傷つき性等、所謂、表面外観品位に対する要求レベルが年々高まってきており、それに伴い表面の実用機能を高めることが可能な表面処理剤の開発が急ピッチで進められている。そのため、例えば、近年、金属の後処理や塗装下地処理技術において、リン酸塩処理にかわり、クロメート処理が主流となっているが、最近では環境問題の観点からこのクロメートの難溶化と、更には触っても指紋が付かない、目立たない、そこから発錆しない、取り扱い疵が付きにくい、溶剤で拭いても表面機能が低下しない、後塗装性が良い等、金属表面の多機能かつ高性能化の傾向は年々高まるばかりである。特に、金属後処理用の表面処理剤については、近年技術の改善が目覚しく、ノンエキストラ(価格の高騰化がない)での高機能性を付与した表面処理剤やそれらを施した高機能金属材が市場提供されるようになった。
【0003】
耐傷付き性を改善する方策の開示例としては、特開平7−171498号公報および特開平10−130861号公報がある。前者は、粒径と融点を特定した球形のポリエチレンワックスの粒径とシリカ粒子とを、活性水素を分子内に持つウレタン樹脂に常温架橋型のエポキシ樹脂を配合した樹脂中に添加してなる塗料組成物を使用して金属材の上層に薄膜を形成させることを特徴とした打ち抜き加工性にすぐれる樹脂塗装金属材に関する。また後者は、ケイ酸アルカリ金属塩、ケイ酸コロイド、固形潤滑剤および有機樹脂(シランカップリング剤)をそれぞれ特定量配合してなることを特徴とする表面処理金属材に関する。両者は、いずれも家電オーディオ製品向け深絞り用金属材として市場提供しようとするための技術である。
【0004】
また、リン酸塩やクロム酸塩を使用しないため無公害で、かつ、金属表面に優れた耐食性や塗料密着性を付与した例としては特開平10−176119号公報がある。この技術は、平均分子量を特定した水性のポリエステル樹脂とエチレン−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体アルカリ金属中和物(アイオノマー)の水分散性樹脂にエチレン性不飽和単量体を重合して得られる金属表面処理剤に関し、樹脂の配合比を特定することで金属の耐食性および塗料密着性を向上させようとするものである。
【0005】
さらに、クロメート処理を施した亜鉛または亜鉛系めっき鋼板の経時黒変防止対策も重要である。例えば、特開平6−246229、特開平8−39725、特開平9−187883および特開平9−187884号公報では、いずれも下地クロメート処理の上に有機系の複合クリアー樹脂を薄膜塗布することにより、亜鉛めっき層の腐蝕を防ぎ、黒く変色することを防止する技術を開示している。
【0006】
しかし何れの上記従来技術を使用しても、耐食性、塗料密着性および耐アルカリ性を損なうことなく、耐溶剤性、耐傷付き性および耐型カジリ性を同時に満足させた表面処理金属材を得ることは困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、耐食性、塗料密着性、耐アルカリ性等の基本性能を損なうことなく、耐溶剤性、耐傷付き性、型カジリ性、深絞り加工性等を同時に高位に満足させた表面処理金属材、およびその表面処理金属材を得ることができる貯蔵安定性に優れた水分散性金属表面処理剤と製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究と開発を繰り返した結果、バインダー用主樹脂としてエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を1価の金属陽イオンで中和したアイオノマー樹脂を用い、さらにアミノ基かあるいはアンモニウムイオンまたはそれらの両方を吸着させたシリカ(以下の説明では、単に「アンモニウムイオン吸着シリカ」と略称することもある)と、塩素含有量を特定範囲に制御した水溶性の多官能エポキシ基含有化合物(以下、単に「水溶性エポキシ化合物」と称する)を配合することで、耐食性、塗料密着性、耐アルカリ性等の基本性能に加えて耐溶剤性、耐傷付き性に優れる表面処理金属材と、その表面処理金属材を得ることができる貯蔵安定性に優れた水分散性金属表面処理剤が得られることが分かり、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
本発明の要旨とするところは、
(1)総固形分濃度が10〜80質量%でかつ固形分中40〜90質量%がアイオノマー樹脂、1〜10質量%が水溶性多官能エポキシ基含有化合物、9〜50質量%がアミノ基およびアンモニウムイオンの一方または両方を吸着させたシリカで構成された水分散性金属表面処理剤であって、前記アイオノマー樹脂がガラス転移点50〜70℃のエチレン−不飽和カルボン酸重合体でかつ含まれるカルボキシル基の40〜60%が1価の金属陽イオンで中和されたもので、さらに、前記水溶性多官能エポキシ基含有化合物中に含まれる塩素含有量が1質量%未満であることを特徴とする水分散性金属表面処理剤、
(2)水分散性金属表面処理剤のさらに固形分中0.5〜20質量%が水分散性ポリオレフィン樹脂で構成されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の水分散性金属表面処理剤、
(3)金属材表層に、固形分中40〜90質量%がアイオノマー樹脂、1〜10質量%が水溶性多官能エポキシ基含有化合物、9〜50質量%がアミノ基およびアンモニウムイオンの一方または両方を吸着させたシリカで構成された有機無機複合皮膜を乾燥質量として0.3〜5.0g/m2有し、前記アイオノマー樹脂がガラス転移点50〜70℃のエチレン−不飽和カルボン酸重合体で、かつ含まれるカルボキシル基の40〜60%が1価の金属陽イオンで中和されたもので、さらに、前記有機無機複合皮膜中の塩素含有量が0.1質量%未満であることを特徴とする表面処理金属材、
(4)有機無機複合皮膜のさらに固形分中0.5〜20質量%が、水分散性ポリオレフィン樹脂で構成されたものであることを特徴とする前記(3)記載の表面処理金属材、
(5)金属材料表面上層に、前記(1)または(2)に記載の水分散性金属表面処理剤を塗布、焼付処理を行い有機無機複合皮膜を乾燥質量として0.3〜5.0g/m2形成することを特徴とする表面処理金属材の製造方法、である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に述べる。
本発明の金属表面処理剤に使用する主樹脂開発の基本思想は、耐食性、塗料密着性および耐アルカリ性等の基本性能に加えて、
(1)エタノールやメチルエチルケトン(MEK)といった極性基の強い溶剤に対して容易に溶解剥離若しくは膨潤しないこと、加えて
(2)摺り疵が付きにくく、プレス加工等での厳しい加工でも容易に型カジリせず、しかも、基板金属の加工伸びに対して十分追従できること、
(3)しかもバインダー樹脂としてゲル化、沈殿のない貯蔵安定性に優れた水分散性樹脂であることにある。
【0011】
そこで本発明では、バインダー用主樹脂としてエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を1価の金属陽イオンで特定範囲内で中和されたものを使用し、さらに耐食性、耐アルカリ性、メラミン塗装後の二次密着性、および処理剤の貯蔵安定性を高位に安定させる方法として、アンモニウムイオン吸着型シリカと塩素量を特定量未満に制御した水溶性の多官能エポキシ基含有化合物(以下、単に「水溶性エポキシ化合物」と称する)を適量配合して使用する。
【0012】
本発明で使用する1価の金属陽イオンで中和したアイオノマー樹脂は、エチレンと不飽和カルボン酸を150〜270℃、98〜245MPa(1000〜2500Kg/cm2)の高温高圧下で共重合反応させ、得られたエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のカルボン酸を150〜300℃の高温下で金属水酸化物等と反応させ、側鎖に有するカルボキシル基の40〜60%を1価の金属陽イオンで中和させることによって得られる水分散性アイオノマー樹脂である。このアイオノマー樹脂の主骨格を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、グラフト共重合体でもよいが、透明性の点でランダム共重合体が好ましい。
【0013】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の一成分である不飽和カルボン酸としては、炭素数3〜8の不飽和カルボン酸が挙げられる。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタール酸、メチルヘキサヒドロフタル酸が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸が好ましい。
【0014】
上記アイオノマー樹脂の主骨格を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸に加えて第3成分を含んでいてもよい。このような第3成分との例しては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等の不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニル等のビニルエステルが挙げられる。
【0015】
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンの含有量は、8〜95質量%であり、好ましくは8〜25質量%である。また、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が上記第3成分を含む場合、その量は40質量%以下に限定することが好ましい。
上記アイオノマー樹脂の中和に用いる金属陽イオンとしては、良好な乳化性を有するアイオノマー樹脂が得られる点でLi+、Na+、K+等、1価の金属陽イオンが推奨されるが、中でもNa(ナトリウム)イオンが好ましい。金属陽イオンで中和されたカルボキシル基の割合、すなわち中和度は、40〜60%とし、さらに好ましくは45〜55%である。40%未満では良好な水分散体が得られにくく、60%を越えると塗膜の密着性が劣るため好ましくない。
【0016】
この40〜60%に中和調整されたエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のガラス転移点(以下、Tgという)は、50〜70℃である必要があり、好ましくは50〜60℃である。Tgが50℃未満では、樹脂皮膜としての耐疵付き性が低下し、プレス加工などで皮膜が破れて型カジリを起こし易く、また、Tgが70℃を超えると皮膜の柔軟性が不足し、加工による皮膜のひび割れなどが発生するため好ましくない。本発明においては、ガラス転移点(Tg)はJIS K 7121に準拠して測定される。
【0017】
上記水分散性アイオノマー樹脂の(固形分換算)配合量は、全固形分に対する百分率で40〜90質量%、好ましくは60〜80質量%である。この割合が40質量%未満では、金属被塗物に対して均一な皮膜の形成が難しくなることから、耐食性が著しく低下する。一方、90質量%を超えると、処理液の増粘が影響して膜厚の均一制御が難しくなるため、プレス加工性に劣るなどの問題が生じる他、塗装仕上がり外観の低下や塗装設備の洗浄に時間がかかる等、塗装作業上の問題が生じるため好ましくない。
【0018】
一方、本発明で用いる水溶性エポキシ化合物は、耐アルカリ性およびポストコート時の塗膜の二次密着性を安定して高位に得るために使用するものである。水溶性エポキシ化合物の全固形分に対する百分率は1〜10質量%であるが、好ましくは3〜7質量%である。この配合割合が1質量%未満では、皮膜の素地密着性やメラミンアルキッド系塗料など低級のポストコートの沸水二次密着性が不十分となる。一方、10質量%を超えると塗膜が過剰に硬質化し、加工によりひび割れが入り易くなったり塗膜剥離しやすくなる。
【0019】
上記水溶性エポキシ化合物は、含まれるグリシジル基が、塗装後の加熱によりアイオノマー樹脂のカルボキシル基と反応し、素地金属や家電用途のワンコート・ワンベーク(1C1B)塗装のポストコート等に対する密着性を向上させる利点がある。官能基数としては、3〜4官能のものが好ましく、その例としてはペンタエリスリトールグリシジルエーテルやグリセロールポリグリシジルエーテル等であって塩素量を1質量%未満に調整したものが挙げられる。しかし、単官能のエポキシ化合物では、それをアイオノマー樹脂とともに配合した金属表面処理剤から形成した塗装皮膜において、メラミンアルキッド樹脂塗料のような低級なポストコートとの二次密着性の機能を改善することは困難である。また、官能基が5を超えると、架橋密度が高まりすぎて皮膜の硬質化が進み、加工性が著しく低下するため耐食性の劣化を招くことがある。
【0020】
水溶性エポキシ化合物の粘度については、塗装作業性の面から25℃で400mPa・s以下、さらには350mPa・s以下のものが好適である。またエポキシ当量は6.0〜7.5eq/kg、さらには6.2〜7.1eq/kgの範囲のものが反応性の面から好適である。
ここで、従来使用されていた多官能エポキシ化合物は、原料であるエピクロルヒドリン由来の塩素が多く残留している。そのため、この塩素を多量に含む金属表面処理剤は貯蔵安定性が悪く、時間の経過とともに沈殿物を生じるほか、この処理液で形成された皮膜は耐食性等の性能が劣る等の問題点がある。
【0021】
そこで本発明では、製造時に塩素量を1質量%未満に調整した水溶性多官能エポキシ化合物を使用する。しかも、水溶性多官能エポキシ樹脂中に含まれる塩素の量を1質量%以下、さらに処理皮膜中に含まれる塩素の量を0.1質量%以下に調節することで、処理剤の長期安定性のみならずこの処理剤を処理することによって得られる表面処理金属材の耐食性を改善することが可能になる。
【0022】
また、本発明で使用するアンモニウムイオン吸着型シリカとしては、粒径10〜20nmの微粒子状シリカの表面にアミノ基および/またはアンモニウムイオンを吸着させてpH9.0〜10.5に調整し、水中に分散させたコロイダルシリカが最適である。pHの調整においては、有機アミノ化合物またはアンモニア水のいずれを用いてもよいが、作業性、作業環境の面から有機アミノ化合物の使用が好ましい。このような有機アミノ化合物としては、アミノアルコールやジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0023】
該シリカの(固形分換算)配合量は、全固形分に対する百分率で9〜50質量%、好ましくは15〜40質量%である。シリカが9質量%未満では皮膜の耐疵付き性や耐食性の低下が生じ、50質量%を超えると塗膜が固くなり過ぎて柔軟性が低下し、プレス曲げ加工などにおいて曲げ部の塗膜にヘアークラック等が発生しやすくなるため耐食性も低下する。
【0024】
尚、本発明の水分散性金属表面処理剤には、他の機能、たとえば潤滑性の付与を目的として水分散性のオレフィン樹脂系ワックスを、総固形分に占める割合で0.5〜20質量%添加することもできる。
また、上記各成分に加えて適宜防錆剤を添加することができる。このような防錆剤の例としては、亜鉛末、亜硝酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸亜鉛、バナジン酸アンモン、珪タングステン酸水和物などを挙げることができる。
【0025】
上記各成分を含有する本発明の水分散性金属表面処理剤は、総固形分濃度10〜80質量%で使用することができる。固形分以外の組成は水がほとんどであるが、その他、揮発性pH調整剤等、塗装・焼付後に皮膜組成中に残らないもの全てを含む。上記総固形分濃度が10質量%未満では皮膜厚を十分に確保することができず、80質量%を超えると塗装作業性が悪くなるため安定した塗膜厚を確保することが困難になる。
【0026】
本発明の水分散性金属表面処理剤の調製方法は、例えば、アイオノマー樹脂の水分散体に所定量のアンモニウムイオン吸着型シリカを加え、水およびアルカリ成分を加えてpHを調整する。添加するアルカリ成分としては、乾燥過程でガス化して固形皮膜中にアルカリ分が残らないようにするため、有機アミノ化合物またはアンモニア水等のアルカリ性水溶液が好ましい。また、本発明の処理剤はアルカリ性であればそのpHは問わないが、好ましくは約10前後に調整したのち、所定量の水溶性エポキシ化合物を添加し、液温40℃以下で約10分間、ディスパー攪拌してよく混合する。なお、アイオノマー樹脂と水溶性エポキシ化合物の混合物を加熱溶融して一括乳化する手法もあるが、この手法は特に無機系防錆剤を共存させる場合には好ましくなく、沈殿物が発生することがあるので避けたほうがよい。
【0027】
本発明の処理方法は、金属材料を本発明の水分散性金属表面処理剤で処理し、その後焼付けるものである。処理方法としては特に制限はないがロールコーター法が好ましく、その他、浸漬法、スプレー法等がある。塗膜の付着量は乾燥質量で0.3〜5.0g/m2とする。0.3g/m2未満では耐食性が劣化するため好ましくない。また、5.0g/m2を越えるものは経済的に好ましくない。また、焼付温度は80〜180℃、焼付時間は5秒〜30分、さらには10秒〜10分が好ましい。
【0028】
上記金属材料としては特に制限はなく、板状またはその他の形状の未処理鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、溶融亜鉛めっき鋼材、ガルバリウム鋼材、アルミニウム材、アルミニウム合金材、その他銅材等の金属材料に適用可能である。さらに、本発明の対象の金属材料には、プラスチック材料に各種金属をラミネートした金属−プラスチック複合材料も含まれる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
〔実施例1〜28、比較例1〜12〕
<水分散性金属表面処理剤の調製>
エチレン−メタクリル酸共重合体100g〔溶融流れ指数(MFR)が190℃で0.8g/10分、メタクリル酸含有量15質量%〕と、中和剤として水酸化ナトリウムを250℃で溶融してアイオノマー樹脂溶融物を用意し、これに水300gを加えた後、170℃に加熱した内容積1リットルの耐圧ホモミキサーに、1000rpmで攪拌しながら約2時間かけて仕込んだ。仕込み終了後、さらに1時間攪拌を継続して室温まで冷却しアイオノマー樹脂の水分散体を得た。この水分散体の樹脂固形分濃度は25質量%であった。
【0030】
次に、エポキシ化合物として塩素含有量が1.0質量%未満で水溶化率100%のペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−1410、ナガセ化成工業製)を、またシリカとして表面がアンモニウムイオンを吸着し、かつアルカリ性に制御されたコロイダルシリカ(シリカ分20質量%)を用意し、アイオノマー水分散体樹脂、エポキシ化合物およびシリカを表1および表2に示す質量百分率で種々配合し、それらを500rpmで60分間ディスパー中で攪拌した。なお、表1および表2中のアイオノマー樹脂およびコロイダルシリカの質量%は固形分に換算した値である。
【0031】
そして攪拌の途中でアミノアルコールによってpHを10に調整し、合計60分間の攪拌が終了した後、200メッシュフィルターで濾過し、そのろ液を(必要に応じて)純水で調整し、本実施例または比較例の水分散性金属表面処理剤とした。
<鋼板への塗装>
公知の電解クロメート法によって、クロム付着量が片面あたり金属クロムとして50mg/m2に制御された板厚1.0mmの電気亜鉛めっき鋼板(片面目付量20g/m2)の表面に、上記水分散性金属表面処理剤の固形皮膜が0.3〜5.0g/m2となるようバーコーターで塗布したのち、ガス炉の中で出口側板温が在炉時間20秒で120℃になるよう塗膜の焼付処理を行い試験片を作製した。尚、付着量の測定は重量法で行った。
【0032】
<性能評価試験>
1)耐アルカリ性
アルカリ脱脂剤(SC53、日本ペイント社製)の2%水溶液に試験片の半分を、液温55℃×10分浸漬の後、水洗乾燥して塗膜外観の健全性、耐脱膜性を非浸漬部と比較観察した。
◎:塗膜異常なし、○:僅かに外観変色、△:部分脱膜、×:全面脱膜
2)耐白化性(塗膜の耐沸水試験)
試験片の半分を純水の沸騰水に2時間浸漬した後試験片を引き上げ、自然乾燥を待って浸漬部と非浸漬部の外観差を目視で判定した。
◎:外観の差なし、○:僅かに浸漬部に脱色あり、△:部分白化あり、×:全面白化
3)耐型カジリ性
円筒エリクセンプレスを使用。直径50mm円筒、絞り比2.4、板厚1.0mm、クリアランス0.0mm、しわ押え圧力1.5トンで試験片の無塗油絞り抜けを行い、円筒胴部の型カジリ状況を観察した。
◎:かじりなし、○:僅かにかじり、△:部分的なかじり、×:全面かじり
4)耐食性
JIS Z2371に準拠した塩水噴霧試験をおこなった。エリクセン6mm押し出し加工部、平面部のある試験片(端面、裏面はテープシール)を作成し、塩水噴霧168時間後、白錆発生状況を評価した。
◎:錆なし、○:面積比5%以下、△:5〜30%、×:30%以上
5)ポストコート二次密着性
試験片にメラミンアルキッド樹脂系塗料(白色)を、乾燥膜厚20〜25μm、125℃×20分の条件で焼き付けた後、沸騰した純水に30分浸漬、24時間室内放置し、JIS K5400に準拠した碁盤目試験で、試験片に1mm角の碁盤目を100個密接して罫書き、粘着テープ(「セロテープ」、ニチバン社製)にて45度方向に強制剥離を行い、剥離部を評価した。
◎:剥離なし、○:僅かに剥離、△:部分剥離、×:全面剥離
6)耐溶剤性
SUS丸棒端面にエタノールを含浸させた8枚重ねのガーゼを荷重1Kg×10回(往復)、およびMEK(メチルエチルケトン)を含浸させて荷重1Kg×50回(往復)擦った後の塗膜の溶解外観を特殊染料で染色し、その染色度の差から判定。
◎:異常なし、○:僅かに溶解、△:部分的溶解、×:全面溶解(素地露出)
7)処理剤の貯蔵安定性
塩素量が異なるエポキシ化合物添加後、40℃×30日経時させた際の処理剤の性状変化を観察した。
◎:異常なし、○:僅かに白濁するも沈殿なし、△:白濁増すも沈殿なし、×:沈殿大
処理剤の配合組成および評価結果を表1および表2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
上記結果から、処理剤中のシリカ量が本発明の範囲を外れると、下限側では耐食性、上限側では絞り加工などのプレス加工性にダメージがあり、避けた方がよいことが分る。また、アイオノマー樹脂の配合量が本発明の範囲を外れると、下限側では耐食性、プレス型カジリ性、メラミンアルキッドによるポストコートの二次密着性が劣り、上限側では絞り加工等のようなプレス加工に若干劣るため、好ましくないことが分る。
【0035】
また、経時に対し、処理液中に発生する沈殿物は、水溶性エポキシ化合物中の塩素含有量が1質量%を越えると白濁もしくは沈殿することが分かる。また、塩素含有量を制御した水溶性エポキシ化合物については、その量が本発明の範囲を外れると、下限側ではポストコートの二次密着性が劣化し、上限側では耐アルカリ性、耐白化性、耐かじり性など、塗膜性能の全体的なレベルダウンを招くことが分る。さらに、アイオノマー樹脂のTgが本発明の範囲を外れると、下限側では皮膜が軟らかくなり耐型カジリ性が劣り、上限側では皮膜の柔軟性が不足し耐型かじり性に劣ることが分かる。アイオノマーの中和度については、本発明の範囲を外れると、下限側では処理液の安定性が劣化し、上限側ではポストコートの二次密着性が劣化することが分る。有機無機複合皮膜の付着量については、本発明の下限範囲を外れると、耐食性のみならず耐型かじり性や二次密着性が劣化することが分かる。
〔実施例29〜57(水性ワックスとして水分散性ポリオレフィン樹脂を添加した場合)〕
既述の各実施例および比較例用に用意したアイオノマー樹脂の水分散体、エポキシ化合物、アンモニウムイオン吸着シリカのほかに、数平均分子量が1500、粒径0.7μmの水分散性ポリオレフィン樹脂を使用し、表3に示す質量百分率(固形分換算)で種々配合し、500rpmで30分間ディスパー攪拌し、攪拌の途中でアミノアルコールによってpHの微調整をおこなった後、200メッシュフィルターでろ過し、そのろ液を潤滑機能を付与した水分散性金属表面処理剤とした。これらの組成および評価結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
上記結果から、潤滑剤であるポリオレフィン樹脂の添加は、本発明範囲内であれば他性能への影響は殆どなく、処理剤を構成するアイオノマー樹脂、シリカの作用効果もポリオレフィン樹脂添加前と同様の効果であることが分かる。
【0037】
【発明の効果】
本発明の水分散性金属表面処理剤は、特定のアイオノマー樹脂、水溶性エポキシ化合物およびシリカを組み合せて調製してあるため、40℃以下において1ヶ月以上の高い貯蔵安定性を有する。また、めっき後処理製品等の本発明の表面処理金属材は、耐アルカリ性、塗料密着性および耐食性を損なうことなく、耐溶剤性、耐傷付き性、耐型カジリ性、深絞り加工性、ポストコート性等を有する。したがって本発明の表面処理金属材は、家庭用電気製品や建材および自動車部品等の構成部材として好適である。
Claims (5)
- 総固形分濃度が10〜80質量%でかつ固形分中40〜90質量%がアイオノマー樹脂、1〜10質量%が水溶性多官能エポキシ基含有化合物、9〜50質量%がアミノ基およびアンモニウムイオンの一方または両方を吸着させたシリカで構成された水分散性金属表面処理剤であって、前記アイオノマー樹脂がガラス転移点50〜70℃のエチレン−不飽和カルボン酸重合体でかつ含まれるカルボキシル基の40〜60%が1価の金属陽イオンで中和されたもので、さらに、前記水溶性多官能エポキシ基含有化合物中に含まれる塩素含有量が1質量%未満であることを特徴とする水分散性金属表面処理剤。
- 水分散性金属表面処理剤のさらに固形分中0.5〜20質量%が水分散性ポリオレフィン樹脂で構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の水分散性金属表面処理剤。
- 金属材表層に、固形分中40〜90質量%がアイオノマー樹脂、1〜10質量%が水溶性多官能エポキシ基含有化合物、9〜50質量%がアミノ基およびアンモニウムイオンの一方または両方を吸着させたシリカで構成された有機無機複合皮膜を乾燥質量として0.3〜5.0g/m2有し、前記アイオノマー樹脂がガラス転移点50〜70℃のエチレン−不飽和カルボン酸重合体で、かつ含まれるカルボキシル基の40〜60%が1価の金属陽イオンで中和されたもので、さらに、前記有機無機複合皮膜中の塩素含有量が0.1質量%未満であることを特徴とする表面処理金属材。
- 有機無機複合皮膜のさらに固形分中0.5〜20質量%が、水分散性ポリオレフィン樹脂で構成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の表面処理金属材。
- 金属材料表面上層に、請求項1または2に記載の水分散性金属表面処理剤を塗布、焼付処理を行い有機無機複合皮膜を乾燥質量として0.3〜5.0g/m2形成することを特徴とする表面処理金属材の製造方法。
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