かかる不都合を解消して、本発明は、不良個所の特定が容易であるだけでなく、二輪自動車の各検査にかかる時間を飛躍的に短縮して、二輪自動車の検査を精度良く且つ効率よく行なうことができる二輪自動車のブレーキシステム検査装置及びブレーキシステム検査方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために、本発明は、二輪自動車に搭載されたアンチロックブレーキシステムの作動を検査する二輪自動車のブレーキシステム検査装置であって、二輪自動車の前輪を支持すべく互いに軸線が平行に配置された回転自在の一対の支持ローラと、二輪自動車の後輪を支持すべく互いに軸線が平行に配置された回転自在の一対の支持ローラと、二輪自動車の両車輪のうち少なくとも一方の車輪にアンチロックブレーキシステムが作動するとき、該車輪を支持する支持ローラを介して該車輪の回転速度を測定する測定手段と、該測定手段により得られた値に基づいてアンチロックブレーキシステムの作動により発生する車輪の回転速度の変化に伴う波形を求める演算手段と、該演算手段により得られた波形からピーク値を採取できなくても、その波形の一部が所定の経過時間内に定められた所定範囲内に存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
本発明の装置によって二輪自動車のアンチロックブレーキシステム(ABS)の作動を検査するときには、先ず、前輪と後輪とを、夫々に対応する一対の支持ローラに着座させる。次いで、二輪自動車の検査対象となるABSが作動する車輪(前輪又は後輪)のブレーキを入力してABSを作動させる。具体的には、例えば、作業者が前記支持ローラ上で二輪自動車のエンジンを駆動し、所定の検査開始速度になったときに二輪自動車のギヤをニュートラルにしてブレーキを全入力する。これによって、車輪は急ブレーキ状態となるので、車輪とローラとの間にスリップ現象が発生しABSが作動を開始する。
ABSが作動することによって、ブレーキのON・OFFが繰り返されるので、それに応じて車輪の回転速度が増減し、車輪の回転挙動が伝達された支持ローラを介して該車輪の回転速度が前記測定手段により測定される。そして、該測定手段から得られた測定値に基づき、前記演算手段によって車輪の回転速度の変化(例えば減速度或いは加速度の増減)に伴う波形を求める。続いて、前記判定手段によって演算手段から得られた波形の一部が、所定の経過時間内に定められた所定範囲内にあるか否かを判定する。該波形は、ブレーキのON・OFFに対応するものであるので、該波形の何れの部分も所定範囲に無いときには車輪がロックしている可能性があり、或いは十分に減速されていない可能性がある。従って、前記演算手段によって算出された波形を、前記判定手段による判定に用いることで、ブレーキ入力から車輪が停止するまでの経過時間を採取することなく、ABSの良否を判定することができる。
このように、本発明によればブレーキ入力から車輪が停止するまでの経過時間を採取することが不要であるので、短時間にABS検査を行なうことができる。更に、前輪ABSに続いて後輪ABSを検査する場合にも、車輪とローラとの回転を停止させる必要がなく、検査効率を向上させることができる。
なお、前記演算手段においては、前記測定手段により得られた値に基づいてABSの作動により発生する車輪の回転速度の変化に伴うピーク値を求め、判定手段においては、このピーク値が所定の経過時間内に定められた所定範囲内にあるとき良と判定し、該ピーク値が所定範囲外であるとき不良と判定することも考えられる。しかし、ABSの作動により発生する車輪の回転速度の変化が緩やかである場合には、この変化からピーク値を採取することが困難となるおそれがある。そして、この場合には、ABSの作動が良と判定されるべきものであっても、ピーク値が採取できないために不良とされてしまうおそれがある。そこで、本発明の前記演算手段においては、ピーク値ではなく、車輪の回転速度の変化に伴う波形を求めて、この波形を良否判定に用いたことにより、なだらかな曲線を描く波形であっても、前記所定範囲内にあるか否かを正確に判断することができ、誤った不良判定を排除して検査精度を飛躍的に向上させることができる。
このとき、本発明の前記判定手段は、前記演算手段により得られた波形が所定範囲内に一部存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定することができる。波形による良否判定に際して、車輪がブレーキがロック気味である場合には、波形が所定範囲内に一部存在していても、所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する。従って、判断手段により波形からブレーキがロック気味であることを容易に判断でき、このとき不良と判定することで検査精度を向上させることができる。
また、本発明は、 二輪自動車に搭載されたアンチロックブレーキシステムの作動を検査する二輪自動車のブレーキシステム検査方法であって、一対の前輪支持ローラに支持された二輪自動車の前輪を回転させると共に、一対の後輪支持ローラに支持された二輪自動車の後輪を回転させて、アンチロックブレーキシステムが作動する一方の車輪のブレーキを全入力するブレーキ入力工程と、該ブレーキ入力工程によりアンチロックブレーキシステムが作動した車輪の回転速度を、該車輪を支持する支持ローラを介して測定する測定工程と、該測定工程によって測定された値に基づいて、アンチロックブレーキシステムの作動による車輪の回転速度の変化に伴って生じる波形を求める演算工程と、該演算工程により得られた波形からピーク値を採取できなくても、その波形の一部が所定の経過時間内に存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定する良否判定工程とを備えることを特徴とする。
本発明の方法においては、前記測定工程によってローラを介して車輪の回転速度を測定し、次いで、測定された値に基づいて、前記演算工程によって該車輪の速度変化に伴う波形を求める。そして、前記判定工程によって、前記波形に対する良否判定を行なう。演算工程により求められる波形は、前述したように、ABS作動時のブレーキのON・OFFに対応するものである。このため、該波形が所定範囲を外れていると車輪のロックや減速が不十分であることが考えられる。そこで、判定工程においては、波形の一部が所定範囲内にあるときをABSが良好に作動していると判定し、該波形が所定範囲外であるときABSが作動不良であると判定する。
このように、本発明は演算工程及び判定工程によって、ABS作動時のブレーキのON・OFFに伴う波形からABSの良否判定を行なうので、ブレーキ入力から車輪が停止するまでの経過時間を採取することなくABS検査を行なうことができ、短時間でABS検査を行なうことができる。更に、前輪ABSに続いて後輪ABSを検査する場合にも、車輪とローラとの回転を停止させる必要がなく、検査効率を向上させることができる。
また、前述したように、車輪の回転速度の変化に伴うピーク値から良否を判定することが考えられるが、ピーク値が採取できない場合には不良とされてしまうおそれがあるので、本発明においては、ピーク値ではなく、車輪の回転速度の変化に伴う波形を良否判定に用いている。これにより、ABS作動の良否を正確に判断することができ、検査精度を飛躍的に向上させることができる。
また、本発明の方法の前記演算工程においては、少なくとも、アンチロックブレーキシステムが作動した初回のブレーキOFF時に発生する車輪の回転速度の変化を表す第1変化部と、次いでブレーキON時に発生する車輪の回転速度の変化を表す第2変化部と、次いでブレーキOFF時に発生する車輪の回転速度の変化を表す第3変化部とを含む波形を求め、前記良否判定工程においては、該演算工程により得られた波形からピーク値を採取できなくても、その波形の各変化部毎の一部が所定の経過時間内に存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定することが好ましい。
ABSが作動を開始した初期においては、最も車速変化が大きいので、車輪の回転速度に対応する加速と減速との変動が比較的大きい。従って、ABS作動初期に求められる前記第1変化部乃至第3変化部は、ABSの作動状況が明確に現れる。これにより、少なくとも前記第1変化部乃至第3変化部によってABSの良否を判定することにより、判定精度を十分に維持して効率良くABS検査を行なうことができる。しかも、ABS検査が開始されてから比較的初期の段階で検査を終了させることができるので、検査時間を一層短縮することができる。
また、本発明の前記良否判定工程においては、前記演算手段により得られた波形が所定範囲内に一部存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定する。前述したように、波形による良否判定に際して、車輪がブレーキがロック気味である場合には、波形が所定範囲内に一部存在していても、所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する。従って、良否判定工程においては、波形からブレーキがロック気味であることを容易に判断でき、このとき不良と判定することで検査精度を向上させることができる。
また、本発明は、アンチロックブレーキシステムを備える二輪自動車に設けられた前後輪連動ブレーキシステムを検査する二輪自動車のブレーキシステム検査装置であって、二輪自動車の前輪を支持すべく互いに軸線が平行に配置された回転自在の一対の前輪支持ローラと、二輪自動車の後輪を支持すべく互いに軸線が平行に配置された回転自在の一対の後輪支持ローラと、一方の前輪支持ローラと一方の後輪支持ローラとの夫々に連結されて各ローラを介して前輪の回転速度と後輪の回転速度とを各別に測定する測定手段と、前輪と後輪とを回転させ、前輪と後輪とが連動してその夫々にアンチロックブレーキシステムが作動したときに各測定手段により得られた値に基づいて、前輪のアンチロックブレーキシステムによる初回のブレーキOFF時に発生する前輪の速度変化と、後輪のアンチロックブレーキシステムによる初回のブレーキOFF時に発生する後輪の速度変化との差を表す波形を求める演算手段と、該演算工程により得られた波形からピーク値を採取できなくても、その波形の一部が所定の経過時間内に存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明は、アンチロックブレーキシステムを備える二輪自動車に設けられた前後輪連動ブレーキシステムを検査する二輪自動車のブレーキシステム検査方法であって、一対の前輪支持ローラに支持された二輪自動車の前輪を回転させると共に、一対の後輪支持ローラに支持された二輪自動車の後輪を回転させて、一方の車輪のブレーキを全入力することによりアンチロックブレーキシステム及び前後輪連動ブレーキシステムを作動させるブレーキ入力工程と、該ブレーキ入力工程における前輪の回転速度と後輪の回転速度とを夫々の支持ローラを介して測定する測定工程と、該測定工程により得られた値に基づいて、前輪のアンチロックブレーキシステムが作動した初回のブレーキOFF時に発生する前輪の速度変化と、後輪のアンチロックブレーキシステムが作動した初回のブレーキOFF時に発生する後輪の速度変化との差を表す波形を求める演算工程と、該演算工程により得られた波形からピーク値を採取できなくても、その波形の一部が所定の経過時間内に存在し且つ所定の経過時間内に所定範囲の上限を越える部分又は下限未満の部分を有する場合に不良と判定する良否判定工程とを備えることを特徴とする。
本発明によって二輪自動車の前後輪連動ブレーキシステム(CBS)を検査するときには、先ず、前輪と後輪とを、夫々に対応する一対の前輪支持ローラと一対の後輪支持ローラに着座支持させて回転させる。次いで、二輪自動車の検査対象となるABS及びCBSが作動する車輪(前輪又は後輪)のブレーキを全入力してABS及びCBSを作動させる(ブレーキ入力工程)。具体的には、例えば、前輪ブレーキの入力に応じて後輪ブレーキが連動する場合、作業者が前記支持ローラ上で二輪自動車のエンジンを駆動し、所定の検査開始速度になったときに二輪自動車のギヤをニュートラルにして前輪のブレーキを全入力する。これによって、前輪が急ブレーキ状態となるので、前輪と前輪支持ローラとの間にスリップ現象が発生し前輪ABSが作動を開始する。一方、前輪ブレーキが全入力されることにより、CBSが作動して後輪ブレーキが自動的に入力される。そして、前輪と同様に後輪ABSが作動を開始する。
前輪ABSと後輪ABSとが共に作動することによって、前輪と後輪との夫々においてブレーキのON・OFFが繰り返されるので、それに応じて両車輪の回転速度が増減し、両車輪の回転挙動が伝達された前輪支持ローラの回転速度と後輪支持ローラの回転速度とが各測定手段により測定される(測定工程)。そして、各測定手段から得られた夫々の測定値に基づき、前記演算手段によって、前輪の速度変化と後輪の速度変化との差を表す波形を求める(演算工程)。そして、前記判定手段によって演算手段から得られた波形の一部が所定範囲内にあるか否かを判定する(判定工程)。前記演算手段によって求められた波形は、前輪ブレーキに対する後輪ブレーキの利き具合を示すものであり、該波形が所定範囲を外れているときには前輪ブレーキに対して後輪ブレーキが過剰に作動しているか、或いは前輪ブレーキに対して後輪ブレーキの作動が不十分であることが考えられる。従って、前記演算手段によって算出された波形を、前記判定手段による判定に用いることで、ブレーキ入力から車輪が停止するまでの経過時間を採取することなく、CBSの良否を判定することができる。
更に、前記演算工程においては、ABSが作動した前輪の初回のブレーキOFF時の速度変化と、ABSが作動した後輪の初回のブレーキOFF時の速度変化との差を表す波形を良否判定に使用する。これは、ABSが作動を開始した初期においては、最も車速変化が大きく、車輪の回転速度に対応する加速と減速との変動が比較的大きいために、前輪と後輪とのABSの作動状況が明確に現れるからである。これによって、判定精度を十分に維持して効率良くCBSの検査を行なうことができ、早期に検査を終了させることができるので、検査時間を飛躍的に短縮することができる。
なお、例えば、前記演算工程においては、ABSが作動した前輪の初回のブレーキOFF時のピーク値と、ABSが作動した後輪の初回のブレーキOFF時のピーク値との差を良否判定に使用することが考えられるが、ABSが作動した前輪の初回のブレーキOFF時の速度変化や、ABSが作動した後輪の初回のブレーキOFF時の速度変化が極めて小さい場合には、夫々においてピーク値を採取することが困難となる。そこで、本発明においては、ピーク値の差ではなく、速度変化の差を表す波形を良否判定に使用することにより、CBS作動の良否を確実に判断することができ、検査精度を飛躍的に向上させることができる。
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態の装置構成を示す説明的平面図、図2は図1に示す装置の要部を示す説明的側面図、図3は本実施形態の検査手段を模式的に示すブロック図、図4及び図5は判定手段において用いられる波形を示す線図である。
参照して本実施形態の二輪自動車の検査装置1の構成を説明すれば、図1及び図2において、2はベース、3は該ベース2上に設けられて二輪自動車(図示せず)の後輪R側に設けられた後輪用機台、4はその前輪F側に設けられた前輪用機台である。
図1に示すように、後輪用機台3は、二輪自動車の後輪Rを着座支持する一対の後輪支持ローラ5、6を備えている。後輪Rの前側に位置する第1の後輪支持ローラ5は、その回転軸7が一対の軸受け8を介して回転自在に支持されている。後輪Rの後側に位置する第2の後輪支持ローラ6は、その回転軸9が第1の後輪支持ローラ5の回転軸7と平行に、一対の軸受け10を介して回転自在に支持されている。第1の後輪支持ローラ5は、第2の後輪支持ローラ6よりも大径に形成されており、これによって、第1の後輪支持ローラ5の回転慣性力が第2の後輪支持ローラ6よりも大きく設定されている。
第1の後輪支持ローラ5と第2の後輪支持ローラ6とは所定間隔を存して並設され、更に、図2に示すように、第2の後輪支持ローラ6は、後輪Rに接する位置が第1の後輪支持ローラ5と同一の高さとなるように前記軸受け10により支持されている。
図1に示すように、第1の後輪支持ローラ5の回転軸7の一方端には電磁ブレーキ11が連結されており、該電磁ブレーキ11の作動により第1の後輪支持ローラ5に掛かる負荷の調整が可能となっている。
第2の後輪支持ローラ6の回転軸9の一端部にはクラッチ12を介してプーリ13が設けられている。該プーリ13はベルト14を連動部材としてベース2上に設けられたスタータ作動用モータ15のプーリ16に従動する。クラッチ12がONとされたときには、プーリ13が回転軸9に連結され、スタータ作動用モータ15による第2の後輪支持ローラ6の駆動が可能となる。
また、第2の後輪支持ローラ6の回転軸9の他端部には、クラッチ17を介してモータ18が連結されている。クラッチ17がONとされたときには、回転軸9とモータ18の駆動軸19とが接続され、モータ18による第2の後輪支持ローラ6の駆動が可能となる。
更に、第2の後輪支持ローラ6の回転軸9の一端部には、回転軸9の回転速度を測定する第1ロータリーエンコーダ20が設けられ、回転軸9の他端部には、クラッチ17とモータ18との間に位置して回転軸9の回転トルクを測定する第1トルクメータ21が設けられている。後述するが、第1トルクメータ21は制動力の検査時に使用され、第1ロータリーエンコーダ20は、アンチロックブレーキシステム(ABS)及び前後輪連動ブレーキシステム(CBS)の検査時に使用される。
前輪用機台4は、二輪自動車の前輪Fを着座支持する一対の前輪支持ローラ22、23を備えている。前輪Fの前側に位置する第1の前輪支持ローラ22は、その回転軸24が一対の軸受け25を介して回転自在に支持されている。前輪Fの後側に位置する第2の前輪支持ローラ23は、その回転軸26が第1の前輪支持ローラ22の回転軸24と平行に、一対の軸受け27を介して回転自在に支持されている。第1の前輪支持ローラ22は、第2の前輪支持ローラ23よりも大径に形成されており、これによって、第1の前輪支持ローラ22の回転慣性力が第2の前輪支持ローラ23よりも大きく設定されている。
第1の前輪支持ローラ22と第2の前輪支持ローラ23とは所定間隔を存して並設され、更に、図2に示すように、第2の前輪支持ローラ23は、前輪Fに接する位置が第1の前輪支持ローラ22と同一の高さとなるように前記軸受け27により支持されている。なお、第1の後輪支持ローラ5と第1の前輪支持ローラ22とは同一形状とされ、第2の後輪支持ローラ6と第2の前輪支持ローラ23とは同一形状とされている。
第2の前輪支持ローラ23の回転軸26の一端部には、クラッチ28を介してモータ29が連結されている。クラッチ28がONとされたときには、回転軸26とモータ29の駆動軸30とが接続され、モータ29による第2の前輪支持ローラ23の駆動が可能となる。
第2の前輪支持ローラ23の回転軸26の他端部には、回転軸26の回転速度を測定する第2ロータリーエンコーダ31が設けられ、回転軸26の一端部側には、前記クラッチ28とモータ29との間に位置して回転軸26の回転トルクを測定する第2トルクメータ32が設けられている。後述するが、第2トルクメータ32は制動力の検査時に使用され、第2ロータリーエンコーダ31はアンチロックブレーキシステム(ABS)及び前後輪連動ブレーキシステム(CBS)の検査時に使用される。
更に、第1の前輪支持ローラ22の回転軸24の一端部には、回転軸24の回転速度を測定する第3ロータリーエンコーダ33が設けられている。後述するが、第3ロータリーエンコーダ33は、二輪自動車に搭載された速度計の検査時に使用される。
前輪用機台4は、車輪間距離の異なる二輪自動車にも対応可能とするために、後輪用機台3に向かって進退自在とされている。即ち、前輪用機台4は、図2に示すように、ベース2に設けられたスライドレール34に沿って案内されるガイド部材35と、モータ36によって回転されるボール螺子37に螺合する螺合部材38とを備えている。これにより、前輪用機台4は、モータ36によるボール螺子37を回転させることで、スライドレール34に沿って後輪用機台3に向かって進退される。
また、第1の前輪支持ローラ22と第1の後輪支持ローラ5とは、連結手段39を介して同期して回転されるようになっている。連結手段39は、第1の後輪支持ローラ5の回転軸7に連結された第1ギヤボックス40と、第1の前輪支持ローラ22の回転軸24に連結された第2ギヤボックス41とを備え、第1ギヤボックス40と第2ギヤボックス41とを互いに連結する連結シャフト42によって回転軸7と回転軸24とが同期回転するようになっている。なお、第1ギヤボックス40及び第2ギヤボックス41は、傘歯車を組み合わせてなる周知のものであり、また、連結シャフト42は、前述した前輪用機台4の進退動に第2ギヤボックス41を追従させるために第2ギヤボックス41側においてスプライン嵌合するスプラインシャフトが採用されている。
図3に示すように、前記第1ロータリーエンコーダ20、第2ロータリーエンコーダ31、第3ロータリーエンコーダ33、第1トルクメータ21、及び第2トルクメータ32は、検査手段43に接続されており、各測定値が検査手段43に入力されるようになっている。検査手段43は、各測定値から各検査に応じた演算を行なう演算手段44と、各検査の良否を判定する判定手段45とを備えている。更に、検査手段43には、判定手段45による判定結果や測定情報を表示する表示手段46と、作業者が二輪自動車に搭乗した状態で操作するための作業者用操作手段47が接続されている。なお、演算手段44によって行なわれる演算処理及び判定手段45によって行なわれる判定処理については後述する。
次に、本実施形態の検査装置1による二輪自動車の検査について説明する。検査装置1によって検査を行なう二輪自動車は多種に及ぶが、先ず、図示しないが、前輪ブレーキと後輪ブレーキとの夫々にABSが作動し、前輪ブレーキと後輪ブレーキとを連動させるCBSが作動する二輪自動車の検査について説明する。この種の二輪自動車は、運転者がハンドルに設けられた右ブレーキレバーのみを操作したとき、前輪ブレーキが作動し、それに連動して後輪ブレーキが作動する。また、運転者がブレーキペダルのみを操作したときにも、前輪ブレーキが作動し、それに連動して後輪ブレーキが作動する。更に、前輪ブレーキと後輪ブレーキとは共にABSが作動する。
この種の二輪自動車に対する検査は、前輪制動力検査、後輪制動力検査、速度計検査、前輪ABS・CBS検査、及び、後輪ABS・CBS検査の順序で行なわれる。
前輪制動力検査は次のように行なわれる。検査開始時には、作業者が二輪自動車に乗った状態で二輪自動車の後輪Rを第1の後輪支持ローラ5及び第2の後輪支持ローラ6に着座させると共に、前輪Fを第1の前輪支持ローラ22及び第2の前輪支持ローラ23に着座させる。このとき、二輪自動車はエンジンが停止され、ギヤがニュートラルの状態とされている。一方、検査装置1は、前記クラッチ12がOFFの状態で、プーリ13と回転軸9とが切り離され、モータ15、プーリ16、ベルト14により発生する負荷を回転軸9及び第2の後輪支持ローラ6にかけない状態になっている。また、クラッチ17はONとされ、回転軸9とモータ18とが接続される。これにより、モータ18により回転軸9を介して第2の後輪支持ローラ6を駆動可能な状態になっている。
そして、作業者が二輪自動車に乗った状態で右ブレーキレバーのみを操作して前輪ブレーキを全入力し、この状態を維持して作業者用操作手段47(図3示)の図示しないフロントブレーキ制動力検査開始ボタンを押す。これにより、モータ18、29が作動し、所定の時間第2の後輪支持ローラ6と第2の前輪支持ローラ23との回転を駆動する。このとき、作業者によって二輪自動車の右ブレーキレバーから前輪ブレーキが全入力されていることによって、前輪Fと、CBSの作動による後輪Rとの回転が阻止され、第2の前輪支持ローラ23及び第2の後輪支持ローラ6と前輪F及び後輪Rとの間に摩擦が発生する。これにより、モータ18、29と第2の後輪支持ローラ6の回転軸9と第2の前輪支持ローラ(26)の回転軸26とにひずみが発生し、トルクメータ28、21により、前輪ブレーキが全入力された際の第2の前輪支持ローラ23と第2の後輪支持ローラ6とに掛かるトルクが計測され、図3に示す前記検査手段43に入力される。検査手段43においては前記判定手段45によってトルクメータ28、21により測定されたトルク値と所定のトルク値(予め設定された判定値)とが比較され、測定したトルクの最大値が所定のトルク値を越えていれば前記表示手段46に「OK」を表示させ、測定したトルクの最大値が所定のトルク値以下であれば十分な制動力が得られていないとして表示手段46に「NG」を表示させる。そして、制動力が「NG」である場合には、二輪自動車を検査装置1から降ろしてブレーキの調整が行なわれ、制動力が「OK」である場合には、続いて後輪制動力検査が行なわれる。
後輪制動力検査は、モータ18、29を停止させて第2の後輪支持ローラ6と第2の前輪支持ローラ(26)の回転を停止させた後に行なわれる。そして、検査作業は、作業者が右ブレーキレバーを開放した状態でブレーキペダルを踏むことにより後輪ブレーキを全入力とする以外は上述した前輪制動力検査と同様であるので説明を省略する。
後輪制動力検査が終了した後、続いて速度計検査が行なわれる。速度計検査においては二輪自動車の搭載された速度計の良否が検査される。図1を参照すれば、検査装置1は次に示す状態とされる。即ち、前記クラッチ12がOFFの状態で、プーリ13と回転軸9とが切り離され、モータ15、プーリ16、ベルト14により発生する負荷が回転軸9及び第2の後輪支持ローラ6に掛からない状態になっている。前記クラッチ17はOFFとされて、回転軸9とモータ18及びトルクメータ21とが切り離され、モータ18及びトルクメータ21により発生する負荷が回転軸9及び第2の後輪支持ローラ6に掛からない状態とされる。同じく、前記クラッチ28はOFFとされ、モータ29及びトルクメータ32により発生する負荷が回転軸26及び第2の前輪支持ローラ23に掛からない状態とされる。
そして、作業者は二輪自動車のエンジンを始動させ、次いで、二輪自動車に備えられた速度計を観察しながらアクセル調整する。そして、二輪自動車の速度計が所定の速度(例えば40km/h)を示したとき、前記作業者用操作手段47(図3示)に備えられた図示しない速度計検査ボタンを押す。一方、図3に示すように、前記検査手段43においては、第3ロータリーエンコーダ33から得られる第1の後輪支持ローラ22の回転速度が、演算手段44によって車速に換算される。そして、判定手段45は、速度計検査ボタンが押された時点の二輪自動車の速度計に表示される値と演算手段44によって算出された車速との差が、予め設定された許容範囲内にあれば前記表示手段46に「OK」を表示させ、許容範囲内になければ二輪自動車の速度計が精度不十分として表示手段46に「NG」を表示させる。
続いて、前輪ABS・CBS検査が行なわれる。前輪ABS・CBS検査においては、速度計検査に継続して二輪自動車のエンジンによる駆動を維持させ、作業者がアクセルを調整して所定の検査開始速度(例えば60km/h)に合わせる。このとき、作業者は、二輪自動車に備えられた速度計の表示ではなく、前記検査手段43を介して表示手段46に表示される車速を確認してアクセル調整を行なう。二輪自動車のエンジンによる駆動を維持することで、各支持ローラ5、22、6、23の回転が維持されるので、所定の検査開始速度までの速度上昇時間を飛躍的に短縮させることができる。
そして、車速が所定の検査開始速度になったとき、作業者は二輪自動車のアクセルを戻してギヤをニュートラルの状態にすると同時に、右ブレーキレバーを操作して前輪ブレーキを全入力する。これにより二輪自動車は前輪Fに急ブレーキが掛けられた状態となる。検査装置1においては、図2に示すように、第1の後輪支持ローラ5及び第1の前輪支持ローラ22の回転慣性力が第2の後輪支持ローラ6及び第2の前輪支持ローラ23の回転慣性力より大きくしてあるので、前輪ブレーキが全入力されたことにより、前輪Fと第1の前輪支持ローラ22との間にスリップ現象が発生し前輪ABSが作動を開始する。一方、第2の前輪支持ローラ23は前輪Fの回転挙動に追従する。なお、第1の後輪支持ローラ5は、前記連結手段39によって第1の前輪支持ローラ22と同期して回転されており、後輪Rに対しても路面の状況が再現される。また、二輪自動車の前輪ブレーキが入力されたことによってCBSが作動し後輪ブレーキが作動する。更に、二輪自動車の後輪Rは前輪Fに追従してABSが作動する。このときにも、前輪Fの場合と同様に、第2の後輪支持ローラ6は後輪Rの回転挙動に追従する。
検査手段43においては、常時第2の前輪支持ローラ23と第2の後輪支持ローラ6との回転速度を第2ロータリーエンコーダ31と第1ロータリーエンコーダ20とによって測定し、測定した値から演算手段44によって前輪F側と後輪R側との夫々の減速度(加速度)を算出する処理を演算手段44により行なっている。このとき得られた減速度(加速度)に対応する波形を図4に示す。図4において、実線により示す波形は前輪F側、即ち第2の前輪支持ローラ23の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形であり、一点鎖線により示す波形は後輪R側、即ち第2の後輪支持ローラ6の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形である。なお、本実施形態においては減速度(加速度)の波形として説明するが、減速度をトルクに置き換えても同一の波形を得ることができる。
図4に示すように、第2の前輪支持ローラ23の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形においては、前輪ブレーキが全入力されたと同時に上昇(減速)し、第1変化部aを介して下降(加速)する。第1変化部aはABSが作動して前輪ブレーキが初回OFFの状態となった時点の第2の前輪支持ローラ23の回転速度の変化に対応し、それに続く下降は、第1の前輪支持ローラ22の回転慣性が前輪Fを介して第2の前輪支持ローラ23に伝達されたものである。
そして、再びブレーキがONの状態となると第2変化部bが現れ、第2の前輪支持ローラ23が減速する。次いで、再びブレーキがOFFの状態となると第3変化部cが現れ、第2の前輪支持ローラ23が加速する。その後、ABSの作動により、前輪ブレーキはON・OFFが数回繰り返される。
第2の後輪支持ローラ6の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形においては、CBSが作動して後輪ブレーキが前輪ブレーキに連動し、後輪R側のABSが作動することによって第2の後輪支持ローラ6の回転速度の変化に応じたものとなる。そして、ABSが作動して後輪ブレーキが初回OFFの状態となった時点の第1変化部dが現れる。
検査手段43の判定手段45においては、前輪F側の減速度(加速度)の波形から第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cを採取して前輪ABSの作動の良否が判定され、前輪F側の減速度(加速度)の波形における第1変化部aと後輪R側の減速度(加速度)の波形における第1変化部dとを採取してCBSの作動の良否が判定される。
即ち、前輪F側の減速度(加速度)の波形における第1変化部aについては、予め設定された第1合格エリアA(図4中二点鎖線により囲まれた領域)が設けられる。該第1合格エリアAは第2ロータリーエンコーダ31(図1参照)の測定値に基づいて演算手段44により算出された減速度が0.5Gに達した時(ブレーキの作動に基づく減速であるとみなされた時)が時間的基点とされ、所定時間内の許容減速度の上限と下限とによって定められている。前輪F側の減速度(加速度)の波形における第2変化部bについては、予め設定された第2合格エリアBが設けられる。該第2合格エリアBは第1変化部aが現れた時が時間的基点とされ、所定時間内の許容減速度の上限と下限とによって定められている。同じように、前輪F側の減速度(加速度)の波形における第3変化部cについては、予め設定された第3合格エリアCから設けられる。該第3合格エリアCは第2変化部bが現れた時が時間的基点とされ、所定時間内の許容減速度の上限と下限とによって定められている。
判定手段45は、先ず、第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cが夫々第1合格エリアA、第2合格エリアB、及び第3合格エリアC内にあるか否かで前輪ABSの作動の良否判定を行なう。即ち、全ての変化部a、b、cが、夫々の合格エリアA、B、C内にあるとき、前記表示手段46を介して「ABS OK」の表示を行ない、何れか一つでも合格エリアから外れている場合には前記表示手段46を介して「ABS NG」の表示を行なう。このとき更に、第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cについて夫々第1合格エリアA、第2合格エリアB、及び第3合格エリアC内に一部が存在したとしても、所定時間内の許容減速度の上限を超えて外れているとき、又は下限未満に外れているときには、前記表示手段46を介して「ABS NG」の表示を行なう。
ここで、波形に影響する要因としては、カプラ外れ、ブレーキセンサ異常、配管詰まり、エアかみ、パッドの当たり不良、各ローラ5,6,22,23と車輪R,Fとの滑り、及び、ブレーキをかける強さやタイミングといった操作ミス等を挙げることができる。
なお、第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cにおいては、各変化部のピーク値が夫々第1合格エリアA、第2合格エリアB、及び第3合格エリアC内にあるか否かで前輪ABSの作動の良否判定を行なうことも考えられるが、波形によってはなだらかな曲線を描いてピーク値を採取することが困難な場合がある。こうした場合には、前輪ABSの作動が良と判定されるべきものであっても、ピーク値が採取できないために不良とされてしまうことが考えられる。そこで、ピーク値ではなく、波形の各変化部によって良否を判定することで正確な良否判定を行うことができる。
同時に、演算手段44においては、前輪F側の減速度(加速度)の波形における第1変化部aを構成する値と後輪R側の減速度(加速度)の波形における第1変化部dを構成する値との差(本実施形態においては前輪側第1変化部aに対する後輪側第1変化部dの割合)を算出し、判定手段45においてはここで算出された値が所定範囲I(前輪側第1変化部aの65%〜15%)内にあるか否かでCBSの作動の良否判定を行なう。ここで指定された所定範囲Iは、前輪Fに対して後輪Rが連動されるタイミング及び強さから最も適したブレーキの連動配分となるように考慮して定められたものである。そして、後輪側第1変化部dが、所定範囲I内にあれば前記表示手段46を介して「CBS OK」の表示を行ない、所定範囲Iから外れている場合には前記表示手段46を介して「CBS NG」の表示を行なう。
このように、本実施形態においては、前輪F側の減速度(加速度)の波形のうち、第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cを採取して前輪ABSの作動の良否を判定し、前輪F側の減速度(加速度)の波形のうち第1変化部aと後輪R側の減速度(加速度)の波形のうち第1変化部dとを採取してCBSの作動の良否を判定するので、前輪ABS・CBS検査が開始されて比較的初期の段階で検査を終了させることができ、検査時間を飛躍的に短縮させることができる。
また、前輪F側の減速度(加速度)の波形においては、第3変化部cの後にも波形の変化が現れるが、周知のABS特性により、通常第3変化部cの後に現れる波形の変化は比較的加速と減速との変動が小さい。それに対して、ABS作動初期の第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cの現れる時期は、最も車速変化が大きいので、ABSの作動不良が明確に現れる。これによって、本実施形態においては、前輪F側の減速度(加速度)の変化が比較的大きく見られる第1変化部a、第2変化部b、及び第3変化部cに基づいて良否を判定することで、高い判定精度を維持しつつ判定時間の短縮を実現したものである。
続いて、後輪ABS・CBS検査が行なわれる。後輪ABS・CBS検査においては、前輪ABS・CBS検査に継続して二輪自動車のエンジンによる駆動を維持させ、作業者がアクセルを調整して所定の検査開始速度(例えば60km/h)に合わせる。このとき、二輪自動車のエンジンによる駆動を維持することで、各支持ローラ5、22、6、23の回転が維持され、所定の検査開始速度までの速度上昇時間を飛躍的に短縮させることができる。
そして、車速が所定の検査開始速度になったとき、作業者は二輪自動車のアクセルを戻してギヤをニュートラルの状態にすると同時に、ブレーキペダルを踏んで後輪ブレーキを全入力する。これにより二輪自動車は後輪Rに急ブレーキが掛けられた状態となる。検査装置1においては、図2に示すように、第1の後輪支持ローラ5及び第1の前輪支持ローラ22の回転慣性力が第2の後輪支持ローラ6及び第2の前輪支持ローラ23の回転慣性力より大きくしてあるので、後輪ブレーキが全入力されたことにより、後輪Rと第1の後輪支持ローラ5との間にスリップ現象が発生し後輪ABSが作動を開始する。一方、第2の後輪支持ローラ6は後輪Rの回転挙動に追従する。なお、第1の前輪支持ローラ22は、前記連結手段39によって第1の後輪支持ローラ5と同期して回転されており、前輪Fに対しても路面の状況が再現される。また、二輪自動車の後輪ブレーキが入力されたことによってCBSが作動し前輪ブレーキが作動する。更に、二輪自動車の前輪Fは後輪Rに追従してABSが作動する。このときにも、第2の前輪支持ローラ23は前輪Fの回転挙動に追従する。
検査手段43においては、前輪ABS・CBS検査と同様に、常時第2の後輪支持ローラ6と第2の前輪支持ローラ23との回転速度を第1ロータリーエンコーダ20と第2ロータリーエンコーダ31とによって測定し、測定した値から演算手段44によって後輪R側と前輪F側との夫々の減速度(加速度)を算出する処理を行なっている。このとき得られた減速度(加速度)に対応する波形を図5に示す。図5において、一点鎖線により示す波形は後輪R側、即ち第2の後輪支持ローラ6の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形であり、実線により示す波形は前輪F側、即ち第2の前輪支持ローラ23の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形である。本実施形態においては減速度(加速度)の波形として説明するが、減速度をトルクに置き換えても同一の波形を得ることができることは前述した通りである。
図5に示すように、第2の後輪支持ローラ6の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形においては、後輪ブレーキが全入力されたと同時に上昇(減速)し、第1変化部eを介して下降(加速)する。第1変化部eはABSが作動して後輪ブレーキが初回OFFの状態となった時点の第2の後輪支持ローラ6の回転速度の変化に対応し、それに続く下降は、第1の後輪支持ローラ5の回転慣性が後輪Rを介して第2の後輪支持ローラ6に伝達されたものである。
そして、再びブレーキがONの状態となると第2変化部kが現れ、第2の後輪支持ローラ6が減速する。次いで、再びブレーキがOFFの状態となると第3変化部gが現れ、第2の後輪支持ローラ6が加速する。その後、ABSの作動により、後輪ブレーキはON・OFFが数回繰り返される。
第2の前輪支持ローラ23の回転数に基づいて算出された減速度(加速度)の波形は、CBSが作動して前輪ブレーキが後輪ブレーキに連動し、前輪F側のABSが作動することによって第2の前輪支持ローラ23の回転速度の変化に応じたものとなる。そして、ABSが作動して前輪ブレーキが初回OFFの状態となった時点の第1変化部hが現れる。
そして、検査手段43の判定手段45においては、前述した前輪ABS・CBS検査と同様にして良否判定が行なわれる。即ち、判定手段45は、第1変化部e、第2変化部k、及び第3変化部gが夫々第1合格エリアE、第2合格エリアK、及び第3合格エリアG内にあるか否かで前輪ABSの作動の良否判定を行ない、全ての変化部e、k、gが、夫々の合格エリアE、K、G内にあるとき、前記表示手段46を介して「ABS OK」の表示を行ない、何れか一つでも合格エリアから外れている場合には前記表示手段46を介して「ABS NG」の表示を行なう。このとき更に、第1変化部e、第2変化部k、及び第3変化部gについて夫々第1合格エリアE、第2合格エリアK、及び第3合格エリアG内に一部が存在したとしても、所定時間内の許容減速度の上限を超えて外れているとき、又は下限未満に外れているときには、前記表示手段46を介して「ABS NG」の表示を行なう。
なお、第1変化部e、第2変化部k、及び第3変化部gにおいては、各変化部のピーク値が夫々第1合格エリアE、第2合格エリアK、及び第3合格エリアG内にあるか否かで前輪ABSの作動の良否判定を行なうことも考えられるが、波形によってはなだらかな曲線を描いてピーク値を採取することが困難な場合がある。こうした場合には、前輪ABSの作動が良と判定されるべきものであっても、ピーク値が採取できないために不良とされてしまうことが考えられる。そこで、ピーク値ではなく、波形の各変化部によって良否を判定することで正確な良否判定を行うことができる。
同時に、演算手段44においては、後輪R側の減速度(加速度)の波形における第1変化部eを構成する値と前輪F側の減速度(加速度)の波形における第1変化部hを構成する値との差(本実施形態においては後輪側第1変化部eに対する前輪側第1変化部hの割合)を算出し、判定手段45においてはここで算出された値が所定範囲J(後輪側第1変化部eの100%〜35%)内にあるか否かでCBSの作動の良否判定を行なう。そして、前輪側第1変化部hが、所定範囲J内にあれば前記表示手段46を介して「CBS OK」の表示を行ない、所定範囲Jから外れている場合には前記表示手段46を介して「CBS NG」の表示を行なう。
なお、本実施形態においては、前輪ブレーキと後輪ブレーキとの夫々にABSが作動し、しかも、前輪ブレーキのみの入力でCBSが作動して後輪ブレーキが連動し、後輪ブレーキのみの入力でCBSが作動して前輪ブレーキが連動する二輪自動車を検査対象とした。それ以外に、前輪ブレーキと後輪ブレーキとの夫々にABSが作動し、前輪ブレーキのみの入力ではCBSは作動せず、後輪ブレーキのみの入力でCBSが作動して前輪ブレーキが連動する二輪自動車を検査対象とすることができる。この二輪自動車を検査する場合には、前述した前輪ABS・CBS検査においてCBSの判定を省略することで容易に対応することができる。また、CBSを備えず前輪ブレーキと後輪ブレーキとの夫々にABSが作動する二輪自動車を検査する場合には、前述した前輪ABS・CBS検査におけるCBSの判定と後輪ABS・CBS検査におけるCBSの判定とを省略することで容易に対応することができる。
また、本実施形態では、前輪ABS・CBS検査及び後輪ABS・CBS検査において二輪自動車のエンジンにより後輪Rを回転駆動させたが、それに限らず、例えば、作業者が二輪自動車のギヤをニュートラルの状態として第2の後輪支持ローラ6をモータ18等によって回転駆動させてもよい。この場合には、第2の後輪支持ローラ6の駆動により所定の検査開始速度(例えば60km/h)になったとき、作業者がブレーキを入力する直前にクラッチ17をOFFとする。
また、図1及び図2を参照して、本実施形態の検査装置1は、モータ36によってボール螺子37を回転させるだけで前輪用機台9を適切な位置に移動させることができるので、二輪自動車の機種によって前輪Fと後輪Rとの間隔距離が異なる場合であっても容易に対応させることができる。
更に、モータ15は通常使用することはないが、二輪自動車の機種によってはセルモータがなく、キック及び押しがけでしかエンジン始動できない場合には、クラッチ12をONとしてモータ15によって、第2の後輪支持ローラ6及び後輪Rを介してエンジンを始動させることができるようになっている。
また、本実施形態の検査装置1においては、図示しないが、前輪及び後輪の走行状態を安定させる補助ローラや、検査する二輪自動車の排ガスを屋外に排出するダクト等が設けられている。
1…検査装置、F…前輪、R…後輪、5…第1の後輪支持ローラ(後輪支持ローラ)、6…第2の後輪支持ローラ(後輪支持ローラ)、20…第1ロータリーエンコーダ(測定手段)、22…第1の前輪支持ローラ(前輪支持ローラ)、23…第2の前輪支持ローラ(前輪支持ローラ)、31…第2ロータリーエンコーダ(測定手段)、44…演算手段、45…判定手段、a,b,c,d,e,g,h,k…変化部、A,B,C,E,G,K,I,J…所定範囲。