JP4234224B2 - 自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法および製造方法 - Google Patents

自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法および製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、円筒形状のパイプの一部を内側へ塑性変形させてキーロック用溝を形成する自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のステアリングメインシャフトとして、円筒形状のパイプの一端側を塑性変形させて小径部を形成するとともに、大径部の一部を内側へ塑性変形させることによりキーロック用の直線溝を形成したものが、特開平5−200634号公報で提案されている。キーロック用の直線溝は、溝に対応した凹部を有する芯金を大径部の内部に挿入するとともに、内周面に溝に対応した突部が設けられたダイスを大径部の外側に嵌合して軸方向へ移動させることによって形成されている。また、このようにキーロック用の直線溝を加工した後、大径部の端部を小径に絞り加工している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる従来の加工方法では、パイプの両端を小径とする塑性加工を溝加工工程の前後で行う必要があり、必ずしも効率的ではなかった。また、芯金を用いて溝加工を行っているため、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を有するパイプの大径部に溝加工を行うことはできなかった。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、芯金を使用することなくパイプの一部を内側へ塑性変形させて高い寸法精度でキーロック用溝を加工できるようにすることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、円筒形状のパイプの一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面に予め定められた設定幅寸法のキーロック用溝を軸方向に形成する自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法であって、(a) 前記パイプは、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するもので、その大径部に、溝底径がその小径部の外径と同じかそれより大きい前記キーロック用溝を形成するためのもので、 (b) その大径部の外径と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記設定幅寸法より小さい幅寸法の小幅突部が内周面に設けられた予備ダイスを、その大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、その小幅突部によりその大径部の一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面にその設定幅寸法よりも幅寸法が小さい小幅溝を形成する小幅溝加工工程と、(c) 前記予備ダイスの内径寸法と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記設定幅寸法と略等しい幅寸法の正規突部が内周面に設けられた正規ダイスを、前記小幅溝加工工程後の前記大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、その正規突部により前記小幅溝の溝幅を拡大して設定幅寸法とする正規溝加工工程とを有することを特徴とする。
【0007】
発明は、第1発明の自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法において、前記正規ダイスの内径寸法は前記予備ダイスの内径寸法より所定寸法だけ小さく、前記正規溝加工工程は、前記小幅溝加工工程後の前記大径部を縮径させながら前記小幅溝の溝幅を拡大して前記設定幅寸法とするものであることを特徴とする。
【0008】
発明は、円筒形状のパイプの一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面に所定の幅寸法のキーロック用溝を軸方向に形成する自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法であって、(a) 前記パイプは、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するもので、その大径部に、溝底径がその小径部の外径と同じかそれより大きい前記キーロック用溝を形成するためのもので、 (b) その大径部の外径より所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記幅寸法と略等しい幅寸法の突部が内周面に設けられたダイスを、その大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、その大径部を縮径させながらその突部によりその大径部の一部を内側へ突出させるように塑性変形させて前記キーロック用溝を形成することを特徴とする。
第4発明は、自動車のステアリングメインシャフトの製造方法であって、 (a) 肉厚および径寸法が一定の円筒形状のパイプを用意する工程と、 (b) そのパイプの所定範囲を塑性加工によって縮径させ、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有する段付きパイプとする工程と、 (c) その段付きパイプの大径部に、溝底径が前記小径部の外径と同じかそれより大きいキーロック用溝を第1発明〜第3発明の何れかの溝加工方法を用いて形成する溝加工工程とを有することを特徴とする。
【0009】
【発明の効果】
第1発明の自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法においては、パイプの大径部の外周側を予備ダイスで保持しつつ、その予備ダイスの内周面に設けられた小幅突部によって幅寸法が小さい小幅溝を加工した後、同じく正規ダイスで大径部の外周側を保持しつつ、その正規ダイスの内周面に設けられた正規突部により小幅溝の溝幅を拡大して設定幅寸法のキーロック用溝を形成するため、芯金を用いなくても高い寸法精度でキーロック用溝を形成できる。すなわち、大径部の外周をダイスによって保持しているため、小幅突部や正規突部との係合によって大径部が径方向に潰れる恐れがないとともに、小幅溝を加工した後その溝幅を拡大するようにしているため、設定幅寸法の溝幅で溝深さを徐々に深くする場合に比較して、溝底の両側の内角部は勿論、溝開口部の両側の角部とダイスとの間にも隙間が生じ難く、その角部をシャープにできるなど高い寸法精度が得られるのである。
【0010】
また、芯金を用いることなく高い寸法精度でキーロック用溝を加工できるため、大径部の両側に小径部を有するパイプの大径部にキーロック用溝を加工することが可能で、例えば予めパイプの両側に小径部を形成した後に中間の大径部にキーロック用溝を加工できるなど、一連の加工設計の自由度が向上する。
【0011】
また、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するパイプの大径部にキーロック用溝を加工するためのもので、芯金を使用することができないため、本発明を適用することにより、大径部に高い寸法精度でキーロック用溝を加工できるようになる。特に、大径部の両側が小径部とされているため、両端が開口しているパイプに比較して剛性が高く、一層高い寸法精度でキーロック用溝を加工できる。
【0012】
発明では、正規ダイスの内径寸法が予備ダイスの内径寸法より小さく、正規溝加工工程では、小幅溝加工工程後の大径部を縮径させながら小幅溝の溝幅を拡大して設定幅寸法とするため、縮径に対する反力で芯金が無くてもダイスと大径部との間に隙間が更に生じ難くなり、正規突部に対応した一層高い寸法精度でキーロック用溝を形成できる。
【0013】
発明は、大径部の外径より所定寸法だけ小さい内径寸法のダイスを用いて、大径部を縮径させながら突部により大径部の一部を内側へ塑性変形させてキーロック用溝を形成するもので、第発明と同様に縮径に対する反力で芯金が無くてもダイスと大径部との間に隙間が生じ難いため、突部に対応した高い寸法精度でキーロック用溝を形成できる。これにより、1段の塑性加工のみで目的とする幅寸法のキーロック用溝を形成することができる。
第4発明は、円筒形状のパイプを塑性加工によって段付きパイプとした後に、その段付きパイプの大径部に第1発明〜第3発明の何れかの溝加工方法を用いてキーロック用溝を形成するため、第1発明〜第3発明と同様の効果が得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】
ここで、小幅溝加工工程は、単一の予備ダイスを用いた1回の塑性加工だけでも良いが、小幅突部の幅寸法が異なる複数の予備ダイスを用いて複数回の塑性加工を施すことにより、小幅溝の幅寸法を徐々に大きくするようにしても良い。単一の予備ダイスに、幅寸法が段階的或いは連続的に変化する小幅突部を軸方向に設け、予備ダイスを軸方向へ相対移動させる1工程で、比較的大きな幅寸法の小幅溝を塑性加工することもできる。正規溝加工工程は、予備ダイスと別個に構成された正規ダイスを用いて別工程で行うことができるが、上記小幅突部の後に正規突部を設けて予備ダイスと正規ダイスとを一体化し、小幅溝加工工程に続いて正規溝加工工程を1工程で行うこともできる。
【0015】
予備ダイスの小幅突部の突出寸法は、形成すべきキーロック用溝の溝深さと略同じであることが望ましいが、それより小さい寸法で、正規溝加工工程において幅寸法を拡大するとともに溝深さを深くするようになっていても良い。正規ダイスの正規突部は、形成すべきキーロック用溝の溝深さと略同じ寸法で設けられる。正規ダイスの正規突部は、パイプのスプリングバックを考慮して設定することが望ましい。また、これ等の小幅突部および正規突部、或いは第発明の突部パイプに食い込む食付き側の端部には、幅寸法や突出寸法を徐々に小さくした食付き部を設けることが望ましい。
【0016】
本発明は、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するパイプの大径部にキーロック用溝を加工するもので、大径部と小径部との間には、径寸法が滑らかに変化するテーパ部を設けておくことが望ましい。
【0017】
発明では、正規ダイスの内径寸法を予備ダイスの内径寸法より小さくし、パイプの大径部を縮径させながら小幅溝の溝幅を拡大するようになっているが、小幅溝加工工程でも、大径部の外径より小さい内径寸法の予備ダイスを用いて、大径部を縮径させながら小幅溝を高い寸法精度で形成するようにしても良い。
【0018】
円筒形状のパイプの断面形状は、完全な円環形状(真円)であることが望ましいが、楕円等の多少変形した円筒形状であっても本発明は適用され得る。また、パイプに形成すべきキーロック用溝は、例えばパイプの軸心と平行な直線溝であるが、パイプとダイスとを軸方向へ相対移動させながら軸心まわりに相対回転させることにより、軸心まわりに捩じれた捩れ溝を塑性加工することもできる。
【0019】
また、本発明は、自動車のステアリングメインシャフトの製造方法に好適に適用され、例えば(a) 肉厚および径寸法が一定の円筒形状のパイプを用意する工程と、(b) そのパイプの所定範囲を塑性加工によって縮径させ、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有する段付きパイプとする工程と、(c) 該段付きパイプの大径部の外径と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、キーロック用溝の幅寸法(請求項1の設定幅寸法に相当)より小さい幅寸法の小幅突部が該キーロック用溝に対応して内周面に設けられた予備ダイスを、該大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、該小幅突部により該大径部の一部を内側へ塑性変形させて該キーロック用溝の幅寸法よりも幅寸法が小さい小幅溝を形成する小幅溝加工工程と、(d) 前記予備ダイスの内径寸法と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝の幅寸法と略等しい幅寸法の正規突部が該キーロック用溝に対応して内周面に設けられた正規ダイスを、前記小幅溝加工工程後のパイプの外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、該正規突部により前記小幅溝の溝幅を拡大して目的とする幅寸法とする正規溝加工工程とを有して製造される。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(a) はステアリングメインシャフト10の正面図を示しており、図1(b) は図1(a) の b−b 断面図を示している。図において、ステアリングメインシャフト10は中空の円筒形状を成しているとともに、中央部の大径部12を挟んで軸方向の両側に一対の小径部14、15を備えている。大径部12と小径部14、15との間には、径寸法が滑らかに変化するテーパ部16、17がそれぞれ設けられており、大径部12には、軸心と平行に直線状の一対のキーロック用溝20が設けられている。このキーロック用溝20の溝底径は小径部14、15の外径よりも少し大きい。また、小径部14、15の先端部にはそれぞれセレーション部18、19が設けられている。なお、本実施例のステアリングシャフト10の全長Lは400mmで、大径部12の外径は28.0mm、小径部14、15の外径は19.0mm、キーロック用溝20の幅寸法(設定幅寸法)Wは9.0mm、溝深さ(溝中央における溝底から大径部12の外周面の延長円弧面までの寸法)Dは3.3mmである。
【0021】
図2はステアリングメインシャフト10の各製造工程を(a) 〜(c) に渡って順次示す図である。図2において、(a) 工程では、肉厚t=2.6mm〜2.8mm程度で径寸法φ=28.0〜29.0mm程度の断面形状が略真円のパイプ24を用意する。パイプ24としては、例えば機械構造用炭素鋼鋼管(STKM15C)などが用いられ、製品長さL=400mmよりも5〜10mm程度短く切断するとともに、焼鈍、ボンデ処理を施して加工性を良好にした。なお、機械構造用炭素鋼鋼管としてSTKM15Aを用いた場合は、ボンデ処理のみでも可能である。
【0022】
次に(b) 工程では、図3に示される成形型30、31を用いてパイプ24の両端部を塑性加工によって縮径させることにより、大径部12を挟んで軸方向の両側に一対の小径部14、15を一体に有する段付きパイプ26を成形する。この段階でパイプ24は軸方向に延ばされて製品長さより若干長い段付きパイプ26となる。図3の成形型30、31において、符号90〜94で示される各成形面の内径寸法はそれぞれφ28、φ19、φ16、φ12、φ18に設定されており、これらの成形型30、31は加工材料であるパイプ24の両端部に両側から嵌合され、冷間で軸方向へ押し込むことによりスウェージング鍛造を施して目的形状に成形する。成形型30、31のみでパイプ24を段付きパイプ26に鍛造成形することもできるが、複数の成形型を用いて複数段のスウェージング鍛造を施すことにより段階的に目的形状とするようにしても良い。なお、必要に応じて熱間鍛造を行うようにしても良いし、外周側からパイプ24を押圧して縮径させるなど他の鍛造成形方法を採用することもできる。
【0023】
図2の(c) 工程では、その段付きパイプ26の中央部の大径部12に、パイプの軸心と平行な直線状の一対のキーロック用溝20を成形することにより、ステアリングメインシャフト10が製造される。図4〜図6は、(c) 工程で使用する第1予備ダイス36、第2予備ダイス44、及び正規ダイス50をそれぞれ示す図で、何れも(b) は(a) のb−b断面図、(a) は(b) の左側から見た正面図である。
【0024】
図4に示す第1予備ダイス36は、上記段付きパイプ26の大径部12の外径と略等しい内径寸法(28.0mm)を有する円筒状の部材で、前記キーロック用溝20の設定幅寸法W=9.0mmより小さい6.0mm程度の幅寸法で且つその溝深さDと略等しい3.3mm程度の突出し寸法を有する一対の第1小幅突部38が相対向する内周面に設けられており、一対の第1小幅突部38の食付き側には、内周面に対して15°程度の角度で傾斜する第1食付き部42がそれぞれ設けられている。また、第1小幅突部38および第1食付き部42の角部、すなわち図で符号70、71、72、73で示される各凹凸部分には、それぞれ曲率半径R5、R5、R2、R3でR付けが施されている。
【0025】
図5に示す第2予備ダイス44は、内径が28.0mm程度の円筒状の部材で、キーロック用溝20の設定幅寸法Wより小さく上記第1小幅突部38の幅寸法より大きい7.0mm程度の幅寸法で且つキーロック用溝20の溝深さDと略等しい3.3mm程度の突出し寸法を有する一対の第2小幅突部46が相対向する内周面に設けられている以外は、第1予備ダイス36と略同じ形状を有し、第2小幅突部46の食付き側には第2食付き部49が設けられている。第2食付き部49の幅寸法は、第2小幅突部46から離間する前側へ向かうに従って両側から略対称的に滑らかに(直線的に)狭くされ、その前端部では前記第1予備ダイス36の第1小幅突部38の幅寸法(6.0mm)より狭くなっている。また、第2小幅突部46および第2食付き部49の角部、すなわち図で符号74、75、76、77で示される各凹凸部分には、それぞれ第1予備ダイス36よりも小さな曲率半径R3、R3、R1.5、R2でR付けが施されている。
【0026】
なお、図示は省略するが、幅寸法が8.0mm程度で突出し寸法が3.3mm程度の第3小幅突部を有する第3予備ダイスも用意されている。
【0027】
図6に示す正規ダイス50は、内径が28.0mm程度の円筒状の部材で、キーロック用溝20の設定幅寸法Wと略等しい9.0mm程度の幅寸法で且つキーロック用溝20の溝深さDと略等しい3.3mm程度の突出し寸法を有する一対の正規突部52が相対向する内周面に設けられている以外は、第1予備ダイス36や第2予備ダイス44と略同じ形状を有し、正規突部52の食付き側には正規食付き部56が設けられている。正規食付き部56の幅寸法は、正規突部52から離間する前側へ向かうに従って両側から略対称的に滑らかに(直線的に)狭くされ、その前端部では前記第3予備ダイスの第3小幅突部の幅寸法(8.0mm)より狭くなっている。また、正規突部52および正規食付き部56の角部、すなわち図で符号78、79、80、81で示される各凹凸部分には、それぞれ曲率半径R3、R3、R0.7〜0.8、R0.5でR付けが施されている。
【0028】
図7(a) 〜(c) は、第1予備ダイス36、第2予備ダイス44、及び正規ダイス50により、上記段付きパイプ26に順次幅寸法を押し広げて成形される溝をそれぞれ示している。図7において、(a) の第1小幅溝加工工程では、第1予備ダイス36を第1食付き部42側から段付きパイプ26の大径部12の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、第1小幅突部38により大径部12を内側へ塑性変形させて、キーロック用溝20の設定幅寸法Wよりも小さい幅寸法で且つその溝深さDと略等しい溝深さを有する第1小幅溝40が形成される。次に、(b) の第2小幅溝加工工程では、第2予備ダイス44を用いて(a) と同様の押出し加工を行うことにより、第1小幅溝40の幅寸法が僅かに押し広げられた第2小幅溝48が形成される。そして、図示しない第3予備ダイスを用いて第2小幅溝48の溝幅が更に拡大され、最後に(c) の正規溝加工工程において、正規ダイス50を用いて(b) と同様の押出し加工を行うことにより、溝幅が更に押し広げられて目的とする設定幅寸法Wのキーロック用溝20が形成される。このようにして形成されたキーロック用溝20は加工硬化によりHv230〜240程度に強度が向上しており、ロック部材として十分な機能が果たせるようになっている。
【0029】
上述のように本実施例によれば、段付きパイプ26の大径部12の外周側を第1予備ダイス36で保持しつつ、その第1予備ダイス36の内周面に設けられた第1小幅突部38によってキーロック用溝20よりも小さな幅寸法を有する第1小幅溝40を加工した後、第2予備ダイス44、図示しない第3予備ダイス、および正規ダイス50により同様の加工を行うことにより、溝幅を徐々に拡大して設定幅寸法Wのキーロック用溝20を形成するため、芯金を用いなくても高い寸法精度でキーロック用溝20を形成できる。すなわち、段付きパイプ26の大径部12の外周を各ダイス36、44、50によって保持しているため、第1小幅突部38や第2小幅突部46、正規突部52との係合によって大径部12が径方向に潰れる恐れがないとともに、第1小幅溝40を加工した後でその溝幅を拡大するようにしているため、設定幅寸法Wの溝幅で溝深さを徐々に深くする場合に比較して、溝底の両側の内角部48a、20aは勿論、溝開口部の両側の角部48b、20bと各ダイス44、50との間にも隙間が生じ難く、その角部をシャープにできるなど高い寸法精度が得られるのである。
【0030】
また、このように芯金を用いることなく高い寸法精度でキーロック用溝20を加工できるため、本実施例のように図2の(b) の工程で大径部12の両側に小径部14、15を形成した後に、その大径部12にキーロック用溝20を加工できるようになり、一連の加工設計の自由度が向上する。大径部12の両側にテーパ部16、17を介して小径部14、15が設けられていることから、両側が開口している場合に比較して剛性が高く、一層高い寸法精度でキーロック用溝20を形成できる。
【0031】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用され得るものである。
【0032】
例えば、前述の実施例においては、第1予備ダイス36、第2予備ダイス44、及び正規ダイス50の内径寸法は何れも大径部12の外径と略同じ寸法であったが、前記パイプ24としてステアリングメインシャフト10の大径部12よりも大径、例えばφ29〜30程度のものを用意するとともに、図2(b) のスウェージング鍛造工程では、大径部12よりも径寸法が大きい大径部を中間部分に残し、図2(c) で予備ダイスおよび正規ダイスを用いて段階的に溝幅を広げながらキーロック用溝20を加工する際に、それらのダイスの内径寸法を段階的に小さくして大径部の外径を段階的に縮径し、目的とする外径寸法の大径部12とするようにしても良い。
【0033】
図8は、上記のようにキーロック用溝20を加工する際に大径部の外径を縮径させる場合に用いられる正規ダイス60の一例を示す図で、その内周面には大径部70、テーパ部72、小径部74が設けられているとともに、その小径部74には、軸心に対して対称位置に一対の正規突部64が設けられ、テーパ部72には正規突部64に連続して正規食付き部62が設けられている。小径部74の内径寸法は、目的とする大径部12の外径寸法と同じ28.0mmで、大径部70の内径寸法は、前段階である小幅溝加工工程で使用する予備ダイスの内径寸法より僅かに大きい寸法であり、小幅溝加工工程後の段付きパイプが図8(b) の左側から挿入されることにより、テーパ部72において目的とする径寸法(φ28)まで大径部を縮径させながら正規食付き部62により溝幅を拡大して設定幅寸法Wのキーロック用溝20を形成する。図8の(b) は(a) のb−b断面図で、(a) は(b) の左側から見た正面図である。
【0034】
このように縮径させながら溝幅を拡大するようにすれば、縮径に対する反力で芯金が無くても正規ダイス60と段付きパイプとの間に隙間が生じ難いため、正規突部64に対応した高い寸法精度でキーロック用溝20を形成できる。
【0035】
上記正規ダイス60による加工は、請求項に記載の発明の一実施例に相当するが、請求項に記載の発明の一実施例でもある。また、このように高い寸法精度で溝を加工できることから、条件によっては小幅溝加工工程を行うことなく、正規ダイス60の大径部70の径寸法を溝加工前の大径部の外径寸法より大きくすることにより、1段の塑性加工のみで目的とする設定幅寸法Wのキーロック用溝20を加工することも可能である。なお、大径部の縮径寸法は極小さくて充分であり、縮径に伴う軸方向の伸びは殆ど無視できる程度であるが、この軸方向の伸びを考慮して溝加工前の大径部の長さ寸法を設定するようにしても良い。
【0036】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法に従ってキーロック用溝が設けられたステアリングメインシャフトの一例を示す図であって、(a) は正面図、(b) は(a) の b−b 断面図である。
【図2】図1のステアリングメインシャフトの各製造工程を示す図であって、(a) は材料となるパイプ、(b) はパイプに塑性加工を行って形成される段付きパイプ、(c) は段付きパイプにキーロック用溝を形成したステアリングメインシャフトをそれぞれ示している。
【図3】図2の(b) 工程で用いられる成形型を示す断面図である。
【図4】図2の(c) 工程で用いられる第1予備ダイスを示す図であって、(a) は正面図、(b) は(a) の b−b 断面図である。
【図5】図2の(c) 工程で用いられる第2予備ダイスを示す図であって、(a) は正面図、(b) は(a) の b−b 断面図である。
【図6】図2の(c) 工程で用いられる正規ダイスを示す図であって、(a) は正面図、(b) は(a) の b−b 断面図である。
【図7】図4〜図6のダイスで形成される溝の断面形状を示す図で、(a) は図4の第1予備ダイスにより形成される第1小幅溝、(b) は図5の第2予備ダイスにより形成される第2小幅溝、(c) は図6の正規ダイスにより形成されるキーロック用溝をそれぞれ示している。
【図8】本発明の他の実施例である正規ダイスを示す図であって、(a) は正面図、(b) は(a) の b−b 断面図である。
【符号の説明】
12:大径部
14、15:小径部
20:キーロック用
26:段付きパイプ(パイプ)
36:第1予備ダイス(予備ダイス)
38:第1小幅突部(小幅突部)
40:第1小幅溝(小幅溝)
44:第2予備ダイス(予備ダイス)
46:第2小幅突部(小幅突部)
48:第2小幅溝(小幅溝)
50:正規ダイス
52:正規突部
60:正規ダイス(ダイス)
64:正規突部(突部)
W:設定幅寸法

Claims (4)

  1. 円筒形状のパイプの一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面に予め定められた設定幅寸法のキーロック用溝を軸方向に形成する自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法であって、
    前記パイプは、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するもので、該大径部に、溝底径が該小径部の外径と同じかそれより大きい前記キーロック用溝を形成するためのもので、
    該大径部の外径と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記設定幅寸法より小さい幅寸法の小幅突部が内周面に設けられた予備ダイスを、該大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、該小幅突部により該大径部の一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面に該設定幅寸法よりも幅寸法が小さい小幅溝を形成する小幅溝加工工程と、
    前記予備ダイスの内径寸法と略同じか所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記設定幅寸法と略等しい幅寸法の正規突部が内周面に設けられた正規ダイスを、前記小幅溝加工工程後の前記大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、該正規突部により前記小幅溝の溝幅を拡大して該設定幅寸法とする正規溝加工工程と
    を有することを特徴とする自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法。
  2. 前記正規ダイスの内径寸法は前記予備ダイスの内径寸法より所定寸法だけ小さく、前記正規溝加工工程は、前記小幅溝加工工程後の前記大径部を縮径させながら前記小幅溝の溝幅を拡大して前記設定幅寸法とするものである
    ことを特徴とする請求項1に記載の自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法。
  3. 円筒形状のパイプの一部を内側へ突出させるように塑性変形させて、外周面に所定の幅寸法のキーロック用溝を軸方向に形成する自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法であって、
    前記パイプは、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有するもので、該大径部に、溝底径が該小径部の外径と同じかそれより大きい前記キーロック用溝を形成するためのもので、
    該大径部の外径より所定寸法だけ小さい内径寸法で、前記キーロック用溝に対応して前記幅寸法と略等しい幅寸法の突部が内周面に設けられたダイスを、該大径部の外周側に嵌合して軸方向へ相対移動させ、芯金を用いることなく、大径部を縮径させながら該突部により該大径部の一部を内側へ突出させるように塑性変形させて前記キーロック用溝を形成する
    ことを特徴とする自動車のステアリングメインシャフトの溝加工方法。
  4. 自動車のステアリングメインシャフトの製造方法であって、
    肉厚および径寸法が一定の円筒形状のパイプを用意する工程と、
    該パイプの所定範囲を塑性加工によって縮径させ、大径部を挟んで軸方向の両側に小径部を一体に有する段付きパイプとする工程と、
    該段付きパイプの大径部に、溝底径が前記小径部の外径と同じかそれより大きいキーロック用溝を請求項1〜3の何れか1項に記載の溝加工方法を用いて形成する溝加工工程と
    を有することを特徴とする自動車のステアリングメインシャフトの製造方法。
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