JP4233726B2 - 電気接点安定性に優れた金属箔 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子機器のキーパッドやタクトスイッチなどに用いる金属製皿ばね用の素材、あるいは電気信号伝送系に用いるケーブル端子台などに用いる、電気接点安定性に優れた金属箔に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
小型軽量化が究極化しつつある携帯電話機器のキーパッドや各種電子機器のタクトスイッチ類には、押したときにシャープなクリック感のあることが必要なため、プリント回路基板やスイッチ基板上に形成された金属のパターンに直接接触させたり離したりすることによりその開閉を行う、薄くて電気伝導性のある金属製皿ばねが用いられている。
【0003】
携帯電話や各種の電子機器で用いられるキーパッドやタクトスイッチの主な機能は、付随するマイクロプロセッサーやデジタル回路等に電位信号を送ることにある。ここで、電気接点安定性の悪いスイッチを押して閉状態とすると、接点部での抵抗変化等によりHi電位とLo電位の敷居値を超えて電圧変動が生じ、キーを押した回数を誤認識することとなる。つまりこの種類のスイッチは、閉にしたときの電圧変動が微小であることが必須条件となる。
【0004】
電気信号伝送系におけるケーブル端子台は、従来からねじ止め式のものが広く使われていたが、近年はケーブル接続の簡便性を求めて、バネ性のあるリボン状金属を用いて押し付け接触させるタイプが使われ始めている。このような端子での電気接点安定性が損なわれるとノイズ発生の原因になり、種々の不具合が生ずる。
【0005】
電気接点用金属製ばね用素材には、従来からばね性の高いリン青銅やSUS301ステンレス鋼が用いられてきたが、これらの金属箔から加工した皿ばねをスイッチとしたとき、電気接点安定性が十分に得られない問題から、金、銀、ニッケルなどのメッキをして用いられてきた。
【0006】
その公知例としては、特開昭63−137193号公報に開示された「電子部品用ステンレス接点材料およびその製造方法」において、ステンレス基材表面に夫々特定厚のNiめつき、Cuめつき、Niめつき及びAu合金めつきを順次施すことにより、耐食性、耐摩耗性及びバネ性に優れた電子部品用ステンレス接点材料を製造する方法が開示されている。
【0007】
その具体的方策は、まずステンレス基材を陰極にして、NiCl2 及び遊離HClを含む電解液を用いて電解し、0.05〜0.5μm厚のNiめつきを施して、後のCuめつきの密着性の向上を図る。次いでその上にCuSO4 及び遊離H2 SO4 を含む電解液を用いて電解し、2〜50μm厚のCuめつきを施して電気伝導性を付与する。次にその上にNiSO4 とNiCl2 を含む電解液を用いて電解し、0.1〜5μm厚のNiめつきを施して、上記Cuめつきを保護する。
【0008】
その後、KAu(CN)2 と、スルフアミン酸のAu以外のNi,Co等の金属塩を含む電解液を用いて電解し、0.05〜1μm厚のAu合金めつきを施して、接点部分の耐摩耗性と耐食性の向上を図るものである。
しかしこの方法は、上記のように複雑なプロセスを必須としており高価なため、接点部分のみに部分めつきするのが好ましいとされている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、バネ性を有する金属を裸で電気接点材料として用いると、接点での電気的安定性が損なわれるため、従来は酸化皮膜が形成し難い金、銀、ニッケルなどのメッキを施すことが通常であったが、必然として素材コストが高くなる欠点があった。
本発明は、このようなメッキ工程を省略してコスト低減することにあり、そのためにメッキすることなく電気接点安定性に優れた金属箔を提供することを目的とする。
【0010】
バネ性を有する金属としては、リン青銅やステンレス鋼が当該スイッチ用材料として用いられているが、これらの金属は大気中に曝されると自然に形成する酸化皮膜により接触抵抗が発生する。また、これまでは平滑な金属面を相手金属に押し当てる形で電気的接触を実現していたため、単位面積当たりの接触点密度が低く、ほんの僅かな振動などにより酸化皮膜を介した接触状況に変化が生じ、その結果、接触抵抗の大幅かつ急激な変化が起こり、電気接点安定性を損なうこととなっていた。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような事情に鑑み、金属表面に生ずる極く薄い酸化皮膜は自然現象として制御し難いことと、酸化皮膜が存在していても押し付け圧を強くすることで電気接点の安定性が向上することなどから、単位面積当たりの接触点密度を増大すれば軽度の押し付け圧でも電気接点安定性を実現でき、そのためには、表面粗さにおいて凸凹の平均間隔と算術平均粗さRaの比率が重要になるという知見を基に、本発明を完成させたものである。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)素材がステンレス鋼もしくはリン青銅であって、その表面は、凸凹の平均間隔Smが最小となる方向への粗さ測定により得られた算術平均粗さRaと凸凹の平均間隔Smの比率Ra/Smが0.001以上となる表面粗さを有することを特徴とする、表面にめっき層のない電気接点安定性に優れた、厚さ0.3mm以下の金属箔。
【0013】
【発明の実施の形態】
電気接点に用いられる素材には、通常バネ性を発現するよう冷間で調質された厚さ0.3mm以下の金属箔が用いられる。キーパッドやタクトスイッチは、この素材を円盤状に切断して皿状に湾曲させた部品を、押し付けたとき閉状態となるようプリントされた金、銀、またはニッケルメッキされた基板上の銅箔回路パターンの上に配置し、操作する指が電気的導通部と絶縁されることや、手触り感をよいものとするなどを目的として、樹脂カバーや、ゴム部品とケーシング部品が装着されて形成される。
【0014】
また、配線用端子においても装着作業の簡便性を考慮し、従来のねじ止め方式から、リボン状スプリングを押し付ける方式のものへと変わりつつある。いずれの電気接点においても、接点安定性は電気的接触部からのノイズ発生を抑制し、電気信号を正確に他のコンポーネントに伝える上で重要な因子の一つである。特に軽量化・極小化が進む電子機器分野において、より薄い接点用金属により軽い押し付け圧でも電気接点の安定性が発現することが必須条件となる。
【0015】
本発明者らは、このような技術的条件の評価法として、直径3mmの棒状銅の先端を球面加工し、ニッケルストライクメッキした後、金メッキして球面電気接触素子を作成し、荷重が0.05g(0.49mN)となるよう金属箔上に押し付けて、両者間の電圧変化を測定する手法を確立した。
【0016】
この手法における電気回路は、電源に乾電池を用いて金属箔をグラウンドとして、電圧制御回路と抵抗を介して両者の非接触時に球面電気接触素子が1.8Vの電位となるよう配線してある。上述の条件で金属箔と球面電気接触素子を接触させると、接触部の電気抵抗はゼロに近い値となるため、印加電圧の殆どの割合が電圧制御回路と球面電気接触素子間の抵抗にかかるため、球面電気接触素子の電位はグラウンド電位に近い値を示す。
【0017】
このとき金属箔の電気接点安定性が高いと、球面電気接触素子の電位は変動がなく事実上0Vとして推移するが、電気接点安定性が悪い場合は測定される電位が時間と共に変化し、外来の極く僅かな振動などによってスパイク状の電位変動なども生ずる。後者のような状態は、デジタル回路の場合、一回のLo電圧信号であるべきところが多数回の信号として電子回路に伝えることとなり、またオーディオ回路や伝送回路の場合はノイズの発生として障害の原因となる。
【0018】
今回の試験法は軽い押し付け圧条件で行っており、実際の電子製品の接点条件よりは厳しい条件であるが、この条件でメッキをしなくとも電気接点安定性を実現できる金属箔を表面形態制御により試作して、その信頼性を評価するには妥当であると判断した。
この方法で接触時における電位変動が50mV以下の範囲内に入るものを良好材(○)、それを超えて電位変動を起こすものを不良材(×)と仕分けして評価を行った。以下実施例において示すように、算術平均粗さRaと凸凹の平均間隔Smの比が0.001以上であれば接点不良がなく、0.001未満では接点不良を起こすことがある。
【0019】
【実施例】
以下、実施例をもとに本発明をさらに説明する。
表1は母材をステンレス、表2はリン青銅とした評価結果の一覧である。これらの表には、素材表面の粗さ測定結果としてJIS規格(JIS B 0601−1994)で定める算術平均粗さRa、および凸凹の平均間隔Smおよびその比率としてRa/Smをリストした。
【0020】
表面粗さ測定は、接触式表面粗さ測定機(東京精密 (株) 製サーフコム1400A−3D)を用い、接触端子走査方向は凸凹の平均間隔Smが最小となる方向として、4mmの長さ区間の凹凸データを採取し、これをもとに上述の評価値を求めた。
【0021】
素材表面の凹凸は、ダルロール、エンボスロールなどにより圧延で加工したり、研削材を用いて研摩したり、シリコンカーバイド紙によりコイルグラインドしたり、ブラスト処理で表面を研掃したりして付与したが、いずれも量産が可能な低コスト化可能な方法である。
【0022】
表1および表2のいずれにおいても、Ra/Smが0.001以上であれば電気接点安定性のある材料となっていることがわかる。従って、本発明の妥当性および有効性が実証された。
ここで、算術平均粗さRaは定義により凹凸の高さに対応した値であり、凸凹の平均間隔Smは周期に対応した値と解釈されることから、単位面積当たりの接触点密度を増大させることで、多少の酸化皮膜の存在を許容しても電気接点安定性を実現しうるという本発明の基本思想が妥当なものであったことを示しているといえる。
【0023】
【表1】
Figure 0004233726
【0024】
【表2】
Figure 0004233726
【0025】
【発明の効果】
上記のとおり本発明によれば、軽量・小型化への技術開発が進んでいる電子機器製品において、スイッチ素子や端子類などの電気接点安定性を、メッキ工程を経ずに良好化することができ、電気接点安定性に優れた金属箔を提供できるので、電子機器の低コスト化に寄与でき、従って産業上の価値が極めて高い。

Claims (1)

  1. 素材がステンレス鋼もしくはリン青銅であって、その表面は、凸凹の平均間隔Smが最小となる方向への粗さ測定により得られた算術平均粗さRaと凸凹の平均間隔Smの比率Ra/Smが0.001以上となる表面粗さを有することを特徴とする、表面にめっき層のない電気接点安定性に優れた、厚さ0.3mm以下の金属箔。
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