JP4232555B2 - 容器用樹脂被覆金属板およびその製造方法 - Google Patents

容器用樹脂被覆金属板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として、食品缶詰の缶胴及び蓋に用いられる樹脂被覆金属板及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、製缶後の意匠性、成形性及び密着性に優れる容器用樹脂被覆金属板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、消費者の購買意欲を高める観点から、食缶の外面は意匠性を高めるために光輝性のある金色の色調を呈することが多く、金色の色調を呈する目的で、従来、食缶に用いられる金属缶用素材であるティンフリースチール(TFS)およびアルミニウム等の金属板には塗装が施されていた。
【0003】
しかしながら、上記塗装を施す技術は、焼き付け工程が複雑であるばかりでなく、多大な処理時間を必要とし、さらには多量の溶剤を排出するという問題を抱えている。そこで、これらの問題を解決するため、加熱した金属板に熱可塑性樹脂フィルムを積層する方法が数多く提案されている。
【0004】
例えば、意匠性について言及したものとして、特許文献1には、白色顔料を添加した熱可塑性樹脂フィルムを金属板にラミネートする技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、白色顔料を添加したフィルムの表面に印刷を施す技術が記載されている。
【0006】
特許文献3には、ポリエステルフィルムの一面に染料および顔料をコ−ティングまたは混練した二軸延伸ポリエステルフィルムが記載されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−11211号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平10−34824号公報
【0009】
【特許文献3】
特開2003−26823号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献1では、単に白色顔料を添加して金属板の下地を隠蔽するのみで、光輝性のある色調は得られず、製缶メーカーのニーズには対応できない。
【0011】
特許文献2では、印刷設備、乾燥焼付けオーブン設備などを付加する必要があり、大幅な製造コストの増大をもたらすことになる。
【0012】
特許文献3では、顔料が溶出してしまう場合はあり、フィルム製造に支障をきたす。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、製缶後の意匠性、成形性及び密着性に優れた容器用樹脂被覆金属板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、▲1▼イソインドリノン系顔料とキノフタロン系顔料を、ポリエステルを主体とするフィルムに特定の割合で添加することで、光輝性のある金色を呈すとともに、▲2▼顔料を少量含むバリアー層をある一定の条件下で形成させ、ポリエステルを主体とするフィルムを複層構造とすることで拡散障壁機能を持たせ、結果として、製缶後の意匠性、成形性及び密着性に優れた容器用樹脂被覆金属板が得られることを見出した。
【0015】
本発明はかかる知見に基づきなされたもので、以下のような構成を有する。
【0016】
[1]ポリエステルを主成分とする複層構造の樹脂層を少なくとも金属板の片面に形成した容器用樹脂被覆金属板であって、前記樹脂層は、下層に、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を、上層に、膜厚1.5μm以上、下記条件を満足するイソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を有し、前記樹脂層中のトータルのイソインドリノン系顔料添加量あるいはキノフタロン系顔料の添加量が前記樹脂層に対して、0.1重量%以上2.0重量%未満であり、前記樹脂層中のイソインドリノン系顔料とキノフタロン系顔料の添加量の重量比が2:1〜6:1であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
下層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度>上層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度
【0018】
]上記[1]おいて、前記ポリエステルが、固体高分解能NMRによる構造解析における1、4配位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが150msec以上である二軸延伸ポリエステルであることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
【0019】
]上記[1]または[2]において、樹脂層の面配向係数が0.02以上0.06以下であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
【0020】
]上記[1]ないし[]において、前記イソインドリノン系顔料及びキノフタロン系顔料の粒子径が1μm未満であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
【0021】
]上記[1]ないし[]において、前記下層の膜厚が3μm以上であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
【0022】
]上記[1]ないし[]において、樹脂層の膜厚が5〜30μm以上であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
【0023】
]金属板表面に樹脂層を熱融着させることにより、上記[1]ないし[]に記載の容器用樹脂被覆金属板を製造するにあたって、熱融着被覆時に樹脂層の受ける温度履歴として、樹脂層の融点以上の温度で接している時間を1〜20msecの範囲とすることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明のベ−スとなる金属板は、缶用材料として広く使用されているアルミニウム板や軟鋼板等を用いることができ、特に下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(いわゆるTFS)等が最適である。TFSの金属クロム層、クロム水酸化物層の付着量については、特に限定されないが、加工後密着性、耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は70〜200mg/m2、クロム水酸化物層は10〜30mg/m2の範囲とすることが望ましい。
【0026】
本発明の金属板の少なくとも片面に形成する樹脂層は、ポリエステルを主成分とし、複層構造とする。
【0027】
樹脂の主成分であるポリエステルとしては、ジカルボン酸とグリコール成分とからなるポリマーであり、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン酸ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等を用いることができ、中でも好ましくはテレフタル酸、フタル酸を用いることができる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等が挙げられるが、中でもエチレングリコールが好ましい。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用しても良い。また、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、結晶核剤等を配合できる。
【0028】
以上よりなるポリエステルは、引張強度、弾性率、衝撃強度等の機械特性に優れるとともに極性を有するため、これを主成分とすることで樹脂層の密着性、成形性を容器加工に耐え得るレベルまで向上させるとともに容器加工後の耐衝撃性を付与させることが可能となる。
【0029】
更に、本発明で樹脂層の主成分として用いられるポリエステルは、固体高分解能NMRによる構造解析における1,4配位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが150msec以上である二軸延伸ポリエステルであることが好ましい。二軸延伸フィルムは未延伸フィルムに比べて優れた特徴をもち、引張強度、引裂強さ、衝撃強さ、水蒸気透過性、ガス透過性などの性質が著しく向上するためである。
【0030】
ここで、緩和時間T1ρは分子運動性を表すものであり、緩和時間T1ρを増加するとフィルム内の非晶部の拘束力が高まる。二軸延伸フィルムの状態において、1,4配位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが増加すると、前記部位の分子整列性を制御し結晶構造にも似た安定構造を形成し、これによって、成形時における非晶部分の結晶化を抑制できるようになる。すなわち、非晶部の運動性が低下し、結晶化のための再配向挙動が抑制されるようになる。緩和時間T1ρを150msec以上とすることで、上記の優れた効果を十分に発揮できるようになり、被覆後に高度の加工が行われる場合であっても、優れた成形性、耐衝撃性が得られるようになる。好ましくは、緩和時間T1ρは、180msec以上、より好ましくは200msec以上である。
【0031】
緩和時間T1ρを150msec以上にする方法としては、例えば、樹脂層製造時に縦延伸工程で高温予熱法、高温延伸法を組み合わせて採用することにより可能であるが、特に限定されるものでない。原料の固有粘度、触媒、ジエチレングリコール量や延伸条件、熱処理条件などの適正化によっても可能である。樹脂層製造時の縦延伸の予熱温度としては、90℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上である。また延伸温度は105℃以上が好ましく、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上である。
【0032】
さらに、前記ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルが好ましく、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであることが加工性、耐衝撃性の点から望ましい。また95モル%以上とすれば、より一層の特性向上が可能なため更に望ましい。
【0033】
本発明の容器用樹脂被覆金属板は、以上のようなポリエステルを主成分とし、複層構造の樹脂層を少なくとも金属板の片面に形成したものであり、前記樹脂層は、下層に、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を、上層に、膜厚1.5μm以上、下層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度>上層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度の条件を満足する、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を有する。以下に複層構造について説明する。
【0034】
樹脂被覆金属板に光輝性のある金色の発色を与えるためには、ポリエステル樹脂層中にイソインドリノン系顔料及びキノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を形成することが必要であり、本発明では前記樹脂層を複層構造の下層とする。前記顔料は、黄色を呈するが、透明性を有するため、金属板の光沢を利用して、効率よく金色の光輝色を得ることを可能とする。
【0035】
一般的に、透明度の高い着色を施す方法として油溶性染料を用いる方法が知られているが、これらの欠点の一つとして移行性(着色された樹脂からの色材の溶出)が挙げられる。これは、油溶性染料が被着色樹脂中に溶解しているため、レトルト殺菌処理のような熱履歴をうけると、樹脂表面へ浮き出す現象(ブリーディング)である。しかし、本発明で用いられる顔料系色材は、一般的に粒子として樹脂中に存在するため、移行性の程度を大幅に抑制することが可能となる。
【0036】
黄色顔料としては、ジスアゾ系顔料の使用が知られているが、ジスアゾ系顔料(ピグメントイエロー12、13、14、17、55、83、87など)は熱処理をうけると発ガン性を有するジクロロベンジジンに分解するため、ジスアゾ系顔料を食缶用途へ用いるのは、安全面や環境面から好ましくない。それに対し、本発明で用いられるイソインドリノン系およびキノフタロン系顔料は、発ガン性を示す分解生成物を生じることが無く、優れた色調を得ることができるため、食缶用途に好適である。
【0037】
また、上記顔料が添加された下層の膜厚は、3μm以上であることが意匠性の観点から望ましい。3μm未満であると、膜厚に対する添加量が過度となり、顔料の分散性が乏しく、透明性に欠けた樹脂層となってしまう場合がある。
【0038】
前述の通り、本発明で用いる樹脂層の構成としては、少なくとも2層以上から構成される複層構造であることが必要であり、顔料を添加した下層の上に、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層(以下、バリアー層と称す)を、下層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度>上層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度となるように、膜厚1.5μm以上形成する。このようなバリアー層を、顔料の添加量の高い下層の上に形成することで、レトルト処理過程での顔料のブリーディングを確実に抑制することが可能となる。顔料のブリーディングは、ポリエステル樹脂内の拡散現象であることから、顔料の添加量の少ない層すなわちバリアー層が拡散障壁として機能し、顔料の樹脂層表面への移動を妨げるためである。従って、バリアー層中の顔料添加量は少なくすることが望ましいが、色調を重視する場合は、添加量を増加する必要があり、両特性を満足する領域として、下層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度>上層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度に規定した。
【0039】
ここで、バリアー層の厚みは1.5μm以上とする。現在、食缶に施されるレトルト処理の熱履歴が、120℃以上で1時間以上にも及ぶことを考慮すると、1.5μm未満では顔料の溶出が懸念される。
【0040】
さらに、本発明で用いる樹脂層中のトータルのイソインドリノン系顔料添加量あるいはキノフタロン系顔料の添加量は、樹脂層に対して、0.1重量%以上2.0重量%未満であ。添加量が0.1%未満であると発色が乏しく、不適である。逆に添加量が2.0%以上となると、透明性が乏しくなり光輝性に欠けた色調となる可能性がある。また、樹脂層中のイソインドリノン系顔料とキノフタロン顔料の添加量の重量比は2:1〜6:1であ。添加量がこの範囲外であると、金色の色調を呈し難くなるためである。
【0041】
イソインドリノン系およびキノフタロン系顔料粒子径としては、1μm未満であることが好ましい。1μm以上であるとポリエステル樹脂の透明性が失われる可能性があるため、好ましくない。また、分散剤として、ステアリン酸マグネシウムなどの高級脂肪酸金属塩を用いことができる。分散剤として、ステアリン酸マグネシウムなどの高級脂肪酸金属塩を用いると、より均一かつ透明性の高い色調を得ることができる。
【0042】
さらに、本発明で用いる、金属板上に被覆された後の樹脂層の構造としては、面配向係数で0.02以上0.06以下であることが望ましい。0.02未満であると、ポリエステル樹脂層中の配向成分が少ないため、耐衝撃性に劣る。このため、缶を誤って落下した際など樹脂が割れ易く耐食性が著しく劣化してしまう。一方、0.06超となると、配向成分が過度に多いため、加工性が乏しくなり、食缶への製缶が困難となってしまう場合がある。
【0043】
また、樹脂層全体の厚みとしては、特に規定するものではないが、5〜30μmであることが望ましく、さらに好ましくは10〜20μmである。
【0044】
また、本発明で用いる樹脂層の複層構造としては、2層構造に限定されるものではない。例えば、金属板と密着する側に金属板との密着性に優れる密着層を上記下層との間に有した3層構造でもよい。密着層としては、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(PET/I)など、金属板との密着性が良く、密着層の上層に含まれるポリエチテンテレフタレートと相溶性のあるものが好適である。容器外面側では、コスト面、染料含有(後記)のしやすさの点から、密着層にエポキシフェノール等のような接着剤を使用することもできる。また、例えば、顔料を含有する層が金属板と直接接し密着性が劣化した場合等は、金属板と密着する側に顔料を含まないクリアー層を上記下層との間に有した3層構造を用いることができる。
【0045】
次に、樹脂層の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されないが、例えば各ポリエステル樹脂を必要に応じて乾燥した後、単独及び/または各々を公知の溶融積層押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加等の方式によりキャスティングドラムに密着させ冷却固化し未延伸シートを得ることができる。
【0046】
さらに、この未延伸シートをフィルムの長手方向及び幅方向に延伸することにより二軸延伸フィルムを得る。延伸倍率は目的とするフィルムの配向度、強度、弾性率等に応じて任意に設定することができるが、好ましくはフィルムの品質の点でテンター方式によるものが好ましく、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方式、長手方向、幅方向をほぼ同じに延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。
【0047】
樹脂層に顔料を添加する方法としては、以下の方法が一般的である。固相重合する前のポリエステルチップを溶融したものに、顔料をブレンド混合し、着色したポリエステルチップを得、該チップを高温減圧下で乾燥し、着色マスターチップを得る。該着色マスターチップと未着色ポリエステルチップを規定の割合でブレンド混合し、溶融押し出しする。
【0048】
次に、容器用樹脂被覆金属板の製造方法について説明する。製造方法については、特に限定しないが、例えば、被覆方法としては、樹脂層をフィルムに成形後、金属板表面に熱融着させるフィルムラミネーションなどが挙げられる。熱融着により、被覆金属板を製造する場合、本発明では、金属板をフィルムの融点を超える温度で加熱し、その両面に該樹脂フィルムを圧着ロール(以後ラミネートロールと称す)を用いて接触させ熱融着する。その時の条件については、被覆時にフィルムの受ける温度履歴として、フィルムの融点以上の温度で接している時間を1〜20msecの範囲とすることが好ましい。フィルムの融点以上の温度で接している時間が1msec未満ではフィルムが金属板に接着するのに十分でなく、またフィルムの融点以上の温度で接している時間が20msecを超えると金属板との密着面近傍の分子運動性抑制効果が失われてしまうため、高度な成形性が要求される用途では十分な成形性が得られない場合がある。
【0049】
さらに、上記方法を行うにあたっては、高速での被覆、接着中の冷却も適宜行うことが好ましい。また、被覆時の加圧は特に規定するものではないが、面圧として9.8〜294N(1〜30kgf/cm2)が好ましい。この値が低すぎると、融点以上であっても時間が短時間であるため十分な密着性を得難い。また、加圧が大きいと被覆金属板の性能上は不都合がないものの、ラミネートロールにかかる力が大きく設備的な強度が必要となり装置の大型化を招くため不経済である。
【0050】
また、本発明では、樹脂層をフィルムに成形して金属板に被覆するのを原則とするが、樹脂層の規定が本発明の範囲内であれば、樹脂層をフィルムに成形せずに、樹脂層を溶融し、金属板表面に被覆する溶融押出しラミネーションを適用することも可能である。
【0051】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
厚さ0.18mm・幅977mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した鋼板を、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、クロムめっき鋼板(TFS)を製造した。クロムめっきは、CrO3、F-、SO4 2-を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO3、F-を含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、Cr換算でそれぞれ120mg/m2、15mg/m2に調整した。
【0052】
次いで、図1に示す金属板の被覆装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板1を金属帯加熱装置2で加熱し、ラミネートロール3で前記クロムめっき鋼帯1の一方の面に、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルム4a、4bとして、表1に示すフィルムを被覆(熱融着)し被覆金属板を製造した。
【0053】
ラミネートロール3は内部水冷式とし、被覆中に冷却水を強制循環し、フィルム接着中の冷却を行った。
【0054】
使用したフィルムの特性、以上の方法で製造した被覆金属板及び被覆金属板のフィルム上の特性についての方法、測定、評価方法を下記に示す。
【0055】
(1)緩和時間T1ρ
固体NMRの測定装置は、日本電子製スペクトロメータJNM−GX270、日本電子製固体アンプ、MASコントローラNM−GSH27MU、日本電子製プローブNM−GSH27Tを用いた。13C核のT1ρ(回転座標における縦緩和)測定を実施し、この時の条件は、温度24.5℃、湿度50%RH、静磁場強度6.34T(テスラ)下で、1H、13Cの共鳴周波数はそれぞれ270.2MHz、67.9MHzである。ケミカルシフトの異方性の影響を消すためにMAS(マジック角度回転)法を採用した。回転数は、3.5〜3.7kHzで行った。パルス系列の条件は、1Hに対して90°、パルス幅4μsec、ロッキング磁場強度62.5kHzとした。1Hの分極を13Cに移すCP(クロスポーラリゼーション)の接触時間は1.5msecである。また保持時間τとしては、0.001、0.5、0.7、1、3、7、10、20、30、40、50msecを用いた。保持時間τ後の13C磁化ベクトルの自由誘導減衰(FID)を測定した(FID測定中1Hによる双極子相互作用の影響を除去するために高出力カップリングを行った。なお、S/Nを向上させるため、512回の積算を行った)。また、パルス繰り返し時間としては、5〜15secの間で行った。
【0056】
T1ρ値は、通常下式で記述することができ、各保持時間に対して観測されたピーク強度を片対数プロットすることにより、その傾きから求めることができる。
I(t)=Σ(Ai)exp(−t/T1ρi)
但し、Ai:T1ρiに対する成分の割合
ここでは2成分系(T1ρ1:非晶成分、T1ρ2:結晶成分)で解析し、下記の式を用い最小二乗法フィッティングによりその値を求めた。
I(t)=fa1・exp(−t/T1ρ1)+fa2・exp(−t/T1ρ2)
fa1:T1ρ1に対する成分の割合
fa2:T1ρ2に対する成分の割合
fa1+fa2=1
ここでT1ρとしてはT1ρ2を用いる。
【0057】
(2)融点
使用したフィルムを結晶化させ、示差走査熱量計(パーキン・エルマー社製DSC−2型)により、10℃/minの昇温速度で測定した。
【0058】
(3)被覆後フィルムの面配向係数
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(それぞれNx、Ny、Nz)を測定し、面配向係数fnを、fn=(Nx+Ny)/2−Nzで計算して求めた。なお、測定は、被覆後のフィルムの任意の位置:10箇所について行い、その平均値を面配向係数とした。
【0059】
(4)成形性
被覆金属板にワックス塗布後、直径179mmの円板を打ち抜き、絞り比1.80で浅絞り缶を得た。次いで、この絞り缶に対し、絞り比2.20及び2.90で再絞り加工を行った。この後、常法に従いドーミング成形を行った後、トリミングし、次いでネックイン−フランジ加工を施し深絞り缶を成形した。このようにして得た深絞り缶のネックイン部に着目し、フィルムの損傷程度を目視観察した。
(評点について)
◎:成形後フィルムに損傷なく、フィルム白化も認められない。
○:成形可能であるが、フィルム白化が認められる。
×:缶が破胴し、成形不可能。
【0060】
(5)密着性
上記(4)で成形可能であった缶に対し、缶胴部よりピール試験用のサンプル(幅15mm×長さ120mm)を切り出した。切り出したサンプルの長辺側端部からフィルムを一部剥離し、引張試験機で剥離した部分のフィルムを、フィルムが剥離されたクロムめっき鋼板とは反対方向(角度:180°)に開き、引張速度30mm/minでピール試験を行い、幅15mmあたりの密着力を評価した。なお、密着力測定対象面は、缶内面側とした。
(評点について)
◎:1.47N/15mm以上(0.15kgf/15mm以上)。
○:0.98N/15mm以上、1.47N/15mm未満(0.10kgf/15mm以上、0.15kgf/15mm未満)。
×:0.98N/15mm未満(0.10kgf/15mm未満)。
【0061】
(6)耐衝撃性
上記(4)で成形可能であった缶に対し、水道水を満たし、各試験について10個ずつを高さ1.25mから塩ビタイル床面へ落とした後、電極と金属缶に6Vの電圧をかけて3秒後の電流値を読み取り、10缶測定後の平均値を求めた。
(評点について)
◎:0.01mA未満。
○:0.01mA以上、0.1mA未満。
×:0.1mA以上。
【0062】
(7)意匠性
被覆金属板の分光反射率を、スガ試験機製分光測色計SMC−1S−2Bを用いて測定した。得られた分光反射強度から、JIS Z 8727に基づき、C−2°光源によるb値(黄色味)を測定した。
(評点について)
◎:均一な色調が得られ、且つb値が10以上20以下
○:ほぼ均一な色調が得られ、且つb値が6以上10未満あるいは20超25以下
△:色調にムラがあり、かつb値が6未満か25超
(8)顔料の溶出性
ラミネート金属板をレトルト殺菌処理(125℃×90分間)した後、表面を白い布等で拭き取り、顔料による着色の有無を目視で観察した。また、レトルト殺菌処理後のラミネート金属板表面を電子顕微鏡(SEM)にて倍率1000倍で観察し、顔料粒子が表面に溶出しているか否か、調査した。
(評点について)
◎拭き取り後、布が着色せず、電子顕微鏡(SEM)による観察でも、顔料粒子の溶出(ブリーディング)が認められない状態
○拭き取り後、布は着色しないが、電子顕微鏡(SEM)による観察では、顔料粒子の溶出(ブリーディング)が認められる状態
×拭き取り後、布が着色するとともに、電子顕微鏡(SEM)による観察においても、顔料粒子の溶出(ブリーディング)が明確に認められる状態
【0063】
【表1】
Figure 0004232555
【0064】
表1に示すように、本発明範囲の発明例は、顔料が溶出することもなく、成形性、密着性、耐衝撃性、意匠性とも良好である。一方比較例は、顔料が溶出したり、意匠性が劣っている。
【0065】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、製缶後の意匠性、成形性及び密着性に優れた容器用樹脂被覆金属板を得ることができる。さらに、本発明に係る樹脂被覆金属板は、絞り加工等を行う容器用素材、特に食缶容器用素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】金属板の被覆装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 金属板(クロムめっき鋼板)
2 金属帯加熱装置
3 ラミネートロール
4a、4b 樹脂フィルム

Claims (7)

  1. ポリエステルを主成分とする複層構造の樹脂層を少なくとも金属板の片面に形成した容器用樹脂被覆金属板であって、前記樹脂層は、下層に、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を、上層に、膜厚1.5μm以上、下記条件を満足するイソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料の方を含有する樹脂層を有し、前記樹脂層中のトータルのイソインドリノン系顔料添加量あるいはキノフタロン系顔料の添加量が前記樹脂層に対して、0.1重量%以上2.0重量%未満であり、前記樹脂層中のイソインドリノン系顔料とキノフタロン系顔料の添加量の重量比が2:1〜6:1であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。
    下層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度>上層顔料(イソインドリノン系顔料+キノフタロン系顔料)濃度
  2. 前記ポリエステルが、固体高分解能NMRによる構造解析における1、4配位のベンゼン環炭素の緩和時間T1ρが150msec以上である二軸延伸ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の容器用樹脂被覆金属板。
  3. 樹脂層の面配向係数が0.02以上0.06以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器用樹脂被覆金属板。
  4. 前記イソインドリノン系顔料及びキノフタロン系顔料の粒子径が1μm未満であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の容器用樹脂被覆金属板。
  5. 前記下層の膜厚が3μm以上であることを特徴とする請求項1ないし4に記載の容器用樹脂被覆金属板。
  6. 樹脂層の膜厚が5〜30μm以上であることを特徴とする請求項1ないし5に記載の容器用樹脂被覆金属板。
  7. 金属板表面に樹脂層を熱融着させることにより、請求項1ないし6に記載の容器用樹脂被覆金属板を製造するにあたって、熱融着被覆時に樹脂層の受ける温度履歴として、樹脂層の融点以上の温度で接している時間を1〜20msecの範囲とすることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
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