JP4228803B2 - トナーの製造装置およびトナー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トナーの製造装置およびトナーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電子写真法としては、多数の方法が知られているが、一般には、光導電性物質を利用し、種々の手段により感光体上に電気的潜像を形成する工程(露光工程)と、該潜像をトナーを用いて現像する現像工程と、紙等の転写材にトナー画像を転写する転写工程と、定着ローラを用いた加熱、加圧等により、前記トナー画像を定着する工程とを有している。
【0003】
また、トナーの製造方法としては、粉砕法、重合法が用いられている。
粉砕法は、主成分である樹脂(以下、単に「樹脂」ともいう。)と、着色剤とを含む原料を混練して混練物を得、その後、前記混練物を冷却、粉砕する方法である(例えば、非特許文献1参照)。このような粉砕法は、原料の選択の幅が広く、比較的容易にトナーを製造することができる点で優れている。しかしながら、粉砕法で得られるトナーは不定形で、各粒子間での形状のバラツキが大きく、その粒径分布も広くなりやすいという欠点を有している。その結果、各トナー粒子間での特性が大きく異なる結果となり、トナー全体としての転写効率が低下したり、帯電特性が低下する等の問題があった。
【0004】
重合法は、樹脂の構成成分である単量体を用いて、液相中等で、重合反応を行い、目的とする樹脂を生成することにより、トナー粒子を製造するものである(例えば、特許文献1参照)。このような重合法は、得られるトナー粒子の形状を、比較的真球度の高いもの(幾何学的に完全な球形に近い形状)にすることができるという点で優れている。しかしながら、重合法では、各粒子間で粒径のバラツキを十分に小さくすることができない場合がある。また、重合法では、樹脂材料の選択の幅が狭く、目的とする特性のトナーを得るのが困難となる場合がある。
【0005】
【非特許文献1】
電子写真学会監修「電子写真の基礎と応用」コロナ社発行、1988年、p482−486
【特許文献1】
特開平6−332257号公報(第2頁28〜35行目)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、各粒子間(トナー粒子間)で、形状のバラツキが小さく、粒度分布の幅の小さいトナーを提供すること、また、このようなトナーを製造することができる製造装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のトナーの製造装置は、液状の分散質が分散媒中に分散したO/W型の乳化液を用いてトナーを製造する製造装置であって、
樹脂を含む材料を混練して得られる混練物を用いて調製された前記乳化液をガス流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄層流とし、前記薄層流を前記平滑面から離して微粒子化して噴射するノズルと、
筒状のハウジングで構成され、前記ノズルから微粒子化して噴射された前記乳化液から前記分散媒の除去を行い、前記平滑面から引き離された前記微粒子中の前記分散質を凝集させ、粒状体とする固化部と、
を有することを特徴とする。
これにより、各粒子間(トナー粒子間)で、形状のバラツキが小さく、粒度分布の幅の小さいトナーを提供することができる。
【0008】
本発明のトナーの製造装置では、前記ハウジングの内表面に、前記粒状体と同じ極性の電圧を印加する電圧印加手段を備えていることが好ましい。
これにより、ハウジングの内面に、粒状体が付着するのを効果的に防止することができ、異形状のトナー粉末の発生をより効果的に防止することができるとともに、トナー粒子の生産効率も向上する。
【0017】
本発明のトナーの製造装置では、加圧されたガスを、ガス口から開放された空間に噴射してガス流とすると共に、前記ガス口から噴射されるガスを、前記乳化液の流動方向に平滑な前記平滑面に向けて噴射して、前記平滑面に接触しながら前記平滑面と平行に一定の方向に流動するガス流とし、当該ガス流を流動させている前記平滑面の途中に、前記ガス流の流動方向に交差するように、しかも、前記ガス流と前記平滑面との間に前記乳化液を供給することにより、前記乳化液を、前記ガス流で前記平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして前記薄層流とすることが好ましい。
これにより、噴射される乳化液(分散液)の微粒子を、より小さくかつ粒径のバラツキの小さいものとすることができる。その結果、均一な形状を有し、かつ、粒径の小さいトナー粒子を得ることができる。
【0018】
本発明のトナーの製造装置では、前記平滑面が傾斜面であることが好ましい。
これにより、噴射される乳化液(分散液)の微粒子を、より小さくかつ粒径のバラツキの小さいものとすることができる。その結果、均一な形状を有し、かつ、粒径の小さいトナー粒子を得ることができる。
本発明のトナーの製造装置では、尖鋭なエッジを境界としてその両面に設けられた2つの傾斜面に沿ってガスを流動させ、前記エッジで両面の前記傾斜面に沿って流動するガスを衝突させて空気振動を発生させ、さらに、前記傾斜面の途中に前記乳化液を供給し、前記傾斜面に供給された前記乳化液を、前記傾斜面に沿って流動させるガス流で薄く引き伸ばして前記薄層流として前記エッジまで移送し、前記エッジから気体中に噴射される粒子を、前記エッジ先端の空気振動で粉砕して前記乳化液を微粒子として噴射することが好ましい。
これにより、噴射される乳化液(分散液)の微粒子を、より小さくかつ粒径のバラツキの小さいものとすることができる。その結果、均一な形状を有し、かつ、粒径の小さいトナー粒子を得ることができる。
【0027】
本発明のトナーは、本発明の装置を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、各粒子間(トナー粒子間)で、形状のバラツキが小さく、粒度分布の幅の小さいトナーを提供することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のトナーの製造方法およびトナーの好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、本発明のトナーの製造方法について説明する。
図1は、乳化液の調製に用いる混練物を製造するための混練機、冷却機の構成の一例を模式的に示す縦断面図、図2は、ブロックポリエステルについて示差走査熱量分析を行ったときに得られる、ブロックポリエステルの融点付近での示差走査熱量分析曲線のモデル図、図3は、軟化点解析用フローチャート、図4は、本発明のトナーの製造に用いられるトナー製造装置の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図、図5は、乳化液を微粒子として噴射するノズルの好適な実施形態を示す断面図、図6、図7および図8は、乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図、図9は、図8に示すノズルの要部拡大断面図、図10は、図9に示すノズルの内側中間リング先端部分を示す拡大断面図、図11は、乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図、図12は、図11に示すノズルの要部拡大断面図、図13は、図11に示すノズルの内側中間リング先端部分を示す拡大断面図、図14は、乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図、図15は、図14に示すガス剥離凹部の平面図、図16は、乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。以下、図1中、左側を「基端」、右側を「先端」として説明する。
【0030】
本発明のトナーの製造方法は、樹脂を含む材料を混練して得られる混練物を用いて乳化液を調製する工程(乳化液調製工程)と、乳化液を微粒子化して噴射し、固化部内を搬送させつつ、少なくとも乳化液中の分散媒を除去することにより、分散質(分散粒子)の凝集体を粒状体として得る工程(粒状体製造工程)とを有することを特徴とする。なお、本明細書中において、「乳化液(エマルション、乳濁液、乳状液)」とは、液状の分散媒中に、液状の分散質(分散粒子)が分散した分散液のことを指し、「懸濁液」とは、液状の分散媒中に、固体(固形)の分散質(懸濁粒子)が分散した分散液(懸濁コロイドを含む)のことを指す。
【0031】
<トナーの構成材料>
まず、本発明のトナーの製造に用いられる材料について説明する。
1.樹脂(バインダー樹脂)
本発明のトナーは、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)を含む材料で構成されている。
【0032】
本発明においては、樹脂(バインダー樹脂)は、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、クロロポリスチレン、スチレン−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体等のスチレン系樹脂でスチレンまたはスチレン置換体を含む単重合体または共重合体、ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェニール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、本発明では、樹脂として、組成の異なる樹脂成分を2種以上含むものを用いるのが好ましく、異なる2種以上のポリエステル系樹脂を含むものを用いるのがより好ましい。これにより、各樹脂成分の利点を併有することができ、トナーとして求められる種々の特性を同時に優れたものとすることができる。特に、従来の製造方法では、相溶性の低さ等の理由から併用するのが困難であった複数の樹脂成分を用いた場合でも、本発明によれば、後に詳述するように、各樹脂成分が十分に均一に混ざり合ったトナー粒子を得ることができ、各樹脂成分の特性を十分に発揮させることができる。また、主成分としての樹脂(分散質)が、異なる2種以上のポリエステル系樹脂を含むものであると、後に詳述するように、特に優れた、機械的強度(機械的ストレスに対する安定性)と、定着性(幅広い温度領域で十分な定着性)との両立を図ることができる。例えば、ポリエステル系樹脂として、結晶性の異なる2種のポリエステルを含むものを用いたり、軟化点T1/2の異なる2種のポリエステルを含むものを用いたりすることができる。特に、本発明では、ポリエステル系樹脂として、少なくとも、以下で説明するようなブロックポリエステルと、非晶性ポリエステルとを含むものを用いた場合、後に詳述するような、特に優れた効果が得られる。以下、樹脂として、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとを組み合わせて用いた場合について、代表的に説明する。
【0033】
1−1.ブロックポリエステル
ブロックポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮合してなる結晶性ブロックと、前記結晶性ブロックより結晶性の低い非晶性ブロックとを有するブロック共重合体で構成されたものである。
(1)結晶性ブロック
結晶性ブロックは、非晶性ブロックや非晶性ポリエステルに比べて、高い結晶性を有している。すなわち、分子配列構造が、非晶性ブロックや非晶性ポリエステルに比べて強固で安定したものである。このため、結晶性ブロックは、トナー全体(トナー粒子全体)としての強度を向上させるのに寄与する。その結果、最終的に得られるトナーは、機械的ストレスに強く、耐久性、保存性に優れたものとなる。
【0034】
ところで、結晶性の高い樹脂は、一般に、結晶性の低い樹脂に比べて、いわゆるシャープメルト性を有している。すなわち、結晶性の高い樹脂は、示差走査熱量分析(DSC)による融点の吸熱ピークの測定を行ったとき、結晶性の低い樹脂に比べて、吸熱ピークがシャープな形状として現れる性質を有している。
一方、結晶性ブロックは、上述したように、結晶性の高いものである。したがって、結晶性ブロックは、ブロックポリエステルにシャープメルト性を付与する機能を有する。このため、トナーがブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとを含む材料で構成されるものである場合、後に詳述する非晶性ポリエステルが十分に軟化するような、比較的高い温度(ブロックポリエステルの融点付近の温度)においても、優れた形状の安定性(耐久性)を保持することができる。したがって、このようなトナーは、幅広い温度領域で十分な定着性(定着強度)を発揮することができる。
【0035】
以下、結晶性ブロックを構成する成分について説明する。
結晶性ブロックを構成するアルコール成分としては、2個以上の水酸基を有するものを用いることができ、中でも水酸基を2個有するアルコール成分であるのが好ましい。このような水酸基を2個有するアルコール成分としては、例えば、芳香環構造を有する芳香族ジオールや、芳香環構造を有さない脂肪族ジオール等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等)等が挙げられ、また、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状ジオール類、または2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の環状ジオール類等が挙げられる。
【0036】
なお、水酸基を3個以上有するアルコール成分としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0037】
このように、結晶性ブロックを構成するアルコール成分は、特に限定されないが、少なくともその一部が脂肪族ジオールであるのが好ましく、その80mol%以上が脂肪族ジオールであるのがより好ましく、その90mol%以上が脂肪族ジオールであるのがさらに好ましい。これにより、ブロックポリエステル(結晶性ブロック)の結晶性を特に高いものとすることができ、上述した効果がさらに顕著なものとなる。
【0038】
また、結晶性ブロックを構成するアルコール成分は、炭素数が3〜7の直鎖状の分子構造を有し、その両端に水酸基を有するもの(一般式:HO−(CH−OHで表されるジオール(ただし、n=3〜7))を含むのが好ましい。このようなアルコール成分が含まれることにより、結晶性が向上し、摩擦係数が低下するため、機械的ストレスに強く、耐久性や保存性に特に優れたものとなる。このようなジオールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられるが、この中でも1,4−ブタンジオールが好ましい。1,4−ブタンジオールを含むことにより、前述した効果は特に顕著なものとなる。
【0039】
結晶性ブロックを構成するアルコール成分として1,4−ブタンジオールを含む場合、結晶性ブロックを構成するアルコール成分の50mol%以上が1,4−ブタンジオールであるのがより好ましく、その80mol%以上が1,4−ブタンジオールであるのがさらに好ましい。これにより、前述した効果はさらに顕著なものとなる。
【0040】
結晶性ブロックを構成するカルボン酸成分としては、2価以上のカルボン酸またはその誘導体(例えば、酸無水物、低級アルキルエステル等)等を用いることができるが、2価のカルボン酸またはその誘導体等を用いるのが好ましい。このような2価のカルボン酸成分としては、例えば、o−フタル酸(フタル酸)、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
なお、3価以上のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
【0041】
このように、結晶性ブロックを構成するカルボン酸成分は、特に限定されないが、少なくともその一部がテレフタル酸骨格を有するものであるのが好ましく、その50mol%以上がテレフタル酸骨格を有するものであるのがより好ましく、その80mol%以上がテレフタル酸骨格を有するものであるのがさらに好ましい。これにより、最終的に得られるトナーは、トナーとして求められる各種特性のバランスが特に優れたものとなる。ただし、ここでの「カルボン酸成分」は、ブロックポリエステルとしたときのカルボン酸成分のことを指し、ブロックポリエステルを調製する(結晶性ブロックを形成する)際には、当該カルボン酸成分そのものや、その酸無水物、低級アルキルエステル等の誘導体を用いることができるものとする。
【0042】
ブロックポリエステル中における結晶性ブロックの含有率は、特に限定されないが、5〜60mol%であるのが好ましく、10〜40mol%であるのがより好ましい。結晶性ブロックの含有率が前記下限値未満であると、ブロックポリエステルの含有量等によっては、上述したような結晶性ブロックを有することによる効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、結晶性ブロックの含有率が前記上限値を超えると、相対的に非晶性ブロックの含有率が低下するため、ブロックポリエステルと、後述する非晶性ポリエステルとの親和性(相溶性)が低下する可能性がある。
なお、結晶性ブロックは、上記のようなアルコール成分、カルボン酸成分以外の成分を含むものであってもよい。
【0043】
(2)非晶性ブロック
非晶性ブロックは、前述した結晶性ブロックに比べて結晶性が低い。また、後述する非晶性ポリエステルも、結晶性ブロックに比べて結晶性が低い。すなわち、非晶性ブロックは、後述する非晶性ポリエステルと同様に、結晶性ブロックに比べて結晶性が低い。
ところで、ブレンド樹脂においては、一般に、結晶性が大きく異なる樹脂同士は相溶(または微分散)し難く、結晶性の差が小さい樹脂同士は相溶(または微分散)し易い。したがって、ブロックポリエステルが非晶性ブロックを有することにより、ブロックポリエステルと、後述する非晶性ポリエステルとの相溶性(分散性)が高まる。その結果、最終的に得られるトナーにおいて、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとが、相分離(特に、マクロ相分離)するのを効果的に防止することができ、ブロックポリエステルの利点と非晶性ポリエステルの利点とを十分かつ安定的に発揮させることができる。
【0044】
以下、非晶性ブロックを構成する成分について説明する。
非晶性ブロックを構成するアルコール成分としては、2個以上の水酸基を有するものを用いることができ、中でも水酸基を2個有するアルコール成分であるのが好ましい。このような水酸基を2個有するアルコール成分としては、例えば、芳香環構造を有する芳香族ジオールや、芳香環構造を有さない脂肪族ジオール等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等)等が挙げられ、また、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状ジオール類、または2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の環状ジオール類等が挙げられる。
【0045】
なお、水酸基を3個以上有するアルコール成分としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0046】
このように、非晶性ブロックを構成するアルコール成分は、特に限定されないが、少なくともその一部が脂肪族ジオールであるのが好ましく、その50mol%以上が脂肪族ジオールであるのがより好ましい。これにより、より靱性に優れた(耐折り曲げ性に優れた)定着画像が得られるという効果が得られる。
また、非晶性ブロックを構成するアルコール成分は、少なくともその一部が分岐鎖(側鎖)を有するものであるのが好ましく、その30mol%以上が分岐鎖を有するものであるのがより好ましい。これにより、規則配列を抑制し、結晶性を低下させ、透明性も向上するという効果が得られる。
【0047】
非晶性ブロックを構成するカルボン酸成分としては、2価以上のカルボン酸またはその誘導体(例えば、酸無水物、低級アルキルエステル等)等を用いることができるが、2価のカルボン酸またはその誘導体等を用いるのが好ましい。このような2価のカルボン酸成分としては、例えば、o−フタル酸(フタル酸)、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
なお、3価以上のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
【0048】
このように、非晶性ブロックを構成するカルボン酸成分は、特に限定されないが、少なくともその一部がテレフタル酸骨格を有するものであるのが好ましく、その80mol%以上がテレフタル酸骨格を有するものであるのがより好ましい。これにより、最終的に得られるトナーは、トナーとして求められる各種特性のバランスが特に優れたものとなる。ただし、ここでの「カルボン酸成分」は、ブロックポリエステルとしたときのカルボン酸成分のことを指し、ブロックポリエステルを調製する(非晶性ブロックを形成する)際には、当該カルボン酸成分そのものや、その酸無水物、低級アルキルエステル等の誘導体を用いることができるものとする。
なお、非晶性ブロックは、上記のようなアルコール成分、カルボン酸成分以外の成分を含むものであってもよい。
【0049】
上記のような結晶性ブロック、非晶性ブロックを有するブロックポリエステルの平均分子量(重量平均分子量)Mwは、特に限定されないが、1×10〜3×10であるのが好ましく、1.2×10〜1.5×10であるのがより好ましい。平均分子量Mwが前記下限値未満であると、最終的に得られるトナーの機械的強度が低下し、十分な耐久性(保存性)が得られない可能性がある。また、平均分子量Mwが小さすぎると、トナーの定着時に凝集破壊を起こし易くなり、耐オフセット性が低下する傾向を示す。一方、平均分子量Mwが前記上限値を超えると、トナーの定着時に粒界破壊を起こし易くなり、紙等の転写材(記録媒体)への濡れ性も低下し、定着に要する熱量も大きくなる。
【0050】
ブロックポリエステルのガラス転移点Tは、特に限定されないが、50〜75℃であるのが好ましく、55〜70℃であるのがより好ましい。ガラス転移点が前記下限値未満であると、トナーの保存性(耐熱性)が低下し、使用環境等によっては、トナー粒子間での融着が発生する場合がある。一方、ガラス転移点が前記上限値を超えると、低温定着性や透明性が低下する。なお、ガラス転移点は、JIS K 7121に準拠して測定することができる。
【0051】
ブロックポリエステルの軟化点T1/2は、特に限定されないが、90〜160℃であるのが好ましく、100〜150℃であるのがより好ましい。軟化点が前記下限値未満であると、トナーとしての保存性が低下し、十分な耐久性が得られない可能性がある。また、軟化点が低すぎると、トナーの定着時に凝集破壊を起こし易くなり、耐オフセット性が低下する傾向を示す。一方、軟化点が前記上限値を超えると、トナーの定着時に粒界破壊を起こし易くなり、紙等の転写材(記録媒体)への濡れ性も低下し、定着に要する熱量も大きくなる。なお、軟化点T1/2は、例えば、フローテスタを用い、サンプル量:1g、ダイ孔径:1mm、ダイ長さ:1mm、荷重:20kgf、予熱時間:300秒、測定開始温度:50℃、昇温速度:5℃/分という条件で測定したときに得られる、図3に示すような解析用フローチャートのh/2に相当するフロー曲線上の点の温度として求めることができる。
【0052】
ブロックポリエステルの融点T(後述する示差走査熱量分析による融点の吸熱ピークの測定を行ったときのピークの中心値Tmp)は、特に限定されないが、190℃以上であるのが好ましく、190〜230℃であるのがより好ましい。融点が190℃未満であると、耐オフセット性の向上等の効果が十分に得られない可能性がある。また、融点が高すぎると、後述する混練工程等において、材料温度を比較的高い温度にしなければならなくなる。その結果、樹脂材料のエステル交換反応が進行しやすくなり、樹脂設計を最終的に得られるトナーに十分に反映させることが困難になる場合がある。なお、融点は、例えば、示差走査熱量分析(DSC)による吸熱ピークの測定により求めることができる。
【0053】
また、最終的に得られるトナーが、定着ローラを有する定着装置で用いられるものである場合、ブロックポリエステルの融点をT(B)[℃]、定着ローラの表面の標準設定温度をTfix[℃]としたとき、Tfix≦T(B)≦(Tfix+100)の関係を満足するのが好ましく、(Tfix+10)≦T(B)≦(Tfix+70)の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、トナーの定着時にトナー中の結晶成分が溶融しないため、トナー粘度が一定以下に低下せず、定着ローラとの離型性が確保される。
【0054】
また、ブロックポリエステルの融点は、後述する非晶性ポリエステルの軟化点より高いのが好ましい。これにより、最終的に得られるトナーの形状の安定性が向上し、機械的ストレスに対し、特に優れた安定性(耐久性)を示すものとなる。また、ブロックポリエステルの融点が後述する非晶性ポリエステルの軟化点より高いと、例えば、後述する熱球形化処理を施す場合には、ブロックポリエステルにより、トナー製造用粉末(粒状体)の形状の安定性をある程度確保しつつ、非晶性ポリエステルを十分に軟化させることができる。その結果、熱球形化処理を効率良く行うことができ、比較的容易に、最終的に得られるトナー(トナー粒子)の円形度を比較的高いものとすることができる。
【0055】
ところで、前述したように、ブロックポリエステルは、結晶性の高い結晶性ブロックを有しているため、比較的結晶性の低い樹脂材料(例えば、後述する非晶性ポリエステル等)に比べて、いわゆるシャープメルト性を有している。
結晶性を表す指標としては、例えば、示差走査熱量分析(DSC)による融点の吸熱ピークの測定を行ったときのピークの中心値をTmp[℃]、ショルダーピーク値をTms[℃]としたときに、ΔT=Tmp−Tmsで表されるΔT値等が挙げられる(図2参照)。このΔT値が小さいほど結晶性が高い。
ブロックポリエステルのΔT値は、50℃以下であるのが好ましく、20℃以下であるのがより好ましい。Tmp[℃]、Tms[℃]の測定条件は特に限定されないが、例えば、試料となるブロックポリエステルを、昇温速度:10℃/分で200℃まで昇温し、さらに、降温速度:10℃/分で降温した後、昇温速度:10℃/分で昇温して測定することができる。
また、ブロックポリエステルは、後述する非晶性ポリエステルより結晶性が高い。したがって、非晶性ポリエステルのΔT値をΔT[℃]、ブロックポリエステルのΔT値をΔT[℃]としたとき、ΔT>ΔTの関係を満足する。特に、本発明では、ΔT−ΔT>10の関係を満足するのが好ましく、ΔT−ΔT>30の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、上述した効果はより顕著なものとなる。ただし、非晶性ポリエステルの結晶性が特に低い場合、TmpまたはTmsの少なくとも一方が測定困難(判別困難)であることがある。このような場合、ΔTは∞[℃]とする。
【0056】
ブロックポリエステルは示差走査熱量分析による融点の吸熱ピークの測定を行ったときに求められる融解熱Eが5mJ/mg以上であるのが好ましく、15mJ/mg以上であるのがより好ましい。融解熱Eが5mJ/mg未満であると、結晶性ブロックを有することによる前述したような効果が十分に発揮されない可能性がある。ただし、融解熱としては、ガラス転移点の吸熱ピークの熱量は含まないものとする(図2参照)。融点の吸熱ピークの測定条件は特に限定されないが、例えば、試料となるブロックポリエステルを、昇温速度:10℃/分で200℃まで昇温し、さらに、降温速度:10℃/分で降温した後、昇温速度:10℃/分で昇温したときに測定される値を融解熱として求めることことができる。
【0057】
また、ブロックポリエステルは、リニア型ポリマー(架橋構造を有さないポリマー)であるのが好ましい。リニア型ポリマーは、架橋型のものに比べて、摩擦係数が小さい。これにより、特に優れた離型性が得られ、トナーの転写効率がさらに向上する。
なお、ブロックポリエステルは、前述した結晶性ブロック、非晶性ブロック以外のブロックを有するものであってもよい。
【0058】
1−2.非晶性ポリエステル
非晶性ポリエステルは、前述したブロックポリエステルより低い結晶性を有するものである。
非晶性ポリエステルは、主として、トナーを構成する各成分(例えば、後述するような着色剤、ワックス、帯電防止剤等)の分散性や、トナー製造時における混練物の粉砕性、トナーの定着性(特に、低温定着性)、透明性、機械的特性(例えば、弾性、機械的強度等)、帯電性、耐湿性等の機能を向上させるのに寄与する成分である。言い換えると、以下で詳述するような非晶性ポリエステルがトナー中に含まれないと、前記のようなトナーとして求められる特性を十分に発揮するのが困難となる可能性がある。
【0059】
以下、非晶性ポリエステルを構成する成分について説明する。
非晶性ポリエステルを構成するアルコール成分としては、2個以上の水酸基を有するものを用いることができ、中でも水酸基を2個有するアルコール成分であるのが好ましい。このような水酸基を2個有するアルコール成分としては、例えば、芳香環構造を有する芳香族ジオールや、芳香環構造を有さない脂肪族ジオール等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(例えば、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等)等が挙げられ、また、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の鎖状ジオール類、または2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の環状ジオール類等が挙げられる。
【0060】
なお、水酸基を3個以上有するアルコール成分としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0061】
非晶性ポリエステルを構成するカルボン酸成分としては、2価以上のカルボン酸またはその誘導体(例えば、酸無水物、低級アルキルエステル等)等を用いることができるが、2価のカルボン酸またはその誘導体等を用いるのが好ましい。このような2価のカルボン酸成分としては、例えば、o−フタル酸(フタル酸)、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
なお、3価以上のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの誘導体(例えば、無水物、低級アルキルエステル等)等が挙げられる。
【0062】
このように、非晶性ポリエステルを構成するカルボン酸成分は、特に限定されないが、少なくともその一部がテレフタル酸骨格を有するものであるのが好ましく、その80mol%以上がテレフタル酸骨格を有するものであるのがより好ましく、その90mol%以上がテレフタル酸骨格を有するものであるのがさらに好ましい。これにより、最終的に得られるトナーは、トナーとして求められる各種特性のバランスが特に優れたものとなる。ただし、ここでの「カルボン酸成分」は、非晶性ポリエステルとしたときのカルボン酸成分のことを指し、非晶性ポリエステルを調製する際には、当該カルボン酸成分そのものや、その酸無水物、低級アルキルエステル等の誘導体を用いることができるものとする。
【0063】
また、非晶性ポリエステルを構成するモノマー成分は、その50mol%以上(より好ましくは、80mol%以上)が、前述した非晶性ブロックを構成するモノマー成分と同一であるのが好ましい。すなわち、非晶性ポリエステルは、非晶性ブロックと同様のモノマー成分で構成されたものであるのが好ましい。これにより、非晶性ポリエステルとブロックポリエステルとの親和性(相溶性、分散性)が、特に優れたものとなる。ただし、ここでの「モノマー成分」は、非晶性ポリエステル、ブロックポリエステルの製造に用いるモノマーを指すものではなく、非晶性ポリエステル、ブロックポリエステル中に含まれるモノマー成分のことを指す。
なお、非晶性ポリエステルは、上記のようなアルコール成分、カルボン酸成分以外の成分を含むものであってもよい。
【0064】
非晶性ポリエステルの平均分子量(重量平均分子量)Mw(A)は、特に限定されないが、5×10〜4×10であるのが好ましく、8×10〜2.5×10であるのがより好ましい。平均分子量Mw(A)が前記下限値未満であると、最終的に得られるトナーの機械的強度が低下し、十分な耐久性(保存性)が得られない可能性がある。また、平均分子量Mw(A)が小さすぎると、トナーの定着時に凝集破壊を起こし易くなり、耐オフセット性が低下する傾向を示す。一方、平均分子量Mwが前記上限値を超えると、トナーの定着時に粒界破壊を起こし易くなり、紙等の転写材(記録媒体)への濡れ性も低下し、定着に要する熱量も大きくなる。
【0065】
非晶性ポリエステルのガラス転移点Tは、特に限定されないが、50〜75℃であるのが好ましく、55〜70℃であるのがより好ましい。ガラス転移点が前記下限値未満であると、トナーの保存性(耐熱性)が低下し、使用環境等によっては、トナー粒子間での融着が発生する場合がある。一方、ガラス転移点が前記上限値を超えると、低温定着性や透明性が低下する。また、ガラス転移点が高すぎると、後述するような熱球形化処理を施す場合、その効果が十分に発揮されない可能性がある。なお、ガラス転移点は、JIS K 7121に準拠して測定することができる。
【0066】
非晶性ポリエステルの軟化点T1/2は、特に限定されないが、90〜160℃であるのが好ましく、100〜150℃であるのがより好ましく、100〜130℃であるのがさらに好ましい。軟化点が前記下限値未満であると、トナーとしての保存性が低下し、十分な耐久性が得られない可能性がある。また、軟化点が低すぎると、トナーの定着時に凝集破壊を起こし易くなり、耐オフセット性が低下する傾向を示す。一方、軟化点が前記上限値を超えると、トナーの定着時に粒界破壊を起こし易くなり、紙等の転写材(記録媒体)への濡れ性も低下し、定着に要する熱量も大きくなる。
【0067】
また、非晶性ポリエステルの軟化点をT1/2(A)[℃]、前述したブロックポリエステルの融点をT(B)としたとき、T(B)>(T1/2(A)+60)の関係を満足するのが好ましく、(T1/2(A)+60)<T(B)<(T1/2(A)+150)の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、例えば、比較的高い温度において、ブロックポリエステルがトナー粒子の形状の安定性をある程度確保しつつ、非晶性ポリエステルが十分に軟化することができる。これにより、トナーの形状の安定性を十分に確保しつつ、幅広い温度領域での定着性(特に低温領域での定着性)を優れたものとすることができる。また、上記のような関係を満足することにより、トナーはより幅広い温度領域において、優れた定着性を発揮することができる。
【0068】
なお、軟化点T1/2は、例えば、フローテスタを用い、サンプル量:1g、ダイ孔径:1mm、ダイ長さ:1mm、荷重:20kgf、予熱時間:300秒、測定開始温度:50℃、昇温速度:5℃/分という条件で測定したときに得られる、図3に示すような解析用フローチャートのh/2に相当するフロー曲線上の点の温度として求めることができる。
また、非晶性ポリエステルは、リニア型ポリマー(架橋構造を有さないポリマー)であるのが好ましい。リニア型ポリマーは、架橋型のものに比べて、摩擦係数が小さい。これにより、特に優れた離型性が得られ、トナーの転写効率がさらに向上する。
【0069】
以上説明したように、ブロックポリエステルと、非晶性ポリエステルとを併用した場合、前述したような、ブロックポリエステルが有する特長と、非晶性ポリエステルが有する特長とを両立することができる。これにより、最終的に得られるトナーは、機械的ストレスに強く(十分な物理的安定性を有し)、かつ、幅広い温度領域で十分な定着性(定着強度)を発揮することが可能なものとなる。
【0070】
ブロックポリエステルと、非晶性ポリエステルとの配合比は、重量比で5:95〜45:55であるのが好ましく、10:90〜30:70であるのがより好ましい。ブロックポリエステルの配合比が低くなりすぎると、トナーの耐オフセット性を十分に向上させるのが困難になる可能性がある。一方、非晶性ポリエステルの配合比が低くなりすぎると、十分な低温定着性や透明性が得られない可能性がある。また、非晶性ポリエステルの配合比が低くなりすぎると、乳化液3の調製に用いる混練物K7を効率良く、均一な大きさに粉砕するのが困難となる。また、非晶性ポリエステルの配合比が低くなりすぎると、例えば、乳化液3の微粒子(液滴9)を固化する際における分散質(分散粒子)31の凝集性(結合力)を十分に高めるのが困難となる場合がある。
また、樹脂(バインダー樹脂)は、前述したブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステル以外の成分(第3の樹脂成分)を含むものであってもよい。
【0071】
ブロックポリエステル(第1のポリエステル)および非晶性ポリエステル(第2のポリエステル)以外の樹脂成分(第3の樹脂成分)としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、クロロポリスチレン、スチレン−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体等のスチレン系樹脂でスチレンまたはスチレン置換体を含む単重合体または共重合体、ポリエステル樹脂(前述したブロックポリエステル、非晶性ポリエステルとは異なるもの)、エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェニール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
2.着色剤
また、トナーは、通常、着色剤を含んでいる。着色剤としては、例えば、顔料、染料等を使用することができる。このような顔料、染料としては、例えば、カーボンブラック、スピリットブラック、ランプブラック(C.I.No.77266)、マグネタイト、チタンブラック、黄鉛、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、パーマネントイエローNCG、クロムイエロー、ベンジジンイエロー、キノリンイエロー、タートラジンレーキ、赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、ベンジジンオレンジG、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、ウオッチングレッドカルシウム塩、エオシンレーキ、ブリリアントカーミン3B、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBC、群青、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、カルコオイルブルー、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、ファイナルイエローグリーンG、ローダミン6G、キナクリドン、ローズベンガル(C.I.No.45432)、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド4、C.I.アシッドレッド1、C.I.ベーシックレッド1、C.I.モーダントレッド30、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ダイレクトブルー1、C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー15、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー5、C.I.モーダントブルー7、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー5:1、C.I.ダイレクトグリーン6、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックグリーン6、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー162、ニグロシン染料(C.I.No.50415B)、金属錯塩染料、シリカ、酸化アルミニウム、マグネタイト、マグヘマイト、各種フェライト類、酸化第二銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、Fe、Co、Niのような磁性金属を含む磁性材料等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
3.ワックス
また、本発明のトナーは、ワックスを含むものであってもよい。ワックスは、通常、離型性を向上させる目的で用いられるものである。
ワックスとしては、例えば、オゾケライト、セルシン、パラフィンワックス、マイクロワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャー・トロプシュワックス等の炭化水素系ワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、キャンデリラワックス、綿ロウ、木ロウ、ミツロウ、ラノリン、モンタンワックス、脂肪酸エステル等のエステル系ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス等のオレフィン系ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド等のアミド系ワックス、ラウロン、ステアロン等のケトン系ワックス、エーテル系ワックス等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記材料の中でも、特にエステル系ワックス(例えばカルナウバワックスやライスワックス等)を用いた場合には、下記のような効果が得られる。
【0074】
エステル系ワックスは、前述したポリエステル系樹脂と同様に、分子内にエステル構造を有しており、ポリエステル系樹脂との相溶性に優れる。このため、バインダー樹脂として、前述したようなポリエステル樹脂を用いた場合に、最終的に得られるトナー粒子中における遊離ワックスの発生、粗大化を防止することができる(トナー中でのワックスの微分散やミクロ相分離を容易に達成できる)。その結果、最終的に得られるトナーは、定着ローラとの離型性が特に優れたものとなる。
【0075】
ワックスの融点Tは、特に限定されないが、30〜160℃であるのが好ましく、50〜100℃であるのがより好ましい。なお、例えば、示差走査熱量分析(DSC)により、昇温速度:10℃/分で200℃まで昇温し、さらに降温速度:10℃/分で降温した後、昇温速度:10℃/分で昇温する条件での測定から、融点Tと融解熱とを求めることができる。
【0076】
また、例えば、前述したワックス以外にも、ワックス効果を付与できる成分として低融点のポリエステル(以下、「低融点ポリエステル」とも言う)を用いることができる。低融点とは、例えば、融点Tが70〜90℃程度のものが好ましい。また、低融点ポリエステルの重量平均分子量Mwは、3500〜6500程度であるのが好ましい。また、低融点ポリエステルは、脂肪族モノマーの重合体であるのが好ましい。低融点ポリエステルが、このような条件(少なくとも1つ、好ましくは2つ以上)を満足するものであると、前述したポリエステル系樹脂との相溶性(分散性)が特に優れたものになるとともに、トナーの耐久性を阻害せずにトナーの離型性を付与することができる。また、融点が比較的低いことにより、低温定着性を向上させることができる。
【0077】
4.その他の成分
また、本発明のトナーは、構成材料としてこれら以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、帯電制御剤、磁性粉末、外添剤等が挙げられる。
帯電制御剤としては、例えば、安息香酸の金属塩、サリチル酸の金属塩、アルキルサリチル酸の金属塩、カテコールの金属塩、含金属ビスアゾ染料、ニグロシン染料、テトラフェニルボレート誘導体、第四級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩素化ポリエステル、ニトロフニン酸等が挙げられる。
【0078】
磁性粉末としては、例えば、マグネタイト、マグヘマイト、各種フェライト類、酸化第二銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、Fe、Co、Niのような磁性金属を含む磁性材料で構成されたもの等が挙げられる。
なお、外添剤については、後に詳述する。
【0079】
また、トナー中には、上記のような材料のほかに、例えば、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、脂肪酸、脂肪酸金属塩等が含まれていてもよい。
また、トナー中には、後述する乳化液の調製時等に用いられる成分の少なくとも一部(例えば、溶媒、分散媒、分散剤、分散助剤、乳化剤等)が、含まれていてもよい。
【0080】
<混練物>
次に、上記のような成分の少なくとも一部を含む原料K5を用いて、混練物K7を得る方法の一例について説明する。
混練物K7は、例えば、図1に示すような装置を用いて製造することができる。
【0081】
[混練工程]
混練に供される原料K5は、少なくとも、トナーの構成材料としての樹脂(ただし、ここでの「樹脂」は、樹脂そのもののほか、樹脂の前駆体(例えば、対応するモノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、プレポリマー等)を含むものとする)を含むものであり、通常、着色剤等の樹脂以外の成分を含むものである。混練に供される原料K5は、これらの各成分が予め混合されたものであるのが好ましい。
【0082】
本実施形態では、混練機として、2軸混練押出機を用いる構成について説明する。
混練機K1は、原料K5を搬送しつつ混練するプロセス部K2と、混練された原料(混練物K7)を所定の断面形状に形成して押し出すヘッド部K3と、プロセス部K2内に原料K5を供給するフィーダーK4とを有している。
【0083】
プロセス部K2は、バレルK21と、バレルK21内に挿入されたスクリューK22、スクリューK23と、バレルK21の先端にヘッド部K3を固定するための固定部材K24とを有している。
プロセス部K2では、スクリューK22、スクリューK23が、回転することにより、フィーダーK4から供給された原料K5に剪断力が加えられ、均一な混練物K7(特に、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)が2種以上の成分(例えば、前述したようなブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステル)を含むものである場合、これらの樹脂成分が十分に微分散または相溶化した混練物K7)が得られる。
【0084】
プロセス部K2の全長は、50〜300cmであるのが好ましく、100〜250cmであるのがより好ましい。プロセス部K2の全長が前記下限値未満であると、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)が2種以上の成分(例えば、前述したようなブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステル)を含むものである場合、これらの樹脂成分を十分に微分散または相溶化させることが困難となる可能性がある。一方、プロセス部K2の全長が前記上限値を超えると、プロセス部K2内の温度、スクリューK22、スクリューK23の回転数等によっては、熱による原料K5の変性が起こり易くなり、最終的に得られるトナーの物性を十分に制御するのが困難になる可能性がある。
【0085】
また、混練時の原料温度は、原料K5の組成等により異なるが、80〜260℃であるのが好ましく、90〜230℃であるのがより好ましい。なお、プロセス部K2内での原料温度は、均一であっても、部位により異なるものであってもよい。例えば、プロセス部K2は、設定温度の比較的低い第1の領域と、該第1の領域より基端側に設けられ、かつ、その設定温度が第1の領域より高い第2の領域とを有するようなものであってもよい。
【0086】
また、原料K5のプロセス部K2での滞留時間(通過に要する時間)は、0.5〜12分であるのが好ましく、1〜7分であるのがより好ましい。プロセス部K2での滞留時間が、前記下限値未満であると、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)が2種以上の成分(例えば、前述したようなブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステル)を含むものである場合、これらの樹脂成分を十分に微分散または相溶化させることが困難となる可能性がある。一方、プロセス部K2での滞留時間が、前記上限値を超えると、生産効率が低下し、また、プロセス部K2内の温度、スクリューK22、スクリューK23の回転数等によっては、熱による原料K5の変性が起こり易くなり、最終的に得られるトナーの物性を十分に制御するのが困難になる可能性がある。
【0087】
スクリューK22、スクリューK23の回転数は、バインダー樹脂の組成等により異なるが、50〜600rpmであるのが好ましい。スクリューK22、スクリューK23の回転数が、前記下限値未満であると、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)が2種以上の成分(例えば、前述したようなブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステル)を含むものである場合、これらの樹脂成分を十分に微分散または相溶化させることが困難となる可能性がある。一方、スクリューK22、スクリューK23の回転数が、前記上限値を超えると、剪断により、樹脂の分子鎖が切断され、樹脂の特性が劣化する場合がある。
【0088】
また、本実施形態で用いる混練機K1では、プロセス部K2の内部は、脱気口K25を介して、ポンプPに接続されている。これにより、プロセス部K2の内部を脱気することができ、原料K5(混練物K7)が加熱されたり、発熱すること等によるプロセス部K2内の圧力の上昇を防止することができる。その結果、混練工程を安全かつ効率よく行うことができる。また、プロセス部K2の内部が脱気口K25を介してポンプPに接続されていることにより、得られる混練物K7中に気泡(特に、比較的大きな気泡)が含まれるのを効果的に防止することができ、最終的に得られるトナーの特性をより優れたものとすることができる。
【0089】
[押出工程]
プロセス部K2で混練された混練物K7は、スクリューK22とスクリューK23との回転により、ヘッド部K3を介して、混練機K1の外部に押し出される。
ヘッド部K3は、プロセス部K2から混練物K7が送り込まれる内部空間K31と、混練物K7が押し出される押出口K32とを有している。
【0090】
内部空間K31内での混練物K7の温度(少なくとも押出口K32付近での温度)は、特に限定されないが、80〜150℃であるのが好ましく、90〜140℃であるのがより好ましい。内部空間K31内での混練物K7の温度が上記範囲内の値であると、混練物K7が内部空間K31で固化せず、押出口K32から押し出しやすくなる。
【0091】
図示の構成では、内部空間K31は、押出口K32の方向に向って、その横断面積が漸減する横断面積漸減部K33を有している。このような横断面積漸減部K33を有することにより、押出口K32から押し出される混練物K7の押出量が安定し、また、後述する冷却工程における混練物K7の冷却速度が安定する。その結果、これを用いて製造されるトナーは、各トナー粒子間での特性のバラツキが小さいものとなり、全体としての特性に優れたものになる。
【0092】
[冷却工程]
ヘッド部K3の押出口K32から押し出された軟化した状態の混練物K7は、冷却機K6により冷却され、固化する。
冷却機K6は、ロールK61、K62、K63、K64と、ベルトK65、K66とを有している。
ベルトK65は、ロールK61とロールK62とに巻掛けられている。同様に、ベルトK66は、ロールK63とロールK64とに巻掛けられている。
【0093】
ロールK61、K62、K63、K64は、それぞれ、回転軸K611、K621、K631、K641を中心として、図中e、f、g、hで示す方向に回転する。これにより、混練機K1の押出口K32から押し出された混練物K7は、ベルトK65−ベルトK66間に導入される。ベルトK65−ベルトK66間に導入された混練物K7は、ほぼ均一な厚さの板状となるように成形されつつ、冷却される。冷却された混練物K7は、排出部K67から排出される。ベルトK65、K66は、例えば、水冷、空冷等の方法により、冷却されている。冷却機として、このようなベルト式のものを用いると、混練機から押し出された混練物と、冷却体(ベルト)との接触時間を長くすることができ、混練物の冷却の効率を特に優れたものとすることができる。
【0094】
ところで、混練工程では、原料K5に剪断力が加わっているため、相分離(特に、マクロ相分離)等が十分防止されているが、混練工程を終えた混練物K7は、剪断力が加わらなくなるので、長期間放置しておくと、再び相分離(マクロ相分離)等を起こしてしまう可能性がある。従って、上記のようにして得られた混練物K7は、できるだけ早く冷却するのが好ましい。具体的には、混練物K7の冷却速度(例えば、混練物K7が60℃程度まで冷却される際の冷却速度)は、−3℃/秒以上であるが好ましく、−5〜−100℃/秒であるのがより好ましい。また、混練工程の終了時(剪断力が加わらなくなった時点)から冷却工程が完了するまでに要する時間(例えば、混練物K7の温度を60℃以下に冷却するのに要する時間)は、20秒以下であるのが好ましく、3〜12秒であるのがより好ましい。
【0095】
前述した実施形態では、混練機として、連続式の2軸混練押出機を用いる構成について説明したが、原料の混練に用いる混練機はこれに限定されない。原料の混練には、例えば、ニーダーやバッチ式の三軸ロール、連続2軸ロール、ホイールミキサー、ブレード型ミキサー等の各種混練機を用いることができる。
また、図示の構成では、スクリューを2本有する構成の混練機について説明したが、スクリューは1本であってもよいし、3本以上であってもよい。また、混練装置にディスク(ニーディングディスク)部があってもよい。
【0096】
また、本実施形態では、1つの混練機を用いる構成について説明したが、2つの混練機を用いて混練してもよい。この場合、一方の混練機と、他方の混練機とで、原料の加熱温度、スクリューの回転速度等が異なっていてもよい。
また、前述した実施形態では、冷却機として、ベルト式のものを用いた構成について説明したが、例えば、ロール式(冷却ロール式)の冷却機を用いてもよい。また、混練機の押出口K32から押し出された混練物の冷却は、前記のような冷却機を用いたものに限定されず、例えば、空冷等により行うものであってもよい。
【0097】
[粉砕工程]
次に、上述したような冷却工程を経た混練物K7を粉砕する。このように、混練物K7を粉砕することにより、後述する乳化液3(液滴9)における分散質31の分散性を特に優れたものとすることができる。したがって、最終的に得られるトナーにおいても、各粒子間での組成、特性のバラツキが小さくなる。その結果、得られるトナーは、全体としての特性が特に優れたものとなる。
【0098】
粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。
粉砕の工程は、複数回(例えば、粗粉砕工程と微粉砕工程との2段階)に分けて行ってもよい。
また、このような粉砕工程の後、必要に応じて、分級処理等の処理を行ってもよい。
【0099】
分級処理には、例えば、ふるい、気流式分級機等を用いることができる。
本発明では、上記のような混練物を用いて、乳化液を調製する。
乳化液3の調製に混練物K7を用いることにより、以下のような効果が得られる。すなわち、トナーの構成材料中に、互いに分散または相溶し難い成分を含む場合であっても、混練を施すことにより、得られる混練物中においては、各成分が十分に相溶、微分散した状態とすることができる。特に、顔料(着色剤)は、通常、後述するような溶媒として用いられる液体に対する分散性が低いが、溶媒に分散する前に予め混練が施されることにより、顔料粒子の周囲を樹脂成分等が効果的にコーティングすることとなり、これにより、溶媒への顔料の分散性が向上し(特に溶媒への微分散が可能となり)、最終的に得られるトナーの発色性も良好となる。このようなことから、トナーの構成材料中に、後述する乳化液の分散媒に対する分散性に劣る成分(以下、「難分散性成分」とも言う。)や乳化液の分散媒に含まれる溶媒に対する溶解性に劣る成分(以下、「難溶性成分」とも言う。)が含まれる場合であっても、乳化液3(液滴9)における分散質31の分散性を特に優れたものとすることができる。その結果、最終的に得られるトナーにおいても、各粒子間での組成、特性のバラツキが小さくなる。その結果、得られるトナーは、全体としての特性が特に優れたものとなる。
【0100】
これに対し、乳化液の調製に、混練を施していない原料を用いると、難分散性成分や難溶性成分が、凝集して乳化液中で沈降したり、主として難分散性成分や難溶性成分で構成され、他の成分と十分に混ざり合っていない粒径の比較的大きい分散質が乳化液中に存在することとなり(主として難分散性成分および/または難溶性成分で構成された大粒径の分散質と、主として難分散性成分、難溶性成分以外の成分で構成された分散質とが混在することとなり)、後に詳述する粒状体製造工程において、分散質の凝集体としての粒状体(トナー母粒子)を得た場合に、各粒子間での組成、大きさ、形状等のバラツキが大きくなる。その結果、トナー全体としての特性が低下する。
【0101】
また、上記のようにして得られる混練物の粉砕物を、後述するような乳化液の調製に用いることなく、直接、トナー母粒子とする場合、トナー中における構成成分の均一性(分散性)を高めるには限界があった。特に、異なる2種以上の樹脂成分を含む場合には、得られるトナー中における、構成成分の均一性は特に低いものとなる。また、このような方法では、一般に比較的強固な凝集体である(強固な凝集体となり易い)顔料の分散(微分散)は、特に困難となる。
【0102】
これに対し、本発明では、上記のような混練物を、乳化液の調製に用い、この乳化液を液滴(微粒子)として噴射し、これを固化させる(少なくとも分散媒を除去することにより複数個の分散質を凝集させる)ことにより、得られるトナーは、各成分が十分均一に相溶、分散(微分散)したものとなる。
次に、上記のような混練物(冷却固化した混練物)を用いて調製される乳化液3および乳化液3の調製方法について説明する。
【0103】
<乳化液>
上述したように、本発明のトナーは、分散液としての乳化液3を用いて製造されるものである。以下、乳化液3の構成および乳化液3の調製方法について説明する。
[乳化液の構成]
まず、乳化液3の構成について説明する。
乳化液3は、分散媒32中に分散質(分散相)31が微分散した構成となっている。
【0104】
1.分散媒
分散媒32は、後述する分散質31を分散可能なものであればいかなるものであってもよいが、主として、一般に溶媒として用いられているような材料で構成されたものであるのが好ましい。
このような材料としては、例えば、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、2−メトキシエタノール等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、フルフリルアルコール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化合物系溶媒、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系溶媒、アクリロニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系溶媒、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、アクリルアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等の有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0105】
上記の材料の中でも、分散媒32としては、主として水および/または水溶性の液体(水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体))で構成されたものであるのが好ましい。これにより、例えば、分散媒32中における分散質31の分散性を高めることができ、乳化液3中における分散質31を、粒径が比較的小さく、かつ、大きさのバラツキの少ないものとすることができる。その結果、得られるトナー母粒子(粒状体)4は、粒子間での大きさ、形状のバラツキが小さく、円形度が比較的大きいものとなる。
【0106】
また、分散媒32の構成材料として複数の成分の混合物を用いる場合、分散媒32の構成材料としては、前記混合物を構成する少なくとも2種の成分の間で、共沸混合物(最低沸点共沸混合物)を形成し得るものを用いるのが好ましい。これにより、後述するトナー製造装置の固化部等において、分散媒32を効率良く除去することが可能となる。また、後述するトナー製造装置の固化部等において、比較的低い温度で分散媒32を除去することが可能となり、得られるトナー母粒子(粒状体)4の特性の劣化をより効果的に防止できる。例えば、水との間で、共沸混合物を形成し得る液体としては、二硫化炭素、四塩化炭素、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,4−ジオキサン、アニソール、2−メトキシエタノール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、フルフリルアルコール、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン、アクリロニトリル、アセトニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、アクリルアルデヒド等が挙げられる。
【0107】
また、分散媒32の沸点は、特に限定されないが、180℃以下であるのが好ましく、150℃以下であるのがより好ましく、35〜130℃であるのがさらに好ましい。このように、分散媒32の沸点が比較的低いものであると、後述するトナー製造装置の固化部等において、分散媒32を比較的容易に除去することが可能となる。また、分散媒32としてこのような材料を用いることにより、得られるトナー母粒子4中における分散媒32の残留量を特に少ないものにすることができる。その結果トナーとしての信頼性がさらに高まる。
なお、分散媒32中には、上述した材料以外の成分が含まれていてもよい。例えば、分散媒32中には、分散質31の構成成分の一部や、シリカ、酸化チタン、酸化鉄等の無機系微粉末、脂肪酸、脂肪酸金属塩、高分子重合微粉末等の有機系微粉末等の各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0108】
2.分散質
分散質31は、少なくとも、主成分としての樹脂(バインダー樹脂)を含む材料で構成されており、通常、前述した混練物K7の構成成分の大部分を含む材料で構成されている。
分散質31中における樹脂の含有量は、特に限定されないが、2〜98wt%であるのが好ましく、5〜95wt%であるのがより好ましい。分散質31中における樹脂の含有量が前記下限値未満であると、最終的に得られるトナーの、紙等の記録媒体への接合強度(定着強度)が低下するとともに、樹脂以外の成分(添加剤)が最終的に得られるトナー粒子から離脱し易くなるため、感光体等を汚染し易くなり、耐久性が低下する場合がある。一方、分散質31中における樹脂の含有量が前記上限値を超えると、最終的に得られるトナー中における着色剤の含有量が相対的に低くなるため、着色性が不足し、画像濃度が十分に得られない可能性がある。ただし、ここでの、「分散質31中における樹脂の含有量」は、分散質31中に後述するような溶媒が含まれない場合の含有量のことを指し、分散質31中に後述するような溶媒が含まれる場合においては、「溶媒を除く分散質31の構成成分中での樹脂の含有量」のことを指す。また、以下で説明する樹脂以外の構成成分(着色剤、ワックス)の含有量についても同様に、分散質31中に後述するような溶媒が含まれない場合の含有量のことを指し、分散質31中に後述するような溶媒が含まれる場合においては、「溶媒を除く分散質31の構成成分中での含有量」のことを指す。
また、前述した混練物K7の調製に着色剤を含む原料K5を用いた場合、当該着色剤は、乳化液3(液滴9)中においては、通常、分散質31中に含まれる。
【0109】
分散質31中における着色剤の含有量は、特に限定されないが、1〜10wt%であるのが好ましく、2〜8wt%であるのがより好ましい。着色剤の含有量が前記下限値未満であると、着色剤の種類によっては、十分な濃度の可視像を形成するのが困難になる可能性がある。一方、着色剤の含有量が前記上限値を超えると、最終的に得られるトナーの定着特性や帯電特性が低下する可能性がある。
また、前述した混練物K7の調製にワックスを含む原料K5を用いた場合、当該ワックスは、乳化液3(液滴9)中においては、通常、分散質31中に含まれる。
【0110】
分散質31中におけるワックスの含有量は、特に限定されないが、10wt%以下であるのが好ましく、5wt%以下であるのがより好ましい。ワックスの含有量が多すぎると、最終的に得られるトナー粒子中において、ワックスが遊離、粗大化して、トナー粒子表面へのワックスのしみ出し等が顕著に起こり、トナーの転写効率が低下する傾向を示す。
【0111】
ところで、乳化液は、液状の分散質を含む分散液のことを指す。乳化液を構成する分散質は、該分散質を構成する成分の少なくとも一部が軟化または溶融することにより液状となったものであってもよいが、分散質を構成する成分の少なくとも一部(特に、バインダー樹脂の少なくとも一部)を溶解することが可能な溶媒を含むものであるのが好ましい。これにより、乳化液中において、各分散質が十分に均一な大きさ、形状を有するものとして存在することができる。その結果、最終的に得られるトナーは、各トナー粒子間での大きさ、形状のバラツキが特に小さいものとなる。また、乳化液の分散媒が溶媒を含むものであると、後述する粒状体製造工程で得られるトナー母粒子(粒状体)4は、トナー母粒子4を構成する複数個の分散質31がより強固に結合したものとなり、最終的に得られるトナー粒子は、耐久性、保存性等に優れたものとなる。
【0112】
分散質31を構成する溶媒としては、混練物K7の構成材料(特に、樹脂)の少なくとも一部を溶解することが可能なものであればいかなるものであってもよいが、後述する粒状体製造工程において、容易に除去されるものであるのが好ましい。
また、溶媒は、前述した分散媒32との相溶性が低いもの(例えば、25℃における分散媒100gに対する溶解度が30g以下のもの)であるのが好ましい。これにより、乳化液3(液滴9)中において、分散質31を安定した状態(安定した大きさ、形状)で微分散させることができる。
【0113】
また、溶媒の組成は、例えば、前述した樹脂の組成(例えば、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとの配合比率、ブロックポリエステルおよび非晶性ポリエステルの平均分子量、構成モノマー等)や、着色剤の組成、分散媒32の組成等に応じて適宜選択することができる。例えば、溶媒としては、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、2−メトキシエタノール等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、フルフリルアルコール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、四塩化炭素等のハロゲン化合物系溶媒、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系溶媒、アクリロニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系溶媒、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、アクリルアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等の有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができる。この中でも、好ましくは有機溶媒を含むもの、より好ましくはケトン系溶媒(さらに好ましくは、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)等)、エーテル系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒(さらに好ましくは、シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素系溶媒(さらに好ましくは、トルエン、エチルベンゼン等)、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒(さらに好ましくは、クロロホルム、トリクロロエチレン、四塩化炭素等)、エステル系溶媒(さらに好ましくは、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等)、アミン系溶媒、ニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、アルデヒド系溶媒等から選択される1種または2種以上を含むものである。このような溶媒を用いることにより、乳化液3(液滴9)中において、分散質31をより安定した状態(安定した大きさ、形状)で微分散させることができるとともに、後述する粒状体製造工程等において、容易かつ確実に分散質31から溶媒を除去することができる。これにより、得られるトナーは、各トナー粒子間での特性のバラツキが小さく、かつ、定着工程等において異臭等の問題を発生し難いものとなる。
【0114】
また、分散質31の構成材料として上記のような溶媒を用いる場合(分散質31が溶媒を含むものである場合)、以下のような条件を満足するのが好ましい。すなわち、溶媒(混練物K7の構成材料の少なくとも一部を溶解することが可能な溶媒)の大気圧下における沸点をTbp(sol)[℃]、乳化液の分散媒として用いられる液体の大気圧下における沸点をTbp(dm)[℃]としたとき、|Tbp(dm)−Tbp(sol)|≦40の関係を満足するのが好ましい。このような関係を満足することにより、後述する粒状体製造工程等において、容易かつ確実に、分散媒32とともに分散質31から溶媒を除去することができる。また、Tbp(sol)とTbp(dm)との間では、−30<Tbp(dm)−Tbp(sol)<40の関係を満足するのがより好ましく、−20<Tbp(dm)−Tbp(sol)<40の関係を満足するのがさらに好まし好ましく、0≦Tbp(dm)−Tbp(sol)<40の関係を満足するのが最も好ましい。このような関係を満足することにより、粒状体製造工程を十分円滑に行いつつ、分散質31の内部から溶媒が急激に気化(沸騰)するのをより確実に防止することができる。その結果、得られるトナー母粒子4は、各粒子間での形状、大きさのバラツキが特に小さいものとなる。
【0115】
また、分散質31が上記のような溶媒を含むものである場合、乳化液3中における溶媒の含有量は、50wt%以下であるのが好ましく、40wt%以下であるのがより好ましく、15〜35wt%であるのがさらに好ましい。乳化液3中における溶媒の含有量がこのような範囲内の値であると、後述する粒状体製造工程等において、容易かつ確実に、分散媒32とともに分散質31から溶媒を除去することができ、最終的に得られるトナー中における溶媒の残存を十分に少なくする(または実質的に溶媒が残存していないものとする)ことができる。これに対し、乳化液3中おける溶媒の含有量が多すぎると、後述する粒状体製造工程等において、乳化液3(液滴9)から溶媒を十分に除去することが困難になる場合がある。また、溶媒の含有量が少なすぎると、乳化液3の流動性が低下し、乳化液3を微粒子化して(液滴9として)噴射するのが困難となる場合がある。
また、乳化液3中には、上記以外の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、分散剤(乳化分散剤)、分散助剤等が挙げられる。この中でも、分散剤、分散助剤を用いた場合、例えば、乳化液3(液滴9)中における分散質31の分散性を向上させることが可能となる。
【0116】
分散剤としては、例えば、燐酸三カルシウム等の無機系分散剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールラウリン酸ジエステル等の非イオン性有機分散剤、トリステアリン酸金属塩(例えば、アルミニウム塩等)、ジステアリン酸金属塩(例えば、アルミニウム塩、バリウム塩等)、ステアリン酸金属塩(例えば、カルシウム塩、鉛塩、亜鉛塩等)、リノレン酸金属塩(例えば、コバルト塩、マンガン塩、鉛塩、亜鉛塩等)、オクタン酸金属塩(例えば、アルミニウム塩、カルシウム塩、コバルト塩等)、オレイン酸金属塩(例えば、カルシウム塩、コバルト塩等)、パルミチン酸金属塩(例えば、亜鉛塩等)、ナフテン酸金属塩(例えば、カルシウム塩、コバルト塩、マンガン塩、鉛塩、亜鉛塩等)、レジン酸金属塩(例えば、カルシウム塩、コバルト塩、マンガン塩、鉛塩、亜鉛塩等)、ポリアクリル酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリメタクリル酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリマレイン酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、アクリル酸−マレイン酸共重合体金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)等のアニオン性有機分散剤、4級アンモニウム塩等のカチオン性有機分散剤等が挙げられる。この中でも、非イオン性有機分散剤またはアニオン性有機分散剤が特に好ましい。
【0117】
乳化液3中における分散剤の含有量は、特に限定されないが、3.0wt%以下であるのが好ましく、0.01〜1.0wt%であるのがより好ましい。
また、分散助剤としては、例えば、アニオン、カチオン、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
分散助剤は、分散剤と併用せずに単独で用いてもよいが、分散剤と併用するものであるのが好ましい。乳化液3が分散剤を含むものである場合、乳化液3中における分散助剤の含有量は、特に限定されないが、2.0wt%以下であるのが好ましく、0.005〜0.5wt%であるのがより好ましい。
また、乳化液3中には、分散質31以外の成分が、不溶分として分散していてもよい。例えば、乳化液3中には、シリカ、酸化チタン、酸化鉄等の無機系微粉末、脂肪酸、脂肪酸金属塩等の有機系微粉末等が分散していてもよい。
【0118】
ところで、乳化液3では、分散質31が分散媒32中に微分散した状態となっている。
乳化液3中における分散質31の平均粒径dは、特に限定されないが、0.08〜1.2μmであるのが好ましく、0.15〜0.75μmであるのがより好ましい。分散質31の平均粒径がこのような範囲の値であると、最終的に得られるトナー母粒子4は、適度な円形度を有し、各粒子間での特性、形状の均一性に優れたものとなる。これに対し、乳化液3中における分散質31の平均粒径dが小さすぎると、得られるトナー母粒子(粒状体)4の粒径が小さくなりすぎたり、乳化液3の流動性が低下し、後述する粒状体製造工程において、十分に均一な大きさの液滴9を噴射するのが困難になる可能性がある。また、乳化液3中における分散質31の平均粒径dが大きすぎると、得られるトナー母粒子(粒状体)4の粒径が大きくなりすぎたり、トナー母粒子(粒状体)4の円形度を十分に大きくするのが困難となる可能性がある。
【0119】
乳化液3中における分散質31の含有量は、特に限定されないが、10〜50wt%であるのが好ましく、20〜40wt%であるのがより好ましく、25〜35wt%であるのがさらに好ましい。分散質31の含有量が前記下限値未満であると、得られるトナー母粒子(粒状体)4の円形度が低下する傾向を示す。また、固化する際に、熱エネルギーを多く必要とする場合がある。一方、分散質31の含有量が前記上限値を超えると、分散媒32の組成等によっては、乳化液3の粘性が高くなり、得られるトナー母粒子(粒状体)4の形状、大きさのバラツキが大きくなる傾向を示す。また、分散質31の含有量が前記上限値を超えると、後述する粒状体製造工程において、乳化液3の液滴を十分に微粒子化して吐出(噴射)するのが困難となる可能性がある。
【0120】
また、分散媒32中に分散している分散質31は、例えば、各粒子間で、ほぼ同一の組成を有するものであってもよいし、異なる組成を有するものであってもよい。分散質31が、各粒子間で、異なる組成を有するものである場合、例えば、乳化液3は、分散質31として、主として樹脂材料で構成されたものと、主としてワックスで構成されたものとを含むようなものであってもよい。
【0121】
[乳化液の調製方法(乳化液調製工程)]
以上説明したような乳化液3は、例えば、以下のようにして調製することができる(以下のような乳化液調製工程を経て調製することができる)。
(1)第1の方法
まず、水または水溶性の(水との相溶性に優れる)液体に、必要に応じて分散剤および/または分散助剤を添加した水性液を用意する。
一方、混練物K7を含む樹脂液を調製する。樹脂液は、例えば、混練物K7に加えて、混練物K7の構成材料(特に、樹脂)の少なくとも一部を溶解することが可能な溶媒を用いることにより調製することができる。樹脂液の調製に用いる溶媒としては、前述した[乳化液の構成]で挙げたものを好適に用いることができる。
次に、上記樹脂液を、攪拌した状態の水性液中に、徐々に滴下しながら加えていくことにより、水性の分散媒32中に、樹脂材料を含む分散質31が分散した乳化液3が得られる。
【0122】
このような方法で、乳化液3を調製することにより、乳化液3(液滴9)中における分散質31の円形度をさらに高めることができる。その結果、トナー母粒子(粒状体)4は、円形度が十分に高く、各粒子間での形状のバラツキが特に小さいものとなる。なお、樹脂液の滴下を行う際、水性液および/または樹脂液を加熱しておいてもよい。また、このような方法を用いると、乳化液3中の分散質31の粒径を適度な大きさに制御することができる。
【0123】
また、乳化液3は、以下のような方法によっても、調製することができる。
(2)第2の方法
まず、少なくとも樹脂材料を含む混練物K7を分散してなる樹脂分散液(樹脂乳化液)と、少なくとも着色剤を分散してなる着色剤分散液(着色剤乳化液)とを調製する。
次に、樹脂分散液と、着色剤分散液とを混合・攪拌する。このとき、必要に応じて、攪拌しながら無機金属塩等の凝集剤を加えてもよい。
所定時間、攪拌することにより、樹脂材料、着色剤等が適度な大きさに凝集した凝集体が形成される。その結果、前記凝集体が分散質31として分散した乳化液3が得られる。このような方法を用いると、乳化液3中の分散質31の粒径を適度な大きさに制御することができる。
【0124】
なお、乳化液の調製方法は、上記のような方法に限定されずいかなるものであってもよい。例えば、上述したような水性液を攪拌しつつ、混練物K7の粉砕物を加え懸濁液とし、この懸濁液を加熱(加温)することにより、分散質としての混練物K7の粉砕物を溶融させ、乳化液を調製してもよい。また、混練物K7の粉砕物を加温した状態の水性液中に加えることにより、直接(懸濁液を経由せずに)、乳化液を調製してもよい。
【0125】
<粒状体製造工程およびトナー母粒子(粒状体)>
本発明では、上述したような乳化液(混練物を用いて調製された乳化液)を以下に詳述するような粒状体製造工程に供することにより、分散質の集合体(分散質の構成成分の一部または全部の集合体)としての粒状体(トナー母粒子4)を得る点に特徴を有する。すなわち、本発明では、上述したような乳化液(混練物を用いて調製された乳化液)から、分散媒(分散質中に溶媒を含む場合は、「分散媒および溶媒」。以下、このような場合についても、単に、「分散媒」と言う。)を除去することにより、分散質の集合体(分散質の構成成分の一部または全部の集合体)としての粒状体(トナー母粒子4)を得る点に特徴を有する。これにより、得られる粒状体は、各粒子間での形状、大きさ、組成等のバラツキが特に小さいものとなる。すなわち、上記のように、粒状体が複数個の分散質31の集合体として得られるものであると、乳化液3を構成する分散質31が、各粒子間での(個々の分散質粒子間での)形状、大きさ、組成等のバラツキが比較的大きい場合であっても、得られる粒状体は、各粒子間での形状、大きさ、組成等のバラツキが小さいものとなる。その結果、最終的に得られるトナーは、各粒子間(トナー粒子間)での形状、大きさ、組成等のバラツキが特に小さいものとなり、トナー全体としての特性が優れたものとなり、信頼性も向上する。また、粒状体製造工程の後に、分級処理、熱球形化処理、機械的表面改質等の処理を施す場合であっても、このような処理を簡素化したり、温和な条件で行うことができる。
【0126】
これに対し、分散媒を除去することにより得られる粒状体が、上記のような分散質の集合体として得られない場合、すなわち、各分散質粒子が、それぞれ、独立した粒状体(トナー母粒子)を形成する場合、最終的に得られるトナーは、各トナー粒子間での形状、大きさ、組成等のバラツキが大きくなる。その結果、トナー全体としての特性が低下し、信頼性も低いものとなる。また、このような場合、後述する粒状体製造工程の後に分級処理を施したとしても、各粒子間での大きさのバラツキを十分に小さくするのは困難であり、また、トナー製造の歩留りも、本発明に比べて著しく低いものとなる。
【0127】
また、上述したように、各分散質粒子がそれぞれ独立した粒状体(トナー母粒子)を形成する場合、得られる粒状体は、形状のバラツキの大きいものとなる。このような形状のバラツキを抑制するために、粒状体の形成時または粒状体の形成後に、熱球形化処理を施すことも考えられるが、このような場合(特に、粒状体の形成時に熱球形化を行う場合)、熱球形化処理の条件を比較的過酷なものとしなければ、得られる粒状体の形状のバラツキを十分に小さくするのが困難であり、粒状体の構成材料の劣化や、粒状体中での各構成成分の相溶化状態、微分散状態の破壊を招き易く、最終的に得られるトナーにおいて、十分な特性を発揮させるのが困難となる。
【0128】
なお、分散液としては、乳化液の他に、懸濁液(サスペンション)も挙げられるが、上述したように、本発明は、分散液の中でも特に、分散質が液状である乳化液を用いる点に特徴を有するものであり、粒状体の製造に懸濁液を用いるものではない。仮に、乳化液の代わりに懸濁液を用いた場合には、以下のような問題が発生する。
懸濁液においては分散質が固体(固形状)であるため、後述する粒状体製造工程において、粒状体を複数個の分散質の凝集体として得るのが困難である。すなわち、分散質が固体であると、十分な強度で分散質同士を接合させるのが困難であり、粒状体として得られるトナー母粒子は、機械的ストレスに対して弱いものとなる。その結果、最終的に得られるトナーは、耐久性、保存性に劣り、また、各トナー粒子間での大きさ、形状のバラツキが大きくなり、トナー全体としての特性、信頼性も低いものとなる。
粒状体製造工程は、例えば、図4に示すようなトナー製造装置M1を用いて行うことができる。
【0129】
[トナー製造装置]
図4に示すように、トナー製造装置M1は、上述したような乳化液3(液滴9)を吐出するノズルM2と、ノズルM2に乳化液3を供給する乳化液供給部M4と、ノズルM2から吐出された液滴状(微粒子状)の乳化液3(液滴9)が搬送される固化部M3と、製造されたトナー母粒子(粒状体)4を回収する回収部M5とを有している。
【0130】
乳化液供給部M4は、ノズルM2に乳化液3を供給する機能を有するものであればよいが、図示のように、乳化液3を攪拌する攪拌手段M41を有するものであってもよい。これにより、例えば、分散質31が分散媒32中に分散しにくいものであっても、分散質31が十分均一に分散した状態の乳化液3を、ノズルM2に供給することができる。
【0131】
ノズルM2は、乳化液3を微細な液滴(微粒子)9として、噴射する機能を有するものである。ノズルM2については、後に詳述する。
また、図4に示すように、トナー製造装置M1は、ガス流供給手段M10を有しており、このガス流供給手段M10から供給されたガスは、ダクトM101を介して、ノズルM2に送り込まれ、後に詳述するノズルM2からの乳化液3(液滴9)の噴射に利用される。
【0132】
ガス流供給手段M10には、バルブM11が取り付けられている。これにより、乳化液3(液滴9)の噴射に利用されるガスの圧力を調節することができる。
図示の構成のトナー製造装置M1は、ノズルM2を複数個有している。そして、これらのノズルM2から、それぞれ、微細な液滴9が固化部M3に吐出される。
【0133】
各ノズルM2は、ほぼ同時に液滴9を吐出するものであってもよいが、少なくとも隣り合う2つのノズルで、液滴9の吐出タイミングが異なるように制御されたものであるのが好ましい。これにより、隣接するノズルM2から吐出された液滴9が固化する前に、液滴9同士が衝突し、凝集するのをより効果的に防止することができる。
ノズルM2から吐出された液滴(微粒子)9は、固化部M3を搬送されつつ固化することにより、トナー母粒子(粒状体)4となる。
【0134】
トナー母粒子(粒状体)4は、吐出された液滴9から分散媒32を除去することにより得られる。このような場合、吐出された液滴9中の分散媒32が除去されるのに伴い、液滴9中に含まれる分散質31が凝集する。その結果、トナー母粒子(粒状体)4は、分散質31(分散質の構成成分の一部または全部)の凝集体として得られる。このように、トナー母粒子(粒状体)4が、粒状の分散質31が複数個結合したものであることにより(特に、一滴の液滴9中に含まれる複数個の分散質31が結合したものであることにより)、その表面の少なくとも一部に、分散質31の痕跡が残存しているものとすることができる。これにより、最終的に得られるトナーは、摩擦帯電性が向上し、特に優れた帯電特性を有するものとすることができる。また、このような形状であると、トナー粒子が、現像ローラや感光体表面等に、強固に付着するのを効果的に防止することができ、結果として、転写効率が特に優れたものとなる。また、このような形状であると、トナー母粒子(粒状体)4の表面付近に、後述するような外添剤がより確実に担持され、外添剤の機能をより効果的に発揮することができるとともに、転写効率を向上させるための外添剤、例えば、大粒径シリカ等の添加量を減らす、または、無くすことができ、トナーの寿命を延ばすことができる。さらに、このような形状であると、トナー粒子間での融着を効果的に防止し、印刷物の解像度を効果的に向上させることができる。
【0135】
このような、分散質31が複数個結合したトナー母粒子(粒状体)4の平均粒径Dは、2〜15μmであるのが好ましく、3〜8μmであるのがより好ましい。一般に、トナー母粒子の平均粒径Dが小さいほうが、得られる画像の解像度が良くなるものであるが、平均粒径Dが小さすぎると、すなわち、Dが前記下限値未満であると、付着性が強くなり、転写効率が低下する。さらには、分散質31の平均粒径dも小さくなるため、製造が困難になる場合があり、また、そのような効果のさらなる向上も望めなくなる。
【0136】
また、乳化液3中における分散質31の平均粒径をd[μm]、トナー母粒子(粒状体)4の平均粒径をD[μm]としたとき、2≦D/d≦200の関係を満足するのが好ましく、3≦D/d≦150の関係を満足するのがより好ましく、4≦D/d≦100の関係を満足するのがさらに好ましい。このような関係を満足することにより、最終的に得られるトナーは、各粒子間(トナー粒子間)での、形状、大きさ、組成等のバラツキが特に小さいものとなり、結果として、トナー全体としての特性が特に優れたものとなり、信頼性も向上する。これに対し、D/dが前記下限値未満であると、母粒子の粒径Dに対して表面の凹凸が比較的大きくなるため、流動性が悪くなる傾向を示す。従って、現像ローラ上の薄層も不均一なものになり易い。また、D/dが前記上限値を超えると、粒子表面の凹凸が微小になりすぎて、転写効率向上の効果が低下するとともにクリーニング性が低下する傾向を示す。
【0137】
なお、前述したように、トナー母粒子(粒状体)4は、分散質31の集合体として得られるものであるが、分散質31の集合体というのは、分散質31を構成する成分の少なくとも一部の集合体であればよく、例えば、分散質31中に含まれる構成成分の一部(例えば、分散質31が溶媒を含むものである場合においては当該溶媒)が除去されたものであってもよい。
固化部M3は、筒状のハウジングM31で構成されている。
【0138】
トナーの製造時において、ハウジングM31内は、所定範囲の温度に保たれているのが好ましい。これにより、製造条件の差による各トナー母粒子4間での特性のバラツキを少なくすることができ、トナー全体としての信頼性が向上する。
このように、ハウジングM31内の温度を所定の範囲に保つ目的で、例えば、ハウジングM31の内側または外側に熱源、冷却源を設置したり、ハウジングM31を、熱媒体または冷却媒体の流路が形成されたジャケットとしてもよい。
【0139】
ハウジングM31内の温度は、特に限定されないが、40〜160℃であるのが好ましく、50〜150℃であるのがより好ましく、60〜140℃であるのがさらに好ましい。ハウジングM31内の温度が前記範囲内の値であると、トナーの構成材料の変性等を十分に防止しつつ、液滴9から分散媒32をより円滑に除去することができる。
【0140】
また、図示の構成では、ハウジングM31内の圧力は、圧力調整手段M12により調整される構成となっている。このように、ハウジングM31内の圧力を調整することにより、吐出された液滴9中の分散媒32を効率良く除去することが可能となり、トナーの生産性が向上する。なお、図示の構成では、圧力調整手段M12は、接続管M121でハウジングM31に接続されている。また、接続管M121のハウジングM31と接続する端部付近には、その内径が拡大した拡径部M122が形成されており、さらに、トナー母粒子4等の吸い込みを防止するためのフィルターM123が設けられている。
【0141】
ハウジングM31内の圧力は、特に限定されないが、0.15MPa以下であるのが好ましく、0.005〜0.15MPaであるのがより好ましく、0.109〜0.110MPaであるのがさらに好ましい。ハウジングM31内の圧力が前記範囲内の値であると、異形状のトナー母粒子4の発生等を十分に防止しつつ、液滴9から分散媒32をより円滑に除去することができる。
【0142】
乳化液3(液滴9)中に含まれる分散質31の粒径は、通常、得られるトナー母粒子4(液滴9)に比べて、十分に小さいものである。したがって、分散質31の凝集体として得られるトナー母粒子(粒状体)4は、十分に円形度の大きいものとなる。
また、分散媒32を除去してトナー母粒子4を得る場合、通常、ノズルM2から吐出される液滴9に比べて、得られるトナー母粒子4は小さいものとなる。このため、ノズル(噴射部)M2から噴射される乳化液3の液滴9が比較的大きい場合であっても、得られるトナー母粒子4の大きさを比較的小さいものとすることができる。したがって、本発明では、特に平均粒径の小さいトナー母粒子4についても容易に得ることができる。
また、本実施形態では、後に詳述するように、各ノズルM2から吐出される液滴9を、十分に小さく、かつ粒度分布が十分にシャープなものとすることができる。その結果、トナー母粒子4も、粒径のバラツキの小さいもの、すなわち、粒度分布がシャープなものとなる。
【0143】
このように、吐出液として乳化液を用いることにより、製造するトナー母粒子の粒径が十分に小さい場合であっても、容易に、その円形度を十分に高いものとし、かつ、粒度分布がシャープなものとすることができる。これにより、得られるトナーは、各粒子間での帯電が均一で、かつ、トナーを印刷に用いたときに、現像ローラ上に形成されるトナーの薄層が平準化、高密度化したものとなる。その結果、カブリ等の欠陥を生じ難く、よりシャープな画像を形成することができる。また、トナー母粒子4の形状、粒径が揃っているため、トナー全体(トナー母粒子4の集合体)としての嵩密度を大きくすることができる。その結果、同一容積のカートリッジ内へのトナーの充填量をより多くしたり、カートリッジの小型化を図る上でも有利である。
【0144】
なお、上記の説明では、固化部M3において、乳化液3(液滴9)から分散媒32が除去されることにより、液滴9中の分散質31が凝集(融合)し、トナー母粒子4が得られるものとして説明したが、トナー母粒子は、このようにして得られるものに限定されない。例えば、分散質31中に樹脂材料の前駆体(例えば、前記樹脂材料に対応するモノマー、ダイマー、オリゴマー等)が含まれる場合、固化部M3において重合反応を進行させることにより、トナー母粒子4を得るような方法であってもよい。
また、ハウジングM31には、電圧を印加するための電圧印加手段M8が接続されている。電圧印加手段M8で、ハウジングM31の内面側に、液滴9(トナー母粒子4)と同じ極性の電圧を印加することにより、これにより、以下のような効果が得られる。
【0145】
通常、トナー母粒子は、正または負に帯電している。このため、トナー母粒子と異なる極性に帯電した帯電物があると、トナー母粒子は、当該帯電物に、静電的に引き付けられ付着するという現象が起こる。一方、トナー母粒子と同じ極性に帯電した帯電物があると、当該帯電物とトナー母粒子とは、互いに反発しあい、前記帯電物表面にトナーが付着するという現象を効果的に防止することができる。したがって、ハウジングM31の内面側に、液滴9(トナー母粒子4)と同じ極性の電圧を印加することにより、ハウジングM31の内面に液滴9(トナー母粒子4)が付着するのを効果的に防止することができる。これにより、異形状のトナー粉末の発生をより効果的に防止することができるとともに、トナー母粒子4の回収効率も向上する。
【0146】
ハウジングM31は、回収部M5付近に、図4中の下方向に向けて、その内径が小さくなる縮径部M311を有している。このような縮径部M311が形成されることにより、トナー母粒子4を効率良く回収することができる。なお、前述したように、ノズルM2から吐出された液滴9は、固化部M3において固化されるが、回収部M5付近においてはこのような固化(分散媒32の除去)はほぼ完全に完了しており、縮径部M311付近では、各粒子が接触しても凝集等の問題はほとんど発生しない。
液滴9を固化することにより得られたトナー母粒子4は、回収部M5に回収される。
【0147】
次に、粒状の乳化液3(液滴9)を噴射するノズルM2について詳細に説明する。
本実施形態では、独特の状態で乳化液3を微粒子(液滴9)にして噴射する。すなわち、本実施形態では、図5に示すように、傾斜面7に沿って流動するガス流で、傾斜面7に送り出された乳化液3を薄く引き伸ばして薄層流8とする。傾斜面7に沿って流動する薄層流8は、傾斜面7を離れるときに薄すぎて層の状態(膜状態)ではいられなくなり、表面張力で粉々にちぎれて微粒子の液滴9となる。特に、薄層流8が乳化液(固形状の分散質を含む分散液)3で構成されているため、均一な液体(例えば、実質的に純物質からなる液体や溶液等)を用いた場合に比べて、薄層流8から液滴9が微分割され易い。したがって、本実施形態では、微粒子状の乳化液3(液滴9)を特に効率良く噴射することができる。また、液滴が尾を引いて突起を形成することが防止される。また、本実施形態では、ガス流で乳化液3を薄層流8として微粒子(液滴9)として噴射する。このため、乳化液3の液滴9を円形の超微粒子にできる特長がある。これにより、乳化液3の供給口5の詰まりをより確実に防止することができ、さらに、供給口5の加工を容易に行うことができる。
【0148】
さらに、図5に示すように、傾斜面7の先端に尖鋭なエッジ7Aを設け、このエッジ7Aでアトマイズガスとスプレッディングガスとを衝突させると、空気(ガス)を激しく振動できる。空気振動は乳化液3をさらに微粒子にする作用がある。
さらに、本実施形態で用いるノズルM2は、傾斜面7の先端にリング状のエッジ7Aを有しており、このエッジ7Aから乳化液3(液滴9)をホロコーン状態で微粒子状に噴射できる。ホロコーンで噴射される液滴9からは、効率よく分散媒32が除去される。
【0149】
図5に示す液体を微粒子状に噴射するノズルM2は、乳化液3(液滴9)をリング状に噴射する供給口5と、この供給口5から噴射される乳化液3を流動させる傾斜面7と、この傾斜面7に加圧ガスを噴射するガス口10とを備えている。
この図に示すノズルM2は、内側リング(筒体)11と、中間リング(筒体)12と、外側リング(筒体)13とを備えている。内側リング11と中間リング12との間に供給口5を有し、内側リング11の中心にアトマイズガスの流路14を有し、中間リング12と外側リング13の間にスプレッディングガスの供給路15を有している。
【0150】
内側リング11はその外形が円柱状であり、中間リング12はその内形が円柱状であり、内側リング11と中間リング12との間に、所定の幅のスリット状の供給口5が設けられている。供給口5は、リング状に形成されており、スリット幅は、乳化液3が詰まらない幅に設計される。本実施形態のノズルにおいては、供給口5から乳化液3を薄膜(薄層)にして送り出す必要がない。乳化液3は傾斜面7で薄く引き伸ばされて微粒子(液滴9)となって噴射されるからである。したがって、供給口5のスリット幅は、送り出される乳化液3の流量、傾斜面7の長さ、傾斜面7に噴射されるアトマイズガスの流速、供給口5の内径等を考慮して最適値に設計される。例えば、供給口5のスリット幅は、0.2〜1.5mm、好ましくは0.4〜1mm、最適には約0.8mmに設計される。
供給口5の直径は、噴射する乳化液の流量、スリット幅の寸法等を考慮して最適値に設計される。供給口5の直径は、例えば、1000g/分の乳化液3(液滴9)を噴射するノズルにおいて、約50mmφに設計される。供給口5の直径は、流量が多い場合には大きく、流量が少ない場合には小さく設計される。
【0151】
内側リング11の外周部と、中間リング12の先端面とは、テーパー状に切削加工されて、傾斜面7となっている。内側リング11と中間リング12の傾斜面7は、内側リング11の傾斜面7に沿って噴射され流動するガスが、内側リング11と中間リング12との境界で乱流とならないように、同一平面に形成されている。内側リング11と中間リング12の傾斜面7が同一平面となるとは、内側リング11と中間リング12の傾斜面7に段差ができず、内側リング11の傾斜面7から中間リング12の傾斜面7に直線的にガスが流動される状態を意味する。このように、内側リング11と中間リング12の傾斜面7を同一平面のテーパー状に加工するには、例えば、内側リング11と中間リング12を連結してテーパー加工すればよい。さらに、傾斜面7は、ここに沿って流動する乳化液3が乱流とならないように、乳化液3の流動方向に沿って平滑面となっている。図に示すノズルの傾斜面7は、円錐状で全体を平滑面に仕上げている。
【0152】
内側リング11と中間リング12に傾斜面7を設けることによって、傾斜面7の中間に供給口5が開口される。内側リング11と中間リング12に設けられる傾斜面7の傾斜角αは、特に限定されないが、供給口5の傾斜面7に対する角度が鈍角となるように、例えば、100〜170度、好ましくは120〜160度、さらに好ましくは130〜160度、最適には約150度に設計される。傾斜角αは大きい方が液の流出が安定する。しかしスリット幅により傾斜角αは最適値が変わる。傾斜角αは、好ましくは、傾斜面7における供給口5の開口幅が2mmを越えないように設計される。
【0153】
内側リング11の先端には中心リング16が配設され、この中心リング16と内側リング11との間にガス口10が開口されている。中心リング16は、図示しないが内側リング11に固定して所定の位置に配設されている。中心リング16は、外周面を内側リング11の傾斜面7に沿うテーパー状に加工されている。中心リング16と内側リング11との間に形成されるガス口10はスリット状で、ここから加圧ガスを層流状態に噴射して、傾斜面7に沿って流動させる。
【0154】
内側リング11のアトマイズガスの流路14は加圧ガス源Fに連結されている。ガス口10は傾斜面7に沿って流動するアトマイズガスを噴射する。加圧ガス源Fは、例えば3〜20kg/cm2、好ましくは4〜15kg/cm2、さらに好ましくは4〜10kg/cm2、最適には約6.5kg/cm2の空気をガス口10に供給する。アトマイズガスの噴射圧を高くすると、傾斜面7に沿って流動するガスの流速が速くなって、乳化液3をより効果的に薄く引き伸ばして乳化液3を微細な液滴(微粒子)9にできる。ただし、噴射圧を高くすると特殊なコンプレッサーを必要とし、さらに消費エネルギーも大きくなるので、要求される微粒子の粒子径と、消費エネルギーとを考慮して最適値に設計される。
【0155】
さらに、図5に示すノズルは、アトマイズガスに加えて、傾斜面7の外周にスプレッディングガスを噴射している。ただ、スプレッディングガスは必ずしも噴射する必要はない。スプレッディングガスを噴射しないで、アトマイズガスで乳化液3を微粒子(液滴9)として噴射できるからである。アトマイズガスとスプレッディングガスを噴射するノズルは、アトマイズガスとスプレッディングガスとを傾斜面7のエッジ7Aで衝突させて、液滴9をより小さい微粒子にできる特長がある。さらに、スプレッディングガスでもってホロコーンの角度を調整することもできる。また乳化液3の性質によっては、エッジ7Aでの離れが悪くなり、スプレッディングガス側に液逆流を起こす可能性があるが、スプレッディングガスを噴射することにより、このような問題の発生をより確実に防ぐことができる。
【0156】
スプレッディングガスは、中間リング12と外側リング13の間に設けられたスプレッディングガス噴射口17から噴射される。スプレッディングガスはアトマイズガスに比較して低圧ガスとすることができる。例えば、アトマイズガスを約6.5kg/cm2とするとき、スプレッディングガスは約1kg/cm2とすることができる。スプレッディングガスは、アトマイズガスのように乳化液3を強制的に薄く引き伸ばす必要がないので、例えば、0.5〜3kg/cm2の範囲に設定できる。
【0157】
アトマイズガスとスプレッディングガスの両方を噴射するノズルは、傾斜面7の先端を尖鋭なエッジ7Aとしている。中間リング12は先端面に傾斜面7を形成し、また、先端の外周が円筒状に加工されることにより、傾斜面7の先端にエッジ7Aを形成している。この形状の中間リング12は、傾斜面7の先端に(180度−傾斜角α)の角度を成す尖鋭なエッジ7Aを形成することができる。ただし、ノズルは、図示しないが、中間リング12の外周をテーパー状に加工して、エッジ7Aの角度を調整することもできる。
【0158】
図5に示すノズルは、例えば、下記の状態で乳化液3を微粒子(液滴9)として噴射することができる。
(1) 内側リング11の中心に設けられたアトマイズガスの流路14に加圧したアトマイズガスを供給し、中間リング12と外側リング13との間のスプレッディングガス噴射口17にスプレッディングガスを供給して、供給口5から乳化液3を傾斜面7に送り出す。
(2) 傾斜面7に供給された乳化液3は、傾斜面7に沿って流動するアトマイズガスで薄く引き伸ばされて薄層流8となる。例えば、傾斜面7に沿ってアトマイズガスをマッハ1.5程度の流速で流動させて供給口5に乳化液3を送り出し、薄層流8の先端部での流速をアトマイズガスの1/20とすれば、25.5m/sとなる。傾斜面7の先端に設けたエッジ7Aの直径を50mm程度とすれば、乳化液3を約1リットル/分で供給して薄層流8の膜圧は4μm程度となる。
(3) 上記のような膜厚の小さい薄層流8は、傾斜面7のエッジ7Aを過ぎると薄すぎて膜状態でいられなくなり、表面張力で粉々にちぎられて微粒子の液滴9となる。
(4) 微粒子の液滴9は、エッジ7Aでアトマイズガスとスプレッディングガスが衝突し、摩擦して振動して液滴9をさらに小さい微粒子(液滴9)とする。
(5) 微粒子の液滴9は、アトマイズガスとスプレッディングガスによって放射状に運ばれる。この状態をホロコーンという。ホロコーンのコーン角度は傾斜面7の角度で決定されるが、アトマイズガスとスプレッディングガスの噴射圧で調整することもできる。
ホロコーンの状態で噴射された液滴9からは、分散媒32が除去されてトナー母粒子(粒状体)4が得られる。
【0159】
図6は、A液とB液を混合して乳化液の微粒子(液滴9)とするノズルを示す。この図に示すノズルにおいては、図5に示すノズルの中間リング12を、内側中間リング(筒体)12Aと外側中間リング(筒体)12Bとの二重管構造としている。内側中間リング12Aと外側中間リング12Bとの間には、B液の供給口5が設けられている。リング状の内側中間リング12Aは、内側面と外側面にテーパー状の傾斜面7を有しており、その先端が尖鋭なエッジ7Aとなっている。外側中間リング12Bの先端面もテーパー状に加工され、傾斜面7となっている。外側中間リング12Bの傾斜面7は、内側中間リング12Aの傾斜面7と同一平面に連結している。
【0160】
図6に示すノズルは、内側中間リング12Aの内側面と外側面とに傾斜面7を有し、内側に設けられた傾斜面7にA液の供給口5を、外側の傾斜面7にB液の供給口5を設けている。A液とB液の両方を、アトマイズガスで傾斜面7に薄く引き延ばしできるように、内側リング11のガス口10と、外側中間リング12B及び外側リング13の間のスプレッディングガス噴射口17の両方から高圧のアトマイズガスを噴射する。
【0161】
このような構造のノズルM2を用いることにより、分散性、相溶性の悪い成分を用いる場合であっても、均一性(分散性)の高いトナーを得ることができる。また、このような構造のノズルM2を用いることにより、多層(多相)構造のトナー等も、比較的容易に得ることができる。なお、本実施形態では、例えば、用いる液体(A液およびB液)のうち一方を、前述したトナーの構成材料のうち少なくとも樹脂材料を含む乳化液、他方を、着色剤を含む乳化液とすることができる。また、A液とB液とは実質的に同一の組成を有するものを用いてもよい。
【0162】
図6に示すノズルは、内側中間リング12Aの内側と外側との両面に傾斜面7を有しており、内側と外側の傾斜面7に2種の異なる液体(乳化液3)を供給することができる構成になっている。図7に示すノズルは、傾斜面7の途中に複数の供給口5を有している。このような構造のノズルでは、例えば、複数の供給口5から数種の異質の液体を供給して、同時に噴射することができる。したがって、供給口5に供給する液体(乳化液3)の組合せによって、新しい特性をもった多機能複合粒子の製造が可能である。
【0163】
さらに、図8、図9には、乳化液を、より微細な微粒子として噴射することができるノズルを示す。これらの図に示すノズルにおいては、図6に示すノズルと同じように、中間リング12を、内側中間リング(筒体)12Aと外側中間リング(筒体)12Bとの二重管構造としている。そして、内側中間リング12Aと外側中間リング12Bとの間にB液の供給口5が設けられている。リング状の内側中間リング12Aは、内側面と外側面との両面にテーパー状の傾斜面7を有しており、その先端が尖鋭なエッジ7Aとなっている。外側中間リング12Bの先端面もテーパー状に加工され、傾斜面7となっている。
【0164】
傾斜面の拡大図を図10に示す。この図に示すように、内側中間リング12Aの傾斜面7は、供給口5の近傍において、その両側に位置する外側中間リング12Bと内側リング11の傾斜面7の延長線に対して多少段差が設けられ、低く(内側中間リング12Aの傾斜面7の成す角が、外側中間リング12Bの傾斜面7の成す角よりも小さくなるように)形成されている。このような形状の傾斜面を有するノズルは、矢印で示すように傾斜面7に沿って流動するガス流が、供給口5から液体(乳化液3)をスムーズに排出させることができるという特長を有している。それは、内側中間リング12Aの傾斜面7が、外周側の(外側中間リング12Bの)傾斜面7に対して突出しないからである。図示しないが、内側中間リング12Aの傾斜面7が、その外周側に位置する(外側中間リング12Bの)傾斜面7の延長線から突出すると、突出部にガスが衝突してスムーズに液体(乳化液3)を排出させるのが困難となる。
【0165】
さらに、図10の拡大図に示すノズルでは、内側中間リング12Aの傾斜面7を湾曲させて、先端部分が、隣接する傾斜面7の延長線から突出するように形成されている。このような形状を有する内側中間リング12Aの傾斜面7では、傾斜面7に沿って矢印の方向に流動するガス流が、先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて、傾斜面7を流動する液体(乳化液3)の薄層流8をより薄く引き延ばすことができる。このため、このような構造のノズルは、液体(乳化液3)をより微細な微粒子(液滴9)として噴射できる特長がある。
このようなノズルでは、外側中間リング12Bと、内側中間リング12Aと、内側リング11先端の角度を図に示すような角度に設計すると、液体(乳化液)をホロコーンで噴射できる。
【0166】
図5、図6および図8に示すノズルは、スプレッディングガス噴射口17と、ガス口10を構成する中心リング16および外側リング13の先端部分を通気性部材18で構成している。通気性部材18は、ガス口10に圧入されるガスを貫通して表面から噴射させる通気性を有する。通気性部材18は、例えば、平均粒子径が約1μmであるステンレス製の焼結金属で構成されたものである。通気性部材18は、ガス口10から噴射するガスの一部を表面から噴射して、中心リング16と外側リング13先端部分の表面にミストが付着するのを防止する効果がある。
【0167】
さらに、図11は、ホロコーンとフルコーンの両方に微粒子を噴射できるノズルを示す。この図のノズルの先端部の要部拡大図を図12に示す。このノズルにおいても、図6に示すノズルと同じように、中間リング12を、内側中間リング12Aと外側中間リング12Bとの二重管構造としている。内側中間リング12Aと外側中間リング12Bとの間には、B液の供給口5が設けられている。リング状の内側中間リング12Aは、内側面と外側面の両面にテーパー状の傾斜面7を有しており、その先端が尖鋭なエッジ7Aとなっている。外側中間リング12Bの先端面はストレートな傾斜面7となっている。
【0168】
内側中間リング12Aに設けられた傾斜面7の拡大図を図13に示す。この図に示すノズルにおいても、図10に示すノズルと同じように、内側中間リング12Aの傾斜面7は、供給口5の近傍において、その両側に位置する外側中間リング12Bと内側リング11の傾斜面7の延長線に対して多少段差が設けられ、低く(内側中間リング12Aの傾斜面7の成す角が、外側中間リング12Bの傾斜面7の成す角よりも小さくなるように)形成されている。このような形状の傾斜面7を有するノズルにおいても、矢印で示すように傾斜面7に沿って流動するガス流が、供給口5から液体(乳化液3)をスムーズに排出させることができる。
【0169】
さらに、図13に示すノズルは、内側中間リング12Aの傾斜面7の傾斜角がその先端方向に向かって変化していて、先端部分が、隣接する傾斜面7の延長線から突出するように形成されている。このような形状を有する内側中間リング12Aの傾斜面7は、傾斜面7に沿って矢印の方向に流動するガス流が、先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて、傾斜面7を流動する液体(乳化液3)の薄層流8を薄く引き延ばすことができる。このため、この構造のノズルは、液体(乳化液3)をより微細な微粒子(液滴9)として噴射できるという特長を有する。
【0170】
さらに、このようなノズルでは、外側リング13と、外側中間リング12Bと、内側中間リング12Aと、内側リング11先端の角度を図に示すような角度に設計して、液体(乳化液)をホロコーンとフルコーンの両方で噴射できる。例えば、中心リング16と内側リング11との間のガス口10から噴射されるアトマイズガスの噴射圧を、外側中間リング12Bと外側リング13との間のガス口10から噴射するアトマイズガスの噴射圧よりも大きくすると、液体(乳化液)をホロコーン状態で噴射させることができる。反対に、外側中間リング12Bと外側リング13との間のガス口10から噴射するアトマイズガスの噴射圧を、中心リング16と内側リング11の間のガス口10から噴射されるアトマイズガスの噴射圧よりも強くすると、液体(乳化液)をフルコーン状態で噴射できる。
【0171】
図11に示すノズルも、図8に示すノズルと同様に、ガス口10を構成する中心リング16と外側リング13の先端部分を通気性部材18として、中心リング16と外側リング13の表面にミストが付着するのを防止している。
さらに、図14に示すノズルは、通気性部材を使用しないで、ミストの付着を防止する独特の構造をしている。この図のノズルは、中心リング16の先端面にガス剥離凹部19を有し、供給口5の内側であってノズルの先端面にガス剥離凹部19を有している。ガス剥離凹部19は、中心リング16に設けられた貫通孔20を介して、内側リング11と中心リング16との間の流路1に連結されている。貫通孔20は、図15に示すように、噴射されるガスをガス剥離凹部19で回転させる方向、すなわち、半径方向から接線方向に傾斜して開口している。ガス剥離凹部19の表面は、ガス流を乱すことなく層流状態で流動できる平滑面となっている。さらに、ガス剥離凹部19の外周部分は、飛行機の翼と同じような流線形となって、ガス口10に向かって滑らかに湾曲している。
【0172】
このような構造のノズルにおいては、加圧されたガスを、貫通孔20から接線方向にガス剥離凹部19に噴射すると、ガスは、テーパー状のガス剥離凹部19の内面に衝突し、薄く拡がりながら旋回流となる。この時、ガス剥離凹部19のテーパー角度(θ)により、ガス剥離凹部19の出口方向(図において上方)に向かう気流の割合を変えることができる。テーパー角度(θ)を、図に示すように15度とすると、出口方向に向かう旋回気流は、約70%であり、残りの約30%はガス剥離凹部19の底方向に向かう旋回気流となり、底に達した後に風速を弱めて、出口方向へ向かう。そして、前述の約70%の旋回気流に巻き込まれて、ガス剥離凹部19から排出される。
【0173】
ガス剥離凹部19の内面に沿って流動するガスの旋回気流は、テーパー面と翼型の流線形部分の斜面に沿って移動し、先端に達した所で、翼型表面に沿って流動して、内側リング11と中心リング16の間に設けられた流路1から噴射されるアトマイズガスに引き込まれる。流線形の翼型部分は、ガス口10に向かって滑らかに湾曲しているので、ガスが表面に沿って流動し、中心リング16の前面に流動するガス層を作る。
【0174】
中心リング16の前面のほぼ全体を、この流動するガス層で覆うので、供給口5から噴射されるミストが付着することが防止される。貫通孔20は、ガス剥離凹部19から均一にガスを噴射できるように、好ましくは6個程度とするのがよい。ただし、貫通孔をさらに多くすることもできる。さらに、貫通孔の形状をスリット状にして横幅を広くすると、貫通孔の数が少ない場合であっても、ガス剥離凹部から均一にガスを吹き出すことができる。
【0175】
このような構造のノズルにおいては、ノズルの前面がガス層で覆われることになるので、飛来したミストが表面に付着することが防止され、流動するガス層である流線気流によって吹き飛ばされる。また、このような構造のノズルを用いた場合、前記の通気性部材18によるエアレイションで粉付着を防止する方法よりも、少ないガス量で、同等の効果を得ることができる。
【0176】
さらに、図16に示すノズルは、ガス口10と供給口5から、ガスと液体(乳化液)とを均一に噴射することができるものである。この図に示すノズルは、流路1と液体流路21にヘリカルリブ22を有している。流路1や液体流路21には、各リングを組み立てる時の芯出のため、すなわち、全てのリングの中心を正確に一致させるために、各リングの間にリブが設けられている。リブの先端を接触させることにより、各リングは芯出して正確に組み立てられる。
【0177】
図16のノズルは、エッジ7Aの両面に開口されたガス口10に連通する流路1に、軸方向に流動するガスにスピンをかけてスパイラルに回転させるヘリカルリブ22を有している。エッジ7A両面のガス口10から噴射されるガスは互いに反対方向に回転しながらエッジ7Aに向かって噴射される。このような構造のノズルでは、エッジ7Aの両面に流動されるアトマイズガスを互いに逆スピンとし、エッジ7A先端でのミスト形成時に、両ガスのひねり作用が加わって、ミスト粉砕効果が上がり、より小さいミストを作ることができる。
【0178】
ただし、本発明で用いられるノズルは、必ずしも、エッジの両面に流動するアトマイズガスを逆スピンとするものに限定されず、例えば、エッジ両面のアトマイズガスを同じ方向にスピンをかけるものであってもよい。さらに、複数のガス口を有するノズルにおいては、すべてのガス口から噴射されるガスにスピンをかけるものでなくてもよい。したがって、特定の流路にのみヘリカルリブを有するものであってもよい。
【0179】
さらに、図16に示すノズルでは、液体流路21にもヘリカルリブ22が配設されている。通常、液体(乳化液3)はガスに比較して流速が遅いので、図示のノズルでは、ヘリカルリブ22の傾斜角αを約60度と大きくしている。傾斜角αは、例えば、30〜70度、好ましくは45〜65度の範囲とすることができる。液体流路21のヘリカルリブ22も、流路1のヘリカルリブ22と同じように、その傾斜角αが大きい場合には、液体のスピンが強くなるが、その一方で、液体の流動抵抗が大きくなる傾向を示す。このため、ヘリカルリブ22の傾斜角αは、液体の流動抵抗とスピンとを考慮して適宜選択される。
【0180】
以上説明したようなノズルM2を用いることにより、以下のような効果が得られる。
・乳化液を極めて小さい微粒子として噴射できると共に、目詰まりを十分効果的に防止しつつ、長時間連続噴射できる。また、乳化液を薄層流に引き伸ばして微粒子の液滴とするので、平滑面に沿って流動させるガスの流速で、液滴を極めて小さい微粒子として噴射できる。
・単位時間当りの噴射量を多くして、しかも微細な液滴として噴射できる。
【0181】
また、本発明においては、ノズルM2から固化部M3に吐出される乳化液3(液滴9)の初速度は、例えば、0.1〜10m/秒であるのが好ましく、2〜8m/秒であるのがより好ましい。乳化液3(液滴9)の初速度が前記下限値未満であると、トナーの生産性が低下する。一方、乳化液3(液滴9)の初速度が前記上限値を超えると、得られるトナー母粒子4の真球度(円形度)が低下する傾向を示す。
【0182】
また、ノズルM2から吐出される乳化液3の粘度は、特に限定されないが、例えば、25℃において、5〜3000cpsであるのが好ましく、10〜1000cpsであるのがより好ましい。乳化液3の粘度が前記下限値未満であると、吐出される粒子(液滴9)の大きさを十分に制御するのが困難となり、得られるトナー母粒子4のバラツキが大きくなる場合がある。一方、乳化液3の粘度が前記上限値を超えると、形成される液滴の径が大きくなる。また、乳化液3の粘度が特に大きい場合には、ノズル先端への付着が激しくなり連続運転が困難となり、また、乳化液3がノズルに供給されにくくなる。
【0183】
また、ノズルM2から吐出される乳化液3は、予め加温(加熱)されたものであってもよい。このように乳化液3を加温することにより、例えば、乳化液3の粘度が低下し、ノズルM2での目詰まりをより効果的に防止することができるとともに、吐出される液滴(ミスト)9の大きさを十分に小さいものとし、かつ、各液滴9間での大きさのバラツキを特に小さいものとすることができる。また、乳化液3を加温することにより、固化部M3において、液滴9中に含まれる分散質31の凝集(融合)が円滑に進行し、トナー母粒子4を構成する分散質31の結合強度を特に優れたものとすることができる。その結果、最終的に得られるトナー(トナー粒子)は、機械的ストレスに強く、形状の安定性に優れたものとなる。
【0184】
また、乳化液3の一滴分の吐出量(液滴9の1個分の体積)は、乳化液3中に占める分散質31の含有率等により若干異なるが、0.05〜500plであるのが好ましく、0.5〜5plであるのがより好ましい。乳化液3の一滴分の吐出量をこのような範囲の値にすることにより、トナー母粒子4を適度な粒径のものにすることができる。
【0185】
また、乳化液3が微粒子化された液滴9の平均粒径d’は、2.5〜20μmであるのが好ましく、4〜15μmであるのがより好ましい。液滴9の平均粒径d’をこのような範囲の値とすることにより、前述と同様の効果を得ることができる。
【0186】
ところで、ノズルM2から吐出される液滴9は、一般に、乳化液3中の分散質31に比べて十分に大きいものである。すなわち、液滴9中には、多数個の分散質31が分散した状態となっている。このため、分散質31の粒径のバラツキが比較的大きいものであっても、吐出される液滴9中に占める分散質31の割合は、各液滴でほぼ均一である。したがって、分散質31の粒径のバラツキが比較的大きい場合であっても、乳化液3の吐出量をほぼ均一とすることにより、トナー母粒子4は粒径のバラツキの小さいものとなる。このような傾向は、吐出される乳化液3(液滴9)の平均粒径に対する、分散質31の平均粒径の比率が小さい程、顕著なものとなる。例えば、吐出される乳化液3(液滴9)の平均粒径をd’[μm]、乳化液3中における分散質31の平均粒径をd[μm]としたとき、d/d’<0.5の関係を満足するのが好ましく、d/d’<0.2の関係を満足するのがより好ましく、d/d’<0.1の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0187】
また、吐出される乳化液3(液滴9)の平均粒径をd’[μm]、製造されるトナー母粒子(粒状体)4の平均粒径をD[μm]としたとき、0.05≦D/d’≦1.0の関係を満足するのが好ましく、0.1≦D/d’≦0.8の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、十分に微細で、かつ、円形度が大きく、粒度分布がシャープなトナー母粒子4を比較的容易に得ることができる。
【0188】
以上の説明では、図5〜図16に示すようなノズル(乳化液を、ガス流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄層流とし、当該薄層流を前記平滑面から離して微粒子として噴射するようなノズル)を用いて、乳化液を液滴状(微粒子)にする方法について説明したが、液滴状の乳化液を得ることが可能であればいかなる方法でもよく、例えば、スプレードライ法や、いわゆるインクジェット法、バブルジェット(「バブルジェット」は登録商標)法等の方法を用いてもよい。
【0189】
スプレードライ法は、高圧のガスを用いて、液体(乳化液)を噴射(噴霧)させることにより、液滴を得る方法である。
また、いわゆるインクジェット法を適用した方法としては、特願2002−169349号明細書に記載された方法等が挙げられる。すなわち、本発明では、液滴状の乳化液を形成する方法として、「圧電パルスによりヘッド部から乳化液を間欠的に吐出し、気流により固化部内を搬送させつつ、粒状とする方法」を適用することができる。
【0190】
また、いわゆるバブルジェット(「バブルジェット」は登録商標)法を適用した方法としては、特願2002−169348号明細書に記載された方法等が挙げられる。すなわち、本発明では、液滴状の乳化液を形成する方法として、「気体の体積変化によりヘッド部から乳化液を間欠的に吐出し、気流により固化部内を搬送させつつ、粒状とする方法」を適用することができる。
【0191】
特に、本発明において、前述したようなノズルを用いた場合には、一般的なスプレードライ法を適用した場合に比べて、以下のような利点が得られる。
すなわち、前述したようなノズルを用いた方法では、一般的なスプレードライ法に比べて、乳化液の噴射液滴量を容易かつ正確に制御することが可能である。このため、例えば、目的とする大きさ、形状のトナー母粒子を効率良く製造することができる。特に前述した方法では、形成される微粒子を、大きさのバラツキが極めて小さい(粒度分布の幅が小さい)ものとすることができ、このため、各粒子の移動速度のバラツキも小さくすることができる。したがって、噴射された乳化液が固化する前に、噴射された粒子間での衝突、凝集を効果的に防止することができ、その結果、異形状の粉末が形成されにくくなる。したがって、得られるトナー母粒子の形状、大きさのバラツキは特に小さいものとなり、最終的に得られるトナーにおいても各粒子間での帯電特性、定着特性等のバラツキが小さく、トナー全体としての信頼性も特に高いものとなる。また、前述した方法では、製造するトナー母粒子の大きさを比較的小さいものとした場合においても、トナー母粒子の粒度分布をシャープなものとすることができる。
【0192】
また、トナー製造装置M1は、ノズル(噴射部)M2−ノズル(噴射部)M2間に、図示しないガス噴射手段が設けられていてもよい。これにより、ノズルM2から間欠的に吐出された液滴9の間隔を保ちつつ、乳化液3を搬送し、固化させることができる。その結果、吐出される液滴9同士の衝突、凝集がより効果的に防止される。
【0193】
また、ガス噴射手段が設けられることにより、固化部M3において、ほぼ一方向(図中、下方向)に流れるガス流を形成することができる。このようなガス流が形成されると、固化部M3内の液滴9(トナー母粒子4)をより効率良く搬送することができる。
また、ガス噴射手段が設けられることにより、各ノズルM2から吐出される粒子の間に気流カーテンが形成され、例えば、隣り合うノズルから吐出された各粒子間での衝突、凝集をより効果的に防止することが可能となる。
【0194】
このようなガス噴射手段を有する場合、噴射されるガスの温度を好ましい値に設定する機能を有する、図示しない熱交換器が取り付けられているのが好ましい。これにより、固化部M3に吐出された液滴9を効率良く固化させることができる。
また、このようなガス噴射手段を有すると、ガス流の供給量を調整すること等により、ノズルM2から吐出された液滴9の固化速度等を容易にコントロールすることも可能となる。
【0195】
[外添工程(外添処理)]
上記のようにして得られたトナー母粒子4に対して、外添剤を付与する外添処理を施す。これにより、本発明のトナー(トナー粒子)が得られる。
特に、本発明では、トナー母粒子4が、複数個の分散質31が結合した凝集体として得られるため、通常、トナー母粒子4の表面には、微小な凹凸が存在する。これにより、外添剤を確実に担持することができ、外添剤としての機能をより効果的に発揮させることができる。
以上のようにして得られたトナーに対しては、必要に応じて、分級処理を施してもよい。なお、分級処理は、外添工程の前に施すものであってもよい。
【0196】
分級処理には、例えば、ふるい、気流式分級機等を用いることができる。
また、外添処理に用いられる外添剤としては、例えば、酸化チタン、シリカ(正帯電性シリカ、負帯電性シリカ等)、酸化アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化亜鉛、アルミナ、マグネタイト等の金属酸化物、窒化珪素等の窒化物、炭化珪素等の炭化物、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、脂肪族金属塩等の金属塩等の無機材料で構成された微粒子、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、脂肪族金属塩(例えば、ステアリン酸マグネシウム)等の有機材料で構成されたもの等が挙げられる。
【0197】
上記外添剤の中でも、外添剤として用いることができる酸化チタンとしては、例えば、ルチル型の酸化チタン、アナターゼ型の酸化チタン、ルチルアナターゼ型の酸化チタン等が挙げられる。
ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、結晶構造がルチル型の酸化チタン(二酸化チタン)と、結晶構造がアナターゼ型の酸化チタン(二酸化チタン)とを同一粒子内に有するものである。すなわち、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、ルチル型の結晶とアナターゼ型の結晶との混晶型の酸化チタン(二酸化チタン)を有するものである。
ルチル型の酸化チタンは、通常、紡錘形状の結晶になり易い性質を有している。また、アナターゼ型の酸化チタンは、微小な結晶を析出し易く、疎水化処理等に用いられるシランカップリング剤等との親和性に優れるという性質を有している。
【0198】
そして、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、ルチル型の結晶とアナターゼ型の結晶との混晶型の酸化チタンを有するものであるため、ルチル型の酸化チタンの利点と、アナターゼ型の酸化チタンの利点とを併有している。すなわち、ルチルアナターゼ型の酸化チタンでは、ルチル型結晶の間(ルチル型結晶の内部)に、微小なアナターゼ型結晶が混在し、全体としては、略紡錘形状を有するものとなることにより、トナーの母粒子中に埋没し難くなり、また、ルチルアナターゼ型の酸化チタン全体としての、シランカップリング剤等との親和性が優れたものとなるため、ルチルアナターゼ型の酸化チタン粉末の表面に均一で安定した疎水性被膜(シランカップリング被膜)が形成され易くなる。したがって、ルチルアナターゼ型の酸化チタンを含むことにより、得られるトナーは、帯電分布が均一(トナー粒子の帯電分布がシャープ)で、安定した帯電特性を有し、環境特性(特に耐湿性)、流動性、耐ケーキング性等に優れたものとなる。
特に、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、前述したようなポリエステル系樹脂と併用した場合に、以下のような相乗効果を発揮する。
【0199】
すなわち、前述したように、本実施形態では、ポリエステル系樹脂は、結晶性の高い結晶性ブロックを有するブロックポリエステルを含むものであるため、トナー母粒子中において、主として結晶性ブロックにより形成された所定の大きさの結晶を有するものとすることができる。このような結晶を有することにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、トナーの母粒子中に埋没しにくいものとなる。すなわち、前記結晶のような硬い成分を含むことにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、トナーの母粒子の表面付近に確実に担持(付着)されたものとなる。これにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタンの機能(特に、優れた流動性、帯電性の付与等の効果)を十分に発揮させることができる。このように、前述したポリエステル系樹脂と併用することにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタンの機能を十分に発揮させることができるため、用いる外添剤の量を抑制することができる。その結果、外添剤を多量に添加することによる不都合(例えば、紙等の転写材(記録媒体)への定着性の低下等)の発生を効果的に防止することができる。
【0200】
ルチルアナターゼ型の酸化チタン中におけるルチル型の酸化チタンとアナターゼ型の酸化チタンとの存在比率は、特に限定されないが、重量比で、5:95〜95:5であるのが好ましく、50:50〜90:10であるのがより好ましい。このようなルチルアナターゼ型の酸化チタンを用いることにより、前述したルチルアナターゼ型の酸化チタンを用いることによる効果は、さらに顕著なものとなる。
また、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、300〜350nmの波長領域の光を吸収するものであるのが好ましい。これにより、トナーは、特に耐光性(特に、記録媒体への定着後における耐光性)に優れたものとなる。
【0201】
本発明で用いられるルチルアナターゼ型の酸化チタンの形状は、特に限定されないが、通常、略紡錘形状である。
ルチルアナターゼ型の酸化チタンが略紡錘形状を有するものである場合、その平均長軸径は、10〜100nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがより好ましい。平均長軸径がこのような範囲の値であると、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、上述したような機能を十分に発揮することができ、また、トナーの母粒子中に埋没し難く、かつ遊離しにくいものとなる。その結果、トナーの機械的ストレスに対する安定性は、さらに優れたものとなる。
【0202】
トナー中におけるルチルアナターゼ型の酸化チタンの含有量は、特に限定されないが、0.1〜2.0wt%であるのが好ましく、0.5〜1.0wt%であるのがより好ましい。ルチルアナターゼ型の酸化チタンの含有量が前記下限値未満であると、前述したような、ルチルアナターゼ型の酸化チタンを用いることによる効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、ルチルアナターゼ型の酸化チタンの含有量が前記上限値を越えると、トナーの定着性が低下する傾向を示す。
【0203】
このようなルチルアナターゼ型の酸化チタンは、いかなる方法で調製されたものであってもよいが、例えば、アナターゼ型の酸化チタンを焼成することにより得ることができる。このような方法を用いることにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタン中におけるルチル型の酸化チタンとアナターゼ型の酸化チタンとの存在比率を、比較的容易かつ確実に制御することができる。このような方法でルチルアナターゼ型の酸化チタンを得る場合、焼成温度は、700〜1000℃程度であるのが好ましい。焼成温度をこのような範囲の値にすることにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタン中におけるルチル型の酸化チタンとアナターゼ型の酸化チタンとの存在比率を、さらに容易かつ確実に制御することが可能になる。
【0204】
また、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、疎水化処理が施されたものであるのが好ましい。疎水化処理を施すことにより、帯電が湿度によって大きく左右されなくなるという効果が得られる。疎水化処理としては、例えば、HMDS、シラン系カップリング剤(例えば、アミノ基等の官能基を有するものでもよい)、チタネート系カップリング剤、フッ素含有シラン系カップリング剤、シリコーンオイル等を用いた、ルチルアナターゼ型の酸化チタンの粉末(粒子)への表面処理等が挙げられる。
【0205】
また、前述した外添剤の中でも、外添剤として用いることができるシリカとしては、例えば、正帯電性シリカ、負帯電性シリカ等が挙げられる。正帯電性シリカは、例えば、負帯電性シリカに、アミノ基等の官能基を有するシラン系カップリング剤で、表面処理を施すことにより得ることができる。
外添剤として負帯電性シリカを用いた場合、トナー粒子の帯電量(絶対値)を大きくすることができる。その結果、安定した負帯電性トナーが得られ、画像形成装置のトナー制御が容易になるという効果が得られる。
【0206】
また、負帯電性シリカを前述したルチルアナターゼ型の酸化チタンと併用した場合、特に優れた効果が得られる。すなわち、負帯電性シリカとルチルアナターゼ型の酸化チタンとを併用することにより、トナーの流動性、環境特性(特に耐湿性)をさらに高めたり、より安定した摩擦帯電性を発揮することができるとともに、いわゆるカブリの発生をより効果的に防止することができる。また、負帯電性シリカとルチルアナターゼ型の酸化チタンとを併用することにより、得られるトナーを、帯電量(絶対値)が大きく、かつ帯電分布がよりシャープなものとすることができる。
略紡錘形状のルチルアナターゼ型の酸化チタンの平均長軸径をD[nm]、負帯電性シリカの平均粒径をD[nm]としたとき、0.2≦D/D≦15の関係を満足するのが好ましく、0.4≦D/D≦5の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、負帯電性シリカとルチルアナターゼ型の酸化チタンとを併用することによる効果はさらに顕著なものとなる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、重量基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0207】
また、外添剤として、正帯電性シリカを用いた場合、例えば、正帯電性シリカをマイクロキャリアとして機能させることができ、トナー粒子自体の帯電性をさらに向上させることができる。特に、正帯電性シリカと、前述したルチルアナターゼ型の酸化チタンとを併用することにより、得られるトナーを、帯電量(絶対値)が大きく、かつ帯電分布がよりシャープなものとすることができる。
正帯電性シリカを含む場合、その平均粒径は、30〜100nmであるのが好ましく、40〜50nmであるのがより好ましい。正帯電性シリカの平均粒径がこのような範囲の値であると、前述した効果はより顕著なものとなる。
【0208】
また、外添剤としては、上記のような材料で構成された微粒子の表面に、HMDS、シラン系カップリング剤(例えば、アミノ基等の官能基を有するものでもよい)、チタネート系カップリング剤、フッ素含有シラン系カップリング剤、シリコーンオイル等により表面処理を施したものを用いてもよい。
上記のような外添剤は、例えば、ヘンシェルミキサー等を用いて、トナー母粒子と混合すること等により添加することができるが、例えば、前述したようなトナー製造装置M1の固化部M3内に、外添剤を噴射および/または対流させ、当該外添剤を液滴9またはトナーの母粒子に付着させてもよい。
【0209】
また、このようにして得られるトナー粉末は、外添剤の被覆率(トナー母粒子の表面積のうち外添剤が被覆する面積割合であり、外添剤の平均粒径相当の球がトナー平均粒径相当の球を6方細密充填で被覆するとしたときの計算上の被覆率)が100〜300%であるのが好ましく、120〜220%であるのがより好ましい。外添剤の被覆率が前記下限値未満であると、前述したような外添剤の効果が十分に発揮されない可能性がある。一方、外添剤の被覆率が前記上限値を超えると、トナーの定着性が低下する傾向を示す。
【0210】
また、外添剤は、トナー中において、実質的に、その全てがトナー母粒子に付着した状態になっていてもよいし、その一部がトナー母粒子の表面から遊離していてもよい。すなわち、トナー中には、トナー母粒子から遊離した外添剤が含まれていてもよい。このように、トナー中に、母粒子から遊離した外添剤が所定の割合で(比較的微量の)含まれると、このような遊離外添剤を、例えば、トナー母粒子とは反対の極性に帯電するマイクロキャリアとして機能させることができる。
以上のようにして製造される本発明のトナーは、均一な形状を有し、粒度分布のシャープな(幅の小さい)ものである。特に、本発明では、分散質の平均粒径dがトナー母粒子(粒状体)の平均粒径Dに比べて十分に小さいため、トナーの円形度を比較的大きい値とすることができる。
【0211】
具体的には、本発明のトナー(トナー粒子)は、下記式(I)で表される平均円形度Rが0.91〜0.99であるのが好ましく、0.93〜0.98であるのがより好ましい。平均円形度Rが0.91未満であると、個々のトナー粉末(トナー粒子)間での帯電特性の差を十分に小さくするのが困難となり、感光体上への現像性が低下する傾向を示す。また、平均円形度Rが小さすぎると、感光体上へのトナーの付着(フィルミング)が発生しやすくなり、トナーの転写効率が低下する場合がある。一方、平均円形度Rが0.99を超えると、転写効率や機械的強度は増す反面、造粒(粒子同士の接合)が促進されることで平均粒子径が大きくなる等の問題がある。また、平均円形度Rが0.99を超えると、例えば、感光体等に付着したトナーをクリーニングにより除去するのが困難となる。
R=L/L・・・(I)
(ただし、式中、L[μm]は、測定対象のトナー粒子の投影像の周囲長、L[μm]は、測定対象のトナー粒子の投影像の面積に等しい面積の真円(完全な幾何学的円)の周囲長を表す。)
【0212】
また、トナーは、各粒子間での平均円形度の標準偏差が0.05以下であるのが好ましく、0.03以下であるのがより好ましく、0.02以下であるのがさらに好ましい。各粒子間での平均円形度の標準偏差が0.05以下であると、帯電特性、定着特性等のバラツキが特に小さくなり、トナー全体としての信頼性がさらに向上する。
【0213】
また、トナーの平均粒径は、2〜20μmであるのが好ましく、3〜8μmであるのがより好ましい。トナーの平均粒径が前記下限値未満であると、均一に帯電させるのが困難になるとともに、静電潜像担持体(例えば、感光体等)表面への付着力が大きくなり、結果として、転写残トナーの増加を招く場合がある。一方、トナーの平均粒径が前記上限値を超えると、トナーを用いて形成される画像の輪郭部分、特に文字画像やライトパターンの現像での再現性が低下する。その結果、解像力が低下する。
【0214】
また、トナーは、各粒子間での粒径の標準偏差が1.6μm以下であるのが好ましく、1.5μm以下であるのがより好ましく、1.3μm以下であるのがさらに好ましい。各粒子間での粒径の標準偏差が1.6μm以下であると、帯電特性、定着特性等のバラツキが特に小さくなり、トナー全体としての信頼性がさらに向上する。
【0215】
また、バインダー樹脂として前述したようなポリエステル系樹脂を用いる場合、トナー中のポリエステル系樹脂の含有量は、50〜98wt%であるのが好ましく、85〜97wt%であるのがより好ましい。ポリエステル系樹脂の含有量が前記下限値未満であると、前述したポリエステル系樹脂を用いることによる効果が十分に得られない可能性がある。一方、ポリエステル系樹脂の含有量が前記上限値を超えると、着色剤等の成分含有量が相対的に低下し、発色性等の特性発揮が困難となる場合がある。
【0216】
また、トナー中に含まれるブロックポリエステルの組成(構成モノマー、結晶性ブロックの存在比等)、重量平均分子量Mw、ガラス転移点、軟化点、融点等、非晶性ポリエステルの組成(構成モノマー等)、重量平均分子量Mw、ガラス転移点、軟化点等は、トナーの構成材料(トナーの製造に用いられる材料)の項目で説明したのと同様の条件、範囲であるのが好ましいが、製造工程中に変化したものであってもよい。
【0217】
また、トナー中にワックスが含まれる場合、その含有量は、特に限定されないが、5wt%以下であるのが好ましく、3wt%以下であるのがより好ましく、0.5〜3wt%であるのがさらに好ましい。ワックスの含有量が多すぎると、ワックスが遊離、粗大化し、トナー表面へのワックスのしみ出し等が顕著に起こり、トナーの帯電性が低下するとともに、転写効率を十分に高めるのが困難になる可能性がある。
【0218】
トナーの物性としての酸価は、トナーの環境特性(特に、耐湿性)を左右する要因の一つである。トナーの酸価は、8KOHmg/g以下であるのが好ましく、1KOHmg/g以下であるのがより好ましい。トナーの酸価が8KOHmg/g以下であると、トナーの環境特性(特に耐湿性)は特に優れたものとなる。
【0219】
また、本発明のトナーは、ニップ部を有する定着装置で用いられる場合、トナー粒子の前記ニップ部の通過時間Δt[秒]における、緩和弾性率G(t)の変化量が、500[Pa]以下であるのが好ましく、100[Pa]以下であるのがより好ましい。このような条件を満足することにより、オフセット等の不都合をより生じ難いものとなる。
【0220】
また、本発明のトナーは、定着ニップ部を有する定着装置で用いた場合において、トナー粒子が定着ニップ部を通過するのに要する時間をΔt[秒]、トナーの0.01秒での緩和弾性率を初期緩和弾性率G(0.01)とし、さらに、トナーのΔt秒での緩和弾性率をG(Δt)としたとき、G(0.01)/G(Δt)≦10の関係を満足するのが好ましく、1≦G(0.01)/G(Δt)≦8の関係を満足するのがより好ましく、1≦G(0.01)/G(Δt)≦6の関係を満足するのがさらに好ましい。このような関係を満足することにより、トナー粒子の弾性率低下による定着工程での溶融トナーの紙および定着ローラへの分割、すなわち高温オフセットが特に発生し難くなる。これに対し、G(0.01)/G(Δt)が10を超えると、溶融トナーの分割、すなわち高温オフセットが発生し易くなる。トナーの緩和弾性率は、例えば、トナーの構成材料の組成(例えば、ブロックポリエステル、非晶性ポリエステルの分子量、モノマー成分、ランダム性や、ワックス、外添剤の組成、各構成成分の含有量等)や、乳化液の条件(例えば、乳化液中に占める分散質の割合、分散質の粒径、形状、分散媒、溶媒の沸点等)、トナーの製造条件(例えば、乳化液の噴射速度、噴射させる乳化液の温度、粘度、固化部における雰囲気温度、雰囲気圧力、乳化液の搬送速度、混練工程における原料温度、混練時間や、冷却工程における混練物の冷却速度等)により、調節することができる。
また、樹脂として、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとを含むものを用いる場合、通常、主としてブロックポリエステルの結晶性ブロックにより構成された結晶が存在する。
【0221】
このような結晶は、その平均長さ(長手方向の平均長さ)が10〜1000nmであるのが好ましく、50〜700nmであるのがより好ましい。結晶の長さがこのような範囲の値であると、トナーの形状の安定性が特に優れたものとなり、機械的ストレスに対し、特に優れた安定性を示すものとなる。特に、トナー粒子の表面付近に、外添剤がより確実に保持されることとなり(外添剤が母粒子中に埋没するのを効果的に防止することができ)、トナー粒子は、現像装置等における安定性に特に優れたものとなり、また、フィルミング等の発生を生じ難いものとなる。なお、前記結晶の大きさは、例えば、原料成分として用いるブロックポリエステルの製造条件等を制御することによりブロックポリエステルの分子量やランダム性を変更したり、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとの配合比を変更したり、前述した混練工程、冷却工程の条件を変更すること等により、適宜調整することができる。
【0222】
特に、トナーがルチルアナターゼ型の酸化チタンを含むものである場合、次の関係を満足するのが好ましい。すなわち、略紡錘形状のルチルアナターゼ型の酸化チタンの平均長軸径をD[nm]、結晶の平均長さをL[nm]としたとき、0.01≦D/L≦2の関係を満足するのが好ましく、0.02≦D/L≦1の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、ルチルアナターゼ型の酸化チタンは、前述したような効果を十分に発揮しつつ、母粒子中に埋没し難いものとなる。その結果、トナーは、前述した機能を十分に保持し、かつ、機械的ストレスに対する安定性が特に優れたものになる。
なお、結晶の平均長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)、小角X線散乱測定等により測定することができる。
【0223】
また、本発明のトナーは、樹脂成分として複数の樹脂を含むものを用いた場合、各樹脂ができるだけ相溶または微分散しているものであるのが好ましい。これにより、各トナー粒子間での特性のバラツキが小さく、トナー全体としての特性がより安定したものとなり、本発明の効果がより顕著なものとなる。
また、バインダー樹脂が前述したようなポリエステル系樹脂で構成されるものである場合、本発明のトナーは、非磁性一成分系のトナーに適用されるものであるのが好ましい。非磁性一成分系のトナーは、一般に、規制ブレードを有する画像形成装置に適用される。したがって、機械的ストレスに強い本発明のトナーは、非磁性一成分系のトナーとして用いたときに、前述したような効果をより顕著に発揮することができる。
【0224】
また、本発明のトナーは、いかなる装置で用いられるものであってもよいが、バインダー樹脂が前述したようなポリエステル系樹脂で構成されるものである場合、接触型の定着装置に用いられるものであるのが好ましい。これにより、ブロックポリエステルの結晶による定着ローラとの高い離型性と、低粘度の非晶性ポリエステルによる定着性(定着強度)向上効果の、双方の利点が十分に発揮され、幅広い定着良好域が確保される。
【0225】
また、バインダー樹脂が前述したようなポリエステル系樹脂で構成されるものである場合、以下に述べるような理由から、本発明のトナーは、高速印刷(高速定着、高速画像形成)に用いられる定着装置、具体的には、記録媒体の送り速度(繰り出し速度)が0.2〜1.0m/秒程度の定着装置に適用されるものであるのが好ましい。このような高速印刷に用いられる定着装置では、トナーの定着した記録媒体が剥離部材に接触する際にもトナーが高温状態になっているため、従来のトナーを用いた場合には、剥離部材との接触により、定着画像に乱れやすじを生じる可能性があり、また、定着したトナーが溶融した状態(低粘度の状態)で剥離部材と接触すると、記録媒体を確実に剥離するのが困難になる可能性もあるが、バインダー樹脂が前述したようなポリエステル系樹脂で構成される本発明のトナーでは、このような不都合の発生を効果的に防止することができる。すなわち、トナー中に、軟化点の比較的低い非晶性ポリエステルが含まれるため、トナーが定着装置の定着ニップ部を通過する際に記録媒体に確実に定着されるものであるとともに、結晶性ブロックを有するブロックポリエステルも含まれるため、その内部に、高硬度で適度な大きさを有する結晶が析出したものになり易い。このような結晶が存在することにより、定着時のように比較的高い温度となる場合においても、トナーの溶融粘度を所定値より低くさせないようにすることができ、定着時等においても部分的に硬いサイトが存在することになる。その結果、トナーの定着画像が、剥離部材と接触した場合においても、形成された画像に乱れやすじを生じ難い。また、このような本発明のトナーが定着された記録媒体では、剥離不良が特に起こり難く、剥離部材により定着ローラから確実に剥離される。
以上、本発明のトナーの製造方法およびトナーについて、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0226】
例えば、前述では、樹脂として、ブロックポリエステルと非晶性ポリエステルとを組み合わせて用いた例について説明したが、これに限定されるものではない。
また、本発明のトナーの製造に用いるトナー製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮する任意のものと置換、または、その他の構成を追加することもできる。例えば、前述した実施形態では、粒状の乳化液(液滴)を鉛直下方に向けて吐出する構成について説明したが、乳化液の吐出方向は、鉛直上方、水平方向等、いかなる方向であってもよい。
【0227】
また、本発明のトナーは、前述したような方法で製造されたものに限定されない。例えば、前述した実施形態では、乳化液から分散媒を除去することにより得られた粉末に外添処理を施すことにより得られるものとして説明したが、外添処理を施さずに、乳化液から分散媒を除去することにより得られた粉末(トナー母粒子(粒状体)の集合体)をそのままトナーとして用いてもよい。
【0228】
また、前述した実施形態では、ルチルアナターゼ型酸化チタンは、外添剤として添加されるものとして説明したが、例えば、ルチルアナターゼ型酸化チタンを混練工程に供される原料の一成分として用いることにより、トナーの内部に含まれるものとしてもよい。
また、前述した実施形態では、結晶性を示す指標として示差走査熱量分析(DSC)による融点の吸熱ピークの測定で得られるΔTについて説明したが、結晶性を示す指標は、これに限定されない。例えば、結晶性を表す指標としては、密度法、X線法、赤外線法、核磁気共鳴吸収法等により測定される結晶化度等を用いてもよい。
【0229】
また、乳化液から分散媒を除去することにより得られた粒状体(トナー母粒子)や該粒状体に外添剤が付与されたトナー粒子を減圧環境下、加熱環境下に置く等の、中間処理、後処理を施してもよい。これにより、最終的に得られるトナー粒子中に、分散媒や溶媒等が残存するのをより効果的に防止することができる。
また、乳化液から分散媒を除去することにより得られた粉末を加熱して球形化する熱球形化処理を施してもよい。これにより、得られるトナー母粒子の円形度のさらなる向上を図ることができる。特に、樹脂として結晶性ブロックを有するブロックポリエステルを含むものを用いた場合、熱球形化処理時において、粉末(トナー粉末)の形状の安定性をある程度確保しつつ、非晶性ポリエステルを十分に軟化させることができる。したがって、ブロックポリエステルを含まない原料を用いた場合に比べて、熱球形化処理を効率良く行うことができ、比較的容易に、最終的に得られるトナー(トナー粒子)の円形度を比較的高いものとすることができる。また、その結果、上述した熱球形化処理による効果をより効果的に発揮させることができる。熱球形化処理は、乳化液(液滴)から分散媒を除去することにより得られた粉末を、例えば、圧縮空気等を用いて、加熱雰囲気下に噴射することにより行うことができる。また、熱球形化処理は液体中で行っても良い。
【0230】
また、前述した実施形態では、混練機として、連続式の2軸スクリュー押出機を用いる構成について説明したが、原料の混練に用いる混練機はこれに限定されない。原料の混練には、例えば、ニーダーやバッチ式の三軸ロール、連続2軸ロール、ホイールミキサー、ブレード型ミキサー等の各種混練機を用いることができる。
【0231】
また、図示の構成では、スクリューを2本有する構成の混練機について説明したが、スクリューは1本であってもよいし、3本以上であってもよい。
また、前述した実施形態では、冷却機として、ベルト式のものを用いた構成について説明したが、例えば、ロール式(冷却ロール式)の冷却機を用いてもよい。また、混練機の押出口から押し出された混練物の冷却は、前記のような冷却機を用いたものに限定されず、例えば、空冷等により行うものであってもよい。
【0232】
また、前述した実施形態では、着色剤やワックスを含む材料を用いて混練物を調製するものとして説明したが、混練物は、少なくともバインダー樹脂を含むものであればよく、着色剤、ワックス等の成分は、例えば、乳化液の調製時に、混練物とともに、分散媒となるべき液体中に添加されるものであってもよい。
また、前述した実施形態では、乳化液において、着色剤、ワックス等が分散質の構成成分として存在するものとして説明したが、これらの成分は、分散媒の構成成分として乳化液に含まれるものであってもよい。
【0233】
【実施例】
[1]樹脂材料の製造
トナーの製造に先立ち、以下に示す2種のポリエステル(ポリエステルA、B)を製造した。
[1.1]ポリエステルA(非晶性ポリエステル)の製造
まず、ネオペンチルグリコール:36モル部、エチレングリコール:36モル部、1,4−シクロヘキサンジオール:48モル部、テレフタル酸ジメチル:90モル部、無水フタル酸:10モル部の混合物を用意した。
【0234】
2リットル4つ口フラスコに、還流冷却器、蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計、攪拌装置を常法に従い設置し、前記のジオール成分とジカルボン酸成分との混合物:1000gと、エステル化縮合触媒(チタンテトラブトキシド(PPB)):1gとを、前記2リットル4つ口フラスコ内に入れた。その後、材料温度:180℃で、生成する水、メタノールを蒸留塔より流出させながら、エステル化反応を進行させた。蒸留塔から水、メタノールが流出しなくなった時点で、2リットル4つ口フラスコから蒸留塔を取り外すとともに、真空ポンプに接続した。系内の圧力を5mmHg以下に減圧した状態で、温度を200℃とし、攪拌回転数:150rpm攪拌することにより、縮合反応で発生した遊離ジオールを系外に排出し、その結果得られた反応物をポリエステルA(PES−A)とした。
【0235】
得られたポリエステルAについて、示差走査熱量分析装置による融点の吸熱ピークの測定を試みた。その結果、融点の吸収ピークであると判断できるようなシャープなピークは、確認することができなかった。また、ポリエステルAの軟化点T1/2は、111℃、ガラス転移点Tは、60℃、重量平均分子量Mwは、1.1×10であった。
【0236】
[1.2]ポリエステルB(ブロックポリエステル)の製造
2リットル4つ口フラスコに、還流冷却器、蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計、攪拌装置を常法に従い設置し、上記[1.1]で得られたポリエステルA:70モル部とジオール成分としての1,4−ブタンジオール:15モル部とジカルボン酸成分としてのテレフタル酸ジメチル:15モル部との混合物:1000gと、エステル化縮合触媒(チタンテトラブトキシド(PPB)):1gとを、前記2リットル4つ口フラスコ内に入れた。その後、材料温度:200℃で、生成する水、メタノールを蒸留塔より流出させながら、エステル化反応を進行させた。蒸留塔から水、メタノールが流出しなくなった時点で、2リットル4つ口フラスコから蒸留塔を取り外すとともに、真空ポンプに接続した。系内の圧力を5mmHg以下に減圧した状態で、温度を220℃とし、攪拌回転数:150rpm攪拌することにより、縮合反応で発生した遊離ジオールを系外に排出し、その結果得られた反応物をポリエステルB(PES−B)とした。
【0237】
示差走査熱量分析装置を用いた測定での、ポリエステルBの融点の吸熱ピークの中心値Tmpは、218℃、ショルダーピーク値Tmsは、205℃であった。また、測定で得られた示差走査熱量分析曲線から、求められたポリエステルBの融解熱Eは、18mJ/mgであった。また、ポリエステルBの軟化点T1/2は、149℃、ガラス転移点Tは、64℃、重量平均分子量Mwは、2.98×10であった。
なお、上記の各樹脂材料についての融点、軟化点、ガラス転移点、重量平均分子量の測定は、以下のようにして行った。
【0238】
融点Tの測定は示差走査熱量計DSC(セイコー電子工業社製、DSC220型)を用いて、次のようにして行った。まず、樹脂サンプルを、昇温速度:10℃/分で200℃まで昇温した後、降温速度:10℃/分で0℃まで降温した。その後、昇温速度:10℃/分で昇温し、その際の結晶融解による吸熱の最大ピーク温度(2ndラン時)を、融点Tとして求めた。
【0239】
軟化点T1/2の測定は、細管式レオメータ(島津製作所社製、フローテスタCFT−500型)を用いて行った。サンプル量:1g、ダイ孔径:1mm、ダイ長さ:1mm、荷重:20kgf、予熱時間:300秒、測定開始温度:50℃、昇温速度:5℃/分という条件で、サンプルを押出し、流出開始時点と、流出終了時点との間のピストンストロークの変動幅が1/2の時点での温度(1/2法温度)を軟化点T1/2として求めた(図3参照)。
【0240】
ガラス転移点Tの測定は、示差走査熱量計DSC(セイコー電子工業社製、DSC220型)を用いて、上記の融点の測定と同時に行った。上記融点の測定方法で説明した2ndラン時の、ガラス転移前後のベースライン指定点の2点間の微分値最大値(DSCデータの最大傾斜点)の接線と、ガラス転移前のベースラインの延長線との交点を、ガラス転移点Tとして求めた。
【0241】
重量平均分子量Mwの測定は、ゲル浸透クロマトグラフィーGPC(東ソー社製、HLC−8220型)を用いて以下のようにして行った。
まず、樹脂サンプル1gをTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させ、1mLのTHF溶液(不溶分を含む)を得た。このTHF溶液を遠心分離専用のサンプル瓶に注入し、遠心分離機で、2000rpm、5分間の条件で遠心分離を行い、その上澄み液サンプレップLCR13−LH(孔径:0.5μm)でろ過し、ろ液を得た。
このようにして得られたろ液を、カラム:TSKgel SuperHZ4000+SuperHZ4000(東ソー社製)、流速:0.5mL/分、温度:25℃、溶媒:THFという条件で、ゲル浸透クロマトグラフィーGPC(東ソー社製、HLC−8220型)を用いて分離し、その結果として得られたチャートに基づき、樹脂サンプルの重量平均分子量Mwを求めた。なお、標準試料としては、単分散ポリスチレンを用いた。
【0242】
[2]トナーの製造
以下のようにして、トナーを製造した。
(実施例1)
まず、非晶性ポリエステルとしてポリエステルA:60重量部、ブロックポリエステルとしてポリエステルB:40重量部、着色剤としてC.I.ピグメントブルー:4重量部、帯電制御剤としてサリチル酸Cr錯体(ボントロンE−81):1重量部、ワックスとしてカルナウバワックス:3重量部を用意した。
これらの各成分を20L型のヘンシェルミキサーを用いて混合し、トナー製造用の原料を得た。
【0243】
次に、この原料(混合物)を、図1に示すような2軸混練押出機を用いて、混練した。
2軸混練押出機のプロセス部の全長は160cmとした。
また、プロセス部における原料の温度が105〜115℃となるように設定した。
また、スクリューの回転速度は120rpmとし、原料の投入速度は20kg/時間とした。
【0244】
このような条件から求められる、原料がプロセス部を通過するのに要する時間は約4分間である。
なお、上記のような混練は、脱気口を介してプロセス部に接続された真空ポンプを稼動させることにより、プロセス部内を脱気しつつ行った。
プロセス部で混練された原料(混練物)は、ヘッド部を介して2軸混練押出機の外部に押し出した。ヘッド部内における混練物の温度は、110℃となるように調節した。
【0245】
このようにして2軸混練押出機の押出口から押し出された混練物を、図1中に示すような冷却機を用いて、冷却した。冷却工程直後の混練物の温度は、約46℃であった。
混練物の冷却速度は、−7℃/秒であった。また、混練工程の終了時から冷却工程が終了するのに要した時間は、10秒であった。
上記のようにして冷却された混練物を粗粉砕し、平均粒径:1.5mmの粉末とした。混練物の粗粉砕にはハンマーミルを用いた。
【0246】
次に、上記の粗粉砕物:200重量部を、トルエン:1000重量部に溶解、分散させ、トルエン溶液を得た。
このトルエン溶液(860g)を、2リットルの水にポリエチレングリコール(和光純薬社製、#5000):40gを溶解して得られた水性液中に加え、その後、ホモミキサー(特殊機工社製)を用いて、回転数:3000rpmの条件で、室温(25±5℃)で60分間攪拌することにより、O/W型の乳化液(エマルション)を得た。乳化液中に分散している分散質の平均粒径は0.45μmであった。なお、分散質の平均粒径の測定は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA−920)を用いて行った。
【0247】
上記のようにして得られた乳化液を、図4、図5に示す構成のトナー製造装置の乳化液供給部内に投入した。乳化液供給部内の乳化液を攪拌手段で攪拌しつつ、定量ポンプによりノズルに供給し、該ノズルから固化部に吐出(噴射)させた。なお、乳化液供給部内における乳化液の温度は、25℃になるように調節した。
乳化液の吐出は、毎分20mLの乳化液を圧力0.7MPaの圧縮エアとともに噴射することにより行った。
【0248】
ノズルから吐出される乳化液の初速度は5.6m/秒、ノズルから吐出される乳化液の一滴分の平均吐出量は0.32pl(粒径d’:8.8μm)であった。また、乳化液の吐出は、複数個のノズルのうち少なくとも隣接しあうノズルで、乳化液の吐出タイミングがずれるようにして行った。
また、乳化液の吐出時には、各ノズル間に設けられた図示しないガス噴射口から温度:130℃、湿度:30%RH、流量:0.9m/分の空気を鉛直下方に噴射し、また、ハウジング内の圧力は、0.109〜0.110MPaとなるように調節した。また、固化部のハウジングには、その内表面側の電位が−200Vとなるように電圧を印加し、内壁に乳化液(トナー母粒子)が付着するのを防止するようにした。
【0249】
固化部内において、吐出した乳化液から分散媒および溶媒が除去され、分散質の凝集体としてのトナー母粒子(粒状体)が形成された。
固化部で形成された粒子をサイクロンにて回収した。回収した粒子は、平均円形度Rが0.978、円形度標準偏差が0.012であった。重量基準の平均粒径Dは、5.1μmであった。重量基準の粒径標準偏差は0.65μmであった。なお、円形度の測定は、フロー式粒子像解析装置(東亜医用電子社製、FPIA−2000)を用いて、水分散系で行った。ただし、円形度Rは、下記式(I)で表されるものとする。
R=L/L・・・(I)
(ただし、式中、L[μm]は、測定対象の粒子の投影像の周囲長、L[μm]は、測定対象の粒子の投影像の面積に等しい面積の真円の周囲長を表す。)
【0250】
得られた粒子100重量部に、外添剤:2.5重量部を添加し、最終的なトナーを得た。最終的に得られたトナーの重量基準の平均粒径は、5.2μmであった。外添剤の付与は、20L型のヘンシェルミキサーを用いて行った。外添剤としては、負帯電性小粒径シリカ(平均粒径:12nm):1重量部と、負帯電性大粒径シリカ(平均粒径:40nm):0.5重量部と、ルチルアナターゼ型の酸化チタン(略紡錘形状、平均長軸径:30nm):1重量部とを用いた。なお、負帯電性シリカ(負帯電性小粒径シリカ、負帯電性大粒径シリカ)としては、ヘキサメチルジシラザンで表面処理(疎水化処理)を施したものを用いた。また、ルチルアナターゼ型の酸化チタンとしては、結晶構造がルチル型の酸化チタンと、結晶構造がアナターゼ型の酸化チタンとの比率が、90:10で、300〜350nmの波長領域の光を吸収するものを用いた。
【0251】
ただし、上記のようなトナーの製造は、製造前後での、各樹脂材料の重量平均分子量の変化率が±10%以内、融点、軟化点、ガラス転移点の変化量が±10℃以内となるような条件で行った。
最終的に得られたトナーの酸価は、6.2KOHmg/gであった。また、トナー中における結晶の平均長さは、400nmであった。また、得られたトナーにおける外添剤の被覆率は、160%であった。
なお、トナー中における結晶の平均長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)による測定の結果から求めた。
【0252】
(実施例2)
ノズルの構造を図6に示すようなものに変更し、外添剤として加えるルチルアナターゼ型の酸化チタンの添加量を0.2重量部とした以外は、前記実施例1と同様にしてトナーを製造した。
(実施例3)
ノズルの構造を図7に示すようなものに変更し、外添剤として加えるルチルアナターゼ型の酸化チタンの添加量を2重量部とした以外は、前記実施例1と同様にしてトナーを製造した。
【0253】
(実施例4〜6)
混練工程に供する原料中におけるポリエステルAの含有量、ポリエステルBの含有量を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして、トナーを製造した。
(実施例7)
ノズルの構造を図8〜図10に示すようなものに変更し、外添剤としての負帯電性大粒径シリカ(平均粒径:40nm)を用いなかった以外は、前記実施例1と同様にしてトナーを製造した。
【0254】
(実施例8)
ノズルの構造を図11〜図13に示すようなものに変更し、外添剤として、さらに正帯電性シリカ(平均粒径:40nm):1重量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてトナーを製造した。なお、正帯電性シリカとしては、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン)を用いて負帯電性シリカに表面処理(疎水化処理)を施すことにより得られたものを用いた。
【0255】
(実施例9)
混練に供するトナー製造用の原料として、スチレン−アクリル共重合体(三洋化成工業社製、ハイマーLB−200):100重量部、カーボンブラック(着色剤):6重量部、サリチル酸Cr錯体(帯電制御剤、ボントロンE−81):2重量部、ポリプロピレンワックス(ワックス):3重量部の混合物を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてトナーを製造した。
【0256】
(比較例1)
まず、前記実施例1と同様にして粗粉砕された混練物を得た。
次に、この粗粉砕された混練物を微粉砕した。混練物の微粉砕にはジェットミル(ホソカワミクロン社製、200AFG)を用いた。なお、微粉砕は、粉砕エア圧:500[kPa]、ロータ回転数:7000[rpm]で行った。
このようにして得られた粉砕物を気流分流機(ホソカワミクロン社製、100ATP)で分級した。
【0257】
その後、分級した粉砕物(トナー製造用粉末)に、熱球形化処理を施した。熱球形化処理は、熱球形化装置(日本ニューマチック社製、SFS3型)を用いて行った。熱球形化処理時における雰囲気の温度は、270℃とした。
その後、熱球形化処理を施した粉末に対し、前記実施例1と同様の条件で外添剤を付与することによりトナーを得た。
【0258】
(比較例2)
まず、前記比較例1と同様にして混練物の粗粉砕物を得た。
次に、この粗粉砕された混練物を微粉砕し、微粉砕物とした。混練物の微粉砕にはジェットミル(ホソカワミクロン社製、200AFG)を用いた。なお、微粉砕は、粉砕エア圧:500[kPa]、ロータ回転数:7000[rpm]で行った。
【0259】
上記の微粉砕物:100重量部を、ステアリン酸亜鉛(分散剤):5重量部、負帯電性小粒径シリカ(平均粒径:12nm):10重量部とともに、1000重量部の水に加え、ミキサーにて十分に攪拌することにより分散液(沈殿物を含む)を得た。なお、負帯電性小粒径シリカとしては、ヘキサメチルジシラザンで表面処理(疎水化処理)を施したものを用いた。
【0260】
この分散液を、アトマイザー利用遠心式スプレードライヤーを用いて、熱風温度:280℃、回転数:10000rpmの条件で噴霧乾燥することにより、トナーを得た。このような条件で分散液を噴霧することにより、分散液中に含まれていた微粉砕物は熱球形化された。また、得られたトナー粒子は、分散液中に含まれていた個々の微粉砕物の表面に、負帯電性小粒径シリカが付着したものであり、複数個の微粉砕物(分散質)が凝集したものの存在は確認されなかった。
【0261】
前記実施例1〜9(特に、実施例1〜8)のトナーの製造においては、混練物の粉砕(微粉砕)する工程で、優れた粉砕性(単位時間当たりの粉砕量:約4〜6[kg/時間])を示した。
前記実施例1〜9の方法により得られたトナー母粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、これらの表面形状を観察した。実施例1〜9のトナー母粒子の表面には、分散質の痕跡が確認された。一方、比較例1、2のトナー母粒子の表面には、このような痕跡は認められなかった。
【0262】
実施例1の方法により得られたトナー母粒子について、その電子顕微鏡写真の一例を図17に示す。
前記各実施例および各比較例のトナーについて、構成成分を表1に示し、トナー製造装置を用いて製造された粒子(トナー母粒子)の平均円形度R、円形度標準偏差、重量基準の平均粒径D、粒径標準偏差および最終的に得られたトナーの平均粒径を、トナーの製造に用いた乳化液の条件等とともに表2に示し、トナーの酸価、トナー中における結晶の平均長さ、および外添剤の被覆率を表3にまとめて示した。なお、表中、ポリエステルA、ポリエステルB、スチレン−アクリル共重合体は、それぞれ、PES−A、PES−B、St−Acで示し、帯電制御剤は、CCAで示した。また、比較例2については、トナーの製造に乳化液を用いていないので、表2中の、乳化液の「分散質の平均粒径d」、「噴射液滴の平均粒径d’」の欄には、それぞれ、分散液の「分散質の平均粒径」、「噴射液滴の平均粒径」の値を代わりに示した。
【0263】
また、各実施例および各比較例のトナーについて、Δt=0.05[秒]、トナーの0.01秒での緩和弾性率Gを初期緩和弾性率G(0.01)[Pa]とし、さらに、トナーのΔt秒での緩和弾性率G(Δt)[Pa]としたときの、G(0.01)[Pa]とG(Δt)[Pa]との比、G(0.01)/G(Δt)を以下のようにして求めた。
まず、トナー約1gをパラレルプレートにはさみ、加熱溶融させ、高さ1.0〜2.0mmに調製した。このようにして得られたサンプルを、ARES粘弾性測定装置(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、応力緩和測定モードにより、下記測定条件で粘弾性測定を行った。
・測定温度:150℃、
・歪印加量:線径領域における最大歪み
・ジオメトリー:パラレルプレート(25mm径)
上記のような測定により、初期緩和弾性率(0.01秒での緩和弾性率):G(0.01)[Pa]、Δt=0.05秒での緩和弾性率:G(Δt)[Pa]を求めた。これらの結果から得られるG(0.01)/G(Δt)の値を表3にあわせて示す。
【0264】
【表1】
Figure 0004228803
【0265】
【表2】
Figure 0004228803
【0266】
【表3】
Figure 0004228803
【0267】
表2から明らかなように、本発明のトナーでは、トナー粒子(トナー母粒子)の円形度が比較的大きく、かつ、円形度の標準偏差および粒径の標準偏差が小さく、形状、大きさのバラツキが小さいものであった。これに対し、比較例のトナーでは、トナー粒子(トナー母粒子)の円形度が小さく、形状、大きさのバラツキが大きいものであった。
【0268】
[3]評価
以上のようにして得られた各トナーについて、耐久性、帯電性、転写効率、クリーニング性、嵩密度、保存性、定着良好域の評価を行った。
[3.1]耐久性
レーザープリンタ(セイコーエプソン社製、LP−2000C)にトナーを装着し、5000枚のランニング印字を行い、最終印字サンプルの画像品質を、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:画像に筋や乱れが全く認められない。
○:画像に筋や乱れがほとんど認められない。
△:画像に筋や乱れが若干認められる。
×:画像に多数の筋や乱れがはっきりと認められる。
【0269】
[3.2]帯電性
トナー:0.15gと、キャリア粒子(パウダーテック社製、FL−184):4.85gとを、100rpmの回転速度で、15分間混合した。
得られた混合粉について、吸引法平均帯電量測定装置(Trek Japan 社製、210HS型)を用いて帯電量を測定し、吸引されたトナー重量を秤量し、比電荷量として帯電性を評価した。
【0270】
[3.3]転写効率
レーザープリンタ(セイコーエプソン社製、LP−2000C)を用いて以下のように評価した。
感光体(像担持体)への現像工程直後(転写前)の感光体上のトナーと、転写後(印刷後)の感光体上のトナーとを、別々のテープを用いて採取し、それぞれの重量を測定した。転写前の感光体上のトナー重量をW[g]、転写後の感光体上のトナー重量をW[g]としたとき、(W−W)×100/Wとして求められる値を、転写効率とし、以下の3段階の基準に従い評価した。数値が大きいほど、転写効率が良いと言える。
◎:97%以上
○:95%以上
×:95%未満
【0271】
[3.4]クリーニング性
レーザープリンタ(セイコーエプソン社製、LP−2000C)にトナーを装着して、連続5000枚印字を行い、クリーニング性を以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:感光体表面の拭き残しが全く認められない。
○:印字の初期の段階では、感光体表面の拭き残しがほとんど認められないが、5000枚印字終了時には、クリーニング不良がわずかに認められる。
△:印字の初期の段階では、感光体表面の拭き残しがほとんど認められないが、徐々にクリーニング不良が増大し、5000枚印字終了時には、明らかなクリーニング不良が認められる。
×:印字の初期の段階から、明らかなクリーニング不良が認められる。
【0272】
[3.5]嵩密度
前記各実施例および前記各比較例で製造したトナーについて、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)を用いて、嵩密度を測定した。測定時における温度は20℃、湿度は58%RHであった。
[3.6]保存性
各実施例および各比較例のトナーを、それぞれ10gずつサンプル瓶に入れ、50℃の恒温槽内に48時間放置した後、固まり(凝集)の有無を目視で確認し、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:固まり(凝集)の存在が全く認められなかった。
○:小さい固まり(凝集)がわずかに認められた。
△:小さい固まり(凝集)が相当数認められた。
×:固まり(凝集)がはっきりと認められた。
【0273】
[3.7]定着良好域
まず、定着装置を備えたレーザープリンタ(セイコーエプソン社製、LP−2000C)を用意した。なお、この定着装置では、トナーがニップ部を通過するのに要する時間Δtを0.05秒に設定した。
次に、上記のレーザープリンタを用いて、未定着の画像サンプルを採取し、当該レーザープリンタの定着装置で、以下のような試験を実施した。なお、採取するサンプルのベタは付着量を0.40〜0.50mg/cmに調整した。
レーザープリンタを構成する定着装置の定着ローラの表面温度を所定温度に設定した状態で、未定着のトナー像が転写された用紙(セイコーエプソン社製、上質普通紙)を、定着装置の内部に導入することにより、トナー像を用紙に定着させ、定着後におけるオフセットの発生の有無を目視で確認した。
【0274】
同様に、定着ローラの表面の設定温度を100〜250℃の範囲で順次変更していき、各温度でのオフセットの発生の有無を確認し、オフセットが発生しなかった温度範囲を、「定着良好域」として求め、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:定着良好域の幅が60℃以上である。
○:定着良好域の幅が45℃以上60℃未満である。
△:定着良好域の幅が30℃以上45℃未満である。
×:定着良好域の幅が30℃未満である。
これらの結果を表4にまとめて示した。
【0275】
【表4】
Figure 0004228803
【0276】
表4から明らかなように、本発明のトナーは、いずれも、耐久性、帯電性および転写効率に優れていた。また、本発明のトナーは、幅広い温度領域で、優れた定着性を発揮することができ、さらに、嵩密度が大きく、保存性にも優れていた。特に、より好ましい材料(樹脂、外添剤等)で構成されたトナーや、最適な粒径の分散質を含む乳化液を用いて製造されたトナーでは、極めて良好な結果が得られた。
【0277】
これに対して、比較例のトナーでは、十分な特性が得られなかった。
これは以下のような理由によるものであると考えられる。
すなわち、本発明のトナーは、トナー母粒子が複数個の分散質の凝集体として形成されたものであるため、トナー母粒子(トナー粒子)としての円形度が比較的大きいものであるとともに、トナー母粒子の表面に微小な凹凸が存在している。これにより、感光体表面等へのトナーの強固な付着が防止され、転写効率、クリーニング性等に優れたものとなる。また、本発明のトナーでは、トナー母粒子の表面に微小な凹凸が存在するため、外添剤がより確実に担持され、外添剤の機能が十分に発揮される。その結果、トナー全体としての特性は、特に優れたものとなる。また、本発明のトナーでは、トナー母粒子が複数個の分散質の凝集体として形成されたものであるため、各トナー粒子間での形状のバラツキが小さく、帯電性等の特性も安定している。また、本発明のトナーでは、トナー粒子を構成する各分散質が比較的強固に結合しているため、耐久性、保存性等にも優れている。
これに対し、比較例のトナーは、トナー粒子(トナー母粒子)が複数個の粒子(分散質)の凝集体として得られたものではないため、各粒子間での形状、大きさのバラツキが大きく、前述した種々の特性に劣っている。特に、各トナー母粒子に対応する大きさの微粉砕物を含む分散液を用いることにより得られた比較例2のトナーは、分散液の噴霧乾燥とともに、熱球形化処理を行っているため、分散液の噴霧条件が過酷なものとなっている。このため、得られたトナーは、構成材料が劣化し、上記のようなトナーとして求められる特性が著しく低いものとなっていた。また、比較例2のトナーでは、噴霧乾燥時に、分散液中に添加されていた外添剤がトナー母粒子内に埋没してしまっており、外添剤としての機能が十分に発揮されていない。
【0278】
また、前記各トナーについて、上記の定着装置のニップ部を通過させ、トナー粒子の前記ニップ部の通過時間Δt[秒]における、緩和弾性率G(t)の変化量を測定したところ、実施例1〜8の各トナーでは、緩和弾性率G(t)の変化量は、いずれも100[Pa]以下であった。なお、トナー粒子が通過する際における、ニップ部の温度は、180℃であった。
【0279】
また、着色剤として、C.I.ピグメントブルー、カーボンブラックに代わり、キナクリドン(P.R.122)、銅フタロシアニン顔料、ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントイエロー93を用いた以外は、前記各実施例および前記各比較例と同様にして、トナーを作製し、これらの各トナーについても前記と同様の評価を行った。その結果、前記各実施例および前記各比較例と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 乳化液の調製に用いる混練物を製造するための混練機、冷却機の構成の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】 ブロックポリエステルについて示差走査熱量分析を行ったときに得られる、ブロックポリエステルの融点付近での示差走査熱量分析曲線のモデル図である。
【図3】 軟化点解析用フローチャートである。
【図4】 本発明のトナーの製造に用いられるトナー製造装置の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【図5】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの好適な実施形態を示す断面図である。
【図6】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図7】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図8】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図9】 図8に示すノズルの要部拡大断面図である。
【図10】 図9に示すノズルの内側中間リング先端部分を示す拡大断面図である。
【図11】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図12】 図11に示すノズルの要部拡大断面図である。
【図13】 図11に示すノズルの内側中間リング先端部分を示す拡大断面図である。
【図14】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図15】 図14に示すガス剥離凹部の平面図である。
【図16】 乳化液を微粒子として噴射するノズルの他の実施形態を示す断面図である。
【図17】 本発明のトナー(トナー母粒子)の電子顕微鏡写真の一例である。
【符号の説明】
K1……混練機 K2……プロセス部 K21……バレル K22、K23……スクリュー K24……固定部材 K25……脱気口 K3……ヘッド部 K31……内部空間 K32……押出口 K33……横断面積漸減部 K4……フィーダー K5……原料 K6……冷却機 K61、K62、K63、K64……ロール K611、K621、K631、K641……回転軸 K65、K66……ベルト K67……排出部 K7……混練物 M1……トナー製造装置 M2……ノズル M3……固化部 M31……ハウジング M311……縮径部M4……乳化液供給部 M41……攪拌手段 M5……回収部 M8……電圧印加手段 M10……ガス流供給手段 M101……ダクト M11……バルブM12……圧力調整手段 M121……接続管 M122……拡径部 M123……フィルター 1……流路 3……乳化液 31……分散質 32……分散媒 4……トナー母粒子 5……供給口 7……傾斜面 7A……エッジ 8……薄層流 9……液滴 10……ガス口 11……内側リング 12……中間リング 12A……内側中間リング 12B……外側中間リング 13……外側リング 14……アトマイズガスの流路 15……スプレッディングガスの供給路16……中心リング 17……スプレッディングガス噴射口 18……通気性部材 19……ガス剥離凹部 20……貫通孔 21……液体流路 22……ヘリカルリブ F……加圧ガス源 P……ポンプ

Claims (6)

  1. 液状の分散質が分散媒中に分散したO/W型の乳化液を用いてトナーを製造する製造装置であって、
    樹脂を含む材料を混練して得られる混練物を用いて調製された前記乳化液をガス流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄層流とし、前記薄層流を前記平滑面から離して微粒子化して噴射するノズルと、
    筒状のハウジングで構成され、前記ノズルから微粒子化して噴射された前記乳化液から前記分散媒の除去を行い、前記平滑面から引き離された前記微粒子中の前記分散質を凝集させ、粒状体とする固化部と、
    を有することを特徴とするトナーの製造装置。
  2. 前記ハウジングの内表面に、前記粒状体と同じ極性の電圧を印加する電圧印加手段を備えている請求項1に記載のトナーの製造装置。
  3. 加圧されたガスを、ガス口から開放された空間に噴射してガス流とすると共に、前記ガス口から噴射されるガスを、前記乳化液の流動方向に平滑な前記平滑面に向けて噴射して、前記平滑面に接触しながら前記平滑面と平行に一定の方向に流動するガス流とし、当該ガス流を流動させている前記平滑面の途中に、前記ガス流の流動方向に交差するように、しかも、前記ガス流と前記平滑面との間に前記乳化液を供給することにより、前記乳化液を、前記ガス流で前記平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして前記薄層流とする請求項1または2に記載のトナーの製造装置
  4. 前記平滑面が傾斜面である請求項1ないし3のいずれかに記載のトナーの製造装置
  5. 尖鋭なエッジを境界としてその両面に設けられた2つの傾斜面に沿ってガスを流動させ、前記エッジで両面の前記傾斜面に沿って流動するガスを衝突させて空気振動を発生させ、さらに、前記傾斜面の途中に前記乳化液を供給し、前記傾斜面に供給された前記乳化液を、前記傾斜面に沿って流動させるガス流で薄く引き伸ばして前記薄層流として前記エッジまで移送し、前記エッジから気体中に噴射される粒子を、前記エッジ先端の空気振動で粉砕して前記乳化液を微粒子として噴射する請求項1ないし4のいずれかに記載のトナーの製造装置
  6. 請求項1ないしのいずれかに記載の装置を用いて製造されたことを特徴とするトナー。
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