JP4228688B2 - Dna遊離方法 - Google Patents

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【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料、特に硬組織(体毛、爪、骨等)由来の生体試料から核酸を遊離させる方法及びこれに用いられるキットに関する。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子工学、臨床診断、法医学等の分野に於いては、遺伝情報の解析,遺伝子疾患・ウイルス性疾患等の診断・原因究明,或いは個人識別・親子鑑定・犯罪鑑識等、種々の目的で、各種試料からの核酸鎖の遊離(抽出)及びその分析が広く行われている。
【0003】
従来、核酸を遊離(抽出)する方法としては、例えば試料を物理的に、又は界面活性剤等で処理して破壊後、核酸を遊離(抽出)する方法(例えば、非特許文献1、非特許文献2等)、例えば界面活性剤,塩の存在下に、試料を蛋白質分解酵素で処理して核酸を遊離(抽出)する方法(例えば、特許文献1等)や還元剤,界面活性剤,キレート剤,タンパク質変性剤から選ばれる1種、塩及び共沈剤の存在下に、試料をタンパク質分解酵素で処理して破壊後、核酸を遊離(抽出)する方法(例えば、特許文献2等)等が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、何れも核酸の収率が十分と言えるものではない。
特に、これらの方法は、血清、血漿等の血液成分を対象試料とするものであり、法医学分野等に於いて行われているような硬組織(例えば体毛や爪或いは骨等)を対象試料とした場合には、血液成分に比べて核酸の収率が著しく低下し、後の分析に耐えられる程の十分量の核酸を得ることができないという欠点や核酸を遊離(抽出)するために長い時間を必要とするという欠点等を有している。
【0005】
【非特許文献1】
生化学実験講座2,「核酸の化学 I」,74〜80頁,262〜270頁,1975年,東京化学同人
【非特許文献2】
「遺伝子操作マニュアル」,20〜23頁,1985年,講談社
【特許文献1】
特開平6−205676号公報(請求項1、0006〜0007段落、0009段落)
【特許文献2】
特開平7−2364999号公報(請求項1〜9、0013段落)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記欠点を解消し、核酸を高収率且つ簡便に遊離させる方法及びそれに用いられるキットを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成よりなる。
【0008】
(1)硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の存在下で反応させることを特徴とする、当該試料から核酸を遊離させる方法(以下、本発明の遊離方法1と略記する。)。
【0009】
(2)生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させることを特徴とする、当該試料から核酸を遊離させる方法(以下、本発明の遊離方法2と略記する。)。
【0010】
(3)▲1▼陰イオン界面活性剤を含む試薬、▲2▼チオール化合物及び塩化カリウムを含む試薬、並びに▲3▼プロテイナーゼKを含む試薬、若しくは▲1▼陰イオン界面活性剤を含む試薬、▲2▼チオール化合物を含む試薬、▲3▼塩化カリウムを含む試薬、並びに▲4▼プロテイナーゼKを含む試薬、とを組み合わせてなる生体試料から核酸を遊離させるためのキット。
【0011】
即ち、本発明者等は、生体試料、特に硬組織(体毛、爪、骨等)由来の生体試料から、核酸を高収率且つ簡便に遊離させる方法について鋭意研究の結果、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の存在下で反応させることにより、今まで困難であった硬組織由来の生体試料から、高収率且つ簡便に核酸を遊離させることができること、また、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させることにより、生体試料からより高収率且つ簡便に核酸を遊離させることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に於いて、塩化カリウムの使用量としては、試料を十分に溶解し得る量、換言すれば、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析等に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、特に限定されない。
具体的には、例えば試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中に、下限が通常20mM以上、好ましくは30mM以上、より好ましくは50mM以上の濃度添加される。上限は特に限定されないが、経済性等を考慮すると、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中に、通常200mM以下、好ましくは150mM以下、より好ましくは100mM以下、特に好ましくは80以下の濃度添加される。
【0013】
本発明に於いて用いられる陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸類、スルホン酸類、硫酸エステル類、リン酸エステル類、コール酸類又はこれらの塩等が挙げられる。
カルボン酸類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸等が挙げられ、具体的には、例えばオレイン酸、ラウロイルサルコシン、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸等が挙げられる。
また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、例えばオレイン酸カリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニンナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム等が挙げられる。
スルホン酸類としては、アルキルベンゼンスルホン酸(例えばラウリルベンゼンスルホン酸等)、ナフタレンスルホン酸(例えばジプロピルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸等)、スルホコハク酸(例えばジオクチルスルホコハク酸等)等が挙げられ、具体的には、例えばラウリルベンゼンスルホン酸、ジプロピルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸等が挙げられる。
また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、例えばラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。
硫酸エステル類としては、高級アルコール硫酸エステル(例えばラウリル硫酸エステル等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル等)等が挙げられ、具体的には、例えばラウリル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸等が挙げられる。
また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、例えばラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム:SDS)、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
リン酸エステル類としては、モノステアリルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸等が挙げられ、具体的には、例えばモノステアリルリン酸、モノラウリルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸等が挙げられる。
また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、例えばモノステアリルリン酸ナトリウム、モノラウリルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸カリウム等が挙げられる。
コール酸類としては、コール酸、コール酸誘導体(例えばデオキシコール酸等)等が挙げられ、具体的には、例えばコール酸、デオキシコール酸等が挙げられる。
また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、例えばコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。
上記した陰イオン性界面活性剤のなかでも、カルボン酸類、硫酸エステル類、コール酸類及びこれらの塩が好ましく、特に硫酸エステル類の塩、なかでも高級アルコール硫酸エステルの塩が好ましい。具体的には、ラウロイルサルコシンナトリウム、SDS及びコール酸ナトリウムが好ましく、特にSDSが好ましい。本発明に於いて、上記した如き陰イオン性界面活性剤の使用量としては、用いられる陰イオン性界面活性剤の種類や試料の種類によって異なるため一概には言えないが、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよい。
このような使用量としては、試料を十分に溶解し得る量、換言すれば、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析等に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、特に限定されないが、一般的には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、例えば下限は通常0.02%(w/v)以上、好ましくは0.03%(w/v)以上、より好ましくは0.04%(w/v)以上であり、上限は通常0.15%(w/v)以下、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.1%(w/v)未満、更に好ましくは0.08%(w/v)以下、特に好ましくは0.06%(w/v)以下である。
【0014】
本発明に於いて用いられるチオール化合物としては、例えばジチオトレイトール(以下、DTTと略記する。)、β−メルカプトエタノール(以下、βMEと略記する。)、N−アセチルシステイン、システイン、還元型グルタチオン、ジチオエリトリトール、臭化2−アミノエチルイソチオウロニウム、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオグルコース、2−メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトコハク酸、1−チオ−β−D−グルコース二ナトリウム塩二水和物、4−アミノ−6−ヒドロキシ−2−メルカプトピリミジン一水和物、2−アミノ−6−メルカプトプリンリボサイド水和物、チオフェノール、2−チオウラシル等が挙げられる。
なかでも、DTT、βMEが好ましい。
本発明に於いて、上記したチオール化合物の使用量としては、用いられるチオール化合物の種類によって異なるため一概には言えないが、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよい。
このような使用量としては、試料を十分に溶解し得る量、換言すれば、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析等に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、特に限定されないが、一般的には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、例えば下限は通常9.5mM以上、好ましくは20mM以上、より好ましくは38mM以上、更に好ましくは45mM以上であり、上限は通常1M以下、好ましくは750mM以下、より好ましくは500mM以下、更に好ましくは300mM以下である。
具体的には、例えばDTTを用いる場合には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常9.5mM以上、好ましくは20mM以上、より好ましくは38mM以上であり、上限は通常100mM以下、好ましくは75mM以下、より好ましくは50mM以下である。
また、例えばβMEを用いる場合には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常100mM以上、好ましくは150mM以上、より好ましくは200mM以上、更に好ましくは300mM以上であり、上限は通常1M以下、好ましくは750mM以下、より好ましくは500mM以下である。
【0015】
先ず、本発明の遊離方法1について以下に述べる。
【0016】
本発明の遊離方法1は、硬組織由来の生体試料を対象とするものであり、当該生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の存在下で反応させることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の遊離方法1に於いて、硬組織としては、例えば爪、体毛、骨、歯等が挙げられ、通常爪、体毛等に由来する生体試料が用いられる。
尚、本発明の遊離方法1は、上記した如き硬組織以外の軟組織(例えば臓器、皮膚、血液,唾液等の体液等)、血痕、唾液斑或いはウイルス、細菌、培養細胞、植物・動物由来の試料に於いても使用可能である。
また、上記した如き生体試料の使用量としては、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、また、用いられる試料の種類によっても異なるため一概には言えないが、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよく、特に限定されない。
具体的には、例えば試料として体毛を用いる場合には、体毛とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液に完全に浸る程度の長さとした体毛を、通常10cm以下、好ましくは4cm以下、より好ましくは3cm以下、特に好ましくは2cm以下であり、下限は通常0.2cm以上、好ましくは0.5cm以上である。尚、通常は上記した如き量の体毛を1cm程度の大きさに切断して用いる。また、多量の体毛を試料とした場合、体毛に含まれるメラニン等がポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)反応を阻害することがあるので、本発明の遊離方法1を実施した後に、得られた核酸をPCR反応に共する場合には注意が必要である。
例えば試料として爪を用いる場合には、通常2mg以下、好ましくは1.5mg以下、より好ましくは1mg以下の範囲から適宜使用され、下限は通常0.2mg以上、好ましくは0.5mg以上である。尚、爪を試料とする場合、爪の溶解度、換言すれば、爪から遊離される核酸の回収率はプロテイナーゼKと反応させる際の爪の大きさに依存し、大きくなるに従って溶解度(回収率)が低下するので、上記範囲から選ばれる量の爪をより細かく切断(通常0.5mm×1mm程度以下に切断)してプロテイナーゼKとの反応に共することが好ましい。
【0018】
本発明の遊離方法1に於いて、プロテイナーゼKの使用量としては、試料を十分に溶解し得る量、換言すれば、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析等に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、特に限定されないが、一般的には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、例えば下限は通常10μg/ml以上、好ましくは50μmg/ml以上、より好ましくは70μg/ml以上、特に好ましくは100μg/ml、更に好ましくは150μg/ml以上であり、上限は特に限定されないが、経済性等を考慮すると、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、通常5mg/ml以下、好ましくは2.5mg/ml以下、より好ましくは1.5mg/ml以下、更に好ましくは1.0mg/ml以下である。
具体的には、例えば試料として体毛を用いる場合、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常10μg/ml以上、好ましくは50μmg/ml以上、より好ましくは70μg/ml以上、特に好ましくは100μg/ml、更に好ましくは150μg/ml以上である。上限は特に限定されないが、経済性等を考慮すると、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、通常2.5mg/ml以下、好ましくは1.5mg/ml以下、より好ましくは1.0mg/ml以下である。
また、試料として爪を用いる場合、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常10μg/ml以上、好ましくは50μmg/ml以上、より好ましくは70μg/ml以上、特に好ましくは100μg/ml、更に好ましくは150μg/ml以上である。上限は特に限定されないが、経済性等を考慮すると、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、通常2.5mg/ml以下、好ましくは1.5mg/ml以下、より好ましくは1.0mg/ml以下である。
尚、試料として爪等の比較的固いものを用いる場合は、核酸の回収率を上げることが可能となるので、後述するように、最終反応液中のプロテイナーゼKの濃度が上記した如き範囲から選ばれる量となるようにプロテイナーゼKを数回に分けて添加しながら試料と反応させることが好ましい。
【0019】
尚、本発明の遊離方法1に於いて使用される塩化カリウムの使用量、好ましい態様、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の具体例、好ましい態様、使用量等は上記した通りであるが、特に陰イオン性界面活性剤としては、例えば試料として体毛を用いる場合には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常0.02%(w/v)以上、好ましくは0.03%(w/v)以上、より好ましくは0.04%(w/v)以上の範囲から、上限は通常0.1%(w/v)未満、好ましくは0.08%(w/v)以下、より好ましくは0.06%(w/v)以下、更に好ましくは0.05%(w/v)以下の範囲から適宜選択して使用されるが好ましい。また、例えば試料として爪を用いる場合には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、下限は通常0.02%(w/v)以上、好ましくは0.03%(w/v)以上、より好ましくは0.04%(w/v)以上の範囲から、上限は通常0.15%(w/v)以下、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.1%(w/v)未満、更に好ましくは0.08%(w/v)以下の範囲から適宜選択して使用されるのが好ましい。
【0020】
本発明の遊離方法1は、上記した如き硬組織由来の生体試料と、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物とを含有する水溶液(反応液)を調製し、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の存在下、該生体試料にプロテイナーゼKを作用(反応)させることにより実施することができる。
【0021】
上記に於いて、硬組織由来の生体試料と、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物とを含有する水溶液を調製する方法としては、最終的にこれら各成分を含有する溶液が得られる方法であれば良く、特に限定されない。
最も一般的な方法としては、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物とを含有する水溶液(反応液)に、硬組織由来の生体試料を添加する方法、硬組織由来の生体試料に、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物とを含有する水溶液(反応液)を添加する方法等が挙げられる。
また、硬組織由来の生体試料に、プロテイナーゼKを含有する水溶液、塩化カリウムを含有する水溶液、陰イオン界面活性剤を含有する水溶液及びチオール化合物を含有する水溶液を夫々別々に添加しても良い。
更に、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物のうちの1種以上を含有する水溶液2種以上を、硬組織由来の生体試料に夫々別々に添加しても良く、このような方法としては、先ず硬組織由来の生体試料に陰イオン界面活性剤を含有する水溶液(溶解液)を添加するか、或いは陰イオン界面活性剤を含有する水溶液(溶解液)に硬組織由来の生体試料を添加するかして、硬組織由来の生体試料と陰イオン界面活性剤とを含有する溶液を調製し、次いで、当該溶液に更に塩化カリウム及びチオール化合物を含有する水溶液、並びにプロテイナーゼKを含有する水溶液を順次添加混合する方法が好ましい。
上記方法に於いて、各水溶液中の各成分の使用濃度は、最終的な反応液(硬組織由来の生体試料、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物を含有する溶液)中の濃度が上記した如き範囲から選ばれるように、各溶液の使用量を考慮に入れて適宜決定すればよい。
【0022】
本発明の遊離方法1に於ける反応条件は、以下の通りである。
例えば、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応温度としては、下限は通常37℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは55℃以上であり、上限は通常70℃以下、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下である。
試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応時間としては、反応温度や試料の種類・量等によって左右されるが、一般的には下限が通常10分以上、好ましくは20分以上、上限が通常36時間以下、好ましくは24時間以下の範囲から適宜選択され、例えば試料として体毛を使用する場合には、下限は通常10分以上、好ましくは20分以上であり、上限は通常140分以下、好ましくは90分以下、より好ましくは70分以下、更に好ましくは40分以下であり、例えば試料として爪を使用する場合には、下限が通常2時間以上、好ましくは4時間以上、より好ましくは6時間以上であり、上限が通常36時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは18時間以下である。
また、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際のpHとしては、プロテイナーゼKの活性に悪影響を及ぼさないpHであればよく、特に限定されないが、具体的には、下限は通常pH7.5以上、好ましくはpH8.0以上、より好ましくはpH8.2以上、特に好ましくはpH8.3以上であり、下限は通常pH12以下、好ましくはpH10以下、より好ましくはpH9以下である。
【0023】
本発明の遊離方法1に於いては、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際のpHを上記した如き範囲に保つために緩衝剤を使用することができる。
このような緩衝剤としては、上記した如き反応温度に於いて上記した如きpH範囲で緩衝能を有するものであれば良く、特に限定されないが、例えばN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸(CHES)、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPS)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPSO)、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)(POPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、2-ヒドロキシ-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、Bis-trisプロパン、コラミンクロリド、グリシン・アミド等のグッド緩衝剤、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(tris)、グリシルグリシン等の緩衝剤が挙げられる。
これらのなかでも好ましい緩衝剤としては、60℃に於けるpKaが下限としては通常6.50以上、好ましくは7.00以上、より好ましくは7.20以上、更に好ましくは7.30以上であり、上限としては通常13.00以下、好ましくは11.00以下、より好ましくは10.00以下、更に好ましくは9.50以下である緩衝剤が挙げられる。
具体的には、例えばBES〔pKa(60℃):6.51〕、TES〔pKa(60℃):6.70〕、HEPES〔pKa(60℃):6.99〕、Tris〔pKa(60℃):7.06〕、グリシン・アミド〔pKa(60℃):7.04〕、HEPPS〔pKa(60℃):7.72〕、Tricine〔pKa(60℃):7.31〕、Bicine〔pKa(60℃):7.63〕、CHES〔pKa(60℃):9.14〕、CAPS〔pKa(60℃):10.04〕、グリシルグリシン〔pKa(60℃):7.28〕等の60℃に於けるpKaが6.50以上である緩衝剤が好ましく、例えばTris、グリシン・アミド、HEPPS、Tricine、Bicine、CHES、CAPS、グリシルグリシン等の60℃に於けるpKaが7.00以上である緩衝剤がより好ましく、例えばHEPPS、Tricine、Bicine、CHES、CAPS、グリシルグリシン等の60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤が特に好ましく、例えばHEPPS、Tricine、Bicine、CHES等の60℃に於けるpKaが7.30以上、9.50以下である緩衝剤が更に好ましい。これらのなかでも最も好ましくはTricineである。
また、上記した如き緩衝剤のうち、上記した如き性質を有し、且つΔpKa/℃が通常−0.030以下、好ましくは−0.025以下の緩衝剤を使用すれば、常温から酵素反応を行うための温度上昇に伴うpH変動を減少させることにより、高収率に核酸を遊離させることができる。
このような緩衝剤としては、例えばHEPPS〔ΔpKa/℃:−0.007〕、Tricine〔ΔpKa/℃:−0.021〕、Bicine〔ΔpKa/℃:−0.018〕、CHES〔ΔpKa/℃:−0.009〕、CAPS〔ΔpKa/℃:−0.009〕が挙げられ、なかでもTricineが最も好ましい。
上記した如き緩衝剤の使用量としては、用いられる緩衝剤の種類等により異なるため一概には言えないが、上記した如き反応温度に於いて上記した如きpH範囲を保持し得る量(上記した如きpH範囲に於いて緩衝能が得られるような量)であれば良く、一般的には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、例えば下限は通常1mM以上、好ましくは5mM以上、より好ましくは9mM以上、更に好ましくは9.5mM以上であり、上限は通常500mM以下、好ましくは250mM以下、より好ましくは100mM以下、更に好ましくは50mM以下である。
尚、本発明の遊離方法1に於いて上記した如き緩衝剤を使用するには、硬組織由来の生体試料にプロテイナーゼKを作用させる際に、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物と同時に緩衝剤を共存させれば良く、前述した如き硬組織由来の生体試料と、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物とを含有する水溶液を調製する方法に準じて行えばよい。即ち、最終的に、硬組織由来の生体試料、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び緩衝剤を含有する溶液が得られる方法であればよく、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び緩衝剤の全てを含有する水溶液(反応液)に硬組織由来の生体試料を添加するか、硬組織由来の生体試料を当該反応液に添加する方法、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び緩衝剤を別々に含有する水溶液を硬組織由来の生体試料に夫々添加する方法、或いはプロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び緩衝剤のうち1種以上を含有する水溶液2種以上を硬組織由来の生体試料に夫々添加する方法等が挙げられる。尚、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物、緩衝剤のうちの1種以上を含有する水溶液2種以上を、硬組織由来の生体試料に夫々別々に添加する方法としては、先ず硬組織由来の生体試料に陰イオン界面活性剤及び緩衝剤を含有する水溶液(溶解液)を添加するか、或いは陰イオン界面活性剤及び緩衝剤を含有する水溶液(溶解液)に硬組織由来の生体試料を添加するかして、硬組織由来の生体試料と陰イオン界面活性剤及び緩衝剤とを含有する溶液を調製し、次いで、当該溶液に更に塩化カリウム及びチオール化合物を含有する水溶液、並びにプロテイナーゼKを含有する水溶液を順次添加混合する方法が好ましい。
上記方法に於いて、各溶液中の緩衝剤の使用濃度及びpHは、最終的な反応液(硬組織由来の生体試料、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び緩衝剤を含有する溶液)中の濃度及びpHが上記した如き範囲から選ばれるように、各溶液の使用量を考慮に入れて適宜決定すればよい。
【0024】
本発明の遊離方法1に於いては、上記した如きプロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物以外に、更に、通常この分野で使用される試薬類、例えばキレート剤等を共存させても良い。
即ち、硬組織由来の生体試料を、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物、要すればキレート剤の存在下、プロテイナーゼKと反応させてもよい。
【0025】
キレート剤としては、通常この分野で用いられるものであれば良く、特に限定されないが、二価の金属イオンをキレートし得る能力を有するものが好ましい。より具体的には、例えばヒドロキシ基を有していてもよいアルキルイミノポリカルボン酸〔ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、イミノ二酢酸(IDA)等〕、ニトリロポリカルボン酸〔ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)等〕、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基又はヒドロキシアラルキル基を有していてもよいモノ又はポリアルキレンポリアミンポリカルボン酸〔エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン二プロピオン酸二塩酸塩(EDDP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA−OH)、1,6-ヘキサメチレンジアミン-N,N,N',N'-四酢酸(HDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、ジエチレントリアミン-N,N,N',N'',N''-五酢酸(DTPA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N-二酢酸(HBED)等〕、ポリアミノアルカンポリカルボン酸〔ジアミノプロパン四酢酸(Methyl−EDTA、)、trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N',N'-四酢酸(CyDTA)等〕、ポリアミノアルカノールポリカルボン酸〔ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA−OH)等〕、ヒドロキシアルキルエーテルポリアミンポリカルボン酸〔グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)等〕等の分子中に1〜4個の窒素原子と2〜6個のカルボキシル基を有する含窒素ポリカルボン酸類、例えばアミノポリ(アルキルホスホン酸)〔アミノトリス(メチレンホスホン酸)等〕、ニトリロポリ(アルキルホスホン酸)〔ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTPO)等〕、モノ又はポリアルキレンポリアミンポリ(アルキルホスホン酸)〔エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、エチレンジアミン-N,N'-ビス(メチレンホスホン酸)(EDDPO)、イソプロピレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン-N,N,N',N'',N''-ペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンビス(メチレンホスホン酸)、ヘキセンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等〕、アルキルアミノポリ(アルキルホスホン酸)〔エチルアミノビス(メチレンホスホン酸)、ドデシルアミノビス(メチレンホスホン酸)等〕等の分子中に1〜3個の窒素原子と2〜5個のホスホン酸基を有する含窒素ポリホスホン酸類、例えばメチルジホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1'-ジホスホン酸(HEDPO)、1-ヒドロキシプロピリデン-1,1'-ジホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデン-1,1'-ジホスホン酸等のヒドロキシ基を有していてもよいアルカンポリホスホン酸類、例えばジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)等が挙げられ、なかでもEDTAが好ましい。
また、上記した如きキレート剤の使用量としては、用いられるキレート剤の種類により異なるため一概には言えないが、一般的には、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、例えば下限は通常1mM以上、好ましくは3mM以上、より好ましくは5mM以上、更に好ましくは7mM以上、特に好ましくは9mM以上であり、上限は特に限定されないが、経済性等を考慮すると、試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の反応液中の濃度として、通常200mM以下、好ましくは100mM以下、より好ましくは50mM以下、更に好ましくは25mM以下、特に好ましくは10mM以下である。
【0026】
上記に於いて、キレート剤を共存させる方法としては、硬組織由来の生体試料にプロテイナーゼKを作用させる際に、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物(要すれば緩衝剤)と同時にキレート剤を共存させれば良く、前述した如き硬組織由来の生体試料と、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物(要すれば緩衝剤)とを含有する水溶液を調製する方法に準じて行えばよい。即ち、最終的に、硬組織由来の生体試料、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤を含有する溶液が得られる方法であればよく、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤の全てを含有する水溶液(反応液)に硬組織由来の生体試料を添加するか、硬組織由来の生体試料を当該反応液に添加する方法、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤を別々に含有する水溶液を硬組織由来の生体試料に夫々添加する方法、或いはプロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤のうち1種以上を含有する水溶液2種以上を硬組織由来の生体試料に夫々添加する方法等が挙げられる。
尚、このような方法のうち、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤のうちの1種以上を含有する水溶液2種以上を、硬組織由来の生体試料に夫々別々に添加する方法としては、先ず硬組織由来の生体試料に陰イオン界面活性剤(要すれば緩衝剤)及びキレート剤を含有する水溶液(溶解液)を添加するか、或いは陰イオン界面活性剤(要すれば緩衝剤)及びキレート剤を含有する水溶液(溶解液)に硬組織由来の生体試料を添加するかして、硬組織由来の生体試料と陰イオン界面活性剤(要すれば緩衝剤)及びキレート剤とを含有する溶液を調製し、次いで、当該溶液に更に塩化カリウム及びチオール化合物を含有する水溶液、並びにプロテイナーゼKを含有する水溶液を順次添加混合する方法が好ましい。
上記方法に於いて、各溶液中のキレート剤の使用濃度は、最終的な反応液(硬組織由来の生体試料、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物(要すれば緩衝剤)及びキレート剤を含有する溶液)中の濃度が上記した如き範囲から選ばれるように、各溶液の使用量を考慮に入れて適宜決定すればよい。
【0027】
本発明の遊離方法1を実施するには、例えば以下の通り行えばよい。
即ち、適当な大きさに切断した硬組織由来の生体試料をテストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(要すればキレート剤又は/及び緩衝剤)含有水溶液、適当量のチオール化合物及び塩化カリウム含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK含有水溶液を、これら溶液の全体量として当該試料が浸漬し得る程度の量夫々加え、当該溶液(反応液)を、例えば下限37℃以上、上限70℃以下、下限pH7.5以上、下限12以下の条件下で下限10分以上、上限36時間以下反応させればよい。
尚、上記に於いては、陰イオン界面活性剤(要すればキレート剤又は/及び緩衝剤)含有水溶液、チオール化合物及び塩化カリウム含有水溶液、プロテイナーゼK含有水溶液を別々の溶液として、当該試料に夫々添加しているが、当該試料に添加する前に、これら溶液を予め混合して1つの溶液とし、これを当該試料に添加しても良い。
また、試料として爪等の比較的固いものを用いる場合には、プロテイナーゼKを数回に分けて反応液に追加添加して試料と反応させれば、核酸の回収率を上げることが可能となる。このような方法を実施する際の追加回数、追加する際のプロテイナーゼKの濃度、反応時間等については特に制限はないが、例えば初めに試料とプロテイナーゼKとを反応させた後、1乃至5時間毎に1乃至5回プロテイナーゼKを追加添加すればよく、その際の使用濃度としては、使用するプロテイナーゼKの総量(初めに試料と反応させたプロテイナーゼKの量+追加添加したプロテイナーゼKの量)が、前述した如き濃度範囲となるように、夫々の場合(初めに試料と反応させる際及び追加添加する際)で使用されるプロテイナーゼKの量を適宜選択すればよい。
更に、上記したようにプロテイナーゼKを追加添加する場合には、チオール化合物(要すれば塩化カリウム)も併せて追加添加するのが好ましい。チオール化合物(要すれば塩化カリウム)を添加するには、プロテイナーゼK含有水溶液中にこれらを共存させておき、プロテイナーゼKと同時に追加添加しても、また、追加添加するプロテイナーゼK含有水溶液とは別の溶液としてプロテイナーゼKとは別に追加添加しても良い。尚、当該チオール化合物(要すれば塩化カリウム)の追加添加は、プロテイナーゼKを追加添加する毎に併せて行う必要はなく、追加添加する際のチオール化合物や塩化カリウムの量は、前述した濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0028】
以下に、体毛又は爪を試料として用いる場合の本発明の遊離方法1を具体的に説明する。
【0029】
〔体毛を試料とする場合〕
例えば1cm以下に切断した体毛を適当量(4cm以下)テストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(0.01%以上、0.2%以下)〔要すればキレート剤(1mM以上、200mM以下)又は/及び緩衝剤(1mM以上、500mM以下)〕含有水溶液、適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK(0.2mg/ml以上、2.5mg/ml以下)含有水溶液を夫々加え(これら溶液の全体量として体毛が浸漬し得る程度)、これ(反応液)を、適当な温度(37℃以上、70℃以下)、適当なpH(pH7.5以上、pH12以下)の条件下で10分以上、140分以下反応させればよい。
尚、上記方法に於いて、不溶物が存在する場合等には、必要に応じて常法に従って遠心分離処理(例えば通常5000rpm以上、好ましくは10000rpm以上、通常20000rpm以下、好ましくは15000rpm以下で、通常30秒以上、好ましくは1分以上、通常5分以下、好ましくは2分以下)を行い、上清を採取することにより当該不溶物を除去することができる。
【0030】
〔爪を試料とする場合〕
例えば0.5mm×1mm以下に切断した爪を適当量(2mg以下)テストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(0.02%以上、0.5%以下)〔要すればキレート剤(1mM以上、200mM以下)又は/及び緩衝剤(1mM以上、500mM以下)〕含有水溶液、適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK(0.3mg/ml以上、5mg/ml以下)含有水溶液を夫々加え(これら溶液の全体量として試料の爪が浸漬し得る程度)、これ(反応液)を、適当な温度(37℃以上、70℃以下)、適当なpH(pH7.5以上、pH12以下)の条件下で2時間以上、36時間以下反応させればよい。
尚、上記方法に於いて、プロテイナーゼKを一度に添加して試料と反応させているが、0.5mg以上の爪を試料とする場合、及び1mgの爪を試料とする場合には、夫々以下のようにプロテイナーゼKを数回に分けて添加して試料と反応させることにより、より効率よく核酸を遊離することができる。
即ち、0.5mg以上の爪を試料とする場合は、例えば0.5mm×1mm以下に切断した爪をテストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(0.02%以上、0.5%以下)〔要すればキレート剤(1mM以上、200mM以下)又は/及び緩衝剤(1mM以上、500mM以下)〕含有水溶液、適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/3量:0.1mg/ml以上、1.67mg/ml以下)含有水溶液を夫々加え(これら溶液の全体量として試料の爪が浸漬し得る程度)、これ(反応液)を、適当な温度(37℃以上、70℃以下)、適当なpH(pH7.5以上、pH12以下)の条件下で4時間反応させた後、これに適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/3量:0.1mg/ml以上、1.67mg/ml以下)含有水溶液を追加添加して更に4時間反応させる。次いで、再度適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/3量:0.1mg/ml以上、1.67mg/ml以下)含有水溶液を追加添加して終夜(12〜18時間)反応させればよい。(尚、プロテイナーゼK含有溶液の添加は計3回となる。)
また、1mg以上の爪を試料とする場合は、例えば0.5mm×1mm以下に切断した爪をテストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(0.02%以上、0.5%以下)〔要すればキレート剤(1mM以上、200mM以下)又は/及び緩衝剤(1mM以上、500mM以下)〕含有水溶液、適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/4量:0.075mg/ml以上、1.25mg/ml以下)含有水溶液を夫々加え(これら溶液の全体量として試料の爪が浸漬し得る程度)、これ(反応液)を、適当な温度(37℃以上、70℃以下)、適当なpH(pH7.5以上、pH12以下)の条件下で3時間反応させる。次いで、これに適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/4量:0.075mg/ml以上、1.25mg/ml以下)含有水溶液を追加添加して更に3時間反応させる。この操作を再度行った後、再度適当量のプロテイナーゼK(総プロテイナーゼ量の約1/4量:0.075mg/ml以上、1.25mg/ml以下)含有水溶液及び適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液を追加添加して終夜(12〜18時間)反応させればよい。(尚、プロテイナーゼK含有溶液の添加は計4回となる。)
尚、上記方法に於いては、必要に応じて常法に従って遠心分離処理(例えば通常5000rpm以上、好ましくは10000rpm以上、通常20000rpm以下、好ましくは15000rpm以下で、通常30秒以上、好ましくは1分以上、通常5分以下、好ましくは2分以下)を行い、上清を採取してもよい。
【0031】
上記した如き本発明の遊離方法1で遊離された核酸鎖は、そのまま各種核酸鎖分析等の試料として使用することも可能であり、また、これを更に、この分野で通常使用されている方法によって核酸鎖を採取・精製する際の試料とすることも可能である。
【0032】
次ぎに、本発明の遊離方法2について以下に述べる。
【0033】
本発明の遊離方法2は、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させることを特徴とするものである。
即ち、本発明の遊離方法2は、60℃に於けるpKaが7.20以上の緩衝剤を用いることにより、常温から酵素反応を行うために温度を上昇させた場合、上記した如きプロテイナーゼKの安定pH領域或いは最適pH付近での緩衝能を十分に保持し得る。換言すれば、このような緩衝剤を用いることにより、酵素反応を行う温度(反応温度)に於いて、試料とプロテイナーゼKとの反応の際のpHを上記した如きプロテイナーゼKの安定pH領域或いは最適pH付近に保つことができる。その結果、プロテイナーゼKの活性を十分に引き出すことができ、常法に比べ高収率に核酸を遊離させることができるのである。
【0034】
本発明の遊離方法2に於いて、用いられる生体試料としては特に限定されないが、例えば各種臓器、皮膚、血液,唾液等の体液等(軟組織)、血痕、唾液斑或いはウイルス、細菌、培養細胞、植物・動物由来の試料等が挙げられる。尚、本発明の遊離方法2は、硬組織(例えば爪、体毛、骨、歯等)に由来する生体試料に於いても使用可能である。
また、上記した如き生体試料の使用量としては、本発明の方法を実施した後に得られた核酸を各種分析に共するのに十分な量の核酸を試料から遊離(抽出)し得る量であればよく、また、用いられる試料の種類によっても異なるため一概には言えないが、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよく、特に限定されない。
【0035】
本発明の遊離方法2に於いて用いられる60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤としては、60℃に於けるpKaが7.20以上のものであれば良く、特に限定されない。また、なかでも60℃に於けるpKaが7.30以上のものを使用するのが好ましい。また、上限としては通常13.00以下、好ましくは11.00以下、より好ましくは10.00以下、更に好ましくは9.50以下である。
このような緩衝剤の具体例としては、前述した如き本発明の遊離方法1と同様である。
本発明の遊離方法2に於いては、常温から酵素反応を行うための温度上昇に伴うpH変動を減少させることにより、高収率に核酸を遊離させることができるため、上記した如き性質を有し、且つΔpKa/℃が通常−0.030以下、好ましくは−0.025以下の緩衝剤を使用するのが好ましい。
このような緩衝剤としては、例えばHEPPS〔ΔpKa/℃:−0.007〕、Tricine〔ΔpKa/℃:−0.021〕、Bicine〔ΔpKa/℃:−0.018〕、CHES〔ΔpKa/℃:−0.009〕、CAPS〔ΔpKa/℃:−0.009〕が挙げられ、なかでもTricineが最も好ましい。
また、上記した如き緩衝剤の使用量も、前述した如き本発明の遊離方法1と同様である。
【0036】
また、本発明の遊離方法2に於いて用いられる塩化カリウムの使用量、好ましい態様、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の具体例、使用量、好ましい態様等は上記で述べた通りであり、また、プロテイナーゼKの使用量、好ましい態様等は、上記した如き本発明の遊離方法1と同様である。
【0037】
本発明の遊離方法2は、上記した如き生体試料と、プロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤とを含有する水溶液(反応液)を調製し、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下、該生体試料にプロテイナーゼKを作用(反応)させることにより実施することができる。
尚、上記に於いて、水溶液(反応液)を調製する方法は上記した如き本発明の遊離方法1に準じてこれを行えばよい。
【0038】
また、本発明の遊離方法2に於ける反応条件、即ち、反応温度、反応時間、反応pH等は、本発明の遊離方法1と同様である。
【0039】
本発明の遊離方法2に於いても、更に、通常この分野で使用される試薬類、例えばキレート剤等を共存させても良く、キレート剤の具体例、好ましい態様及び使用量等は上記した如き本発明の遊離方法1と同様であり、キレート剤を共存させる方法も上記した如き本発明の遊離方法1に準じて行えばよい。
【0040】
本発明の遊離方法2を実施するには、通常この分野で行われている方法に準じて実施すればよい。
尚、生体試料として体毛又は爪を試料として用いる場合は、上記した如き本発明の遊離方法1と同様に実施すればよく、また、これら以外の生体試料〔例えば各種臓器、皮膚、血液,唾液等の体液等(軟組織)、ウイルス、細菌、培養細胞、植物・動物由来の試料等〕を試料とする場合は、自体公知の方法に準じて実施すればよい。
【0041】
以下に、血痕、唾液斑を試料として用いる場合の本発明の遊離方法2を具体的に説明する。
【0042】
例えば先ず、血痕又は唾液斑が付着している部分に生理食塩水を滴下し、血痕又は唾液斑中の血液又は唾液成分を当該生理食塩水中に溶解又は懸濁させる。当該生理食塩水を回収し、ガーゼ、紙(和紙)等の吸収性担体に塗布した後、当該吸収性担体の生理食塩水塗布部位を切り取る。次いで当該切り取り片を適当量(4cm以下)テストチューブに入れ、適当量の陰イオン界面活性剤(0.01%以上、0.2%以下)〔要すればキレート剤(1mM以上、200mM以下)又は/及び緩衝剤(1mM以上、500mM以下)〕含有水溶液、適当量のチオール化合物(9.5mM以上、1M以下)及び塩化カリウム(19mM以上、2M以下)含有水溶液、適当量のプロテイナーゼK(0.2mg/ml以上、2.5mg/ml以下)含有水溶液を夫々加え(これら溶液の全体量として切り取り片が浸漬し得る程度)、これ(反応液)を、適当な温度(37℃以上、70℃以下)、適当なpH(pH7.5以上、pH12以下)の条件下で10分以上、140分以下反応させればよい。
尚、上記方法に於いて、使用した吸収性担体を、例えばピンセット等で除去するか、或いは必要に応じて常法に従って遠心分離処理(例えば通常5000rpm以上、好ましくは10000rpm以上、通常20000rpm以下、好ましくは15000rpm以下で、通常30秒以上、好ましくは1分以上、通常5分以下、好ましくは2分以下)を行い、上清を採取することにより除去することができる。
【0043】
上記した如き本発明の遊離方法2で遊離された核酸鎖は、そのまま各種核酸鎖分析等の試料として使用することも可能であり、また、これを更に、この分野で通常使用されている方法によって核酸鎖を採取・精製する際の試料とすることも可能である。
【0044】
上記した如き本発明の遊離方法1又は2を実施した後、即ち、試料とプロテイナーゼKとを反応させた後(要すれば、反応後、更に遠心分離処理等を行って上清を採取した後)に、更に核酸を沈澱させる処理を行って、当該沈澱を採取することにより、遊離した核酸を精製・採取することができる。
【0045】
本発明に於いて、核酸を沈澱させる処理としては、この分野で核酸を沈澱させるために行われている方法であればよく、特に限定されない。
このような方法としては、例えばアルコール沈澱法、塩化セシウム密度勾配遠心法(超遠心法)等が挙げられ、アルコール沈澱法が好ましい。
用いられるアルコール類としては、核酸を特異的に沈澱し得る性質を有するものであれば良く、特に限定されないが、具体的には例えばイソプロパノール、エタノール等の低級アルコール類が挙げられ、特にイソプロパノールが好ましい。また、後述するようにカオトロピック剤としてヨウ化ナトリウムを用いる場合には、特にイソプロパノールを用いて核酸の沈澱を行うことがより好ましい。
これらアルコール類の使用濃度としては、核酸を溶液から沈澱し得るような濃度であればよく、特に限定されないが、例えばイソプロパノールを用いる場合には、イソプロパノールの最終濃度(核酸とイソプロパノールとを接触させる際の溶液中の濃度)が通常40%以上、好ましくは50%以上となるように、本発明の遊離方法1又は2によって得られた溶液中に添加され、また、エタノールを用いる場合には、エタノールの最終濃度(核酸とエタノールとを接触させる際の溶液中の濃度)が通常60%以上、好ましくは70%以上の範囲で用いられる。
【0046】
上記した如き方法を実施するには、例えば以下の如く行えばよい。
【0047】
即ち、前述した如き本発明の遊離方法1又は2で得られた遊離した核酸を含有する溶液〔即ち、硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを、陰イオン界面活性剤、チオール化合物、塩化カリウム(要すればキレート剤又は/及び緩衝剤)の存在下に反応させて得られた溶液、又は、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させて得られた溶液、或いはこれら溶液に遠心分離処理等を行って得られた上清〕に、適当量のアルコール類を添加し(例えばイソプロパノールの場合、最終濃度として通常40%以上、好ましくは50%以上となるような量、エタノールの場合、最終濃度として通常60%以上、好ましくは70%以上となるような量)、混合する。混合後、必要応じてこれを静置してもよい。
尚、ここで核酸を沈澱させ易くするため、例えばNaCl、酢酸ナトリウム等の塩類をアルコール類と共に適宜加えても良く、また、通常この分野で用いられている共沈剤の存在下に核酸を沈澱させても良い。更に、同様の目的で、遊離した核酸を含有する溶液とアルコール類とを混合した後−80℃〜4℃の低温で冷却しても良い。
混合後(要すれば静置後)、遠心分離処理し、核酸を沈澱させた後、上清を除き、得られた沈澱に、例えば通常20%以上、好ましくは30〜50%、より好ましくは40%のイソプロパノール溶液、又は通常50%以上、好ましくは60〜80%、より好ましくは70%のエタノール溶液等を適当量添加して洗浄する。
尚、当該洗浄は上記したイソプロパノール溶液及びエタノール溶液の何れかのみを用いて行っても良いが、好ましくはこれらの溶液を組み合わせて洗浄を行う(どちらかの溶液を用いて洗浄を行った後、続けて別の溶液を用いて洗浄を行う)のが好ましい。
洗浄後、遠心分離処理によって上清を除いた後、得られた核酸沈澱を加温や減圧等の常法により乾燥処理すれば、目的の核酸を得ることができる。
尚、上記方法で得られた核酸を、各種核酸鎖分析(例えばPCR法による遺伝子分析等)等の試料として使用する場合には、これを更にこの分野で通常使用されている方法、例えばTE緩衝液(10mM Tris−塩酸緩衝液、1mM EDTA含有、pH8.0)等の通常この分野で用いられている緩衝液等に再溶解したものを使用するのが望ましい。尚、目的の核酸がDNAである場合には、再溶解された核酸溶液にRNase等を添加・反応させて共存するRNAを消化する方法等で核酸を更に精製しても、また、目的の核酸がRNAである場合には、再溶解された核酸溶液にDNase等を添加・反応させて共存するDNAを消化する方法等で核酸を更に精製してもよい。
【0048】
上記方法に於いて用いられる共沈剤としては、通常この分野で用いられているものであれば良く、得に限定されないが、例えばグリコーゲン、デキストラン等の高分子多糖類、例えばトランスファーRNA等が挙げられる。なかでもグリコーゲン、デキストラン等の高分子多糖類が好ましく、グリコーゲンが特に好ましい。
また、上記した如き共沈剤の存在下に核酸を沈澱させる方法としては、核酸を沈澱させる際に、最終的に共沈剤を存在させ得る方法であれば良く、本発明の遊離方法1又は2で得られた遊離した核酸を含有する溶液に、アルコール類を添加する前、又はアルコール類を添加するのと同時或いは添加後に、共沈剤を含有する水溶液を遊離した核酸を含有する溶液に添加すればよい。なかでも、本発明の遊離方法1又は2で得られた遊離した核酸を含有する溶液に、アルコール類を添加する前に、共沈剤を含有する水溶液を添加しておいたほうが好ましい。
共沈剤の使用量としては、通常この分野で用いられている範囲から適宜選択すれば良く、特に限定されない。
【0049】
上記した如き本発明の遊離方法1又は2を実施した後、即ち、試料とプロテイナーゼKとを反応させた後(要すれば、反応後、更に遠心分離処理等を行って上清を採取した後)に、更に核酸を抽出する処理を行い、その後、更に核酸を沈澱させる処理を行って、当該沈澱を採取することにより、共存する不純物を除去することができる。
【0050】
本発明に於いて、核酸を抽出する処理としては、この分野で通常行われている方法であればよく、特に限定されない。
このような方法としては、例えばフェノール、クロロホルム、フェノール−クロロホルム、クロロホルムとその他の有機溶媒の混合物を用いる方法やカオトロピック剤を用いる方法等の共存するタンパク質を変性溶解処理する方法、例えばガラス等のシリカ表面への固相吸着等の方法及び陰イオン交換体等のフィルターを用いる方法等が挙げられるが、なかでもカオトロピック剤を用いる方法は、フェノール・クロロホルム等の(水飽和フェノールやクロロホルム)有機溶媒を用いる代わりにカオトロピック剤を使用することにより、その後の有機溶媒を除去する過程を省略することができ、また、特別な装置等も必要としないので好ましい。
カオトロピック剤としては、一般にカオトロピック剤として知られているような、水溶液に添加した際にカオトロピックイオン(イオン半径の大きな1価の陰イオン)を生成し、疎水性分子の水溶性を増加させる作用を有しているものであればよく、特に限定されないが、具体的には、例えばヨウ化アルカリ、チオシアン酸グアニジン、過塩素酸のアルカリ金属塩、トリクロロ酢酸のアルカリ金属塩、及びチオシアン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらアルカリ金属塩或いはヨウ化アルカリに於けるアルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。なかでも、ヨウ化アルカリが好ましく、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
これらカオトロピック剤の使用濃度は、用いるカオトロピック剤の種類により異なるが、一般的にカオトロピック剤の最終濃度(核酸とカオトロピック剤とを接触させる際の溶液中の濃度)が下限として通常95M以上、好ましくは1M以上、より好ましくは2M以上、上限として通常7M以下、好ましくは5M以下、より好ましくは3M以下の範囲で用いられる。特にヨウ化ナトリウムを使用する場合には、下限として通常95M以上、好ましくは1M以上、より好ましくは2M以上、上限として通常7M以下、好ましくは5M以下、より好ましくは3M以下の範囲となるように使用するのが好ましい。
【0051】
本発明の方法に於いて、カオトロピック剤を用いる方法としては、上記した如き本発明の遊離方法1又は2により得られた核酸〔即ち、硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを、陰イオン界面活性剤、チオール化合物、塩化カリウム(要すればキレート剤又は/及び緩衝剤)の存在下に反応させて得られた溶液、又は、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させて得られた溶液、或いはこれら溶液に遠心分離処理等を行って得られた上清〕とカオトロピック剤とを接触させ得る方法であれば良く、通常は本発明の遊離方法1又は2で得られた核酸を含有する溶液に、上記した如き濃度範囲のカオトロピック剤を含有する水溶液を添加すればよい。
尚、当該カオトロピック剤を含有する水溶液中には、前述した如きグッドの緩衝剤、Tris緩衝剤、グリシン、リン酸塩、クエン酸塩等、通常この分野で用いられる緩衝剤を共存させても良い。また、その使用濃度も通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すれば良く、通常1〜500mM、好ましくは10〜200mM、より好ましくは10〜100mMの範囲で用いられる。
また、カオトロピック剤を含有する水溶液のpHとしては、核酸の遊離を妨げない範囲であれば特に限定されないが、通常2〜12、好ましくは7〜9の範囲から適宜選択される。
更に、核酸とカオトロピック剤とを接触させる際には、例えばEDTAに代表される上記した如きキレート剤等の核酸分解酵素(例えばDNase、RNase等)の阻害剤の共存下でこれを行うことが好ましい。尚、本発明に於いては、カオトロピック剤を含有する水溶液中にキレート剤を含有させておくことが好ましいが、本発明の遊離方法1又は2でキレート剤を用いた場合であって、核酸とカオトロピック剤とを接触させる際に十分な核酸分解酵素阻害作用を得られる量のキレート剤が存在している場合には、核酸とカオトロピック剤とを接触させる際に、特にキレート剤を添加しなくてもよい。また、キレート剤の使用量としては、核酸分解酵素を阻害し得る量であれば良く特に限定されないが、通常核酸とカオトロピック剤とを接触させる際の溶液中の濃度として、通常1〜200mMの範囲から適宜選択される。
【0052】
上記した如き方法を実施するには、例えば以下の如く行えばよい。
【0053】
即ち、前述した如き本発明の遊離方法1又は2で得られた遊離した核酸を含有する溶液〔即ち、硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを、陰イオン界面活性剤、チオール化合物、塩化カリウム(要すればキレート剤又は/及び緩衝剤)の存在下に反応させて得られた溶液、又は、生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤、チオール化合物及び60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤の存在下で反応させて得られた溶液、或いはこれら溶液に遠心分離処理等を行って得られた上清〕に、適当量のカオトロピック剤(要すれば緩衝剤又は/及びキレート剤)を含有する水溶液を添加して(下限として通常0.5M以上、好ましくは1M以上、より好ましくは2M以上、上限として通常7M以下、好ましくは5M以下、より好ましくは3M以下)当該溶液とカオトロピック剤とを接触させる。その後、更に適当量のアルコール類を添加し(例えばイソプロパノールの場合、最終濃度として通常40%以上、好ましくは50%以上となるような量、エタノールの場合、最終濃度として通常60%以上、好ましくは70%以上となるような量)、混合する。混合後、必要応じてこれを静置してもよい。尚、ここで核酸を沈澱させ易くするため、例えばNaCl、酢酸ナトリウム等の塩類をアルコール類と共に適宜加えても良く、また、通常この分野で用いられている共沈剤の存在下に核酸を沈澱させても良い。更に、同様の目的で、遊離した核酸を含有する溶液とアルコール類とを混合した後−80℃〜4℃の低温で冷却しても良い。
混合後(要すれば静置後)、遠心分離処理し、核酸を沈澱させた後、上清を除き、得られた沈澱に、例えば通常20%以上、好ましくは30〜50%、より好ましくは40%のイソプロパノール溶液、又は通常50%以上、好ましくは60〜80%、より好ましくは70%のエタノール溶液等を適当量添加して洗浄する。
尚、当該洗浄は上記したイソプロパノール溶液及びエタノール溶液の何れかのみを用いて行っても良いが、好ましくはこれらの溶液を組み合わせて洗浄を行う(どちらかの溶液を用いて洗浄を行った後、続けて別の溶液を用いて洗浄を行う)のが好ましい。
遠心分離処理によって上清を除いた後、得られた核酸沈澱を加温や減圧等の常法により乾燥処理すれば、目的の核酸を得ることができる。
尚、上記方法で得られた核酸を、各種核酸鎖分析(例えばPCR法による遺伝子分析等)等の試料として使用する場合には、これを更にこの分野で通常使用されている方法、例えばTE緩衝液(10mM Tris−塩酸緩衝液、1mM EDTA含有、pH8.0)等の通常この分野で用いられている緩衝液等に再溶解したものを使用するのが望ましい。尚、目的の核酸がDNAである場合には、再溶解された核酸溶液にRNase等を添加・反応させて共存するRNAを消化する方法等で核酸を更に精製しても、また、目的の核酸がRNAである場合には、再溶解された核酸溶液にDNase等を添加・反応させて共存するDNAを消化する方法等で核酸を更に精製してもよい。
【0054】
上記方法に於いて用いられる共沈剤の具体例、好ましい態様、使用濃度等は前述した通りであり、また、使用方法は、アルコール類を添加する前、又はアルコール類を添加するのと同時或いは添加後に、共沈剤を含有する水溶液を添加して、核酸と接触させれば良い。換言すれば、カオトロピック剤を含有する水溶液を添加して核酸をカオトロピック剤と接触させる前、又は接触させると同時或いは接触させた後に、共沈剤を含有する水溶液を添加して核酸を共沈剤と接触させれば良い。なかでも、上記方法に於いては、カオトロピック剤を核酸と接触させると同時或いは接触させた後に、共沈剤を核酸に接触させのが好ましく、特に、カオトロピック剤を含有する水溶液中に当該共沈剤を含有させておけば、操作をより簡便にし得る等の理由から、カオトロピック剤と共沈剤とを同時に核酸に接触させるのがより好ましい。
また、上記方法に於いては、核酸を含有する溶液にカオトロピック剤(要すれば緩衝剤、キレート剤、共沈剤)を含有する水溶液を添加した後、続けてアルコール類を添加するものであり、カオトロピック剤の反応に特別な反応時間や反応温度(通常は常温で行う)等を必要とするものではない。
【0055】
本発明の核酸を遊離させるためのキットは、上記した如き本発明の方法を効果的に実施するために使用されるもので、(i)▲1▼陰イオン界面活性剤を含む試薬、▲2▼チオール化合物及び塩化カリウムを含む試薬、並びに▲3▼プロテイナーゼKを含む試薬、若しくは(ii)▲1▼陰イオン界面活性剤を含む試薬、▲2▼チオール化合物を含む試薬、▲3▼塩化カリウムを含む試薬、並びに▲4▼プロテイナーゼKを含む試薬、とを組み合わせてなるものであり、夫々の構成要素の好ましい態様、具体例等については先に述べた通りである。
尚、上記した如き本発明のキットに於いて、各成分を含む試薬は、前述した如き濃度範囲から選ばれる量を含有する水溶液等の溶液状態のものでも、また、当該濃度範囲から選ばれる量を含有する凍結乾燥状態又は乾燥状態のものでも良く、試薬形態については特に限定されない。尚、試薬形態が凍結乾燥状態又は乾燥状態である場合には、必要に応じてそれを溶解するための溶液と組み合わせても良い。
特に、本発明のキットの各試薬のうち、チオール化合物を含む試薬及びプロテイナーゼKを含む試薬は凍結乾燥状態とする方が、チオール化合物及びプロテイナーゼKを安定に保つことができるので好ましい。
【0056】
本発明のキットは、本発明の方法に適用されるものであり、各試薬を混合させた際のpHが、前述した如きpH範囲、即ち、具体的には、下限が通常pH7.5以上、好ましくはpH8.0以上、より好ましくはpH8.2以上、特に好ましくはpH8.3以上、下限が通常pH12以下、好ましくはpH10以下、より好ましくはpH9以下の範囲となるように適宜調整されたものである。
【0057】
本発明のキットに於いては、各試薬を混合させた際のpHを上記した如き範囲とするために、緩衝剤を用いることができる。
このような緩衝剤の具体例、好ましい態様等は前述した通りであるが、HEPPS、Tricine、Bicine、CHES、CAPS、グリシルグリシン等の60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤が特に好ましく、HEPPS、Tricine、Bicine、CHES等の60℃に於けるpKaが7.30以上、9.50以下である緩衝剤が更に好ましく、なかでもTricineが最も好ましい。
尚、緩衝剤は、各試薬を混合させた際のpHを上記した如き範囲とすることができるのであれば、各試薬の夫々全てに含有させても、また、何れかの試薬にのみ含有させておいても、或いは上記した如き本発明の各試薬とは別の試薬としても良く、特に制限はない。
特に、本発明のキットに於いては、陰イオン界面活性剤を含有する試薬中に含有させておくのが好ましい。
【0058】
本発明のキットに於いては、上記した如きプロテイナーゼK、塩化カリウム、陰イオン界面活性剤及びチオール化合物以外に、更に、通常この分野で使用される試薬類、例えばキレート剤等を組み合わせても良い。
このようなキレート剤の具体例、好ましい態様等は前述した通りであるが、EDTAが好ましい。
尚、キレート剤は、各試薬の夫々全てに含有させても、また、何れかの試薬にのみ含有させておいても、或いは上記した如き本発明の各試薬とは別の試薬としても良く、特に制限はない。
特に、本発明のキットに於いては、陰イオン界面活性剤(要すれば緩衝剤)を含有する試薬中に含有させておくのが好ましい。
【0059】
以下に、本発明のキットの一例を具体的に示す。
▲1▼陰イオン界面活性剤、緩衝剤及びキレート剤を含む試薬
▲2▼チオール化合物及び塩化カリウムを含む試薬
▲4▼プロテイナーゼKを含む試薬
【0060】
以下に、本発明のキットの他の一例を具体的に示す。
▲1▼陰イオン界面活性剤、緩衝剤及びキレート剤を含む試薬(水溶液)
▲2▼チオール化合物を含む試薬(凍結乾燥状態)
▲3▼塩化カリウムを含む試薬(水溶液)
▲4▼プロテイナーゼKを含む試薬(凍結乾燥状態)
【0061】
本発明のキットには、更に、上記した如き核酸を抽出する処理する方法に於いて用いられる試薬、例えばフェノール、クロロホルム、フェノール−クロロホルム、クロロホルムとその他の有機溶媒の混合物やカオトロピック剤等のタンパク質変性溶解剤を含む試薬を組み合わせても良い。なかでも、カオトロピック剤を含む試薬を組み合わせることが好ましい。
また、当該カオトロピック剤を含む試薬中には、前述した如き緩衝剤、キレート剤等の核酸分解酵素の阻害剤等を共存させても良い。
このようなカオトロピック剤を含む試薬のpHは、前述した通り、通常2〜12、好ましくは7〜9である。
更に、当該カオトロピック剤を含む試薬中には、更に共沈剤を含有させることもできる。
尚、カオトロピック剤、緩衝剤、キレート剤、共沈剤等の好ましい態様、具体例等については先に述べた通りであるが、カオトロピック剤としてはヨウ化ナトリウムが好ましく、緩衝剤としてはTris緩衝剤が好ましい。また、キレート剤としてはEDTAが好ましく、共沈剤としてはグリコーゲンが好ましい。
また、当該カオトロピック剤を含む試薬の形態は、特に限定されず、水溶液等の溶液状態のものでも、また、凍結乾燥状態又は乾燥状態のものでも良く、試薬形態が凍結乾燥状態又は乾燥状態である場合には、必要に応じてそれを溶解するための溶液と組み合わせても良い。
【0062】
本発明のキットには、更に、上記した如き核酸を沈澱させる処理に於いて用いられる試薬を組み合わせても良い。このような試薬としては、例えばイソプロパノール、エタノール等の低級アルコール類が挙げられ、特にイソプロパノールが好ましい。
尚、使用濃度等については先に述べた通りである。
【0063】
また更に、本発明のキットには、核酸を沈澱させる処理により得られた核酸沈澱を洗浄するために用いられる、アルコール類を含む水溶液1種以上を組み合わせても良い。このようなアルコール類としては、イソプロパノール、エタノール等が好ましい。なかでも、イソプロパノールを含む水溶液及びエタノールを含む水溶液の2種の水溶液を組み合わせるのが好ましい。
尚、使用濃度等については先に述べた通りである。
【0064】
本発明のキットは、例えば下記の如き構成からなるものが好ましい。
▲1▼陰イオン界面活性剤、緩衝剤及びキレート剤を含む試薬(水溶液)
▲2▼チオール化合物を含む試薬(凍結乾燥状態)
▲3▼塩化カリウムを含む試薬(水溶液)
▲4▼プロテイナーゼKを含む試薬(凍結乾燥状態)
▲5▼カオトロピック剤及び共沈剤を含む試薬(水溶液)
▲6▼40%イソプロパノール溶液からなる試薬
▲7▼70%エタノール溶液からなる試薬
尚、▲5▼の試薬中には、更に緩衝剤及びキレート剤を含有させておくのが好ましい。また、上記▲1▼〜▲7▼の試薬の他に、核酸を沈澱させるためのアルコール類からなる試薬を組み合わせても良い。
【0065】
本発明の方法及び試薬を用いて得られた遊離された核酸は、遺伝子工学、臨床診断、法医学等の分野に於ける、遺伝情報の解析,遺伝子疾患・ウイルス性疾患等の診断・原因究明,或いは個人識別・親子鑑定・犯罪鑑識等の各種分析(例えばサザンブロッティング法やPCR法を利用する方法等)に用いられる試料として用いることができる。
なかでも、DNAタイピング法やDNAフィンガープリント法(例えばPCR-RFLP法、PCR-SSOP法、PCR-LIPA法、PCR-SSCP法、PCR-SSP法、PCR-CFLP法、PCR-RAPD法、PCR-RDA法、RNaseプロテクション法、DGGE法、TGGE法)に於いて有用に用いられる。
【0066】
以下に、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【0067】
【実施例】
実施例.1 塩の違いによる試料の溶解性の変化
1cmに切断した毛髪1本を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を220μl加えた後、60℃で75分間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・SDS 0.05%
・DTT 45mM
・所定の塩 所定濃度
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の毛髪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
結果を表1に示す。
尚、表中の溶解性判定に於ける記号は夫々以下のことを示す。
−:反応前後で変化なし。
±:反応前後で変化有り。(試料が軟化する。)
+:若干溶解が認められる。(試料が小さくなる。)
++:溶解が認められる。(試料がかなり小さくなる。)
+++:強い溶解が認められる。〔試料が小片(バラバラ)になる。〕
++++:著しい溶解が認められる。(試料が粒状になる。)
○:完全に溶解する。
【0068】
【表1】
Figure 0004228688
【0069】
表1の結果から明らかなように、KClは、NaClに比べ、毛髪に対してかなり強い溶解力を有していることが判る。
【0070】
実施例.2 塩化カリウム濃度と試料の溶解性との関係
1cmに切断した毛髪3本を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を220μl加えた後、60℃で55分間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・SDS 0.05%
・DTT 45mM
・KCl 所定濃度
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の毛髪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
結果を表2に示す。
尚、表中の溶解性の欄に於ける記号の意味は、実施例.1と同様である。
【0071】
【表2】
Figure 0004228688
【0072】
表2から明らかなように、KClは、20mM以上の濃度から強い溶解力を示すようになり、50mM以上の濃度ではその溶解力に殆ど差が認められないこと、即ち、これ以上の濃度では溶解力の濃度依存性が殆どないことが判る。
【0073】
実施例.3 界面活性剤の違いによる試料の溶解性の変化
1cmに切断した毛髪2本を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を220μl加えた後、60℃で所定時間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・所定の界面活性剤 所定濃度
・DTT 45mM
・KCl 75mM
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の毛髪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
結果を表3に示す。
尚、表中の溶解性の欄に於ける記号の意味は、実施例.1と同様である。
【0074】
【表3】
Figure 0004228688
【0075】
表3から明らかなように、ラウリルサルコシンナトリウム、コール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤は強い溶解力を示すのに対して、陽イオン界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウムは試料を殆ど溶解し得ないことが判る。即ち、本発明に用いられる界面活性剤としては陰イオン界面活性剤が極めて有用であることが示唆される。
【0076】
実施例.4 界面活性剤濃度と試料の溶解性及びDNA収量との関係
1cmに切断した毛髪1本を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を220μl加えた後、60℃で所定時間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・SDS 所定濃度
・DTT 45mM
・KCl 75mM
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の毛髪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
結果を表4に示す。
尚、表中の溶解性の欄に於ける記号の意味は、実施例.1と同様である。
【0077】
【表4】
Figure 0004228688
【0078】
表4から明らかなように、SDSは何れの濃度に於いても溶解性を示すものの、至適濃度が存在することが判る。特に、0.1%以上の濃度を用いると、その溶解力が著しく低下してくることが判る。即ち、本発明に於いては、界面活性剤を0.02%〜0.1%未満の濃度範囲、好ましくは0.02%〜0.06%の濃度範囲で用いればより効果的に試料を溶解し得ること、特に0.03%〜0.05%の濃度範囲で界面活性剤を用いた場合試料の溶解性が著しく強いことが判る。
【0079】
実施例.5 界面活性剤濃度と試料の溶解性との関係
0.5cm×1cmに切断した爪 1個を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を240μl加えた後、60℃で所定時間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・SDS 所定濃度
・DTT 45mM
・KCl 100mM
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の爪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
結果を表5に示す。
尚、表中の溶解性の欄に於ける記号の意味は、実施例.1と同様である。
【0080】
【表5】
Figure 0004228688
【0081】
表5から明らかなように、試料として爪を用いた場合でも、SDSは何れの濃度に於いても溶解性を示すものの、至適濃度が存在することが判る。即ち、本発明に於いて爪を試料として用いた場合には、界面活性剤を0.02%〜0.15%の濃度範囲、好ましくは0.03%〜0.1%未満の濃度範囲で用いればより効果的に試料を溶解し得ること、特に0.05%〜0.08%の濃度範囲で界面活性剤を用いた場合試料の溶解性が著しく強いことが判る。
【0082】
実施例.6 チオール化合物の種類及び濃度と試料の溶解性との関係
1cmに切断した毛髪1本を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を220μl加えた後、60℃で所定時間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した。
〔溶解液〕
・Tricine 10mM(pH8.5)
・EDTA 10mM
・SDS 0.05%
・所定のチオール化合物 所定濃度
・KCl 75mM
・プロテイナーゼK 770μg/ml
〔結果〕
反応後の毛髪の状態を観察し、その結果に基づいて溶解性を判定した。
チオール化合物としてDTTを用いた場合の結果を表6に、また、チオール化合物としてβMEを用いた場合の結果を表7に夫々示す。
尚、表中の溶解性の欄に於ける記号の意味は、実施例.1と同様である。
【0083】
【表6】
Figure 0004228688
【0084】
【表7】
Figure 0004228688
【0085】
表6から明らかなように、DTTは9.5mM〜100mMの濃度範囲に於いて強い溶解力を有することが判る。特に38mM〜50mMの濃度範囲に於いては著しい溶解力を有していることが判る。
また、表7から明らかなように、βMEは100mM〜1000mMの濃度範囲に於いて強い溶解力を有することが判る。特に200mM〜750mMの濃度範囲に於いては著しい溶解力を有していることが判る。
以上のことから、チオール化合物の種類によって至適濃度は多少異なるものの、本発明に於いてチオール化合物が有用であることが示唆される。
【0086】
実施例.7 毛髪からのDNAの採取
下記毛髪試料を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を190μl、下記組成からなるDTT溶液を10μl及び10mg/mlプロテイナーゼK含有溶液(PK溶液)を10μl加えた後、55℃で40分間加熱した。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した後、15,000rpmで1分間遠心分離処理し、上清200μlを別のマイクロ遠沈管に移した。その上清にヨウ化ナトリウム溶液〔7.62M ヨウ化ナトリウム、20mM EDTA及び90μg/mlグリコーゲン含有40mM Tris-HCl(pH8.0)〕を250μl及びイソプロパノールを450μl加え、攪拌した後15,000rpmで10分間遠心分離処理し、上清を取り除いた。得られた沈澱に、40%イソプロパノール溶液を1ml加えて攪拌(洗浄)した後、15,000rpmで5分間遠心分離処理し、上清を取り除いた。得られた沈澱に70%エタノール溶液を1ml加えて更に攪拌(洗浄)した後、15,000rpmで5分間遠心分離処理し、上清を取り除き、乾燥処理して目的の核酸を得た。最後に、得られた核酸を25μlのTE緩衝液〔1mM EDTA含有10mM Tris-HCl(pH8.0)〕に再溶解してDNAサンプルとした。
(試料)
・抜去毛(毛根部):5mm×1本
・脱落毛(毛根部):5mm×1本
(溶解液)
・Tricine 10.5mM(pH8.5)
・EDTA 10.5mM
・SDS 0.053%
(DTT溶液)
・DTT 0.9M
・KCl 1.5M
【0087】
得られたDNAサンプルは、自体公知の吸光度法(A260法)及び電気泳動法(「増補版 ラボマニュアル遺伝子工学」,34〜35頁,平成2年6月30日発行,丸善株式会社に記載の「光学的方法」及び「電気泳動で調べる方法」)に従ってDNA収量を確認した。
その結果を表8に示す。
また、従来法として、上記試料を用いて平野等の方法(「毛髪,および爪からの迅速なDNA抽出法」,DNA多型Vol.6 DNA多型のさらなる展開,76〜80頁,1998年7月31日発行,株式会社東洋書店)に従って、これを行った。
その結果を、表8に併せて示す。
〔結果〕
【0088】
【表8】
Figure 0004228688
【0089】
表8の結果から明らかなように、本発明方法は従来法に比べてDNA収量が多いことが判る。即ち、本発明の方法により、容易に且つ効率よく毛髪から核酸を遊離し得ることが判る。
【0090】
実施例.8 毛髪からのDNAの採取
下記毛髪試料を用いた以外は、実施例.7と同じ試薬を用い、同じ操作を行って、DNAサンプルを得た。
(試料)
女性2名(A、B)及び男性3名(A、B、C)から得た以下の長さの毛髪(毛幹部)を試料とした。
・5mm(5mm×1本)
・1.0cm(5mm×2本)
・1.5cm(5mm×3本)
得られたDNAサンプルのうち2μlについて、PCR法によりミトコンドリアDNA高変位領域Iの増幅反応を行い、PCR法用サンプルとしての良否を検討した。尚、PCR反応は、DNAポリメラーゼとしてABI社製のAmplitaq Goldを用いて常法に従い、以下の条件により行った。PCR法により増幅したDNAを、エチジウムブロマイド0.5μg/mlを含む、1×TAE緩衝液〔1mm EDTA含有0.04M Tris-酢酸緩衝液(pH7.8)〕を用いて作製した1.5%アガロースゲルを使用して100V定電圧で20〜30分電気泳動した後、UVを使用してDNAを蛍光検出した。
その結果を図1に示す。
(PCR条件)
・Forwardプライマー(合成):5'-TACTTGACCACCTGTAGTAC-3'(配列番号:1)
・Reverseプライマー(合成):5'-TAGTTTCACGGAGGATGGTG-3'(配列番号:2)
・95℃11分間;95℃30秒間,52℃30秒間,72℃45秒間、45回;72℃7分間
【0091】
尚、図1中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:分子量マーカー〔φX174 HaeIII消化産物、TAKARA社製〕
・レーン2:女性Aの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン3:女性Aの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン4:女性Aの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン5:女性Bの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン6:女性Bの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン7:女性Bの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン8:男性Aの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン9:男性Aの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン10:男性Aの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン11:男性Bの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン12:男性Bの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン13:男性Bの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン14:男性Cの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン15:男性Cの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン16:男性Cの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン17:陽性コントロール〔常法により血液から採取したゲノムDNA〕
・レーン18:陰性コントロール〔DNAサンプルの代わりに蒸留水を用いて上記と同様にPCR反応を行ったもの〕
また、図1中、「→」はミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅産物(240bp)を示す。
【0092】
〔結果〕
図1から明らかなように、性別を問わずいずれの場合でもミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅断片が認められ、本発明の方法により得られた核酸は、支障無くPCR法のサンプルとして使用し得ることが判る。
即ち、本発明の方法により得られた核酸は、メラニン等のPCR反応阻害物質の混入が殆どなく、PCR法のサンプルとして良好に用いることができることが判る。
また、得られたPCR増幅産物は、その後のシークエンス解析に於いて、質・量共に良好なサンプルとなり得ることが示唆される。
【0093】
実施例.9 毛髪からのDNAの採取
下記毛髪試料を用いた以外は、実施例.8と同じ試薬を用い、同じ操作を行って、DNAサンプルを得た。
(試料)
女性2名(C、D)及び男性1名(D)から得た以下の長さの毛髪(毛幹部)を試料とした。
・5mm(5mm×1本)
・1.0cm(これは5mm×2本)
・1.5cm(これは5mm×3本)
得られたDNAサンプルのうち2μlについて、PCR法によりアメロゲニン遺伝子の増幅反応を行い、PCR法用サンプルとしての良否を検討した。尚、PCR反応は、DNAポリメラーゼとしてABI社製のAmplitaq Goldを用いて常法に従い、以下の条件により行った。PCR法により増幅したDNAを、エチジウムブロマイド0.5μg/mlを含む、1×TAE緩衝液〔1mm EDTA含有0.04M Tris-酢酸緩衝液(pH7.8)〕を用いて作製した4.0%アガロースゲルを使用して100V定電圧で20〜30分電気泳動した後、UVを使用してDNAを蛍光検出した。
その結果を図2に示す。
(PCR条件)
・Forwardプライマー(合成):5'-CCCTGGGCTCTGTAAAGAATAGTG-3'(配列番号:3)
・Reverseプライマー(合成):5'-ATCAGAGCTTAAACTGGGAAGCTG-3'(配列番号:4)
・95℃11分間;95℃30秒間,67℃30秒間,72℃30秒間、45回;72℃7分間
【0094】
尚、図2中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:女性Cの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン2:女性Cの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン3:女性Cの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン4:女性Dの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン5:女性Dの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン6:女性Dの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン7:男性Dの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン8:男性Dの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン9:男性Dの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
また、図2中、「→」はX染色体由来のアメロゲニン遺伝子の増幅産物(106bp)を、「⇒」はY染色体由来のアメロゲニン遺伝子の増幅産物(112bp)を夫々示す。
【0095】
〔結果〕
図2から明らかなように、本発明の方法により、X染色体由来のアメロゲニン遺伝子及びY染色体由来のアメロゲニン遺伝子の増幅断片が認められ、本発明の方法により得られた核酸は、支障無くPCR法のサンプルとして使用し得ることが判る。
即ち、本発明の方法により得られた核酸は、これをPCR法のサンプルとして用いた場合、1細胞中に数百コピー存在するミトコンドリアDNAだけでなく、1細胞中に1コピーしか存在しないアメロゲニン遺伝子をも良好に増幅し得ることが判る。
以上のことから、本発明の方法により得られた核酸は、ゲノムDNAのローカスを増幅するためのPCR法用サンプルとしても使用可能であることが示唆される。
【0096】
実施例.10 爪からのDNAの採取
下記爪試料を、マイクロ遠沈管(1.5ml容)に入れ、下記組成からなる溶解液を190μl、下記組成からなるDTT溶液を10μl及び10mg/mlプロテイナーゼK含有溶液(PK溶液)を10μl加えた後、55℃で加熱した。加熱開始から4時間毎に、更にPK溶液10μlを2回追加添加し(計3回)、終夜(加熱開始から16時間)に渡り加熱を続けた。その後、マイクロチューブミキサー(MT−360、トミー精工製)にて攪拌した後、ヨウ化ナトリウム溶液〔7.62M ヨウ化ナトリウム、20mM EDTA及び90μg/mlグリコーゲン含有40mM Tris-HCl(pH8.0)〕を250μl及びイソプロパノールを480μl加え、攪拌した後15,000rpmで10分間遠心分離処理し、上清を取り除いた。得られた沈澱に、40%イソプロパノール溶液を1ml加えて攪拌(洗浄)した後、15,000rpmで5分間遠心分離処理し、上清を取り除いた。得られた沈澱に70%エタノール溶液を1ml加えて更に攪拌(洗浄)した後、15,000rpmで5分間遠心分離処理し、上清を取り除き、乾燥処理して目的の核酸を得た。最後に、得られた核酸を30μlのTE緩衝液〔1mM EDTA含有10mM Tris-HCl(pH8.0)〕に再溶解してDNAサンプルとした。
(試料)
・爪:1×2mm 1片(約1mg)
・爪:1×1mm 5片(約2.5mg)
(溶解液)
・Tricine 10.5mM(pH8.5)
・EDTA 10.5mM
・SDS 0.053%
(DTT溶液)
・DTT 0.9M
・KCl 1.5M
得られたDNAサンプルは、実施例.7の方法に従ってそのDNA収量を確認した。
その結果を表9に示す。
また、従来法として、上記と同じ試料を1×1mm 10片(約5mg)又は1×1mm 20片(約10mg)用いてTahir等の方法〔J. Forensic Sci., 40, 634-636, (1995)〕に従って、これを行った。
その結果を、表9に併せて示す。
〔結果〕
【0097】
【表9】
Figure 0004228688
【0098】
表9の結果から明らかなように、本発明方法は従来法に比べて試料の量が少ないにも拘わらず、得られるDNA収量が多いことが判る。即ち、本発明の方法により、従来法では困難であった爪から容易に且つ効率よく核酸を遊離し得ることが判る。
【0099】
実施例.11 爪からのDNAの採取
下記爪試料を用いた以外は、実施例.10と同じ試薬を用い、同じ操作を行って、DNAサンプルを得た。
(試料)
男性3名(E、F、G)から得た以下の大きさの爪を試料とした。
・爪:1×2mm 1片
得られたDNAサンプルのうち2μlについて、PCR法によりミトコンドリアDNA高変位領域Iの増幅反応を行い、PCR法用サンプルとしての良否を検討した。尚、PCR反応は、DNAポリメラーゼとしてABI社製のAmplitaq Goldを用いて常法に従い、以下の条件により行った。PCR法により増幅したDNAを、エチジウムブロマイド0.5μg/mlを含む、1×TAE緩衝液〔1mm EDTA含有0.04M Tris-酢酸緩衝液(pH7.8)〕を用いて作製した1.5%アガロースゲルを使用して100V定電圧で20〜30分電気泳動した後、UVを使用してDNAを蛍光検出した。
その結果を図3に示す。
(PCR条件)
・Forwardプライマー(合成):5'-TACTTGACCACCTGTAGTAC-3'(配列番号:1)
・Reverseプライマー(合成):5'-TAGTTTCACGGAGGATGGTG-3'(配列番号:2)
・95℃11分間;95℃30秒間,52℃30秒間,72℃45秒間、45回;72℃7分間
尚、図3中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:男性Eの爪を試料とした場合の結果
・レーン2:男性Fの爪を試料とした場合の結果
・レーン3:男性Gの爪を試料とした場合の結果
また、図3中、「→」はミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅産物(240bp)を示す。
【0100】
〔結果〕
図3から明らかなように、いずれの場合でもミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅断片が認められ、本発明の方法により得られた核酸は、支障無くPCR法のサンプルとして使用し得ることが判る。
また、得られたPCR増幅産物は、その後のシークエンス解析に於いて、質・量共に良好なサンプルとなり得ることが示唆される。
【0101】
【発明の効果】
本発明は、核酸を高収率且つ簡便に遊離させる方法及びそれに用いられるキットを提供するものであり、本発明によれば、生体試料、特に硬組織(体毛、爪、骨等)由来の生体試料から、核酸を高収率且つ簡便に遊離させることが可能となる。
【0102】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例.8で得られたDNAサンプルをポリメラーゼ チェイン リアクション法(PCR法)で増幅した後に、アガロースゲル電気泳動にかけた結果を示す。
【図2】実施例.9で得られたDNAサンプルをポリメラーゼ チェイン リアクション法(PCR法)で増幅した後に、アガロースゲル電気泳動にかけた結果を示す。
【図3】実施例.11で得られたDNAサンプルをポリメラーゼ チェイン リアクション法(PCR法)で増幅した後に、アガロースゲル電気泳動にかけた結果を示す。
【符号の説明】
図1に於いて、図中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:分子量マーカー〔φX174 HaeIII消化産物、TAKARA社製〕
・レーン2:女性Aの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン3:女性Aの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン4:女性Aの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン5:女性Bの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン6:女性Bの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン7:女性Bの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン8:男性Aの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン9:男性Aの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン10:男性Aの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン11:男性Bの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン12:男性Bの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン13:男性Bの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン14:男性Cの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン15:男性Cの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン16:男性Cの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン17:陽性コントロール〔常法により血液から採取したゲノムDNA〕
・レーン18:陰性コントロール〔DNAサンプルの代わりに蒸留水を用いて上記と同様にPCR反応を行ったもの〕
また、「→」はミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅産物(240bp)を示す。
図2に於いて、図中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:女性Cの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン2:女性Cの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン3:女性Cの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン4:女性Dの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン5:女性Dの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン6:女性Dの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
・レーン7:男性Dの毛髪5mmを試料とした場合の結果
・レーン8:男性Dの毛髪1cmを試料とした場合の結果
・レーン9:男性Dの毛髪1.5cmを試料とした場合の結果
また、「→」はX染色体由来のアメロゲニン遺伝子の増幅産物(106bp)を、「⇒」はY染色体由来のアメロゲニン遺伝子の増幅産物(112bp)を夫々示す。
図3に於いて、図中の各レーンは夫々以下の結果を示す。
・レーン1:男性Eの爪を試料とした場合の結果
・レーン2:男性Fの爪を試料とした場合の結果
・レーン3:男性Gの爪を試料とした場合の結果
また、「→」はミトコンドリアDNA高変異領域Iの増幅産物(240bp)を示す。
【0103】
【配列表】
Figure 0004228688
Figure 0004228688
Figure 0004228688

Claims (13)

  1. 硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを、塩化カリウム、0.02%(w/v)〜0.09%(w/v)の陰イオン界面活性剤及びチオール化合物の存在下で反応させることを特徴とする、当該試料から核酸を遊離させる方法。
  2. 更にキレート剤の存在下で当該反応を行う、請求項1に記載の方法。
  3. 更に核酸鎖を沈澱させる処理を行う、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 反応させて得られた反応液を、カオトロピック剤と接触させた後、又は反応させて得られた反応液を遠心分離処理して得た上清を、カオトロピック剤と接触させた後、核酸鎖を沈澱させる処理を行う、請求項1又は2に記載の方法。
  5. カオトロピック剤を接触させた後又は同時に、更に共沈剤を接触させることを特徴とする請求項4に記載の方法。
  6. 陰イオン界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであり、チオール化合物がジチオスレイトールであり、キレート剤がエチレンジアミン四酢酸であり、カオトロピック剤がヨウ化ナトリウムであり、共沈剤がグリコーゲンであり、核酸鎖を沈澱させる処理をアルコール類により行わせる請求項5に記載の方法。
  7. (1)硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の溶液中の濃度として0.02%(w/v)〜0.09%(w/v)となるような量の陰イオン界面活性剤を含む試薬、(2)チオール化合物及び塩化カリウムを含む試薬、並びに(3)プロテイナーゼKを含む試薬、若しくは(1)硬組織由来の生体試料とプロテイナーゼKとを反応させる際の溶液中の濃度として0.02%(w/v)〜0.09%(w/v)となるような量の陰イオン界面活性剤を含む試薬、(2)チオール化合物を含む試薬、(3)塩化カリウムを含む試薬、並びに(4)プロテイナーゼKを含む試薬、とを組み合わせてなる生体試料から核酸を遊離させるためのキット。
  8. (1)陰イオン界面活性剤を含む試薬に、更にキレート剤が含まれる請求項7に記載のキット。
  9. (1)陰イオン界面活性剤を含む試薬に、更に60℃に於けるpKaが7.20以上である緩衝剤が含まれる請求項7又は8に記載のキット。
  10. 更にカオトロピック剤を含む試薬を組み合わせてなる請求項7〜9の何れかに記載のキット。
  11. カオトロピック剤を含む試薬に、更に共沈剤が含まれる請求項10に記載のキット。
  12. 更にアルコール類を含む水溶液1種以上を組み合わせてなる請求項7〜11の何れかに記載のキット。
  13. 陰イオン界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであり、チオール化合物がジチオスレイトールであり、キレート剤がエチレンジアミン四酢酸であり、緩衝剤がN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)であり、カオトロピック剤がヨウ化ナトリウムであり、共沈剤がグリコーゲンであり、アルコール類がイソプロパノール又は/及びエタノールである請求項12に記載のキット。
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