JP4227244B2 - 半導電性組成物を用いた直流用絶縁ケーブル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチック絶縁ケーブル用の半導電性組成物を用いた直流用絶縁ケーブルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電力ケーブルなどのプラスチック絶縁ケーブルにあっては、絶縁体に対する導電性突起の発生防止や電界緩和などを目的を持って、例えば図1に示すように、導体1と絶縁体2との間や、絶縁体2と外皮3との間に内部半導電層4や外部半導電層5を設けることが多い。そして、一般にこれらの内外の半導電層4,5と絶縁体2とは3層同時押し出しなどによって形成している。
【0003】
この半導電層用の半導電性組成物としては、既に種々のものが提案されているが、例えば交流用(タイプ)の絶縁ケーブルでは、通常架橋ポリエチレン(XLPE)からなる絶縁体に対して、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)又はエチレン−酢酸エチル共重合体(EEA)にポリエチレン(PE)、カーボンブラック、その他少量の添加剤を添加した組成物が用いられている。
【0004】
一方、直流用(タイプ)の絶縁ケーブルでも、半導電層用の半導電性組成物としては、上記と同様の半導電性組成物材料を用いるものの、絶縁体にあっては、XLPEを単独で用いた場合、架橋剤残渣の影響や架橋剤中の不純物イオンなどの影響により絶縁体中において空間電荷が蓄積し易いという問題が生じるため、殆どXLPEを単独で用いることはなく、一般的にはPEにカーボンブラックや無機化合物(炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム)などの充填剤を添加し、架橋したものが用いられている。
【0005】
また、このような観点から、本出願人にあっても、既に密度が0.94g/cm3 以上のPEに無水マレイン酸をグラフト重合させたもの(無水マレイン酸変性ポリエチレン)を絶縁体とした直流用の絶縁ケーブルを提案している(特願昭63−160312号)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来の上記のような絶縁体と半導電性組成物との組み合わせの場合、本発明者等が鋭意検討したところ、なお改善すべき余地があり、特に直流タイプの絶縁ケーブルにおいてより多くの問題点があった。
【0007】
(1)つまり、上記従来の半導電性組成物の場合、絶縁体側に添加された架橋剤の移行によって架橋させるタイプのものがあるが、この架橋剤を含まない半導電性組成物にあっては、熱変形が大きくなり易いという問題があった。
【0008】
(2)一方、半導電性組成物側に架橋剤を添加した場合には、直流タイプの絶縁ケーブルのように長尺品として押し出そうとすると、押出中に架橋が開始されるというスコーチ(早期架橋)が生じ易いという問題があった。
【0009】
(3)また、絶縁体中の空間電荷についての問題であるが、これは、上述したように、使用する絶縁体材料に起因するものの、絶縁体側と接触する半導電性組成物側の材料との組み合わせによっても、大きく影響されるという問題があった。例えば用いる半導電性組成物の材料によって、半導電層側から絶縁体側へ注入される電子の挙動が異なるからと考えられる。このため、特に直流タイプの絶縁ケーブルでは、絶縁体と半導電性組成物との両材料の組み合わせをよく吟味することが必要とされる。一方、上記従来のように、PEにカーボンブラックや無機化合物などの充填剤を添加して架橋する場合においても、スコーチの問題が生じて、長尺な絶縁ケーブルの製造には問題があった。
【0010】
(4)さらに、直流タイプの絶縁ケーブルのように長尺品として押し出する場合、ドラムに巻き取るのではなく、大型のターンテーブル(例えば半径が10〜13m程度のターンテーブル)上に重ねて巻き取ることが多いので、下方に巻かれたケーブル部分は、上側に巻かれたケーブル部分の大きな加重を受けるため、半導電性組成物の機械的強度(耐潰れ性)が弱いと、ケーブル内で変形するなどの問題もあった。
【0011】
(5)さらにまた、半導電性組成物が非架橋材料の場合、ケーブルのジョイント部分や終端部などにおいて、溶剤やシリコンオイルなどに接触する恐れがあるため、耐ストレスクラック性が求められるという問題もあった。
【0012】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、特に絶縁体との組み合わせにおいて最適に設定した半導電性組成物を用いた、優れた直流用絶縁ケーブルを得んとするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、導体の外周に絶縁体及び内外の半導電層を3層
同時押出により被覆させた直流用絶縁ケーブルであって、前記絶縁体が無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン、又はアクリル酸変性高密度ポリエチレンであると共に、前記内外の半導電層が、高密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレン、若しくはこれらの混和物10〜45重量部に対してポリエチレンコポリマ90〜55重量部を混合してなる混和物100重量部にカーボンブラック30〜50重量部を添加した半導電性組成物で形成されてなることを特徴とする直流用
絶縁ケーブルにある。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の半導電性組成物で用いるポリエチレン(PE)としては、低密度ポリエチレン(LDPE)や中密度ポリエチレン(MDPE)に比較して、機械的強度が大きいこと、即ち耐潰れ性が改善されること、押出加工時の収縮が少ないのでケーブルの接続(ジョイント)作業などがし易くなること、熱膨張が小さいこと、体積抵抗率(ρ)の安定性が高いことなどの理由から、高密度ポリエチレン(HDPE)の使用、又はケーブルのジョイント部分や終端部などにおける耐ストレスクラック性の向上のため、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の使用が好ましい。また、これらは適宜混合した形の混和物として使用することもできる。
【0015】
また、これらのHDPEやLLDPEには、これらを変性した形のもの(例えば無水マレイン酸やアクリル酸をグラフト化したものなど)も含まれる。そして、これらは単独で、又は混合して、さらには、HDPEやLLDPEと混合した混和物として用いることができる。また、各樹脂のメルトフローレシオ(MFR)は、押出加工性やコンパウンド作製時におけるカーボンの分散性などの理由から0.05〜10程度とするとよい。
【0016】
なお、ポリエチレンの他の樹脂として、耐熱性に優れたポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの使用も考えられるが、本発明者等の実験によると、ポリプロピレンでは導体に対する銅害の問題があり、ポリエチレンテレフタレートでは空間電荷が起こり易く、好ましくなかった。
【0017】
また、本発明の半導電性組成物で用いるポリエチレンコポリマとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−ブチルアクリレート(EBA)などが挙げられ、これらも単独で、又は混和して用いることができる。また、これらの各樹脂のMFRも、0.05〜10程度とするとよい。
【0018】
ただし、EVAの場合、分解すると酢酸を発生するため、極力分解が促進されない温度の範囲内で使用することが好ましい。この点、分解ガスが発生しないEEA、EBAの使用が望ましい。いずれにしも、長時間の押出を継続して行うと、滞留物が分解し、不要なガスが発生して押出機の腐食の原因となるため、これらのガス発生に留意しながら押し出す必要がある。
【0019】
これらのポリエチレンコポリマのMFRにあっても、ポリエチレンとの混練性を考慮して、ポリエチレンと同等の値である0.05〜2程度とするとよい。また、EVAやEEA、EBAにあっては、ペレット化の際のブロッキング現象を避けるため、それぞれのVA%、EA%、BA%としては、15〜30程度とするとよい。
【0020】
そして、これらのポリエチレンコポリマのHDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物に対する混合の比率(混合比)は、HDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物10〜45重量部に対して90〜55重量部とする。その理由は、ポリエチレンコポリマの添加量が90重量部が越えて、HDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物の添加量が10重量部未満になると、機械的強度(耐潰れ性)や耐熱性が不十分となり易く、逆に、ポリエチレンコポリマの添加量が55重量部未満で、HDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物の添加量が45重量部を越えるようになると、機械的強度(耐潰れ性)や耐熱性が向上するものの、カーボンブラックの分散性が低下して、所望の半導電性が得られなくなるからである。
【0021】
このようにベース樹脂として、HDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物を用いると、加工時の収縮を少なく抑えることができるため、上述したようにケーブルの接続作業などがし易くなる。また、半導電層と絶縁体との界面に不整が生じにくくなり、特に非架橋で用いる場合においてこの効果は有用となる。
【0022】
なお、上記HDPEやLLDPE、若しくはこれらの混和物とポリエチレンコポリマの混合物には、半導電性組成物の耐熱性や機械的強度(耐潰れ性)が低下しない範囲で、より具体的には、この混合物100重量部に対して、10重量部以下の少量であれば、低密度ポリエチレン(LDPE)や中密度ポリエチレン(MDPE)、又は超低密度ポリエチレン(VLDPE)を適宜添加することができる。これによって、若干の軽量化などが図られる。
【0023】
また、本発明で用いるカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられるが、分散性の良さや良好な半導電性が得られ易いという点では、アセチレンブラック、ファーネスブラックの使用が好ましい。
【0024】
そして、その添加量は、HDPEややLLDPE、若しくはこれらの混和物とポリエチレンコポリマの混合物100重量部に対して、30〜50重量部とする。その理由は、30重量部未満では所望の半導電性が得られず、逆に、50重量部を越えると、導電性が良くなり過ぎる他に、ムーニー粘度の上昇により押出加工性が低下するなどの問題が生じるようになるからである。
【0025】
また、必要により、この半導電性組成物中には、ステアリン酸亜鉛や老化防止剤などの他の添加剤を適宜添加することができる。
【0026】
次に、本発明に係る直流用絶縁ケーブルにあっては、上記のような構成からなる導電性組成物を内外の半導電層とする一方、絶縁体としては、変性HDPEなどが使用でき、特に無水マレイン酸をグラフト化させた無水マレイン酸変性HDPEや、アクリル酸をグラフト化させたアクリル酸変性HDPEなどの使用が好ましい。そして、直流タイプであるため、長時間に渡って3層同時押し出しを行い、得られた長尺品の絶縁ケーブルを通常大型のターンテーブル上に重ねて巻き取る。
【0027】
この直流用絶縁ケーブルの場合、本発明に係る導電性組成物からなる内外の半導電層と、無水マレイン酸変性HDPE、又はアクリル酸変性HDPEなどからなる絶縁体との組み合わせによって、空間電荷の発生が効果的に抑えられた優れた絶縁ケーブルが得られる。また、半導電層の導電性組成物が良好な耐熱性や耐潰れ性を呈するため、熱変形が小さく、ターンテーブル上に重ねて巻き取られても、押し潰れによる変形などの殆ど無い絶縁ケーブルが得られる。
【0028】
実施例
先ず、表1〜表2は種々の配合例からなる本発明の条件を満たす直流用絶縁ケーブルに用いられる半導電性組成物(実施例1〜13)とその特性(耐熱性、耐潰れ性、空間電荷発生、加工性)を示したものである。表3も同様にして、本発明の条件を欠く半導電性組成物(比較例1〜6)とその特性を示したものである。
【0029】
ここで、耐熱性の試験は、サンプルシートを作り、これを、90℃下で加重10Kg/cm2 を負荷する加熱変形試験機を用いて行った。そして、各表1〜3中において、耐熱性が良好のものは「○」で示し、やや不良は「△」で示し、不良は「×」で示した。
【0030】
また、耐潰れ性(機械的強度)の試験は、サンプルシートに対して、室温(25℃)下で100Kg/cm2 を負荷する加熱変形試験機を用いて行った。そして、各表1〜2中において、耐潰れ性が良好のものは「○」で示し、やや不良は「△」で示し、不良は「×」で示した。
【0031】
さらに、空間電荷の発生については、厚さ2mm、直径10cmの円盤状の絶縁体の両面に厚さ0.5mm、直径5cmの円盤状の半導電性組成物の層を設けたサンプルを作り、このサンプルにPEA法により−20KV/mmの電荷を印加して調べた。そして、各表1〜3中において、空間電荷の発生が5nC/cm3 未満のものを良好として「○」で示し、5C/cm3 以上〜10nC/cm3 未満のものをやや不良として「△」で示し、10nC/cm3 を越えるものを不良として「×」で示した。
【0032】
加工性については、押出性の良好なものを「○」で示し、不良なものを「×」で示した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
まず、表1〜2から本発明に係る直流用絶縁ケーブルに用いられる半導電性組成物(実施例1〜13)の場合、いずれも良好な耐熱性と耐潰れ性(機械的強度)を呈する一方、絶縁体中の空間電荷の発生も良好に抑制され、また、加工性においても優れた半導電性組成物が得られることが判る。特に良好な耐潰れ性と良好な空間電荷発生の抑制作用から直流タイプの絶縁ケーブル用として有用な半導電性組成物であることが判る。
【0037】
一方、表3から本発明に条件を欠く半導電性組成物(比較例1〜6)にあっては、いずれかの特性において、不具合があることが判る。
【0038】
次に、上記表1〜2に示した、本発明の条件を満たす半導電性組成物(実施例1〜13)を内外の半導電層(厚さ各0.5mm)とする一方、絶縁体(厚さ2mm)として、無水マレイン酸変性HDPE、又はアクリル酸変性HDPEを用い、これを3層同時押出により直流タイプの絶縁ケーブルを製造した。この際、押出時の高温度下でも内外の半導電層部分が熱変形することもなく、また、絶縁ケーブルが長尺品として長時間押し出しされても、架橋剤の不添加によってスコーチの発生も見られなかった。
【0039】
また、上記のような無水マレイン酸変性HDPEの絶縁体と上記半導電性組成物との組み合わせにより、空間電荷の発生も基準以下に抑えられていた。さらに、製造された絶縁ケーブルを長尺品として、大型のターンテーブル上に重ねて巻き取る模擬的試験として、40〜50段ほど重ねたが、半導電性組成物の耐潰れ性が良好で、下方側に巻かれたケーブル部分にあっても、押し潰れによる変形は殆ど無かった。
【0040】
これに対して、上記本発明の条件を満たす半導電性組成物(実施例1〜13に対応する半導電性組成物)を内外の半導電層(厚さ各0.5mm)とする一方、通常の架橋ポリエチレン(XLPE)を絶縁体(厚さ2mm)として、これらを3層同時押出して、直流用の絶縁ケーブルを製造したところ、空間電荷の発生が多く、いずれも所定の基準を越えるものであった。つまり、直流用の絶縁ケーブルの場合、組み合わせる絶縁体材料が不適切であると、空間電荷の発生が多く、直流特性に影響を与えることが判った。
【0041】
【発明の効果】
先ず、本発明の直流用絶縁ケーブルによると、用いた優れた半導電性組成物により、良好な耐熱性と機械的強度(耐潰れ性)を呈する一方、架橋剤の不添加によってスコーチ発生の懸念もなく、絶縁体中の空間電荷の発生も良好に抑制され、さらに、加工性にも優れたケーブルが得られる。
【0042】
また、この半導電性組成物からなる内外の半導電層に対して、絶縁体として、無水マレイン酸変性HDPE、又はアクリル酸変性HDPEを組み合わせてあるため、優れた直流用絶縁ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 プラスチック絶縁ケーブルの一例を示した縦断端面図である。
【符号の説明】
1 導体
2 絶縁体
3 外皮
4 内部半導電層
5 外部半導電層
Claims (1)
- 導体の外周に絶縁体及び内外の半導電層を3層同時押出
により被覆させた直流用絶縁ケーブルであって、前記絶縁体が無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン、又はアクリル酸変性高密度ポリエチレンであると共に、前記内外の半導電層が、高密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレン、若しくはこれらの混和物10〜45重量部に対してポリエチレンコポリマ90〜55重量部を混合してなる混和物100重量部にカーボンブラック30〜50重量部を添加した半導電性組成物で形成されてなることを特徴とする直流用絶縁ケー
ブル。
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