JP4226720B2 - 小型滑走艇 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乗員が艇体上部のシートに着座し、操舵ハンドルを把持して航走する小型滑走艇に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の小型滑走艇は、2サイクルエンジンを動力源とするものが多い。しかし、2サイクルエンジンは排ガス中に燃料の未燃焼成分が混入することがあるため、近年では、この種の小型滑走艇のエンジンとして4サイクルを搭載することが提案されている。
【0003】
4サイクルエンジンは2サイクルエンジンに較べて水や海水中の塩分によって腐食される部材が多いため、4サイクルエンジンを小型滑走艇に搭載するためには、艇内に浸入した水や海水が吸気系を通ってエンジン内に浸入することがないようにしなければならない。
【0004】
水や海水をエンジンが吸込むのを阻止するためには、例えば特開平8−49596号公報に開示された小型滑走艇のように、気化器を相対的に高い位置に配設する構造を採ることが考えられる。
この公報に示された小型滑走艇は、4サイクルエンジンをクランク軸の軸線が艇体の前後方向を指向するように搭載し、吸気装置と排気装置とを艇体の一側方と他側方とに振り分けられるように配設している。
【0005】
前記吸気装置は、シリンダヘッドから斜め上方へ向けて延びる吸気管に気化器を接続し、この気化器の上流側に吸気サイレンサを接続することによって構成している。吸気サイレンサは、艇体内の空気を吸込む空気入口を下部に設け、上部を気化器に接続している。すなわち、この従来の小型滑走艇においては、気化器を艇体内の高い位置に配置し、艇体内に浸入した水や海水を可及的吸込むことがないようにしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上述したように構成した小型滑走艇は、エンジンを搭載する位置が相対的に高くなって艇体の重心位置が高くなってしまい、旋回性能が低くなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、艇体内に浸入した水や海水をエンジンが吸込むことがないようにしながら、4サイクルエンジンを艇体内の低い位置に搭載できるようにすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明に係る小型滑走艇は、4サイクルエンジンをシリンダヘッドがクランクケースより上方に位置するように配設し、このエンジンの吸気装置を、前記シリンダヘッドから下方に延設された吸気管と、この吸気管の下端部に接続されるとともに艇体内の空気が導入される吸気チャンバーと、この吸気チャンバーより上流側に設けられたスロットル弁と、前記吸気チャンバーの上流側に吸気ダクトを介して接続された吸気サイレンサーとから構成し、前記吸気チャンバーと前記吸気サイレンサーとを前記艇体とは別体に形成し、前記吸気ダクトを、筒状の部材によって構成するとともに、前記吸気サイレンサーから下方に延設してその下流端部を前記吸気チャンバーに連通させたものである。
【0009】
このため、艇体内に浸入した水が吸気系に流れ込んだときには、この水はエンジンの吸気管に流入することなく吸気チャンバー内に溜まるから、前記水が吸気管を通ってエンジンに吸込まれるのを防ぐことができる。
【0011】
また、本発明によれば、艇体内に浸入した水が吸気系に流れ込んだときには、この水は吸気サイレンサー内に溜まる。また、艇体が転倒した状態では、吸気サイレンサーの内側底面より上に吸気ダクト接続部が位置するから、艇体が転倒したときに吸気サイレンサー内の水が吸気ダクトに流入するのを防ぐことができる。
【0012】
請求項2に記載した発明に係る小型滑走艇は、艇体の上部にシートと操舵ハンドルを設け、前記シートの下方の艇体内に4サイクルエンジンを搭載した小型滑走艇において、前記エンジンをシリンダヘッドがクランクケースより上方に位置するように配設するとともに、このエンジンの吸気管をシリンダヘッドから下方に延設し、前記吸気管の下端部に、艇体内の空気が導入される吸気チャンバーを接続し、前記吸気チャンバーの上流側に吸気ダクトを介して吸気サイレンサーを接続し、前記吸気ダクトと前記吸気サイレンサーとの接続部を、吸気サイレンサーの上部であって、吸気サイレンサーの縦壁の上下方向の途中に配設し、前記吸気サイレンサー内に、上下方向に延びる隔壁を設けて上流側気室と下流側気室とを並設し、前記上流側気室の上部を艇体内に連通させるとともに、下部を前記隔壁に形成した連通路を介して下流側気室に接続し、下流側気室の上部に前記吸気ダクトを接続したものである。
【0013】
この発明によれば、吸気サイレンサー内に上下方向に反転する空気通路が形成され、空気とともに吸込まれた霧状の水の粒を吸気サイレンサーで空気と分離して集めることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
第1の実施の形態
本発明に係る小型滑走艇の一実施の形態を図1ないし図12によって詳細に説明する。
図1は本発明に係る小型滑走艇の側面図で、同図は、艇体の一部を破断した状態で描いてある。図2はエンジンを艇体左側から見た状態を示す側面図で、同図においてはクランクケースの底部およびオイルポンプを破断した状態で描いてある。図3はエンジンの平面図で、同図においては吸気サイレンサーを破断した状態で描いてある。図4はエンジンの縦断面図で、同図においては、後述する図7の破断位置をVII−VII線によって示す。
【0015】
図5は吸気サイレンサーの縦断面図である。図5においては、図3に示した吸気サイレンサーの破断位置をIII−III線によって示している。図6はエンジンを艇体右側から見た状態を示す側面図で、同図においては、排気チャンバーの一部を破断した状態で描いてある。図7は副燃料タンクおよび吸気管の断面図である。
【0016】
図8はオイル回収用通路を説明するための図で、同図(a)はエンジンのクランク軸支持部分の縦断面図、同図(b)はクランクケース下半部の底面図である。図9はオイル回収用通路の他の例を示す図で、同図(a)はエンジンのクランク軸支持部分の断面図、同図(b)はクランクケースの下部カバーの平面図である。図10は転倒スイッチの構成図、図11は緊急停止装置の構成を示すブロック図である。図12は水位センサの構成を示す図である。
図2、図3、図6および図7においては、艇体の前方を矢印Fで示す。
【0017】
これらの図において、符号1で示すものは、この実施の形態による小型滑走艇である。この小型滑走艇1は、デッキ2とハル3とから艇体4を形成し、艇体4の上部にシート5と操舵ハンドル6を設けている。
【0018】
艇体4の内部は、図1中に符号7で示すバルクヘッドによってエンジン室8とポンプ室9とに画成している。エンジン室8には、後述するエンジン11および主燃料タンク12などを配置し、ポンプ室9には、エンジン11が駆動する従来周知のウォータージェット推進機13と後述する排気装置14のウォーターロック15などを配置している。なお、前記エンジン11は、電子制御によって燃料供給量や点火時期を制御するいわゆる電子制御式エンジンである。エンジン制御用の制御装置は前記バルクヘッド7に取付けている。この制御装置を図1中に符号16で示す。
【0019】
艇体前部と艇体後部には、空気を前記エンジン室8に導くための空気ダクト17,18を設けている。これらの空気ダクト17,18は、艇体上部からエンジン室8の底部まで上下方向に延びるように形成し、デッキ2に設けた防水構造(図示せず)を介して艇外の空気を上端部から吸込み、下端部からエンジン室8内に導く構造を採っている。
【0020】
この実施の形態による小型滑走艇1は、艇体4が転倒してデッキ2が水没したとしても前記空気ダクト17,18から水を吸込むことがないように、緊急停止装置21を装備している。
この緊急停止装置21の構成を図11に示す。緊急停止装置21は、前記空気ダクト17,18の上端部(図1参照)に介装した吸気遮断弁22,23と、艇体4が転倒したことを検出するための転倒スイッチ24と、電動式ビルジポンプ25と、制御装置16などから構成している。この制御装置16は、エンジン11の運転を制御する機能に加え、吸気遮断弁22,23や電動式ビルジポンプ25などのアクチュエータを制御する機能も備えている。
【0021】
前記吸気遮断弁22,23は、空気ダクト17,18の上端部を開閉するバタフライ弁によって形成している。転倒スイッチ24は、図10に示すように、振り子24aを二つのストッパー24b,24cの間で揺動自在になるように設け、この振り子24aの揺動角度を検出する構造を採っている。この転倒スイッチ24がON状態になるのは、振り子24aがストッパー24b,24cによって揺動が規制される位置まで揺動したときであり、それ以外の場合にはOFF状態になる。
【0022】
この転倒スイッチ24は、図1に示すように、バルクヘッド7の上部であってポンプ室9側に振り子24aの揺動軸線が艇体4の前後方向と平行になるように取付けている。なお、図10は図1におけるA矢視図である。
【0023】
前記電動式ビルジポンプ25は、図1に示すように、エンジン室8内におけるバルクヘッド近傍の艇体底部に配設し、艇体4内に溜まった水を艇外に排出する構造を採っている。
【0024】
前記制御装置16は、前記転倒スイッチ24が予め定めた時間(例えば数秒間)だけ継続してON状態になっているときに艇体4が転倒していると判定し、前記吸気遮断弁22,23を閉動作させるとともに、エンジン11を停止させる回路を採っている。エンジン11を停止させるためには、点火系の給電を停止させたり、燃料供給を絶つことによって実施する。また、この制御装置16は、転倒時(あるいは転倒後に艇体4を元の正立状態に復帰させた時)に、転倒状態(あるいは復帰状態)が予め定めた時間だけ継続された時点で電動ビルジポンプ25を作動させる。なお、通常航走時にエンジン室8内に溜まった水は、ウォータージェット推進機13の負圧発生部に接続したビルジシステム(図示せず)によって艇外に排出する。
【0025】
この実施の形態による緊急停止装置21は、前記制御装置16に水位センサ26(図11参照)を接続し、エンジン室8内に水が溜まったことを水位センサ26が検出したときにもエンジン11を停止させるとともに電動式ビルジポンプ25を作動させる構造を採っている。水位センサ26の構造を図12に示す。
【0026】
水位センサ26は、艇体4の縦壁(例えばバルクヘッド7)に支持させて艇体底部に配置した筒体27と、この筒体27内に昇降自在に挿入した浮体28と、この浮体28を検出する位置検出センサ29とから構成している。位置検出センサ29は、例えば磁力センサや赤外線センサなどを用い、センサコントローラ30を介して前記制御装置16に接続している。すなわち、浮体28が位置検出センサ29と対応する位置に達するまで艇体底部に水が溜まると、位置検出センサ29が浮体28を検出してエンジン11が停止するとともに、電動式ビルジポンプ25が作動を開始して水が排出される。なお、制御装置16は、エンジン室8に溜まった水が所定の水位以下にならないとエンジン11を始動できないような回路を採っている。
【0027】
この小型滑走艇1に搭載する前記エンジン11は、水冷式4サイクルDOHC型の4気筒エンジンで、図1〜図4に示すように、クランク軸31を軸線方向が艇体4の前後方向を指向するように支架し、クランクケース32の上にシリンダ33が位置するように艇体4に搭載している。
【0028】
このエンジン11のクランクケース32は、図4に示すように、シリンダボディ34と一体に形成した上半部35と、このクランクケース上半部35の下方を閉塞する下半部36と、このクランクケース下半部36の下面に取付けた下部カバー37とから形成している。前記クランクケース上半部35とクランクケース下半部36とによってクランク軸31を回転自在に支持している。前記クランクケース下半部36を図4中に符号38で示すエンジンマウント部材によって艇体4に弾性支持させている。
【0029】
図4においては、コンロッドを符号39で示し、ピストンを符号40で示す。このエンジン11の点火プラグは図3中に符号41で示す。
前記シリンダボディ34は、図4に示すように、ピストン40を嵌挿させたシリンダボアより艇体右側に排気通路42を形成している。この排気通路42は、シリンダボディ34の艇体前側から艇体後側に延びるように形成し、艇体後側の端部に排気装置14を接続している。
【0030】
このエンジン11のシリンダヘッド43は、1気筒当たり2本ずつの吸気弁44と排気弁45を吸気カム軸46と排気カム軸47によって駆動する従来周知の動弁装置を備えている。各気筒の吸気ポート入口48はシリンダヘッド43における艇体左側の側面に斜め上方へ向けて開口し、排気ポート出口49は前記シリンダボディ34の排気通路42の上部に開口している。吸気ポート入口48に後述する吸気装置51を接続している。
【0031】
前記吸気カム軸46と排気カム軸48は、図2に示すように、エンジン11の艇体前側の端部に設けたタイミングベルト52を介してクランク軸31の前端部に接続している。クランク軸31の前端に設けた符号53で示すものはフライホイールマグネトウである。
【0032】
このエンジン11の前記吸気装置51は、図2〜図4に示すように、シリンダヘッド43に接続した気筒毎の吸気管54と、これらの吸気管54の上流側端部に接続した吸気チャンバー55と、この吸気チャンバー55の上流側端部に接続したスロットル弁56と、このスロットル弁56に吸気ダクト57を介して接続した吸気サイレンサー58とから構成している。
【0033】
前記吸気管54は、図4に示すように、シリンダヘッド43の側方で上流側が下方を指向するように屈曲させ、シリンダボディ34の側方に位置するように設けた吸気チャンバー55に上方から接続している。この実施の形態では、吸気管54は、下端を吸気チャンバー55内に上方から臨ませ、吸気管54の上流端の開口が吸気チャンバー55の内方に位置する構造を採っている。
この吸気管54の下流側端部に、燃料を吸気通路中に噴射するインジェクタ59を取付けている。
【0034】
前記吸気チャンバー55は、図2に示すように、シリンダボディ34の前端部と対応する位置からシリンダボディ34の後端部と対応する位置まで前後方向に延びるように形成し、前端部にスロットル弁56を接続している。吸気チャンバー55の底壁は、前後方向の両端から前後方向の中央に向かうにしたがって次第に低くなるように形成し、最も低い部分に水抜き用の一方向弁60を取付けている。この一方向弁60は、吸気チャンバー55内に浸入した水が自重で吸気チャンバー55外に排出される構造を採っている。
【0035】
前記スロットル弁56は、艇体4の幅方向に延びる弁軸56a(図3参照)に円板状の弁体56bを取付けることによって構成したバタフライ弁で、弁軸56aの艇体左側の端部を図示していないスロットルワイヤ機構によって操舵ハンドル6のスロットル操作子(図示せず)に接続している。前記弁軸56aの艇体右側の端部には、図3に示すように、スロットル弁開度を検出するためのスロットルポジションセンサ61を設けている。
【0036】
このようにスロットルポジションセンサ61をスロットル弁56におけるエンジン11側の側面に設けることにより、スロットルポジションセンサ61に水がかかり難くなる。詳述すると、艇体4内に水が浸入したときには、この水は艇体4が左右に激しく揺動することによってハル3の内壁面を伝ってハル3の上側に流れ、エンジン11に向けて落下する。スロットルポジションセンサ61は、上述したように落下する水に対してスロットル弁56の裏側に位置するから、スロットル弁56に遮られて前記水がスロットルポジションセンサ61に直接かかるのを防ぐことができる。
この構造を採ることにより、スロットルポジションセンサ61の耐久性を向上させることができる。
【0037】
なお、ハル3の内面、すなわち艇体4の内側底部に、図1中に二点鎖線で示すように仕切板62,63を立設することによって、エンジン室8内に水が溜まった状態で艇体4が激しく揺れたとしても水が波立って飛散するようなことを抑えることができる。前記仕切板62は艇体4の一側部から他側部にわたって延びるように形成し、仕切板63は艇体4の前端部からバルクヘッド7まで前後方向に延びるように形成している。
【0038】
前記吸気サイレンサー58は、図3および図5に示すように、内部に上下方向に延びる隔壁64を設けることによって上流側気室65と下流側気室66とを並設している。前記上流側気室65の上部であって艇体後側を艇体4内(エンジン室8)に連通させ、下流側気室66の上部に吸気ダクト57を接続している。上流側気室65と下流側気室66は、前記隔壁64の下部を貫通する連通パイプ67によって互いに連通させている。
【0039】
この吸気サイレンサー58と吸気ダクト57との接続部は、吸気サイレンサー58の上部であって、下流側気室66を形成する縦壁58aの上下方向の途中に位置付けている。なお、吸気ダクト57は、図2に示すように、吸気サイレンサー58の側方で下方に延設し、下端部を艇体4の後方に向けて前記スロットル弁56に接続している。
【0040】
また、前記上流側気室65および下流側気室66の底面は、図5の左右方向(艇体4の幅方向)の両端から中央に向かうにしたがって次第に低くなるように傾斜させて形成し、最も低くなる部分に水抜き用の一方向弁68を取付けている。この一方向弁68は、吸気チャンバー55に設けた一方向弁60と同等の構造のものを用い、吸気サイレンサー58内に浸入した水が自重で吸気サイレンサー58外に排出される構造を採っている。
【0041】
前記排気装置14は、図3、図4および図6に示すようにエンジン11より艇体4の右側に配設した排気チャンバー71と、この排気チャンバー71の下流側端部にゴムホース72を介して接続したウォーターロック15(図1参照)とから構成し、排ガスをウォータージェット推進機13のポンプ室に排出する構造を採っている。
【0042】
前記排気チャンバー71は、図6に示すように、シリンダボディ34の艇体後側の端部から艇体右側へ斜め下方に延びるとともに下流側が艇体4の前方を指向するように屈曲させた上流側屈曲部73と、この上流側屈曲部73からエンジン11の側方を艇体4の前方へ向けて側面視においてシリンダボディ34の前端部まで延びる水平延在部74と、この水平延在部74の下流端(前端)から上方へ延びるとともに下流側が艇体4の後方を指向するように屈曲させた下流側屈曲部75と、この下流側屈曲部75から後下がりに延びて下流端に前記ゴムホース72を接続した大径部76とから形成している。
【0043】
また、この排気チャンバー71は、従来のものと同様に二重管になるように形成して内部に冷却水通路77を形成している。冷却水通路77内を流れる冷却水の一部は前記大径部76の下流側に接続した排水管78を介して艇外に排出し、残部は排気通路S中に排出している。
【0044】
前記大径部76は、下流側屈曲部75を形成する管路を内部に突出させた構造を採っている。この突出部分を図6中に符号79で示す。この大径部76は、前記突出部分79の上方の部位を上方に膨出させて容積を増大させている。容積増大部分を符号80で示す。このように容積を増大させることによって、艇体4が転倒してウォーターロック15内の水が排気チャンバー71に逆流したときに、この水を容積増大部分80に貯留することができる。このため、転倒した艇体4を正立状態に復帰させたときに、容積増大部分80内の水がエンジン11側に流れるのを阻止することができ、この水の略全てをウォーターロック15に戻すことができる。
なお、図6において前記大径部76の近傍に設けた符号81で示すものは、オイルフィルターである。
【0045】
このエンジン11の燃料供給装置は、図3に示すように、主燃料タンク12から低圧燃料ポンプ82によって燃料が供給される副燃料タンク83をエンジン11の近傍に配設するとともに、この副燃料タンク83と前記インジェクタ59とを、副燃料タンク83内の電動式高圧燃料ポンプ84(図7参照)および燃料レール85(図3参照)を介装した循環通路で接続することによって構成している。前記燃料レール85に気筒毎のインジェクタ59を接続している。
【0046】
前記低圧燃料ポンプ82は、シリンダヘッドカバー86に取付けてあり、排気カム軸47が駆動する構造を採っている。この低圧燃料ポンプ82と主燃料タンク12との燃料供給通路には、燃料中の水分を除去するための水分離フィルタ87を介装している。
【0047】
前記副燃料タンク83は、図7に示すように、内部にフロート88と、このフロート88の位置に対応して開閉する燃料止め弁89と、前記高圧燃料ポンプ84とを備え、配管類を上壁83aに接続する構造を採っており、図4に示すように、シリンダヘッド43、シリンダボディ34、吸気管54および吸気チャンバー55に囲まれた空間に配置している。
【0048】
前記燃料止め弁89は、副燃料タンク83内の燃料の貯留量が減少してフロート88の位置が下がることによって開き、フロート88の位置が上昇することによって閉じる構造を採っている。高圧燃料ポンプ84は、副燃料タンク83内の燃料を下端部から吸込んで上方に吐出する構造を採っている。
【0049】
副燃料タンク83に接続する配管類は、低圧燃料ポンプ82から燃料が供給される低圧燃料パイプ90と、高圧燃料ポンプ84から燃料が吐出される高圧燃料パイプ91と、インジェクタ59で噴射に供されずに残留した燃料が戻る燃料戻り用パイプ92と、副燃料タンク83内の気室と吸気通路とを接続するベーパ抜き用パイプ93である。また、副燃料タンク83の上壁83aには、高圧燃料ポンプ84の給電用の端子(図示せず)も取付けている。
【0050】
このように副燃料タンク83を吸気管54の下方に配置することによって、艇体4内(エンジン室8内)に水が浸入したときに副燃料タンク83には水がかかり難くなる。詳述すると、艇体4内に水が浸入したときには、この水は艇体4が左右に激しく揺動することによってハル3の内壁面を伝ってハル3の上側に流れ、エンジン11に向けて落下する。この小型滑走艇1においては、副燃料タンク83の上方に吸気管54が配設されており、上述したようにエンジン11に向けて落下する水のうち副燃料タンク83に降りかかろうとする水の一部が前記吸気管54によって遮られるから、副燃料タンク83に降りかかる水を低減することができる。
【0051】
このため、この小型滑走艇1を海上で使用して艇体4内に海水が浸入したとしても、副燃料タンク83や、この副燃料タンク83に接続する配管および高圧燃料ポンプ用端子などが海水中の塩分によって腐食されるのを可及的少なく抑えることができる。
【0052】
次に、このエンジン11の潤滑装置について説明する。
このエンジン11の潤滑装置は、艇体4内の低い位置にエンジン11を搭載できるように、オイルパンを用いないドライサンプ式となるように形成している。すなわち、クランケース32の底部に図2、図4および図8に示すようにオイル回収用通路101を形成し、クランク室102内のオイルをこのオイル回収用通路101によって回収する構造を採っている。
【0053】
前記オイル回収用通路101は、クランクケース下半部36と、このクランクケース下半部36の下面に取付けた下部カバー37とによって形成している。詳述すると、このオイル回収用通路101は、図8(b)に示すように、気筒毎のクランク室102の底にクランクケース下半部36の底壁を貫通するように穿設した貫通孔101a〜dと、これらの貫通孔から艇体4の後方にサクションポンプ103の吸込口103aまで延びる4本の横通路101e〜hとによって形成している。
【0054】
横通路101e〜hは、クランクケース下半部36の下面に凹溝を形成するとともに、下部カバー37の上面に凹溝を形成し、クランクケース下半部36に下部カバー37を締結させることによって形成している。
このように気筒毎にオイル回収用通路を形成することにより、艇体4の前後方向に並ぶ4つの気筒の何れにおいても均等にしかも確実にオイルを回収することができる。
【0055】
前記サクションポンプ103は、図2および図8に示すように、クランク軸31の艇体後側の端部に軸装した容積式のもので、クランク軸31が回転することによってオイル回収用通路101からオイルを吸込み、上方のオイルタンク104にエンジン11内のオイル通路105(図2参照)と第1のオイル管106とを介して圧送する。
【0056】
オイルタンク104は、上部に前記第1のオイル管106を接続するとともに、下端に第2のオイル管107を介して送油ポンプ108のオイル入口を接続している。オイルタンク104内の上部には、オイルタンク104に流入したオイルから気泡を除去するベーパーセパレータ109を設けている。オイルタンク104内に発生するガスは、オイルタンク104の上端部に接続したガスパイプ110によって吸気通路に排出されるようにしている。
【0057】
このガスパイプ110とともに吸気装置に接続した符号111で示すパイプは、シリンダヘッドカバー86の内側からブローバイガスを排出するためのものである。これら両パイプの上流側端部には、吸気負圧が作用することによって開く負圧弁112を介装している。すなわち、艇体4が転倒して前記緊急停止装置21によってエンジン11が停止したときには、前記両パイプ110,111の負圧弁112が閉じるから、転倒状態でオイルタンク104や動弁カム室からオイルが吸気系に流入するのを阻止することができる。
【0058】
オイルタンク104の下方に配設した前記送油ポンプ108は、前記サクションポンプ103とともにクランク軸31の軸端部に軸装した容積型のもので、クランク軸31が回転することによってオイルタンク104からオイルを吸込み、エンジン11の各被潤滑部に圧送する。この送油ポンプ108と被潤滑部との間に前記オイルフィルター81を介装している。
【0059】
送油ポンプ108とオイルタンク104とを接続する第2のオイルパイプ107と、オイルタンク104とエンジン11側のオイル通路105とを接続する第1のオイルパイプ106にも負圧弁113を介装している。すなわち、転倒時に緊急停止装置21によってエンジン11が停止したときに、送油ポンプ108からオイルタンク104へオイルが逆流することと、オイルタンク104からサクションポンプ103側へオイルが逆流するのを阻止することができる。この構成を採ることにより、エンジン停止時に送油ポンプ108内にオイルを貯留しておくことができるから、再始動時に速やかにオイルをエンジン11に圧送することができる。
【0060】
なお、クランク室102の底からサクションポンプ103にオイルを導くオイル回収用通路としては、図9に示すように形成することができる。
図9に示すオイル回収用通路121は、各クランク室102の艇体右側の端部と艇体左側の端部とを連通する気筒毎の連通路121a〜dと、これらの連通路を互いに連通するとともにサクションポンプ103の吸込口103aに連通する1本の横通路121eとから形成している。
このようにオイル回収用通路121を形成することによって、艇体4が左右方向に激しく揺動しても全てのクランク室102の底からオイルを確実に回収することができる。
【0061】
上述したように構成した小型滑走艇1は、エンジン11を始動して吸気装置51にエンジン室8内の空気が吸込まれるとともに、外気が空気ダクト17,18を通ってエンジン室8内に流入する。
一方、この小型滑走艇1が例えば海上で上下左右に激しく揺れながら航走すると、外気が導入される前記空気ダクト17,18や、デッキ2に設けた内部点検孔(図示せず)またはシート5の下方のメンテナンス用開口(図示せず)などからエンジン室8内に海水が浸入することがある。
【0062】
このように艇体4内に浸入した海水は、艇体4が激しく揺れることによってエンジン室8内で飛散し、飛沫となって吸気サイレンサー58の上流側気室65に空気とともに吸込まれる。
吸気サイレンサー58は、上流側気室65の上部がエンジン室8内に連通し、隔壁64の下部で上流側気室65と下流側気室66とを連通させるとともに、下流側気室66の上部に吸気ダクト57を接続しており、上下方向に反転する空気通路が内部に形成されているから、空気とともに吸込まれた霧状の海水の粒は、流れる方向が反転する部位の近傍で吸気サイレンサー58の内壁や隔壁64に付着する。
【0063】
このため、吸気サイレンサー58で霧状の海水を空気と分離して集めることができるから、上述したように艇体4内に海水が浸入したとしても、エンジン11内に海水が吸込まれることはない。
【0064】
吸気サイレンサー58内に溜まった海水は、上流側気室65および下流側気室66の底に設けた一方向弁68を通って吸気サイレンサー58外に排出される。なお、吸気サイレンサー58内の底部には、図5中に二点鎖線で示すように、透孔(図示せず)を多数穿設したパンチングメタルからなる仕切板131を設けることができる。このように仕切板131を設けることによって、万が一吸気サイレンサー58内に海水が溜まるようなことがあったとしても、この海水が波立つことを仕切板131によって阻止することができるから、吸気サイレンサー58内に貯留された海水が再び飛散して空気とともに吸気ダクト57を通ってエンジン11に吸込まれるのを確実に阻止することができる。
【0065】
また、吸気サイレンサー58と吸気ダクト57との接続部は、吸気サイレンサー58の上部であって、吸気サイレンサー58の縦壁58aの上下方向の途中に配設しているから、艇体4が転倒したときには、吸気ダクト接続部は吸気サイレンサー58の内側底面より上に位置するようになる。このため、吸気サイレンサー58内に海水が溜まっている状態で艇体4が転倒したとしても、吸気サイレンサー58内の海水が吸気ダクト57に流入することはない。
【0066】
吸気サイレンサー58から吸気ダクト57に流入した空気は、吸気ダクト57を通って吸気チャンバー55に流入し、この吸気チャンバー55から気筒毎の吸気管54に分配される。この小型滑走艇1においては、吸気管54をシリンダヘッド43から下方に延設し、この吸気管54の下端部に吸気チャンバー55を接続しているから、霧状になった海水の粒が仮に空気とともに吸気チャンバー55に流入したとしても、この海水の粒は吸気管54に流入することなく吸気チャンバー55内に溜まる。
【0067】
したがって、この小型滑走艇1においては、エンジン室8内に海水が浸入したとしても、この海水が吸気装置51からエンジン11に吸込まれることはないから、水や海水中の塩分によって腐食される部材が2サイクルエンジンに較べて多い4サイクルエンジン11を艇体4内の低い位置に搭載することができ、艇体4の旋回性能を向上させることができる。
【0068】
第2の実施の形態
吸気装置および排気装置は、図13ないし図15に示すように排水装置を接続することができる。
図13は排水装置を接続した吸気装置の他の実施の形態を示す図で、同図(a)は吸気チャンバー55に排水装置を接続した状態を示す側面図、同図(b)は吸気サイレンサーに排水装置を接続した状態を示す断面図である。図14は排水装置を接続した排気装置を示す側面図、図15は排水装置の構成を示す図である。これらの図において、前記図1ないし図12で説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0069】
図13に示した吸気チャンバー55と吸気サイレンサー58は、第1の実施の形態を採るときに用いていた一方向弁の代わりに排水ホース141,142を接続している。
図14に示した排気チャンバー71は、最も低くなる部位に排水ホース143を接続している。
【0070】
これらの排水ホース141〜143は、図15に示すように、他端部を電動式ビルジポンプ25の上部吸込口25aに接続している。すなわち、この実施の形態によれば、排水ホース141〜143および電動ビルジポンプ25からなる排水装置を吸気系および排気系に接続している。
【0071】
前記電動式ビルジポンプ25は、艇体4の底に溜まった水を排出する機能の他に、前記上部吸込口25aからも水を排出する機能も有している。また、制御装置16は、転倒スイッチ24や水位センサ26に加えて水検知センサ144を接続している。この水検知センサ144は、吸気チャンバー55、吸気サイレンサー58および排気チャンバー71内に水が溜まったのを検出することができるように構成している。
【0072】
この実施の形態による前記制御装置16は、前記水検知センサ144によって吸気系や排気系に所定以上の水が溜まったことを検出したときや、転倒スイッチ24によって転倒状態を検出したときや、水位センサによってエンジン室8内に所定以上の水が溜まったことを検出したときに、電動式ビルジポンプ25を駆動する回路を採っている。
このように排水装置を吸気系および排気系に接続することによって、エンジン11に水が浸入するのを確実に阻止することができる。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、艇体内に浸入した水が吸気系に流れ込んだときには、この水はエンジンの吸気管に流れ込むことなく吸気チャンバー内に溜まるから、艇体内に浸入した水が吸気系からエンジン内に吸い込まれるのを防ぐことができる。
【0078】
このため、本発明に係る小型滑走艇は、水や海水中の塩分によって腐食される部材が2サイクルエンジンに較べて多い4サイクルエンジンを艇体内の低い位置に搭載することができる。
【0079】
請求項2記載の発明によれば、艇体内に浸入した水が吸気系に流れ込んだときには、この水は吸気チャンバーまで流れることなく吸気サイレンサー内に溜まる。また、艇体が転覆した状態では、吸気サイレンサーの内側底面より上に吸気ダクト接続部が位置するから、艇体が転覆したときに吸気サイレンサー内の水が吸気ダクトに流入するのを防ぐことができる。
このため、エンジンに水がより一層吸い込まれ難い小型滑走艇を提供することができる。
【0080】
請求項3記載の発明によれば、吸気サイレンサー内に上下方向に反転する空気通路が形成され、空気とともに吸込まれた霧状の水の粒を吸気サイレンサーで空気と分離して集めることができる。
このため、霧状の水さえもエンジンに吸い込まれることがない小型滑走艇を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る小型滑走艇の側面図である。
【図2】 エンジンを艇体左側から見た状態を示す側面図である。
【図3】 エンジンの平面図である。
【図4】 エンジンの縦断面図である。
【図5】 吸気サイレンサーの縦断面図である。
【図6】 エンジンを艇体右側から見た状態を示す側面図である。
【図7】 副燃料タンクおよび吸気管の断面図である。
【図8】 オイル回収用通路を説明するための図である。
【図9】 オイル回収用通路の他の例を示す図である。
【図10】 転倒スイッチの構成図である。
【図11】 緊急停止装置の構成を示すブロック図である。
【図12】 水位センサの構成を示す図である。
【図13】 排水装置を接続した吸気装置の他の実施の形態を示す図である。
【図14】 排水装置を接続した排気装置を示す側面図である。
【図15】 排水装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
1…小型滑走艇、8…エンジン室、11…エンジン、32…クランクケース、43…シリンダヘッド、51…吸気装置、54…吸気管、55…吸気チャンバー、57…吸気ダクト、58…吸気サイレンサー、64…隔壁、65…上流側気室、66…下流側気室、67…連通パイプ。
Claims (2)
- 艇体の上部にシートと操舵ハンドルを設け、前記シートの下方の艇体内に4サイクルエンジンを搭載した小型滑走艇において、前記エンジンをシリンダヘッドがクランクケースより上方に位置するように配設し、
このエンジンの吸気装置を、前記シリンダヘッドから下方に延設された吸気管と、
この吸気管の下端部に接続されるとともに艇体内の空気が導入される吸気チャンバーと、
この吸気チャンバーより上流側に設けられたスロットル弁と、
前記吸気チャンバーの上流側に吸気ダクトを介して接続された吸気サイレンサーとから構成し、
前記吸気チャンバーと前記吸気サイレンサーとを前記艇体とは別体に形成し、
前記吸気ダクトを、筒状の部材によって構成するとともに、前記吸気サイレンサーから下方に延設してその下流端部を前記吸気チャンバーに連通させたことを特徴とする小型滑走艇。 - 艇体の上部にシートと操舵ハンドルを設け、前記シートの下方の艇体内に4サイクルエンジンを搭載した小型滑走艇において、前記エンジンをシリンダヘッドがクランクケースより上方に位置するように配設するとともに、このエンジンの吸気管をシリンダヘッドから下方に延設し、前記吸気管の下端部に、艇体内の空気が導入される吸気チャンバーを接続し、
前記吸気チャンバーの上流側に吸気ダクトを介して吸気サイレンサーを接続し、前記吸気ダクトと前記吸気サイレンサーとの接続部を、吸気サイレンサーの上部であって、吸気サイレンサーの縦壁の上下方向の途中に配設し、
前記吸気サイレンサー内に、上下方向に延びる隔壁を設けて上流側気室と下流側気室とを並設し、前記上流側気室の上部を艇体内に連通させるとともに、下部を前記隔壁に形成した連通路を介して下流側気室に接続し、下流側気室の上部に前記吸気ダクトを接続したことを特徴とする小型滑走艇。
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