JP4223178B2 - ボールの反発特性予測方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフボール等のボールを打撃した時の反発特性予測方法に関し、特に、該反発特性を実際にボールを打撃することなくシミュレートで予測できるようにするものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴルファーがゴルフボールに求める重要な性能の1つに、飛距離が挙げられる。飛距離の大きなゴルフボールはゴルファーに爽快感を与え、また、スコアメイクにも寄与する。この飛距離向上のためには、ゴルフボールの反発性能の向上が必要である。
【0003】
従って、ゴルフボールの設計において、打撃されたときの反発性能は、大きな評価項目の一つである。従来のゴルフボールの設計では、ボールを構成する材料を決定し、その後、実際にボールの試作を行い、試作したボールを実際に打撃することで、設計したボールの反発特性に関しての評価を行っていた。この設計方法では、ボールの試作において非常に費用と時間を要していた。
【0004】
そこで、多くの工業分野の各種製品の設計において、試作の費用と時間の節約等のために利用されている有限要素法を用いて、ゴルフボールの反発性能を測定するために、実際の打撃試験をシミュレートしたものが提案されている。このように、有限要素法によりシミュレートする場合、一般に材料の剛性、粘性などを測定する粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機などにより測定したボールの構成材料の物性(ヤング率と損失係数)をシミュレーションへの入力値として用いている。特に、粘弾性スペクトルメーターでは、動的ひずみが与えられた試験片の物性が測定されるため、ゴルフボールの打撃をシミュレートした有限要素法による解析手法に有用である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機などによる測定時に、ゴルフボールの材料にかかる最大ひずみ速度は、0.001/sから1.0/s程度と小さく、また、最大圧縮ひずみも0.0001から0.02程度と小さな値となる。これは、ゴルフボールの材料が高硬度であり、粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機などでは大変形を起こしにくいためである。
【0006】
一方、実際の打撃時に、ゴルフボールを構成する材料では、最大ひずみ速度は500/s〜5000/s程度であり、最大圧縮ひずみは0.05〜0.50程度であり、高速大変形なひずみが生じる。
【0007】
このように、粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機等による測定では、実際の打撃時と、最大ひずみ速度及び最大圧縮ひずみが大きく異なり、材料物性の測定値は、実際に打撃されたときに近い状態ではない。
反発性能とは、ゴルフボールがゴルフクラブのヘッドで実際に打撃された状態で発現される性能であるため、シミュレーションに用いる材料物性は、実際に打撃されたときに近い状態で測定される必要がある。従って、粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機等による測定で得られるヤング率、損失係数は、打撃のシミュレーションに適した材料物性ではないという問題がある。
【0008】
このため、粘弾性スペクトルメーター、ヤング率を測定する引張試験機等で得られたヤング率、損失係数の値を用いて、有限要素法解析によりゴルフボールの反発特性をシミュレートしても、実際に打撃された状態でのゴルフボールを正確にシミュレートしていることにならない。
従って、現状の有限要素法によるシミュレーションを用いたゴルフボールの設計は、反発特性の評価が不十分であるため、実際のところ、ゴルフボールの試作を行い、実物の打撃によるテストに頼らざるをえないという問題がある。
【0009】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、実際に打撃された状態でのゴルフボールのシミュレートを正確に行えるようにし、このシミュレーションよりゴルフボールの反発特性を正確に予測できるようにすることを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、入力棒と出力棒の間に、複数層のゴルフボールを構成する各層を形成する材料を挟み、入力棒を打撃棒で打撃するスプリットホプキンソン棒試験機により、実際のゴルフクラブヘッドによるゴルフボール打撃時と同等の最大圧縮ひずみ0.05〜0.50、最大ひずみ速度500/s〜5000/sの条件下で、前記各層を形成する材料のヤング率、損失係数を測定し、
上記各層を形成する材料からなる層を組み合わせたゴルフボールを、ゴルフボール全体では1000〜100000の要素に分割した有限要素法解析を用い、前記各層を形成する材料のヤング率、損失係数の測定値を用いてゴルフボールの反発特性をシミュレートして、該ゴルフボールの反発特性を予測しているボールの反発特性予測方法を提供している。
【0012】
上記のように、ゴルフボールを対象とし、スプリットホプキンソン棒試験機により、実際のゴルフクラブヘッドによるゴルフボール打撃時と同等のひずみ及びひずみ速度の条件下で、ゴルフボールを構成する材料の物性を測定し、
上記測定値を用いて、有限要素法解析により、反発特性を測定するための実際のゴルフボールの打撃試験をシミュレートし、該シミュレートよりゴルフボールの反発特性を予測している。
【0013】
上記したスプリットホプキンソン棒試験機による測定では、試験片に高速でかつ大変形のひずみを与えることができる。従って、実際にゴルフクラブヘッドにより、ゴルフボールが打撃されたときと同等のひずみ、ひずみ速度の条件下で、材料物性(ヤング率及び損失係数)を測定することができる。このスプリットホプキンソン棒試験機で測定された材料物性(ヤング率及び損失係数)を用いることで、有限要素法解析により、反発特性を測定するための実際の打撃試験を正確にシミュレートすることができ、実際の打撃に近い状態でのゴルフボールの反発特性を予測することができる。
これにより、ゴルフボールの設計段階において、実際のボール試作回数を減らし、試作に要する費用と時間を削減することができる。従って、反発特性に関して最適なゴルフボールを短期間に設計することができる。
【0014】
また、実際のゴルフクラブヘッドによる打撃時と同等の条件下での、ゴルフボールを構成する材料のヤング率と損失係数の値と、ゴルフボールの構造、及び各材料の配置位置さえわかれば、様々な種類のゴルフボールの反発性能について、シミュレーションを行うことができる。従って、試作が困難なもの、あるいは、材料やその配置位置の変更に伴うゴルフボールの反発特性の違いを容易に評価することができる。
【0015】
さらに、有限要素法解析により、実際のゴルフボールの打撃時のボールの状態をシミュレートすることができるため、ゴルフボール内部に発生するひずみの状態に加え、ボールに打撃が加えられているときのボール内部の応力の状態も正確に観察することできる。この結果により、反発性能に優れるゴルフボールを設計することができる。
【0016】
実際のゴルフクラブヘッドによる打撃時に、ゴルフボールに発生する最大圧縮ひずみは0.05〜0.50であるため、この条件下での材料物性(ヤング率及び損失係数)を用いて、有限要素法解析によりシミュレートを行っている。
このように、ボールの使用条件に合わせることで、実際の打撃時のゴルフボールの反発特性を正確にシミュレートすることができる。
【0017】
際のゴルフクラブヘッドによる打撃時に、ゴルフボールに発生する最大ひずみ速度は500/s〜5000/sであるため、この条件下での材料物性(ヤング率及び損失係数)を用いて、有限要素法解析によりシミュレートを行っている。
このように、ボールの使用条件に合わせることで、実際の打撃時のゴルフボールの反発性能を正確にシミュレートすることができる。
【0018】
験片に高速でかつ大変形のひずみが与えられ、実際にゴルフクラブヘッドにより、ゴルフボールが打撃されたときと同等の最大圧縮ひずみ、最大ひずみ速度の条件下で、材料物性(ヤング率及び損失係数)を測定している
【0019】
ゴルフボールの全ての範囲の要素の数は、全体モデルで1000〜100000としている。2500〜20000が良い。なお、上限の値は、現段階での計算機の能力を鑑みてのものであり、今後計算機の能力が向上するにつれ、解析の時間が短縮されるため上限の範囲は、変わることが容易に想像できる。
【0020】
また、反発特性の解析において、左右対称モデルの解析の場合、ボールは全体モデルではなく、ハーフモデル(ボールの中心を含んだ左右を等分割する中立面でカットしたモデル)とし、中立面に左右方向拘束するモデルでの反発予測解析でも、全体モデルと同様の解析を行うことができる。さらに、左右、上下対称モデルの解析の場合、ボールは全体モデルではなく、1/4モデルとすることで、同様に解析を行うことができる。このように、解析モデルの対称性を考慮することにより、解析精度を低下させることなく、解析領域を少なくして、有限要素法解析を効率よく行うことができる。
【0021】
本発明によりシミュレートされるゴルフボールは、架橋ゴム層等のコアにカバーが被覆された所謂ツーピースゴルフボールでもよく、また、3層以上から構成されていてる所謂マルチピースゴルフボールであってもよい。
【0022】
また、本発明によりシミュレートされるゴルフボールの材料は、スプリットホプキンソン棒で測定可能なあらゆる材料が含まれる。
例えば、アイオノマー樹脂等の合成樹脂、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)等が挙げられる。これらの単体、あるいは混合物からなる組成物に着色剤、劣化防止剤、架橋剤等の各種添加剤が、必要に応じ適量配合されてもよい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のボールの反発特性予測方法において、有限要素法解析に必要な材料物性(ヤング率及び損失係数)を測定するスプリットホプキンソン棒試験機が示された模式的正面図である。
【0024】
図1に示すスプリットホプキンソン棒試験機は、打撃棒1、入力棒3及び出力棒5を備えており、これらは直線上に配置されている。入力棒3には、第一ひずみゲージ7及び第二ひずみゲージ9が取り付けられている。出力棒5には、第三ひずみゲージ11及び第四ひずみゲージ13が取り付けられている。入力棒3の後端3aと出力棒5の前端5aとの間には、円柱状の試験片20が挟持されている。
【0025】
試験片20は、ゴルフボールに用いられるゴム組成物等の材料を試験片の形状に成形したものでもよく、また、球状に成形されたゴルフボールから切り出されたものであってもよい。本実施形態では、試験片20の長さ(すなわち入力棒3の後端3aと出力棒5の前端5aとの距離)は4mm、試験片20の断面直径は18mmとしている。
【0026】
打撃棒1、入力棒3及び出力棒5はポリメチルメタアクリレート製の円柱であり、断面直径は20mm、ヤング率は5300MPa、比重は1.19である。打撃棒1の長さは、100mmである。入力棒3及び出力棒5(以下、この入力棒3と出力棒5とは、「応力棒」とも称される)の長さは、2000mmである。
第一ひずみゲージ7は入力棒3の後端3aから900mmの位置に取り付けられており、第二ひずみゲージ9は入力棒3の後端3aから600mmの位置に取り付けられている。また、第三ひずみゲージ11は出力棒5の前端5aから300mmの位置に取り付けられており、第四ひずみゲージ13は出力棒5の前端5aから600mmの位置に取り付けられている。
【0027】
このように、図1のスプリットホプキンソン棒試験機は、打撃棒1、入力棒3及び出力棒5がポリメチルメタアクリレートからなる合成樹脂製であり、打撃棒1及び入力棒3が2000mmと大きく、しかも第一ひずみゲージ7と入力棒3の後端3aとの距離及び第二ひずみゲージ9と入力棒3の後端3aとの距離が大きいので、ゴルフボールに用いられるような架橋ゴム等の粘弾性を有する材料の材料物性(ヤング率と損失係数等)の測定に適している。
【0028】
上記第一ひずみゲージ7、第二ひずみゲージ9、第三ひずみゲージ11、第四ひずみゲージ13として単軸プラスチック用ひずみゲージを用い、本実施形態では、株式会社共和電業製のKFP−5−350−C1−65を用い、入力棒3、出力棒5の上記した位置に貼着している。これら第一ひずみゲージ7乃至第4ひずみゲージ13の入力棒3及び出力棒7への取付位置は、長さ方向において同一線上としている。
【0029】
このスプリットホプキンソン棒試験機によるヤング率及び損失係数の測定では、まず、打撃棒1が入力棒3の前端3aに、25m/sの速度で衝突する。これによって入射ひずみ波が生じ、この入射ひずみ波は入力棒3の後端3aに向かって進む。この入射ひずみ波の一部は、入力棒3の後端3aにおいて反射し、反射ひずみ波となって入力棒3の前端3bに向かって進む。入射ひずみ波の一部は、入力棒3の後端3aから試験片20を透過し、さらに出力棒5に伝播して透過ひずみ波となり、出力棒5の後端5bに向かって進む。
【0030】
入射ひずみ波は、第一ひずみゲージ7及び第二ひずみゲージ9によって実測される。実測された入射ひずみ波は、ローパスフィルターに通され、10kHz以上の高周波が除去される。さらに、入射ひずみ波の時刻歴は、そのベースライン値をゼロとするゼロ補正が施される。こうして得られた第一ひずみゲージ7及び第二ひずみゲージ9における時間軸ひずみのそれぞれがフーリエ変換され、周波数軸ひずみが求められる。この第一ひずみゲージ7及び第二ひずみゲージ9における周波数軸ひずみから、伝達関数が導出される。第一ひずみゲージ7と入力棒3の後端3aとの距離X1と、第二ひずみゲージ9と入力棒3の後端3aとの距離X2との比(X1:X2)が考慮されつつ、上記伝達関数に基づいて、入力棒3の後端3aにおける周波数軸ひずみが推定される。この周波数軸ひずみがフーリエ逆変換されることにより、入力棒3の後端3aにおける入射ひずみ波の時間軸ひずみ(ひずみの時刻歴)εiが得られる。
【0031】
同様に、入力棒3の後端3aで反射して前端3bに向かう反射ひずみ波が第二ひずみゲージ9及び第一ひずみゲージ7によって実測される。この実測された反射ひずみ波から、入力棒3の後端3aにおける反射ひずみ波の時間軸ひずみ(ひずみの時刻歴)εrが得られる。
【0032】
また、出力棒5の第三ひずみゲージ11及び第四ひずみゲージ13によって、試験片20を経て出力棒5に伝播される透過ひずみ波を実測し、この実測した透過ひずみ波から、出力棒5の前端5aにおける透過ひずみ波の時間軸ひずみ(ひずみの時刻歴)εtが得られる。
【0033】
こうして得られたεi、εr及びεtから、下記数式(1)によって、試験片20のひずみ速度ε’が算出される。
Figure 0004223178
(数式(1)において、C0は入力棒および出力棒中(応力棒)のひずみ波の伝播速度(m/s)を表し、Lは試験片の長さ(m)を表し、Eは応力棒のヤング率(N/m)を表し、ρは応力棒の密度(kg/m)を表す)
【0034】
また、εi、εr及びεtから、下記数式(2)によって試験片20のひずみεが算出される。
【0035】
Figure 0004223178
(数式(2)において、C0は入力棒および出力棒中(応力棒)のひずみ波の伝播速度(m/s)を表し、Lは試験片の長さ(m)を表し、Eは応力棒のヤング率(N/m)を表し、ρは応力棒の密度(kg/m)を表す)
【0036】
さらに、εi、εr及びεtから、下記数式(3)によって試験片20の応力σが算出される。
Figure 0004223178
(数式(3)において、Eは入力棒および出力棒からなる応力棒のヤング率(N/m)を表し、Aは上記応力棒の断面積(m)を表し、Asは試験片の断面積(m)を表し、Dは応力棒の直径(m)を表し、Dsは試験片の直径(m)を表す)
【0037】
こうして得られた試験片20のひずみ時刻歴を、図2のグラフに示す。図2に示すように、曲線は、ピークP以降しばらくはなだらかであるが、その後、凹凸状となる。ピークP以降のなだらかな段階での点Sを選択し、この点Sにおける曲線に対する接線を画き、この接線と時間軸との交点から緩和時間λを導出し、下記数式(4)によって求められる曲線を点S以降の曲線とすることによって、ひずみ時刻歴全体をなだらかな曲線(図2中に点線で示す)とすることができる。これにより、最終的に得られる材料物性(ヤング率と損失係数)へのノイズの影響を除去することができる。
ε(t)=ε0・e−t/λ −−−(4)
(数式(4)において、ε0は接点におけるひずみを表す)
【0038】
同様に、下記数式(5)によって、応力時刻歴全体をなだらかな曲線とすることができ、これによって最終的に得られる材料物性(ヤング率と損失係数)へのノイズの影響を除去することができる。
σ(t)=σ0・e−t/λ −−−(5)
(数式(5)において、σ0は接点における応力を表す)
【0039】
このような補正が行われた試験片20のひずみ時刻歴及び応力時刻歴から、応力−ひずみ曲線が決定される。図3は、典型的な応力−ひずみ曲線が示されたグラフである。この応力−ひずみ曲線から、下記の数式(6)を用いて、試験片20のヤング率Esが算出される。
Es=σmax/εmax −−−(6)
【0040】
また、図3の応力−ひずみ曲線から、下記の数式(7)を用いて、位相角δが算出される。
δ=sin−1((σa−σb)/σmax) −−−(7)
そして、この位相角δより、損失係数(tanδ)が算出される。
【0041】
上記した打撃棒が入力棒の前端に25m/sの速度で衝突したときの試験片の最大ひずみ速度は2000/sから2500/s程度であり、また、最大圧縮ひずみは0.15から0.25程度である。このひずみの変形挙動は、ゴルフボールが打撃された場合の変形挙動に近いものである。すなわち、このスプリットホプキンソン棒試験機によって測定されるヤング率及び損失係数は、ゴルフボールが実際に打撃されたときに近い状態における材料物性である。
なお、打撃棒の衝突速度は、25m/sに限らず、打撃棒が衝突したときの試験片のひずみの変形挙動が、ゴルフボールが打撃された場合の変形挙動に近くなるような速度であればよい。
【0042】
上記のようにスプリットホプキンソン棒試験機によって測定されるヤング率及び損失係数を代入し、有限要素法解析によりシミュレートすることで、実際のゴルフクラブヘッドによる打撃時と同等の条件下でのゴルフボールの反発係数を予測することができる。
【0043】
具体的には、図4に示すように、内層、中間層、外層の3層からなるゴルフボール30において、内層を材料A、中間層を材料B、外層を材料Cで構成している。各層の材料A、材料B、材料Cのヤング率と損失係数を、上記したスプリットホプキンソン棒試験機による測定方法で、実際のゴルフクラブヘッドによる打撃時と同等の条件下において、予め求めておく。その値を代入し、以下に示すように、有限要素法によりシミュレートすることで、正確にゴルフボールの反発係数を予測することができる。
【0044】
(解析での反発係数の算出)
ゴルフクラブヘッドのゴルフボールへの衝突を想定し、図5(A)(B)(C)に示すように、アルミニウム製中空棒モデル31の初速度Va(m/s)での、ゴルフボール30への衝突をシミュレートしている。図中の格子状の線は、有限要素法解析で用いるメッシュを示す線である。1要素に関して構成する各節点に質量を分配し、各節点を質点と置き換え、各節点の速度を質点の持つ速度として合計を割って、全体の速度としている。即ち、インパクト後のボールの速度Vbi(i=x、y、z)は、数式(8)により以下のように算出する。ボールの全運動量は全質点の運動量の和と考え、全運動量を総重量で割ったものをボールの飛び出し速度Vbiと定義する。
【0045】
Figure 0004223178
ここで、N、Mは、ボールの節点数、総質量、Vni、Mnはn番目の並進速度、節点を含む要素の質量をその要素に含まれる節点の数で割ったものである。
【0046】
上記した方法により、衝突前後の上記アルミニウム製中空棒モデル31及びゴルフボール30の速度を算出し、それぞれの速度及び重量からゴルフボール30の反発係数を算出している。
【0047】
また、図6に示すように、前述したゴルフボール30と構造は同じであるが、材料の配置位置が異なるゴルフボール30’において内層を材料C、中間層を材料B、外層を材料Aとした場合でも、各材料A〜Cのヤング率と損失係数の値を、各材料の該当部分に代入し、有限要素法によりシミュレートするだけで、材料の配置位置変更後のゴルフボール30’の反発係数を容易に予測することができる。このように、様々な構成のゴルフボールについて、試作を行わずに、容易に反発性能の比較を行うことができる。
【0048】
また、反発特性の解析において、左右対称モデルの解析の場合、図7(A)(B)に示すように、ボールを全体モデルではなく、ハーフモデル40(ボールの中心を含んだ左右を等分割する中立面Tでカットしたモデル)とし、アルミニウム製中空棒モデル41との衝突を、中立面Tに左右方向拘束するモデルでの反発予測解析(中立面Tにy方向並進拘束、x,z軸回りの回転拘束を入れる)でも、全体モデルと同様の解析を行うことができる。さらに、左右、上下対称モデルの解析の場合、図8に示すように、ボールは全体モデルではなく、2つの中立面T’、T”でカットすることにより、1/4モデル50とし、アルミニウム製中空棒モデル51との衝突を、全体モデルと同様に解析することができる。このように、解析モデルの対称性を考慮することにより、解析精度を低下させることなく、解析領域を少なくして、有限要素法解析を効率よく行うことができる。
【0049】
なお、本実施形態では、3層からなるゴルフボールをシミュレートしているが、本発明によりシミュレートされるゴルフボールは、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、あるいは、3層以上から構成されていてるマルチピースゴルフボール等あらゆる構造のゴルフボールに適応可能である。
【0050】
このように、各材料の実際のゴルフクラブヘッドによる打撃時と同等の条件下でのヤング率と損失係数の値と、ゴルフボールの構造、各材料の配置位置さえわかれば、様々な種類のゴルフボールの反発性能について、シミュレーションを行うことができ、試作せずに、反発性能評価を行うことができる。
【0051】
なお、試験片に高速でかつ大変形のひずみが与えられ、実際にゴルフクラブヘッドにより、ゴルフボールが打撃されたときと同等の最大圧縮ひずみ、最大ひずみ速度の条件下で、材料物性(ヤング率及び損失係数)を測定することができれば、上記スプリットホプキンソン棒以外の測定方法により材料物性(ヤング率、損失係数)を求めても良い。
【0052】
以下、本発明のゴルフボールの反発シミュレーションの実施例及び比較例について詳述する。
まず、下記の材料1〜3を用いたゴルフボールを作製した。
【0053】
(材料1)
ハイシスポリブタジエンゴム (BR01 JSR製)100phr
アクリル酸亜鉛(ZDA)31phr
酸化亜鉛(ZnO)20phr
ジクミルパーオキサイド(DCP)0.4phr
からなる混合物を160℃で30分、直径42.8mm金型で圧縮成型し、1ピースボールを作製した。
【0054】
(材料2)
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(ハイトレル4474 東レデュポン社製)を直径42.8mm金型でインジェクション成型し、1ピースボールを作製した。
【0055】
(材料3)
アイオノマー樹脂(ハイミラン1605 三井デュポンケミカル社製)50phr
アイオノマー樹脂(ハイミラン1706 三井デュポンケミカル社製)50phr
からなる混合物をを直径42.8mm金型でインジェクション成型し、1ピースボールを作製した。
【0056】
(実施例)
上記材料1〜3の材料物性(ヤング率と損失係数)を、上記したスプリットホプキンソン棒試験機により測定した(室温23℃、相対湿度50%、打撃棒の衝突速度25m/s)。測定により得られたヤング率と損失係数及び、測定時の最大圧縮ひずみと最大ひずみ速度を下記の表1に示す。
【0057】
この値を用いて、有限要素法解析により、材料1〜3よりなる各ゴルフボールに、200g(ヘッドの重さと同一)のアルミニウム製の中空棒モデルを初速度35、40、45m/sの3通りの速度で衝突させた時のゴルフボールの状態をシミュレートし、上記した方法でゴルフボールの反発係数を算出した。ここで得られた材料1〜3のゴルフボールの実施例の解析での反発係数を、それぞれ下記の表3(材料1)、表4(材料2)、表5(材料3)に示す。
【0058】
【表1】
Figure 0004223178
【0059】
(比較例)
上記材料1〜3の材料物性(ヤング率と損失係数)を、粘弾性スペクトルメーターにより測定し(周波数10Hz、最大圧縮ひずみ0.02、最大ひずみ速度1.256/s)、得られたヤング率と損失係数を下記の表2に示す。
この値を用いて、有限要素法解析により、材料1〜3よりなる各ゴルフボールに、200g(ヘッドの重さと同一)のアルミニウム製の中空棒モデルを初速度35、40、45m/sの3通りの速度で衝突させた時のゴルフボールの状態をシミュレートし、上記した方法でゴルフボールの反発係数を算出した。ここで得られた材料1〜3のゴルフボールの比較例の解析での反発係数を、それぞれ下記の表3(材料1)、表4(材料2)、表5(材料3)に示す。
【0060】
【表2】
Figure 0004223178
【0061】
【表3】
(材料1)
Figure 0004223178
【0062】
【表4】
(材料2)
Figure 0004223178
【0063】
【表5】
(材料3)
Figure 0004223178
【0064】
また、上記材料1〜3で成型されたゴルフボールの実物を使用した実験により、下記の方法で反発係数の値を測定した。
上記実施例及び比較例の解析での反発係数と下記の実物を使用した実験での反発係数との差(%)を上記した表3(材料1)、表4(材料2)、表5(材料3)に示す。
【0065】
(実験での反発係数の測定)
ゴルフボールの反発係数を測定する方法として、室温23℃の条件下、材料1〜3よりなる各ゴルフボールに、ゴルフクラブのヘッドの代用として、200g(ヘッドの重さと同一)のアルミニウム製の中空棒を速度35、40、45m/sの3通りの速度で衝突させ、衝突前後の上記中空棒及びゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度及び重量から各ゴルフボール(3種類の材料)の反発係数を算出した。各ゴルフボールとも、1ピースボールで測定した。
なお、アルミニウム製の中空棒の衝突面は、フラットであり、ゴルフボールとフラットな正面衝突とした。ゴルフクラブヘッドのように衝突面に角度がないため、衝突時にゴルフボールが回転しないので、ゴルフボールの反発性能のみを評価できる。
【0066】
表3、4、5に示すように、スプリットホプキンソン棒試験機で得られた(最大圧縮ひずみ0.098〜0.3153、最大ひずみ速度1381.1〜3927.6/s条件下)ヤング率と損失係数を代入して有限要素法により解析した結果から算出した実施例の解析での反発係数の値は、実際にゴルフボールを試作して、実物により求めた実験での反発係数の値と、いずれの材料においても、よく一致していた。実験結果との差は−1.21%〜5.77%であり、実験結果を正確にシミュレートしていることが確認できた。
【0067】
一方、スペクトルメーター(周波数10Hz、最大圧縮ひずみ0.02、最大ひずみ速度1.256/s)で得られたヤング率と損失係数を代入して有限要素法により解析した結果から算出した比較例の解析での反発係数の値は、実際にゴルフボールを試作して、実物により求めた実験での反発係数の値とは誤差が生じていた。実験結果との差は19.42%〜41.47%であり、実験結果とは大きく異なっていた。
【0068】
以上より、スプリットホプキンソン棒試験機で得られたヤング率と損失係数を代入して有限要素法により解析することで、実際のゴルフボール打撃時の反発係数を正確にシミュレートできることが確認できた。
【0069】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、本発明は、スプリットホプキンソン棒試験機により、実際にゴルフクラブヘッドで、ゴルフボールが打撃されたときと同等のひずみ、ひずみ速度の条件下で、材料物性(ヤング率及び損失係数)を測定しているため、有限要素法解析により、実際の打撃試験を正確にシミュレートすることができ、実際の打撃に近い状態でのゴルフボールの反発特性を予測することができる。これにより、ゴルフボールの設計段階において、実際のボール試作回数を減らし、試作に要する費用と時間を削減することができる。従って、反発性能に関して最適なゴルフボールを短期間に設計することができる。
【0070】
ゴルフボールを構成する材料の材料物性(ヤング率及び損失係数)を用いて、有限要素法によりボールの打撃をシミュレートするだけでよいため、ゴルフボールの構造、各材料の配置位置さえわかれば、様々な種類のゴルフボールの反発特性について、シミュレーションを行うことができ、様々な種類の材料、配置構造について、試作せずに、簡単に設計することができる。
【0071】
さらに、ボールに打撃が加えられているときのボール内部の応力、ひずみの状態を、有限要素法解析により、正確に観察することできるため、反発性能に優れるゴルフボールを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ヤング率及び損失係数が測定されるスプリットホプキンソン棒試験機が示された模式的正面図である。
【図2】 試験片のひずみ時刻歴の状態が示されたグラフである。
【図3】 応力−ひずみ曲線が示されたグラフである。
【図4】 本発明のシミュレーションを行ったゴルフボールの断面図である。
【図5】 アルミニウム製中空棒モデルのゴルフボールへの衝突による反発性能評価シミュレーションを示し、(A)は衝突前、(B)は衝突中、(C)は衝突後の図である。
【図6】 本発明のシミュレーションを行った変形例のゴルフボールの断面図である。
【図7】 (A)(B)は、ゴルフボールのハーフモデルを示す概略図である。
【図8】 ゴルフボールの1/4モデルを示す概略図である。
【符号の説明】
30 ゴルフボール
31 アルミニウム製中空棒モデル

Claims (1)

  1. 入力棒と出力棒の間に、複数層のゴルフボールを構成する各層を形成する材料を挟み、入力棒を打撃棒で打撃するスプリットホプキンソン棒試験機により、実際のゴルフクラブヘッドによるゴルフボール打撃時と同等の最大圧縮ひずみ0.05〜0.50、最大ひずみ速度500/s〜5000/sの条件下で、前記各層を形成する材料のヤング率、損失係数を測定し、
    上記各層を形成する材料からなる層を組み合わせたゴルフボールを、ゴルフボール全体では1000〜100000の要素に分割した有限要素法解析を用い、前記各層を形成する材料のヤング率、損失係数の測定値を用いてゴルフボールの反発特性をシミュレートして、該ゴルフボールの反発特性を予測しているボールの反発特性予測方法。
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