JP4222886B2 - 油剤組成物、炭素繊維前駆体アクリル繊維及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維を耐炎化繊維に転換する耐炎化工程において単繊維間融着が発生することを防止するために用いられる油剤組成物に関し、また、品質および物性の優れた炭素繊維を製造するのに好適で、炭素繊維の製造に際して工程通過性が改善された炭素繊維前駆体アクリル繊維とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル繊維は炭素繊維製造の前駆体として広く利用されている。アクリル繊維を200〜400℃の酸性雰囲気中で加熱処理することにより耐炎化繊維に転換し、引き続いて少なくとも1000℃の不活性雰囲気中で炭素化する方法が炭素繊維の製造方法として一般的である。このようにして得られた炭素繊維は、優れた物性により繊維強化樹脂複合材料の好適な強化繊維として広く利用されている。一方、上記の炭素繊維製造において、アクリル繊維を耐炎化繊維に転換する耐炎化工程においてアクリル単繊維同士の融着が発生し、焼成が不均一となったり、毛羽、糸切れが発生したりといった障害が発生する場合がある。
【0003】
この融着を回避するためには、耐炎化前のアクリル繊維に付与する油剤の選択が重要であることが知られており、多くの油剤が紹介されている。高い耐熱性を有し融着を効果的に抑えることからシリコーン系油剤は上記油剤の中で最もよく使用されている(例えば、特許文献1〜4など)。しかしながら、この油剤は融着回避には優れた性能を発揮するものの、耐炎化、炭素化それぞれの工程で、この油剤の分解物である酸化珪素、窒化珪素が発生し、耐炎化、炭素化の炉内壁や排ガス処理ラインに堆積し操業性の低下をもたらす場合がある。
【0004】
これに対して、シリコーンを配合しない前駆体繊維用油剤は、焼成時に珪素化合物の発生がない点、原料が安価な点などから有利であり、種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献5〜8では、水膨潤状態のアクリロニトリル系繊維に、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物をモノアルキルエステル化し、さらに飽和脂肪族ジカルボン酸を反応させて得られた反応生成物(D)や、二塩基酸とオキシアルキレン単位を有するポリオールの縮合物に脂肪族アルカノールアミドを反応して得られる末端アミド基を有する付加物(E)、ポリアミンと脂肪酸を反応して得られるアミド化合物のアルキレンオキサイド付加物(F)などを含有する油剤組成物を付与することで、焼成工程での単繊維の固着または融着を防止し、高強度のアクリロニトリル系炭素繊維が製造できることが述べられている。
【0006】
しかし、これらの発明に使用されている(D)は、シリコーン系油剤に比べるとアクリロニトリル系前駆体繊維との親和性が低いので、それを補うために(E)、(F)を併用して油剤組成物としている。しかし(E)及び(F)の耐熱性はシリコーン系油剤や(D)に比べ低く、焼成工程でタール化しやすい。タール化した部分は最終的に炭素繊維となった時点で欠陥点となり炭素繊維の性能発現性を阻害するので油剤組成物中の(E)及び(F)の含有比率を下げるか、油剤組成物の前駆体繊維への付与量を炭素繊維の性能発現性に影響しない程度まで低下させなければならない場合がある。その結果乾燥緻密化工程や必要に応じ行う乾燥緻密化後の延伸工程、更にボビンへの巻き取り工程(や容器への収納工程)での集束性が低下し、焼成工程での毛羽の発生やローラーへの巻き付き、糸切れなど、工程通過性に劣る場合があった。このようにして得られた炭素繊維は、樹脂含浸ストランド強度では高い強度が得られても、炭素繊維トウの引っ張り強度に劣る場合があった。
【0007】
【特許文献1】
特公昭52−24136号公報
【特許文献2】
特公平4−29766号公報
【特許文献3】
特公平3−40152号公報
【特許文献4】
特開平5−140821号公報
【特許文献5】
WO97/09474号公報
【特許文献6】
特開平9−78340号公報
【特許文献7】
特開平9−78341号公報
【特許文献8】
特開平11−36135号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、シリコーン系油剤組成物を使用するときに発生することのある操業性低下や、非シリコーン系油剤組成物を使用するときに発生することのある耐熱性低下を防止し、非シリコーン系油剤組成物とアクリロニトリル系前駆体繊維との親和性を向上させることにより、アクリロニトリル系前駆体繊維の品質を向上させ、乾燥緻密化工程や必要に応じ行う乾燥緻密化後の延伸工程、更にボビンへの巻き取り工程(や容器への収納工程)や炭素繊維に転換する際の焼成工程において工程通過性が良く、炭素繊維の工業的な生産性を高めることができる炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維及びその製造方法を提供することにある。またこのような繊維を得るために好適な油剤組成物を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らはある種のエステル化合物に特定の化合物を反応させて得られるエステル化合物を油剤の成分として用いることにより、アクリロニトリル系前駆体繊維との親和性を格段に向上させ、油剤組成物の繊維への付着の均一性が改善することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明により、(a)式(1)で表される化合物(A−1)と式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルアミンもしくは下記式(3)で表されるポリオキシアルキレン脂肪酸アミドとをエステル化反応させて得られる化学構造を有するエステル化合物(B−1);
【0011】
【化9】
【0012】
(式(1)中、R1は炭素数8〜22のアルキル基、R2およびR3はそれぞれ独立して炭化水素基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、nおよびmはそれぞれ独立して1〜20の整数を表す。)
【0013】
【化10】
【0014】
(式(2)中、R4は炭素数6〜22のアルキル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、qおよびrはそれぞれ独立して1〜40の整数を表す。)
【0015】
【化11】
【0016】
(式(3)中、R5は炭素数5〜21のアルキル基、R6及びR7はそれぞれ独立して炭素数2または3のアルキル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、qおよびrはそれぞれ独立して1〜40の整数を表す。)
(b)空気中250℃で2時間加熱後の残渣率が1.0質量%以下のノニオン系界面活性剤;及び
(c)酸化防止剤
を含有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物が提供される。
【0017】
上記油剤組成物において、前記ノニオン系界面活性剤の含有量が10質量%以上39質量%以下であり、前記酸化防止剤の含有量が1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0018】
前記式(1)中のR2が、式(4)、(5)または(6)で表されることが好ましい。
【0019】
【化12】
【0020】
【化13】
【0021】
【化14】
【0022】
前記エステル化合物(B−1)が、式(7)または式(8)で表されることが好ましい。
【0023】
【化15】
【0024】
【化16】
【0025】
(式(7)および(8)中、R1は炭素数8〜22のアルキル基、R3’は炭素数4〜10のアルキル基、R4は炭素数6〜22のアルキル基、R5は炭素数5〜21のアルキル基、二つのR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、nおよびmはそれぞれ独立に1〜20の整数、q’は1〜39の整数、rは1〜40の整数である。)本発明により、上記の油剤組成物が0.1質量%以上2.0質量%以下付与されたことを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維が提供される。
【0026】
本発明により、アクリロニトリル系重合体の溶液を凝固浴中に吐出して繊維化する工程、該繊維化された糸条を洗浄し溶剤を除去し洗浄と同時にまたは別に浴中延伸して水膨潤状態にある繊維を得る工程、該水膨潤状態にある繊維に上記の油剤組成物のエマルション液を付与する工程、および該エマルション液が付与された繊維を乾燥緻密化する工程を有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造方法が提供される。
【0027】
【発明の実施の形態】
まず炭素繊維前駆体アクリル繊維について詳細に説明する。本発明において、油剤付与前の炭素繊維前駆体用のアクリル繊維には公知のアクリル繊維を用いることができる。
【0028】
好ましいアクリル繊維の例として、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維が挙げられる。
【0029】
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主なモノマーとして重合して得られる重合体であり、アクリロニトリルから得られるホモポリマーだけでなく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他のモノマーも用いたアクリロニトリル系共重合体(以下、単に共重合体ともいう。)であってもよい。
【0030】
上記アクリロニトリル系共重合体において、アクリロニトリル単位の含有量は96〜98.5質量%が、焼成工程での繊維の熱融着防止、共重合体の耐熱性、紡糸原液の安定性及び炭素繊維にした時の品質の観点でより好ましい。アクリロニトリル単位が96質量%以上の場合は、炭素繊維に転換する際の焼成工程で繊維の熱融着を招くことなく、炭素繊維の優れた品質および性能を維持できるので好ましい。また、共重合体自体の耐熱性が低くなることもなく、前駆体繊維を紡糸する際、繊維の乾燥あるいは加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸のような工程において、単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位が98.5質量%以下の場合には、溶剤への溶解性が低下することもなく、紡糸原液の安定性を維持できると共に共重合体の析出凝固性が高くならず、前駆体繊維の安定した製造が可能となるので好ましい。
【0031】
上記アクリロニトリル系共重合体において、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体単位は4質量%以下が好ましく、ビニル系単量体としてはアクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができるが、耐炎化反応を促進する作用を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、または、これらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩およびアクリルアミド等の単量体群から選ばれる1種以上の単量体であることが耐炎化を促進する上で好ましい。さらに、上記アクリロニトリル系共重合体中に上記アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としてカルボキシル基含有ビニル系モノマー単位を0.5〜2.0質量%含有することが好ましい。このように選ぶと適切な耐炎化反応時間が得られるとともに断面二重構造が形成されにくく高性能の炭素繊維が得られ易い。カルボキシル基含有ビニル系モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0032】
また前駆体繊維紡糸での延伸性や炭素繊維性能発現性、ボイドの防止及び紡糸安定性確保などの点から、共重合体の重合度は、極限粘度〔η〕として0.8以上3.5以下が好ましい。極限粘度は次のようにして求められる。
【0033】
共重合体の溶液粘度をη、溶媒の粘度をη0とする時、ηrel=η/η0を相対粘度、ηsp=ηrel−1を比粘度として、ηsp/C(Cは溶液の濃度)を濃度0に外挿した時の値が極限粘度〔η〕として算出される。共重合体の溶液粘度は、例えば25℃の0.5g/100mlのジメチルホルムアミド溶液で、オストワルド型粘度計を用いることにより算出することができる。
【0034】
アクリロニトリル単位と、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体とを共重合する方法には、溶液重合、スラリー重合等公知の重合法の何れでも用いることができるが、未反応モノマーや重合触媒残査、その他の不純物が最終的に炭素繊維となった時に欠陥点となり、炭素繊維の性能、特に引張強度を低下させることがあるためにこれらを極力除くことが好ましい。
【0035】
紡糸の際には、アクリロニトリル系重合体、例えば前述のアクリロニトリル系共重合体を、溶剤に溶解し共重合体の溶液とする。このときの溶剤は、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミド等の有機溶剤や塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液等の公知のものから適宜選択して使用することができるが、生産性向上の観点から凝固速度が早いジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0036】
またこの際、(共)重合体溶液中にゲル成分が発生することによるノズル孔の詰まりを防止するために、溶液中の(共)重合体の濃度を10〜30質量%に調整するのが好ましい。
【0037】
紡糸方法は、前記(共)重合体の溶液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維を得るには湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
【0038】
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、上記(共)重合体溶液を円形断面を有するノズル孔より凝固浴中に紡出することで行うことができる。凝固浴としては、上記(共)重合体溶液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
【0039】
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維が得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる観点から、50〜85質量%が好ましく60〜80質量%がより好ましい。同様の観点から、凝固浴の温度は0〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。
【0040】
(共)重合体を溶剤に溶解し溶液として凝固浴中に吐出して繊維化した後に、凝固糸を凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。あるいは、一部空中延伸した後に、浴中延伸してもよく、延伸の前後あるいは延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態にある繊維を得ることができる。浴中延伸は通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が2〜6倍に延伸するのが得られる炭素繊維の性能の点から好ましい。前記水洗工程では、繊維トウの走行方向の下流側から上流側に向けて洗浄液を流してトウから溶媒を除去する、いわゆるカスケードを使って洗浄を行う方法や高圧液体を噴射して高速液流を貫通させるなど公知の方法を適宜採用できる。高品質の炭素繊維前駆体アクリル繊維を製造するには、繊維に含まれる無機・有機を問わず溶剤を極力除去することが好ましい。残存溶剤が炭素繊維に転換する際に欠陥点となることを防止する観点から、洗浄は前駆体繊維中の残存溶剤濃度が0.1質量%以下となるまで行うのが好ましく、0.05質量%以下まで行うのが更に好ましい。前駆体繊維中の残存溶剤濃度は次のようにして求めることができる。
【0041】
前駆体繊維を7g精秤し、200gの沸水により30分間抽出した後の検液中の濃度を液体クロマトグラフィーにより算出する。
【0042】
油剤組成物のアクリル繊維への付与は、前述の浴中延伸の後の水膨潤状態にある繊維に油剤組成物のエマルション液を付与することにより行うことができる。浴中延伸の後に洗浄を行う場合は、浴中延伸および洗浄を行った後に得られる水膨潤状態にある繊維に油剤組成物のエマルション液を付与する。このエマルション液については後に詳述する。
【0043】
水膨潤状態のアクリル繊維はポーラスな構造を有するため、水に分散された油剤組成物は繊維内部に浸透する。繊維内部への浸透の程度は、油剤組成物の水可溶性の程度や分散粒子の大きさ等にも依存するが、主としてポーラスの度合いに依存する。ポーラス構造の度合いは、水膨潤度を測定することによって判定することができる。水膨潤度の測定は、水膨潤繊維を遠心脱水機にて脱水し、表面あるいは繊維間に付着した水を取り除いた後の湿潤状態の質量と、これをさらに絶乾した後の繊維質量の差から繊維内部に浸透していた水量を求めることで行うことができる。炭素繊維の強度は油剤組成物の付着量だけではなく、油剤組成物を付着させるときのポーラス度、即ち油剤組成物を付着させる前の湿潤状態の水膨潤度によって大きく影響を受けることが知られている。水膨潤度の低い糸条は密な構造となっているために、繊維内部に油剤組成物が浸透し難く、炭素繊維前駆体アクリル繊維が炭素繊維に転換される際に欠陥点を作る原因を減少させると考えられるため好ましい。
【0044】
次に、油剤付与を行った繊維は加熱ローラーなどによって乾燥緻密化を行う。乾燥温度、時間は適宜選択することができるが、120℃〜190℃の加熱ローラーにより乾燥緻密化することが好ましい。
【0045】
得られる炭素繊維の性能の観点及び生産性の観点、すなわち高倍率の延伸が可能であること、より最終紡速を高くすることができること、得られる繊維の緻密性や配向度向上にも寄与することから、上記乾燥緻密化により得られた繊維を乾熱延伸またはスチーム延伸しても良い。乾熱延伸は2本の熱ロール間で行っても良いし、更にその熱ロール間に設置したホットプレートに繊維を接触させて行っても良い。スチーム延伸では加圧水蒸気延伸法により行うことが好ましい。加圧水蒸気延伸法は、加圧水蒸気雰囲気中で延伸を行う方法である。
【0046】
次に上述の炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維に付与する油剤組成物について説明する。
【0047】
本発明の油剤組成物の主成分は、特定のエステル化合物(A−1)と特定の窒素含有化合物のエステル化合物(B−1)である。このような窒素官能基を有するエステル化合物(B−1)は、アクリル繊維との親和性に優れ、比較的均一かつ強固に繊維表面に付着させることが可能である。また、窒素系の官能基は、炭素繊維製造の耐炎化工程のように、空気中で加熱処理をすると、結合の切断と再結合が生じ、複数の窒素原子を含む、環状構造のネットワークを形成する。このネットワークは、熱的に安定であり、耐炎化工程でのシリコーン系化合物に類似の役割を担うことが可能となる。したがって、従来のシリコーン系油剤と同等の融着防止性能を発現し、シリコーン油剤の代替が可能である。
【0048】
エステル化合物(A−1)は、下記式(1)で表せるものである。
【0049】
【化17】
【0050】
ここで、式中R1は、炭素数8から22のアルキル基、R2およびR3はそれぞれ独立して炭化水素基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基であり、また、nおよびmはそれぞれ独立して1〜20の整数である。
【0051】
R2は炭化水素基であれば良い。たとえば、複素環を含めた芳香族環を有する基、脂環を含む基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基などがあり、好ましくは、芳香族環(芳香族複素環であってもよい)を有する基が良い。たとえば飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基であれば、繊維表面の平滑性の向上の観点から、炭素数6〜22の範囲が好ましく用いられる。更に好ましいのは炭素数12〜18が特に好ましい。
【0052】
さらに特に好ましいR2は、式(4)で示される化合物、式(5)で示される化合物および式(6)で示される化合物からなる群より選ばれたものである。
【0053】
【化18】
【0054】
【化19】
【0055】
【化20】
【0056】
これは、耐熱性に優れた構造であることから耐炎化工程での容易な飛散がなく、また、骨格の剛直性を有することから強固な皮膜を形成するなどの点から、本来の繊維保護といった油剤の役割を果たすことができるからである。
【0057】
同様に、R3も炭化水素基であれば良い。たとえば、芳香族環(芳香族複素環であってもよい)を有する基、脂環を含む基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基などがある。たとえば飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基であれば、繊維表面の平滑性の向上の観点から、炭素数6〜22の範囲が好ましく用いられる。更に好ましいのは炭素数12〜18が特に好ましい。
【0058】
nおよびmは1〜20の整数であればよいが、いずれも、好ましくは1から10の整数であり、より好ましくは1から6の整数である。nまたはmが20を越える場合は、耐熱性と分子としての剛直性が低下し、耐炎化工程の飛散が顕著化する。
【0059】
エステル化合物(B−1)は、上記化合物(A−1)と、式(2)で表せるポリオキシアルキレンアルキルアミンまたは式(3)で表せるポリオキシアルキレン脂肪酸アミドとをエステル化反応させることにより得ることができる。
【0060】
【化21】
【0061】
(式(2)中、R4は炭素数6〜22のアルキル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、qおよびrはそれぞれ独立して1〜40の整数を表す。)
【0062】
【化22】
【0063】
(式(3)中、R5は炭素数5〜21のアルキル基、R6及びR7はそれぞれ独立して炭素数2または3のアルキル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、qおよびrはそれぞれ独立して1〜40の整数を表す。)
ここで、R4は、エステル化反応の容易さと入手の容易さから炭素数6から22の炭化水素基が好ましく用いられ、飽和脂肪族や不飽和基を有するものでもよく、より好ましくはアルキル基が好ましく、炭化水素基は直鎖状でも分岐型でもよい。
【0064】
また、R5は、エステル化反応の容易さと入手の容易さから炭素数5から21の炭化水素基が好ましく用いられ、飽和脂肪族や不飽和基を有するものでもよく、より好ましくはアルキル基が好ましく、炭化水素基は直鎖状でも分岐型でもよい。
【0065】
AOの付加数量であるqおよびrは、1〜40の整数であるのが好ましく用いられる。qおよびrを40以下とすることにより、得られるエステル化合物の分子の長さが長くなることを防ぎ、アクリル繊維との親和性を発現する窒素官能基の効果を確保し、化合物の耐熱性を良好にすることができる。より好ましいqおよびrは、1〜20、さらに好ましくは1〜10である。
【0066】
炭素繊維の性能発現性の観点から、さらに好ましいエステル化合物(B−1)は、下記式(7)または式(8)で表されるものである。
【0067】
【化23】
【0068】
【化24】
【0069】
(式(7)および(8)中、R1は炭素数8〜22のアルキル基、R3’は炭素数4〜10のアルキル基、R4は炭素数6〜22のアルキル基、R5は炭素数5〜21のアルキル基、二つのR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基、AOはエチレンオキシド残基またはプロピレンオキシド残基、nおよびmはそれぞれ独立に1〜20の整数、q’は1〜39の整数、rは1〜40の整数である。)エステル化合物(B−1)は、一種でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
次に乳化のために用いる界面活性剤(b)は、高品質の炭素繊維を製造するには、炭素繊維前駆体アクリル繊維が炭素繊維に転換される際に欠陥点となるため極力残存しないことが好ましい。炭素繊維の性能発現の観点から、空気中250℃で2時間加熱後の残渣率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、分解する時に発熱を伴う金属を含まないノニオン系界面活性剤が更に好ましい。空気中250℃で2時間加熱後の残渣率は次のようにして求めることができる。
【0071】
アルミシャーレ(直径60mm、深さ10mm)にノニオン系界面活性剤2.0gを精秤し、空気中250℃で2時間加熱した後の残分について残渣率を算出した。加熱残渣率が大きいほど、ノニオン系界面活性剤の熱劣化物が耐炎化糸や炭素化糸に残存する可能性が大きい事を意味する。
【0072】
ノニオン系界面活性剤は水中でイオン解離しない水酸基−OHやエーテル結合−O−などを親水基としてもっている界面活性剤とことであり、ノニオン系界面活性剤の好適な例としてはポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加物、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンのブロックあるいはランダム共重合体、アルキル置換フェノールのアルキレンオキシド付加物などが挙げられ、疎水部のアルキル鎖は直鎖状でも分岐していてもよい。ノニオン系界面活性剤は一種でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0073】
油剤組成物中、ノニオン系界面活性剤は、10質量%以上39質量%以下が好ましい。10質量%以上であることにより、油剤組成物の乳化の安定性に優れ、一方、39質量%以下であることにより、油剤としての繊維束を集束する能力に優れる。より好ましい存在量は、15質量%以上30質量%以下である。
【0074】
また、本発明で用いる酸化防止剤(c)は、本発明の油剤組成物の熱酸化性の劣化を抑制する為に使用するものであり、本発明で用いる酸化防止剤(c)としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジトリデシルホスファイト)などが好ましく用いられ、これらは単独でも二種以上組み合わせて用いても良い。
【0075】
油剤組成物中の酸化防止剤の添加量は、1質量%以上3質量%以下が好適である。酸化防止剤の添加量が、1質量%以上であると、油剤付着後のアクリル繊維の乾燥工程で、油剤の酸化劣化が優れて防止され、安定にアクリル繊維を製造することができる。一方、3質量%以下であると、得られる炭素繊維の強度に優れる。より好ましい添加量は、1.2質量%以上2.4質量%以下である。
【0076】
油剤付与は、前記油剤組成物を繊維質量当たり0.1質量%以上2.0質量%以下となるように付着することが好ましい。油剤組成物の繊維質量当たりの付着量が、0.1質量%以上であると、乾燥緻密化工程や必要に応じ行う乾燥緻密化後の延伸工程、更にボビンへの巻き取り工程(や容器への収納工程)での集束性に優れる。一方、2.0質量%以下であると、炭素繊維の性能が優れる。更に油剤組成物の斑付きによる炭素繊維の性能の変動を抑制する観点から付着量の下限値は0.4質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。繊維への油剤組成物の付着量はソックスレー抽出器でメチルエチルケトンを溶媒として1時間抽出した油剤の量を繊維の単位重量で除して算出する。
【0077】
油剤組成物の繊維への好ましい付着状態は、繊維表層部に均一に付着していることが好ましい。
【0078】
油剤成分が繊維表層部にあれば、炭素繊維前駆体アクリル繊維が炭素繊維に転換される際に繊維内部に浸透した油剤組成物が分解する時に表層部にミクロボイドを形成させ欠陥点となることを優れて抑制できるので好ましい。また繊維表層部に付着できれば、繊維奥深く浸透する油剤組成物は繊維に対して離型性、平滑性に寄与しないため、その分過剰に油剤組成物を付着させずに済むために好ましい。
【0079】
更に油剤組成物が均一に付着していると、油剤組成物の付着量が少ない部分の耐熱性が低下し融着が発生すること、および、油剤組成物の付着量が多い部分で油剤組成物そのものが膠着することを優れて抑制できるので好ましい。
【0080】
油剤組成物のエマルション液として、エステル化合物(B−1)とノニオン系界面活性剤と酸化防止剤を混合し水に分散させて好ましくは乳化粒径0.05〜0.9μmの油剤乳化物を得ることができる。このとき、乳化する際の水の量に特に制限はない。乳化粒径が0.05μm以上の場合、水膨潤状態にある糸条の内部まで多量の油剤組成物が浸透することを優れて抑制でき、また油剤組成物の付着量を増やすことなく耐熱性や単繊維間の平滑性および離型性を優れて発揮させることができるので好ましい。乳化粒径が0.9μm以下の場合、優れた乳化安定性が得られるため好ましい。より好ましくは0.5μm以下である。乳化粒径は、乳化の方法や、界面活性剤の種類および界面活性剤の使用量などを変えることにより調節される。
【0081】
前記油剤組成物中のエステル化合物(B−1)とノニオン系界面活性剤との混合比は、質量比90:10〜60:40の範囲とすることが好ましい。エステル化合物(B−1)とノニオン系界面活性剤との合計量に対し、ノニオン系界面活性剤の比率が10質量%以上であればエマルションの安定性が優れ繊維への均一付着性に優れる傾向があり、また、40質量%以下であれば炭素繊維の性能に優れる傾向がある。
【0082】
発明の油剤組成物の調製方法としては、公知の各種油剤調製法が適用でき、前記油剤組成物中のエステル化合物(B−1)、及び酸化防止剤を混合し、この混合物をノニオン系界面活性剤が混合した水に分散することができる。
【0083】
また、前記油剤組成物中のエステル化合物(B−1)、酸化防止剤、更にノニオン系界面活性剤を混合し、これを水中に分散することもできる。
【0084】
例えば前記油剤組成物中のエステル化合物(B−1)に攪拌しながら酸化防止剤を必要に応じて加熱しつつ添加し、この混合物に乳化剤(ノニオン系界面活性剤)を水中に分散させる事で油剤組成物の水系エマルションが得られる。各成分の混合または水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。また、前記油剤組成物中のエステル化合物(B−1)と酸化防止剤を別々に乳化して、繊維付着前に混合することも可能である。
【0085】
油剤組成物のエマルション液を水膨潤状態の糸条に付与させるには、糸条に含まれている水と油剤組成物のエマルション液を速やかにかつ均一に置換させることが好ましい。これは本発明のように油剤組成物の特性を変えたり、後述の油剤付着処理方法を変えたり、糸条の水膨潤状態の程度を変えたり、これらを組み合わせても良い。
【0086】
油剤付着処理の方法としては、公知の技術として、浸漬法、キスローラー法、ガイド給油法、油剤浴中の駆動・非駆動ローラーによる方法、又は固定・非固定ガイドバーへ走行する繊維を掛けて付与する方法、上方へ吹き出した油剤中に繊維を走行させて付与する方法、走行する耐炎化繊維に上方から油剤を滴下させて付与する方法、油剤液を噴霧した空間に繊維を走行させて付与する方法など、多様な付与方法が適用でき、これらの方法から1種あるいは複数組み合わせて選択することができる。
【0087】
油剤組成物の付着均一性及び炭素繊維の性能発現の観点で、エステル化合物(B−1)を60〜80質量%、空気中250℃で2時間加熱後の残渣率が1.0質量%以下のノニオン系界面活性剤を10〜39質量%、及び酸化防止剤1〜3質量%からなる油剤組成物を炭素繊維前駆体アクリル繊維に0.1〜2.0質量%付与することが好ましい。
【0088】
更に本発明では、乾燥緻密化工程や必要に応じ行う乾燥緻密化後の延伸工程、更にボビンへの巻き取り工程(や容器への収納工程)における静電気の発生を抑制する観点から、帯電防止剤を炭素繊維の性能発現を阻害しない範囲で加えても良い。帯電防止剤としては、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、高級アルコールエチレンオキシド付加物ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好ましく用いられ、これらは単独でも組み合わせでも良い。
【0089】
【実施例】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、融着数、耐炎化炭素化工程通過性、シリカ飛散およびストランド強度、トウ強度を以下の方法により評価した。
【0090】
(融着数)
炭素繊維を3mm長に切断し、アセトン中に分散し、マグネティックスターラーを用い10分間撹拌した後の全単繊維数と融着数を計数し、繊維100本当たりの融着数を算出した。
◎:融着数(個/100本)<0.1、
△:0.1≦融着数(個/100本)<1、
×:1≦融着数(個/100本)<10、
××:10≦融着数(個/100本)。
【0091】
(耐炎化炭素化工程通過性)
耐炎化工程および炭素化工程でのガイド、ローラーへの巻き付き、トウの広がりの有無により、次の基準に従って評価した。
◎:トウの広がりなし、巻き付きなし、
△:トウの広がりあり、巻き付きなし、
×:トウの広がりあり、巻き付きあり。
【0092】
(シリコーン系油剤分解物飛散量(シリカ飛散))
炭素繊維を1週間連続して製造した時の耐炎化炉の掃除頻度により、耐炎化炉内のシリコーン系油剤分解物量を表した。掃除は、耐炎化炉のエアー循環ラインのシリカ捕捉用フィルターが詰まって、循環ポンプの圧損が大きくなった段階で焼成を中断して行った。シリカ飛散の評価基準は下記の通りである。
○:掃除回数(回/1週間)≦1、
×:掃除回数(回/1週間)>1。
【0093】
(ストランド強度)
JIS R−7601に準拠してエポキシ樹脂含浸ストランドの引張物性を6点測定し、平均値で示した。
【0094】
(炭素繊維のトウ強度)
炭素繊維トウを試長10cm、引っ張り速度2mm/minで引っ張り破断させて、トウの繊度(dtex:トウ10000mあたりの質量)から、cN/dtexにて示した。
【0095】
(油剤組成物のエマルション液調製例)
p−トルエンスルホン酸触媒下にて190℃常圧下で、アジピン酸(1モル)中に、ポリオキシエチレン(2モル)付加ビスフェノールAモノラウレート(2.9モル)を添加して更にラウリン酸(3.4モル)を添加して、エステル化合物(A−1)を得た。引き続き、ポリオキシエチレン(10モル)付加ステアリルアミノエーテル(0.3モル)を添加して、エステル化合物(B−1)を得た。この化合物65質量%、乳化剤(ノニオン系界面活性剤)としてラウリルアルコールエチレンオキシド18モル付加物を32.6質量%、及び酸化防止剤としてチバ(Ciba)社製イルガノックス(Irganox)1010(商品名)(ペンタエリスリチル‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)を2.4質量%混合して油剤組成物(1000g)を得た。この油剤組成物にイオン交換水(4000g)を加え、二次乳化を行い乳化粒径0.15μmのエマルション液を得た。
【0096】
【化25】
【0097】
【化26】
【0098】
(実施例1)
アクリロニトリル単位97.1質量%、アクリルアミド単位2.0質量%、メタクリル酸単位0.9質量%からなり、極限粘度〔η〕が1.7の共重合体を、共重合体濃度21質量%となるようにジメチルアセトアミドに溶解して共重合体の溶液とした。この溶液を、12000ホールのノズルを用いて濃度70質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して湿式紡糸した。
【0099】
上記紡糸により得られた凝固繊維について、空中にて1.5倍の延伸を施したのち、98℃の熱水中で3.18倍に浴中延伸しながら洗浄・脱溶剤し、水膨潤状態のアクリル繊維とした。
【0100】
この水膨潤状態にあるアクリル繊維を、上記調製例で得られたエマルション液を満たした槽に導き、エマルションを付与した後、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化し、294kPa・G(Gはゲージ圧であることを示す)の加圧水蒸気中にて2.79倍延伸を施し前駆体アクリル繊維を得た。この前駆体アクリル繊維は、単糸繊度1.2dtex、引張強度7.9cN/dtex、伸度10.5%で油剤組成物の繊維への付与量は0.54質量%であった。
【0101】
紡糸工程中、単繊維切れ・毛羽の発生はほとんど認められず、紡糸安定性は良好であった。
【0102】
この前駆体アクリル繊維を230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉に60分かけて通し、さらに窒素雰囲気で300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維とした。これら工程中の工程通過性、得られた炭素繊維のストランド強度、トウ強度、融着数、耐炎化炭素化工程通過性、およびシリカ飛散を表1に示した。
【0103】
(実施例2)
水膨潤状態のアクリル繊維への油剤付与量を0.57質量%にすること以外は実施例1と同様に操作し炭素繊維とした。諸物性を表1に示した。
【0104】
(比較例1)
水膨潤状態のアクリル繊維への油剤付与量を2.18質量%にすること以外は実施例1と同様に操作し炭素繊維とした。諸物性を表1に示した。
【0105】
(比較例2)
水膨潤状態のアクリル繊維へ式(9)で表せるシリコーン系化合物(式中t=60、s=1)を91質量%、ノニオン系乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキサイド5モル付加)9質量%を水に分散しエマルション液としたものを付与し、油剤付与量を0.85質量%にすること以外は実施例1と同様に操作し炭素繊維とした。諸物性を表1に示した。
【0106】
【化27】
【0107】
【表1】
【0108】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、耐炎化工程、炭素化工程で前駆体アクリル繊維あるいは耐炎化繊維の融着を効果的に抑えることができ、工程通過性に優れ、かつ、シリコーン系油剤を使用する場合に発生することのある操業性の低下が発生しない炭素繊維前駆体アクリル繊維とその製造方法が得られる。またこのようなアクリル繊維を得るために好適に用いることのできる油剤組成物が得られる。
Claims (6)
- (a)式(1)で表される化合物(A−1)と式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルアミンもしくは下記式(3)で表されるポリオキシアルキレン脂肪酸アミドとをエステル化反応させて得られる化学構造を有するエステル化合物(B−1);
(b)空気中250℃で2時間加熱後の残渣率が1.0質量%以下のノニオン系界面活性剤;及び
(c)酸化防止剤
を含有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤組成物。 - 前記ノニオン系界面活性剤の含有量が10質量%以上39質量%以下であり、前記酸化防止剤の含有量が1質量%以上3質量%以下である請求項1記載の油剤組成物。
- 請求項1〜4の何れか一項記載の油剤組成物が0.1質量%以上2.0質量%以下付与されたことを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維。
- アクリロニトリル系重合体の溶液を凝固浴中に吐出して繊維化する工程、該繊維化された糸条を水洗し溶剤を除去し水洗と同時にまたは別に浴中延伸して水膨潤状態にある繊維を得る工程、該水膨潤状態にある繊維に請求項1〜4の何れか一項記載の油剤組成物のエマルション液を付与する工程、および該エマルション液が付与された繊維を乾燥緻密化する工程を有することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリル繊維の製造方法。
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