JP4221013B2 - 内燃機関の点火時期制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関し、特に、内燃機関の振動の波形および振動の強度に基づいてノッキングの有無を判定するとともに、判定結果に応じて点火時期を遅角する技術に関する。
従来より、内燃機関において発生するノッキング(ノック)を検出する様々な方法が提案されている。たとえば、内燃機関の振動の強度がしきい値よりも高いとノッキングが発生したと判定する技術がある。ところが、ノッキングが発生していなくても、たとえば吸気バルブや排気バルブが閉じる際に発生する振動などのノイズの強度がしきい値よりも高い場合がある。この場合、ノッキングが発生していないにもかかわらず、ノッキングが発生したと誤判定し得る。そこで、振動が発生するクランク角や減衰率など、強度以外の特性も考慮するために振動の波形に基づいてノッキングの有無を判定する技術が提案されている。
特開2005−330954号公報(特許文献1)は、振動の波形を用いることによりノッキングが発生したか否かを精度よく判定する内燃機関のノッキング判定装置を開示する。特許文献1に記載のノッキング判定装置は、内燃機関のクランク角を検出するためのクランク角検出部と、内燃機関の振動の強度に関する値を検出するための振動検出部と、振動の強度に関する値に基づいて、予め定められたクランク角の間における内燃機関の振動の波形を検出するための波形検出部と、内燃機関の振動の波形を予め記憶するための記憶部と、検出された波形と記憶された波形とを比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定部とを含む。判定部は、検出された波形および記憶された波形の偏差を表わす値と振動の強度を表わす値との積であるノック強度が判定値よりも大きいか否かによりノッキングが発生したか否かを判別する。
この公報に記載のノッキング判定装置によれば、クランク角検出部が、内燃機関のクランク角を検出し、振動検出部が振動の強度に関する値を検出し、波形検出部が、振動の強度(大きさ)に関する値に基づいて、予め定められたクランク角の間における内燃機関の振動の波形を検出する。記憶部が、内燃機関の振動の波形を予め記憶し、判定部が、検出された波形と記憶された波形とを比較した結果に基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定する。これにより、たとえば実験などにより、ノッキングが発生した場合の振動の波形であるノック波形モデルを予め作成して記憶しておき、このノック波形モデルと検出された波形とを比較して、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。そのため、エンジンの振動がノッキングに起因した振動であるか否かをより詳細に分析することができる。さらに、振動の波形に加えて、振動の強度に基づいてノッキングが発生したか否かが判定される。その結果、精度よくノッキングが発生したか否かを判定することができる。
特開2005−330954号公報
しかしながら、特開2005−330954号公報に記載のノッキング判定装置においては、波形の偏差を表わす値と振動の強度を表わす値との積を用いているため、波形が異なっていても、強度が非常に高いと、ノッキングでないにもかかわらずノッキングであると誤判定し得る。この場合、ノッキング時に行なう点火時期の遅角が必要以上に行なわれてしまうという問題点があった。
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる内燃機関の点火時期制御装置を提供することである。
第1の発明に係る内燃機関の点火時期制御装置は、内燃機関のクランク角を検出するための第1の検出手段と、クランク角についての予め定められた範囲における内燃機関の振動の波形を検出するための第2の検出手段と、検出された波形が内燃機関の振動の波形の基準として定められた波形モデルに類似する度合を表わす第1の値を算出するための第1の算出手段と、内燃機関で発生する振動の強度を表わす第2の値を算出するための第2の算出手段と、第1の値が第1の条件を満たす場合および第2の値が第2の条件を満たす場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定するように、第1の値および第2の値の組み合わせに基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段と、内燃機関にノッキングが発生したと判定された場合、第1の値および第2の値の組み合わせに応じた量だけ点火時期を遅角するように、内燃機関を制御するための制御手段とを含む。
第1の発明によると、第1の検出手段により、内燃機関のクランク角が検出される。第2の検出手段により、クランク角についての予め定められた範囲における内燃機関の振動の波形が検出される。この波形と波形モデルとの類似度合を表わす第1の値が算出される。さらに、内燃機関で発生する振動の強度を表わす第2の値が算出される。これらの第1の値および第2の値の組み合わせに基づいて、内燃機関にノッキングが発生したか否かが判定される。ところで、内燃機関の振動の波形が波形モデルと類似していなくても、振動の強度がノッキング時の強度と同等になる場合がある。また、振動の強度が低くても、内燃機関の振動の波形が波形モデルと類似する場合がある。これらの場合、いずれも、ノッキングが発生していないといえる。したがって、第1の値が第1の条件を満たす場合および第2の値が第2の条件を満たす場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定される。たとえば、第1の値が第1のしきい値よりも小さいという条件を満たす場合および第2の値が第2のしきい値よりも小さいという条件を満たす場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定される。これにより、ノッキングが発生していないにもかかわらずノッキングが発生したと誤判定することを少なくすることができる。そのため、ノッキング時に行なうべき点火時期の遅角を、誤って行なうことを抑制することができる。その結果、点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる。また、ノッキングが発生したと判定された場合には、第1の値および第2の値の組み合わせに応じた量だけ点火時期を遅角するように、内燃機関が制御される。たとえば、第1の値が小さいほどより小さく点火時期が遅角されたり、第2の値が小さいほどより小さく点火時期が遅角されたりする。これにより、ノッキング時における点火時期の遅角量を細かく設定することができる。そのため。点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる内燃機関の点火時期制御装置を提供することができる。
第2の発明に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、第1の構成に加え、算出手段は、予め定められた範囲における振動の強度の最大値を、内燃機関の振動の強度の基準として定められた値で除算することにより、第2の値を算出するための手段を含む。
第2の発明によると、予め定められた範囲における振動の強度の最大値が、内燃機関の振動の強度の基準として定められた値で除算されて、第2の値が算出される。これにより、ノッキングが発生した場合とそうでない場合とで大きく異なり得る強度の最大値を用いて、ノッキングが発生したか否かを判定することができる。そのため、ノッキングが発生したか否かを精度よく判定することができる。
第3の発明に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、第1または2の構成に加え、第1の条件は、第1の値が第1のしきい値よりも小さいという条件である。第2の条件は、第2の値が第2のしきい値よりも小さいという条件である。
第3の発明によると、第1の値が第1のしきい値よりも小さいという条件を満たす場合および第2の値が第2のしきい値よりも小さいという条件を満たす場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定される。すなわち、検出された波形が波形モデルに類似していないといえる場合および振動の強度が小さいといえる場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定される。これにより、ノッキングが発生していないにもかかわらずノッキングが発生したと誤判定することを少なくすることができる。
第4の発明に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、第1〜3のいずれかの構成に加え、制御手段は、第1の値が小さいほど、より小さく点火時期を遅角するように、内燃機関を制御するための手段を含む。
第4の発明によると、第1の値が小さいほどより小さく点火時期が遅角される。すなわち、検出された波形が波形モデルに類似する度合が小さいほどより小さく点火時期が遅角される。これにより、ノッキング時における点火時期の遅角量を細かく設定することができる。そのため。点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる。
第5の発明に係る内燃機関の点火時期制御装置においては、第1〜3のいずれかの構成に加え、制御手段は、第2の値が小さいほど、より小さく点火時期を遅角するように、内燃機関を制御するための手段を含む。
第5の発明によると、第2の値が小さいほどより小さく点火時期が遅角される。すなわち、振動の強度が小さいほどより小さく点火時期が遅角される。これにより、ノッキング時における点火時期の遅角量を細かく設定することができる。そのため。点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る点火時期制御装置を搭載した車両のエンジン100について説明する。このエンジン100には複数の気筒が設けられる。本実施の形態に係る点火時期制御装置は、たとえばエンジンECU(Electronic Control Unit)200が実行するプログラムにより実現される。
エンジン100は、エアクリーナ102から吸入された空気とインジェクタ104から噴射される燃料との混合気を、燃焼室内で点火プラグ106により点火して燃焼させる内燃機関である。点火時期は、出力トルクが最大になるMBT(Minimum advance for Best Torque)になるように制御されるが、ノッキングが発生した場合など、エンジン100の運転状態に応じて遅角されたり、進角されたりする。
混合気が燃焼すると、燃焼圧によりピストン108が押し下げられ、クランクシャフト110が回転する。燃焼後の混合気(排気ガス)は、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。エンジン100に吸入される空気の量は、スロットルバルブ114により調整される。
エンジン100は、エンジンECU200により制御される。エンジンECU200には、ノックセンサ300と、水温センサ302と、タイミングロータ304に対向して設けられたクランクポジションセンサ306と、スロットル開度センサ308と、車速センサ310と、イグニッションスイッチ312と、エアフローメータ314とが接続されている。
ノックセンサ300は、エンジン100のシリンダブロックに設けられる。ノックセンサ300は、圧電素子により構成されている。ノックセンサ300は、エンジン100の振動により電圧を発生する。電圧の大きさは、振動の大きさと対応した大きさとなる。ノックセンサ300は、電圧を表わす信号をエンジンECU200に送信する。水温センサ302は、エンジン100のウォータージャケット内の冷却水の温度を検出し、検出結果を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。
タイミングロータ304は、クランクシャフト110に設けられており、クランクシャフト110と共に回転する。タイミングロータ304の外周には、予め定められた間隔で複数の突起が設けられている。クランクポジションセンサ306は、タイミングロータ304の突起に対向して設けられている。タイミングロータ304が回転すると、タイミングロータ304の突起と、クランクポジションセンサ306とのエアギャップが変化するため、クランクポジションセンサ306のコイル部を通過する磁束が増減し、コイル部に起電力が発生する。クランクポジションセンサ306は、起電力を表わす信号を、エンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、クランク角およびクランクシャフト110の回転数を検出する。
スロットル開度センサ308は、スロットル開度を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。車速センサ310は、車輪(図示せず)の回転数を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。エンジンECU200は、車輪の回転数から、車速を算出する。イグニッションスイッチ312は、エンジン100を始動させる際に、運転者によりオン操作される。エアフローメータ314は、エンジン100に吸入される空気量を検出し、検出結果を表わす信号をエンジンECU200に送信する。
エンジンECU200は、電源である補機バッテリ320から供給された電力により作動する。エンジンECU200は、各センサおよびイグニッションスイッチ312から送信された信号、ROM(Read Only Memory)202やSRAM(Static Random Access Memory)204に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を行ない、エンジン100が所望の運転状態となるように、機器類を制御する。
本実施の形態において、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号およびクランク角に基づいて、予め定められたノック検出ゲート(予め定められた第1クランク角から予め定められた第2クランク角までの区間)におけるエンジン100の振動の波形(以下、振動波形と記載する)を検出し、検出された振動波形に基づいて、エンジン100にノッキングが発生したか否かを判定する。本実施の形態におけるノック検出ゲートは、燃焼行程において上死点(0度)から90度までである。なお、ノック検出ゲートはこれに限らない。
ノッキングが発生した場合、エンジン100には、図2において実線で示す周波数付近の周波数の振動が発生する。ノッキングに起因して発生する振動の周波数は一定ではなく、所定の帯域幅を有する。そのため、本実施の形態においては、図2に示すように、第1の周波数帯A、第2の周波数帯Bおよび第3の周波数帯Cに含まれる振動を検出する。なお、図2におけるCAは、クランク角(Crank Angle)を示す。なお、ノッキングに起因して発生する振動の周波数帯は3つに限られない。
図3を参照して、エンジンECU200についてさらに説明する。エンジンECU200は、A/D(アナログ/デジタル)変換部400と、バンドパスフィルタ(1)410と、バンドパスフィルタ(2)420と、バンドパスフィルタ(3)430と、積算部450とを含む。
A/D変換部400は、ノックセンサ300から送信されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。バンドパスフィルタ(1)410は、ノックセンサ300から送信された信号のうち、第1の周波数帯Aの信号のみを通過させる。すなわち、バンドパスフィルタ(1)410により、ノックセンサ300が検出した振動から、第1の周波数帯Aの振動のみが抽出される。
バンドパスフィルタ(2)420は、ノックセンサ300から送信された信号のうち、第2の周波数帯Bの信号のみを通過させる。すなわち、バンドパスフィルタ(2)420により、ノックセンサ300が検出した振動から、第2の周波数帯Bの振動のみが抽出される。
バンドパスフィルタ(3)430は、ノックセンサ300から送信された信号のうち、第3の周波数帯Cの信号のみを通過させる。すなわち、バンドパスフィルタ(3)430により、ノックセンサ300が検出した振動から、第3の周波数帯Cの振動のみが抽出される。
積算部450は、バンドパスフィルタ(1)410〜バンドパスフィルタ(3)430により選別された信号、すなわち振動の強度を、クランク角度で5度分づつ積算する。以下、積算された値を積算値と表わす。積算値の算出は、周波数帯ごとに行なわれる。この積算値の算出により、各周波数帯における振動波形が検出される。
さらに、算出された第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの積算値は、クランク角度に対応して加算される。すなわち、第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの振動波形が合成される。
これにより、図4に示すように、エンジン100の振動波形が検出される。すなわち、第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの合成波形が、エンジン100の振動波形として用いられる。
検出された振動波形は、図5に示すようにエンジンECU200のROM202に記憶されたノック波形モデルと比較される。ノック波形モデルは、エンジン100にノッキングが発生した場合の振動波形のモデルとして予め作成される。
ノック波形モデルにおいて、振動の強度は0〜1の無次元数として表され、振動の強度はクランク角と一義的には対応していない。すなわち、本実施の形態のノック波形モデルにおいては、振動の強度のピーク値以降、クランク角が大きくなるにつれ振動の強度が低減することが定められているが、振動の強度がピーク値となるクランク角は定められていない。
本実施の形態におけるノック波形モデルは、ノッキングにより発生した振動の強度のピーク値以降の振動に対応している。なお、ノッキングに起因した振動の立ち上がり以降の振動に対応したノック波形モデルを記憶してもよい。
ノック波形モデルは、実験などにより、強制的にノッキングを発生させた場合におけるエンジン100の振動波形を検出し、この振動波形に基づいて予め作成されて記憶される。
ノック波形モデルは、エンジン100の寸法やノックセンサ300の出力値が、寸法公差やノックセンサ300の出力値の公差の中央値であるエンジン100(以下、特性中央エンジンと記載する)を用いて作成される。すなわち、ノック波形モデルは、特性中央エンジンに強制的にノッキングを発生させた場合における振動波形である。なお、ノック波形モデルを作成する方法は、これに限られず、その他、シミュレーションにより作成してもよい。
検出された波形とノック波形モデルとの比較においては、図6に示すように、正規化された波形とノック波形モデルとが比較される。ここで、正規化とは、たとえば、検出された振動波形における積算値の最大値で各積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことである。なお、正規化の方法はこれに限らない。
本実施の形態において、エンジンECU200は、正規化された振動波形がノック波形モデルに類似する度合を表わす相関係数Kを算出する。正規化後の振動波形において振動の強度が最大になるタイミングとノック波形モデルにおいて振動の強度が最大になるタイミングとを一致させた状態で、正規化後の振動波形とノック波形モデルとの偏差の絶対値(ズレ量)をクランク角ごと(5度ごと)に算出することにより、相関係数Kが算出される。
正規化後の振動波形とノック波形モデルとのクランク角ごとの偏差の絶対値をΔS(I)(Iは自然数)とし、ノック波形モデルにおける振動の強度をクランク角で積分した値(ノック波形モデルの面積)をSとおくと、相関係数Kは、K=(S−ΣΔS(I))/Sという方程式により算出される。ここで、ΣΔS(I)は、ΔS(I)の総和である。本実施の形態において、相関係数Kは、振動波形の形状がノック波形モデルの形状に近いほど、大きな値として算出される。したがって、振動波形にノッキング以外の要因による振動の波形が含まれた場合、相関係数Kは小さく算出される。なお、相関係数Kの算出方法はこれに限らない。
さらに、エンジンECU200は、積算値の最大値(ピーク値)に基づいて、振動の強度を表わすノック強度Nを算出する。積算値の最大値をPとし、エンジン100にノッキングが発生していない状態におけるエンジン100の振動の強度を表わす値をBGL(Back Ground Level)とおくと、ノック強度Nは、N=P/BGLという方程式で算出される。BGLは、たとえばシミュレーションや実験により予め定められ、ROM202に記憶される。なお、ノック強度Nの算出方法はこれに限らない。
図7を参照して、本実施の形態に係る点火時期制御装置であるエンジンECU200が、ノッキングが発生したか否かを1点火サイクルごとに判定して点火時期を制御するために実行するプログラムの制御構造について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、エンジンECU200は、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、エンジン回転数NEを検出するとともに、エアフローメータ314から送信された信号に基づいて、吸入空気量KLを検出する。
S102にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、エンジン100の振動の強度を検出する。振動の強度は、ノックセンサ300の出力電圧値で表される。なお、ノックセンサ300の出力電圧値と対応した値で振動の強度を表してもよい。強度の検出は、燃焼行程において上死点から90度(クランク角で90度)までの間で行なわれる。
S104にて、エンジンECU200は、ノックセンサ300の出力電圧値(振動の強度を表わす値)を、クランク角で5度ごとに(5度分だけ)積算した値(積算値)を算出する。積算値の算出は、第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの振動ごとに行なわれる。さらに第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの積算値が、クランク角度に対応して加算されて、エンジン100の振動波形が検出される。
S106にて、エンジンECU200は、第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの合成波形(エンジン100の振動波形)における積算値のうち、最も大きい積算値(ピーク値P)を算出する。
S108にて、エンジンECU200は、エンジン100の振動波形を正規化する。ここで、正規化とは、算出されたピーク値で、各積算値を除算することにより、振動の強度を0〜1の無次元数で表わすことをいう。
S110にて、エンジンECU200は、ピーク値Pのクランク角とノック波形モデルにおいて振動の強度が最大になるタイミングとを一致させて、振動波形とノック波形モデルとが類似する度合を表わす相関係数Kを算出する。
S112にて、エンジンECU200は、ピーク値PをBGLで除算してノック強度Nを算出する。
S114にて、エンジンECU200は、相関係数Kとノック強度Nとの組み合わせに基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定する。ここで、エンジンECU200は、図8に示すように、相関係数Kとノック強度Nとをパラメータとしたマップにしたがって、ノッキングが発生したか否かを判定する。
このマップによれば、相関係数Kがしきい値K(1)よりも小さいという条件が満たされた場合およびノック強度Nがしきい値N(1)よりも小さいという条件が満たされた場合の少なくともいずれか一方の場合、ノッキングが発生していないと判定される。この場合、ノッキングに起因した振動ではないノイズが検出されたと判定される。
また、ノッキングが発生したと判定される場合には、相関係数Kとノック強度Nとの組み合わせに応じてノッキングのレベルが判定される。相関係数Kが小さいほど、ノッキングのレベルが小さく判定される。ノック強度Nが小さいほど、ノッキングのレベルが小さく判定される。
図7に戻って、ノッキングが発生したと判定されると(S114にてYES)、処理はS116に移される。もしそうでないと(S114にてNO)、処理はS118に移される。
S116にて、エンジンECU200は、ノッキングのレベルが小さいほど、遅角量が小さくなるように、点火時期を遅角する。S118にて、エンジンECU200は、点火時期を遅角する。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る点火時期制御装置であるエンジンECU200の動作について説明する。
エンジン100の運転中において、クランクポジションセンサ306から送信された信号に基づいて、エンジン回転数NEが検出されるとともに、エアフローメータ314から送信された信号に基づいて、吸入空気量KLが検出される(S100)。また、ノックセンサ300から送信された信号に基づいて、エンジン100の振動の強度が検出される(S102)。
燃焼行程における上死点から90度までの間において、5度ごとの積算値が第1の周波数帯Aから第3の周波数帯Cの振動ごとに算出される(S104)。算出された第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの積算値がクランク角度に対応して加算され、前述した図4に示すようなエンジン100の振動波形が検出される。
5度ごとの積算値により振動波形を検出することにより、強度が細かく変化することが抑制された振動波形を検出することができる。そのため、検出された振動波形とノック波形モデルとの比較を容易にすることができる。
算出された積算値に基づいて、第1の周波数帯A〜第3の周波数帯Cの合成波形(エンジン100の振動波形)における積算値のピーク値Pが算出される(S106)。
算出されたピーク値Pでエンジン100の振動波形における積算値が除算されて、振動波形が正規化される(S108)。正規化により、振動波形における振動の強度が0〜1の無次元数で表される。これにより、振動の強度に関係なく検出された振動波形とノック波形モデルとの比較を行なうことができる。そのため、振動の強度に対応した多数のノック波形モデルを記憶しておく必要がなく、ノック波形モデルの作成を容易にすることができる。
正規化後の振動波形において振動の強度が最大になるタイミングとノック波形モデルにおいて振動の強度が最大になるタイミングとを一致させ(図6参照)、この状態で、正規化後の振動波形とノック波形モデルとのクランク角ごとの偏差の絶対値ΔS(I)の総和ΣΔS(I)およびノック波形モデルにおいて振動の強度をクランク角で積分した値Sに基づいて、K=(S−ΣΔS(I))/Sにより相関係数Kが算出される(S110)。
これにより、検出された振動波形とノック波形モデルとの一致度合を数値化して客観的に判定することができる。また、振動波形とノック波形モデルとを比較することで、振動の減衰傾向など、振動の挙動からノッキング時の振動であるか否かを分析することができる。
さらに、ピーク値PをBGLで除算することにより、ノック強度Nが算出される(S112)。これにより、振動の強度に基づいて、エンジン100の振動がノッキングに起因した振動であるか否かをより詳細に分析することができる。
これらの相関係数Kおよびノック強度Nの組み合わせに基づいて、ノッキングが発生したか否かが判定される(S114)。ところで、振動波形とノック波形モデルとの偏差が大きい場合、すなわち、振動波形がノック波形モデルに類似しておらず、相関係数Kが小さい場合であっても、吸気バルブ116や排気バルブ118などの機器の作動に起因して発生する振動により、ノック強度Nが高くなる場合がある。また、ノック強度Nが低い場合であっても、波形の形状自体はノック波形モデルに類似したために高い相関係数Kが算出される場合がある。これらの場合は、いずれもノッキングが発生していないといえる。
そこで、本実施の形態においては、前述した図8のマップに示すように、相関係数Kがしきい値K(1)よりも小さいという条件が満たされた場合およびノック強度Nがしきい値N(1)よりも小さいという条件が満たされた場合の少なくともいずれか一方の場合、ノッキングが発生していないと判定される(S114にてNO)。これにより、ノッキングが発生していないにもかかわらずノッキングが発生したと誤判定することを少なくすることができる。ノッキングが発生していないと判定された場合は、点火時期が進角される(S118)。そのため、ノッキングが発生していないにもかかわらず、誤って点火時期が遅角されることを抑制することができる。
一方、相関係数Kがしきい値K(1)よりも大きく、かつノック強度Nがしきい値N(1)よりも大きい場合において、ノッキングが発生したと判定されると(S114にてYES)、ノッキングのレベルが小さいほど、遅角量が小さくなるように、点火時期が遅角される(S116)。これにより、ノッキングのレベルに応じて、点火時期の遅角量を細かく設定することができる。そのため、ノッキングのレベルが小さい状態において、点火時期が大きく遅角されることを抑制することができる。そのため、必要以上に点火時期が遅角されることを抑制することができる。
以上のように、本実施の形態に係る点火時期制御装置であるエンジンECUによれば、振動波形がノック波形モデルに類似する度合を表わす相関係数Kと振動の強度を表わすノック強度Nとの組み合わせによりノッキングが発生したか否かが判定される。相関係数Kがしきい値K(1)よりも小さいという条件が満たされた場合およびノック強度Nがしきい値N(1)よりも小さいという条件が満たされた場合の少なくともいずれか一方の場合には、ノッキングが発生していないと判定される。これにより、ノッキングが発生していないにもかかわらずノッキングが発生したと誤判定することを少なくすることができる。そのため、ノッキング時に行なうべき点火時期の遅角が誤って行なわれることを抑制することができる。その結果、点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる。ノッキングが発生したと判定された場合には、相関係数Kとノック強度Nとの組み合わせにより定めるノッキングのレベルが小さいほど、遅角量が小さくなるように、点火時期が遅角される。これにより、ノッキングのレベルに応じて、点火時期の遅角量を細かく設定することができる。そのため、ノッキングのレベルが小さい状態において、点火時期が大きく遅角されることを抑制することができる。その結果、点火時期が必要以上に遅角されることを抑制することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の実施の形態に係る点火時期制御装置であるエンジンECUにより制御されるエンジンを示す概略構成図である。 ノッキング時にエンジンで発生する振動の周波数帯を示す図である。 図1のエンジンECUを示す制御ブロック図である。 エンジンの振動波形を示す図である。 エンジンECUのROMに記憶されたノック波形モデルを示す図である。 振動波形とノック波形モデルとを比較した図である。 本発明の実施の形態に係る点火時期制御装置であるエンジンECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。 ノッキングが発生したか否かを判定する相関係数Kとノック強度Nとの組み合わせ規定したマップである。
符号の説明
100 エンジン、104 インジェクタ、106 点火プラグ、110 クランクシャフト、116 吸気バルブ、118 排気バルブ、120 ポンプ、200 エンジンECU、202 ROM、204 SRAM、300 ノックセンサ、302 水温センサ、304 タイミングロータ、306 クランクポジションセンサ、308 スロットル開度センサ、314 エアフローメータ、320 補機バッテリ。

Claims (4)

  1. 内燃機関の点火時期制御装置であって、
    前記内燃機関のクランク角を検出するための第1の検出手段と、
    クランク角についての予め定められた範囲における前記内燃機関の振動の波形を検出するための第2の検出手段と、
    前記検出された波形が前記内燃機関の振動の波形の基準として定められた波形モデルに類似する度合を表わす第1の値を算出するための第1の算出手段と、
    前記内燃機関で発生する振動の強度を表わす第2の値を算出するための第2の算出手段と、
    前記第1の値が第1の条件を満たす場合および前記第2の値が第2の条件を満たす場合のうちの少なくともいずれか一方の場合はノッキングが発生していないと判定するように、前記第1の値および前記第2の値の組み合わせに基づいて、前記内燃機関にノッキングが発生したか否かを判定するための判定手段と、
    前記内燃機関にノッキングが発生したと判定された場合、前記第1の値および前記第2の値の組み合わせに応じた量だけ点火時期を遅角するように、前記内燃機関を制御するための制御手段とを含み、
    前記制御手段は、前記第1の値が小さいほど、より小さく点火時期を遅角するように、前記内燃機関を制御するための手段を含む、内燃機関の点火時期制御装置。
  2. 前記算出手段は、前記予め定められた範囲における振動の強度の最大値を、前記内燃機関の振動の強度の基準として定められた値で除算することにより、前記第2の値を算出するための手段を含む、請求項1に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  3. 前記第1の条件は、前記第1の値が第1のしきい値よりも小さいという条件であり、
    前記第2の条件は、前記第2の値が第2のしきい値よりも小さいという条件である、請求項1または2に記載の内燃機関の点火時期制御装置。
  4. 前記制御手段は、前記第2の値が小さいほど、より小さく点火時期を遅角するように、前記内燃機関を制御するための手段を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の点火時期制御装置。
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