JP4213795B2 - 血管平滑筋増殖剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は血管平滑筋増殖剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
血管平滑筋細胞の増殖は、動脈硬化や経皮経管冠状動脈形成術後の再狭窄の病因と密接に関連している(Ross, R. (1993) Nature 362, 801-809 )。血管内皮細胞は、種々の機構からなる抗血栓性機能をもち、血液の流動性を維持する一方、傷害を受けた場合には、速やかに血栓を形成して傷害部位を保護する血栓性機能ももっている。このような相反する機能をもつ内皮細胞により、血液の恒常性が維持されており、そのバランスが動脈硬化等により崩れると、心筋梗塞や脳梗塞等の種々の循環器疾患が引き起こされると考えられる。内皮細胞の抗血栓性については、細胞表面に存在するアンチトロンビンIII やトロンボモジュリンによる抗凝固作用や、プロスタグランジンI2 (PGI2 )の産生による抗血小板作用、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)の産生やプラスミノーゲンの結合による線溶促進活性等が知られている。
【0003】
最近、抗凝固活性を有する新しいタイプのインヒビターが血管内皮細胞で産生されることが明らかとなり、注目されるようになった。このインヒビター、即ち、ティッシュ・ファクター・パスウェイ・インヒビター(Tissue Facter Pathway Inhibitor:TFPI)(TFPIは、TFPI−1と称されることもあり、以下、TFPI−1と略す)は、血管内皮細胞で合成され、内皮上または血漿中に存在する(Jesty, J. ら、(1994) Biochemistry 33, 12686-12694; Sprecher, C. A.ら、(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 3353-3357; Peterson, L. C.ら、(1996) Biochemistry 35, 266-272 )。TFPI−1は、外因性の凝固経路の初期工程を阻害し、鬱血を調節する。TFPI−1は、第Xa因子のインヒビター、または第Xa因子存在下での第VIIa因子−組織因子(TF)複合体のインヒビターである。TFPI−1は、3つのタンデムドメインを有するKunitz型プロテアーゼインヒビターである。第1の阻害ドメインは、第VIIa因子/TF複合体と相互作用し、複合体:第Xa因子/TFPI−1/第VIIa因子/TFを形成することにより、第VIIa因子/TF複合体の蛋白分解活性を阻害する。第VIIa因子/TF複合体は、第X因子および第IX因子を活性な酵素に変換する。第2のドメインは、第Xa因子と相互作用し、直接第Xa因子を阻害する。第3の阻害ドメインの機能は、ヘパリンとの結合である。第Va因子とともに第Xa因子は、プロトロンビンをトロンビンに開裂させ、フィブリンクロットの発生に導く。
【0004】
一方、TFPI−2は、TFPI−1と構造上類似している(Sprecher, C. A. ら、(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 3353-3357; Peterson, L. C.ら、(1996) Biochemistry 35, 266-272 )。TFPI−2は、短い酸性アミノ末端領域、3つのタンデムKunitz型プロテアーゼ阻害ドメインおよび塩基性アミノ酸に富むカルボキシ末端尾部を有する。TFPI−2は、トリプシンのアミド分解活性およびヒト第VIIa因子とTFの複合体の活性を阻害する。TFPI−2は、TFPI−1と比べて、第Xa因子のアミド分解活性に関しては弱い阻害活性しか示さない。TFPI−2は、胎盤蛋白質5、即ち、PP5と同一の蛋白質である(Miyagi, Y.ら、(1994) J. Biochem. 116, 939-942 )。TFPI−2(PP5)は、以前に報告された第VIIa因子/TF複合体およびトリプシンを阻害する能力に加え、第XIa因子、プラスミン、血漿カリクレインおよびキモトリプシンの強いインヒビターである。
【0005】
血液凝固系における前記性質に加え、TFPI−1の種々の動脈における内膜または平滑筋細胞に対する抗増殖作用が報告されている。動脈硬化ウサギの動脈損傷モデルにおいて、組換えTFPI−1での処置は、血管造影上の再狭窄を低下させ、新生内膜過形成を減少させた(Jang, Y.ら、(1995) Circulation 92, 3041-3050)。ミニブタの頸動脈でのバルーン誘導性動脈損傷後の最初の24時間における組換えTFPI−1投与によるTF仲介性凝固の阻害は、その後の新生内膜形成と管腔の狭窄を減少させるのに効果があるように思われる(Oltrona, L. ら、(1997) Circulation 96, 646-652)。組換えTFPI−1は、培養ヒト新生児大動脈平滑筋細胞に対して増殖阻害活性を示す(Kamikubo, Y.ら、(1997) FEBS Lett. 407, 116-120)。このように、TFPI−1は、種々の作用が明らかになり、医薬品への応用研究が活発に行なわれているのに対し、構造上類似のTFPI−2に関してはその生理学的機能はほとんど知られていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、平滑筋細胞増殖に関わる血管内皮細胞由来の産物の生理学的機能を明らかにすることにより、血管平滑筋増殖剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
血管平滑筋の細胞増殖に関する内皮細胞の効果を研究するために、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)で覆われた1.0μmの膜を有する培養挿入物とウシ大動脈平滑筋細胞で覆われたマイクロテストプレートを用いて調べたところ、当該内皮細胞が挿入物中に存在する場合、当該平滑筋細胞の増殖が見られた。本研究者らは、培養HUVECのコンディション培地からマイトジェン活性を有する物質を精製し、そのN末端アミノ酸配列を分析したところ、意外にも、当該マイトジェン物質は、血管平滑筋細胞に対して増殖阻害活性を有するTFPI−1と構造の類似したTFPI−2であることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 (1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(2) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されている蛋白質、
(3) 配列番号:2に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、または
(4) 配列番号:2に記載の塩基配列において、1個若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入または付加されている塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、
であって、血管平滑筋細胞に対してマイトジェン活性を有する蛋白質を有効成分とする血管平滑筋増殖剤、
〔2〕 血管の増殖を必要とする疾患の治療に使用されるものである前記〔1〕記載の血管平滑筋増殖剤、
〔3〕 該疾患が創傷または床擦れである前記〔2〕記載の血管平滑筋増殖剤、
に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の血管平滑筋増殖剤は、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列からなる蛋白質を有効成分とすることが好ましく、この蛋白質は、ティッシュ・ファクター・パスウェイ・インヒビター(TFPI)−2と称されるものと同一のアミノ酸配列からなり、第23位〜第235位のアミノ酸配列からなる蛋白質(即ち、シグナルペプチドが除去された蛋白質)は、32kDaの分子量を有するものである。本発明においては、血管平滑筋細胞に対してマイトジェン活性を有する限り、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列からなる蛋白質のみばかりでなく、前記アミノ酸配列において、1個以上(例えば1個もしくは複数個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されている蛋白質;配列番号:2に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質;配列番号:2に記載の塩基配列において、1個以上(例えば1個もしくは複数個)の塩基が置換、欠失、挿入または付加されている塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質;または、配列番号:2に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質であってもよく、これらは、天然の蛋白質でも組換え蛋白質であってもよい。
【0010】
前記塩基配列に変異を導入するためには、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Labolatory Press 出版 New York 1989年に記載の部位特異的変異誘発やPCR法などの方法を用いることによって当業者であれば容易に実施することができる。
【0011】
前記アミノ酸配列に変異を導入した蛋白質を得るためには、前記塩基配列における変異を導入した後、適当なベクターおよび宿主系を用いて、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook,J.ら著、Cold Spring Harber Labolatory Press 出版 New York 1989年に記載の方法により、変異を導入したDNAを遺伝子工学的に発現させればよい。
【0012】
本発明において「マイトジェン活性を有する」とは、増殖を停止した血管平滑筋細胞に対して、細胞分裂を誘起させるように刺激する活性を有することをいう。ここで、血管平滑筋細胞とは、ヒトを含む哺乳動物由来の血管平滑筋細胞を意味する。
【0013】
前記マイトジェン活性を測定するには、公知の方法が用いられる。例えば、実施例2に記載のように、ウシ大動脈平滑筋細胞を培地から血清を枯渇させることによりその増殖を停止させた後、マイトジェン候補物質を培地に添加することにより、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を含む市販のキット等を用いて当該細胞のDNA合成を吸光度により測定する方法が挙げられる。
【0014】
本発明の血管平滑筋増殖剤に用いられる蛋白質を製造する方法としては、例えば、天然のTFPI−2を発現している細胞のコンディション培地から蛋白質を精製する方法と、TFPI−2をコードするDNAを発現ベクターに組み込んで適当な宿主で発現させた後に発現した組換えTFPI−2を精製する方法とが挙げられる。
【0015】
天然のTFPI−2を精製する方法は、例えば、製造例1に記載のように、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のコンディション培地を限外濾過により濃縮し、ヘパリンアフィニティーカラムを用いてマイトジェン活性画分を溶出した後、ProRPC HR 5/10カラム(Amersham Pharmacia Biotech社製) を用いるLC−6A高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Shimadzu社製) によりマイトジェン活性画分を溶出する方法である。
【0016】
組換えTFPI−2を精製する方法は、例えば、製造例2〜4に記載のように、TFPI−2のcDNAをPCR等により調製し、哺乳動物発現ベクターpK4Kにクローニングした発現ベクターを構築した後、ベビーハムスター腎(BHK)tk- ts13細胞等にリン酸カルシウム沈殿法等により形質転換し、メトトレキサート(MTX)等による選別の後、コンディション培地を回収し、前記天然のTFPI−2と同様に精製する方法である。
【0017】
このようにして得られたマイトジェン活性を有する蛋白質を血管平滑筋増殖剤として用いる場合には、その形状は、溶液状、懸濁状、乳液状、凍結乾燥品等とすることができる。凍結乾燥品は、使用直前に適当な溶媒、塩水、緩衝液等に溶解して用いる。
【0018】
本発明の血管平滑筋増殖剤は、血管の増殖を必要とする疾患の治療に使用することが可能であり、当該疾患としては、創傷、床擦れ等が挙げられる。
【0019】
本発明の血管平滑筋増殖剤を前記疾患の治療剤として使用する場合、非経口的に投与することが好ましい。即ち、液剤、乳剤、懸濁液剤、リポソーム剤等として静脈内、皮下、筋肉内等に注射することができ、軟膏、クリーム等として外用することができ、また、坐剤として直腸投与することもできる。このような剤形は、医薬として許容される通常の担体、賦形剤、結合剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等と前記マイトジェン活性を有する蛋白質とを配合することにより製造することができる。
【0020】
本発明の血管平滑筋増殖剤の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常1回につき0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg 〜1000mgであり、これを1日当たり1〜3回程度投与するのが好ましい。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によってなんら限定されるものではない。
【0022】
製造例1
TFPI−2の精製と同定
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、ワリイシ(Wariishi, S.)ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 216, 729-735 (1995)に記載の方法に従って培養し、そのコンディション培地からマイトジェン活性物質を精製した。800mlのコンディション培地を、4℃で限外濾過膜(YM10、Amicon社製) により20mlに濃縮した。この20mlの溶液を、予め50mM Tris−HCl(pH7.4)で平衡化させておいたHiTrap Heparinアフィニティーカラム(5ml、Amersham Pharmacia Biotech社製) にかけた。試料の適用後、当該カラムを50mlの50mM Tris−HCl(pH7.4)溶液で洗浄した。マイトジェン活性画分は、1M NaClを含む50mM Tris−HCl(pH7.4)の20mlで溶出された。溶出液をCentriprep 10 (Amicon社製) で0.5mlまで濃縮した。当該濃縮液を、LC−6A高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Shimadzu社製) を用いて、ProRPC HR 5/10カラム(Amersham Pharmacia Biotech社製) に注入した。流速は1ml/分であり、280nmでピークをモニターした。当該カラムを、15%アセトニトリル中0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)から100%アセトニトリル中0.1%TFAまで形成された勾配で溶出した(図1)。カラムから溶出したマイトジェン活性画分を凍結乾燥させた。マイトジェン活性は、後述の実施例1に記載の方法を用いて測定した。
【0023】
表1に、増殖を停止したウシ大動脈平滑筋細胞に対する各精製工程におけるマイトジェン画分の活性を示す。前記一連の精製工程により、HUVECの濃縮コンディション培地からマイトジェン活性を有する物質が約420倍に精製されたことが明らかとなった。
【0024】
【表1】
【0025】
前記最終精製工程後のマイトジェン活性画分(0.1μg)を、Phast System(Amersham Pharmacia Biotech社製) を用いて、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に付した。泳動後の蛋白質は、クーマシーブリリアントブルーで染色した。使用した分子量マーカーは、Amersham Pharmacia Biotech社製から入手した。この結果、32kDaの分子量を有する蛋白質が精製されたことがわかった(図2、レーンB)。
【0026】
精製された蛋白質を、Applied Biosystems 470A 気相シークエンサー(Perkin-Elmer 社製) を用いる自動エドマン分解により、アミノ酸配列分析を行なった。その結果、当該蛋白質は、N末端に、DAAQEPTGNNAEI(配列番号:3)のアミノ酸配列を有することが明らかとなった。このN末端アミノ酸配列は、シグナルペプチドの除去された後のTFPI−2(PP5)と同一のN末端アミノ酸配列であった。TFPI−2の全アミノ酸配列を配列番号:1に示す。
【0027】
製造例2
TFPI−2cDNAを含む発現ベクターの構築
ニイドメ(Niidome, T.) ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 203, 1821-1827 (1994)に記載の方法に従って、BamHIとHindIII の単一の制限部位を含む哺乳動物発現ベクターpK4Kを用いて、pK4KT2と命名した発現ベクターを構築した。即ち、TFPI−2cDNAを、TFPI−2のヌクレオチド39−54および763−782にそれぞれ対応するセンスオリゴヌクレオチド5’−ATGGACCCCGCTCGCC−3’(配列番号:4)およびアンチセンスオリゴヌクレオチド5’−GCCATAAAGACAAACAAGAT−3’(配列番号:5)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により作製した。鋳型は、TFPI−2cDNAを含むpBluescriptII SK(−)(Stratagene 社製) であった。得られたPCR産物を、DNA Blunting Kit(Takara Biomedicals 社製) により平滑末端化し、同様に平滑末端化した前記pK4Kベクターに連結した。当該PCR産物の配列は、自動DNAシーケンサー373A(Applied Biosystems, Perkin-Elmer Corp.)により、配列番号:2に記載の第39位〜第782位までのヌクレオチドに対応する塩基配列を有することを確認した。
【0028】
製造例3
形質転換と細胞培養
形質転換されていないベビーハムスター腎(BHK)tk- ts13細胞を、5%ウシ胎仔血清(FCS)、ストレプトマイシン(30μg/ml)およびペニシリン(30ユニット/ml)を補足したDulbeccoの変法Eagle 培地(DMEM)中で増殖させた。Cell Phect トランスフェクションキット(Amersham Pharmacia Biotech 社製) を用いる改変したリン酸カルシウム沈殿法により、当該BHKtk- ts13細胞(2×105 細胞)を、製造例2で作製した5μgのpK4KT2ベクターで形質転換した。BHKT2と命名した形質転換した細胞を、5%FCSを含むDMEM中で増殖させた。250nMのメトトレキサート(MTX)による選別の後、細胞培養上清(コンディション培地)を回収し、組換えTFPI−2(rTFPI−2)の単離のために用いた。
【0029】
製造例4
組換えTFPI−2(rTFPI−2)の精製
製造例1に記載と同様の方法を用いて、製造例3で得られたBHKT2のコンディション培地(1000ml)からrTFPI−2を精製した。精製されたrTFPI−2のSDS−PAGEを図2、レーンCに示す。
【0030】
その結果、天然のTFPI−2と同じ分子量(32kDa)を有する蛋白質が精製されたことが明らかとなった。
【0031】
実施例1
rTFPI−2のマイトジェン活性
ウシ大動脈平滑筋細胞は、ロス(Ross)のエクスプラント技法の改変法により成牛の大動脈の中間層から単離した(Shirotani, M.ら、J. Pharmacol. Exp. Ther. 259, 738-744 (1990)) 。10%FCS、ペニシリン(100U/ml)およびカナマイシン(100μg/ml)を補足したDMEM中で、5%のCO2 を含む空気の加湿環境下、37℃でウシ大動脈平滑筋細胞を増殖させた。増殖させた。培養用培地(DMEM+10%FCS)を3日毎に交換し、約7日後にコンフルエント平滑筋細胞単層を得た。細胞は、第2継代から第6継代まで使用した。当該細胞を0.1%トリプシン−0.02%EDTA溶液で回収し、96ウエルプレート(Nunk社製)にウエル当たり3,000個の細胞密度で播種した。48時間後、当該細胞の増殖を0.1%FCSを含むDMEMで停止させた。さらに48時間後、新鮮な培地(DMEM+0.1%FCS)と種々の濃度の製造例4で精製されたrTFPI−2(最終濃度:0〜500nM)を、前記増殖停止細胞に同時に添加した。48時間後、Premix WST-1 細胞増殖アッセイシステム(Takara Biomedical社製) を用いて、細胞の増殖アッセイを行なった。前記システムは、テトラゾリウムから産生したホルマゾンを600nmの参照波長とともに420nmでアッセイする。得られた吸光度の値を、標準曲線から細胞数に変換した(図3)。
【0032】
図3より、rTFPI−2は、用量応答様式(1〜500nM)で細胞の増殖を増加させることがわかった。
【0033】
実施例2
rTFPI−2によるDNA合成の誘導(1)
実施例1と同様に、ウシ大動脈平滑筋細胞を96ウエルプレートに播種し、0.1%FCSを含むDMEMにより細胞増殖を停止させた。48時間後、新鮮な培地(DMEM+0.1%FCS)と種々の濃度の製造例4で精製されたrTFPI−2(最終濃度:0〜500nM)を、前記増殖停止細胞に同時に添加した。24時間後、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を添加し、Biotrak 細胞増殖ELISAシステム(Amersham Pharmacia Biotech 社製) を用いて、DNA合成中のBrdUのDNAへの取り込みを12時間後に測定することによりDNA合成の検出を行なった(図4)。
【0034】
図4より、BrdUは、rTFPI−2刺激により用量依存的にDNAに取り込まれることがわかった。
【0035】
実施例3
rTFPI−2によるDNA合成の誘導(2)
実施例2において、0.1%FCSの代わりに10ng/mlの血小板由来増殖因子(PDGF、Upstate 社製) を使用すること以外は実施例2と同様に、rTFPI−2によるDNA合成の誘導を行なった(図5)。
【0036】
図5より、0.1%FCSの代わりに10ng/mlのPDGFを使用した場合でも、BrdUは、rTFPI−2の用量依存的にDNAに取り込まれることがわかった。
【0037】
実施例4
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化
実施例1で得られたウシ大動脈平滑筋細胞を、24ウエルプレート中で実施例1と同様に血清を枯渇させた後、無血清DMEM培地中100nMの製造例4で得られたrTFPI−2に曝露させた。15〜120分間のインキュベーションの後、上清を除去した。10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA、2.5% SDSおよび5%メルカプトエタノールを含む溶液の100μlを各ウエルに添加した。溶解した細胞画分を、Phast Systemを用いるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により、8〜25%のゲル上で分離した。次いで、当該蛋白質を、Phast Transfer(Amersham Pharmacia Biotech 社製) を用いるセミドライ電気ブロッティング法により、ニトロセルロース膜(Hoefer Scientific Instruments社製) に30分間ブロットした。当該ブロットを、Tris緩衝化生理食塩水(20mM Tris−HCl(pH7.6)および137mM NaCl)中10%ウシ血清アルブミンで1時間ブロックした。次いで、ブロックされたブロットを、0.1% Tween−20を含む前記Tris緩衝化生理食塩水で5回洗浄した。この洗浄工程は、その後の工程それぞれの間で行なった。洗浄したブロットを、Tris緩衝化生理食塩水で希釈したリン酸化MAPKに対するモノクローナル抗体(25ng/ml)( 非リン酸化MAPKとは交差反応を示さない;Promega Inc.) で1時間、ビオチン化F(ab’)2 ラビット抗マウスイムノグロブリンG(Serotec Ltd.)で1時間、およびストレプトアビジン−アルカリホスファターゼコンジュゲートで1時間、連続してインキュベートした。最後に、ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートp−トルイジン塩を添加して、特異的蛋白質を検出し、蒸留水で洗浄することにより反応を停止させた(図6)。
【0038】
図6より、rTFPI−2により誘導された血管平滑筋細胞増殖において、MAPKのリン酸化が二元に起こることが示され(42kDaと44kDa)、迅速かつ一過性のリン酸化が、rTFPI−2による刺激の後に起こることがわかった。なお、MAPKは、多くの型の細胞表面の受容体をマイトジェン活性物質を開始剤とする核の事象と連結するシグナル伝達経路において重要な中間体である。
【0039】
実施例5
c−fosおよびc−myc mRNAのノーザンブロット分析
実施例4と同様にして、血清を枯渇させたウシ大動脈平滑筋細胞を調製した。rTFPI−2による刺激後30〜240分間の前記細胞(108 細胞)由来の全細胞RNAを、Ultraspec−II RNA単離システム(Biotecx Laboratories, Inc.)を用いて単離した。全RNA(20μg/レーン)を、18%ホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲル上で、電気泳動によりサイズ分画した。N+ ナイロン(Amersham Pharmacia Biotech 社製) へのキャピラリートランスファーを一晩行なった。プレハイブリダイゼーションは、プレハイブリダイゼーション緩衝液(4×SSC、1%SDSおよび1×Denhardt’s溶液)中、42℃で4時間行なった。ハイブリダイゼーションは、2×106 cpm/mlの32P([ α−32P] dCTP、Amersham Pharmacia Biotech社製) 標識cDNAプローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液(4×SSC、1×Denhardt’s溶液、1%SDSおよび100μg/mlサケ精子DNA)中、42℃で18時間行なった。プローブとして、c−fosDNA、c−mycDNA(Takara Biomedicals 社製) およびグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼDNA(G3PD、Clontech社製) を、Ready−To−Go DNA標識キット(Amersham Pharmacia Biotech 社製) により標識した。洗浄は、2×SSC、0.1%SDS中42℃、2×SSC、0.1%SDS中55℃および最後に、0.5×SSC、0.1%SDS中55℃で行なった。G3PDは、各レーンに負荷した等量をチェックするためのコントロールとして使用し、前記と同様の条件で洗浄した。オートラジオグラムは、BAS2500システム(Fuji Film社製) を用いて得られた(図7)。
【0040】
図7より、rTFPI−2による刺激の後、プロトオンコジーンc−fosおよびc−myc mRNAの迅速な発現増加が30分で見出された。1時間後、c−fos発現は見出されなくなったが、c−myc発現は、rTFPI−2による刺激の後4時間まで持続した。血管平滑筋において、TFPI−2によるc−fosとc−mycの迅速かつ一過性の発現は、活性化MAPKを介しているように思われる。
【0041】
これらの点から、rTFPI−1は、その抗増殖作用によりPTCA後の再狭窄を予防するための医薬として有用であると期待されるのに対して、構造上類似のrTFPI−2は、血管平滑筋細胞に対するマイトジェン活性を有する蛋白質であることがわかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明により血管平滑筋増殖剤が提供され、創傷、床擦れ等の血管の増殖を必要とする疾患の治療に有用である。
【0043】
【配列表】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ProRPC HR 5/10カラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーの結果を示す。図中、点線は、15%アセトニトリル中0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)から100%アセトニトリル中0.1%TFAまでの勾配を示し、黒塗りのピークは、増殖を停止させたウシ大動脈平滑筋細胞に対する細胞増殖活性を示す。
【図2】図2は、精製した天然のTFPI−2(レーンB)およびrTFPI−2(レーンC)のSDS−PAGEの結果を示す電気泳動の写真である。レーンAは、分子量マーカーを示し、各バンドは、上から、ホスホリラーゼb:94kDa;ウシ血清アルブミン:67kDa;オブアルブミン:43kDa;カルボニックアンヒドラーゼb:30kDa;ダイズトリプシンインヒビター:20.1kDa;α−ラクトアルブミン:14.4kDaである。
【図3】図3は、ウシ大動脈平滑筋細胞に対する種々の濃度(0〜500nM)のrTFPI−2のマイトジェン活性を示すグラフである。グラフの各点は、6回の平均を示し、縦線は、標準偏差を示す。
【図4】図4は、低濃度の血清により増殖を停止させたウシ大動脈平滑筋細胞に対する種々の濃度(0〜500nM)のrTFPI−2のマイトジェン活性をBrDUの取り込みによって測定したグラフである。グラフの各点は、6回の平均を示し、縦線は、標準偏差を示す。
【図5】図5は、PDGF添加のDMEMにより増殖を停止させたウシ大動脈平滑筋細胞に対する種々の濃度(0〜500nM)のrTFPI−2のマイトジェン活性をBrDUの取り込みによって測定したグラフである。グラフの各点は、6回の平均を示し、縦線は、標準偏差を示す。
【図6】図6は、増殖を停止させたウシ大動脈平滑筋細胞において、rTFPI−2のマイトジェン刺激により活性化されたプロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化を示す電気泳動の写真である。
【図7】図7は、増殖を停止させたウシ大動脈平滑筋細胞において、rTFPI−2のマイトジェン刺激により誘導されたc−fosおよびc−myc mRNAの発現を示す電気泳動の写真である。
Claims (3)
- (1) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(2) 配列番号:1に記載のアミノ酸配列の全部または配列番号:1の第23位〜第235位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されている蛋白質、
(3) 配列番号:2に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、または
(4) 配列番号:2に記載の塩基配列において、1個若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入または付加されている塩基配列を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質、
であって、血管平滑筋細胞に対してマイトジェン活性を有する蛋白質を有効成分とする血管平滑筋増殖剤。 - 血管の増殖を必要とする疾患の治療に使用されるものである請求項1記載の血管平滑筋増殖剤。
- 該疾患が創傷または床擦れである請求項2記載の血管平滑筋増殖剤。
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