JP4212393B2 - 面発光型半導体レーザ素子およびその製造方法 - Google Patents

面発光型半導体レーザ素子およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、面発光型半導体レーザ素子およびその製造方法に関し、特に、多層反射膜を有する面発光型半導体レーザ素子およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、面発光型半導体レーザ素子は、共振器方向が結晶成長方向と一致しているため、共振器端面を形成するためのへき開プロセスを必要としない半導体レーザ素子として知られている。そして、上記した面発光型半導体レーザ素子は、複数の素子を平面的に配置する際の自由度が高いので、高集積化が可能となる。このため、面発光型半導体レーザ素子は、光情報処理の分野で注目されている。
【0003】
上記した面発光型半導体レーザ素子において、基本横モードで室温連続発振を得るためには、発光層に注入される電流の幅が数μmになるように、電流狭窄を行う必要がある。そこで、従来では、発光層の近傍に位置する半導体層の一部領域を水蒸気により選択的に酸化することにより高抵抗にすることによって、発光層に注入される電流の幅(電流狭窄の幅)が数μmになるように電流狭窄を行う技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
図11は、従来の面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。図12は、図11の100−100線に沿った断面図である。まず、図11および図12を参照して、従来の水蒸気による酸化法を用いて形成された電流狭窄構造を有する面発光型半導体レーザ素子の構造について説明する。
【0005】
従来の面発光型半導体レーザ素子では、図12に示すように、n型GaAs基板101上に、n型の下部多層反射膜102、発光層103およびp型の上部多層反射膜104が順次形成されている。下部多層反射膜102は、n型Al0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層102a、および、n型AlAsからなる低屈折率層102bの組が30層積層された構造を有している。また、上部多層反射膜104は、p型AlAsからなる低屈折率層104aと、組成遷移層104cと、p型Al0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層104bとからなる組が25層積層された構造を有している。組成遷移層104cは、低屈折率層104aと高屈折率層104bとの間に配置され、低屈折率層104aのAl組成の比率から高屈折率層104bのAl組成の比率に徐々にAl組成の比率を変化させた傾斜組成を有する。
【0006】
ここで、組成遷移層104cを設けているのは、以下の理由による。すなわち、p型の上部多層反射膜104は、n型の下部多層反射膜102に比べて、Al組成の比率が高い低屈折率層104aとAl組成の比率が低い高屈折率層104bとの間の障壁が大きいため、電気抵抗が大きくなる。このため、p型の上部多層反射膜104には、低屈折率層104aと高屈折率層104bとの間に、Al組成の比率を徐々に変化させた組成遷移層104cを設けている。
【0007】
そして、上部多層反射膜104を構成する低屈折率層104a、組成遷移層104c、および高屈折率層104bの組のうち、発光層103の上面に隣接する低屈折率層104a、組成遷移層104cおよび高屈折率層104bの組において、低屈折率層104aには、発光層103の発光部103aに対応する領域以外の領域に、電流狭窄のための高抵抗領域110が形成されている。この高抵抗領域110は、発光層103の発光部103aに対応する領域を挟むように形成されているとともに、形成時における端面から横方向に約10μm〜約20μmの幅を有している。
【0008】
また、上部多層反射膜104上には、p側電極106が形成されている。このp側電極106の発光層103の発光部103aに対応する領域には、図11に示すように、円形状の開口部106aが形成されている。また、n型GaAs基板101の裏面上には、n側電極107が形成されている。
【0009】
ここで、図11および図12に示した従来の面発光型半導体レーザ素子では、p側電極106とn側電極107との間に電圧を印加することによって、p側電極106から発光層103に電流が注入される。この際、発光層103の上面に隣接する低屈折率層104a、組成遷移層104cおよび高屈折率層104bの組の低屈折率層104aに形成された高抵抗領域110には、電流が流れない。すなわち、低屈折率層104aの発光層103の発光部103aに対応する領域にのみ電流が流れる。これにより、発光層103の発光部103aにのみ数μmの幅に電流狭窄された電流が注入される。
【0010】
なお、図11および図12に示した従来の面発光型半導体レーザ素子の電流狭窄のための高抵抗領域110の形成方法としては、水蒸気による酸化法を用いて、発光層103に隣接する低屈折率層104a、組成遷移層104cおよび高屈折率層104bの組の低屈折率層104aを選択的に酸化処理する。具体的には、低屈折率層104aの酸化時において、端面から横方向に約10μm〜約20μmまでの領域を酸化する。これにより、低屈折率層104aには、酸化されていない領域を挟むように、酸化処理された高い電気抵抗を有する領域が形成される。そして、この酸化処理された高い電気抵抗を有する領域が、電流狭窄のための高抵抗領域110として機能する。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−223841号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図11および図12に示した従来の水蒸気による酸化法を用いて形成された高抵抗領域110を有する面発光型半導体レーザ素子では、酸化する領域を精度良く制御するのが困難であるので、電流狭窄のための高抵抗領域110を精度良く形成するのが困難であった。その結果、電流狭窄の幅(電流通路の幅)のばらつきが大きくなるので、歩留まりが低下するという問題点があった。この場合、2次元レーザアレイなどの同一基板に複数の素子が平面的に集積される構造では、複数の素子の電流狭窄の幅を均一に設定する必要があるので、電流狭窄の幅のばらつきが大きくなれば、歩留まりがより低下するという問題点がある。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することが可能な面発光型半導体レーザ素子を提供することである。
【0013】
この発明のもう1つの目的は、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することが可能な面発光型半導体レーザ素子の製造方法を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による面発光型半導体レーザ素子は、第1多層反射膜と、第1多層反射膜上に形成された活性層と、活性層上に形成された第2多層反射膜とを備え、第1多層反射膜および第2多層反射膜のうちの少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層は、高屈折率層および低屈折率層の間の活性層の発光部に対応する領域に位置し、高屈折率層の組成および低屈折率層の組成との間の組成を徐々に変化させた組成遷移層が設けられた第1領域と、高屈折率層および低屈折率層の間の第1領域以外の領域に位置し、組成遷移層が設けられていない第2領域とを含む。
【0015】
この第1の局面による面発光型半導体レーザ素子では、上記のように、高屈折率層および低屈折率層の間の活性層の発光部に対応する領域に位置し、組成遷移層が設けられた第1領域と、高屈折率層および低屈折率層の間の第1領域以外の領域に位置し、組成遷移層が設けられていない第2領域とを、第1多層反射膜および第2多層反射膜のうちの少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層に設けることによって、組成遷移層が設けられていない第2領域が高抵抗領域となるので、組成遷移層が設けられた活性層の発光部に対応する領域に位置する第1領域にのみ電流が流れるように、電流狭窄を行うことができる。これにより、活性層に注入される電流の幅を数μmに絞ることができる。この場合、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて第1領域の組成遷移層を形成すれば、精度良く第1領域の組成遷移層を形成することができるので、電流狭窄の幅を精度良く制御することができる。その結果、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することができる。
【0016】
上記第1の局面による面発光型半導体レーザ素子において、好ましくは、第1領域および第2領域を有する高屈折率層および低屈折率層の組は、活性層に隣接する高屈折率層および低屈折率層の組である。このように構成すれば、活性層の近傍で電流狭窄が行われるので、活性層に注入される電流の幅を良好に制御することができる。
【0017】
上記第1の局面による面発光型半導体レーザ素子において、好ましくは、第2領域は、高抵抗領域である。このように構成すれば、容易に、第1領域にのみ電流が流れるように、電流狭窄を行うことができる。
【0018】
上記第1の局面による面発光型半導体レーザ素子において、好ましくは、第2多層反射膜を構成するすべての高屈折率層および低屈折率層の組は、少なくとも組成遷移層が設けられた第1領域を含み、第2多層反射膜を構成する少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層は、組成遷移層が設けられない第2領域を含む。このように構成すれば、活性層の上側に位置する第2多層反射膜に、組成遷移層が設けられていない第2領域を設けることによって、組成遷移層が設けられた第1領域と組成遷移層が設けられていない第2領域とを含む第2多層反射膜の第1領域が上方に突出したとしても、活性層の第1領域(発光部)に対応する領域が上方に突出することがない。これにより、活性層に段差が形成されるのを防止することができるので、活性層の発光特性が低下するのを防止することができる。また、第2多層反射膜を構成するすべての高屈折率層および低屈折率層の組に、組成遷移層が設けられた第1領域を形成することによって、電流狭窄を行いながら、組成遷移層により電流通路の電気抵抗を小さくすることができる。
【0019】
この発明の第2の局面による面発光型半導体レーザ素子の製造方法は、活性層を形成する工程と、高屈折率層と低屈折率層との間に高屈折率層の組成および低屈折率層の組成との間の組成を徐々に変化させた組成遷移層を有する多層反射膜を形成する工程とを備え、多層反射膜を形成する工程は、活性層の発光部に対応する領域および発光部に対応する領域以外の領域に組成遷移層を形成した後に、発光部に対応する領域以外の領域に位置する組成遷移層をエッチングにより除去することによって、活性層の発光部に対応する領域に位置し、組成遷移層が設けられた第1領域と、第1領域以外の領域に位置し、組成遷移層が設けられていない第2領域とを形成する工程を含む。
【0020】
この第2の局面による面発光型半導体レーザ素子の製造方法では、上記のように、活性層の発光部に対応する第1領域および第1領域以外の第2領域に組成遷移層を形成した後に、第2領域に位置する組成遷移層をエッチングにより除去することによって、精度良く第1領域の組成遷移層を形成することができるので、電流狭窄の幅を精度良く制御することができる。その結果、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することができる。
【0021】
上記第2の局面による面発光型半導体レーザ素子の製造方法において、好ましくは、多層反射膜を形成する工程は、活性層を形成した後に、活性層上に多層反射膜の第1領域および第2領域を形成する工程を含む。このように構成すれば、組成遷移層が設けられた第1領域と組成遷移層が設けられていない第2領域とを含むように多層反射膜を形成することにより第1領域が上方に突出したとしても、活性層の第1領域(発光部)に対応する領域が上方に突出することがない。これにより、活性層に段差が形成されるのを防止することができるので、活性層の発光特性が低下するのを防止することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。図2は、図1の50−50線に沿った断面図である。図1および図2を参照して、この第1実施形態では、0.85μmの発振波長を有する面発光型半導体レーザ素子の構造について説明する。
【0024】
第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子では、図2に示すように、n型GaAs基板1上に、n型の下部多層反射膜2、発光層3およびp型の上部多層反射膜4が順次形成されている。なお、下部多層反射膜2は、本発明の「第1多層反射膜」の一例であり、上部多層反射膜4は、本発明の「第2多層反射膜」の一例である。
【0025】
下部多層反射膜2は、高屈折率層2aおよび低屈折率層2bの組が30層積層された構造を有している。高屈折率層2aは、約59.7nmの厚みを有するn型Al0.12Ga0.88Asからなるとともに、低屈折率層2bは、約71.3nmの厚みを有するn型AlAsからなる。この高屈折率層2aの厚み(約59.7nm)および低屈折率層2bの厚み(約71.3nm)は、それぞれ、λ/4n(λ(発振波長):0.85μm、n:屈折率)となるように設定されている。また、下部多層反射膜2の反射率を高くするために、高屈折率層2aおよび低屈折率層2bのAl組成の比率は、高屈折率層2aと低屈折率層2bとの間の屈折率差が大きくなるように設定されている。ここで、Al組成の比率が低いほど屈折率が高くなるとともに、Al組成の比率が高いほど屈折率が低くなる。このため、高屈折率層2aのAl組成の比率を約0.2より低くするとともに、低屈折率層2bのAl組成の比率を約0.7よりも高くすることによって、Al組成の比率が低い高屈折率層2aとAl組成の比率が高い低屈折率層2bとの間の屈折率差を大きくしている。
【0026】
また、発光層3は、井戸層(図示せず)、障壁層(図示せず)および光ガイド層(図示せず)からなる3重量子井戸構造を有している。井戸層は、約8nmの厚みを有するGaAsからなるとともに、障壁層は、約10nmの厚みを有するAl0.3Ga0.7Asからなる。そして、この井戸層と障壁層とによって、活性層が構成されている。また、光ガイド層は、約100nmの厚みを有するAl0.3Ga0.7Asからなる。
【0027】
また、上部多層反射膜4は、低屈折率層4aと、組成遷移層4cと、高屈折率層4bとからなる組が25層積層された構造を有している。低屈折率層4aは、約58.1nmの厚みを有するp型AlAsからなるとともに、高屈折率層4bは、約48.7nmの厚みを有するp型Al0.12Ga0.88Asからなる。この低屈折率層4aの厚み(約58.1nm)および高屈折率層4bの厚み(約48.7nm)は、それぞれ、組成遷移層4cとの合計の厚みがλ/4n(λ(発振波長):0.85μm、n:屈折率)となるように設定されている。また、低屈折率層4aおよび高屈折率層4bのAl組成の比率は、下部多層反射膜2の高屈折率層2aおよび低屈折率層2bと同様、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間の屈折率差が大きくなるように設定されている。
【0028】
組成遷移層4cは、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に配置され、低屈折率層4aのAl組成の比率から高屈折率層4bのAl組成の比率に徐々にAl組成の比率を変化させた傾斜組成を有する。
【0029】
この組成遷移層4cは、約12nmの厚みを有するAlGaAsからなるとともに、組成遷移層4cのAl組成の比率は、約0.12〜約1.0までの範囲内で徐々に変化している。そして、組成遷移層4cのAl組成の比率が約1.0の側は、Al組成の比率が1.0であるAlAsからなる低屈折率層4aに接している。また、組成遷移層4cのAl組成の比率が約0.12の側は、Al組成の比率が0.12であるAl0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層4bに接している。なお、Al組成の比率が約1.0である組成遷移層4cの低屈折率層4aに接している面の組成は、AlAsである。このように、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に組成遷移層4cを設けることによって、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間の障壁が小さくなる。これにより、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間の電気抵抗を低減することができる。
【0030】
ここで、第1実施形態では、上部多層反射膜4を構成する25層の低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組のうち、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組において、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に形成された組成遷移層4cは、発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ形成されている。すなわち、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間の発光層3の発光部3aに対応する領域以外の領域には、組成遷移層4cが形成されていない。また、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組は、発光層3の発光部3aに対応する領域が、組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出している。このため、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組よりも上方に形成された低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組も、組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出している。
【0031】
そして、上部多層反射膜4上には、下層から上層に向かって、約0.1μmの厚みを有するCr層と、約1.0μmの厚みを有するAu層とからなるp側電極6が形成されている。このp側電極6の発光層3の発光部3aに対応する領域には、図1に示すように、円形状の開口部6aが形成されている。また、n型GaAs基板1の裏面上には、n型GaAs基板1に近い方から順に、約0.2μmの厚みを有するAuGe層と、約0.01μmの厚みを有するNi層と、約0.6μmの厚みを有するAu層とからなるn側電極7が形成されている。
【0032】
第1実施形態では、上記のように、上部多層反射膜4を構成する25層の低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組のうち、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組において、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に形成された組成遷移層4cを、発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ形成することによって、組成遷移層4cが形成されていない発光層3の発光部3aに対応する領域以外の領域が高抵抗領域となるので、組成遷移層4cが形成された発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ電流が流れるように、電流狭窄を行うことができる。これにより、発光層3に注入される電流の幅を数μmに絞ることができる。また、発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ組成遷移層4cが形成された低屈折率層4aおよび高屈折率層4dの組を、発光層3の上面に隣接するように設けることによって、発光層3の上面近傍で電流狭窄を行うことができる。これにより、発光層3に注入される電流の幅を良好に制御することができる。
【0033】
また、第1実施形態では、上記のように、p型の上部多層反射膜4を構成するすべての低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に、Al組成の比率を徐々に変化させた組成遷移層4cを形成することによって、電流狭窄を行いながら、p型の上部多層反射膜4の電流通路領域における電気抵抗を小さくすることができる。
【0034】
また、第1実施形態では、上記のように、発光層3の上方に位置する上部多層反射膜4を、発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ組成遷移層4cが形成された低屈折率層4aおよび高屈折率層4bの組を含むように形成することによって、上部多層反射膜4の発光層3の発光部3aに対応する領域が組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出したとしても、発光層3の発光部3aが上方に突出することがない。これにより、発光層3に段差が形成されるのを防止することができるので、発光層3の発光特性が低下するのを防止することができる。また、上部多層反射膜4の発光層3の発光部3aに対応する領域が組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出したとしても、その突出量は、約12nmと小さいので、後のプロセスに問題が生じることがない。
【0035】
図3〜図8は、図1および図2に示した第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図および平面図である。次に、図1〜図8を参照して、第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスについて説明する。
【0036】
まず、図3に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法を用いて、n型GaAs基板1上に、下部多層反射膜2を形成する。具体的には、n型GaAs基板1上に、約59.7nmの厚みを有するn型Al0.12Ga0.88Asからなる30層の高屈折率層2aと、約71.3nmの厚みを有するn型AlAsからなる30層の低屈折率層2bとを交互に成長させる。そして、30層の高屈折率層2aおよび低屈折率層2bの組によって、下部多層反射膜2が構成される。
【0037】
引き続いて、下部多層反射膜2上に、井戸層(図示せず)、障壁層(図示せず)および光ガイド層(図示せず)からなる3重量子井戸構造を有する発光層3を形成する。なお、井戸層を形成する際には、約8nmの厚みを有するGaAs層を成長させるとともに、障壁層を形成する際には、約10nmの厚みを有するAl0.3Ga0.7As層を成長させる。この井戸層と障壁層とによって、活性層が構成される。また、光ガイド層を形成する際には、約100nmの厚みを有するAl0.3Ga0.7As層を成長させる。
【0038】
さらに、発光層3上に、約58.1nmの厚みを有するp型AlAsからなる低屈折率層4a、および、約12nmの厚みを有するAlGaAsからなる組成遷移層4cを順次成長させる。この際、原料ガス(TMGa(トリメチルガリウム)ガス)の流量を制御することによって、組成遷移層4cのAl組成の比率が、約0.12〜約1.0までの範囲内で徐々に変化する傾斜組成を有するように成長させる。また、組成遷移層4cのAl組成の比率が約1.0の側が低屈折率層4aに接するように、かつ、組成遷移層4cのAl組成の比率が約0.12の側が上面になるように成長させる。なお、組成遷移層4cのAl組成の比率を約1.0にする場合のガス流量条件としては、TMGaガス:0sccm、および、TMAl(トリメチルアルミニウム)ガス:約10sccmである。また、組成遷移層4cのAl組成の比率を約0.12にする場合のガス流量条件としては、TMGaガス:約35sccm、および、TMAlガス:約10sccmである。そして、組成遷移層4cを成長させる際には、TMGaガスの流量を、0sccmから約35sccmに徐々に変化させる。なお、Al組成の比率が約1.0である組成遷移層4cの低屈折率層4aに接している面の組成は、AlAsとなる。
【0039】
次に、第1実施形態では、図4および図5に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、組成遷移層4c上の発光層3の発光部3aに対応する領域に、約5μmの直径を有する円形状のフォトレジスト11を形成する。この後、リン酸および過酸化水素水系のエッチング液を用いて、ウェットエッチング技術を用いて、フォトレジスト11をマスクとして、組成遷移層4cをエッチングする。これにより、図6および図7に示すように、組成遷移層4cの発光層3の発光部3aに対応する円形状の領域以外の領域が除去される。このウェットエッチング(等方性エッチング)における深さ方向および横方向のエッチング量は、それぞれ、約12nmおよび約10nmであり、フォトレジスト11の直径(約5μm)に対して小さい。このため、エッチング量がばらついていたとしても、エッチング後の組成遷移層4cの寸法精度にほとんど影響を与えない。この後、フォトレジスト11を除去する。
【0040】
次に、図8に示すように、MOCVD法を用いて、組成遷移層4cを覆うように、約48.7nmの厚みを有するp型Al0.12Ga0.88Asからなる高屈折率層4bを成長させる。これにより、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組において、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間の組成遷移層4cは、発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ形成される。また、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組は、発光層3の発光部3aに対応する領域が、組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出するように形成される。
【0041】
この後、約58.1nmの厚みを有するp型AlAsからなる24層の低屈折率層4aと、約48.7nmの厚みを有するp型Al0.12Ga0.88Asからなる24層の高屈折率層4bとを交互に成長させる。この際、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に、約12nmの厚みを有するAlGaAsからなる組成遷移層4cを成長させる。なお、組成遷移層4cを成長させる際には、組成遷移層4cのAl組成の比率が、約0.12〜約1.0までの範囲内で徐々に変化する傾斜組成を有するように成長させる。また、発光層3の上面に隣接する低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組よりも上方に形成される低屈折率層4a、組成遷移層4cおよび高屈折率層4bの組も、組成遷移層4cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出するように形成される。そして、25層の低屈折率層4aおよび高屈折率層4bと、低屈折率層4aと高屈折率層4bとの間に形成された組成遷移層4cとによって、上部多層反射膜4が構成される。
【0042】
この後、図2に示したように、真空蒸着法を用いて、全面を覆うように、下層から上層に向かって、約0.1μmの厚みを有するCr層(図示せず)と、約1.0μmの厚みを有するAu層(図示せず)とを形成した後、発光層3の発光部3aに対応する領域に位置するCr層およびAu層を除去する。これにより、発光層3の発光部3aに対応する領域に、図1に示したような円形状の開口部6aを有するp側電極6が形成される。最後に、真空蒸着法を用いて、n型GaAs基板1の裏面上に、n型GaAs基板1に近い方から順に、約0.2μmの厚みを有するAuGe層と、約0.01μmの厚みを有するNi層と、約0.6μmの厚みを有するAu層とからなるn側電極7を形成する。このようにして、第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子が形成される。
【0043】
第1実施形態の製造プロセスでは、上記のように、フォトリソグラフィ技術およびウェットエッチング技術を用いて発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ組成遷移層4cを形成することによって、精度良く発光層3の発光部3aに対応する領域にのみ組成遷移層4cを形成することができるので、電流狭窄を精度良く制御することができる。その結果、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することができる。
【0044】
(第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態による面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。図10は、図9の80−80線に沿った断面図である。図9および図10を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、p型GaAs基板上に、p型の下部多層反射膜、発光層およびn型の上部多層反射膜を順次形成する場合の例について説明する。
【0045】
すなわち、この第2実施形態では、図10に示すように、p型GaAs基板21上に、p型の下部多層反射膜24、発光層23およびn型の上部多層反射膜22とが順次形成されている。なお、下部多層反射膜24は、本発明の「第1多層反射膜」の一例であり、上部多層反射膜22は、本発明の「第2多層反射膜」の一例である。
【0046】
下部多層反射膜24は、低屈折率層24a、組成遷移層24cおよび高屈折率層24bの組が25層積層された構造を有している。低屈折率層24aは、約58.1nmの厚みを有するp型AlAsからなるとともに、高屈折率層24bは、約48.7nmの厚みを有するp型Al0.12Ga0.88Asからなる。また、組成遷移層24cは、低屈折率層24aと高屈折率層24bとの間に配置され、低屈折率層24aのAl組成の比率から高屈折率層24bのAl組成の比率に徐々にAl組成の比率を変化させた傾斜組成を有する。この組成遷移層24cは、約12nmの厚みを有するAlGaAsからなるとともに、組成遷移層24cのAl組成の比率は、約0.12〜約1.0までの範囲内で徐々に変化している。なお、組成遷移層24cのAl組成の比率が約1.0の領域の組成は、AlAsである。
【0047】
ここで、第2実施形態では、下部多層反射膜24を構成する25層の低屈折率層24a、組成遷移層24cおよび高屈折率層24bの組のうち、発光層23の下面に隣接する低屈折率層24a、組成遷移層24cおよび高屈折率層24bの組において、低屈折率層24aと高屈折率層24bとの間に形成された組成遷移層24cは、発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ形成されている。すなわち、低屈折率層24aと高屈折率層24bとの間の発光層23の発光部23aに対応する領域以外の領域には、組成遷移層24cが形成されていない。また、発光層23の下面に隣接する低屈折率層24a、組成遷移層24cおよび高屈折率層24bの組は、発光層23の発光部23aに対応する領域が、組成遷移層24cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出している。
【0048】
また、発光層23は、上記第1実施形態の発光層3と同様、井戸層(図示せず)、障壁層(図示せず)および光ガイド層(図示せず)からなる3重量子井戸構造を有している。ただし、発光層23の発光部23は、組成遷移層24cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出している。
【0049】
また、上部多層反射膜22は、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの組が30層積層された構造を有している。高屈折率層22aは、約59.7nmの厚みを有するn型Al0.12Ga0.88Asからなるとともに、低屈折率層22bは、約71.3nmの厚みを有するn型AlAsからなる。また、30層の高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの組の発光層23の発光部23aに対応する領域は、組成遷移層24cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出している。
【0050】
そして、上部多層反射膜22上には、発光層23の発光部23aに対応する領域に、図9に示すような円形状の開口部6aを有するn側電極6が形成されている。また、p型GaAs基板21の裏面上には、p側電極7が形成されている。
【0051】
第2実施形態では、上記のように、発光層23の下方に位置する下部多層反射膜24を、発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ組成遷移層24cが形成された低屈折率層24aおよび高屈折率層24bの組を含むように構成することによって、p型GaAs基板21を用いた場合でも、上記第1実施形態と同様、組成遷移層24cが設けられた発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ電流が流れるように、電流狭窄を行うことができる。これにより、発光層23に注入される電流の幅を数μmに絞ることができる。
【0052】
ただし、第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、発光層23の発光部23aが組成遷移層24cの厚み分(約12nm)だけ上方に突出しているので、発光層23に段差が形成されることにより発光層23の発光特性が低下する可能性がある。
【0053】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
次に、図9および図10を参照して、第2実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスとしては、まず、図3〜図8に示した第1実施形態の上部多層反射膜4の製造プロセスを用いて、p型GaAs基板21上に、下部多層反射膜24を形成する。この場合、発光層23の下面に隣接する低屈折率層24a、組成遷移層24cおよび高屈折率層24bの組において、低屈折率層24aと高屈折率層24bとの間の組成遷移層24cは、フォトリソグラフィ技術およびウェットエッチング技術により、発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ形成する。
【0055】
次に、MOCVD法を用いて、下部多層反射膜24上に、発光層23および上部多層反射膜22を順次形成する。この際、発光層23の発光部23aおよび上部多層反射膜22の発光層23の発光部23aに対応する領域が、組成遷移層24cの厚み分(約25nm)だけ上方に突出するように形成される。この後、真空蒸着法を用いて、発光層23の発光部23aに対応する領域に、図9に示したような円形状の開口部6aを有するn側電極6を形成する。また、真空蒸着法を用いて、p型GaAs基板21の裏面上に、p側電極7を形成する。このようにして、第2実施形態による面発光型半導体レーザ素子が形成される。
【0056】
第2実施形態の製造プロセスでは、上記のように、フォトリソグラフィ技術およびウェットエッチング技術を用いて発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ組成遷移層24cを形成することによって、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、精度良く発光層23の発光部23aに対応する領域にのみ組成遷移層24cを形成することができるので、電流狭窄の幅を精度良く制御することができる。その結果、電流狭窄の幅のばらつきが大きいことに起因する歩留まりの低下を抑制することができる。
【0057】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0058】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、フォトリソグラフィ技術およびウェットエッチング技術を用いて、発光層の上面または下面に隣接する低屈折率層および高屈折率層の組における組成遷移層を、発光層の発光部に対応する領域にのみ形成したが、本発明はこれに限らず、フォトリソグラフィ技術およびウェットエッチング技術以外の他の方法を用いて、組成遷移層を、発光層の発光部に対応する領域にのみ形成してもよい。たとえば、ウェットエッチングに代えて、ドライエッチングを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。
【図2】図1の50−50線に沿った断面図である。
【図3】図1および図2に示した第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図4】図1および図2に示した第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。
【図5】図4の60−60線に沿った断面図である。
【図6】図1および図2に示した第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。
【図7】図6の70−70線に沿った断面図である。
【図8】図1および図2に示した第1実施形態による面発光型半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態による面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。
【図10】図9の80−80線に沿った断面図である。
【図11】従来の面発光型半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。
【図12】図11の100−100線に沿った断面図である。
【符号の説明】
2、24 下部多層反射膜(第1多層反射膜)
2a、4b、22a、24b 高屈折率層
2b、4a、22b、24a 低屈折率層
4、22 上部多層反射膜(第2多層反射膜)
4c、24c 組成遷移層

Claims (5)

  1. 第1多層反射膜と、
    前記第1多層反射膜上に形成された活性層と、
    前記活性層上に形成された第2多層反射膜とを備え、
    前記第1多層反射膜および前記第2多層反射膜を構成する前記活性層に隣接する少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層は、
    前記活性層の発光部に対応する領域に位置し、前記高屈折率層および前記低屈折率層の間に、前記高屈折率層の組成および前記低屈折率層の組成との間の組成を徐々に変化させた組成遷移層が設けられた第1領域と、
    前記第1領域以外の領域に位置し、前記高屈折率層および前記低屈折率層が接している第2領域とで構成され、
    前記第1多層反射膜または前記第2多層反射膜を構成する層のうち、前記活性層に隣接する少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層以外の層は、前記高屈折率層と前記低屈折率層の間に、組成遷移層が設けられる、面発光型半導体レーザ素子。
  2. 前記1組の高屈折率層および低屈折率層の前記第1領域において、前記高屈折率層の厚み、前記低屈折率層の厚み及び前記組成遷移層の厚みの合計がλ/4n(λ:発振波長、n:屈折率)の厚みを有する、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ素子。
  3. 前記第2領域は、高抵抗領域である、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ素子。
  4. 活性層を形成する工程と、
    高屈折率層と低屈折率層との間に前記高屈折率層の組成および前記低屈折率層の組成との間の組成を徐々に変化させた組成遷移層を有する多層反射膜を形成する工程とを備え、
    前記多層反射膜を形成する工程は、
    前記活性層に隣接する少なくとも1組の前記高屈折率層および前記低屈折率層に対して、
    前記活性層の発光部に対応する領域および前記発光部に対応する領域以外の領域に前記組成遷移層を形成した後に、前記発光部に対応する領域以外の領域に位置する前記組成遷移層をエッチングにより除去することによって、前記活性層の発光部に対応する領域に位置し、前記高屈折率層と前記低屈折率層との間に前記組成遷移層が設けられた第1領域と、前記第1領域以外の領域に位置し、前記高屈折率層および前記低屈折率層が接している第2領域とを形成する工程を含む、面発光型半導体レーザ素子の製造方法。
  5. 前記多層反射膜を形成する工程は、
    前記活性層を形成した後に、前記活性層上に前記多層反射膜の第1領域および第2領域を形成する工程を含む、請求項に記載の面発光型半導体レーザ素子の製造方法。
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