JP4211956B2 - 画像作成方法及び画像作成装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、木目柄パターンをもった印刷物にエンボス加工するための導管断面パターン、及び万線パターンを作成するための方法、及びそのための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
壁紙などの建材製品や、種々の商品のパッケージなどの模様として、木目柄パターンは広く利用されている。このような木目柄パターンをもった印刷物を作成する場合、通常は、天然木の材面をカメラなどで撮影し、この天然木のもつ木目柄パターンをそのまま利用する方法が採られる。また、近年では、印刷分野においてもコンピュータを利用した画像処理技術が普及してきているため、天然木の木目柄パターンをCCDカメラなどで画像データとして取り込み、この画像データに対して、コンピュータを利用して必要な画像処理を施し、処理後の画像データに基づいて印刷を行うという手法も広く行われている。
【0003】
ところで、一般に、木目柄パターンは、年輪パターンと導管断面パターンとを含んでいる。年輪パターンは、樹木の年ごとの成長に合わせて形成されるパターンである。通常は、樹木の成長環境における寒暖の差に基づいて濃淡の差が生じ、この濃淡の差がそのまま年輪パターンとして現れることになる。従って、1年毎の周期的な濃淡パターンになる。一方、導管断面パターンは、樹木の導管を切断することによって得られる断面パターンである。導管は、樹木が植物としての生理作用を営むために必要な器官であり、幹から梢に向かって伸びる細い管であり、その断面は細長い楕円状になるのが一般的である。したがって、天然木の板目に現れる木目柄パターンを観察すると、全体的には年輪パターンが認識されるが、細かく見ると、小さな導管断面パターンが多数配置されているのが認識される。
【0004】
壁紙などでは、上述のような天然木の木目柄パターンの風合いをできるだけ忠実に再現するために、年輪パターンと導管断面パターンとを重畳して木目柄パターンを表現するのが一般的である。通常は、天然木の材面から、年輪パターンと導管断面パターンとをそれぞれ別個に撮影し、別個の版を作成し、印刷時に両者を合成する手法が採られる。年輪パターンと導管断面パターンとは、いずれも印刷によって塩化ビニルシートなどの媒体上に形成されることもあるし、年輪パターンを印刷によって、導管断面パターンをエンボス凹凸構造によって、それぞれ別個に形成することもある。元々、天然木についての導管断面は凹凸構造を有するため、導管断面パターンをエンボス凹凸構造として形成すれば、より天然木に近い質感が表現できるからである。
【0005】
しかしながら、天然木の板目から導管断面パターンを抽出する作業は、かなり手間のかかる作業になる。意匠性の高いパターンを抽出するためには、意匠的に優れた導管断面パターンを有する板材を選定するところから始めなければならない。しかも、撮影によって鮮明なパターン抽出ができるように、パターンが明瞭に現れた板材を用意する必要があるが、天然木の板目から鮮明な導管断面パターンを抽出する作業は、技術的には非常に困難な作業になる。この作業は、通常は、カメラで板目を写真撮影し、スキャナ装置によってこの写真から導管断面パターンをデジタルデータとして取り込むか、あるいは、デジタルカメラで板目から直接導管断面パターンを取り込むことによって行われる。ところが、カメラやスキャナの空間解像度には限界があり、微小な導管断面の形状を忠実にパターンデータとして取り込むことは困難である。特に、天然木によっては、板目に現れた導管部と非導管部との色調差が微差である場合があり、このような板目に対しては、画像入力系の感度、ダイナミックレンジ、量子化ビット数、A/Dビット数などの限界から、導管断面パターンを忠実に取り込むことは非常に困難になる。このような場合、導管部のみを染料などで着色した後に写真撮影するなどの手法も採られているが、導管部のみを正確に着色することは技術的に困難であり、また、着色という余分な工程が必要になるため、手間が増大するという問題が生じる。
【0006】
このような問題に対処するため、コンピュータを利用して人為的に木目導管断面パターンを生成するための手法も提案されている。たとえば、特願平7−99713号明細書には、三次元空間内に導管モデルを定義し、これを所定の切断面で切断することにより、木目導管断面パターンを得る手法が開示されている。しかしながら、従来提案されている手法では、天然木に近い自然な木目導管断面パターンや、意匠性の高い木目導管断面パターンを生成することが困難であり、特に、天然木に固有の木理(導管や繊維など軸方向要素の配向性)を考慮したパターンを生成することができない。
【0007】
そこで、本出願人は、先に、特願平8−168505号(特開平9−327969号)において、天然木のもつ木理の要素を考慮した自然な木目導管断面パターンあるいは意匠性の高い木目導管断面パターンを、人為的に発生させることのできるパターンの作成方法および作成装置を提案した。
【0008】
また、一般に、天然木にみられる木目模様には、上述した年輪パターン、導管断面パターン以外にも、「照り」と称される光沢模様が観察される。この照りは、材面からの反射光に基づいて生じる模様である。天然木の材面では、繊維質の配向性が部分ごとに異なっており、この配向性の分布が照り模様として観察されることになる。これは光の反射に基づいて生じる模様であるため、同一の材面であっても、光源からの光の入射方向および観察者による観察方向によって、異なった照り模様が現れることになる。つまり、照り模様は繊維質からの異方性反射によって生じるものであるということができる。
【0009】
このように、照り模様は、光学的な観察条件によって変化するという特有の性質をもった模様であるため、塩化ビニールなどのシート上に木目柄を印刷した人工的な建材の場合、通常の印刷層のみによって表現することは困難である。そこで、木目柄を印刷した化粧シートにエンボス加工を施したり、あるいは化粧シートの上にエンボス加工を施したシートを形成した積層構造を採り、このエンボスシートの表面の凹凸構造により、照り模様を表現する技術が提案されている。
【0010】
万線パターンをエンボス加工することによって照りが表現できる原理は概略次のようである。
図28は、万線パターンをエンボス加工して万線条溝Gが形成されたシートEの斜視図であり、この例では、幅W1の万線条溝GがW2の間隔で多数形成されている。シートEの全体の厚みD1に対して、万線条溝Gは深さD2の溝を形成しており、多数の万線条溝Gがほぼ平行に配置されている。このような万線条溝Gからなるパターンは、幅W1をもった凹部と幅W2をもった凸部との二段階の段差構造を有している。
【0011】
このような万線条溝Gが形成されたシートEは、その表面から得られる反射光の強度が位置によって異なることが知られている。つまり、異方性反射を行うのである。そして、このようなシートEを見る視線を連続的に変化させると、強く反射する箇所、即ち輝度が高く、明るく光る箇所が変化していく。これが照りの移動と称されるものである。
【0012】
ところで、上述したような照り、及び照りの移動を表現する万線パターンとしては、エンボス加工を行った場合に、天然の木材が発現するような自然な照り、及び照りの移動を表現できるものが望ましいことは当然である。そこで、天然の木材が照り、及び照りの移動を発現する原理を考えると、それは、木材表面における繊維潜り角に起因していることが知られている。概略説明すると次のようである。
【0013】
図29は、材木板表面の繊維質の配向性と鏡面反射率との関係を説明する図である。いま、材木板100の表面(切断面J)に、図に繊維方向ベクトルF→(電子出願の制約から、本来符号の上部に付記するベクトル記号“→”を符号右側に付記することにする)として示すような配向性をもって繊維Fが配置されているものとする。このとき、切断面Jと繊維Fとのなす角ξは繊維潜り角と呼ばれている。
【0014】
そして、材木板100の上方に仮想光源200(面光源)を仮定し、この仮想光源200から材木板100の表面(切断面J)に対して垂直な光線が照射され、この表面からの仮想光源方向への拡散反射光および鏡面反射光を観察することを考える。この場合、観察される拡散反射光の強度は、材木板100の表面の木目模様の色成分によって左右され、この拡散反射光による画像は、いわゆる着色された模様として認識されることになる。一方、観察される鏡面反射光の強度W(光沢度)は、繊維潜り角ξによって左右され、通常、図30のグラフに示すような関係となる。より正確には、各部における鏡面反射光強度は、光の照射方向と繊維潜り角ξとの双方によって決定される。即ち、図29に示すように、切断面J上の点Pにおいて、光線方向ベクトルL→と繊維方向ベクトルF→とを図のように定義すれば、両ベクトルの交錯角φによって点Pにおける鏡面反射光強度が決定されることになる。上述の例のように、光線方向ベクトルL→が切断面Jに対して垂直であるモデルの場合、ベクトル交錯角φ=90°−ξとなり、図30のグラフに示すように、φ=90°のときに鏡面反射光強度が最高になり、φ= 0°のときに最低となる。
【0015】
実際の天然木から切り出した材木板の表面に照り模様が見られるのは、切断面上の各部分ごとに異なる繊維潜り角ξが得られるからであり、この部分毎に異なる繊維潜り角ξに基づいて照り模様が現れることになるのである。また、以上のことから、例えば図29において観察位置を変えずに仮想光源200を移動させた場合、あるいは仮想光源200の位置を固定して観察位置を変えた場合には、材木板100の照りが発現する位置が変化することになることは明らかであろう。これが照りの移動である。
【0016】
以上のことから、導管断面パターンと、繊維潜り角に基づいて発生させた万線パターンとの両方をエンボス加工したエンボスシートを木目柄パターンをもつ印刷物に貼付する、あるいは木目柄パターンをもつ化粧シートに直接導管断面パターンと繊維潜り角に基づいて発生させた万線パターンの両方をエンボス加工することによって、木目柄パターンをもつ印刷物を、より自然な風合いをもち、意匠性の高いものとすることができることが分かる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ただ単に、導管断面パターンと、繊維潜り角に基づいて発生させた万線パターンをエンボス加工すればよいのではない。なぜなら、導管断面パターンと繊維潜り角とは密接な関係があるからである。即ち、上述したところから明らかなように、繊維潜り角は、繊維の延びる方向と木材表面とのなす角度であるが、導管も概ね繊維の方向に沿って延びていることが知られている。従って、図31のAで示すように繊維潜り角ξが大きい繊維の近傍では、木材表面に現れる導管断面は略点状なものとなるが、一方、図31のBで示すように繊維潜り角ξが小さい繊維の近傍では、木材表面に現れる導管は線状なものとなる。
【0018】
このように、導管断面パターンと、繊維潜り角とは密接な関係があるものであるので、エンボス加工を施すための導管断面パターンと、万線パターンとは無関係なものではなく、同調したものでなければならない。即ち、ある箇所の万線パターンは当該箇所の導管断面パターンに対応したパターンでなければならず、逆に、ある箇所の導管断面パターンは当該箇所の繊維潜り角に対応したものでなければならない。
【0019】
しかし、従来においては、このような同調した導管断面パターンと万線パターンを作成することはできないものであった。
【0020】
そこで、本発明は、同調した導管断面パターンと万線パターンを作成することができる画像作成方法及び画像作成装置を提供することを目的とするものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係る画像作成方法は、天然木材の表面に現れる照りを表現するための万線パターンと、木目柄パターンに含まれる導管断面パターンとを作成するための画像作成方法であって、
ベクトル発生手段によって、木理の要素をもった3次元の仮想樹木モデルを構築するための3次元ベクトル場を発生させる第1の工程と、
繊維潜り角演算手段により、第1の工程で発生させた3次元ベクトル場を所定の画像作成面で切断したときの当該画像作成面の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を求めて、当該画像作成面上の各点に繊維潜り角を定義する第2の工程と、
方向ベクトル演算手段によって、第2の工程において画像作成面上の各点に定義された繊維潜り角を、それぞれ、所定の変換式を用いて、当該画像形成面に沿った方向ベクトルに変換する第3の工程と、
パターン生成手段によって、万線パターンを描画する作成画像上に、所定の幅を有し、第3の工程で得られた方向ベクトルに沿って配置された万線を定義し、これら定義された万線から構成される2値画像パターンである万線パターンを生成する第4の工程と、
導管断面パターン作成手段により、第1の工程で発生された3次元ベクトル場の、第2工程で繊維潜り角を定義した画像作成面に現れる導管断面のパターンを求めて導管断面パターンを作成する第5の工程と
を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る画像作成装置は、天然木材の表面に現れる照りを表現するための万線パターンと、木目柄パターンに含まれる導管断面パターンとを作成するための画像作成装置であって、
木理の要素をもった3次元の仮想樹木モデルを構築するための3次元ベクトル場を発生させるベクトル発生手段と、
所定の画像形成面によって、前記3次元ベクトル場を切断したときに、切断面上の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を求め、前記画像形成面上の各点に繊維潜り角を定義する繊維潜り角演算手段と、
与えられた繊維潜り角を前記画像形成面に沿った方向ベクトルに変換する所定の変換式に基づいて、前記画像形成面上の各点に定義された繊維潜り角をそれぞれ方向ベクトルに変換する方向ベクトル演算手段と、
作成画像上に、所定の幅を有し、前記方向ベクトルに沿って配置された万線を定義し、これら万線パターンから構成される2値画像パターンを生成するパターン生成手段と、
前記ベクトル発生手段で発生された3次元ベクトル場の、前記繊維潜り角を定義した仮想切断面に現れる導管断面のパターンを求めて導管断面パターンを作成する導管断面パターン作成手段と
を備えることを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ実施の形態について説明するが、本発明の実施形態の説明に先立って、まず、照り模様について説明する。
【0024】
[1]天然木の材面に現れる照り模様の本質
本発明の主眼の一つは、天然木の材面に現れる自然な照り模様を、エンボスシートを用いて、あるいは直接エンボス加工を施すことによって人為的に再現することにある。そこで、まず、天然木の材面に現れる照り模様の本質について述べることにする。
【0025】
既に述べたように、一般的な天然木の材面には、年輪模様、導管溝模様、照り模様が存在する。ここで照り模様は、入射光の角度や観察方向によって変化する特有の模様であり、一般に「照り」あるいは「もく」と呼ばれている。例えば、天然木から切り出した材木板をある方向から観察すると、図1(a)の網掛けして示す領域が白っぽく光って見え、観察方向を若干変えると、今度は、図1(b)の網掛けして示す領域のように、別な領域が白っぽく光って見える。このように、照り模様のパターンが観察角度によって変化するのは、天然木の材面上では、繊維質の配向性が部分ごとに異なっているためである。天然木の内部には、植物としての営みを行うために、細胞、導管、繊維などの種々の要素が含まれており、これらの要素は全体的には樹木の成長方向を向いている。ここでは、このように樹木の成長方向に沿った軸方向要素を包括的に繊維質と呼ぶことにする。
【0026】
このように、天然木の繊維質の配向性は、全体的には樹木の成長方向を向いているものの、部分的にはその配向性にバラツキを生じていることが多い。このような配向性は一般に「木理」と呼ばれており、配向性の状態により、波状木理、螺旋木理、交錯木理といった名称で呼ばれている。例えば、実際の天然木の成長方向が基準軸Aの方向だとすると、天然木内部の繊維質は全体としてはこの基準軸Aに沿った方向に伸びているが、部分的にはその配向性にバラツキが生じていることになる。このような部分的な配向性のバラツキが、材面上では照り模様として認識されることになるのである。
【0027】
ここでは、この「木理」の概念を視覚的に把握できるように、図2に示すような基準繊維束モデルを考える。ここに示すモデルは、樹木内の導管や繊維などの軸方向要素の配向性を、多数の細長い円筒状繊維の束で示したものであり、樹木を構成する繊維質の流れの向きを示すものである。勿論、実際の天然木は、このような単純な円筒状繊維の束から構成されるわけではなく、細胞、導管、繊維など多数の要素を含んでいるが、ここではこれら多数の要素の軸方向要素の配向性を示すモデルとして、円筒状の繊維束モデルを用いることにする。基本的には、この図2に示すように、繊維束の配向性は成長方向を向いた基準軸Aに沿ったものとなり、個々の繊維はいずれも基準軸Aに平行に配置されるはずである。即ち、ある繊維上での着目点Pと、同じ繊維上の隣接点Qとの位置関係を考えると、点Pから点Qへ向かうベクトル(以下、繊維方向ベクトルと呼ぶ)は、基準軸Aの方向を向いたものになる。しかしながら、自然界で成長する樹木には、その成長過程において、部分的に配向性が異なる現象が多くみられ、そのような配向性のバラツキ現象が「木理」として現れることになる。
【0028】
例えば、図3の左側に示すように、基準軸Aに対して垂直な方向をBとし、基準軸Aに沿った方向を示すベクトルにB方向の成分を部分的に付加することにより繊維方向ベクトルF1→を定義する。そして、個々の繊維がこの繊維方向ベクトルF1→に沿った方向を向くように、図2に示す基準繊維束モデルを歪ませると、図3の右側に示すような歪曲繊維束モデルが得られる。図2のモデルにおける点P,Qは、図3のモデルではそれぞれ点P′,Q′へと変位しており、点P′から点Q′へ向かうベクトルは、点P(もしくは点P′)の位置における繊維方向ベクトルF1→となる。このような歪曲繊維束モデルは、一般に波状木理と呼ばれている木理を含んだモデルとなる。
【0029】
また、図4の左側に示すように、基準軸Aの周囲を螺旋状に取り巻く繊維方向ベクトルF2→を定義し、個々の繊維がこの繊維方向ベクトルF2→に沿った方向を向くように、図2に示す基準繊維束モデルを歪ませると、図4の右側に示すような歪曲繊維束モデルが得られる。図2のモデルにおける点P,Qは、図4のモデルではそれぞれ点P′,Q′へと変位しており、点P′から点Q′へ向かうベクトルは、点P(もしくは点P′)の位置における繊維方向ベクトルF2→となる。このような歪曲繊維束モデルは、一般に螺旋木理と呼ばれている木理を含んだモデルとなる。
【0030】
続いて、繊維質の配向性と照り模様との関係を考えてみると次のようである。いま、図2に示すような基準繊維束モデル、即ち、繊維質の配向性がすべて基準軸Aに沿ったモデルを、図5に示すように、基準軸Aに垂直な切断面Jで切った場合と、図6に示すように、基準軸Aに平行な切断面Jで切った場合について、それぞれ切断面Jの鏡面反射光強度(光沢度)を比べてみる。一般に、図5に示すように、樹木の成長方向(基準軸Aの方向)に対して垂直な切断面で天然木を切断したときに現れる切り出し面は「木口面」と呼ばれており、図6に示すように、樹木の成長方向(基準軸Aの方向)に対して平行な切断面で天然木を切断したときに現れる切り出し面は「柾目面」と呼ばれている。なお、より正確には、「柾目面」とは、特に中心軸を通る面で切断した場合の切り出し面をいい、切断面が成長方向に平行ではあるが、中心軸からはずれている場合は「板目面」というのであるが、ここではこれらを総称して「柾目面」と称することにする。
【0031】
図5に示すような「木口面」による切断を行うと、材木板表面に対して、個々の繊維は垂直に潜るような配向性を有することになり、照射された光は材木板内部で吸収されやすくなり、外部に出てきにくくなる。従って、表面の鏡面反射率は低くなり、光沢感のない面になる。これに対し、図6に示すような「柾目面」による切断を行うと、材木板表面に対して、個々の繊維は水平に寝るような配向性を有することになり、照射された光の多くは材木板内部へは浸透せずに表面で反射することになる。従って、表面の鏡面反射率は高くなり、光沢感のある面になる。勿論、観察者から見た光沢感は、表面の鏡面反射率だけでなく、光源の方向および観察方向に基づいて定まることはいうまでもない。
【0032】
そして、図29に示す材木板表面の繊維質の配向性と鏡面反射率との関係を用いると、図5に示す「木口面」による切断の場合、繊維潜り角ξ=90°となり、図6に示す「柾目面」による切断の場合には、繊維潜り角ξ= 0°となる。また、観察される鏡面反射光の強度W(光沢度)と、繊維潜り角ξとの関係は図30に示すようであり、図5に示す「木口面」による切断の場合、繊維潜り角ξ=90°となるため鏡面反射光強度Wが小さくなり、光沢感が少なくなる。逆に、図6に示す「柾目面」による切断の場合、繊維潜り角ξ= 0°となるため鏡面反射光強度Wが大きくなり、光沢感が大きくなる。
【0033】
ところで、図2に示すような基準繊維束モデルを平面で切断した場合、その切断方向によって、切断面全体の光沢感の大小は左右されるが、光沢感の部分的な大小分布は生じないので、いわゆる照り模様は発生しない。実際の天然木から切り出した材木板の表面に照り模様が見られるのは、実際の天然木には、図3あるいは図4に示したような木理の要素が含まれているためである。このように、木理の要素を含んだ樹木を切断すると、切断面上の各部分ごとに異なる繊維潜り角ξが得られることになり、この部分毎に異なる繊維潜り角ξに基づいて照り模様が現れることになる。もっとも、天然木の木理に基づく繊維質の配向性の変化は、自然の揺らぎをもった緩やかなものであるため、材面の観察角度を変えることにより現れる照り模様の変化も、自然の揺らぎをもった緩やかなものになる。要するに、天然木には、木理による「繊維質の独特な流れ」が存在し、部分的に繊維質の流れが変わると、上述したように鏡面反射光の強度にも変化が現れるため、部分的に「反射ムラ」が生じることになり、いわゆる「照り模様」が現れることになるのである。
【0034】
[2]本発明による照り模様再現へのアプローチ
上述したように、天然木の材面に現れる照り模様の本質は、木理に基く繊維潜り角ξの分布にあり、繊維潜り角ξがほぼ同じ領域が、ある特定の観察条件において同時に光って見えることになる。従って、天然木の照り模様を全く同じ原理で再現するためには、エンボス加工を施すシートの表面に種々の繊維潜り角ξをもった繊維質の構造を物理的に再現する必要がある。しかしながら、現在のエンボス加工技術では、商業用の建材製造プロセスに、このような実際の繊維質構造を再現するための複雑な工程を組み込むことは現実的ではない。現在、一般的に利用されているエンボス版の製造方法は、ダイレクトエッチング法と呼ばれる方法であり、この方法で作成されたエンボス版上には、凹部と凸部との二段階の段差構造が形成されるだけである。このダイレクトエッチング法を何回か繰り返し行えば、多段構造を得ることもできるが、種々の繊維潜り角ξをもった繊維質の構造を物理的に再現することは不可能である。
【0035】
本発明における照り模様の表現の基本概念は、実際の天然木の材面に現れる繊維潜り角ξという要素を、エンボス加工を施すシート上では万線条溝の方向に置き換え、多数の万線条溝として、照り模様を表現する点にある。一般に、多数の細かな線からなるパターンは、万線パターンと称されており、この万線パターンを図28に示すように、化粧シート等のシート上に凹凸構造をもった万線条溝として形成するのである。
【0036】
図28に示すような万線条溝Gが形成されたシートEは、その表面から得られる反射光の強度が観察方向によって異なる、いわゆる異方性反射を行うことが知られている。このシートEを、万線条溝Gに平行な面で切断した断面を図7(a)に示し、万線条溝Gに垂直な面で切断した断面を図7(b)に示す。図7(a)に示すように、万線条溝Gに対して平行な方向から入射した光は、万線条溝Gの底面で反射して、そのまま万線条溝Gに沿った方向へと鏡面反射光として射出する。これに対して、図7(b)に示すように、万線条溝Gに対して垂直な方向から入射した光は、万線条溝Gの壁面および底面で何回も反射して、最終的にバラバラな方向へ拡散反射光として射出する。このため、万線条溝Gに平行な方向から観察すると、強い鏡面反射光が得られるが、万線条溝Gに垂直な方向から観察すると、鏡面反射光は弱くなる。
【0037】
万線条溝Gのこのような性質を利用すれば、照り模様を疑似的に表現することが可能になる。例えば、図8の平面図に示すように、シートEの表面全体に渡って万線条溝Gを形成しておき、しかも、ある部分領域についての万線条溝Gの向きを異ならせておけば、この部分領域から得られる鏡面反射光の強度は、他の部分領域から得られる鏡面反射光の強度とは異なることになり、いわゆる照り模様が観察されることになる。なおこのとき、鏡面反射光の強度が強くなるか、弱くなるかは、観察方向によって変化することは上述した通りである。従って、このようなエンボスシートEを透明材料によって構成しておき、図9に示すように、このエンボスシートEを木目柄を印刷した印刷シートS上に積層するようにして壁紙や床材などの建材を構成すれば、照り模様をもった木目柄建材を得ることができる。また、このような万線条溝Gを木目柄を印刷したシートに直接エンボス加工してもよい。
【0038】
もっとも、このような万線条溝GをもったエンボスシートEを建材に用いて、照り模様を表現する手法自体は、既に述べたように、特開平5−289302号公報や特開平8−323948号公報に開示されている。しかしながら、従来の手法では、例えば正弦波を基調とした波状の万線条溝を形成したり、便宜的に複数の閉領域を定義して各閉領域ごとに所定の向きの万線条溝を形成したりしていたため、実際の天然木の材面に見られる自然な風合いをもった照り模様を十分に再現することが困難であったのである。
【0039】
本発明の特徴は、[1]で述べた天然木の材面に現れる照り模様の本質を踏まえた上で、同様の照り模様を万線条溝によって疑似的に表現する点にある。天然木の材面に現れる照り模様は、繊維潜り角ξの分布に基づくものであるのに対し、万線条溝を有するエンボスシート上に現れる照り模様は、万線条溝の平面上での向き(方向ベクトル)の分布に基づくものである。そして、前者では、繊維潜り角ξがほぼ等しい領域が、ある状態において同時に白っぽく光っている様子が見られるのに対し、後者では、万線条溝の方向ベクトルがほぼ等しい領域が、ある状態において同時に白っぽく光っている様子が見られることになる。元々繊維潜り角ξは、図29に示したように、平面と繊維ベクトルF→との交差角として定義されたものであるのに対し、万線条溝の方向ベクトルは、平面上での万線条溝の向きを示すものである。従って、繊維潜り角ξと万線条溝の方向ベクトルとは、理論的には全く異なる物理量ではあるが、両者はいずれも観察時の反射光強度を支配するパラメータとして機能するという共通点を有する。本発明者は、この共通点に着目し、実際の天然木の材面に現れる繊維潜り角ξという要素を、万線条溝の方向ベクトルという要素に関連付けることによって、より天然木に近い照り模様を表現することに想到したのである。
【0040】
[3]本発明に係る万線パターンの作成方法
次に、図10(a)のフローチャートを参照しつつ、より天然木に近い木調質感を表現できる万線パターンの作成方法の基本手順を説明する。まず、ステップS10において、繊維潜り角を定義する。即ち、まず所定の画像形成面を定義し、この画像形成面上の各点に、それぞれ木材の繊維の配向性を示す繊維潜り角ξを定義する。その概念を図10(b)に示す。図10(b)は、画像形成面J上の点Pに繊維ベクトルF→と画像形成面Jとのなす角度ξを繊維潜り角として定義した状態を示している。ステップS10では、このように、画像形成面J上のすべての点に対して、それぞれ所定の繊維潜り角ξを定義する。もっとも、実際には、後の[4]で述べるように、最終的な万線パターンは個々の画素によって構成されることになるので、画像形成面J上に有限個の点を定義し、これらの各点について、それぞれ繊維潜り角ξを定義すればよい。
【0041】
以下、繊維潜り角ξを定義する具体的な方法を述べる。最も好ましいと考えられる方法は、所定の基準軸に対する配向性が部分毎に異なる3次元ベクトル場を定義し、この3次元ベクトル場を画像形成面で切断し、切断面上の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を定義する方法である。例えば、図11に示すような波状木理を表現した歪曲繊維束モデルを生成し、このモデルを所定の切断面J(この例では柾目面)で切断したとすると、図12に示すように、切断面J上の任意の点Pについて繊維ベクトルF→を求めることができる。ここで、繊維ベクトルF→は、図11に示す歪曲繊維束モデルを構成する繊維のうち、点Pに位置する繊維の向きを示すベクトルである。このような繊維ベクトルF→が求まったら、切断面Jと繊維ベクトルF→とのなす角ξを求めれば、この角ξが点Pにおける繊維潜り角となる。切断面Jを画像形成面とすれば、画像形成面上の各点に、それぞれ所定の繊維潜り角ξを定義することができる。
【0042】
ところで、図11に示す歪曲繊維束モデルは、図2に示す基準繊維束モデルを、図3の左側に示す繊維ベクトルF1→に沿って歪ませることにより得られたものであり、その本質は、3次元ベクトル場に他ならない。この3次元ベクトル場は、所定の方程式を用いて定義することができる。例えば、XYZ3次元座標系において、図2に示すような基準繊維束モデルを構成する各点の位置を座標値(x,y,z)で定義しておき、
x′=x+α・sin(β・z)
y′=y
z′=z
なる変換式(αおよびβは所定の定数、乱数もしくは関数)に基づいて、新たな座標値(x′,y′,z′)を求め、座標値(x,y,z)に位置していた点を、新たな座標値(x′,y′,z′)へと移動させれば、移動後の点の集合によって図3に示すような波状木理の歪曲繊維束モデルが形成される。ここで、図2のモデルにおいて基準軸Aに沿って配置されていた2点P,Qが、図3のモデルではそれぞれ点P′,Q′に移動したとすれば、点P′から点Q′に向かう方向を、例えば点P′におけるベクトル場の方向と定義することができる。別言すれば、上述の変換式によって、図3に示すような波状木理に相当する3次元ベクトル場を定義することができる。同様に、図4に示すような螺旋木理に相当する3次元ベクトル場は、θ0 およびβを所定の定数、乱数もしくは関数として、
x′=r・cos(θ0 +θ)
y′=r・sin(θ0 +θ)
z′=z
ただし、r=(x2+y2)1/2
θ=β・z
なる座標変換式によって定義することができる。
【0043】
結局、ステップS10における繊維潜り角の定義の処理は、上述した座標変換式などを用いて3次元ベクトル場を定義し、この3次元ベクトル場内に所定の切断面J(画像形成面)を定義し、この切断面J上の各位置について、ベクトルと切断面とのなす角度ξを演算によって求める処理として実行することができる。いわば、この方法は、コンピュータ内に木理の要素をもった3次元の仮想樹木モデルを構築し、これを仮想切断面で切断したときの繊維潜り角を求める処理ということができる。
【0044】
このようにして画像形成面上の各点に繊維潜り角ξを定義した後は、続いてステップS20において、画像形成面上の各点に方向ベクトルを生成する。そのためには、まず、与えられた繊維潜り角ξを画像形成面Jに沿った方向ベクトルに変換する変換式を定義しておく必要がある。その概念を図10(c)に示す。この図では、画像形成面J上の点Pの位置に、画像形成面Jに含まれる方向ベクトルV→が定義されている。ここでは、この方向ベクトルV→を、画像形成面J上に定義された参照線Rとのなす各θで表わすことにし、変換式としてθ=f(ξ)なる関数を用い、繊維潜り角ξを角度θに変換することにする。このような変換式を用いれば、ステップS10において定義された全ての繊維潜り角ξを、角度θに変換することができ、画像形成面上の各点にそれぞれ所定の方向ベクトルV→を定義することができる。
【0045】
図13は、繊維潜り角ξを角度θに変換するための変換式の一例を示すグラフである。この例では、θ=90°+ξなる変換式を用いて線形変換を行っている。即ち、繊維潜り角ξ=−90°に対しては角度θ= 0°が与えられ、繊維潜り角ξ= 0°に対しては角度θ=90°が与えられ、繊維潜り角ξ=90°に対しては角度θ= 180°が与えられる。勿論、本発明におけるξとθとの間の変換式は、図13のグラフに示す変換式に限定されるものではなく、所定のξに対して何らかのθが定まれば、どのような変換式を用いてもかまわない。しかしながら、より効果的な照り模様を得るためには、繊維潜り角ξの増加に対して、角度θが単調増加もしくは単調減少するような変換式を用いるのが好ましいことが確認されている。
【0046】
図14及び図15は、図13のグラフに示す変換式を用いて、繊維潜り角ξを角度θに変換する処理の具体例を示す図である。図14の斜視図に示すように、切断面J(画像形成面)上の所定点P1,P2,P3には、各位置における繊維ベクトルF1→,F2→,F3→(3次元ベクトル場における各点のベクトル)と切断面Jとのなす角として、それぞれ繊維潜り角ξ1=60°,ξ2= 0°,ξ3=−30°が定義されている。この場合、θ=90°+ξなる変換式を用いて、図15の平面図に示すように、点P1,P2,P3の各位置には、切断面J(画像形成面)に含まれる方向ベクトルV1→,V2→,V3→が定義されることになる。ここで、切断面Jの一片に参照線Rを定義すると、方向ベクトルV1→,V2→,V3→と参照線Rとのなす角は、それぞれθ1= 150°,θ2=90°,θ3=60°になる。
【0047】
この具体例では、所定点P1,P2,P3の3点についての例を示したが、実際には、[4]で後述するように、切断面J上に所定の解像度で画素配列を定義し、個々の画素位置、例えば各画素の中心位置に対応する有限個の点について、このような処理が実行されることになる。繊維潜り角ξは、−90°≦ξ≦90°の範囲をとるので、例えば、この例のように、θ=90°+ξなる変換式を用いた変換を行うと、角度θは、 0°≦θ≦ 180°の範囲をとる角度になり、図15に示す参照線Rを基準にすると、方向ベクトルV→は、図の右方向(θ= 0°の場合)および左方向(θ= 180°の場合)の臨界方向を含めて、図の下方へ向かうベクトルになる。この方向ベクトルV→のとるべき方向の範囲は、定義すべき変換式次第で制御することが可能であり、例えば、θ=90°+ξ/2 なる変換式を定義すれば、角度θは、45°≦θ≦ 135°の範囲をとることになる。
【0048】
こうして、切断面(画像形成面)J上の各点(個々の画素位置)にそれぞれ方向ベクトルV→が定義できたら、ステップS30において、各方向ベクトルに沿った万線パターンが形成される。その概念を図10(d)に示す。この図には、点Pにおいて、方向ベクトルV→に沿った万線Mを形成した状態が示されている。
【0049】
さて、画像形成面J上の各点に定義された方向ベクトルV→により、この面上には2次元ベクトル場が形成されている。ステップS30の万線パターン形成のステップでは、この2次元ベクトル場に沿った多数の万線を形成する処理が行われることになる。その具体的な処理手順については、[4]において述べる。
【0050】
[4]万線パターン形成処理の具体的な手順
ここでは、図10の流れ図にステップS30として示した万線パターン形成のステップの具体的な手法を述べる。図16は、その具体的な手順を示す流れ図である。
まず、ステップS31において、万線パターンを描画する作成画像のサイズを設定し、この作成画像の全ての画素の画素値を 0に設定しておく。ここでは幅をw(以下、x方向とする)、高さをh(以下、y方向とする)とする。このサイズは上述した画像形成面と同じサイズとすればよいが、異なるサイズであってもよい。ただし、画像形成面の位置と、作成画像の位置とは一対一に対応させる必要があるので、両者のサイズが異なっている場合には両者のサイズを正規化する等して両者の位置の一対一対応をとるようにすればよい。なお、以下においては、画像形成面の位置と、作成画像の位置とは一対一対応がとれているものとする。
【0051】
上述したように画像形成面上の各点にはそれぞれ所定の方向ベクトルV→が定義されているので、作成画像の任意の位置の画素P(i,j)に対して、画像形成面の(i,j)の位置に定義されている方向ベクトルV(i,j)を対応付けることができる。このように、ここで述べる方法では、画像形成面上の各画素についての方向ベクトルが定義できれば足りるので、図10(a)のステップS10で定義すべき繊維潜り角ξや、ステップS20で定義すべき方向ベクトルV→(角度θ)は、いずれも各画素の中心点位置についてのみ求めておけば十分である。
【0052】
次のステップS32では、この画素配列の第1行目に、万線を形成するための代表画素の位置を定義すると共に、各代表画素の近傍に、連続配置された画素群からなる画素帯をそれぞれ定義する処理が行われる。そしてこのとき、代表画素及び画素帯の画素に画素値 1を書き込む。第1行目に代表画素を何画素、どのような配置で定義するかは任意であるが、互いに所定の間隔をおいて複数の代表画素を定義すればよい。
【0053】
図17にその例を示す。図17は、作成画像の第1行目に配置された多数の画素の中から、代表画素R11,R12を定義した状態を示している。この図の例では、第7列目の画素P(1,7)を最初の代表画素R11と定義し、以下、10画素ピッチで現れる画素P(1,17),画素P(1,27),画素P(1,37),…を代表画素R12,R13,R14,…と定義するようにしている。そして、これら各代表画素の近傍に、画素帯を定義する。例えば、図18は、各代表画素の左右に隣接する各2画素を含めた全5画素からなる画素帯H11,H12,…を定義した状態を示している。この実施形態では、画素帯は常に代表画素を中心とした全5画素からなる画素群によって構成されるような設定を行っている。勿論、個々の画素帯は連続配置された複数の画素から構成されていれば、いくつの画素から構成してもかまわない。例えば、全7画素により個々の画素帯を構成してもよいし、全8画素により個々の画素帯を構成してもよい。ここでは、画素帯を構成する画素については、内部にハッチングを施して示すことにし、特に、代表画素については、中心に黒丸を付して示すことにする。
【0054】
次のステップS33では、作成画像の画素配列の行数を示すパラメータyが初期値1に設定され、以下、ステップS34,S35の処理が繰り返し実行される。即ち、ステップS36において、パラメータy=n−1(ただし、nは全行数)と判断されるまで、ステップS37においてパラメータyが1ずつ更新され、ステップS34,S35の処理が繰り返されることになる。
【0055】
ステップS34では、第y行目の各代表画素について、これら各代表画素内の点に定義された方向ベクトルの示す方向に位置する第(y+1)行目の画素を求め、求めたこれらの画素を第(y+1)行目の代表画素と定義し、これら第(y+1)行目の代表画素の近傍に、連続配置された画素群からなる画素帯をそれぞれ定義する処理が実行される。例えば、y=1の場合、図19に示すように、第1行目の代表画素R11,R12,…に基づいて、第2行目の代表画素R21,R22,…が決定され、図20に示すように、この第2行目の代表画素R21,R22に基づいて、第2行目の画素帯H21,H22,…が定義されることになる。第2行目の代表画素R21,R22は、図19に示すように、第1行目の代表画素R11,R12について定義されている方向ベクトルV11→,V12→に基づいて決定される。具体的には、第2行目の画素のうち、方向ベクトルV11→に最も近い中心点を有する画素が代表画素R21として選択され、同様に、方向ベクトルV12→に最も近い中心点を有する画素が代表画素R22として選択される。また、第2行目の画素帯H21,H22は、この例では、各代表画素R21,R22の左右に隣接する各2画素を含めた全5画素からなる画素帯として定義されている。このとき、定義された代表画素及び画素帯の画素に対して画素値 1が書き込まれることは当然である。
【0056】
このように、ステップS34において、第2行目の代表画素および画素帯の定義が行われると、続くステップS35で調整処理が行われる。この調整処理については後述する。続いて、ステップS36,S37を経て、y=2に更新され、再びステップS34の処理が実行されることになる。今度は、第2行目の代表画素R21,R22,…に定義されている方向ベクトルV21→,V22→に基づいて、第3行目の代表画素R31,R32,…が決定され、これら代表画素R31,R32に基づいて、第3行目の画素帯H31,H32,…が定義されることになる。以上の処理をy=n−1になるまで繰り返していけば、最終的に得られた画素帯の集合によって、例えば、図21に示すような万線M1,M2,…が形成されることになる。結局、上述の繰り返し処理は、個々の万線を図の下方へと伸ばしていく処理ということになる。
【0057】
こうして得られた万線の特徴は、個々の画素に定義されている方向ベクトルに沿った流れをもっている、という点にあり、万線によって示される流れは、ステップS20において定義された方向ベクトルの流れを示すものになる。
【0058】
なお、方向ベクトルの流れをより高い精度で表現した万線を形成するには、方向ベクトルの始点を、前の行の方向ベクトルの終点に連結させるようにするとよい。例えば、図22に示すように、第a行目の代表画素Ra内の点Qaを始点として、この画素について定義された方向ベクトルVa→を考えた場合、この方向ベクトルVa→と第b行目の中心線(図に一点鎖線で示す)との交点Qbを方向ベクトルVa→の終点とする。そして、この第b行目の代表画素Rbに基づいて、第c行目の代表画素Rcを求める際には、方向ベクトルVa→の終点を、代表画素Rbについて定義された方向ベクトルVb→の始点とするのである。そして、この方向ベクトルVb→と第c行目の中心線(図に一点鎖線で示す)との交点Qcを方向ベクトルVb→の終点とすればよい。勿論、各代表画素の中心点を常に方向ベクトルの始点とする方法を採ることもできるが、図22に示すように、方向ベクトルを連結させていく方法を採れば、2次元ベクトル場の流れをより忠実に万線の流れとして表現することができる。
【0059】
また、この図16の流れ図に示す手法により万線を形成する場合には、図10(a)の流れ図におけるステップS20で定義される角度θの値は、 0°≦θ≦ 180°にしておく必要がある。このような設定にすれば、万線は、図の上方から下方へと伸びていくことになる。なお、第i行目の代表画素に基づいて、第(i+1)行目の代表画素が決定できない場合(例えば、θ= 0°の場合や、θ= 180°の場合)は、第(i+1)行目には代表画素も画素帯も定義せず、第i行目の画素帯をもって当該万線の終端とするようにする。
【0060】
以上、各画素帯の中心位置に代表画素を定義する手法を述べたが、必ずしも代表画素が中心にくるように画素帯を構成する必要はなく、例えば、代表画素とその右に隣接する4画素との合計5画素により個々の画素帯を構成することもできる。あるいは、2つの代表画素によって1つの画素帯を定義するような手法を採ることも可能である。例えば、1つの画素帯の左端画素および右端画素をそれぞれ代表画素として、常に、両代表画素に挟まれた部分を画素帯とするような手法を採ることも可能である。
【0061】
次に、図16にステップS35として示した調整処理について説明する。この調整処理の第1の目的は、新たな万線を発生させることにある。例えば、図23に示す例のように、2本の万線M1,M2を図の下方へと徐々に伸ばしていったときに、両万線M1,M2の間隔が徐々に広がってきたとしよう。このような場合、そのまま放置しておくと、両万線M1,M2の間に、大きな空隙領域が発生することになり好ましくない。そこで、図示のように、両万線M1,M2間に、新たな万線M3を発生させる調整処理を行うのが好ましい。また、ステップS35の調整処理の第2の目的は、互いに接近する一対の万線に挟まれた万線を終端させることにある。例えば、図24に示す例のように、3本の万線M1,M2,M3を図の下方へと徐々に伸ばしていったときに、両万線M1,M3の間隔が徐々に狭くなってきたとしよう。このような場合、そのまま放置しておくと、3本の万線M1,M2,M3が互いに接触するようになり好ましくない。そこで、図示のように、中央の万線M2を終端させる調整処理を行うのである。
【0062】
具体的には、ステップS35では、ステップS34で発生させた第(i+1)行目の画素帯について、次のようなチェックを行い、必要に応じて調整処理を行えばよい。まず、相互の間隔が所定の基準以上離れた一対の画素帯が存在するか否かをチェックする。そして、そのような画素帯が存在する場合には、この一対の画素帯の間に新たな代表画素を定義し、この新たな代表画素に基づいて新たな画素帯を発生させる調整処理を行う。図23に示す例では、所定の基準をd1として、d1=11画素なる設定を行っており、一対の画素帯M1,M2の間隔がd1以上となった第12行目において、新たな代表画素RRおよびこれを含む新たな画素帯を発生させ、新たな万線M3を発生させるようにしている。また、自己の左側に隣接する画素帯と自己の右側に隣接する画素帯との間隔が所定の基準以下に接近している画素帯が存在するか否かのチェックも行う。そして、そのような画素帯が存在する場合には、当該画素帯およびその代表画素を消滅させる調整処理を行う。図24に示す例では、所定の基準をd2として、d2=10画素なる設定を行っており、画素帯M2の左側に隣接する画素帯M1と、画素帯M2の右側に隣接する画素帯M3との間隔が、d2以下となった第11行目において、当該画素帯およびその代表画素RRを消滅させている。
【0063】
次に、1次元スカラ場を生成する(ステップS38)。この1次元スカラ場は、次のステップS39においてステップS37までの処理で作成した各万線の形状を変形するためのものであるが、各万線の形状を変形するのは次のような理由による。
【0064】
ステップS37までの処理で作成された2値の万線パターンに基づいて、例えば一般的なダイレクトエッチング法によりエンボス版用のシリンダに凹凸を形成することができることは当然であるが、このようにして形成したエンボス版によって透明なシートにエンボス加工を施してエンボスシートを作成したり、あるいは木目柄を印刷した化粧シートに直接エンボス加工を施した場合、木目の照りを従来に比較して、よりリアルに表現できるのであるが、照りが鋭すぎてギラギラしたものとなり、天然の木目の穏やかな木質感を得ることは難しいものであった。
【0065】
本発明者は種々の考察の結果、この原因は、上述した処理によって形成された万線の方向ベクトルが綺麗に揃い過ぎていることにあり、従って一つ一つの万線パターンを多少変形することによって万線パターンの方向ベクトルに揺らぎを持たせれば、照りの鋭さを緩和でき、以て天然の木目の持つ穏やかな木質感を表現できる万線パターンが得られることを見い出した。つまり、万線パターンを変形することによって艶消しを行うのである。
【0066】
そのために用いるのが1次元スカラ場であり、この1次元スカラ場をそれぞれの万線パターンに作用させて変形させるのである。この1次元スカラ場としてはどのようなものを用いてもよいが、万線パターンを変形するためのものであり、その変形としては自然な揺らぎを持ったものとするのが望ましいので、1次元フラクタル場を用いるのがよい。1次元フラクタル場を生成するためには、例えば周知の中点変位法を用いればよい。
【0067】
この1次元スカラ場のサイズは任意に設定することができる。また、その値域はどのようなものでもよいが、ここでは理解を容易にするために、[-1,1]の範囲に正規化されているものとする。
【0068】
このようにして1次元スカラ場を用意したら、次にこの一次元スカラ場を各万線パターンに作用させて変形する(ステップS39)。まず、作成した万線パターンの中の一つの万線パターンMi を抽出し、図25に示すように、この万線パターンのy方向の位置と1次元スカラ場の位置とを一対一に対応させる。このためには、両者の長さを正規化すればよい。そして、いまこの万線Mi のpで示す位置が1次元スカラ場のqで示す位置に対応しており、この位置でのスカラ値がH(q)であるとすると、例えば、当該万線パターンのpの位置の代表画素及び画素帯の位置を[k・H(q)]だけ移動させるようにする。ここで、[k・H(q)]はk・H(q)を越えない最大の整数値をとるものとする。また移動方向については、k・H(q)が正の値であれば図の右方向、即ちx座標値が大きくなる方向に移動させ、負の値であれば図の左方向、即ちx座標値が小さくなる方向に移動させるようにすればよい。また、kは係数であり、適宜な値を用いることができるが、この場合のように1次元スカラ場の値域が[-1,1]の範囲に正規化されている場合には、kは代表画素及び画素帯の移動量の最大幅、即ち変形の大きさを定めるものとなるから、比較的小さな値とするのが望ましい。kの値を大きくすると万線パターンが大きく変形されることになり、このような万線パターンでは天然の木目の持つ穏やかな木質感を表現することができなくなる可能性があるからである。上述したように万線パターンの変形は方向ベクトルに多少の揺らぎを持たせるだけで足りるので、kの値は比較的小さな値でよいのである。
【0069】
図26は万線パターンの変形の例を示す図であり、当該万線パターンMi のpの位置の代表画素及び画素帯が図26(a)の斜線で示すようであり、[k・H(q)]=3であり、且つk・H(q)が正の値であるとすると、この代表画素及び画素帯は図26(b)に示すように図の右方向に3画素だけ移動されることになる。
【0070】
以上の処理を当該万線パターンMi の全ての位置について行い、当該万線パターンMi の変形処理が終了したら、他の万線パターンについても同様にして変形を行う。このようにしてステップS37までの処理で形成した全ての万線パターンについて変形の処理を行えば、艶消し効果を有する万線パターンを得ることができ、天然の木目の持つ穏やかな木質感を表現できる万線パターンが得られることが確認されている。そして、この艶消しの度合いは、ステップS38で生成する一次元スカラ場、あるいは係数kによって容易に制御することができる。
【0071】
なお、上述した万線パターンの変形のための演算はあくまでも一例に過ぎないものであって、代表画素及び画素帯の移動量を決定するための演算は、生成する1次元スカラ場等に応じて適宜に定めることが可能であることは当然である。また、上記の説明では全ての万線パターンの変形に際して同じ係数kを用いるものとしたが、各万線パターンの変形に際して互いに異なる係数を用いるようにすることも可能である。そのためには、例えばステップS39において万線パターンの数だけの係数を定めておけばよい。あるいは、ステップS39において万線パターンの数だけの1次元スカラ場を生成し、万線パターンと1次元スカラ場を対応させ、ある万線パターンを変形するに際しては対応付けされた1次元スカラ場を作用させるようにしてもよい。
【0072】
このようにして全ての万線パターンを変形したら、次に再度調整処理を行う(ステップS40)。この調整処理はステップS35の調整処理と同じである。ここで再び調整処理を行うのは、万線パターンを変形した結果、隣接する万線の間に大きな空隙領域が発生したり、あるいは隣接する万線が互いに接触するようになる可能性があるからである。そして、この調整処理が終了すると万線パターン形成処理は終了となり、艶消し効果を有する万線パターンが得られる。
【0073】
[5]導管断面パターンの作成装置
以上、3次元の仮想樹木モデルをモデリングし、それを仮想切断面で切断したときの繊維潜り角を求め、その求めた繊維潜り角に基づいて万線パターンを作成する方法について説明したが、次に、導管断面パターンの作成について説明する。
【0074】
上述したように、導管断面パターンと万線パターンとは同調している必要がある。そのためには、繊維潜り角を求めるために用いたと同じ3次元仮想樹木モデルの、同じ仮想切断面に現れる導管断面のパターンを演算により求めて作成すればよい。そして、そのための方法としては、例えば、前記の特開平9−327969号公報に示されている公知の方法をそのまま用いればよく、これによって、上述した方法によって作成された万線パターンと同調する導管断面パターンを作成することができる。なお、3次元仮想樹木モデルの仮想切断面に現れる導管断面パターンを求める方法については前記公開公報に詳細に説明されているので、ここでは説明を省略する。
【0075】
[6]画像作成装置
以上、同調した万線パターンと導管断面パターンの作成方法について説明したが、次に、本発明に係る画像作成装置の一実施形態を、図27のブロック図に基づいて説明する。この装置は、ベクトル場発生手段10、繊維もぐり角演算手段20、導管断面パターン作成手段21、方向ベクトル演算手段30、パターン生成手段40、パターン変形手段41、1次元スカラ場生成手段42、刷版手段50、エンボス加工手段60によって構成されている。
【0076】
ベクトル場発生手段10は、天然木の木理を表現する3次元ベクトル場を発生させる機能をもった手段であり、たとえば、図3に示すような歪曲繊維束モデルに対応する3次元ベクトル場を発生させる機能を有する。具体的には、図3に示す繊維ベクトルF1→を示すための方程式を格納することができる手段であればよい。
【0077】
繊維もぐり角演算手段20は、所定の画像形成面によって、ベクトル場発生手段10が発生した3次元ベクトル場を切断したときに、この切断面上の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を求め、画像形成面上の各点に繊維潜り角を定義する演算を行う構成要素である。具体的には、ベクトル場発生手段10内に格納されている3次元ベクトル場を示す方程式と、画像形成面を示す方程式とに基づいて、幾何学演算を実行し、画像形成面上の各点(たとえば、各画素の中心位置に対応する点など、後の演算で必要になる点)について、それぞれ繊維潜り角ξを求める処理を行う構成要素になる。
【0078】
導管断面パターン作成手段21は、ベクトル場発生手段10が発生した3次元ベクトル場を切断したときに、例えば特開平9−327969号公報に示されている公知の方法によって、この切断面上に現れる導管断面のパターンを作成するものである。なお、この導管断面パターンを形成する切断面は、繊維潜り角演算手段20で繊維潜り角を演算する切断面と同じであることは当然である。
【0079】
方向ベクトル演算手段30は、与えられた繊維潜り角ξを画像形成面に沿った方向ベクトルに変換する所定の変換式を格納しており、この変換式に基づいて、画像形成面上の各点に定義された繊維潜り角ξをそれぞれ方向ベクトルに変換する演算を行う。具体的には、方向ベクトルは所定の参照線Rとのなす角度θによって表現される。たとえば、θ=2×ξなる変換式を用意しておけば、この変換式に基づいて、画像形成面上の各点に定義された繊維潜り角ξが角度θに変換されることになる。
【0080】
パターン生成手段40は、作成画像上に、所定の幅を有し、方向ベクトル演算手段30によって求められた方向ベクトルに沿って配置された万線を定義し、これら万線から構成される2値画像パターンを生成する演算を行う。この演算処理の具体的な手法は、既に[4]の項で述べたとおりである。
【0081】
パターン変形手段41は、パターン生成手段40によって生成された各万線パターンに対して1次元スカラ場生成手段42によって生成された1次元スカラ場を作用させて変形する構成要素であり、その具体的な手法は[4]で上述した通りである。
【0082】
1次元スカラ場生成手段42は、パターン変形手段41で万線パターンを変形するための作用素となる1次元スカラ場を生成するものであり、例えば中点変位法による1次元フラクタル場を生成するもので構成される。
【0083】
これらのベクトル場発生手段10、繊維潜り角演算手段20、導管断面パターン作成手段21、方向ベクトル演算手段30、パターン生成手段40、パターン変形手段41、1次元スカラ場生成手段42の各構成要素は、いずれもコンピュータを利用して構築される構成要素であり、最終的に、このコンピュータによって、2値画像である万線パターンを示す画像データ、及び導管断面パターンを示す画像データが出力されることになる。
【0084】
刷版手段50は、導管断面パターン作成手段21から出力された導管断面パターン、及びパターン変形手段41から出力された2値のビットマップ形式の万線パターンに基づいて、凹凸パターンをもったエンボス版を作成する手段である。なお、エンボス版を作成する方法としては、例えばダイレクトエッチング法等を用いればよい。エンボス加工手段60は、刷版手段50によって作成されたエンボス版を用いて、エンボスシートを大量生産するための装置である。
【0085】
ここで、エンボス加工を行う場合には、少なくとも次の二つの方法がある。一つは、透明シートの一方の面側に導管断面パターンを、他方の面側には万線パターンをそれぞれエンボス加工し、そのエンボス加工した透明シートを木目柄パターンを印刷した化粧シートに貼付する方法である。従って、この場合には、導管断面パターンと万線パターンとは別々のエンボス版に刷版されることになる。
【0086】
もう一つの方法は、導管断面パターンと万線パターンとを合成して刷版手段50により一つのエンボス版を作成し、そのエンボス版によりエンボス加工を施す方法である。なお、この場合には木目柄パターンを印刷した化粧シートに直接エンボス加工を施してもよく、または、透明シートにエンボス加工を施し、そのエンボス加工を施した透明シートを木目柄パターンを印刷した化粧シートに貼付するようにしてもよい。
【0087】
以上の構成により、互いに同調した導管断面パターンと万線パターンとがエンボス加工された化粧シートを作成することができるので、木目柄パターンをもつ印刷物を、より自然な風合いをもち、意匠性の高いものとすることができる。
【0088】
なお、化粧シートに印刷される木目柄パターンとしてコンピュータで発生させた人為的なパターンを用いる場合には、印刷された木目柄のパターンと、万線パターン、及び導管断面パターンとを、同一の3次元ベクトル場を用いたコンピュータ画像処理によって形成するのが好ましい。例えば、特開平8−22538号公報には、コンピュータ内の3次元仮想空間内に3次元樹木モデルを定義し、この3次元樹木モデルを所定の切断面で切断したときに、切断面上に得られる2次元パターンに基づいて、木目柄模様を人為的に発生させる手法が開示されており、このような手法によって木目柄パターンを作成すれば、木目柄パターン、導管断面パターン、万線パターンの3つのパターンを同調させることができるので、望ましいものである。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の態様で実施可能である。特に、上述の実施形態で示した具体的な数値は、一例として提示したものであり、本発明はこれらの数値によって何ら限定されるものではない。また、上記の説明では、一旦万線パターンを形成した後に1次元スカラ場を作用させて変形するものとしたが、図16のステップS31の段階で予め1次元スカラ場を生成しておき、ステップ32、S34の段階で代表画素を定義するときに1次元スカラ場を作用させて変形するようにすることも可能である。この場合には、各万線パターンがどのような長さになるのか定まっていないので、例えば、作成画像のy方向の位置、即ち各行の位置と1次元スカラ場の位置とを一対一に対応させ、方向ベクトルによって代表画素の位置を定めた後に1次元スカラ場を作用させて代表画素の位置を移動させ、その移動後の代表画素に対して画素帯を定義するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一般的な天然木の材面に見られる照り模様を示す図である。
【図2】 繊維束がすべて基準軸Aの方向を向いた基準繊維束モデルを示す斜視図である。
【図3】 繊維束の方向が波状木理に基づいて変化する歪曲繊維束モデルを示す斜視図である。
【図4】 繊維束の方向が螺旋木理に基づいて変化する歪曲繊維束モデルを示す斜視図である。
【図5】 図2に示す基準繊維束モデルを木口面で切断した状態を示す斜視図である。
【図6】 図2に示す基準繊維束モデルを柾目面で切断した状態を示す斜視図である。
【図7】 万線条溝Gにおける光の反射特性を示す断面図である。
【図8】 万線条溝を形成した本発明に係る木質感エンボスシートEの基本構成を示す平面図である。
【図9】 木質感エンボスシートEを、木目柄を印刷した印刷シートSに積層することにより建材を構成する状態を示す斜視図である。
【図10】 木調質感を表現できる万線パターンの作成方法の基本手順を示す流れ図である。
【図11】 柾目面の切断を表現した斜視図であり、図10の流れ図におけるステップS10での繊維潜り角ξの定義方法の一例を示す斜視図である。
【図12】 図11に示す定義方法によって、画像形成面J上の点Pに定義された繊維潜り角ξを示す斜視図である。
【図13】 図10の流れ図におけるステップS20で方向ベクトルを生成する際に用いるξ/θの変換式の一例を示すグラフである。
【図14】 図10の流れ図におけるステップS10で、画像形成面J上に定義された繊維潜り角ξの一例を示す斜視図である。
【図15】 図14に示す繊維潜り角ξを、画像形成面Jに沿った方向ベクトルを示す角度θに変換した状態を示す平面図である。
【図16】 図10の流れ図におけるステップS30の万線形成段階の詳細な処理手順を示す流れ図である。
【図17】 図16の流れ図におけるステップS32で、第1行目に定義された代表画素を示す図である。
【図18】 図16の流れ図におけるステップS32で、第1行目に定義された画素帯を示す図である。
【図19】 図16の流れ図におけるステップS34で、第1行目の代表画素に基づいて、第2行目に定義された代表画素を示す図である。
【図20】 図16の流れ図におけるステップS34で、第1行目の代表画素に基づいて、第2行目に定義された画素帯を示す図である。
【図21】 図16の流れ図に示す手順により生成された万線を示す図である。
【図22】 図16の流れ図に示す手順を、より高い精度で実行するための手法を示す図である。
【図23】 図16の流れ図におけるステップS35の調整処理により、新たな万線M3が発生した状態を示す図である。
【図24】 図16の流れ図におけるステップS35の調整処理により、万線M2が終端した状態を示す図である。
【図25】 図16の流れ図におけるステップS39の万線パターンの変形の処理を説明するための図である。
【図26】 図16の流れ図におけるステップS39の万線パターンの変形の処理によって代表画素及び画素帯が移動されて変形された場合の例を示す図である。
【図27】 本発明に係る画像作成装置の一実施形態を示す図である。
【図28】 エンボスシートの表面に形成された万線条溝Gの構造を示す斜視図である。
【図29】 一般的な材木板における繊維方向ベクトルF→と光線方向ベクトルL→との関係を示す側断面図である。
【図30】 一般的な材木板におけるベクトル交錯角φ(繊維潜り角ξ)と鏡面反射光強度Wとの関係を示すグラフである。
【図31】 導管断面パターンと繊維潜り角とは密接な関係があることを説明するための図である。
【符号の説明】
10…ベクトル場発生手段
20…繊維もぐり角演算手段
21…導管断面パターン作成手段
30…方向ベクトル演算手段
40…パターン生成手段
41…パターン変形手段
42…1次元スカラ場生成手段
50…刷版手段
60…エンボス加工手段
100…材木板
200…仮想光源
A…基準軸
E…エンボスシート
F…繊維
F→,F1→,F2→…繊維方向ベクトル
G…万線条溝
H11,H12,H21,H22…画素帯
J…切断面(画像形成面)
L→…光線方向ベクトル
M,M1,M2,M3…万線
O1,O2,O3…観察方向
P,Q…繊維束モデルあるいは画像形成面上の点
P′,Q′…歪曲繊維束モデル上の点
P(i,j)…画素配列上の画素
Qa,Qb,Qc…ベクトルの端点
R…参照線
R11,R12,R21,R22,RR…代表画素
Ra,Rb,Rc…代表画素
S…木目柄の印刷シート
T…天然木材
V→…方向ベクトル
V11→,V12→…方向ベクトル
Va→,Vb→…方向ベクトル
V(i,j)…画素P(i,j)についての方向ベクトル
W…鏡面反射光強度(光沢度)
ξ…繊維もぐり角
φ…ベクトル交錯角
θ…方向ベクトルV→と参照線Rとのなす角
Claims (2)
- 天然木材の表面に現れる照りを表現するための万線パターンと、木目柄パターンに含まれる導管断面パターンとを作成するための画像作成方法であって、
ベクトル発生手段によって、木理の要素をもった3次元の仮想樹木モデルを構築するための3次元ベクトル場を発生させる第1の工程と、
繊維潜り角演算手段により、第1の工程で発生させた3次元ベクトル場を所定の画像作成面で切断したときの当該画像作成面の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を求めて、当該画像作成面上の各点に繊維潜り角を定義する第2の工程と、
方向ベクトル演算手段によって、第2の工程において画像作成面上の各点に定義された繊維潜り角を、それぞれ、所定の変換式を用いて、当該画像形成面に沿った方向ベクトルに変換する第3の工程と、
パターン生成手段によって、万線パターンを描画する作成画像上に、所定の幅を有し、第3の工程で得られた方向ベクトルに沿って配置された万線を定義し、これら定義された万線から構成される2値画像パターンである万線パターンを生成する第4の工程と、
導管断面パターン作成手段により、第1の工程で発生された3次元ベクトル場の、第2工程で繊維潜り角を定義した画像作成面に現れる導管断面のパターンを求めて導管断面パターンを作成する第5の工程と
を備えることを特徴とする画像作成方法。 - 天然木材の表面に現れる照りを表現するための万線パターンと、木目柄パターンに含まれる導管断面パターンとを作成するための画像作成装置であって、
木理の要素をもった3次元の仮想樹木モデルを構築するための3次元ベクトル場を発生させるベクトル発生手段と、
所定の画像形成面によって、前記3次元ベクトル場を切断したときに、切断面上の各点におけるベクトル場の配向性に基づいて繊維潜り角を求め、前記画像形成面上の各点に繊維潜り角を定義する繊維潜り角演算手段と、
与えられた繊維潜り角を前記画像形成面に沿った方向ベクトルに変換する所定の変換式に基づいて、前記画像形成面上の各点に定義された繊維潜り角をそれぞれ方向ベクトルに変換する方向ベクトル演算手段と、
作成画像上に、所定の幅を有し、前記方向ベクトルに沿って配置された万線を定義し、これら万線パターンから構成される2値画像パターンを生成するパターン生成手段と、
前記ベクトル発生手段で発生された3次元ベクトル場の、前記繊維潜り角を定義した仮想切断面に現れる導管断面のパターンを求めて導管断面パターンを作成する導管断面パターン作成手段と
を備えることを特徴とする画像作成装置。
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