JP3761998B2 - 木目導管断面パターンの作成方法 - Google Patents

木目導管断面パターンの作成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、木目導管断面パターンを有する印刷物およびエンボス加工品、ならびにそのような木目導管断面パターンの作成方法に関し、特に、壁紙などの建材製品に適用するために、木理を考慮した自然な風合いをもち、かつ、これまでにない斬新な意匠性をもった木目導管断面パターンを人為的に発生させるための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
壁紙などの建材製品や、種々の商品のパッケージなどの模様として、木目柄パターンは広く利用されている。このような木目柄パターンをもった印刷物を作成する場合、通常は、天然木の材面をカメラなどで撮影し、この天然木のもつ木目柄パターンをそのまま利用する方法が採られる。また、近年では、印刷分野においてもコンピュータを利用した画像処理技術が普及してきているため、天然木の木目柄パターンをCCDカメラなどで画像データとして取り込み、この画像データに対して、コンピュータを利用して必要な画像処理を施し、処理後の画像データに基づいて印刷を行うという手法も広く行われている。
【0003】
一般に、木目柄パターンは、年輪パターンと導管断面パターンとを含んでいる。年輪パターンは、樹木の年ごとの成長に合わせて形成されるパターンである。通常は、樹木の成長環境における寒暖の差に基づいて濃淡の差が生じ、この濃淡の差がそのまま年輪パターンとして現れることになる。したがって、1年ごとの周期的な濃淡パターンになる。一方、導管断面パターンは、樹木の導管を切断することによって得られる断面パターンである。導管は、樹木が植物としての生理作用を営むために必要な器官であり、幹から梢に向かって伸びる細い管であり、その断面は細長い楕円状になるのが一般的である。したがって、天然木の板目に現れる木目柄パターンを観察すると、全体的には年輪パターンが認識されるが、細かく見ると、小さな導管断面パターンが多数配置されているのが認識される。
【0004】
壁紙などでは、上述のような天然木の木目柄パターンの風合いをできるだけ忠実に再現するために、年輪パターンと導管断面パターンとを重畳して木目柄パターンを表現するのが一般的である。通常は、天然木の材面から、年輪パターンと導管断面パターンとをそれぞれ別個に撮影し、別個の版を作成し、印刷時に両者を合成する手法が採られる。年輪パターンと導管断面パターンとは、いずれも印刷によって塩化ビニルシートなどの媒体上に形成されることもあるし、年輪パターンを印刷によって、導管断面パターンをエンボス凹凸構造によって、それぞれ別個に形成することもある。もともと、天然木についての導管断面は凹凸構造を有するため、導管断面パターンをエンボス凹凸構造として形成すれば、より天然木に近い質感が表現できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、壁紙などの建材製品に木目柄パターンを利用する場合、従来は、できるだけ天然木に近いパターンを再現することに努力が払われてきた。しかしながら、このように天然木に近い木目柄パターンが多数の工業製品に利用されて一般に普及するようになると、そのパターン自体が陳腐化し、意匠性は低下してくることになる。このため、壁紙などの建材製品には、より斬新な木目柄パターンが求められている。ただし、斬新なパターンであればどのようなパターンでも市場に受け入れられるというわけではなく、あくまでも自然の調和が保たれているパターンでなければ、市場には受け入れられない。結局、人間の感性に自然の安らぎを与えるような自然の風合いを維持しつつ、かつ、これまでの天然木にない斬新な木目柄パターンという、一見したところ二律背反するようなパターンが要求されていることになる。
【0006】
そこで本発明は、自然の風合いを維持しつつ、かつ、これまでの天然木にない斬新な木目導管断面パターンを有する印刷物およびエンボス加工品、ならびにそのようなパターンの作成方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明の第1の態様は、木目導管断面パターンを人為的に作成する方法において、
三次元空間内に所定の基準軸を定義し、この基準軸を中心軸として年間成長幅を示す同軸円筒を配置した年輪モデルを定義する段階と、
年輪モデル内に、基準軸からの距離にかかわらずほぼ一定となる散孔材用導管密度分布を定義し、基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、定義した散孔材用導管密度分布に応じた密度で配置することにより散孔材用基準導管束モデルを定義する段階と、
年輪モデル内に、年間成長幅を一周期として基準軸からの距離に応じて周期的に変化する環孔材用導管密度分布を定義し、基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、定義した環孔材用導管密度分布に応じた密度で配置することにより環孔材用基準導管束モデルを定義する段階と、
年輪モデルが定義された空間内に基準軸に対する配向性が部分ごとに異なるベクトル場を定義し、基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、ベクトル場に沿った方向に伸びる多数の歪曲導管に変換するために、基準導管内の変換前の点Qから歪曲導管内の変換後の点Q′への所定の座標変換式を定義する段階と、
散孔材用基準導管束モデルに対して座標変換式を適用して散孔材用歪曲導管束モデルを定義する段階と、
環孔材用基準導管束モデルに対して座標変換式を適用して環孔材用歪曲導管束モデルを定義する段階と、
散孔材用歪曲導管束モデルおよび環孔材用歪曲導管束モデルを構成する各点に、各導管を認識するのに必要な所定の画素値をもった画素を定義する段階と、
年輪モデルを切断するための所定の切断面を定義する段階と、
散孔材用歪曲導管束モデルを上記切断面によって切断したときに切断面に位置する画素の集合によって構成されるパターンを散孔材断面パターンとして抽出する段階と、
環孔材用歪曲導管束モデルを上記切断面によって切断したときに切断面に位置する画素の集合によって構成されるパターンを環孔材断面パターンとして抽出する段階と、
散孔材断面パターンと環孔材断面パターンとを合成して合成パターンを形成する段階と、
を行うようにしたものである。
【0011】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係る木目導管断面パターンの作成方法において、
環孔材用基準導管束モデルにおける導管径の平均が、散孔材用基準導管束モデルにおける導管径の平均よりも大きくなるように、各モデルの定義を行うようにしたものである。
【0013】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1または第2の態様に係る木目導管断面パターンの作成方法において、
所定のスカラー値を自己相似的に二次元平面上の各点に定義した二次元フラクタル場を用意し、
この二次元フラクタル場の各点のもつスカラー値に応じて、平面上の各点を所定方向に変位させることにより有皺面を生成し、
この有皺面を切断面として用いて、各歪曲導管束モデルの切断を行うようにしたものである。
【0014】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第1または第2の態様に係る木目導管断面パターンの作成方法において、
所定のスカラー値を自己相似的に三次元空間内の各点に定義した三次元フラクタル場を用意し、
歪曲導管束モデルを構成する各点Q′の座標を、三次元フラクタル場の対応点のもつスカラー値に応じて変換して点Q″を求め、この点Q″によって揺らぎを含む歪曲導管束モデルを定義し、
この揺らぎを含む歪曲導管束モデルを所定の切断面によって切断するようにしたものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。本発明の目的は、自然の風合いを維持しつつ、かつ、これまでの天然木にない斬新な木目導管断面パターンを実現することにある。そこで、はじめに、天然木の木目導管断面パターンのもつ性質について簡単に説明しておく。
【0016】
図1に、ごく一般的な天然木から切り出した材木板を示す。このような材木板の表面には、図示されているような木目模様が見られるが、この木目模様を細かく観察すると、多数の木目導管断面から構成されていることがわかる。たとえば、図1に示す木目模様において、小さな円で囲って示した円形部分領域Wを拡大してみると、図2に示すように、多数の楕円状の木目導管断面Pからなるパターンが観察できる。このように、一般的な天然木の材木板に現れる木目模様は、木目導管断面パターンによって構成されている。この楕円状の木目導管断面Pは、天然木に存在する導管の断面として得られるパターンである。
【0017】
この木目導管断面Pの輪郭線が細長いほぼ楕円状のパターンになることを、図3のモデルで示そう。ここでは、天然木に存在する導管Fが完全な円筒形状をしているものとして説明を行うことにする。この導管Fは、植物の生命維持に必要な物質の流通路として利用される管であり、植物の成長方向に沿って伸びている。すなわち、天然木の場合は幹に沿った方向に伸びていることになる。このような天然木から材木板を切り出す場合、通常は、より面積の広い板が取れるように幹に沿った方向に切断することになる。したがって、導管Fの長手方向軸と切断面Cとは、図3に示すように、鋭角をなすのが一般的である。このため、切断面Cに現れる導管Fの切り口、すなわち、木目導管断面Pは、図3の上方に示すように、細長い楕円状の輪郭線をもったパターンになる。
【0018】
ところで、図2に示した複数の木目導管断面Pは、いずれもほぼ長手方向Lの方向に沿って細長い楕円になっている。これは、天然木の内部に存在する導管Fが、いずれも木の成長方向に向かって伸びているため、近接する導管の断面パターンはいずれも向きがほぼ同じになるためである。したがって、図1に示すような材木板全体についても、表面に存在する多数の木目導管断面のパターンにほぼ共通した長手方向L(この例の場合は、図の左右に伸びる方向)を定めることができる。
【0019】
もっとも、このような楕円状の木目導管断面Pは、あくまでも切断面C上に現れた断面のパターンであって、実際の木目導管溝の切り口の部分の形状にすぎない。材木板の表面部分に形成された実際の木目導管溝は、深さのある凹状の溝である。参考までに、この導管溝の深さがどのような分布になるかを検討しておく。いま、図3に示すモデルにおいて、導管Fについての3つの横断面C1,C2,C3を考えてみる。図3の下方に示す3つの楕円C1,C2,C3は、各横断面位置での断面図である。ここで、水平の破線Cは、切断面Cの位置を示しており、その下のハッチング部分が、切断面Cの下方に得られる材木板に形成される導管溝Gの内部領域を示している。このモデルから明らかなように、実際の導管溝Gの深さは、図の右側が最も浅く、図の左側が最も深くなる。しかも、右から左へゆくにしたがって、深さは徐々に深くなり、深度は右から左へと単調に増加することになる。
【0020】
なお、上述のモデルでは、導管Fを単純な円筒形状のものとして取り扱ったが、実際の導管は、幾何学的に完全な円筒形状をしているものは希であり、自然界のものであるため当然いびつな形状をしているのが普通である。中には、円筒形状(円柱形状)というよりは、根元から梢にゆくにしたがってなだらかに傾斜した円錐形状に近いものもある。実際の天然木の材木板に現れる木目導管断面パターンの一例を図4および図5に示す。このように、実際の天然木の材木板に現れる木目導管断面Pは、図2に示すような完全な楕円形状のものではなく、いずれも不規則にいびつな形状のものになる。また、複数の導管が癒着したような部分も観察される。ただ、いずれの木目導管断面も、その長手方向L(図4および図5の例では図の上下方向)は共通しており、この材木板全体を観察すれば、共通の長手方向Lを決定することが可能である。
【0021】
ところで、図4に示す木目導管断面パターンと図5に示す木目導管断面パターンとを比較すると、両パターンから受ける印象に大きな違いがあることに気付くであろう。これは、図4に示すパターンが散孔材と呼ばれている天然木(カツラ、クスノキ、トチノキ、ウダイカンバなど)の木目導管断面パターンであるのに対し、図5に示すパターンが環孔材と呼ばれている天然木(クリ、オーク、ケヤキ、キリなど)の木目導管断面パターンであるためである。なお、図4および図5は、電子出願における図面解像度の制約から、それぞれ異なる倍率で示されているために、個々の木目導管断面Pの大きさを図面上で直接比較することはできないが、一般的な散孔材の導管径が20〜150μm程度であるのに対し、一般的な環孔材の導管径は100〜300μm程度であり、個々の木目導管断面Pの太さおよび長さを実寸で比較すると、図4に示す散孔材に比べて図5に示す環孔材の方が大きくなるのが一般的である。散孔材と環孔材とでは、このような木目導管断面Pの大きさに相違が生じるとともに、その分布にも相違が生じている。すなわち、図4に示す散孔材の木目導管断面パターンでは、個々の木目導管断面Pの分布密度は全領域でほぼ均一であるのに対し、図5に示す環孔材の木目導管断面パターンでは、個々の木目導管断面Pの分布密度は周期的に変化しており、いわゆる年輪のパターンが形成されている。図1に示した例は、このような年輪パターンが形成された環孔材の材木板である。
【0022】
散孔材と環孔材とで、切り出した材木板に現れるパターンにこのような差が生じる理由を、図6および図7の断面概念図を用いて説明しよう。図6は、一般的な散孔材の幹をその長手方向L(成長方向)に対して鋭角をなす切断面によって切断した断面概念図である。ここで、仮想年輪線Rは、樹木の年間成長幅を示すための仮想の線である(たとえば、各年の7月1日に生成された細胞の分布位置を示す線であり、この仮想年輪線Rによって挟まれた部分が、年間成長幅に相当する)。この幹の中には、長手方向Lに沿って伸びる多数の散孔材導管Fsが存在するが、その分布密度はどの部分についてもほぼ一様である。別言すれば、仮想年輪線Rと散孔材導管Fsの分布密度との間には、大きな相関関係は見られない。これは、散孔材の成長過程においては、四季を通じてほぼ同じ確率で散孔材導管Fsが生成されるためである。この散孔材を図示のように切断すると、散孔材導管Fsの切断面が、散孔材導管断面Psとして現れることになり、この散孔材導管断面Psの集合として、散孔材断面パターンPPsが形成されることになる。散孔材導管Fsがほぼ均一に分布しているため、散孔材断面パターンPPs上における散孔材導管断面Psの分布もほぼ均一になる。「散孔材」の語源は、このように、導管断面Ps(孔部)が分散分布している状態を示すものである。
【0023】
一方、図7は、一般的な環孔材の幹をその長手方向L(成長方向)に対して鋭角をなす切断面によって切断した断面概念図である。ここで、仮想年輪線Rは、上述したように、樹木の年間成長幅を示すための仮想の線である。この幹の中には、長手方向Lに沿って伸びる多数の環孔材導管Fkが存在するが、その分布密度は部分的に異なる。すなわち、環孔材導管Fkの分布密度は、仮想年輪線Rの位置に関連して周期的に変化する。図示の例は、すべての環孔材導管Fkが仮想年輪線R上にのみ分布している極端な例であり、環孔材導管Fkは幹の中心軸を取り囲むように環状分布していることになる。「環孔材」の語源は、このように、導管断面Pk(孔部)が環状分布している状態を示すものである。このような環状分布が形成される理由は、環孔材の成長過程においては、季節によって、導管が生成される確率が異なるためであり、夏にのみ導管形成が行われる樹木や、冬にのみ導管形成が行われる樹木は、典型的な環孔材となる。この環孔材を図示のように切断すると、環孔材導管Fkの切断面が、環孔材導管断面Pkとして現れることになり、この環孔材導管断面Pkの集合として、環孔材断面パターンPPkが形成されることになる。環孔材導管Fkが環状に周期的に分布しているため、環孔材断面パターンPPk上における環孔材導管断面Pkの分布も仮想年輪線Rに沿った周期的なものになる。
【0024】
このように、散孔材断面パターンPPsと環孔材断面パターンPPkとを比べると、導管断面の分布状態に大きな違いがあり、また、前述したように、一般に、散孔材導管Fsの直径(20〜150μm程度)に比べて、環孔材導管Fkの直径(100〜300μm程度)は大きい傾向にあるため、個々の散孔材導管断面Psと環孔材導管断面Pkとを比較すると、前者は細く短い印象を与えるのに対し、後者は太く長い印象を与えることになる。その結果、散孔材断面パターンPPsは全体的に繊細な印象を与えるパターンになるのに対し、環孔材断面パターンPPkは全体的に力強い印象を与えるパターンになる。
【0025】
本発明の基本思想は、図8に示すように、繊細な印象を与える散孔材断面パターンPPsと、力強い印象を与える環孔材断面パターンPPkとを重ね合わせ、両者を折衷した斬新な印象を与える合成断面パターンPPskを作成し、この合成断面パターンPPskを新規な木目導管断面パターンとして、壁紙などの建築材料などに利用する点にある。もちろん、自然界に存在するほとんどの天然木は、散孔材か環孔材かに分類され、合成断面パターンPPskのように両方の性質を備えた天然木は実在しない。したがって、本発明に係る木目導管断面パターンは、自然界には存在しない人工的な木目導管断面パターンとなり、従来の木目導管断面パターンに比べて非常に斬新な意匠性をもったパターンになる。
【0026】
もっとも、自然の風合いを損なうことのない、全体的に違和感のない合成断面パターンを作成するためには、互いに同調した散孔材断面パターンPPsと環孔材断面パターンPPkとを用いて合成を行うことが好ましい。一般に、天然木には、木理と呼ばれる個々の幹ごとに固有の配向性が存在する。この木理は、導管や繊維などの軸方向要素の配向性、すなわち、模様の流れの方向を示すものであり、幹の成長方向に対して波形の配向性を有する波状木理や、幹の成長方向を軸として渦巻き形の配向性を有する螺旋木理などが一般的に知られている。たとえば、図4に示す木目導管断面パターンには、波状木理と螺旋木理との双方が含まれており、図5に示す木目導管断面パターンには、主として螺旋木理が含まれている。既に述べたように、個々の木目導管断面Pは、大局的には、長手方向L(幹の成長方向)に沿って配置されているものの、部分的にはそれぞれ固有の方向を向いており、木目導管断面パターンを全体として見ると、木理に応じた模様の流れが表現されていることになる。たとえば、図4あるいは図5に示す木目導管断面パターンを全体的に観察すれば、それぞれ固有の流れが存在することが認識できるであろう。
【0027】
このように、天然木から切り出した個々の材木板には、それぞれ固有の木理に基づく模様の流れが存在するため、任意の散孔材から抽出した散孔材断面パターンPPsと、任意の環孔材から抽出した環孔材断面パターンPPkとは、通常は、模様の流れは同調していない。このため、天然の散孔材から抽出した散孔材断面パターンPPsと、天然の環孔材から抽出した環孔材断面パターンPPkとを用いて、本発明に係る合成断面パターンを得るためには、木理の要素ができるだけ類似した散孔材および環孔材を選択し、できるだけ模様の流れが同調した2つのパターンを合成する必要がある。そこで、本発明では、天然木から抽出したパターンを用いる代わりに、コンピュータを利用して、図8に示すような散孔材断面パターンPPsおよび環孔材断面パターンPPkを人為的に発生させ、これを合成する手法を採っている。この手法によれば、木理を人為的に発生させることができるため、全く同一の木理をもった散孔材と環孔材とを疑似的に生成し、完全に同調した散孔材断面パターンPPsおよび環孔材断面パターンPPkを作成することが可能になる。以下、この手法の概念を説明する。
【0028】
まず、図9に示すように、三次元空間内に所定の基準軸Aを定義する。そして、この三次元空間内において、基準軸Aに沿った方向に伸びる多数の導管Fを定義する。もちろん、個々の導管Fはコンピュータ内で定義された仮想の導管であるが、図3に示す導管Fに対応したものとなる。最も簡単なモデルとしては、同一の太さをもった円筒状の導管を互いに平行になるように配置したモデルを考えることができる。しかしながら、実際には、後述する実施例で示すように、乱数を用いることにより、個々の導管Fごとに太さにバラツキをもたせ、ランダムな配置になるようにするのが好ましい。ここでは、ほぼ基準軸Aに沿って配置された多数の導管Fからなるモデルを、基準導管束モデルと呼ぶことにする。
【0029】
続いて、図10に示すように、任意の切断面Jを定義し、この切断面Jで基準導管束モデルを切断すれば、この切断面J上には、個々の導管Fの断面が現れることになる。すなわち、多数の導管断面からなる導管断面パターンが得られる。仮に、個々の導管Fが完全な円筒形状をしており、基準軸Aと鋭角をなすように切断面Jを定義したとすれば、切断面J上に現れる個々の導管断面は、図3に示すような楕円状の木目導管断面Pとなる。
【0030】
しかしながら、このような基準導管束モデルの切断によって得られる木目導管断面パターンは、木理の要素が含まれていない。そこで、次のような方法により、この基準導管束モデルを変形し、木理の要素を付加する。
【0031】
たとえば、図11左に示すように、基準軸Aに対して垂直な方向Bを定義し、基準軸Aに沿った方向を示すベクトルに方向Bの成分を部分的に付加することによりベクトルV1を定義する。そして、図9に示す基準導管束モデルを構成する個々の導管Fを、このベクトルV1に沿って歪ませると、図11右に示すような歪曲導管束モデルが得られる。このような歪曲導管束モデルは、一般に波状木理と呼ばれている木理を含んだモデルとなる。また、図12左に示すように、基準軸Aの周囲を螺旋状に取り巻くベクトルV2を定義し、図9に示す基準導管束モデルを構成する個々の導管Fを、このベクトルV2に沿って歪ませると、図12右に示すような歪曲導管束モデルが得られる。このような歪曲導管束モデルは、一般に螺旋木理と呼ばれている木理を含んだモデルとなる。
【0032】
このように、三次元空間内において基準軸Aに対する配向性が部分ごとに異なり、空間内で連続分布し、かつ、連続的に変化するようなベクトル場を定義し、このベクトル場に沿った方向に伸びる多数の導管Fを配置すれば、歪曲導管束モデルを定義することができる。このような歪曲導管束モデルをコンピュータ上で定義し、これを所定の切断面Jで切断すれば、木理の情報を含んだ木目導管断面パターンが得られることになる。
【0033】
ここで、図9には、多数の導管Fを密に束ねた基準導管束モデルが示されているが、この基準導管束モデルを定義する際に、導管の分布密度を制御してやることにより、散孔材用基準導管束モデルを定義することも、環孔材用基準導管束モデルを定義することも可能である。すなわち、図6に示すように、個々の導管を全くランダムに配置するようにすれば、散孔材用基準導管束モデルを定義することができるし、図7に示すように、個々の導管を中心軸からの距離に応じた周期的な密度で配置するようにすれば、環孔材用基準導管束モデルを定義することができる。そこで、この散孔材用基準導管束モデルと環孔材用基準導管束モデルとの双方に対して、全く同一のベクトル場を用意し、各導管の配向性がこのベクトル場に沿った状態となるように、各モデルを変形すれば、散孔材用歪曲導管束モデルおよび環孔材用歪曲導管束モデルを得ることができる。これらの歪曲導管束モデルは、全く同一のベクトル場を利用して歪曲処理が施されたモデルであるため、全く同一の木理の要素を有することになる。続いて、同一の切断面を用意して、散孔材用歪曲導管束モデルおよび環孔材用歪曲導管束モデルを切断し、それぞれ散孔材断面パターンPPsおよび環孔材断面パターンPPkを抽出すれば、これら両パターンは、全く同一の木理に基づく模様の流れを有しているために、完全に同調しており、合成した場合にも自然の風合いが損なわれることはない。
【0034】
なお、一般に、人為的に発生させたパターンには、いわゆる自然の揺らぎの成分が乏しくなる傾向にある。そこで、上述したベクトル場を利用した歪曲処理に、更に揺らぎ場を利用した歪曲処理を加えて、各モデルを変形するのが好ましい。たとえば、所定のスカラー値を自己相似的に三次元空間内の各点に定義した三次元フラクタル場を用意し、個々のモデルを構成する各点の座標を、この三次元フラクタル場の各対応点のもつスカラー値に応じて変位させれば、自然の揺らぎの成分を加えることが可能になる。あるいは、二次元フラクタル場を利用して平面からなる切断面上の各点を変位させ、切断面側に自然の揺らぎの成分を加えることも可能である。
【0035】
また、上述したように、一般に、散孔材導管Fsの直径(20〜150μm程度)に比べて、環孔材導管Fkの直径(100〜300μm程度)は大きい傾向にあるため、散孔材用基準導管束モデルおよび環孔材用基準導管束モデルを定義する際には、前者において配置される導管の直径よりも、後者において配置される導管の直径を大きく設定するようにし、環孔材断面パターンPPkを構成する個々の導管断面の平均的な太さおよび長さが、散孔材断面パターンPPsを構成する個々の導管断面の平均的な太さおよび長さよりも大きくなるようにすると、両者を合成した際に、散孔材の繊細な風合いと環孔材の力強い風合いとが自然に融合した合成パターンを得ることができる。
【0036】
一方、この合成パターンをエンボス加工品に利用する場合、個々の導管断面の内部領域に凹状の溝を形成することになるが、上述した導管直径の関係を考慮して、環孔材断面パターンPPkを構成する個々の導管断面内の深さの平均が、散孔材断面パターンPPsを構成する個々の導管断面内の深さの平均よりも深くなるような構成にするのが好ましい。具体的には、散孔材断面パターンPPsのエンボス加工工程と、環孔材断面パターンPPkのエンボス加工工程とをそれぞれ別個のプロセスとして行うようにし、前者の工程で形成される溝に比べて、後者の工程で形成される溝の方が深くなるようにすればよい。たとえば、エッチングにより溝を形成する場合には、エッチング時間により溝の深さを制御することが可能である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に即して説明する。
【0038】
§1 本発明に係るパターン作成方法の手順概要
図13は、本発明の一実施例に係る木目導管断面パターンの作成方法の手順を示す流れ図である。この手順は、基本的には上述したように、三次元空間内に散孔材および環孔材の基準導管束モデルを作成し、これらのモデルを同一の木理に基づいてそれぞれ変形して、散孔材および環孔材の歪曲導管束モデルを作成し、これらのモデルをそれぞれ同一の切断面によって切断して、散孔材断面パターンPPsおよび環孔材断面パターンPPkを作成し、最後に両パターンを合成するというものであるが、細かな点において実用的な工夫が施されている。
【0039】
はじめに、ステップS1において、年輪パラメータに基づいて年輪モデルMrを定義する。この年輪モデルMrは、たとえば、図14に示すような同軸円筒状のモデルであり、樹木の1年ごとの成長周期を示すモデルになる。この実施例では、
1年間の平均成長幅:D(単位mm)
年間成長幅のばらつきの最大値:Δ(単位mm)
これまでの成長年:year
なる年輪パラメータを設定することにより、年輪モデルMrを発生させている。図14に示す年輪モデルMrは、year=4に設定したモデルであり、1年目の成長幅D1、2年目の成長幅D2、3年目の成長幅D3、4年目の成長幅D4が示されている。ここで、i年目の成長幅Diは、
Di = D + Δ・RND
なる式で与えられる。なお、RNDは、コンピュータを利用した乱数発生手段で発生した乱数であり、−1≦RND≦+1の範囲をとる。したがって、各年ごとに成長幅は多少変動するものの、その平均値はDになる。このような年輪モデルMrを定義する理由は、環孔材の導管の配置を年輪に応じた分布にするためである。
【0040】
こうして、XYZ三次元座標空間内に、図14に示すような年輪モデルMrが定義されたら、続くステップS2において、散孔材の導管パラメータに基づいて散孔材用基準導管束モデルMfsを定義する処理を実行する。すなわち、この年輪モデルMr内に個々の散孔材導管Fsを配置する処理が行われる。この実施例では、
散孔材の導管存在確率関数:Zs(U)
散孔材導管の平均直径:φs
散孔材導管の直径の分散:σs
なる散孔材の導管パラメータを設定することにより、多数の散孔材導管Fsを配置し、散孔材用基準導管束モデルMfsを発生させている。
【0041】
図15は、基準軸Aに対して垂直な面によって、年輪モデルMrを切断した状態を示す図である。図14の年輪モデルMrについて、図示するようにXYZ三次元座標系を定義すれば、図15は、この年輪モデルMrを、XY平面に平行な面によって切断した断面図に相当する。いま、この年輪モデルMr内の各点について、0〜127の値をとるポテンシャル値Uを、図15に示すように、各成長年ごとに繰り返し定義する。このポテンシャル値Uは、基準軸Aからの距離に基づいて周期的に変化する値となり、成長時期tを示すパラメータとなる。たとえば、U=0を1月1日に対応させ、U=127を12月31日に対応させれば、ポテンシャル値Uは1月1日〜12月31日までの1年間の所定の成長時期tを示す値になる。そこで、このポテンシャル値U(もしくは成長時期t)を横軸にとり、縦軸に確率値Zをとることにより、図16に示すような確率値Zを定義する。ここで確率値Zは、導管を配置すべきか否かの確率を示す値であり、散孔材の場合、図示のような平坦な確率関数Zs(U)を用いて確率値Zは、Z=Zs(U)なる式で与えられる。このような確率関数Zs(U)に基づいて導管の配置を行えば、最終的な導管の密度分布Deは、この確率関数Zs(U)に応じた一様なものとなり、散孔材にふさわしいモデルを作成することができる。
【0042】
ステップS2における散孔材用基準導管束モデルMfsの定義処理は、この確率関数Zs(U)に基づいて個々の散孔材導管Fsを年輪モデルMrに重ねて配置してゆく処理になる。図15の断面図には、このようにして配置されたいくつかの散孔材導管Fsが示されている。個々の散孔材導管Fsの位置は、乱数に基づいてランダムに決められるが、統計的には、図16の確率関数Zs(U)に従った一様分布となるように決められる。なお、この実施例では、各散孔材導管Fsの直径は均一ではなく、平均直径がφs、直径の分散がσsとなるように、乱数を利用してランダムに設定している。したがって、最終的に定義された散孔材用基準導管束モデルMfsは、平均直径がφs、直径の分散がσsという条件のもとでランダムな直径をもった多数の散孔材導管Fsを、図16に示す確率関数Zs(U)に従って一様に配置したものになる。
【0043】
次のステップS3の処理は、環孔材の導管パラメータに基づいて環孔材用基準導管束モデルMfkを定義する処理である。すなわち、ステップS1で定義した年輪モデルMr内に個々の環孔材導管Fkを配置する処理が行われる。この実施例では、
環孔材の導管存在確率関数:Zk(U)
環孔材導管の平均直径:φk
環孔材導管の直径の分散:σk
なる環孔材の導管パラメータを設定することにより、多数の環孔材導管Fkを配置し、環孔材用基準導管束モデルMfkを発生させている。既に述べたように、環孔材導管Fkの直径φkは、散孔材導管Fsの直径φsに比べて大きく設定した方が自然であり、この実施例では、φk=2.0×φs程度に設定してある。また、このステップS3の処理では、図16に示すような環孔材の確率関数Zk(U)を用いて、導管配置の確率値Zを算出することになる。この確率関数Zk(U)は、ポテンシャル値U=64付近にピークをもつ関数であり、具体的には、一年間のうちの夏に導管が多数生成される植物に対応したモデルが作成されることになる。よって、最終的な導管の密度分布Deは、この確率関数Zk(U)に従って、基準軸Aからの距離に応じて周期的に変化することになる。
【0044】
このステップS3でも、個々の環孔材導管Fkの位置は、乱数に基づいてランダムに決められるが、統計的には、図16の確率関数Zk(U)に従った周期的な分布となるように決められる。また、各環孔材導管Fkの直径は均一ではなく、平均直径がφk、直径の分散がσkとなるように、乱数を利用してランダムに設定している。
【0045】
かくして、年輪モデルMr内にほぼ一様に散孔材導管Fsを配置してなる散孔材基準導管束モデルMfsと、同じく年輪モデルMr内に、基準軸Aからの距離に応じて分布密度が周期的に変化するように環孔材導管Fkを配置してなる環孔材基準導管束モデルMfkとが形成されることになる。なお、この実施例では、完全に幾何学的な円柱を、その長手方向軸が基準軸Aに平行になるように配置することにより、1つの導管FsあるいはFkの定義を行っているが、各導管Fs,Fkは、必ずしも幾何学的に完全な円柱にする必要はなく、また、幾何学的に正確に基準軸Aに平行に配置する必要もない。要するに、ステップS2およびステップS3で定義する基準導管束モデルMfs,Mfkは、基準軸Aにほぼ沿った方向に伸びる多数の導管から構成されていればよい。
【0046】
さて、こうして定義された散孔材用基準導管束モデルMfsや環孔材用基準導管束モデルMfk(以下、特に両モデルを区別する必要がない場合には、単に基準導管束モデルMfという)には、まだ「木理」の概念は取り入れられていない。各導管の直径や配置などを決定するのに乱数を用いているため、ある程度ランダムな要素は取り込まれているものの、このランダムな要素は、天然木に特有な「木理」の要素とは異なるものである。ステップS4の処理は、木理パラメータに基づいて、この基準導管束モデルMfを歪曲させ、「木理」の要素を含んだ歪曲導管束モデルMf′を求めるために用いる座標変換式を定義する処理である。既に、図11において、いわゆる「波状木理」の要素を含んだ歪曲導管束モデルの概念を示し、図12において、いわゆる「螺旋木理」の要素を含んだ歪曲導管束モデルの概念を示した。このような歪曲導管束モデルを作成するには、直観的には、ステップS2およびステップS3で定義した基準導管束モデルMfを捻ったり、捩じったりすればよい。本実施例では、この捻ったり、捩じったりする処理を、コンピュータを利用した座標変換という形式で実現している。以下、この座標変換を具体例に即して説明する。
【0047】
図17は、波状木理に基づく座標変換の一例を示す概念図である。ここでは、基準軸AがZ軸に平行になるように、XYZ三次元座標系を定義し、基準導管束モデルMfを構成する任意の点Q(図では、基準軸A上の点として示されているが、モデルMf内の点であればどの点でもかまわない)を別な点Q′に座標変換する方法を示してある。すなわち、もとの点Q(x,y,z)の座標値x,y,zに対して、
x′=x+α・sin(β・z)
y′=y
z′=z
なる座標変換式を定義し、この座標変換式を用いて点Q(x,y,z)を点Q′(x′,y′,z′)に変換することになる。ここで、αは変位振幅を示す係数であり、βは変位周期を示す係数である。係数α,βとして定数を用いると、幾何学的に画一的な座標変換が行われることになるが、必要に応じて乱数を用いたり、関数を用いたりすれば、より柔軟な座標変換が可能になる。たとえば、乱数を用いる場合であれば、α=α+RND,β=β+RNDのような定義を行い、所定の初期値α,βに対して、たとえば、−1≦RND≦+1のように範囲が限定された乱数を作用させればよい。また、関数を用いるのであれば、α=α(z),β=β(z)のように、もとの座標値x,y,zを引数とする関数を定義すればよい。もちろん、各係数として、定数、乱数、関数の組み合わせを用いることも可能である。
【0048】
ステップS2およびステップS3で定義した基準導管束モデルMfを構成する各点Q(x,y,z)を、上述の座標変換式を用いて変換して点Q′(x′,y′、z′)を得れば、この点Q′の集合によって表現されるモデルは、図11に示すような波状木理の要素を含んだ歪曲導管束モデルMf′となる。別言すれば、図17に示すように、基準軸Aに対する配向性が部分ごとに異なるベクトル場V1を定義し、このベクトル場V1に沿った方向に伸びる多数の導管Fからなる歪曲導管束モデルMf′が定義されたことになる。
【0049】
一方、図18は、螺旋木理に基づく座標変換の一例を示す概念図である。ここでは、基準軸AがZ軸に一致するように、XYZ三次元座標系を定義し、基準導管束モデルMfを構成する任意の点Q(x,y,z)に対して、
x′=r・cos(θ+θ)
y′=r・sin(θ+θ)
z′=z
ただし r=(x+y1/2
θ=β・z
なる座標変換式を定義し、この座標変換式を用いて点Q(x,y,z)を点Q′(x′,y′,z′)に変換している。ここで、θはXY平面上の螺旋の位置を示す係数(初期位相)であり、βはZ軸方向に関する螺旋の周期を示す係数である。係数θ,βとして定数を用いると、幾何学的に画一的な座標変換が行われることになるが、必要に応じて乱数を用いたり、関数を用いたりすれば、より柔軟な座標変換が可能になる。たとえば、係数βとして、β=β(z)なる関数を用いれば、Z座標値によって螺旋の旋回程度が異なるような螺旋木理の表現が可能になり、β=β(r)なる関数を用いれば、中心軸(Z軸)からの距離に応じて螺旋の旋回程度が異なるような螺旋木理の表現が可能になる。もちろん、各係数として、定数、乱数、関数の組み合わせを用いることも可能である。
【0050】
ステップS2およびステップS3で定義した基準導管束モデルMfを構成する各点Q(x,y,z)を、上述の座標変換式を用いて変換して点Q′(x′,y′、z′)を得れば、この点Q′の集合によって表現されるモデルは、図12に示すような螺旋木理の要素を含んだ歪曲導管束モデルMf′となる。別言すれば、図18に示すように、基準軸Aに対する配向性が部分ごとに異なるベクトル場V2を定義し、このベクトル場V2に沿った方向に伸びる多数の導管Fからなる歪曲導管束モデルMf′が定義されたことになる。
【0051】
なお、上述の例ではいずれも座標変換を変換式に基づいて行っているが、所定の変換テーブルを用意しておき、この変換テーブルに基づく座標変換を行うようにすることも可能である。ただ、変換テーブルではなく変換式による座標変換を行えば、最終的に得られる歪曲導管束モデルMf′全体を式として記述することができるので便利である。
【0052】
図13の流れ図におけるステップS5の処理は、ステップS2で定義した散孔材用基準導管束モデルMfsに対して、上述の座標変換を適用して散孔材用歪曲導管束モデルMfs′を定義する処理であり、ステップS6の処理は、ステップS3で定義した環孔材用基準導管束モデルMfkに対して、同一の座標変換を適用して環孔材用歪曲導管束モデルMfk′を定義する処理である。このように、同一の座標変換を施すことにより、散孔材歪曲導管束モデルMfs′および環孔材歪曲導管モデルMfk′が定義されるため、両歪曲導管モデルには、同一の木理が表現されることになる。したがって、後にパターン合成を行った際にも、模様の流れが同調し違和感がなくなるのである。
【0053】
続くステップS7において、各導管F(散孔材導管Fsおよび環孔材導管Fk)を認識するための画素値を定義する。図15には、いわゆるモノクロ画像を得るための最も単純な画素定義が示されている。すなわち、導管F内部の各点K1(画素)には、画素値“1”(たとえば黒)が定義され、導管F外部の各点K2(画素)には画素値“0”(たとえば白)が定義されている。このように、画素値として二値定義を行えば、最終的には、図4や図5に示すようなモノクロの木目導管断面パターンを得ることができる。もちろん、より細かな画素値を定義すれば、きめの細かな階調画像を得ることができ、更に、三原色のそれぞれについての画素値を定義すれば、カラー画像を得ることができる。また、導管F外部の各点について、年輪モデルMrに基づいて周期的な画素値を定義すれば、木目導管断面パターンだけではなく、年輪パターンを表現することも可能である。
【0054】
次のステップS8では、散孔材用歪曲導管束モデルMfs′および環孔材用歪曲導管束モデルMfk′に対して、所定の切断面Jが定義される。ここで定義される切断面Jは、両モデルについて共通の切断面となる。そこで、以下、特に両モデルを区別する必要がない場合には、切断対象となるモデルを単に歪曲導管束モデルMf′と呼ぶことにする。図19は、歪曲導管束モデルMf′に対して定義された切断面Jの一例を示す斜視図である。このような切断面Jを具体的に定義するには、たとえば、切断面Jのサイズ(縦横の長さ)、上辺と基準軸Aとの距離、下辺と基準軸Aとの距離を定義すればよい。このような定義により、XYZ三次元座標空間内における切断面Jの位置が一義的に定まることになる。
【0055】
続くステップS9では、散孔材用歪曲導管束モデルMfs′を切断面Jで切断し、切断面J上の画素の集合として、散孔材断面パターンPPsが抽出される。すなわち、散孔材歪曲導管束モデルMfs′内の各点のうち切断面J上に位置する点の集合によってパターンが形成されることになる。図20は、こうして切断面J上に得られた散孔材断面パターンPPsの一例を示す平面図である。図示のとおり、楕円状の木目導管断面Pが多数現れており、各木目導管断面Pの内部の点K3には画素値“1”(黒)が定義され、外部の点K4には画素値“0”が定義されている。同様に、ステップS10では、環孔材用歪曲導管束モデルMfk′を切断面Jで切断し、切断面J上の画素の集合として、環孔材断面パターンPPkが抽出される。
【0056】
こうして、散孔材断面パターンPPsと環孔材断面パターンPPkとが得られたら、続くステップS11において、両パターンを合成した合成パターンに基づいて、刷版・印刷工程を行い、壁紙などにこの合成パターンを印刷するか、あるいは、エンボス版作成・エンボス加工工程を行い、壁紙などにこのパターンを凹凸形状として転写する。ステップS9およびステップS10で得られた各木目導管断面パターンは、コンピュータ内にデジタル画像データとして保持されているので、ステップS11の工程は、このデジタル画像データを利用して行われることになる。
【0057】
たとえば、最終的な合成パターンを印刷する場合には、図8に示すように、散孔材断面パターンPPsと環孔材断面パターンPPkとに対して図形演算(たとえば、図形の論理和演算)を施し、合成断面パターンPPskを求め、この合成断面パターンPPskに基づいて刷版を作成し印刷を行えばよい。また、最終的な合成パターンをエンボス加工する場合には、合成断面パターンPPskに基づいてエンボス版を作成しエンボス加工を行ってもよいし、散孔材断面パターンPPsに基づいて第1のエンボス版を作成し、環孔材断面パターンPPkに基づいて第2のエンボス版を作成し、第1のエンボス版を用いた第1のエンボス加工と第2のエンボス版を用いた第2のエンボス加工とをそれぞれ別個独立して行うようにしてもよい。後者の方法を採れば、第1のエンボス加工によって形成される溝の深さよりも、第2のエンボス加工によって形成される溝の深さをより深くすることが可能になり(たとえば、第2のエンボス版を作成する工程におけるエッチング時間をより長く設定すればよい)、散孔材断面パターンPPsを構成する個々の導管溝よりも環孔材断面パターンPPkを構成する個々の導管溝を深くすることができ、より自然の風合いに合致した合成パターンを得ることが可能になる。
【0058】
なお、上述の実施例では、散孔材の三次元モデルと環孔材の三次元モデルとをそれぞれ別個に作成し、最終段階で散孔材断面パターンPPsと環孔材断面パターンPPkとを合成しているが、同一の三次元空間内に散孔材導管Fsと環孔材導管Fkとの双方を重ねて配置した合成三次元モデルを作成し、これを切断して合成断面パターンを得るような方法を採っても、上述の実施例と実質的に同じ結果が得られるものであり、上述の実施例による手法の均等範囲に属するものである。
【0059】
§2 揺らぎ成分の付加
ところで、図19に示す切断プロセスでは、平面状の切断面Jを用いた切断を行っているが、切断面Jは必ずしも平面にする必要はない。特に、皺状の凹凸が形成された切断面(ここでは、有皺切断面JJと呼ぶ)を用いて切断を行うと、揺らぎの要素を含んだ木目導管断面パターンを得ることができる。図21は、このような有皺切断面JJを用いて歪曲導管束モデルMf′を切断するプロセスを示す概念図である。有皺切断面JJとしては、導管の直径に比べて細かな皺が多数形成された面であればどのような面であってもかまわないが、自然の揺らぎを表現するためには、二次元の揺らぎ場、特に二次元フラクタル場を利用して皺を生成するのが好ましい。二次元フラクタル場は、所定のスカラー値を自己相似的に二次元平面上の各点に定義したスカラー場である。たとえば、XY平面上にこのような二次元フラクタル場を定義すれば、このXY平面上の任意の点N(x,y)について、それぞれ所定のスカラー値Sが定義されることになる。しかもこのスカラー値Sの空間的な分布は、自己相似的となっており、マクロ的に全体を観察しても、ミクロ的にその一部分を観察しても、スカラー値の分布の複雑さは同じになる。そこで、XY平面上の各点を、それぞれに定義されたスカラー値Sに対応する寸法だけZ軸方向に変位させれば、自然の揺らぎをもった有皺切断面JJを定義することができる。このような自然の揺らぎをもった有皺切断面JJによって、歪曲導管束モデルMf′を切断し、切断面上の画素によって木目導管断面パターンを形成するようにすれば、パターン自身に自然の揺らぎが含まれることになり、自然に近い風合いをもった木目導管断面パターンを得ることが可能になる。
【0060】
上述のように、切断面側に揺らぎの要素を付加する代わりに、歪曲導管束モデルMf′側に揺らぎの要素を付加しても同じ結果が得られる。図22は、このような揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″を、平面状の切断面Jによって切断するプロセスを示す概念図である。三次元モデルである歪曲導管束モデルMf″側に揺らぎの要素が付加してあるため、切断面Jとしては通常の平面を用いればよい。§1で述べた図13の流れ図に示すプロセスにおいて、揺らぎの要素を付加する処理を追加する場合には、ステップS5およびステップS6における座標変換処理を2段階の処理にすればよい。すなわち、まず第1段階の座標変換処理(木理を表現するための座標変換処理)によって、基準導管束モデルMfを歪曲導管束モデルMf′に変換し、更に第2段階の座標変換処理(揺らぎを表現するための座標変換処理)によって、歪曲導管束モデルMf′を揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″に変換すればよい。歪曲導管束モデルMf′に基づいて揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″を定義するためには、揺らぎ場に基づく座標変換が利用される。
【0061】
この実施例では、図23に示すような3組の三次元フラクタル場I,II,III を揺らぎ場として利用して、この座標変換を行っている。ここで、各フラクタル場I,II,III は、いずれも所定のスカラー値を自己相似的に三次元空間内の各点に定義したスカラー場であり、たとえば、所定の座標値(x,y,z)で示される点Q(x,y,z)について、各フラクタル場では、それぞれスカラー値S1,S2,S3が定義されている。そこで、たとえば、図19に示す歪曲導管束モデルMf′内のすべての点Q(x,y,z)を、上記フラクタル場を用いて、新たな座標値(x+S1,y+S2,z+S3)で示される点へと変位させる作業を行えば、図19に示すモデルMf′を、図22に示すモデルMf″に変換することができる。変換後のモデルMf″は、フラクタル場に基づく自然の揺らぎを含んでいるため、これを切断面Jで切断することによって得られる木目導管断面パターンも、自然の揺らぎを含んだものになる。
【0062】
§3 具体的な演算手法
上述した方法では、概念的には、図22に示すように、XYZ三次元座標空間内に揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″の立体画像を形成し、この立体画像に対する切断面Jによる切り口の二次元画像を木目導管断面パターンとして抽出するのであるが、コンピュータ内で行われる実際の演算処理としては、必ずしも図22に示すようなモデルMf″の立体画像データを用意する必要はない。むしろ、このようなモデルMf″の立体画像データを演算によって求めることは、実用上は好ましくない。なぜなら、最終的に必要な情報は、切断面J上の画素に関する画素値であり、切断面J以外の箇所のモデルMf″の立体画像データは全く必要ないからである。
【0063】
そこで、本実施例では、次のような方法により、コンピュータによる効率的な演算が行われるよう工夫を行っている。まず、ステップS2およびステップS3における基準導管束モデルMfの定義プロセスでは、個々の導管Fの直径dと直交座標系による座標値で示した位置(x,y)もしくは極座標系による座標値で示した位置(r,θ)を示すデータだけを用意する。この実施例では、各導管Fを幾何学的に完全な円柱としており、しかもZ軸に平行に無限に伸びる円柱として定義しているので、1本の導管Fを示すのに、(d,x,y)もしくは(d,r,θ)といった3変数を用いるだけで十分である。また、ステップS8における画素値の定義プロセスでは、単に、各導管Fの内側の領域については画素値“1”、外側の領域については画素値“0”というような情報だけを定義するようにする。
【0064】
一方、ステップS5およびステップS6では、概念的には、まず第1段階の座標変換処理により歪曲導管束モデルMf′を作成することになるが、実際には、図17あるいは図18に示したような座標変換の式だけを定義すれば足りる。すなわち、図19に示すような歪曲導管束モデルMf′に相当するような立体画像データを求める演算は、実際には一切行う必要はない。もちろん、このような立体画像データが必要な場合には、ステップS2およびステップS3で用意した個々の導管Fの直径と位置を示すデータと、上述の座標変換式とに基づいて、そのような立体画像データを演算することはいつでも可能である。しかし、前述したように、木目導管断面パターンを得るという本発明の目的達成のためには、そのような演算をこの時点で行う必要はない。続く、第2段階の座標変換処理では、概念的には、揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″を作成することになるが、実際には、図23に示すような三次元フラクタル場I,II,III を用いた座標変換の式だけを定義すれば足りる。すなわち、図22に示すような揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″に相当するような立体画像データを求める演算は、実際には一切行う必要はない。
【0065】
図24は、ステップS2あるいはステップS3で定義された基準導管束モデルMf内の任意の点Q(x,y,z)が、第1段階の座標変換式(木理を表現するための座標変換)により点Q′(x′,y′,z′)に変位し、更に、第2段階の座標変換式(揺らぎを表現するための座標変換)により点Q″(x″,y″,z″)に変位した状態を示す概念図である。点Q(x,y,z)から点Q′(x′,y′,z′)への座標変換は、たとえば波状木理を表現する場合には、図17に示したように、
x′=x+α・sin(β・z)
y′=y
z′=z
なる座標変換式に基づいて行うことができ、点Q′(x′,y′,z′)から点Q″(x″,y″,z″)への座標変換は、たとえば図23に示すような三次元フラクタル場を利用するのであれば、図24に示したように、
x″=x′+S1
y″=y′+S2
z″=z′+S3
なる座標変換式に基づいて行うことができる。
【0066】
最後に、ステップS9あるいはステップS10において、上述の各座標変換を考慮にいれた演算処理を実行し、木目導管断面パターンの抽出を行う。具体的には、次のような演算を行えば、非常に効率的な処理が可能になる。まず、切断面J上に所定の解像度で画素配列を定義する。画素の解像度は、たとえば、1画素あたりの実寸長などによって定めることができる。そして、この画素配列を構成する個々の画素についての位置(たとえば、1つの画素の中心点位置)を点Q(x,y,z)として求める。そして、この点Q(x,y,z)を上述した座標変換式に基づいて点Q′(x′,y′,z′)に変換し、更に、点Q″(x″,y″,z″)へと変換する。こうして、点Q″の位置が求められたら、ステップS2あるいはステップS3で定義された基準導管束モデルMfについて、点Q″の位置の画素値を演算によって求める。前述のように、基準導管束モデルMfは、個々の導管Fの直径と位置とを示す(d,x,y)もしくは(d,r,θ)というデータによって定義されているので、これらのデータに基づいて、点Q″が導管Fの内側に位置するのか外側に位置するのかを判断する演算を行い、内側に位置する場合には画素値“1”、外側に位置する場合には画素値“0”をとればよい。こうして求めた画素値を、切断面J上のもとの画素に付与すれば、目的とする木目導管断面パターンが切断面J上に形成されることになる。
【0067】
§4 本発明に係るパターン作成装置の基本構成
図25は、本発明の一実施例に係る木目導管断面パターン作成装置の基本構成を示すブロック図である。ここで、パラメータ入力手段101は、パターン作成に必要な所定のパラメータを入力する手段であり、この実施例では、年輪パラメータ、導管パラメータ、木理パラメータ、揺らぎパラメータが、このパラメータ入力手段101に対して設定されることになる。乱数発生手段102は、所定の数値範囲内の乱数を発生する手段であり、たとえば、−1≦RND≦+1の範囲をとる一様乱数RNDを発生する機能を有する。この乱数発生手段102により発生した乱数を用いることにより、自然物の不規則性を表現したパターンを得ることが可能になる。
【0068】
基準導管束モデル生成手段103は、パラメータ入力手段101において入力された年輪パラメータおよび導管パラメータ(図14参照)と、乱数発生手段102において発生された乱数とに基づき、三次元空間内の所定の基準軸Aに沿った方向に伸びる多数の導管からなる基準導管束モデルMf(散孔材用基準導管束モデルMfsと環孔材用基準導管束モデルMfk)を定義し、この基準導管束モデルMfを構成する各点に、各導管を認識するのに必要な所定の画素値を定義する機能を有する。乱数を用いているため、個々の導管の直径や配置はランダムになるが、図16に示すような確率関数Zs(U),Zk(U)をパラメータとして用いているため、導管の統計的な分布は制御することが可能である。
【0069】
木理に基づく座標変換定義手段104は、パラメータ入力手段101において入力された木理パラメータ(波状木理,螺旋木理といった木理のタイプを示すパラメータや、具体的な変換式に用いられる係数値α,βなど)と乱数発生手段102において発生された乱数とに基づき、三次元空間内に基準軸Aに対する配向性が部分ごとに異なるベクトル場を定義し、このベクトル場に基づいて、基準導管束モデルMfを構成する各点に対する座標変換(第1段階の座標変換)を定義する機能を有する。
【0070】
揺らぎに基づく座標変換定義手段105は、パラメータ入力手段101において入力された揺らぎパラメータ(用いる揺らぎのタイプや揺らぎの最大値など)と乱数発生手段において発生された乱数とに基づき揺らぎ場を発生し、この揺らぎ場に基づいて、基準導管束モデルを構成する各点に対する座標変換(第2段階の座標変換)を定義する機能を有する。たとえば、揺らぎ場として三次元フラクタル場を用いた場合には、図24に示すような座標変換式が定義されることになる。コンピュータを用いたフラクタル場の発生方法としては、たとえばランダム中点変位法など公知の一般的な方法を用いればよい。
【0071】
切断面定義手段106は、基準導管束モデル生成手段103で生成された基準導管束モデルMfを切断するための切断面Jを定義する手段であり、この実施例では、切断面Jのサイズ(縦横の長さ)、上辺と基準軸Aとの距離、下辺と基準軸Aとの距離を設定することにより、平面状の切断面Jを定義している。また、この切断面J上に定義される画素配列の解像度が、1画素あたりの実寸長として設定される。
【0072】
パターン抽出手段107は、切断面J上に位置する点Qに対して、木理に基づく座標変換定義手段104で定義された座標変換と、揺らぎに基づく座標変換定義手段105で定義された座標変換と、の双方の座標変換を行い、座標変換後の点Q″について基準導管束モデルMfで定義されている画素値を、切断面J上のもとの点Qに付与し、画素値が付与された切断面上の点Qによって構成されるパターンを木目導管断面パターンとして抽出する機能を有する。こうして抽出された木目導管断面パターンは、ラスター画像データとして出力される。
【0073】
かくして、パラメータ入力手段101に、散孔材用の導管パラメータを与えることにより、パターン抽出手段107から散孔材断面パターンPPsが得られ、同様に、パラメータ入力手段101に、環孔材用の導管パラメータを与えることにより、パターン抽出手段107から環孔材断面パターンPPkが得られることになる。この2とおりの断面パターンを得る際に、木理に基づく座標変換定義手段104によって定義される第1段階の座標変換、揺らぎに基づく座標変換定義手段105によって定義される第2段階の座標変換、切断面定義手段106によって定義される切断面、を固定し、同一の座標変換および同一の切断面を用いるようにすれば、この2とおりの断面パターン上の模様の流れは完全に同調したものになる。パターン合成手段108は、この完全に同調した2とおりのパターンを合成し、合成断面パターンPPskを作成する機能を有する。
【0074】
以上述べた各構成要素101〜108は、実際にはコンピュータを利用して実現されるものである。したがって、図25では説明の便宜上、これらの各構成要素をそれぞれ機能ブロックとして分けて示しているが、実際には、これらの各構成要素は物理的に区別されうるものではない。
【0075】
刷版装置109は、パターン合成手段108から出力された合成断面パターンを示すラスター画像データに基づいて刷版処理を行う装置であり、こうして得られた版を用いて、エンボス加工装置110ではエンボス加工が行われ、印刷装置111では印刷が行われることになる。なお、散孔材断面パターンPPsに基づくエンボス加工と、環孔材断面パターンPPkに基づくエンボス加工とをそれぞれ別個独立して行い、深さの異なる導管溝を形成する場合には、エンボス加工時に両パターンの合成が行われることになるので、パターン合成手段108によるパターン合成を行う必要はない。
【0076】
【発明の効果】
以上のとおり本発明に係る木目導管断面パターンを有する印刷物およびエンボス加工品によれば、繊細な散孔材の模様のイメージと力強い環孔材の模様のイメージとを融合させたイメージが醸し出されるので、これまでの天然木にない斬新な木目導管断面パターンを表現することができるようになる。また、本発明に係る木目導管断面パターンの作成方法によれば、同一の木理および揺らぎの成分をもった散孔材断面パターンと環孔材断面パターンとを人為的に発生させ、両パターンを合成するようにしたため、両パターン上の模様の流れを完全に同調させることができ、違和感のない自然の風合いをもった斬新な木目導管断面パターンを作成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な天然木の材木板上に現れる木目導管断面パターンの一例を示す図である。
【図2】図1に示すパターンの円形部分領域W内の拡大図である。
【図3】一般的な天然木を切断したときに得られる導管溝の深さ分布を説明する図である。
【図4】実際の天然木(散孔材)の材木板に現れる木目導管断面パターンの一例を示すより詳細な図である。
【図5】実際の天然木(環孔材)の材木板に現れる木目導管断面パターンの一例を示すより詳細な図である。
【図6】一般的な散孔材の断面と導管との関係を示す概念図である。
【図7】一般的な環孔材の断面と導管との関係を示す概念図である。
【図8】本発明に係る木目導管断面パターン(合成断面パターン)の構成を示す概念図である。
【図9】三次元空間内の基準軸Aに沿った方向に伸びる多数の導管Fからなる基準導管束モデルを示す斜視図である。
【図10】図9に示す基準導管束モデルを所定の切断面Jで切断した状態を示す斜視図である。
【図11】図9に示す基準導管束モデルの各導管Fをベクトル場V1に沿うように歪ませることによって得られる波状木理を表現した歪曲導管束モデルを示す斜視図である。
【図12】図9に示す基準導管束モデルの各導管Fをベクトル場V2に沿うように歪ませることによって得られる螺旋木理を表現した歪曲導管束モデルを示す斜視図である。
【図13】本発明の一実施例に係る木目導管断面パターンの作成方法の手順を示す流れ図である。
【図14】図13に示す流れ図のステップS1で定義される年輪モデルMr、ならびにステップS2およびステップS3で定義される基準導管束モデルMfs,Mfkを示す斜視図である。
【図15】図14に示す年輪モデルMrおよび基準導管束モデルを、基準軸Aに対して垂直な面によって切断した状態を示す断面図である。
【図16】図13に示す流れ図のステップS2およびステップS3における導管配置を行う上で参照される確率関数Zs(U),Zk(U)の一例を示すグラフである。
【図17】波状木理に基づく座標変換の一例を示す概念図である。
【図18】螺旋木理に基づく座標変換の一例を示す概念図である。
【図19】木理に基づく座標変換を行って得られた歪曲導管束モデルMf′に対して、切断面Jによる切断を行うプロセスを示す斜視図である。
【図20】図19に示す切断プロセスにより、切断面J上に得られる木目導管断面パターンの一例を示す平面図である。
【図21】図19に示す切断プロセスで用いた切断面Jの代わりに、有皺切断面JJを用いた切断プロセスを示す斜視図である。
【図22】木理に基づく座標変換と揺らぎに基づく座標変換との双方を行って得られた揺らぎを含む歪曲導管束モデルMf″に対して、切断面Jによる切断を行うプロセスを示す斜視図である。
【図23】揺らぎに基づく座標変換を行うために用いられる3組の三次元フラクタル場を示す概念図である。
【図24】基準導管束モデルMf内の任意の点Q(x,y,z)が、木理を表現するための座標変換により点Q′(x′,y′,z′)に変位し、更に、揺らぎを表現するための座標変換により点Q″(x″,y″,z″)に変位する状態を示す概念図である。
【図25】本発明の一実施例に係る木目導管断面パターン作成装置の基本構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
101…パラメータ入力手段
102…乱数発生手段
103…基準導管束モデル生成手段
104…木理に基づく座標変換定義手段
105…揺らぎに基づく座標変換定義手段
106…切断面定義手段
107…パターン抽出手段
108…パターン合成手段
109…刷版装置
110…エンボス加工装置
111…印刷装置
A…基準軸
B…基準軸に直交する方向
C,C1,C2,C3…切断面
D…一年間の平均成長幅
D1〜D4…一年間の成長幅
F…導管
Fk…環孔材導管
Fs…散孔材導管
G…導管溝
J…切断面
JJ…有皺切断面
K1〜K4…三次元空間内の点
L…長手方向
Mf…基準導管束モデル
Mfk…環孔材用基準導管束モデル
Mfs…散孔材用基準導管束モデル
Mf′…歪曲導管束モデル
Mf″…揺らぎを含む歪曲導管束モデル
Mr…年輪モデル
P…木目導管断面
Pk…環孔材導管断面
Ps…散孔材導管断面
PPk…環孔材断面パターン
PPs…散孔材断面パターン
PPsk…合成断面パターン
Q,Q′,Q″…三次元空間内の点
R…仮想年輪線
t…成長時期
U…ポテンシャル値
V1,V2…ベクトル場
W…円形部分領域

Claims (4)

  1. 木目導管断面パターンを人為的に作成する方法であって、
    三次元空間内に所定の基準軸を定義し、この基準軸を中心軸として年間成長幅を示す同軸円筒を配置した年輪モデルを定義する段階と、
    前記年輪モデル内に、前記基準軸からの距離にかかわらずほぼ一定となる散孔材用導管密度分布を定義し、前記基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、前記散孔材用導管密度分布に応じた密度で配置することにより散孔材用基準導管束モデルを定義する段階と、
    前記年輪モデル内に、この年輪モデルの年間成長幅を一周期として前記基準軸からの距離に応じて周期的に変化する環孔材用導管密度分布を定義し、前記基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、前記環孔材用導管密度分布に応じた密度で配置することにより環孔材用基準導管束モデルを定義する段階と、
    前記年輪モデルが定義された空間内に前記基準軸に対する配向性が部分ごとに異なるベクトル場を定義し、前記基準軸にほぼ沿った方向に伸びる多数の基準導管を、前記ベクトル場に沿った方向に伸びる多数の歪曲導管に変換するために、前記基準導管内の変換前の点Qから前記歪曲導管内の変換後の点Q′への所定の座標変換式を定義する段階と、
    前記散孔材用基準導管束モデルに対して前記座標変換式を適用して散孔材用歪曲導管束モデルを定義する段階と、
    前記環孔材用基準導管束モデルに対して前記座標変換式を適用して環孔材用歪曲導管束モデルを定義する段階と、
    前記散孔材用歪曲導管束モデルおよび前記環孔材用歪曲導管束モデルを構成する各点に、各導管を認識するのに必要な所定の画素値をもった画素を定義する段階と、
    前記年輪モデルを切断するための所定の切断面を定義する段階と、
    前記散孔材用歪曲導管束モデルを前記切断面によって切断したときに切断面に位置する画素の集合によって構成されるパターンを散孔材断面パターンとして抽出する段階と、
    前記環孔材用歪曲導管束モデルを前記切断面によって切断したときに切断面に位置する画素の集合によって構成されるパターンを環孔材断面パターンとして抽出する段階と、
    前記散孔材断面パターンと前記環孔材断面パターンとを合成して合成パターンを形成する段階と、
    を有することを特徴とする木目導管断面パターンの作成方法。
  2. 請求項1に記載の作成方法において、
    環孔材用基準導管束モデルにおける導管径の平均が、散孔材用基準導管束モデルにおける導管径の平均よりも大きくなるように、各モデルの定義を行うことを特徴とする木目導管断面パターンの作成方法。
  3. 請求項1または2に記載の作成方法において、
    所定のスカラー値を自己相似的に二次元平面上の各点に定義した二次元フラクタル場を用意し、
    この二次元フラクタル場の各点のもつスカラー値に応じて、平面上の各点を所定方向に変位させることにより有皺面を生成し、
    この有皺面を切断面として用いて、各歪曲導管束モデルの切断を行うことを特徴とする木目導管断面パターンの作成方法。
  4. 請求項1または2に記載の作成方法において、
    所定のスカラー値を自己相似的に三次元空間内の各点に定義した三次元フラクタル場を用意し、
    歪曲導管束モデルを構成する各点Q′の座標を、前記三次元フラクタル場の対応点のもつスカラー値に応じて変換して点Q″を求め、この点Q″によって揺らぎを含む歪曲導管束モデルを定義し、
    この揺らぎを含む歪曲導管束モデルを所定の切断面によって切断することを特徴とする木目導管断面パターンの作成方法。
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