JP4211127B2 - 永久磁石式同期モータ駆動エレベータ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石式同期モータを駆動源とするエレベータ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
小型強力な永久磁石を界磁に利用した同期モータは小型化が可能で、モータを含む駆動装置が小型化でき、効率が向上するメリットがあるため、エレベータへの適用が進みつつある。
【0003】
モータのトルクを制御するには、電流の大きさを制御するだけでなく、モータの磁極位置に対応し、電流位相を制御するためにモータの磁極位置(回転角度)を把握することが、必須である。磁極位置の検出には、実用的に通常、磁極位置検出器を用いる。これをエレベータに応用した例に特開平10−80188 号公報がある。
【0004】
しかし、モータ端に磁極位置検出器を設けねばならないため、取付けのためにモータに構造上の制約が出たり、センサ取付け時にモータ軸とセンサ軸の位置合わせが必要になる。この問題をなくすため、磁極位置センサレス駆動が研究されている。例えば、平成10年電気学会全国大会No.883「永久磁石同期モータ簡易磁極位置センサレス方式の性能評価」がある。しかし、この方法はモータが突極型でなければ、利用できず、また、場合によってはモータからトクルリプルが出るおそれがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記問題点に対してなされたもので、その目的とする課題は、永久磁石モータのような磁極位置検出が必要なモータにおいて、モータの形式にかかわらず、磁極位置検出器なしにエレベータを運転できる制御方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
エレベータは、かご位置や速度を制御する速度検出器が設置されている。速度検出器の信号を利用すれば永久磁石モータの回転位置は検出できる。起動時の初期位相を確立できれば、以後、速度検出器の信号を利用してモータの磁極位置を推定し、モータの磁極位置(位相)検出器を用いずに運転が行える。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明の実施例を説明する。
【0008】
図1は、本発明の実施例を示す。
【0009】
図1において、51は永久磁石式同期モータで、その回転軸には、シーブ52,ブレーキドラム53,エンコーダ54が接続されている。シーブ52にはロープ13が巻かれており、ロープ13の両端にはかご11とカウンタウエイト12が接続されている。シーブ52が回転するとロープ13を介してかご11,カウンタウエイト12が昇降路内(図示せず)を昇降する。ブレーキドラム53は、ブレーキ装置31が作用し、ブレーキ装置31のコイルに電流を流すとブレーキドラム53に押し付けているブレーキシューが解放し、ブレーキがかからない状態になる。ブレーキ装置31の制御は制御装置21から行う。エンコーダ54は同期モータ51の回転角度に従ったパルスを出し、その周波数は同期モータ51の回転速度に比例する。なお、図ではエンコーダ54は同期モータ51の軸端に接続したが、モータの回転角度に比例したパルス信号を出せる構造にすれば、軸端にこだわる必要はない。例えば、エンコーダをシーブ52の周にそわせて装着し、シーブの回転にあわせて信号を得たり、かご11やカウンタウエイト12に装着し、その動きにあわせて信号を得ることもできる。すなわち、エンコーダの信号は、モータの回転角度の絶対値に比例しなくとも、相対的な動きがわかればよい。このため、エンコーダ54の設置はシステムの要求に応じてどこに設置してもよく、設置の自由度は増す。さらに、同期モータ51の回転速度検出は、エンコーダだけでなく、レゾルバでも同様の処理が実行できる。また、回転型の検出器を用いず、例えば、かご11の昇降路内の位置を測定する検出器の信号を検出してもよい。
【0010】
本発明の動作を次に説明する。図2は制御装置21を中心とする図1の具体構成を示す。速度指令212からの信号とエンコーダ54からの回転速度信号が速度制御演算213に入力される。速度制御演算213は速度指令212からの信号とエンコーダ54からの回転速度信号の偏差に応じて働き、その出力信号はトルク指令信号として電流制御演算214に入力される。磁極位置推定215は後述する方法により、エンコーダ54,電圧検出器216,電流検出器217の信号から同期モータ51の磁極位置を推定する。電流制御演算214は前記トルク指令信号に比例する電流指令と電流検出器217からの電流検出信号により働き、磁極位置推定215からのモータ磁極位置を基準に動作する。電流制御演算214の出力はインバータ211に入力され、インバータがPWM制御される。インバータ211は電源22からの電力を、電流制御演算214の出力にしたがって可変電圧,可変周波数の交流に変換し、同期モータ51に与える。このような磁極位置信号を基準にして速度制御をする永久磁石式同期モータの制御方法は周知である。この制御方法は同期モータのベクトル制御として知られているので詳細な動作説明を省略する。例えば、「中野道雄他著:サーボ技術とパワーエレクトロニクス(共立出版1994年9月発行)136頁〜137頁」や、「中野孝良著:交流モータのベクトル制御(日刊工業新聞社1996年3月発行)58頁〜59頁」に記載されている。以上のように、速度制御を行うには、磁極位置を知ることが基準になる。
【0011】
次に、磁極位置を知るための磁極位置推定215の動作について説明する。
【0012】
最初に、電源22の投入後すぐの磁極位置の推定について説明する。図3はその流れを示すフローである。まず電源を投入し、制御電源,主回路電源を確立(1)させる。次に、ブレーキ装置31によりブレーキを解放(2)させて、重力を利用してかごを自然昇降させる。このときの、モータの電機子電流は零に保つ。そのため、インバータ211のゲート回路を停止させたり、または、電流指令を零にする。このとき、同期モータ51が回転するか、すなわち、起動できるか(3)を判定する。かご11とカウンタウエイト12の重量がバランスしていなければ、重量差により、かごは自然昇降し、モータは回転する。一方、かご11とカウンタウエイト12の重量がバランスしているときは起動できない。このとき、モータに低周波の交流電流を流し、低周波同期起動(4)させ、モータを回転させる。なお、低周波同期起動は、交流電流だけでなく、直流電流によりモータを回転させてもよい。
【0013】
そして、同期モータ51が所定速度に達成した後、モータの誘起電圧位相を測定(5)する。通常、例えば定格回転速度の5%速度以上まで加速すれば、モータの誘起電圧は十分に出るので、誘起電圧は電圧検出器216の信号から測定できる。誘起電圧の位相は磁極位置と対応するので、例えば、次の方法で測定できる。一例として、正弦波状の誘起電圧波形の零クロス点を測定し、位相を測定してもよい。または、3相交流であることを利用し、3つの電圧の互いの大きさから位相を測定してもよい。誘起電圧位相は同期モータ51の磁極位相と1:1に対応するので、電圧位相と磁極位置との関係から、磁極位置を演算(6)する。位置が推定できれば、直ちにこの磁極位置の値を初期値として、エンコーダ54からのパルス信号を積分(7)、すなわち回転方向によってパルスを加算、または、減算をする。この演算は、モータの回転角度に対応させた演算であるので、磁極位置と等価である。こうして磁極位置を推定する。このようにすれば、電源投入直後の磁極位置が推定でき、準備完了(8)となる。かごの運転速度を監視しているので、安全に運転される。
【0014】
以上のようにすれば、電源投入直後でモータの磁極位置が分からないときの磁極位置の推定が行え、磁極位置検出器なしに運転が行える。初期位置推定モードに入るのは、電源の投入直後であることを認識し、自動的に行うことができる。また、これとは別に、初期位置推定モードに入るのは、保守員などによりマニュアルによって入ってもよい。このとき、初期位置推定モードであることを認識させるため、釦などでそれを押している間だけ初期位置推定を実行させ、釦を離すと直ちにブレーキ装置31が動作し、かご11を停止させてもよい。また、回転角度の演算(7)後はそのときの指令にしたがって、運転を継続してもよいし、一旦停止後、再度、指令に従って運転を行ってもよい。
【0015】
次に、上記のように初期位置を推定後の運転中の位置検出方法について説明する。前記のようにエンコーダ54からのパルス信号の積分値とモータの回転角度、すなわち、磁極位置は1:1に対応する。磁極位置は、エンコーダ54からのパルスを積分することによって得ることができる。このようにすれば、極低速度から定格速度まで、速度に無関係に磁極位置の演算ができる。停止時はこれまでパルスを積分してきた値を保持すればよい。次の起動には、この保持した値を磁極位相に対応させ運転が開始できる。図3のような起動は、電源投入直後で、積分した値が保持されなくなったときだけ行えばよい。このため、例えば、エレベータの運転を休止するとき、主回路電源だけを遮断し、積分を行う回路を活かしておけばよい。さらに、長期間停止するときなどは、積分した値だけを不揮発メモリに保持しておき、次に運転するときこの値を利用すればよい。
【0016】
ところで、前記のパルス信号の積分演算を行うとき、エンコーダ54からのパルスにノイズなどが入り、それを誤積分すると磁極位相演算に誤差が出ることがある。この問題が出そうなとき、次のようにすればその影響を除去できる。例えば、運転中のモータの誘起電圧位相を検出すれば、磁極位置は推定できる。すなわち、誘起電圧e0と端子電圧etとには、次の関係がある。
【0017】
e0=et−L(di/dt) …(数1)
ここで、誘起電圧e0,端子電圧etは相電圧、Lは同期インダクタンス、iは電機子電流である。この演算で電機子抵抗はある速度以上では、相対的に小さいので無視しているが、精度を上げるため考慮してもよい。モータの磁束φは、
φ=∫e0 dt=∫et dt−Li …(数2)
から、得られる。端子電圧の相電圧etは電圧検出器216から得、電機子電流iは電流検出器217から得る。エンコーダ54からのパルス信号の積分値から得た磁極位置と、磁束φから得た磁極位置を比較し、パルス信号の積分値から得た磁極位置の値を磁束φから得た値に修正し、磁極位置の推定演算を続ける。
【0018】
図4は磁極位置推定215の構成例である。まず、電圧検出器216によってモータ端子電圧の相電圧、電流検出器217によって電機子電流を検出する。そして、積分器2151,ゲイン設定器2152,加算器2153によって、(数2)の演算を行う。加算器2153の出力はモータの磁束φである。これを比較器2154に入力し、それが零クロスする磁極位相の零点を検出する。一方、積分器2157はエンコーダ54からのパルス信号を積分する。積分器2157は比較器2154からの零クロス信号が出た時に、積分した値を修正する。こうして、モータの磁極位置の推定演算をし続ける。なお、磁極位置の修正は零点からでなく、そのときの磁束信号そのものを利用してもよい。磁極位相を検出するとき、誘起電圧が十分でない低速域での積分値の修正動作を停止する必要がある。そのため、スイッチ2158があり、低速域かどうかを速度判定2155が行い、スイッチ2158を低速域ではオフし、修正動作を停止させる。
【0019】
このような構成とすれば、電源投入直後のモータの磁極の初期位相の推定とその後の運転の演算を切換なしに、両者、自動的に行うことができる。図4の構成はハード回路で説明したが、無論、マイコンなどによってソフトで行ってもよい。さらに、電圧検出は主回路の端子電圧を検出して行ったが、インバータ211を制御する信号から得ることもできる。インバータ211への制御信号は後述するように電圧指令信号であり、この信号は端子電圧に比例するので、インバータ211を制御する信号から得ることもできる。
【0020】
以上のようにすれば、磁極位置の推定が、磁極位置検出器なしに行える。また、運転中の磁極位置推定は、ここで示した方法だけでなく、オブザーバを用いる方法、インバータに検出のための信号を印加する方法、あるいはインバータの運転情報などモータの駆動情報から得ることもできる。
【0021】
図5は電流制御演算214の具体的構成例を示す。本例の基本構成は周知であり、例えば、電気学会論文誌D,117巻,5号(1997年5月),539頁,図5に記載されている。本願の図5の構成は、電機子電流をd,q軸成分に分けて制御しているのが特徴である。ここで、d軸は磁束方向軸であり、q軸はそれと直交する軸である。Id/Iq演算2141は磁極位置推定215からの界磁磁極位置(電気的回転角)に応じた正弦または余弦信号を基準に、三相の電機子電流の瞬時値の検出値iu,iv,iw(電流検出器217は図示せず)から電流の成分Id,Iqを検出する。ACR−d,qは電流指令成分Id*,Iq*と実際値Id,Iqとの偏差に応じて働く。さらに、モータの回転速度(電気的回転角周波数)ωと、電流指令成分Id* ,Iq* とから、図に示すようにベクトル図演算を行いd,q軸の電圧成分を演算し、前記のACR−d,qの出力と加算する。なお、Φは同期モータ51の磁束、Lは同期インダクタンスである。またここで、電流指令成分Iq* は速度制御演算213の出力であり、電流指令成分Id* は通常零である。しかし、モータの力率制御を行うため、所要力率が得られるようにId* を与えてもよい。また、先に説明した電源投入直後の磁極位置検出時の電流が零であるモードは、電流指令Id* ,Iq* を零とすれば、モータに電流を流さないようにできる。
【0022】
電流制御演算214の出力はd,q軸の電圧指令信号Ed* ,Eq* であり、この値に基づいてインバータ211は制御される。インバータ211のPWM制御を実行する際、正弦波の瞬時値電圧指令信号が必要なときは、演算2141の逆演算を行えばよい。この演算は周知なので省略する。
【0023】
なお、図3で示す低周波同期起動(3)を行うとき、前記の界磁磁極位置は確立していない。このときは、低周波同期起動する低周波信号が基準になるよう、演算を変更するのは言うまでもない。
【0024】
以上説明した演算は、ハード回路で行ってもよいし、マイクロコンピュータなどを利用してソフト的に行ってもよいのは言うまででもない。さらに、本発明はエレベータのみならず、ブレーキを解放したとき、負荷からの反力によりモータが自然運動する他の機器、例えば、ホイストなどの機械などにも応用できる。
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、磁極位置検出器を使用せずに円滑に磁極位置が推定できる。
【0026】
なお、ここで述べた方法は、永久磁石モータについて説明したが、モータのトルク制御のためにその回転位置を知らなければならない他の形式のモータ、例えば、スイッチド・リラクタンス・モータなどにも応用できるのは言うまでもない。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、同期モータの制御に磁極位置検出器を使用せずに磁極位置が推定できるので、モータ,マシンの設計の自由度が大きくなる。また、磁極位置検出器を使用しないので、メンテナンスが容易になる。さらに、ノイズに対しても強くなる。また、コスト低減も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】図1に示す装置の詳細構成例である。
【図3】図2の装置の動作例。
【図4】図2の装置の詳細な構成例である。
【図5】図2の装置の詳細な構成例である。
【符号の説明】
11…かご、12…カウンタウエイト、13…ロープ、21…制御装置、51…同期モータ、54…エンコーダ。
Claims (7)
- 可変電圧,可変周波数の電力変換器によって駆動される永久磁石式同期モータと、前記モータによって乗りかごが昇降されるエレベータ装置において、前記モータの磁極位相/磁極回転位置を推定することにより乗りかごを昇降させ、モータの磁極の初期位相の推定は、かごを自然昇降させて行うことを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項1において、該モータの磁極位相/磁極回転位置の推定は、モータまたはかご速度を検出する検出器を使用することを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項2において、速度を検出する検出器はロータリーエンコーダまたはレゾルバであることを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項2において、速度を検出する検出器は、昇降路内にあるかご位置を検出する検出器であることを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項2、ないし、請求項4において、モータの磁極位相の推定は、速度検出器からの信号によりモータの回転角度にあわせて磁極位相を演算することを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項5において、モータの磁極位相の推定は、モータの運転信号により補正することを特徴とするエレベータ装置。
- 請求項5において、速度検出器からの信号による磁極位相の演算は、モータ停止時にもその値を保持させておき、次の起動はこの値を磁極位相として利用することを特徴とするエレベータ装置。
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