JP3682543B2 - 永久磁石式同期モータの制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、小型強力な永久磁石を界磁に利用した永久磁石式同期モータの制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
小型強力な永久磁石を界磁に利用した同期モータは、小型化が可能であり、また、モータを含む駆動装置が小型化でき、効率が向上するメリットがある。
モータのトルクを制御するには、モータの磁極位置に対応し、磁界方向(d軸)と直角方向の電流成分(q軸電流成分)を制御して行う。この技術は、中野著「サーボ技術とパワーエレクトロニクス」(共立出版1994年9月発行)94〜95頁に記されている。また、直流モータと同様の目的で、同期モータでも規定速度より速度が上昇するにしたがって、界磁弱めをするために、d軸電流を制御する方法もある。この技術は、例えば特開平8−182398号公報に記載されている。
しかし、同期モータには電機子反作用がある。そのため、ある回転速度で運転していても負荷が増加するにしたがって、電圧が上昇する。この現象は上記従来の制御方法のいずれにも生ずる。特に、定格トルクよりも負荷が大きいときなどでは、電圧上昇が顕著になる。このため、定格速度付近で運転するとき、モータを制御するインバータの可出力電圧は、負荷の増加による電圧増加に対応できるように大きくしなければならない。この結果、インバータの容量を増加させたり、モータの絶縁耐圧を上げなければならない、という問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、モータの出力電圧、電流の増加を小さくし、インバータの容量およびモータの絶縁耐圧の増加を抑制するに好適な永久磁石式同期モータの制御方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、トルク指令に応じて設定した端子電圧と電力変換器の動作から演算したモータの端子電圧に基づいてモータの磁界と同方向の電流成分であるd軸電流成分を求め、モータの定格速度付近の端子電圧が高くなる領域からd軸電流成分をモータのトルクに応じて制御し、端子電圧の上昇を抑制することによって、解決される。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。
図1は、本発明の一実施形態による永久磁石式同期モータの制御方法を示す。図1において、51は永久磁石式同期モータであり、その回転軸は負荷(図示せず)に接続され、さらに、位置検出器52、速度検出器53に接続される。位置検出器52は、レゾルバやエンコーダなどが用いられ、同期モータ51の電機子と永久磁石界磁の相対的位置、すなわち、回転角を検出する。速度検出器53は、エンコーダなどが用いられ、同期モータ51の回転速度を検出する。図示の例では、位置検出器52、速度検出器53を機能に分け、別記したが、実際にはレゾルバやエンコーダなど同一の機器により構成してもよい。さらに、位置検出器52は、端子電圧などから推定して構成してもよい。
いま、速度指令装置61から速度指令ω*が出力されると、速度検出器53の出力信号ωとの偏差Δωが速度制御装置62に入力される。速度制御装置62は、この偏差Δωに応じて働き、その出力信号は同期モータ51のトルク指令信号T*になる。速度制御装置62の出力信号T*は、q軸電流指令装置63に入力され、q軸電流指令装置63ではトルク指令信号T*に応じたq軸電流指令Iq*が演算される。q軸電流指令Iq*は、同期モータ51の電機子電流ベクトルの磁界方向と直交する成分の指令であり、電流制御装置65に入力される。一方、d軸電流指令装置64は、後述するような方法により、d軸電流指令Id*を演算する。d軸電流指令Id*は、同期モータ51の電機子電流ベクトルの磁界と同方向成分の指令であり、その指令信号の主たる目的は、同期モータ51のトルクだけでなく、出力電圧の増加を抑制制御するための指令信号を出すことにある。d軸電流指令信号Id*も電流制御装置65に入力される。電流制御装置65は、位置検出器52からの信号をもとに、実際の電流が指令通りに流れるように制御し、その出力はインバータ66に出力電圧指令信号として入力される。インバータ66では、電流制御装置65からの電圧指令信号により、PWM制御が実行され、インバータ66の出力電圧、出力周波数が制御される。インバータ66によるPWM制御は、電圧指令信号の瞬時値と三角波状の搬送波信号との比較または周知の空間ベクトル形のPWM制御により実行される。インバータ66のパワー素子はPWM信号に基づいて制御される。このようにして、同期モータ51に流れる電流が制御され、トルクと端子電圧が制御される。
【0006】
図2は、図1の制御の原理を示す電流、電圧のベクトル図である。図2において、
である。図2より、同期モータの出力Pは、
【数1】
となる。すなわち、トルクTは、
【数2】
と表わされる。ここで、
ω:モータ軸の回転角速度、ω=ω1/(p/2)
ω1:電気的回転角周波数
p:モータの極数
Φ:磁束
Ld,Lq:d、q軸のインダクタンス
であり、
【数3】
E0=kω1Φ (数3)
k:定数
【数4】
xd=ω1Id、 xq=ω1Iq (数4)
である。
このとき、同期モータ51が円筒機の場合、Ld=Lq=Lであるから、トルクTは、
【数5】
T∝ΦIq (数5)
のように表わされる。この結果、トルクTは、電流のq軸成分Iqのみに比例する。したがって、トルクを制御するには、電流のq軸成分Iqだけを制御すればよいことが分かる。
次に、同期モータ51の端子電圧Etは、図2のベクトルから、
【数6】
である。(数6)から、モータが一定速度で回転しているとき、端子電圧Etは、d軸電流成分を零としても、q軸電流成分により変化する。すなわち、トルクを増加するために、電流成分Iqを増加させると、端子電圧Etは増加することが分かる。
このとき、(数6)からd軸電流成分Idを負に制御すると、電圧のd軸成分の大きさが小さくなるので、ベクトル和としての端子電圧は抑制できることも分かる。
【0007】
図3は、上記の原理を応用したq軸電流指令装置63、d軸電流指令装置64の構成例を示す。図示の構成はモータが円筒機の場合であり、q軸電流指令装置631は速度制御装置62からのトルク指令T*を(数5)の原理でq軸電流指令Iq*に変換する。d軸電流指令装置641は、速度制御装置62からのトルク指令T*により、q軸電流指令Iq*が定まるので、(数6)に基づいて端子電圧Etが所定の値以下になるように、d軸電流指令Id*を演算する。
ここで、端子電圧Etは所定値以下になればよいことから、(数6)から分かるように、定格速度以下で回転していて、Id=0でも端子電圧Etが所定値より高くならないとき、Id=0のままでよいのは云うまでもない。また、図3では、d軸電流指令装置641の入力はq軸電流指令装置631からとしているが、速度制御装置62からトルク指令T*を直接受け、前記演算を行ってもよい。なお、ここで、端子電圧Etは一定値でも、後述する図5(a)のように、負荷トルクに応じて変化させてもよい。
このように、d軸電流指令を制御すると、端子電圧Etの大きさがある範囲に収まるので、モータの絶縁耐圧や、インバータの出力電圧の可制御範囲を小さくすることができる。特に、モータが最高回転付近でインバータの出力電圧に余裕がないとき、効果的であり、インバータの出力容量を低減することができる。
こうして得られた電流指令Iq*、Id*は、電流指令装置65に入力される。
【0008】
なお、具体的な構成例として、q軸電流指令装置631はゲインでよい。また、d軸電流指令装置641は端子電圧を定め、(数6)から得られるIdを演算してもよく、予め演算してパターンとして持っていてもよい。また、簡易的には単たるゲインとしてもよい。さらに、d軸電流指令装置641は、あるトルク以上から指令を出すように働かせてもよい。一例として、略定格トルクまでは零に保ち、定格以上の過負荷のときに負の指令を出力するようにすると、電圧、電流の最大値を適正な値にすることができ、インバータの容量低減に特に効果がある。
また、上記説明では、モータを円筒機の例で説明したが、突極機でも同様であり、(数2)、(数6)の関係からq軸、d軸の電流指令を演算、パターンまたは簡易的な方法により指令することができる。
【0009】
図4は、電流制御装置65の具体的構成例を示す。本例の基本構成は周知であり、例えば、電気学会論文誌D、117巻、5号(1997年7月)、539頁、図5に記載されている。図4の構成は、図2のベクトル図からd、q軸の電圧成分を演算し、さらに、d、q軸の電流の指令と実際値との偏差に応じて働くACR−d、qを備える。また、図4の構成は、電機子抵抗Raをさらに考慮する。
図4の演算の構成を簡単に説明する。(数6)から分かるように、q軸の電圧指令Eq*は、
【数7】
となる。(数7)でq軸の電圧指令Eq*を求めるに当って、ACR−qの出力を加算するのは、モータのパラメータΦ、Ld、Raの設定値と実際値の誤差により、q軸の電圧指令Eq*が所定値と相違するのを防止するためである。q軸の電流指令Iq*とその実際値Iqの偏差をとって補正を行うと、精度のよい電流制御ができる。
一方、d軸の電圧指令Ed*は、
【数8】
Ed*=−ω1LqIq*+RaId*+(ACR−d出力) (数8)
となる。(数8)でACR−dの出力を加算するのは、(数7)の場合と同様である。
Id/Iq演算651は、位置検出器52からの界磁磁極位置(電気的回転角)に応じた正弦または余弦信号を基準に、三相の瞬時電流検出値iu、iv、iw(電流検出器は図示せず)から電流の成分Id、Iqを検出する。電流制御装置65の出力は、d、q軸の電圧指令信号Ed*、Eq*である。インバータ66のPWM制御を実行する際、正弦波の瞬時値電圧指令信号が必要なときは、演算651の逆演算を行えばよい。この演算は周知なので省略する。
【0010】
図5は、このような制御の有無による特性を示す。(a)は本発明の制御を行ったときの特性例、(b)は本発明の制御を行わず、d軸分の電流は零とし、q軸分の電流制御のみをトルクに応じて行う従来の制御の特性例を示す。
(a)の例は、d軸電流指令Idをトルク指令T*のaまで零のままとし、トルク指令T*のaからトルクに比例して負の指令を増加させる。q軸電流Iqは(数5)から分かるようにトルクに比例させる。d軸電流をこのように制御すると、d、q軸電流成分のベクトル和である電機子電流Iは、Iqよりやや増加するものの、端子電圧Etは無負荷時からほとんど増加しない。このため、インバータ出力電圧の可変範囲を必要最低限度の適切なものにすることができる。この結果、インバータの容量の増加を抑えることができる。
一方、(b)の例のように、d軸分を零にすると、端子電圧Etは速度の増加とともに増大する。この結果、インバータの出力電圧は大きなものが必要になり、その結果、インバータの容量が増大する。
以上のように、本実施形態によれば、モータ端子電圧Etが負荷(トルク)の増加によらず上昇しないので、インバータ容量を低減することができ、また、モータの絶縁耐圧も増加させない。このため、小型かつ経済的な制御システムを提供することが可能になる。
なお、上記の例では、トルク指令aからd軸電流指令を負に与えているが、トルク零から指令を与えてもよい。また、d軸電流指令量は同期モータ51のモータ定数によって変わることは云うまでもない。
【0011】
図6は、図3に示した構成例とは別のq軸電流指令装置63、d軸電流指令装置64の構成例を示す。図6において図3と同一番号は同一対象物を示す。
図6の構成例は、d軸電流指令を回転速度に応じて変える例であり、d軸電流指令装置642の詳細構成例を示す。モータの端子電圧Etは回転速度によって変わるので、d軸電流指令をさらに回転速度に応じて変える。d軸電流指令装置642は、トルク指令T*に応じた信号を出すパターン装置6421、回転速度に応じた信号を出すパターン装置6422、パターン装置6421と6422の積をとる掛算装置6423から構成する。掛算装置6423の出力はd軸電流指令信号Id*となる。
パターン装置6421の出力は、トルク指令が小さいときは零であり、ある値を越すと、徐々に出力の絶対値が大きくなる。パターン装置6422の出力は、速度が小さいときは零であり、ある値を越すと、徐々に出力の絶対値が大きくなる。このようにすると、d軸電流指令信号Id*は、単にトルク指令T*に応じた信号になるだけなく、速度にも応じた値になる。すなわち、速度が低いときはd軸電流指令信号Id*は零であり、ある速度以上からトルクに応じて徐々にd軸電流指令信号Id*を出す。こうすると、d軸電流指令信号Id*が出されるのは定格速度に近く、さらに負荷が大きいときだけになる。このため、速度が低いときは、電流値が小さいので、インバータの電流容量も下げることができる。
【0012】
図7は、本発明の他の実施形態を示す。図7において図1と同一番号は同一対象物を示す。本実施形態は、端子電圧を検出し、その端子電圧指令にしたがってd軸電流指令信号Id*を出す点に特徴がある。
端子電圧指令装置67は、トルク指令T*に応じて端子電圧を設定する。端子電圧の設定は、例えば図5(a)のように決める。電圧検出器68は、インバータ66の出力電圧すなわち同期モータ51の端子電圧を検出する。d軸電流指令装置642は端子電圧指令装置67と電圧検出器68の出力信号に応じて働く。d軸電流指令装置642の出力はd軸電流指令信号Id*となる。d軸電流指令装置642は、端子電圧指令装置67からの端子電圧指令信号と、電圧検出器68からの端子電圧検出信号との偏差をとり、d軸電流指令信号Id*を出すようにフィードバック系を構成する。
このようにすると、実際の端子電圧は精度よく指令値に追従する。そのため、端子電圧は所定値を越えることがないので、インバータ66の可出力電圧範囲の余裕を小さくすることができ、さらに、インバータの出力容量を低減することができる。
なお、本実施形態では、同期モータ51の端子電圧を電圧検出器68により検出して求めたが、インバータ66の動作から出力電圧を演算できるので、実際値を検出せずに、端子電圧を求めることができる。また、d軸電流指令Id*はフィードバック系を構成して演算したが、端子電圧指令に基づいて直接演算してもよい。さらに、端子電圧が所定値を越えようとするときのみ、d軸電流指令を出力すればよく、これ以外では零のままでよい。
【0013】
以上説明した本発明の実施形態は、すべて電流のd、q軸成分を指令するように構成したが、図2のベクトル図から分かるように、電流の大きさと位相を指令し、制御するようにしても構成することができる。
【0014】
次に、図8は、本発明をエレベータに応用した実施形態を示す。図8において図1と同一番号は同一対象物を示す。同期モータ51の軸端にシーブ2を接続し、シーブ2に巻付けられたロープ4を介して乗りかご1とカウンタウエイト3を接続する。同期モータ51すなわちシーブ2の回転にしたがって、乗りかご1は昇降する。
図1の実施形態による制御方法は、図8に示すエレベータのような定トルク負荷特性をもつ駆動系に適用すると、効果があり、特に、過負荷が要求されるような駆動系に適用すると、さらに効果が大きい。
なお、このような駆動系に、図1の実施形態だけでなく、図7の実施形態を含む前記のすべての形態が適用できるのは云うまでもない。また、演算は、全ての実施形態においてマイクロコンピュータを用いて実施してよいことも云うまでもない。
【0015】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、モータのトルクに応じてd軸電流を制御することによって、また、モータの電機子電流の大きさと位相を制御することによって、モータ端子電圧の大きさの増加を抑制するので、モータの出力電圧、電流の増加を小さくすることができ、この結果、インバータ容量およびモータの絶縁耐圧の増加を抑制することが可能になる。このため、制御システム全体を小型かつ経済的に構築することができる。
また、モータの端子電圧を検出または演算し、その端子電圧指令に基づいてd軸電流指令信号を求めることにより、実際の端子電圧は精度よく端子電圧指令値に追従するので、モータの端子電圧は所定値を越えることがなく、インバータの可出力電圧範囲の余裕を小さくすることができ、さらに、インバータの出力容量を低減することができる。
また、本発明による制御方法は、エレベータのような定トルク負荷特性をもつ駆動系に適用すると、効果があり、特に、過負荷が要求されるような駆動系に適用すると、さらに効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による永久磁石式同期モータの制御方法を示す図
【図2】図1の制御原理を説明するためのベクトル図
【図3】図1のq軸電流指令装置、d軸電流指令装置の構成例
【図4】図1の電流制御装置の具体的構成例
【図5】本発明による特性例を示す図
【図6】図1のq軸電流指令装置、d軸電流指令装置の別の構成例
【図7】本発明の他の実施形態
【図8】本発明の応用例
【符号の説明】
51…同期モータ、52…位置検出器、52…速度検出器、63、631…q軸電流指令装置、64、641、642…d軸電流指令装置、6421…トルク指令に応じた信号を出すパターン装置、6422…回転速度に応じた信号を出すパターン装置、6423…掛算装置、65…電流制御装置、66…インバータ、67…端子電圧指令装置、68…電圧検出器
Claims (2)
- 可変電圧、可変周波数の電力変換器によって駆動される永久磁石式同期モータの制御方法であって、トルク指令に応じて設定した端子電圧と前記電力変換器の動作から演算したモータの端子電圧に基づいて前記モータの磁界と同方向の電流成分であるd軸電流成分を求め、前記モータの定格速度付近の端子電圧が高くなる領域から前記d軸電流成分を前記モータのトルクに応じて制御し、前記端子電圧の上昇を抑制することを特徴とする永久磁石式同期モータの制御方法。
- 請求項1の永久磁石式同期モータの制御方法であって、定トルク負荷特性をもつ駆動系に適用することを特徴とする永久磁石式同期モータの制御方法。
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