JP4208626B2 - 金属加工用油剤組成物 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属加工用油組成物に関し、さらに詳細には、表面が油膜で覆われた水滴をエヤーにより供給しながら加工する加工方法に用いる油剤であって、切削加工、研削加工、転進加工、プレス加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる金属加工用油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
環境に優しい金属加工処理方法として、近年、切削加工、研削加工等のドライ化の研究が進められている。金属加工をドライ化した場合、加工点を冷却する必要があり、例えば、圧縮した冷却空気等を噴射して加工点を冷却している。しかし、完全ドライ加工では、工具−被削材間の潤滑が不足するため、極微量の潤滑油が供給されている。加工方法としては、非鉄金属の加工方法(例えば、特許文献1参照)などがあるが、従来公知の金属加工用油剤組成物(例えば、特許文献2参照)は、鉄系材料に使用した場合、近傍に水分があると結露を生じ錆が発生するなどの問題があり、冷風加工あるいはミスト切削等の加工にそのまま適用することはできない。
【0003】
【特許文献1】
特開2001-239437
【特許文献2】
特開2000-256688
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、非鉄金属の加工方法をそのまま応用し、潤滑性、安定性、流動性を維持し、防錆性に優れ、皮膚刺激性も低い、油膜付き水滴による鋳鉄、スチール、ステンレス等の金属加工に適した金属加工用油剤組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、表面が油膜で覆われた水滴をエヤーにより供給しながら金属材料を加工する際に使用するのに適した以下の金属加工用油剤組成物を提供するものである。
1.表面が油膜で覆われた水滴をエヤーにより供給しながら金属材料を加工する方法に用いる油剤であって、(A)天然油脂及び/又は合成エステル50〜99.5質量部と、(B)防錆剤0.5〜10質量部を含有する金属加工用油剤組成物。
2.(A)天然油脂及び/又は合成エステルの脂肪酸成分が、炭素原子数16〜22の不飽和脂肪酸を60%以上含有していることを特徴とする請求項1記載の金属加工用油剤組成物。
3.(A)の合成エステルが、トリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、及び/又はグリセリントリ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールトリ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールジ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールモノ脂肪酸エステル、脂肪酸2−エチルヘキシルエステル、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、脂肪酸ブチルエステルである上記1又は2に記載の金属加工用油剤組成物。
4.(A)の合成エステルが、オレイン酸2−エチルヘキシルエステル、オレイン酸メチルエステル、オレイン酸エチルエステル、オレイン酸ブチルエステルである上記1〜3のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
5.(B)の防錆剤が、脂肪酸アミン塩、金属石鹸、アルカリ土類金属スルホネート及びアルカリ土類金属ジノニルナフタレンスルホネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜4のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
6.(B)の防錆剤が、脂肪酸アミン塩である上記1〜5のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
7.(B)の防錆剤が、脂肪酸と脂環式アミンの塩である上記1〜6のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
8.(B)の防錆剤が、オレイン酸と脂環式アミンの塩である上記1〜7のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
9.(B)の防錆剤がオレイン酸とシクロヘキシルアミンの塩である上記1〜8のいずれか1項記載の金属加工用油剤組成物。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明に使用する成分(A)の天然油脂及び/又は合成エステルの脂肪酸成分は、好ましくは炭素原子数16〜22の脂肪酸である。この脂肪酸は飽和でも不飽和でも良いが、不飽和脂肪酸の方が好ましい。このような脂肪酸の具体例としては、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸等が挙げられる。特に好ましいものは、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸である。
【0007】
本発明に使用する成分(B)の防錆剤は、好ましくは、脂肪酸アミン塩、金属石鹸、アルカリ土類金属スルホネート及びアルカリ土類金属ジノニルナフタレンスルホネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
好ましい防錆剤は脂肪酸アミン塩である。具体例としては、脂肪酸成分としてカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸等が挙げられる。
【0008】
また、アミン成分としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、2−アミノ2−メチルエタノールアミンなどに代表されるアルカノールアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタキシレンジアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
特に好ましい組合せは、脂肪酸が、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸又はステアリン酸であり、アミンが、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン又はシクロヘプチルアミンである脂肪酸アミン塩である。最も好ましい脂肪酸アミン塩はオレイン酸シクロヘキシルアミン塩である。
【0009】
本発明の組成物においては、(A)天然油脂及び/又は合成エステルと(B)防錆剤の質量比率は、50〜99.5:0.5〜10であることが必要である。この範囲より、成分(A)の量が多くても少なくても本発明の目的を十分に達成することは困難である。この範囲より、成分(A)の量が多いと、防錆剤の効果が不足し、また、少ない場合には期待する潤滑性能を満足しない。
【0010】
本発明の金属加工用油剤組成物は、成分(A)と成分(B)のみから構成されていても良いが、金属加工用油剤組成物の汎用成分、例えば、ドデシルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸等の脂肪酸、カルボン酸アミド等を防錆剤として別途含有してもよい。これらの添加量は、油剤全体の質量に対して0.5〜10質量%が適当である。
さらに必要に応じて、シリコーン系消泡剤、高分子系消泡剤、アルコール系消泡剤、ベンゾチアゾール系金属防食剤、BHT(ジ−ターシャリーブチルヒドロキシトルエン)、PAN(フェニルαナフチルアミン)に代表される酸化防止剤等を含有してもよい。これらの添加量は、油剤全体の質量に対して5質量%以下が適当である。
【0011】
また、切削性、研削性を一段と向上させるため、硫化油脂、アルキルポリスルフィド、亜鉛ジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等を含有してもよい。これらの添加量は、油剤全体の質量に対して10質量%以下が適当である。
しかし、環境負荷を少なくするためには、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸などの塩素含有化合物系極圧添加剤は含まない方が好ましい。
本発明の金属加工用油剤組成物は、成分(A)、成分(B)、及び他の任意成分を所定量配合することにより容易に製造できる。
【0012】
本発明の金属加工用油組成物は、表面が油膜で覆われた水滴をエヤーにより供給しながら金属材料を加工する方法に油剤として使用されるが、このような加工方法の例としては、切削加工、研削加工、エンドミル加工、転造加工、プレス加工、塑性加工等が挙げられる。特に好ましい加工方法は、切削加工、エンドミル加工である。また金属材料の例としては、鋳鉄、スチール、ステンレス等が挙げられる。
本発明の金属加工用油剤組成物は、例えば、図1に示されるような装置を用いて、水滴表面を当該組成物の膜で覆い、ミスト状の油膜付き水滴としてスチールのエンドミル加工において加工点に供給される。
【0013】
本発明の金属加工用油剤組成物の使用量はノズル1本につき、1時間当り0.5〜20ml、好ましくは1〜10ml程度の極微量で良く、環境負荷も少なく、経済的にも有利である。
本発明の方法に使用する油は、潤滑性、新生面への吸着性、変色、腐食防止性、さらには生分解性の点から、エステル油が最も好ましい。エステル油は分子内に極性基を持っており、金属表面に潤滑性の良好な吸着膜を造る為、金属と反応して変色や、腐食を起こすことがない。
【0014】
水の使用量はノズル1本につき、1時間当り500〜2000ml、好ましくは800〜1500ml、例えば、1000ml程度である。使用する水は水道水や、工業用水で良い。
エヤーの供給量は、1分間に25〜250L程度、好ましくは50〜100L程度が適当である。
さらに本発明の加工方法では、環境負荷の少ないエステル油を極少量使い切りで使用することが望ましい。こうすることにより、水溶性切削油剤を使用した従来の加工における問題、すなわち、水溶性切削油剤希釈液の腐敗、硬度上昇等による分離等の液劣化、これに起因した加工性能の低下、水溶性切削油剤希釈液の廃液の環境負荷問題等も軽減ないし解決することができる。
【0015】
実施例1〜及び比較例1〜
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。
表1に示した組成を有する金属加工用油剤組成物(不水溶性切削・研削油)を調製した。これらの組成物について以下の性能評価を行った。
【0016】
スチール材(SCM430)の切削性
スチール材のエンドミルupカッティングにより切削性の評価を行った。切削抵抗の送り分力FH(N)が、比較例5の市販エマルションJ1S A1種1号よりも低いものを合格とする。
切削条件
工具:超硬二枚刃
被削材::SCM430(30×150×200mm)
切削速度:203m/min
送り:0.095m/rev
半径切り込み:6mm
軸切り込み:9mm
【0017】
鋳物材(FC200)の防錆性
鋳物材を#100の紙やすりで研磨し、更に#240の紙やすりで表面を平滑な新生面とし、そこに当該組成物と水道水を1:1でホモミクサー(10000rpm5分)にて攪拌混合した物を塗布し、24時間常温にて静置する。その後の発錆状況を観察する。この時、発錆の無かったものを合格とする。
【0018】
皮膚刺激性
パッチ[フィンチャンバー(Finn Chamber:大正製薬(株)販売)]を用いてテストを行った。濾紙に、試料を0.025mlしみこませ、前腕部の皮膚に貼付し、24時間後、除去し、除去4時間後に皮膚の外観を観察する。被験者10名の判定結果を合計し、4.0以下を合格とする。
判定基準
3:水瘤、丘疹を伴う赤変。
2:赤変し、腫れ上がる。
1:少し赤変。
0.5:疑わしい。
0:反応なし
【0019】
【表1】
Figure 0004208626
鋳物材の防錆性評価 発錆なし:○(合格) 発錆あり:×(不合格)
BT:ベンゾトリアゾール
【0020】
表1の実施例及び比較例の結果から、本発明の実施例1〜の金属加工用油剤組成物は、切削抵抗が低く潤滑性に優れ、新生面に液を塗布し24時間静置後においても発錆が認められず優れた防錆性能を示し、皮膚刺激性も低いことがわかる。
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、金属材料の切削加工、研削加工、及び圧延加工、引抜き加工、プレス加工、鍛造加工等の塑性加工を効率的に行うことができる。
また、油剤使用量も微量であり、経済的で、環境に対する負荷も少ない加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法において使用する油膜付きの水滴からなるミストの供給装置の一例を示す概略図である。

Claims (4)

  1. 表面が油膜で覆われた水滴をエヤーにより供給しながら鉄系材料を切削又は研削加工する方法に用いる油剤組成物であって、
    (A)天然油脂及び/又は合成エステル50〜99.5質量部と、(B)防錆剤0.5〜10質量部を含有すること、
    (A)の天然油脂及び/又は合成エステルの脂肪酸成分が、炭素原子数16〜22の不飽和脂肪酸を60%以上含有していること、及び
    (B)の防錆剤が、オレイン酸と脂環式アミンの塩であること
    を特徴とする鉄系材料の切削又は研削加工用油剤組成物。
  2. (A)の合成エステルが、トリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、及び/又はグリセリントリ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールトリ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールジ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールモノ脂肪酸エステル、脂肪酸2−エチルヘキシルエステル、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステル、脂肪酸ブチルエステルである請求項1に記載の鉄系材料の切削又は研削加工用油剤組成物。
  3. (A)の合成エステルが、オレイン酸2−エチルヘキシルエステル、オレイン酸メチルエステル、オレイン酸エチルエステル、オレイン酸ブチルエステルである請求項1又は2記載の鉄系材料の切削又は研削加工用油剤組成物。
  4. 脂環式アミンが、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンである請求項1〜3のいずれか1項記載の鉄系材料の切削又は研削加工用油剤組成物。
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