JP4205509B2 - マルチパスひずみ除去フィルタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、FM受信装置に搭載され、受信波に生じたマルチパスひずみを除去するためのマルチパスひずみ除去フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
FMラジオ放送においては、受信波のマルチパスひずみによる電波障害が重要な問題となっている。マルチパスひずみは、電波の多重伝搬によって位相及び電界強度が異なる複数の到来電波が相互に干渉しあうことにより、本来振幅が一定であるはずのFM受信波信号に振幅の変動が生じてしまう現象である。特に、カーラジオなど移動体に搭載されるFM受信装置では、移動と共に受信状態が変化するので、激しい振幅変動を伴うマルチパスひずみを受ける場合がある。マルチパスひずみは、FM復調信号にパルス状のノイズを生じさせ、再生音質を劣化させる一因となっている。
【0003】
従来、カーラジオ等の移動体FM受信装置においては、ARC(Automatic Reception Control)等の制御を行うことで、復調した再生音に含まれるノイズの低減を図っている。しかし、ARC制御等によってノイズを低減させる方法は、復調された音のステレオ感など、いわば音質を犠牲にしてノイズを抑制するものであって、マルチパスひずみを根本的に除去するものではなかった。
【0004】
ところで、近年のデジタル信号処理技術の高速化により、中間周波信号にダウンコンバートしたFM受信波をデジタル信号に変換し、それより後段の検波等の信号処理をデジタル化したデジタルFM受信装置が注目されている。このようなデジタル化されたFM受信装置においては、放送局から受信装置までの伝送路の伝達関数に対して逆特性を有する適応デジタルフィルタを利用してマルチパスひずみを除去することができる。
【0005】
図1は、FIR型フィルタで構成されたマルチパスひずみを除去するための適応デジタルフィルタの例である。このフィルタのタップ係数Kmは、CMA(Constant Modulus Algorithm)と呼ばれるアルゴリズムに従って更新される。すなわち、本来振幅が一定であるはずのFM信号の特性に着目し、フィルタを通過した出力信号の包絡線(振幅)と基準値との誤差errが最小になるようにタップ係数Kmを更新し収束させることで、マルチパスひずみを除去するフィルタ特性になるように適応処理を行っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、移動体FM受信装置においては、車両の移動によって多重に到来する受信波に僅かな周波数のズレが生じる。このような受信状態の場合には、パルチパスによる激しい受信波の振幅変動に加え、数Hz〜十数Hz程度の比較的遅い変動成分が重畳する、いわゆるドップラフェーディングと呼ばれる受信波の振幅変動成分が生じる。
【0007】
しかしながら、このようなドップラフェーディングによるひずみ成分が含まれる受信波に対し、上述した従来のCMA手法に従ってフィルタの適応処理を行うと、ドップラフェーディングに追従してしまい上述の誤差errを定常的にゼロすることができず、フィルタの適応処理が不安定となる場合があった。
【0008】
本発明はこうした従来の課題に鑑みてなされたものであり、例えば適応処理をより安定化させ、確実にマルチパスひずみを除去する等のFM受信装置に搭載されるマルチパスひずみ除去フィルタを提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明(請求項1)は、マルチパスによるひずみ成分を含むデジタル受信信号を入力信号としフィルタ演算処理を施して当該ひずみ成分を除去するデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタが出力する出力信号の振幅と基準値との誤差を検出する誤差検出手段と、検出された前記誤差が最小となる前記デジタルフィルタのフィルタ特性を予測演算し当該予測演算結果に基づいて前記デジタルフィルタの各タップ係数を更新する係数更新手段とを備えるマルチパスひずみ除去フィルタであって、前記入力信号の振幅を検波する検波手段が設けられ、当該検波手段が検波する前記入力信号の振幅に応じて前記基準値が可変に設定されることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の最も好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、本適応フィルタ100が搭載されるFM受信装置について説明する。なお、図2は、カーラジオ等のデジタルFM受信装置の構成を表すブロック図である。
【0011】
同図において、アンテナ回路10で受信されたFM放送の受信波は、RF増幅器(高周波増幅器)11で増幅され、これにより生成されたRF信号が混合器12へ出力される。混合器12は、PLL回路及びVCO回路等で構成された局部発信器13からの局部発信信号とRF信号とを混合することにより、周波数がダウンコンバートされた中間周波信号IFを生成してA/D変換器14へ供給する。A/D変換器14は、所定のサンプリング周期毎に中間周波信号IFをアナログ信号からデジタルサンプル値信号(以下「デジタル信号」)Difに変換する。
【0012】
デジタル信号に変換された中間周波信号Difは、IF増幅器(中間周波増幅器)15で増幅される。IF増幅器15は、自動利得制御(AGC)機能を有し、受信波の電界強度によらず常に安定した振幅の中間周波信号Difを後段の適応フィルタ100及びFM検波器16等へ出力するようになっている。
【0013】
適応フィルタ100は、振幅調整された中間周波信号Difに対し、主にマルチパスひずみを除去するためのデジタル信号処理を施して後段のFM検波器16へ出力する。この適応フィルタ100の詳細な構成及び動作については後述する。
【0014】
FM検波器16は、適応フィルタ100を通過した中間周波信号Difに対し、所定の検波方式でデジタル検波処理を施してコンポジェット信号である検波信号Ddtを生成する。そして、検波信号Ddtは、オーディオ処理部17において、受信波の電界強度に基づいたミュート処理またはハイカット制御処理等が施されるとともにステレオ復調され、左右それぞれのオーディオ信号Dsに分離される。
【0015】
そして、各オーディオ信号Dsは、D/A変換器18においてアナログ信号に変換され、後段のオーディオ増幅器19がアナログのオーディオ信号を増幅しスピーカ20へ供給することで、受信したFM放送音声を再生するようになっている。
【0016】
次に、FM受信波に生じたマルチパスひずみを除去するための適応フィルタ100について図面を参照しながら説明する。図3は、適応フィルタ100の構成を表すブロック図である。なお、本来は復素演算が必要になるが、ここでは、入力信号X(t)の信号周期に対し単位遅延時間τが1/4である場合における簡略構成を示している。この適応フィルタ100は、A/D変換後のFM中間周波信号Difを入力信号X(t)とするFIR型のデジタルフィルタ110と、FM中間周波信号に生じたマルチパスひずみを除去するいわゆる逆フィルタとして機能するためのフィルタ特性になるように、デジタルフィルタ110に対して適応処理する適応処理手段130とから構成されている。
【0017】
図3を参照し、デジタルフィルタ110の構成を説明する。デジタルフィルタ110は、次数NのFIR(Finite Impulse Response)型フィルタで形成され、N-1個の遅延器111〜116と、N個の係数倍器121〜127と、加算器128とを備えている。ここで、デジタルフィルタ110の次数Nは、入力信号の周波数、フィルタの演算精度、及び演算可能な周期(クリティカルパス)等を考慮して適宜の数に決定される。
【0018】
デジタルフィルタ110への入力信号X(t)が先頭の遅延器111に入力されると、遅延器111は、基準クロックに同期して、すなわち単位遅延時間τだけ入力信号X(t)のサンプル値を保持し後段の遅延器112へ出力する。同様に遅延器112は、1基準クロック(単位遅延時間τ)分遅延された入力信号の遅延値X1(t)を後段の遅延器へ出力し、以降の遅延器113〜116においても、順次、基準クロックに同期して遅延時間を積算させながら入力信号X(t)の遅延値をシフトさせてゆく。
【0019】
各係数倍器121〜127は、入力信号X(t)、及び各遅延器111〜116が保持している1,2,〜N-1単位遅延時間遅延された各遅延値X(t-1),X(t-2)〜X(t-N+1)に対し、それぞれのフィルタ係数(以下「タップ係数」という)を乗算して加算器128へ出力する。加算器128は、これら係数倍された信号を加算して、デジタルフィルタ110の出力信号Y(t)として出力する。
【0020】
次に、上述のデジタルフィルタ110に対して適応処理を行う適応処理手段130について説明する。なお、適応処理手段130は、フィルタの出力信号Y(t)の振幅Yenv(t)が一定になるように、デジタルフィルタ110の各タップ係数Kmを演算周期毎に更新し最終的に収束させる処理を行う。
【0021】
適応処理手段130は、出力信号Y(t)の振幅に相当する包絡線Yenv(t)を検波する包絡線検波手段150と、入力信号X(t)の振幅に相当する包絡線Xenv(t)を検波する入力包絡線検波手段190と、比較器180と、係数更新手段160とを備え構成されている。
【0022】
出力包絡線検波手段150は、数式(1)に基づいて、出力信号Y(t)の包絡線Yenv(t)を検波する。図4(a)または(b)は、包絡線検波手段150の構成を例示するブロック図である。
【0023】
図4(a)において、出力包絡線検波手段150は、遅延器151と、乗算器152,153と、加算器154とを備え構成されている。遅延器151は、基準クロックに同期してフィルタ出力信号Y(t)を単位遅延時間τだけ保持し、遅延された出力信号の遅延値Y(t-1)を乗算器153へ出力する。乗算器152,153は、フィルタの出力信号Y(t)とその遅延値Y(t-1)をそれぞれ自乗し、加算器154は、乗算器152,153が出力する各自乗値を加算することで、フィルタ出力信号Y(t)の包絡線Yenv(t)を求めている。
【0024】
【数1】
Figure 0004205509
【0025】
出力包絡線検波手段150は、図4(b)に示す構成であってもよい。この場合において、包絡線検波手段150は、乗算器155と、遅延器156と、加算器157とを備えている。乗算器155は、フィルタ出力信号Y(t)を自乗し、遅延器156、及び加算器157へ出力する。遅延器156は、フィルタ出力信号Y(t)の自乗値を単位遅延時間τだけ保持し、そのτ時間遅延した値を加算器157へ出力する。加算器157は、フィルタ出力信号Y(t)の自乗値と、そのτ時間遅延した値とを加算することで、フィルタ出力信号Y(t)の包絡線Yenv(t)を求めている。
【0026】
図4(b)に示す構成の出力包絡線検波手段150によれば、より少ない数の演算器構成で数式(1)に基づく包絡線Yenv(t)を求めることができるので、演算速度が相対的に速くなる。
【0027】
次に、入力包絡線検波手段190について図5を参照し説明する。図5(a)または(b)は、入力包絡線検波手段190の構成を例示するブロック図である。図5(a)において、入力包絡線検波手段190は、遅延器191と、乗算器192,193と、加算器194と、ローパスフィルタ195とを備え構成されている。遅延器191は、基準クロックに同期して入力信号X(t)を単位遅延時間τだけ保持し、遅延された入力信号の遅延値X(t-1)を乗算器193へ出力する。乗算器192,193は、入力信号X(t)とその遅延値X(t-1)をそれぞれ自乗し、加算器194は、乗算器192,193が出力する各自乗値を加算し、後段のローパスフィルタ195へ出力する。ローパスフィルタ195は、入力信号X(t)の高周波成分を除去し、これにより、入力信号の直流成分を主とする包絡線Xenv(t)が得られる。ここで、ローパスフィルタ195の時定数は、受信波信号のドップラフェーディングによる変動周期に対応した値に設定されている。これにより、入力包絡線検波手段190は、ドップラフェーディングによって緩やかに変動する入力信号の電界強度に相当する量として包絡線Xenv(t)を抽出している。
【0028】
なお、入力包絡線検波手段190は、図5(b)に示す構成であってもよい。この場合において、入力包絡線検波手段190は、乗算器196と、遅延器197と、加算器198と、ローパスフィルタ199とを備えている。乗算器196は、入力信号X(t)を自乗し、遅延器197、及び加算器198へ出力する。遅延器197は、入力信号X(t)の自乗値を更に単位遅延時間τだけ保持し、そのτ時間遅延した値を加算器198へ出力する。加算器198は、入力信号X(t)の自乗値と、更にそのτ時間遅延した値とを加算して後段のローパスフィルタ199へ出力する。ローパスフィルタ199は、入力信号X(t)の高周波成分を除去し、入力信号の直流を主成分とする包絡線Xenv(t)が得られる。図5(b)に示す構成の入力包絡線検波手段190によれば、より少ない数の演算器構成で包絡線Xenv(t)を求めることができるので、演算速度が相対的に速くなる。
【0029】
再び図3において、比較器180は、フィルタ出力信号の包絡線Yenv(t)から、入力包絡線検波手段190で得られた入力信号の包絡線Xenv(t)を減算し、すなわち数式(2)に基づいて誤差err(t)を求め係数更新手段160へ出力する。
【0030】
【数2】
Figure 0004205509
【0031】
係数更新手段160は、誤差err(t)が最小になるように、各係数倍器121〜127のタップ係数Kmを更新する。係数更新手段160の具体的な構成を図6に示す。なお、図6は、m段目の係数倍器124におけるタップ係数Kmを更新する係数更新手段160のブロック図であり、0,1,2,〜N-1段目の各係数倍器121〜127に対しそれぞれ同様の係数更新手段160が設けられている。
【0032】
次に、図6に基づいて、タップ係数Kmを更新する係数更新手段160を代表して説明する。係数更新手段160は、m単位遅延時間だけ遅延された入力信号X(t)の遅延値Xm(t)と、フィルタ出力信号Y(t)と、上述の誤差err(t)を入力変数とし、次の演算時刻で使用するタップ係数Km(t+1)を求め、m段目の係数倍器124へ供給する。
【0033】
具体的には、数式(3-1),(3-2)のタップ係数更新式に基づきタップ係数Kmを更新する。
【0034】
【数3】
Figure 0004205509
【0035】
図6において、係数更新手段160に入力された遅延値Xm(t)とフィルタ出力信号Y(t)は、乗算器161で乗算され後段の加算器165へ出力される。また、入力信号の遅延値Xm(t)とフィルタ出力信号Y(t)は、遅延器162,163によって単位遅延時間τだけ保持され、この保持された値、すなわち1基準クロック時刻前のそれぞれの値が乗算器164に入力される。乗算器164は、これらの遅延値を乗算して加算器165へ出力する。
【0036】
加算器165は、乗算器161,164が出力する値を加算し、上述の数式(3-2)に基づく値Pm(t)を出力する。なお、ここで値Pm(t)は、入力信号の遅延値Xm(t)とフィルタ出力信号Y(t)の相関に相当する量であり、相関量とも呼ばれている。
【0037】
乗算器169は、加算器165の出力である値Pm(t)と上述の比較器180によって求められた誤差err(t)とを乗算し後段の乗算器170へ出力する。乗算器170は、乗算器169の出力値と定数としての減衰係数αとを乗算して減算器171の負入力端側へ出力する。なお、減衰係数αは、適宜に設定された正の値であり、フィルタの適応処理においてタップ係数Km(t)の収束時間と係数更新の安定性とのバランスを考慮し予め実験的に求められている。
【0038】
遅延器172は、当該演算周期(現時刻における)のタップ係数Km(t)を保持しており、タップ係数Km(t)を上述した減算器171の正入力端側へ出力する。減算器171は、当演算周期におけるタップ係数Km(t)から、乗算器170の出力値を減算することで、次の演算周期におけるタップ係数Km(t+1)を求め、係数倍器124へ供給する。これにより、m段目の係数倍器124のタップ係数Km(t)が更新されるようになっている。
【0039】
なお、0,1,2,〜N-1段目のそれぞれの係数倍器121〜126においても同様の係数更新手段160が設けられており、当該演算周期内に各タップ係数Km(t)の更新処理が実施される。そして、遅延されたフィルタ出力信号の包絡線Yenv(t)と入力信号の包絡線Xenv(t)との誤差err(t)が最終的にゼロになるように、各タップ係数Km(t)の更新が繰り返えされる。このような各タップ係数Km(t)を収束させる演算を行うことで、マルチパスひずみを除去するためのデジタルフィルタ110の適応処理が的確に実行される。
【0040】
なお、上述の相関量の値Pm(t)は、図7に示す構成の演算回路によって演算されるものでもよい。図7は、係数更新手段160の構成を表すブロック図であって、他の実施例を示す図である。なお、同図において、図6で示した同一の構成要素を同一符号で示している。
【0041】
図7に示されるように、乗算器161は、入力信号の遅延値Xm(t)とフィルタ出力信号Y(t)とを乗算し、後段の加算器165と遅延器174へ出力する。遅延器174は、乗算された値Xm(t)・Y(t)を単位遅延時間τだけ保持し、遅延させた値Xm(t-1)・Y(t-1)を加算器165へ出力する。
【0042】
加算器165は、乗算器161と遅延器174の出力と加算することで、数式(3-2)に基づく値Pm(t)を求め、乗算器169へ出力する。
【0043】
図7に示す構成の係数更新手段を有する適応フィルタ100によれば、より少ない数の演算器で数式(3-2)に基づく相関量の値Pm(t)を求めることができるので、ハードウエア資源の節約と演算速度の向上が図れる。
【0044】
また、本適応フィルタ100は、図8に示す構成の係数更新手段160により、相関量の値Pm(t)に対して圧縮演算処理を施してタップ係数Kmを更新するものでもよい。ここで、図8は、係数更新手段160の構成を表すブロック図であって、他の実施例を示す図である。なお、同図において、図7で示した同一の構成要素を同一符号で示している。
【0045】
図8において、加算器165が出力する値Pm(t)は、平方根演算器166と符号変換器167に入力され、数式(4-1)に基づき圧縮変換処理が施された値Rm(t)に変換される。すなわち、平方根演算器166は、値Pm(t)の絶対値の平方根を求め後段の乗算器168へ出力し、一方、符号変換器167は、数式(4-2)で示されるように、値Pm(t)の符号を1または-1に変換して乗算器168へ出力する。乗算器168は、これらの値を乗算することで、値Pm(t)を数式(5-1),(5-2)で示される圧縮変換処理された値Rm(t)に変換して乗算器169へ出力する。そして、数式(6)に基づき、次の演算周期におけるタップ係数Km(t+1)を求めm段目の係数倍器124へ供給することで、タップ係数Km(t)が更新される。
【0046】
【数4】
Figure 0004205509
【0047】
【数5】
Figure 0004205509
【0048】
【数6】
Figure 0004205509
【0049】
図8に示す構成の係数更新手段160を有する適応フィルタ100によれば、入力信号の遅延値Xm(t)と遅延されたフィルタ出力信号Y(t)の相関量である値Pm(t)に対し、数式(4-1)に基づく圧縮変換処理が施されているため、演算処理の過程で生じる数値のオーバフロー、または端数の切り捨て等の誤差を回避し、タップ係数Km(t)を速くかつ確実に収束させることができる。
【0050】
なお、相関量としての値Pm(t)を値Rm(t)に変換する上述の圧縮変換処理は、平方根を求める変換関数に限定されるものではなく、例えば立方根等、更に多次の累乗根を求める関数に基づくものでも上述と同様の有利な効果が得られる。
【0051】
本実施形態の適応フィルタ100は、フィルタ出力信号の包絡線Yenv(t)から入力信号の包絡線Xenv(t)を減算比較した誤差err(t)がゼロになるようにタップ係数Kmを更新する適応処理が施される。入力信号の包絡線Xenv(t)は、ドップラフェーディングによって受信波の電界強度が変動する変動成分を反映させた量であり、これをフィルタ出力の包絡線Yenv(t)を一定にするための基準値として使用しているので、ドップラフェーディングによる変動成分が比較器180によってキャンセルされる。これにより、短い周期で振幅変動するマルチパスによるひずみ成分のみを除去することができる。
【0052】
また、ドップラフェーディングによる緩やかな変動成分の影響を受けることなく、タップ係数Kmの更新演算を速く収束させることができるので、適応処理を安定化させることができる。
【0053】
なお、上述した実施例では本発明をFIR型で構成されたデジタルフィルタに適用した例を示したが、本発明はFIR型のデジタルフィルタに限定するものではなく、IIR型のデジタルフィルタ等にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の適応フィルタの構成を表すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るFM受信装置の構成を表すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る適応フィルタの構成を表すブロック図である。
【図4】図3に示した出力包絡線検波手段の構成を表すブロック図である。
【図5】図3に示した入力包絡線検波手段の構成を表すブロック図である。
【図6】図3に示した係数変更手段の構成を表すブロック図である。
【図7】図3に示した係数変更手段の他の構成を表すブロック図である。
【図8】図3に示した係数変更手段の更に他の構成を表すブロック図である。
【符号の説明】
100 …適応フィルタ
110 …デジタルフィルタ
111〜116 …遅延器
121〜127 …係数倍器
128 …加算器
130 …適応処理手段
150 …出力包絡線検波手段
160 …係数更新手段
180 …比較器
190 …入力包絡線検波手段
X …入力信号
Y …出力信号
err …誤差
Yenv …包絡線
Xenv …包絡線
Km …タップ係数

Claims (7)

  1. マルチパスによるひずみ成分を含むデジタル受信信号を入力信号としフィルタ演算処理を施して当該ひずみ成分を除去するデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタが出力する出力信号の振幅と基準値との誤差を検出する誤差検出手段と、検出された前記誤差が最小となる前記デジタルフィルタのフィルタ特性を予測演算し当該予測演算結果に基づいて前記デジタルフィルタの各タップ係数を更新する係数更新手段とを備えるマルチパスひずみ除去フィルタであって、
    前記入力信号の振幅を検波する検波手段が設けられ、当該検波手段が検波する前記入力信号の振幅に応じて前記基準値が可変に設定されることを特徴とするマルチパスひずみ除去フィルタ。
  2. 前記検波手段は、当該演算周期における前記入力信号を自乗する乗算器と、当該乗算器による乗算値を単位遅延時間保持する記憶手段と、当該乗算値と当該記憶手段の記憶値とを加算する加算器とを備え、当該加算器による加算値を前記入力信号の振幅として検波することを特徴とする請求項1に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
  3. 前記誤差検出手段は、当該演算周期における前記出力信号を自乗する乗算器と、当該乗算器による乗算値を単位遅延時間保持する記憶手段と、当該乗算値と当該記憶手段の記憶値とを加算する加算器と、当該加算器による加算値を前記出力信号の振幅として前記基準値と比較する比較器とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
  4. 前記係数更新手段は、前記デジタルフィルタの各係数倍器に入力される前記入力信号の遅延値と前記出力信号との相関量を求め、当該相関量と前記誤差とを乗算した乗算値に基づいて前記各タップ係数の更新量を求めることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
  5. 前記係数更新手段は、前記デジタルフィルタの各係数倍器に入力される前記入力信号の遅延値と前記出力信号との相関量を求め、当該相関量を圧縮変換処理した値と前記誤差とを乗算した乗算値に基づいて前記各タップ係数の更新量を求めることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
  6. 前記圧縮変換処理は、前記相関量の絶対値の平方根に当該相関量の符号を付与した値に変換する演算処理であることを特徴とする請求項5に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
  7. 前記係数更新手段は、当該演算周期における前記入力信号の前記各遅延値と前記出力信号とを乗算する乗算器と、当該乗算器による乗算値を単位遅延時間保持する記憶手段と、当該乗算値と当該記憶手段で記憶した記憶値とを加算する加算器とを備え、当該加算器による加算値を前記相関量の値として演算することを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載のマルチパスひずみ除去フィルタ。
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